平成17年度 日本経済2005 第1章 第1節 景気回復が長期化する日本経済とそのリスク

目次][][

第1章 踊り場脱却後の日本経済の動向と課題

第1節 景気回復が長期化する日本経済とそのリスク

(1) 2005年の日本経済の動向

(景気は緩やかな回復が続く)

日本経済は2002年初から景気回復を続けており、その長さは4年近くなろうとしている。この1年余りの経済動向を振り返ると、昨年後半から今年前半にかけて世界的なIT関連分野の調整等により、輸出、生産を中心に弱い動きがみられ、景気は踊り場的状況となった。しかし、2005年央には、アジア向けを中心に輸出が持ち直し、生産についても情報化関連分野の在庫調整が一巡するなど改善の動きがみられた。こうした中、景気は踊り場を脱却し、その後も緩やかな回復を続けている。

今回の景気回復を先導した企業部門では、好調な収益を背景として設備投資の増加基調が続いている。過剰雇用、過剰設備、過剰債務といったバブル後の負の遺産処理がおおむね完了したことから、企業の財務体質は強化され、原油価格高騰の影響も今のところ限定的である。また、企業部門に比べて改善が遅れていた家計部門についても、明るい動きがみられる。雇用面では、新卒採用の増加など量的側面に加え、パート化の流れが一巡しフルタイム労働者が増加するなど質的側面でも改善が進み、所得面でも定期給与やボーナスが緩やかに増加している。このように消費を取り巻く雇用・所得環境の改善を受けて、個人消費は緩やかな増加傾向で推移している。

一方で、昨年来の原油価格の高騰により、企業の交易条件は悪化しており、一部の中小企業では厳しさがみられる。こうした原油価格の経済に与える影響には注意が必要だが、日本経済全体として石油依存度が過去と比べてかなり低下していることもあり、その影響は今のところ限定的である。

物価については、総合的にみてデフレ状況にあるものの、原油価格の高騰もあって、企業物価は上昇が続いており、また、消費者物価も下落幅が縮小してきている。

(GDPの動向)

実質GDPは2003年度、2004年度とそれぞれ2.0%、1.9%という堅調な伸びをみせた後も、2005年度上半期(4-9月期)は前年同期比で2.6%、季節調整済前期比年率(対2004年度下半期)で3.6%と引き続き高い成長が続いている。(第1-1-1図)。四半期別の動向をみると、昨年後半には輸出の鈍化により外需がマイナス寄与となったことに加え、個人消費が減少したことなどもあり、成長率の鈍化がみられた。しかし、2005年1-3月期及び4-6月期には、(1)所得環境が改善する中で、昨年後半の反動もあって個人消費が大きく増加したこと、(2)好調な企業収益を背景に設備投資が堅調に増加したこと等により、それぞれ年率6.3、3.3%と高成長が続いた。7-9月期については、年前半の高い伸びの反動もあって成長率は鈍化したものの、雇用・所得環境の改善を受け、個人消費が安定的に増加するなど年率1.7%成長となり、国内民需中心の緩やかな成長が続いている。

(一時的な調整を経て再び拡大しつつある情報化関連分野)

我が国の景気が「踊り場」的局面に入った要因の一つとして電子部品・デバイスの輸出鈍化と生産調整が挙げられる。2004年央頃までアテネ五輪の影響もあって 薄型テレビ・DVDレコーダー等のデジタル家電分野及び液晶パネルや半導体等の電子部品・デバイスといった情報化関連分野の生産は好調に推移していた。しかし、2004年後半から2005年前半にかけて世界的なIT関連の需給軟化の波を受けてこれらのIT関連製品の生産が鈍化した。貿易面でも2004年末以降は広義のIT関連(半導体等電子部品、パソコン等、通信機、科学光学機器)は輸出の伸びを押し下げる方向に作用した。特に、最終製品の生産拠点であるアジア向けの電子部品輸出は最も大きい影響をもたらした(第1-1-2図)。「踊り場」の局面においてはIT需要の波が我が国の輸出の下押し要因として働いていたことは輸出関数による推計からも確認できる(付図1-1)。 我が国の輸出について世界景気、実質実効為替レートとの長期均衡関係を推計し、最近の輸出の動向を長期均衡からの乖離と世界のIT需要等を説明変数とする誤差修正モデルを試算すると、2004年の終わりから2005年の始めにかけてIT需要が輸出の伸びを押し下げていたことが示される。この結果、情報化関連生産財(電子部品等)で在庫調整の動きが生じた。

しかし、2005年半ばにかけては、 IT関連の輸出はアジア向けを中心に下げ止まりから持ち直し傾向で推移した(1)。その背景としては世界的なIT需要の持ち直しやこれに伴うアジアの生産回復が挙げられる。こうした動きを反映して在庫循環図や出荷―在庫ギャップからみた情報化関連分野の在庫調整も終了に向かった(第1-1-3図)。秋口以降は、国内年末商戦やアメリカのクリスマス商戦に向け、液晶素子を中心に電子部品等の生産指数は大幅に改善している。

コラム1 輸出動向をみる指標

月々の輸出の動向をみる指標として財務省の通関統計を用いて試算される「輸出数量指数」と日本銀行が公表している「実質輸出」の2つがある。この2つの指標は双方とも価格変動を調整した上での財の輸出動向を表したものであるが、これらを比較すると2004年半ばごろから動きが乖離し、実質輸出でみれば緩やかな増加傾向が続いている一方、輸出数量指数は2004年末にかけて弱含み、2005年半ばに持ち直すという動きとなっている。2つの指標で動きが異なるのは、それぞれのデフレーターの違いによる。すなわち輸出数量指数は、輸出金額を品目ごとに輸出価格指数で数量化した指数を統合したものであるのに対し、実質輸出は同じ輸出金額を輸出物価指数でデフレートしたものである。前者は、貿易統計の品目(9桁の6577品目(2005年時点))をベースに平均単価を算出しているのに対し、後者は、日本銀行輸出物価指数(222品目(2000年基準))を基にした価格の動きであり、かつ電子計算機等一部の品目に品質調整が施されている。このため、陳腐化が激しく、高品質化も頻繁な電気機器の価格動向をみると輸出価格指数では均してみると緩やかな上昇傾向であるのに対し、輸出物価指数では下落トレンドにある。

一方、四半期別GDP速報(SNA)の「財貨・サービスの輸出」においては、実質化に当たって日本銀行の「輸出物価指数」を採用している。このため、四半期別GDPの輸出を上記2つの指標と比較すると、GDPベースの動きは、実質輸出に沿ったものとなる。また、内閣府が四半期別GDPの推計方法を簡素化して試算している「輸出総合指数」はサービス輸出も含めた指標であり、GDPベースとほぼ同様の動きとなっている。ただし、実質輸出や輸出総合指数を用いる場合には、輸出物価指数の地域別計数が試算されていないことから、輸出数量指数と異なり地域別の輸出動向を把握することが困難であるという問題がある。このため、輸出動向の判断に当たってはこれらの指標を総合的に把握していくことが重要であるといえる(コラム図1)

(アジア向けを中心に持ち直す輸出)

我が国の景気が「踊り場」的局面に入った要因としては輸出全体の伸びの鈍化もあげられる。2005年の輸出の動き振り返ると、上述したように年初にはIT関連分野における踊り場的状況の影響や、一部に指摘された中国国内における在庫の積み上がりや一部産業における投資抑制策の影響等から同国向け輸出を中心に弱い動きがみられた(2)。しかし年半ば以降には、主力である一般機械(工作機械、半導体製造装置)や電気機器(半導体等電子部品)を中心に中国・アジア向けの輸出が持ち直している。

我が国経済は民間需要の足腰が強い回復が続いているものの、外需の低迷を通じて我が国景気が下押しされるリスクには依然として留意が必要である。我が国の主要な輸出相手国の2006年の経済見通しをみると(第1-1-4表)、成長率の伸びは多少鈍化するものの引き続き緩やかな回復が見込まれており、海外要因からの景気の下振れリスクは限定的であるといえる。輸出金額の13%(2004年時点)を占める中国では抑制措置の影響から2005年よりは鈍化するものの、固定資産投資、外需を中心に高い成長率を達成することが見込まれている。同じく22%を占めるアメリカでは原油価格の高騰が影響し成長率は潜在成長率に回帰する方向で緩やかに減速することが見込まれている。ただし、アメリカ経済については、(1)住宅バブルの崩壊による個人消費への影響、(2)インフレ抑制のための金融引締政策の影響、(3)原油価格の高騰が消費者心理に与える影響、(4)巨額の財政赤字・経常収支赤字というインバランスやその国際的な資金フローへの影響等といったリスク要因、中国経済についても、鉄鋼等一部業種における在庫の積み上がりといったリスク要因があり、その動向には十分な留意が必要である。

(一進一退で推移する非IT関連分野の生産)

生産については2005年半ばまでは上述のようにIT関連分野が調整局面にあったことに加え、4-6月期には鋼船の生産指数が一時的に大きく落ち込んだこともあり、全体として横ばい圏内で推移した。2005年後半にはIT関連分野が回復したものの、IT関連以外の生産(非IT分野)は依然として一進一退で推移している。その中で非IT分野の在庫は、化学製品や鉄鋼等の素材型製造業を中心に若干の増勢傾向にある(3)第1-1-5図)。在庫循環図でみてもこの分野は足元で45度線を越えて表面上は在庫調整が必要な局面に入っており、 過剰感払拭が続く電気機械に対して鉄鋼等を中心に在庫過剰感がやや上昇傾向となっていることが分かる。例えば、鉄鋼等については比較的付加価値の低い一部の汎用品において中国産品を中心に供給過剰となったことが影響しているとみられ、普通鋼の出荷は国内向け・海外向けとも減少し在庫調整の局面に入っている(付図1-3)。しかし、(1)過去の景気局面と異なり、今回局面では非IT分野の在庫プロセスの波はIT関連分野のそれと必ずしも一致しなくなっていることや、(2) IT化の進展に伴う在庫管理技術の発達は意図せざる在庫の積み上がりを小幅なものに抑制することを可能にしている(4)(在庫循環の振幅を軽減する)と考えられること等から、今のところ一部の在庫の増加が生産全体を下押しするような局面にはないとみられる(第1-1-6図)。今後は、世界経済の着実な回復に伴い、生産も持ち直していくことが見込まれるが、こうした非IT分野の在庫調整圧力が存在する間は、生産全体の伸びも緩やかなものにとどまる可能性がある。

(堅調に景気を支える設備投資)

今回の景気回復局面においては、企業収益の改善とともに設備投資の増加基調が続いている。2004年までの状況を振り返ると、設備投資は企業の手持ちの資金(キャッシュフロー)の伸びを下回る緩やかなペースの増加にとどまっていた。企業の投資意欲を測る指標の一つとして投資性向(設備投資/キャッシュフロー)をみると横ばいからやや低下する動きにあった。これは、過剰債務を抱えていた中でキャッシュフローの使い道として有利子負債の返済を最優先としていたことを反映するものであった(第1-1-7図)。しかし有利子負債キャッシュフロー比率がバブル期以前の水準に戻ったことにみられるように、企業の過剰債務はほぼ解消し、2005年には設備投資を積極化させる動きがみられつつある。

日銀短観(9月調査)の2005年度設備投資計画をみると、全規模全産業で前年度比6.8%と、3年連続の増加計画となっている。2005年度の投資計画を詳しくみると、2004年度から投資牽引の主役が代わってきていることに特徴がある(第1-1-8図)。すなわち(1)全体として製造業中心の回復から非製造業にも電気・ガスや堅調な消費環境に支えられた流通業等に広がりがみられること、(2)製造業内でも電気機械に代わり輸送機械や高付加価値品の生産能力向上を企図した鉄鋼など素材系が好調な投資計画を持っていることがみられる。

こうした投資計画が達成されれば、先にみた投資性向は2005年度には今回の景気回復局面で初めて上昇に転ずることが見込まれる。投資増加計画の背景には企業部門の前向きな姿勢への変化がある。個別企業レベルでみれば設備投資に積極的な企業は経済全体の期待成長率ないし当該業種の需要成長率を高くみているところであり、また、過剰債務の圧縮や土地を含む過剰設備の廃棄等によりバランスシートを改善した企業であると考えられる。過剰債務など資金制約が設備投資に与える影響については第2章第2節において詳しく検証する。

資本ストック調整の循環からみても企業の期待成長率の上昇が積極的な設備投資に結びついている状況が確認できる。設備投資増加率を縦軸、設備投資/資本ストック比率を横軸にとった曲線をみても、90年代以降は企業の期待成長率はゼロ%前後の低い水準の中で調整を繰り返していたのに対し、ここ2~3年の状況をみると期待成長率が高まる方向に沿って設備投資が拡大していることが分かる(第1-1-9図)。日銀短観でみた生産設備の過剰感もほぼ解消し製造業を中心に業種によっては不足超で推移している。ただしこうした状況は企業の今後の期待成長率の推移に強く依存するものであるという点には留意が必要である。設備投資が堅調に増加する中での期待成長率の低下が生じる場合には、今後のストックの増勢が資本ストック調整という形で景気に影響を及ぼすという可能性もある。

(製造業は国際的な設備投資の最適化に沿って国内投資を増加)

このように、企業の設備投資意欲が高まる中で、国内向けの投資も改善している。資本財出荷の動きを国内向けと輸出向け出荷に分けると、2004年後半以降は輸出向けが横ばい圏内で推移しているのに対し、国内向け出荷が堅調に伸びていることが分かる。また、2004年から2005年にかけては、工場の国内立地が積極的に進められた。2004年度までのデータからみると、工場立地件数は年々高まり、自動車産業、IT分野を中心とする電気機械等を中心に、特に関東や東海地区においては全国平均をはるかに上回る伸びがみられ、九州地区でもこのところ伸びが高まっている(付図1-4)。内閣府「平成16年度企業行動に関するアンケート調査」によると、国内に生産拠点を残す理由としては「利用している技術が高度で、国外生産が困難だから」が加工業種を中心に最も高く、高付加価値化を目指した国内立地が進んでいることがうかがえる。

この点を国内投資と海外投資の関係からみてみよう(第1-1-10図)。ここで国内投資が減少する一方で海外投資が増加する場合には空洞化が、他方、国内投資が増加する中で海外投資が減少する場合には国内回帰が生じていると考える。ここ数年の動きとしては国内・海外投資のバランスはグラフの右上方向、つまり補完関係を保ちながら成長していることが分かる。換言すれば、企業部門が生産拠点を海外から国内にシフトさせている狭い意味の国内回帰の動きは少なくともマクロベースでは確認することができない。各種の企業アンケート(5)からも、海外投資と国内投資を代替的ではなく、相互補完的に拡大していくというスタンスの企業が多く、最近みられる工場の国内立地の動きは、成長を目指す各企業のグローバルな観点からの立地最適化の結果とみることが適切であろう。

(企業部門の好調さの家計部門への波及が確かなものに)

2002年1月を谷とする今回の景気回復局面が、90年代の2回の回復局面と大きく異なる点としては、経常利益に代表される企業部門の好調さが、ゆっくりとしたペースではあるものの、雇用情勢の改善を通じて確実に家計部門に波及してきていることが挙げられる。

失業率については90年代以降初めて低下傾向が確認されている。2003年当初の失業率の低下は、企業のリストラが一服したとの認識から消費者マインドに好影響を与え、消費支出を下支えしたと考えられる(6)が、失業率の低下は主として労働市場からの退出(非労働力化)によるものであった。しかし、最近の失業率の動きを要因分解すると、非労働力化による失業率の低下分は小さくなる一方で、就業者数の増加による失業率の低下が大きく寄与を高めてきている。失業者と非労働力、就業者間のフローをみても、非労働力化というフローが減少し、男性を中心に就業者へというフローが相対的に大きくなっている。また年齢別には15から24歳の若年層の失業率の低下が顕著に現れている(第1-1-11図)。

失業率の「質の改善」は、転職環境にも現れている。失業率を求職理由別にみると、主としてリストラを反映していると考えられる非自発的失業は着実に減少し、自発的失業を下回る水準で推移している。自発的失業の中には、より良い雇用条件を求めた転職に伴う一時的な失業が主に含まれると考えられる。実際、転職者数は25~44歳層を中心に増加し、転職理由別ではより良い条件を求めた転職が堅調に増加している(第1-1-12図)。また失業期間が1年以上にわたる長期失業者は数、失業者に占める割合でみても2005年に入って着実に減少している。さらに、有効求人倍率がきわめて高い水準に達しつつあることにみられるように転職市場は需給が逼迫している。転職前後の賃金変化についても、「前職賃金を下回った」と答えている雇用者が「前職賃金を上回った」としている雇用者を 依然として上回っているものの、後者の割合が前者のそれとほぼ同程度にまで徐々に高まってきている。

このように転職市場の活性化が進んできている中で、雇用のミスマッチ状況には顕著な改善はみられていない。失業率と欠員率の関係(UV曲線)をみると、最近の雇用情勢の改善は需要不足失業を低下させる方向には作用しているものの、均衡失業率つまりミスマッチに伴う失業率を低下させるような方向には働いていない(付図1-5)。職業安定業務統計から職業間、年齢間のミスマッチ指標の動きをみると、年齢間については2001年以降に努力義務化が設けられた年齢不問求人の影響もあり着実に低下してきている一方、職業間のそれは専門・技術職などを中心におおむね横ばいの状態となっている。職業間の労働移動についても、特に伸びが高い専門・技術職やサービス職については大宗が同職種からの移動である(付図1-6)。転職市場は活性化しつつあるものの、それは必ずしもミスマッチを低減させるものとはなっていないことがうかがえる。

(フルタイム労働者を中心に雇用者数は増加、賃金も回復)

現下の雇用情勢の改善は雇用者数の増加を伴うものとなっている。今回の景気回復局面では雇用者数の回復が企業部門の改善から相当のラグをもってようやく実現した背景には、企業部門が雇用過剰感を抱える中で賃金コストの高いフルタイム労働者の雇用を抑制するという動きがようやく止まってきたことがある。雇用者の増加を属性別にみると、フルタイム労働者が2005年以降増加に転じ、これまで減少傾向が続いていた製造業の雇用も同じく増加に転じている(第1-1-13図)。

このような雇用のフルタイム化の動きは賃金の回復にもつながっている。ここで、所定内給与と所定外給与の合計である定期給与の伸び率を要因分解したものをみると、一般労働者一人当たりの賃金の伸びが企業業績の回復とともに上昇基調にある。さらに、一人当たりの賃金が相対的に低いパート労働者が雇用に占める比率(パート比率)が25%程度の水準で頭打ちとなり、賃金の押下げ要因として働かなくなっていることも特徴となっている。ボーナスに関しても、2005年夏期は前年比1.3%と4年ぶりのプラスとなっており、やはり一般労働者一人当たりのボーナスの伸びやパート比率の頭打ちが影響している。こうした雇用情勢の改善を背景に、労働分配率は2000年代に入って以降の低下傾向が一服し、下げ止まりの状況となっている。労働生産性と実質賃金の長期的な関係から導かれる現下の労働分配率の均衡水準は66%程度であり、現在の分配率はほぼその水準に見合う形で推移している(7)付図1-7)。

(実質的な「正規化」が進む雇用)

労働者に占めるパート労働者の比率が2005年に入って以降、これまでの上昇傾向から頭打ちに転じている。このことは、パート・アルバイト労働者の増加傾向や累次の労働者派遣法改正に伴う派遣労働者の増加等(8)にみられる「雇用の非正規化」が止まりつつあることを示している。上述の賃金の要因分解で用いた一般・パートの区分は厚生労働省「毎月勤労統計」によるものである。一方、職場での呼称によって正規と非正規を区分している総務省「労働力調査」によって非正規比率をみると、依然として正規職員は減少傾向、非正規職員は増加傾向となっており足元において「雇用の非正規化」が続いている形となっている(付図1-8)。相互に矛盾するようにみえる両者の関係は統計上の区分基準の差から説明することが可能である。厚生労働省「毎月勤労統計」では一般・パートの区分基準は労働時間に多寡によっている(9)。これに対し、総務省「労働力調査」では職場での呼称によって正規と非正規を区分している。したがって職場での呼び名では非正規に分類されるとしても長時間労働をしている雇用者が増加している場合には、「労働力調査」では 雇用の非正規化が持続する一方で、「毎月勤労統計」では雇用の非正規化が止まるという現象が発生する可能性がある。例えば就業時間別にみた派遣労働者の推移をみると週35時間以上という「フルタイム」に属する層の伸びが、2004年4月改正労働者派遣法における製造業への派遣解禁を機に高まっている(第1-1-14図)。また同改正で大幅に利便性が緩和された紹介予定派遣(10)やこれによる雇用契約成約件数は増加傾向にあり、派遣労働者のフルタイム化の兆しは現れてきているものと考えられる。

(所得の伸びに支えられ、個人消費は緩やかに増加)雇用情勢の改善を受けて、個人消費を巡る環境も改善傾向が続いている。雇用者所得は賃金・雇用者数の双方の要因がプラスに働き、緩やかな増加基調を続けている。また消費者マインドについては、消費者態度指数は足元ではやや弱含んでいるものの、バブル崩壊以降の期間では相対的に高い水準で横ばいとなり 景気ウォッチャー調査等でみるマインドは改善傾向を続けている。こうした環境面に支えられ、個人消費は緩やかな増加傾向で推移している(第1-1-15図)。

2004年後半には、度重なる台風の到来により客足が悪かったこと、冬季に気温が平年より高めで推移したことにより冬物衣料等が低調に推移したこと等の天候要因により消費の伸びが鈍化した。2005年年初には、こうした動きに対する反動もあり個人消費は大きく増加した。その後も、愛知万博による国内旅行の好調、国家公務員を中心に官公庁から始まった夏の軽装推進運動(クールビズ)による紳士服・関連商品の需要増の効果もあり、年央まで消費は堅調に推移した。

他方、2005年後半に入って、個人消費の増加ペースは緩やかになっているが、年間を均してみれば、その回復基調には変わりはない。ここで、家計最終消費支出を所得要因、人口要因、資産価格要因で説明される長期均衡関係を推計し、実際の消費と長期均衡から予測される値との乖離を計測すると、年前半にはやや上振れがみられたが、足元ではおおむね長期均衡で説明される範囲の中で個人消費が推移している。したがって、雇用者所得の緩やかな増加基調等に支えられ個人消費が改善しているという状況に変わりはないことが確認できる(第1-1-16図)。また、消費者マインドも年初からの回復ペースが頭打ち傾向にあり、年前半にみられていた押上げ効果が足元で一服している。

こうした消費の動向を世帯主年齢別にみる(付図1-9)と、比較的高齢のシニア層が堅調であることに加えて、39歳以下の若年層の伸びが、通信や家庭用耐久財といった支出項目を中心に足元にかけて相対的に高く推移してきている。この背景には、このところの若年層を巡る雇用情勢の改善が、所得の改善を通じて消費意欲を引き出していることがあると考えられよう(11)

コラム2 クールビズ運動と個人消費

2005年6月から9月にかけては、国家公務員を中心とした夏の軽装推進運動(以下クールビズ)が実施された。この運動により、国家公務員を中心にシャツ等の紳士服等の消費拡大が期待されたが、実際に消費関連統計の動きを見ると、例えば百貨店(既存店)の紳士服・用品は6・7月と連続でそれぞれ前年比3.8、3.0%増となり、16ヶ月ぶりの前年比増加となった。家計調査でみても6-8月計でみた「被服及び履物」は依然として前年比マイナスとなっているが、ワイシャツ等クールビズが影響を与えたと思われる品目は7.5%上昇し、大きく増加に寄与し、被服・履物全体の減少幅を緩和している。
また世帯主の職業別にみた場合、ワイシャツ等を含む「男子用シャツ・セーター類」の伸び率は、勤労者世帯全体でもプラスになっているが、民間職員の伸びに比べ、官公職員の伸びはさらに大きなものとなっている。このように、クールビズの消費への効果はある程度確認することができた(コラム図2)。

(家計の購入単価は上昇傾向に)

景気回復が進む中で、家計の購入単価が上昇してきているという指摘がある。家計調査でこの点を確認すると、例えばデジタル家電を含む耐久消費財ではテレビを中心にこのところ購入単価が上昇してきている(付図1-10)。また、販売側統計でみても、テレビの購入単価は上昇傾向が続いている。一方、家計調査では被服類やビデオカメラ等といった汎用品に当たる品目では購入単価の下落が続いている。また家電の中でも、年間実収入別にみると高所得者層ほど購入単価が顕著に上昇している品目も散見され(例えば、ビデオテープレコーダー、電気洗濯機、電子レンジ等)、消費行動にある程度の二極化傾向が生じている可能性もある。このように家計調査で購入単価が把握可能な品目につき2000年時点の消費金額のウェイトから統合した指数を作成し、同じ品目で消費者物価から作成した統合指数に比べると、前者がここ数年にわたり堅調に推移している(第1-1-17図)。これには、消費者物価指数においては単価の高い薄型テレビ等が対象となっていないために、消費者物価でみた指数の方が低めになるという技術的な背景もある。こうした点や家計調査サンプルの振れには留意が必要であるものの、購入単価の上昇という動きからも企業部門の改善が徐々に家計部門に広がりをみせてきていることが確認できる(12)

(2) 原油価格の動向-今後の景気動向をみる上での留意点-

これまでみてきたように現在の景気回復は長期化する中でその足腰を強くしている。しかし、今後の景気動向をみる上ではいくつかのリスク要因に留意する必要がある。考慮すべきリスク要因としては(1)原油価格高騰の影響、(2)中国やアメリカの景気の下折れ等我が国の輸出環境の悪化、(3)景気回復の成熟化に伴う在庫調整、資本ストック調整等が与える影響、(4)財政や金融など政策変更に伴う市場の反応等である。(2)と(3)については既に前節で触れたため、ここでは原油価格の動向に絞って議論する。また(4)については本章後段でみるとともに、特に今後の金利上昇が経済に与える影響については第2章第1節において考察する。

(世界的な需要増を背景に高騰を続ける原油価格)

原油価格は2004年末に一旦軟調に推移した後、2005年に入って再び急激に上昇した。国際市況であるアメリカWTI先物価格をみると、2004年末時点では1バレル43.45ドルであったのに対し、2005年10月末時点では59.76ドルまで高まっており、年間を通じた伸び率は2002年以降で最も大きくなっている(第1-1-18図)。特に8月末から9月にかけては大型のハリケーンが石油生産関連施設の集中するメキシコ湾岸に被害をもたらしたことから需給逼迫懸念が高まった。9月にはIEAにおいて各国協調行動による原油備蓄放出が決定されたこともあり価格高騰は一服したが、その後も原油価格は高止った状態にある。一方、我が国の輸入原油の価格であるドバイ価格についても、WTIと1バレル7ドル程度の価格差をもって同様に推移した(13)。この結果、我が国の企業活動に直接的に影響を与える円建ての輸入価格は2005年を通じて70%上昇している。

一方、物価水準を調整した実質価格でみると、現在の物価基準でみた石油危機時の原油価格は、足元を100とすると第1次危機時ではほぼ同様の水準である一方、第2次危機時では70%程度高かったことになる。このため相対価格からみた原油価格の影響はまだ第2次危機ほどのレベルにはないと考えられる。しかしながら実質価格でみた原油価格も2005年は年初来70%程度上昇しており、今後の動向には注意が必要である。

今回の原油価格高騰の主な要因は、 中国、インド等を始めとする新興国やアメリカ経済の拡大による需要要因という側面がある(第1-1-19図)。 したがって供給途絶によるいわゆる供給ショックが主因であった過去の価格上昇局面とは異なる状況となっている。このことは後に述べるように現在までのところ原油価格の我が国経済に与える影響が限定的に抑えられている一つの要因となっている一方で、原油価格の上昇ペースを一過性のものというよりは、漸進的だが確実に高まるという傾向にしている。これに加え、今回の原油高には、(1)原油生産の3割を占めるOPEC諸国の生産能力が過去の投資不足によって70年代の8割程度に過ぎず、生産余力も急速に縮小していること、(2)ハリケーンの影響もあり、アメリカの供給見通しは最近では大きく下方改訂されていることなど、供給能力が拡大し続ける需要を賄えないという逼迫懸念が根強く存在する点や、(3)こうした事情を背景にヘッジファンドや年金基金等の投機資金が流入し価格変動を高めているという点等が複雑に絡まりあっている。

原油価格をめぐるこうした環境は、短期的には大きく変化するものではないと考えられる。このところの原油高を反映して各国で油田開発計画が出てきているものの、それが即時に供給能力の改善につながるわけではない。このため、少なくとも今後も原油価格が高止まりすると見込まれている(14)

(産油国への所得移転は2005年で約2兆円(GDP比0.4パーセント))

こうした原油価格の高騰は(1)産油国への所得移転、(2)価格転嫁が進まない間の企業収益の圧迫、(3)実質所得の低下圧力による個人消費への影響、(4)エネルギー効率が低い諸国への影響を通じた外需の下押しといったルートから我が国に悪影響を与え得る。

第一に、原油輸入価格の上昇によってどの程度の所得が産油国経済に移転されたのかについて一定の仮定のもと簡単な試算を行うと、ここ数年で徐々に拡大し2005年は前年比でGDPの0.4%程度となる見込みとなる(第1-1-20図)。こうした所得移転効果は過去の石油危機のピーク時に比べれば、エネルギー効率の向上や代替エネルギーへの転換等により低い水準にあるが、今後、価格が一層高騰していくような場合にはさらなる所得漏出効果が懸念される。

一方で、所得移転を受けた形となる産油国経済の所得が向上することで我が国から当該国・地域への輸出が促されるというフィードバック効果も起きている。例えば中東向けの輸出の動向をみると、主要相手国・地域と比べたシェアは小さいものにとどまるものの、輸入金額の伸びに遅れて、輸送機械を中心にこの1年程度で大きく増加している(第1-1-21図)。

(圧迫される価格転嫁力の弱い部門の企業収益)

第二に、企業活動への影響については、一般的には投入価格が上昇する中で、産出価格に転嫁することができれば収益への影響は抑制される。製造業の交易条件(産出価格/投入価格)をみると石油製品価格が主因となって投入価格が上昇しているのに対して産出価格の伸びが緩やかなことからこのところ悪化している。ただし、産出額と投入額の比率で調整した実質的な交易条件(修正交易条件)でみると悪化の程度はより緩やかなものとなっている(付図1-11)。現在までのところ、製造業全体の収益は、投入価格の上昇による収益押下げ要因が高まっているものの、リストラによる収益構造の改善や売上増加要因等によりこれを吸収することで2桁の伸びを続けており、価格高騰の影響は限定的なものにとどまっている(第1-1-22図)。

製造業をさらに素材型と加工型に分けると、加工型の収益に対する影響がより厳しい状況となっている。製品価格への転嫁がある程度進んでいる石油等を含む素材型産業においては交易条件要因がほとんど影響していない。これに対して加工型では(1)販売価格判断DI等でみて依然としてデフレ期待が残ることや(2)石油製品等と異なり需要の価格弾力性が相対的に高いことを背景とした競争環境の厳しさ等を反映して産出価格が下落要因として働き続けている。この結果、交易条件要因のマイナス寄与は加工型に対して相対的に大きい。

非製造業では原油ないし重油等の石油製品の投入比率の高い一部の業種に影響が強く出ている。例えば、仕入価格判断DIや売上高原価率は電気・ガスや運輸等で大幅に上昇している。特に、トラック等の陸運業や漁業においては、原油価格の上昇が100%転嫁したと仮定した場合の産出価格に比べ、実際の価格は競争環境の激化、外国産品との競合等により下落しており、結果として利益を圧迫している(第1-1-23図)。

企業の規模別にみると、中小企業では多くの企業が価格を転嫁できず収益に悪影響が出ているとされており、売上高原価比率でみても、製造業は緩やかに上昇し、非製造業でもこれまでの低下傾向が反転する兆しをみせている(付図1-12)。

総じてみれば原油価格が企業活動に与える影響は、これまでの動きをみる限りでは一部の業種や中小企業では深刻化してきているものの、企業部門全体としては限定的なものにとどまっている。しかし、今後、原油関連投入財の価格上昇・高止まりが続くような場合には、後に述べるような相対価格の悪化による供給ショックを企業が売上増等で吸収しきれず、投資や雇用・賃金の抑制という形で生産構造に影響する可能性は残っている。

(これまでのところ限定的な個人消費への影響)

第三に、家計に関しては、原油価格の高騰はガソリン等の石油製品の価格上昇という形で波及している(15)。消費支出に占める石油製品のシェアは2.4%程度と第2次石油危機時程度にまで高まっており、一定の影響が出ていることがうかがわれる(第1-1-24図)。一般にガソリン等の石油製品は需要の価格弾力性が小さいが、関連支出を価格と数量要因に分けると、価格の押上げ効果に対して数量は継続的に押下げ方向に働いており、一部のガソリンの買い控えにみられるように消費の代替効果がある程度働いているとみることもできる。こうした石油製品支出の増加分は可処分所得の0.2%程度と家計にとって一定の負担増となっている。収入階級別にみると可処分所得に対するエネルギー支出の割合の低い第5分位を除いては消費支出に占める石油関連支出はおおむね同様の動きとなっている。アメリカでは必需品の側面がより強いガソリン価格上昇の負担は高所得層と比べ低所得層にとって大きいものとみられるが我が国ではそうした負担は相対的に小さいとみることができる。

他方、原油高が家計の実質所得の減少を通じて消費支出の押下げに至るには、石油関連等一部の財・サービス価格の変化が一般物価に影響を与える状況(供給ショック)となることが前提であるが(16)、消費者物価は石油関連商品の上昇にもかかわらず、安定した状況が続いており(17)、現在までのところは相対価格の変化による供給ショックは限られたものであるといえる。一般に石油製品の上昇はエネルギー以外の財・サービスに転嫁されることによって石油製品(及び食料)を除く消費者物価(コア)に影響する可能性がある(18)が、石油製品価格とコア指数の相関関係をみると、過去の石油危機を含む時期等と比べ、エネルギー効率の高まりや競争環境の激化等から、アメリカや欧州と同様に我が国でもほとんど相関がみられなくなっている(付図1-14)。

このように、今までのところは石油製品価格上昇による相対的な価格ショックも小さく、雇用改善に伴う所得の緩やかな増加によってある程度補償されているとみることができる。しかし今後は、原油価格の上昇ペースや企業のコスト要因が雇用面に与える影響によっては、家計の実質所得も押し下げられるというリスクに注意する必要がある。

(緩やかな回復を続ける経済全体への影響はこれまでのところ限定的)

第四に、マクロ経済全体への影響について検証する。先に述べた所得移転は需要サイドの要因としてGDPを押し下げる効果を持つ。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、原油価格が10ドル上昇した場合、日本の実質GDPには約0.4%程度の影響が及ぶことが示されている(19)。こうした影響は、我が国よりもエネルギー効率が低いアジア等各国・地域への悪影響を通じたフィードバックにより増幅される恐れもある。

また、エネルギー価格の上昇が、供給面にどのように影響するかについて、応用一般均衡モデルであるGTAPを用いた試算結果をみる(20)。実際には、今回の原油価格の上昇は世界的な需要増加に伴う内生的な価格上昇という側面が強いものの、この試算の前提としては、単純化のために産油国の石油輸出価格が外生的に上昇することを想定している(つまり石油価格が投機的な期待で上昇したのと同じことになる)(21)。こうした形での石油価格の上昇は、交易条件の改善を通じて石油産出国に純粋なレントをもたらす一方、石油輸入国は交易条件の悪化によってGDPが低下する。また、石油輸入国内では、石油製品の価格上昇によってそれを中間投入として使用する産業の産出が低下するほか、所得低下に伴う国内需要の減少によっても各産業の生産が低下することが考えられる。この試算の結果によると、原油価格上昇が世界の主要地域に与える影響については、先進国の中では日本、EU諸国に比べて産油国であるアメリカを含むNAFTA地域の影響が比較的小さい。アジアの中では、産油国であるASEANへの影響が最も小さいが、同じく産油国である中国への影響はASEANよりも大きく、日本より若干小さい。次に、日本国内の産業別の影響をみると、石油・エネルギー産業は原油価格上昇により増産のインセンティブを持つため産出が増加する一方、中間投入価格の上昇や国内需要の減少によって、農産品・食料加工、運輸・通信、建設、サービス等の生産が低下する。他方、エネルギー効率の点で国際的に相対的に競争力を持つ一般機械、輸送機械、電気機械等の生産は若干増加する。なお、以上の試算結果については、一定の幅を持ってみる必要がある(第1-1-25表)。

(長期的な影響として進展するエネルギー代替)

最後に原油価格高騰がもたらす長期的な影響について考える。原油価格がある程度まで高まればエネルギー間での代替が働く、もしくは新エネルギーの開発を促すという効果がある。我が国の原油原単位の長期的な推移をみると、経済のエネルギー依存度の低下に加えて、原油以外のエネルギーへの代替による要因が大きいことが見てとれる(第1-1-26図)。既存研究によればエネルギー間の代替弾力性はある程度高いとみられる(22)。また第2次石油危機後には、それまでエネルギーと補完関係にあった資本ストックが、弱いながらも代替関係-つまりエネルギー価格の高まりにより省エネ等の投資が増加する関係-に変化したとされ(23)、原油価格が今後長期的に高止まる場合には、こうした経路から新規投資が生まれてくる可能性もある。実際、2005年度の設備投資計画においては、原油価格の高騰などに対応するための原燃料コスト削減投資が設備投資の理由として挙げられるなど既にその兆候が現れている。

一方、石油の主要な代替燃料であり、炭素含有量の少ない液化天然ガスについては、地球温暖化防止の流れもあいまって、世界のエネルギー源に占めるシェアでみても、我が国に占めるシェアでみても石炭に次ぐエネルギー源となっている。長期的に価格は上昇傾向で推移しているが、短期的にも最近の原油価格とある程度連動した上昇を示している(付図1-15)。また、我が国のエネルギー源に占めるいわゆる新エネルギーのシェアは長期的には増加傾向にあるものの、その水準は相対的に低い。我が国の原油依存度は低下しているとはいえ、その輸入先は中東に集中しており、エネルギーの安定供給という観点からみれば原子力の安定供給や新エネルギー開発への積極的な投資等を通じたエネルギー供給源の多様化が一層の課題となろう。

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