平成18年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−成長条件が復元し、新たな成長を目指す日本経済−

平成18年7月

内閣府


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第1節 雇用の変化とその影響

 今回の景気回復局面での雇用情勢の特徴として、雇用形態の多様化の進展があげられる。企業との安定的な雇用関係にある正規雇用以外に様々な形態の非正規雇用が増加し、雇用の多様化が進展している。
 90年代後半以降、景気局面に関わらず一貫して正規雇用者が減少する中で、非正規雇用は増加し続けるという動きがみられている。とりわけ若年層では、失業率が高いことに加え、雇用状態にあったとしても非正規雇用という形態が増加し、厳しい状況となっている。さらに地域雇用の状況にはばらつきがみられる。
 本節では、こうした雇用形態の多様化や厳しい若年層の雇用情勢、及び地域雇用の動きの背景や問題点を探ったうえで、今後の展望を行う。

1 雇用形態の多様化


●雇用者の約3人に一人が非正規雇用者に
 長期にわたって景気回復が継続しているにも関わらず、正規雇用は減少する一方、非正規雇用が増加する動きが続いている。
 「労働力調査」は、家計側から労働状況に関して調査したものであり、職場での呼称によって正規・非正規を区分している。正規雇用者は雇い主である企業と直接の安定的な契約関係にある雇用者である。これに対して非正規雇用者はパート、アルバイト、労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託など様々な雇用形態を含み、正規雇用者に比べると契約上は不安定な環境にあることが多い。
 正規雇用者数は、90年代半ばまで緩やかに推移したのち、97年以降は、ほぼ一貫して減少を続けており、2005年には3,300万人程度となっている。一方、非正規雇用者数は、94年に前年より減少した後、95年に1,000万人を超え、2005年には1,600万人程度となった。役員を除く全雇用者に占める非正規雇用者の比率でみると、90年から雇用者の2割程度で推移していた後、90年代後半以降、上昇し続け、2005年には雇用者数の約3人に一人が非正規雇用者となっている(第3−1−1図)。このように、正規雇用者は減少傾向、非正規雇用者は増加傾向となっており、「雇用形態の非正規化」が継続している。
 産業別に非正規雇用比率をみると、元々、非正規雇用比率の高い卸売・小売業、飲食店、サービス業による非正規雇用比率が全産業の非正規雇用比率より高くなっているのに加え、最近では金融・保険業、不動産業や運輸・通信業の上昇も顕著である。一方、従業員規模別の分布については、規模の小さい企業は以前から非正規雇用比率が高い。しかしこのところ、規模の大きい企業の非正規雇用比率が高くなっていることが分かる(付図3−1)

●正規・非正規の賃金格差
 正規雇用と非正規雇用の賃金格差をみると50歳代まで年齢が上昇するにつれて格差が拡大する形になっている1(第3−1−2図)。男女別の賃金格差をみると、男性の場合は、年齢が高いほど格差が大きいという傾向が強い。男性の20歳代までは、正規雇用者の8割から9割であり、正規雇用者中心の年功序列制度を背景に、年齢が上昇するほど拡大し、50歳代前半で、正規雇用者の約5割程度となる。これに対して女性の賃金格差は、40歳代以降ほぼ横ばいで正規雇用者の6割程度となっている。

●足元では、派遣社員や契約社員も含めたフルタイム化が進む
 非正規雇用比率は増加している一方、パートタイム労働者比率 2は、2004年以降は頭打ちとなっている。労働時間を基準に分類する一般(フルタイム)労働者3とパートタイム労働者の動きをみると、パートタイム労働者比率が頭打ちとなっていることが分かる(第3−1−3図)。この背景には、最近は、正規雇用者数が減少する一方で、主としてフルタイム労働の派遣社員や契約社員・嘱託が増加していることがあげられる。
 この非正規雇用比率とパートタイム労働者比率の動きの差は、雇用者の分類の定義の違いによるものである。一般労働者とパートタイム労働者の区分基準は労働時間の多寡によっているのに対し、正規と非正規の区分は職場での呼称によっている。非正規雇用者の労働時間をみると、パート、アルバイトは1日の所定労働時間が短い者が多くなっている。労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託などは、派遣期間や契約期間に定めがあるものの、1日の所定労働時間については、正規雇用者とほとんど差がない4。したがって、派遣社員や契約社員が長時間労働をしている場合は「非正規のフルタイム労働者」と分類されることになる。就業時間の多寡で雇用者を区分してみると、週35時間以上の雇用者は、2004年以降増加しているのに対し、週35時間未満の雇用者数の動きは一進一退で推移している。週35時間以上の雇用者のうち、非正規雇用者の形態別をみると、パート・アルバイトがほぼ横ばいで推移している一方で、2004年以降、制度改正があった契約社員・嘱託5及び派遣社員の増加が顕著になっている6

●非正規雇用の増加は産業内の非正規雇用比率の上昇の要因が大きい
 非正規雇用比率の高まりについては、非正規比率が相対的に高いサービス産業比率の高まりによる影響よりも、各産業内の非正規雇用比率が高まったことが影響している。正規・非正規雇用それぞれの増減要因を、1産業構造が変化したことによる要因、2産業全体の雇用者数が変化したことによる要因、3産業内の非正規雇用比率が変化したことによる要因に分解すると(第3−1−4図)3の産業内非正規雇用比率変化要因により7割程度が説明可能である。これは90年以降のパートタイム比率について、「雇用動向調査」による分析結果と同程度となっている7
 ただし産業構造変化要因も2割程度の寄与を示しており、これは非正規雇用者比率の高いサービス産業の比重が高まるという経済のサービス化の動きを反映したものとみられる。

●規制緩和は非正規雇用比率を高めた一要因
 OECDによれば、1990年代を通じて、日本を含む非正規雇用の規制が正規雇用に比べて大きく緩和された国々において、非正規雇用が急速に拡大したことが示されている。
 雇用に関する規制の程度については、OECDは、先進諸国の「従業員を解雇する際の法律・慣習(EPL8)上の厳しさ」を数値化した指標9を示している。OECDは、正規雇用者、非正規雇用者別にこの数値を示しており、この数字が大きいほど、当該雇用者の解雇規制が強い、すなわち保護度合いが強いということになる。日本について、この数字をみると(第3−1−5図(1))、日本では80年半ば以降、正規雇用についてはEPLが変化しておらず、保護度合いが変化していないことを示している。一方、非正規雇用については、80年半ば以降、EPLが低下しており、保護される度合いが小さくなっていることが分かる。この結果、正規雇用と非正規雇用それぞれのEPLの差でみると、日本は、80年代後半以降、大きくなっている。OECD諸国の国際比較においても、90年後半に12位であったが、2000年代に入って、6位となっている。(付表3−2)。OECDは、この正規雇用と非正規雇用のEPLの差が大きくなるほど、非正規雇用比率が高まるという因果関係を示している10
 日本の非正規雇用のEPLが低下しているのは、労働者派遣事業の規制緩和による影響を織り込んだことによるものとされている。我が国の非正規雇用が増加を続けるなか、派遣社員比率も上昇している(第3−1−5図(2))ことから、規制緩和が非正規雇用比率を高めた一要因になったとみられる。

●非正規雇用の活用は人件費を押下げ
 企業の意識をみると、人件費の削減や雇用調整という目的で非正規雇用を活用している動きが強まっている。企業側の意識を、厚生労働省の調査でみると、非正規雇用を増加させた理由として人件費の節約をあげる企業の割合は、直近でも調査対象企業の約半数に及ぶ(第3−1−6図)
 このように、人件費の削減を主な目的として、企業が非正規雇用の活用を行ったことは労働分配率の低下につながった。労働分配率の推移を要因分解してみると、2001年以降、賃金要因は、労働分配率を押し下げる方向に働いている(第3−1−7図(1))。この賃金要因を詳しくみるために、定期給与の動きを、一般(フルタイム)労働者、パートタイム労働者の賃金の変動要因とパートタイム比率に分解してみると、パートタイム比率の高まりによる賃金押下げ寄与が大きかったことが分かる(第3−1−7図(2))。パートタイム比率の高まりは、相対的に賃金水準の低いパートタイム労働者増加により、全体の賃金水準が押し下げる方向に働くことになり、この効果が一貫して継続していたことを示している。ただし、2001年前後においては、正規雇用者を含むフルタイム労働者の定期給与も押下げに働いており、賃金引き下げ局面を経験したことを示している。最近においては、パートタイム比率による賃金押下げの寄与がみられなくなっており、企業による人件費削減が一巡したことをうかがわせている。

●非正規雇用者は女性や高齢者を中心に現在の就業形態を続けたいとする割合が高い
 非正規雇用者の現在の雇用形態についての意識をみると、女性や高年齢層で、現在の就業形態を続けたいとする割合が高くなっている。厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、2003年で全体の65%が「現在の就業形態を続けたい」と回答している(第3−1−8図(1))。これを男女別にみると、男性では57%、女性では69%となっており、年齢別には、60歳以上で8割強が現在の状況を続けたいとしている。女性が8割程度を占めている30歳代以上は年齢が高くなるほど現在の就業形態を続けたいと回答している。11 12

●若年層では正規雇用者を希望する非正規雇用者が多い
 一方、若年層の非正規雇用者については、現在の就業形態から変わりたいとしている者が多く、その多くが正規雇用者を希望していることも同調査から確認できる。若年層で、「現在の就業形態を続けたい」としているのは、10歳代で約半数、20歳代では約4割となっており、30歳代以上より低くなっている。これらの者はほとんどが正規雇用に変わりたいと希望している。
 これを雇用形態別にみると、派遣社員や契約社員で、「現在の就業形態から変わりたい」とする者がパートタイム労働者に比して高くなっている(第3−1−8図(2))

●非正規雇用者は昇進・昇給の機会が乏しい
 若年層では非正規雇用という形態を受け入れていない傾向がある背景としては、正規雇用者と比べた場合の非正規雇用者の不利な条件があるとみられる。
 非正規雇用者については、昇進・昇給の機会が乏しいと考えられることがある。厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、正規雇用者に対しては、昇進・昇格の制度を6割近くの企業が整備しているのに対して、非正規雇用者に対しては、契約社員に対しても2割程度で、他の形態については、それ以下の割合の企業でしか適用していない(第3−1−9図)。こうした状況は、将来の所得などの見通しを立てることが困難であるという点で、若年層にとっては懸念材料となる。

●企業は定着性が低い非正規雇用者の人材育成に対して消極的
 人材育成の面でも正規雇用者と非正規雇用者では差がある。
 内閣府が実施した「企業における人材育成に関するアンケート調査」13では企業の人材育成に対する考え方などを調査している。生産性の向上という観点から人材育成においてどういった層を重視するかという質問の結果をみると、現場のリーダー、監督者や現場の正規雇用者、現場責任者の順に割合が高くなっている一方で、現場の非正規雇用者の人材育成が重要であるという回答は極めて少ない(第3−1−10図)。正規雇用者と非正規雇用者の仕事内容が異なるため職業教育訓練の必要性が異なっている可能性があることなどにも留意する必要があるものの、企業は非正規雇用者の人材育成をあまり重視していないという傾向が伺われる。
 この背景としては、非正規雇用者の定着性が低いという状況があると考えられる。同じく内閣府調査によると、非正規雇用者を雇用する際の問題として、多くの企業が定着性を挙げている(第3−1−11図)。企業が費用をかけて職業教育訓練投資を行ったとしてもその従業員が離職してしまうと職業教育訓練投資は無駄になってしまう。非正規雇用者の増加は企業における職業教育訓練投資の在り方に影響を与えている可能性もある。

●雇用の多様化の今後の見通し
 景気回復が長期化するなか、リストラによる人件費削減を目的にした非正規雇用増加圧力は弱まっている。一部の企業では景気回復に伴う労働市場の引き締まりに対応する形で正規雇用者を増加させようとする動きも出てきている14
 今後の正規・非正規雇用の方針について、最近(2005年初時点)の企業の考えを尋ねている(独)労働政策研究・研修機構の調査をみる(第3−1−12図)と、正規雇用者はこの3年間で減少したと回答した企業が、増加ないし現状維持となったと回答した企業を大幅に上回っていた。しかし、今後については、正規雇用を増加ないし現状維持させると回答する企業が、減少させるという企業より多くなっている。一方、非正規雇用者については、増加ないし現状維持と回答した企業は、これまで3年間の実績及び今後3年間の見通しでほとんど違いがない。しかし、増加ペースは、今後3年間で大きく鈍化すると考えている15。このように、非正規雇用増加については、経済のグローバル化や情報化の進展など構造変化の要因もあり16、今後も活用は続くものの、正規雇用の回復も期待できるような状況となってきている。
 既にみたように家計側についても、女性や高齢者層といった非正規雇用という形態を受け入れる層が存在している。その一方、将来に向けて人間力を強化すべき時期にある若年層にとっては非正規雇用という形態は必ずしも満足すべき状況ではない。将来に向けて正規雇用回復の兆しがみられるものの、若年層のおかれた厳しい状況について多様な視点からの検討が必要と考えられる。


2 厳しい若年雇用情勢


●改善しつつあるものの依然高水準にある若年失業率
 若年層の失業率をみると、90年代半ばから急速に高まり、15歳から24歳は2003年に10.1%、25歳から34歳は2002年に6.4%とそれぞれピークをつけた。その後低下に転じたものの、2005年は15歳から24歳は8.7%、25歳から34歳までは5.6%と依然、全体の失業率(4.4%)に比して高水準で推移しており、若年層の雇用情勢は厳しい状況にある(第3−1−13図)
 これを男女別にみると、男女ともに15歳から34歳はピーク(男性は2003年、女性は2002年)から1〜2%ポイント程度改善しているものの、全体の失業率の水準よりは高くなっている。特に男子の15〜24歳の層が依然10%近くの失業率となっている(付図3−3)
 なお、長期失業者数をみると、全体でみても、年齢階層別でみても低下している。ただし依然として25歳から34歳の若年層の長期失業者が最も多くなっており、長期失業者全体に占める割合は3割前後で推移している。

●若年層の失業率は構造的要因により高止まり
 こうした若年層の失業率の高止まりの状況を年齢別のUV曲線を用いた分析で構造要因と景気循環要因に分解してみる。結果を見ると、90年代後半以降については、主に構造的要因により若年層の失業率が上昇している(第3−1−14図)。こうした結果は、若年層における失業率の上昇は、景気の影響を受けた面もあるものの、基本的には構造的失業率の上昇によるものであることを示している。

●フリーターなど若年の非正規雇用者やニートの動き
 若年の失業率が高くなっている背景としては、先に述べたような若年失業が長期化していることや、一般に定着率が低い非正規雇用の比率が高くなっていることなどがあげられる。
 若年層の非正規雇用者及びその希望者は引き続き増加傾向にある。15歳から34歳のパート・アルバイト及びその希望者(以下、フリーター17という)をみると、05年には201万人となっている(第3−1−15図)。05年は前年に比べると、13万人減少しており、2年連続の減少となった。ただし、パート・アルバイトに派遣社員や契約社員等を加えた非正規雇用者及びその希望者をみると、05年は360万人となっており、前年に比べると増加している。この両方の動きは、非正規雇用のうち、フリーター以外の派遣社員や契約社員等及びその希望者が05年も引き続き増加していることが若年の非正規雇用者及びその希望者を増加させている可能性があることを示している。
 一方、非労働力人口のうち、年齢15歳から34歳の者で、かつ、家事・通学をしていない者(ニート)については、改善の動きはみられない。厚生労働省による集計によると、ニートは、このところは4年連続で横ばいとなっているが、90年代初め頃からみると93年の40万人から、05年には64万人と増加している18。ニートは、労働市場に参加している若年の失業者と比較しても無業期間が長くなっており19、その増加は、労働市場に参加していない点、あるいは職業能力開発との関係で懸念されるところである。

●若年層は希望する仕事がなく失業している可能性も
 「労働力調査」を分析すると、若年層の構造的失業率の高まりには、最近では正規雇用志向の有無とは無関係に、本人が希望する仕事がないことを理由として失業している者の増加が関係している可能性がある。
 失業者が仕事につけない理由を年齢階層別でみると、15〜34歳では「希望する仕事がない」とする者が99年以降増加し、比較的高水準となっている(第3−1−16図)。若年を中心に「希望する仕事がない」といった理由による失業は、「条件にこだわらないが仕事がない」という循環的な要因による失業に対し、構造的な要因によるものとみられる。
 このように意識が変容した原因の一つとして、若年失業者が正規雇用志向を高めたために、「希望する仕事がない」者が増加した可能性が考えられるものの、若年失業者が希望する雇用形態の内訳では、正規雇用を希望する割合は99年と比べ低下しており、こうした見方は否定される。若年層は雇用形態よりも、むしろ仕事の内容に「こだわり」があり、「希望する仕事がない」とする者が増加したと解釈することが可能と考えられる。
 このように失業構造の変容の背景には、若年層を中心として、雇用形態のミスマッチというものがあるものの、仕事の分野や内容のミスマッチが拡大したことも強く影響している可能性があると考えられる。

●フリーターなど非正規雇用からの離脱は困難化している
 フリーターをはじめとする若年の非正規雇用者が正規雇用者へ移行することは統計等からは近年より難しくなっているとみられる。フリーター数を年齢別にみると、15歳から24歳のフリーターは97年以降、100万人前後と水準に変化がみられないなか、その上の年齢階層である25歳から34歳については、97年の49万人から、2002年には91万人と倍近くになり、その後も高止まりして推移している(前掲第3−1−15図)。
 さらに、企業に対する調査結果によると、企業はフリーターを正規雇用として採用する場合、フリーター経験については、厳しい評価をしていることが示されている。厚生労働省の「雇用管理調査」によると、「マイナスに評価する」とする企業割合が3割である一方、「プラスに評価する」3%前後と、評価している企業はほとんどない。「マイナスに評価する」という理由についても、「根気がない」としている企業が8割近くとなっている一方、最近においては、「年齢相応の技能、知識がない」としている企業の割合が高まっている。さらに、30歳以上のフリーターに対しては、フリーターから正規雇用への登用に消極的との回答が多い結果になっている20(第3−1−17図)
 雇用者の就業状態の変遷について統計的に処理してみても、かつての若年層より、正規雇用への転換が難しくなっていることが示される。非正規雇用者からの離脱の困難さについて、今回内閣府で行なった家計アンケート21の結果から、サバイバル分析22という手法を用いて確認することができる。本調査では、幅広い年齢層の男女両方について、就業状態の変遷について質問をしている。これを用いて、初めて就いた雇用形態が非正規雇用の者が正規雇用になれない確率を計算すると、現在35歳以上と未満について、男女別にみる(第3−1−18図)と、正規雇用者になれない確率が男女とも現在35歳未満の方が1〜2割程度高くなっている。

●中高年齢層の無業者や親同居者が増加している
 最近の調査から、中年の無業者の比率が増加していることが明らかとなっている。これは、長期にわたった経済の低迷の影響が考えられる。
 90年代以降、中年の無業者23の動きについて集計をした内閣府の「青少年の就労に関する研究調査」によると、中年無業者(35歳から49歳の無業者と定義)は、当該年齢層の人口の3.7%を占めている。これは、92年の1.9%と比べて倍増している(第3−1−19図(1))。この内訳をみると、「求職型」無業者と、「非求職型」及び「非希望型」無業者が存在する。2002年の中年無業者数の内訳をみると、「求職型」無業者の増加は90年代以降一貫して上昇しているのに加え、2002年においては、「非求職型」及び「非希望型」無業者の比率も高まっている(無業者の内訳の定義については、脚注19参照)。
 親と同居しているとみられる中高年層も増加している。「就業構造基本調査」で親族と同居している中高年層の動きをみると、40歳代以上で右上がりの状況にある(第3−1−19図(2))
 このように、雇用情勢が厳しかった90年代を経た世代が、現在においては若年より上の世代となっても、就業することが困難な状況がうかがえるようになっている。したがって、こうした中高年層における動向をより注視するとともに、現在の若年層で厳しい雇用状況におかれている者が能力開発を行うことによってこれまでの中高年になった際の就業状況が再現されないよう、新たな政策が必要となっていると考えられる。

●今後の展望
 フリーターを含む若年の非正規雇用者については、中高年になっても非正規雇用にとどまる場合、所得面の損失は大きくなり、我が国経済に与える影響が懸念される。非正規雇用者に対する職業教育訓練への考え方については、前節でみたように、企業側の非正規雇用者への職業教育訓練機会の提供に関する意識は低いことから、特に職業教育訓練機会が必要とされる若年時において、非正規雇用になっている者が職業能力開発を行うことができない点は懸念される。先程みたように、フリーターからの離脱がさらに困難となっていること、現在のフリーターが将来の我が国の経済に与える影響も懸念される24
 労働者一人当たりの生涯賃金でみても、正規雇用とそれ以外、さらにパートと比較すると、格差があることが確認される(第3−1−20図(1))。マクロの影響として、仮に、若年の非正規雇用者(及びその希望者)の経済への影響を、正規雇用でないことによる所得逸失分として試算すると、現在の360万人の若年非正規雇用者(含む希望者)の影響は、6.2兆円(2005年価格、GDP比で1.2%程度)と試算される。これらの360万人のなかで、中年以降も非正規雇用者にとどまる確率を、現状と同様と仮定したうえで、正規雇用でないことによる将来的な所得の逸失額を試算すると、25歳から44歳になっている2015年においては4.7兆円(2005年価格、GDP比0.9%)程度、さらに35歳から54歳となっている2025年においては、4.2兆円(2005年価格、GDP比0.8%)程度と試算される(第3−1−20図(2))25
 フリーターは足元で減少してきているものの、引き続き200万人を超える水準にあり、何らかの対応が必要である。加えて、過去の厳しい雇用情勢の下で新卒正規採用が抑制された時期に新卒だった者については、将来的に厳しい状況におかれる可能性があるとみられ、こうした者に対しても非正規雇用から正規雇用への転換の機会を提供する施策が求められる(第4節参照)。


3 地域別雇用


●地域の雇用情勢には依然ばらつきがみられる
 地域の雇用情勢をみると、いずれの地域も改善がみられるものの、回復の状況にばらつきがみられる。2005年の地域ブロック別の完全失業率をみると、全国平均の4.4%に対して、近畿、九州、東北、北海道のブロックで全国平均を超えて、5%台となっている。直近の景気の谷である2002年と比べると、近畿で1.5%、南関東で1.1%の改善をみせたのをはじめ、他の地域でも、0%台半ばから1%ポイントに近い改善をみせている(第3−1−21図(1))
 各地域で雇用情勢に明確に改善がみられるものの、ばらつきも残されている。失業率でみた地域間格差の推移を失業率の変動係数26でみると、変動係数は長期的にはほぼ横ばいで推移している。足元でも一進一退で推移しており、明確な縮小トレンドはみられない(第3−1−21図(2))

●景気回復が長期化する中、地域の雇用情勢は引き続き課題
 97年から2002年にかけての地域別失業率の高まりは、就業率(労働力人口に占める就業者の比率)の低下が失業率の押上げに働く一方、一部に非労働力化が進むことにより失業率押上げ圧力を緩和する状況もみられた。しかし、2002年以降については、就業率が下げとどまるなか、非労働力率が引き続き緩やかに高まっている。この1年間についてみると、就業率上昇がすべての地域で失業率を押し下げており、雇用情勢の動向には変化がみられる(付図3−5)
 ただし、地域の雇用情勢に影響を及ぼす要因として考えられる労働力の年齢構成あるいは労働移動については変化がみられていない。今回の景気回復局面入り直後の2002年と直近の状況を比較すると、地域間の労働移動自体が小さいことに変化がなく、地域の失業率に影響を与える程度になっていない。(第3−1−22図)。若年人口比率が高い地域ほど失業率が高いことも変わっておらず、全国単位でみられる若年失業率の高さが地域別の失業率の状況にも反映されている。

コラム 7 ドイツにおける外国人労働者受入れに関する状況
 本節では、90年代後半以降の非正規雇用の増加といった雇用形態の多様化についてみてきた。一方で時期を同じくして外国人労働者も増加し続けた。不法残留数を除く外国人労働者をみると、95年の32万人から2003年には57万人となっている。この増加には、リストラによる人件費削減を目的として、外国人労働者が活用されてきたことも寄与しているものと考えられる27。こうしたリストラ圧力は弱まってきたものの、依然我が国における外国人労働者に関する議論は活発である。ここでは、受入れ開始から歴史が長いドイツにおける外国人労働者の短期的あるいは中長期的の影響等を概観する。

◇歴史的背景
 旧西ドイツでは55年のイタリアとの二国間協定を結び外国人労働者の受入れを試験的に開始していた。しかし61年のベルリンの壁の構築により、旧東ドイツからの人口流入がストップし、労働力人口が減少するという厳しい状況に直面していた。これに対処するために、二国間協定の対象国をスペイン、ポルトガルをはじめ、トルコまで拡大し、外国人労働者の受入れを進めた。60年代末には年間で100万人前後のトルコ人労働者の受入れが行われた。73年のオイルショックを皮切りに労働者の国外募集を停止するという基本方針が決定された。しかし外国人労働者の受入れを完全に停止することは現実的ではなく、例外規定により、専門・技術職などの職種の条件を定め、外国人労働者を受け入れてきた。東西ドイツ統一後は、東欧諸国との関係強化のためにこれらの国から二国間協定などにより労働者を受け入れている。一方、ITなど専門性の高い分野では、高度な人材確保のため、2000年にグリーンカードによるIT技術者向けの労働許可制度が導入された。

◇ドイツにおける外国人受入れに関する状況
 現在、ドイツでは約680万人の外国人が居住し、全人口に占める割合は8.2%に達している。戦後の高度経済成長期に人手不足解消のために受け入れたトルコからの大量の単純労働者がその後定住し、社会的統合も進まず、現在ではドイツ語が話せない2世、3世によるトルコ人社会が国内に多数形成されるなど、社会の不安定要因となっている。一方で、少子高齢化の進行により生産年齢人口の急激な減少が予想され、2000年の生産年齢人口(4,035万人)を40年後の2040年にも同水準を保つためには年間50万人の移民の受入れが必要という予測もあるなど、移民の受入れの是非や移民のドイツ社会への統合が大きな課題となっている。

◇新移民法の制定
 経済界からは高度な技術を有する外国人の受け入れの拡大要求が強まる一方、野党キリスト教民主/社会同盟(CDU/CSU)からは制度濫用者の規制厳格化も含めた「包括的立法」の必要性が訴えられるなど、移民問題をめぐる議論が活性化する中で、政府は2001年に新しい移民政策を検討するために政界、経済界、労働界及び人口・労働・外国人法の専門家など超党派で構成される移民委員会(ジュースムート委員会)を発足させ、新たな移民・外国人労働者政策について集中的な議論を行った。同委員会は2001年7月に報告書をまとめ、1外国人の受入れが国内の失業の削減と矛盾すべきでないこと、2外国人受入れが国内における教育及び訓練の努力を妨げてはならないこと、3外国人受入れは、経済全体の潜在的能力を高めるものでなければならないこと、4外国人の出身国の利害も考慮されなければならないこと、5経済的及び人口的理由から受け入れられる外国人も、社会と労働市場への統合が成功するように人選されなければならないこと、などを提言した。
 同報告を基に新移民法案が2001年8月に提出され、審議の末2002年3月に連邦議会及び連邦参議院で可決。2003年1月より施行される予定であった。しかし連邦参議院の議決方法が憲法裁判所で違憲とされ、その後与野党の度重なる調整を経て、2004年7月に可決した。新移民法の概要については、長期滞在する外国人・移民の社会への同化を一層推進するための政策を包括的に規定する一方で、ドイツ国内の失業者の就労を促進することを最優先とし、経済移民については、社会的需要の高い高度な技術や知識を有することを条件とし、その他については既存の二国間協定による受入れを除いて事実上閉ざす一方、経済競争力向上のため専門的・高資格労働者には期限なしの定住許可を与えるなど、選別的な移民の受入れを明確にした。外国人の自営業者についても、国内の雇用創出に貢献を条件に優遇された内容となっている。


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