第2節 官から民への様々な手法

今後少子高齢化が進む中で将来の政府の姿は「大きな政府」へと向かっていく可能性があるが、経済の活力を維持し、公的部門の大きさを持続可能な範囲にとどめるためには、現在の段階から「小さな政府」へ向けた改革を進めていかなければならない。そのためには、予算制度改革、社会保障制度改革、国と地方の関係の改革等が重要であるが、それに加え、「官から民へ」を徹底することで、民でできることは民に任せ、官は真に官が行う必要性がある業務を行っていくことが重要である。この節では、こうした「官から民へ」の改革について包括的に検討する。

1 官と民の新たな境界

 公共財の概念の変化

官による公的サービスの供給の古典的な根拠としては、(i)市場で価格付けのできない公共財であること(消費の不可分性・排除不能性)、(ii)市場で取引可能でも自然独占が生じる場合、(iii)外部経済がある財の提供といった点がある。加えて、所得分配・社会厚生上の配慮から、ユニバーサル・サービスの提供(一律料金で全国どこでもアクセス可能)が義務付けられた公共財も多い。しかしながら、現代ではこうした点は必ずしも供給主体が官であることが最適であることを保証するものではない。

まず、第一に、技術進歩等もあり、これまで自然独占と考えられてきた分野でも、新規参入によって競争が可能となっている。電気通信や電力など大規模な設備が必要とされる分野でも、そうしたボトルネックとなる設備へのアクセスを自由化すること等により、新規参入を可能にし、競争を促進することが可能である。実際に、NTTは民営化され、また電力分野でも官の規制が緩和され民間事業者間の競争が導入されている。

第二に、外部経済性についての判断やユニバーサル・サービスを行うことの是非については、時代の変化とともに社会的な必要性が変化している可能性を考慮する必要がある。特に、技術進歩によって代替的手段が発達し、また経済成長によって一人当たり所得が高い水準に達した現在にあっては、何を政策目的とすべきかは不断に見直していく必要がある。また、仮にユニバーサル・サービスを維持するとしても、官が直接供給するのではなく、それにかかる費用分だけを官が資金的に補助することにより、民の参入による競争促進と両立することができる。

第三に、市場での料金徴収が不可能な純粋公共財や引き続き官の関与が必要と判断された公的サービスでも、民との競争を導入し、その経験やノウハウを活用することによって効率性や住民の満足度を上げることが可能である。欧米で1990年代に発達した官民パートナーシップによる公共サービスの民間開放(PPP:Public Private Partnership)は、正にこうした考え方に基づくものである。PPPとは、国によって概念に違いもあるが、具体的には、官の関与が必要な分野でも、民間委託、PFI、独立行政法人化等の手法により、公的サービスの供給に競争原理と民間の経営ノウハウを導入する試みである。ただし、何でも民ならよいという訳ではなく、PPPの目指すところは、結果として供給主体が官になろうが民になろうが、投入した税金一単位当たりのアウトプットの価値を最大限に高めるということである。したがって、民の潜在的な参入の機会が増え、官と民の競争が生じることによって、官の効率性が民と同様の水準まで高まるならば、官が引き続き公的サービスを行うことを否定するものではない。

 市場化テストの意義

官と民の線引きがかつてのように必ずしも明確でない状況にある中で、「市場化テスト」は、官民競争入札によって直接効率性を比較することで、新たな官と民の役割分担を行うものである。具体的には、市場化テストでは、透明・中立・公正な競争条件の下、公共サービスの提供について、官民競争入札を実施し、価格と質の面で、より優れた主体が落札し、当該サービスを提供していくことになる。市場化テストの大きな特徴の一つは、従来はどの業務を民営化や業務委託に出すかについては基本的に官が判断するものであったのに対し、市場化テストでは、官が業務を行うためには、官民競争入札により、官が価格と質の面でより優れていることを示す必要があるということである。

これまで、我が国においては、官業のうち、施設の清掃や警備等の定型的な業務については民間に部分的に委託されている場合も多いものの、企画・立案も含めたコアとなる公共サービス分野については、その民間開放はほとんど進展していないとの指摘がある。このため、「規制改革・民間開放の推進に関する第1次答申」(2004年12月規制改革・民間開放推進会議)では、従来の部分的民間委託を超えて、包括的な公共サービスの民営化や民間譲渡等、官から民への事業移管を加速するための横断的手法として、市場化テストを適切に導入し、2005年度の試行的導入に続いて、2006年度から本格実施する必要があると提言しているところである。なお、市場化テストについては、第4節で詳しく論じる。

 「官から民へ」の政策手段とその選択

「官から民へ」移管すべき分野が決まると、次の段階では、実際にどのような手法で民へ移管するかが問題となる。具体的には、「官から民へ」の手法については、民営化(所有権移転)、業務委託、指定管理者制度、PFI、社会投資ファンド等がある(第2-2-1表15

これらの手法について、官の関与という観点から整理すると、社会投資ファンドの場合には、原則として官の役割は、一定の公益性が認められる事業提案に対して間接的支援を行うというものにとどまり、事業提案やファンドの運営自体は民に任せられる。民営化(所有権移転)の場合には、官の役割は、どの事業を対象とするか、制度設計をどうするかといった初期時点において大きいが、いったん民営化された後は、官の関与は小さくなる。PFI、指定管理者制度、業務委託においては、原則として民は官との契約・協定等に沿って、その範囲内で施設整備や管理を行うことになるが、指定管理者制度では、管理者に裁量が認められている。

一般に、民のアイデアや経験を十分に活かすという観点からは、官の関与は小さい方が望ましいが、他方で、一定の政策目標の達成が強く求められるような場合には、ある程度の官の関与が必要となる。例えば、所有権を完全に民に移転した場合に、社会的に望ましい水準のサービスが提供されないような場合(不十分な投資や行過ぎたコスト削減によりサービスの安全性や質が低下する場合等)には、民営化により所有権を全て民に移転するよりも、所有権の一部を官が維持したまま施設の運営権を民に与える手法(指定管理者制度等)を用い、官の関与によって公共サービスに求められる一定の水準を確保することが適当であろう。また、当該公共サービスが独占状態にあり、「官から民へ」移行した後も他の民間業者との競争が生じ得ないようなサービスについても、民営化によって所有権を民に移転するよりも、むしろ公設民営という形で、施設の運営などを競争入札によって民間業者に任せ、事業者選択の時点で競争が働くような形の方が効率的なサービス供給ができる可能性がある。また、こうした入札を一定期間ごとに行うこととすれば、継続的な効率化へのインセンティブが働くことになる。

ただし、指定管理者等の公設民営の場合でも、官の関与は必要最低限のものにとどめる必要があることはもちろん、業者選定や事業評価の過程において、透明・中立・公正な手続きによることが、質の高いサービスを効率的に供給するための大前提として極めて重要である。また、民のアイデアや経験を十分に活かすという観点からは、どのような事務事業を「官から民へ」移管すべきか選定していくかについても民の提案を反映させることが重要である。

2 「官から民へ」-事務事業の委託・PFI

 外部委託・PFIの現状

「官から民へ」の手法として最も一般的にとられている手法は、民の事業者に公的サービスの提供や施設の建設を委託することである。このうち、公的サービスの外部委託については、我が国でも定型的な業務を中心に幅広く行われている。総務省の調査(総務省(2004a))によると、地方公共団体の一般事務や施設運営事務のかなりの割合が外部委託されており、1998年と2003年を比べても、ほぼ全ての業務で委託の割合が上昇している(第2-2-2図)。

PFIは、公共施設等の設計・建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法である。1999年にPFI法が制定され、2005年5月末時点で197件のPFI事業の実施方針が公表されている(第2-2-3表)。分野別にみると、校舎や文化会館などの教育・文化施設、医療施設、廃棄物処理施設、及び庁舎などの公用施設が多いが、そのほか公園、刑務所などの案件もみられる。PFI手法の導入による経済効果については、これまでに入札が実施された案件についてはバリュー・フォー・マネー(官が事業を実施した場合の全事業期間を通じた費用とPFI事業として実施した場合の費用の差)でみて平均的に3割程度のコストの削減がみられる(第2-2-4図)。

 指定管理者制度の概要

既に述べたような定型的業務の委託のほかに、より包括的に公の施設の管理を外部に行わせる制度として、地方自治体における指定管理者制度がある。指定管理者制度は、2003年の地方自治法の改正により導入された制度で、従来の管理委託制度と比べると、管理を行わせる者の範囲についての制約が取り払われるととともに、管理についての裁量が大幅に拡大された。具体的には、従来の制度下では、公の施設の管理運営は、公共団体(土地改良区等)、公共的団体(農協、商工会、自治会等)、地方公共団体が2分の1以上を出資している法人等(いわゆる第3セクター等の外郭団体)に限定されていたが、指定管理者制度では、そうした制約は設けておらず、具体的な管理者を議会の議決を経て指定することとされている。このため、個人を除く、営利企業や特定非営利活動法人(NPO法人)、地域団体等にも公の施設の管理を行わせることが可能となった。また、従来の管理委託制度では、施設の設置者である地方公共団体が施設の管理権限を有し、施設の使用許可権限等は委任できなかったが、指定管理者制度の下では、施設の管理権限を指定管理者に委任して行使させることができる。このように、指定管理者制度の導入によって、民の経営ノウハウを活かして、住民サービスの向上と行政コストの削減を行えるような環境が整備された。

 指定管理者制度の導入状況

指定管理者制度の導入に伴い、従来の管理委託制度は廃止されたため、地方公共団体が直接管理をする場合を除いて、現に管理を委託している公の施設については、改正法の施行後3年以内(2006年9月1日まで)に指定管理者制度に移行する必要がある(ただし、施設の清掃、維持・補修等の個別の定型業務については、従来どおり民間との委託契約が可能)。このため、地方公共団体において指定管理者制度の導入が進んでいる。

総務省が2004年6月に行った調査(総務省2004b)によると、指定管理者制度を導入した団体の数は、都道府県が10団体(全体の21.3%)、指定都市が9団体(全体の69.2%)、市区町村が374団体(全体の12.0%)である(第2-2-5図)。施設の数では、1550施設となっているが、施設の内容別にみると、医療・社会福祉施設(35.4%)、文教施設(24.5%)、レクリエーション・スポーツ施設(22.7%)、基盤施設(8.8%)、産業振興施設(8.6%)といった割合になっている。施設の管理を代行する指定管理者の事業主体区分をみると、公共的団体(57.2%)が過半を占め、次いで財団法人(14.4%)が多くなっている。他方、株式会社(10.7%)、有限会社(2.7%)や、NPO団体(5.2%)もそれなりの数となっており、指定管理者制度の導入によって委任先が広がった効果がある程度みられる。なお、指定管理者の選定手続については、複数回答があるため団体数は重複計上されているものの、公募によらない選定を行ったとの回答があった団体は回答のうち50%以上となっている。

 民の活用による経済効果-指定管理者アンケート調査による分析

指定管理者制度の導入やPFI事業の増加に伴って、民間事業者が公的施設を包括的に管理する機会が広がっているが、こうした民の活用によって、実際に事業の効率性や提供されるサービスの質は改善しているのだろうか。そこで、内閣府では、委託調査により、2005年3月に、指定管理者として公的施設の管理・運営に携わる1461の事業者に対してアンケート調査を実施し(うち435事業者から回答を回収(回収率29.8%))、その調査結果を基に、制度導入前後で事業の効率性やサービスの質に変化があるか、また官と民の事業者主体別で違いがあるかといった点について統計的に分析を行った16。こうしたマイクロ・データを用いた政策的な分析には、在宅介護事業者について分析した例や、保育サービスについて分析した例等があり、手法としては一般的なものとなりつつあるが、指定管理者制度について分析を行うのは今回が初めてである17

調査の対象としては、指定管理者制度については前出の総務省調査を参考にして既に指定管理者として指定された事業者(以下、現事業者と略す)、及び比較のために指定管理者制度導入前に同じ施設を管理していた事業者(以下、前事業者と略す)について調査している(制度導入後も引き続き同じ事業者が管理している場合は、導入前については前事業者として、導入後は現事業者として分類)。

施設管理・運営サービスの質の評価において、それを直接観察することは困難なため、サービス評価のための幾つかの質問項目を設定し、それへの回答を得点化してその合計得点を求める点数評価アプローチを採用した。具体的な評価項目としては、顧客対応、サービス提供時間、利用者とのパートナーシップ、サービス内容の管理・維持、事故・緊急時対応、個人情報管理、施設保守・管理、職員管理、研修制度、事業の計画性・透明性、自己評価の実施といった項目について、それぞれさらに具体的な4つの評価項目を設定した(付注2-318。その上で、先行研究と同様に、各事業者主体別に計算されたサービス評価の得点について、前事業者と現事業者、及び官と民の間で統計的に有意な違いがあるかを調べた。さらに、サービスの質関数を推計することにより、様々な属性等を調整した上でも、前事業者と現事業者、及び官と民の間でサービスの質には違いがあるかを分析した。加えて、アンケート調査で回答のあった財務データを基に、費用関数を推計し、サービスの質の違いを調整した上でも、前事業者と現事業者、官と民の間に効率性の差があるかどうかを調べた。

 アンケート調査の主な結果

まず、回答のあった事業者の属性をみると、現事業者については、公的事業者が約半分で、民間営利事業者とNPO等民間非営利事業者がそれぞれ約4分の1ずつを占めている。前事業者については、約8割が公的事業者で、約2割が民間非営利事業者である。施設の種類としては、医療・福祉、教育・文化、レクリエーション施設がそれぞれ3割から2割程度の割合を占めている(前掲付注2-3)。

指定管理者制度導入によってどのようにパフォーマンスが変化したかを現事業者に自己評価してもらったところ、利用者のサービス満足度については4割以上が改善したと回答しており、経営の効率性についても3割以上が改善したと回答している(第2-2-6図)。また、利用者数・利用料金収入についても、2割の現事業者が利用者数・収入とも増加したと回答し、1割強が収入は横ばいだが利用者数は増加していると回答している。これを事業主体別にみると、利用者の満足度が増加したと回答した割合は、民間営利業者で約77%、民間非営利業者で約52%となっており、公的事業者の約43%を大きく上回っている。経営効率についても、民間営利業者の6割強、民間非営利業者の5割弱が改善していると回答したのに対し、公的事業者で改善したと回答したのは3割弱にとどまっている。利用者数・利用料金収入の動向についても、民間営利業者及び民間非営利業者の4割強が増加していると回答し、公的事業者の約26%を上回っている。

 官民のサービスの質の違い

以上では、調査への回答で示された事業者の自己評価についてみたが、ここでは、統計的手法を用いて、前事業者と現事業者、公的事業者・民間非営利業者(NPO等)・民間営利業者といった事業主体の違いにより、サービスの質や効率性に差があるかどうかを調べた。サービスの質を評価するために、既に述べたような評価項目について質問を行い、その回答結果に応じて、項目ごとに4点満点の点数をつけ、それを合計することでサービスの質に関する総合得点を各主体別に計算した(第2-2-7図、前掲付注2-3)。これを、前事業者と現事業者の比較でみると、公的事業者、民間非営利業者とも、指定管理者制度導入後において、サービスの質が向上しており、その差は統計的にも有意になっている。次に、制度導入後に施設管理・運営を行っている現事業者について、事業主体別の違いに注目すると、得点の高い順に、民間営利業者、公的事業者、民間非営利業者となり、統計的に違いを検証しても、5%水準で有意に異なるとの結果となっている。したがって、調査で提示された評価項目でみる限りは、民間営利業者のサービスの質が最も高い可能性が示唆された。個別の評価項目ごとにみても、ほとんどの項目において民間営利業者の得点は、公的事業者や民間非営利業者よりも高くなっているが、とりわけ「利用者への対応」、「サービス提供時間」、「利用者掘り起し努力」といった利用者の利便性向上や利用者数増加に資する項目や、「職員管理」、「研修制度」といった人員管理面で民間営利業者の得点が相対的に高くなっている。他方、「利用者とのパートナーシップ」に関する評価項目については、民間非営利業者の得点が最も高く、次いで民間営利業者、公的事業者の順になっている。このことは、NPO等が施設管理に参加することについても一定のメリットがあることが示唆されていると考えられる。

次に、計算されたサービスの質に関する総合得点を被説明変数とするサービスの質関数を推計し、施設の種類、利用者の特性、利用者数、職員数、立地環境(都市ダミー)といった属性を調整した上で、なお統計的に事業者主体別の差がみられるかどうかを調べた。推計結果によると、公的事業者及び民間非営利業者ダミーの係数はマイナスで有意となり、民間営利業者との比較では、公的事業者及び民間非営利業者のサービスの質が相対的に低いことが統計的にも示されている(民間営利業者のダミーをレファレンス変数として推計から除外したため、公的事業者及び民間非営利業者の係数は、民間営利事業者との相対的な差を示している)(第2-2-8表)。また、現事業者ダミーについてはプラスで有意となっており、前事業者と比べてサービスの質が高まっていることが示されている。

 サービスの効率性についての分析

アンケート調査による回答から得られた財務データを用いて、施設管理事業者の費用関数を推計した。被説明変数は支出総額であり、説明変数として、要素価格指標(人件費、一般管理費等)、産出指標(サービス時間、利用者数)を用い、サービスの質(サービス評価合計得点)及び施設属性(施設の種類者、利用者の特性、立地環境)を調整した上で、事業者主体によって効率性に違いがあるかどうかを調べた(第2-2-9表)。推計結果によると、現事業者ダミーの係数がマイナスで有意となっており、前事業者と比べて現事業者の方が効率的であるということが示されている。他方、公的事業者及び民間非営利事業者ダミーについては統計的に有意とならず、民間営利事業者と効率性の面では変わらないとの結果になっている。また、サービスの質については係数がプラスで有意となっていることから、高い質のサービスを提供するには、それなりにコストもかかることが示されている。このように、事業主体の違いにかかわらず、現事業者の効率性が全般に上昇していることは、制度導入によってある程度事業者間の競争が働いていることを示すものと考えられる。

 調査結果からみる指定管理者制度導入の効果

以上のような結果からみると、指定管理者制度によって、施設の管理が民間事業者に開放されたことにより、施設運営・管理について、サービスの質の向上と効率化が同時に図られていると考えられる。特に、今回の調査で明らかになった公的事業者に対する民間営利業者の利点としては、(i)利用者の利便性向上という面で、サービス時間の延長、利用者の意見・苦情の吸い上げ、サービス内容の均質化を図るといった努力を行っていること、(ii)人事評価や能力給の採用、内部・外部を含めた高い研修参加率による職員教育といった職員管理を徹底していること等が挙げられる。他方、NPO等の民間非営利業者についても、住民や利用者の施設運営・経営への参加を高め、利用者とのパートナーシップを推進するという面で、公的事業者や民間営利業者にない貢献をしているものと考えられる。

以上のような官と民のパフォーマンスの差は、基本的には、民間事業者は、「事勿れ主義的」な官と比べて、営利事業者という性格による顧客志向が強く働いている点から生じていると考えられる。また、民間非営利団体についても、住民の視点に立って委託業務の効果的運営を行うという意識が働いていると考えられる。こうしたことに加えて、管理事業者として競争原理がどの程度強く働いているかといった違いや、契約面での裁量の範囲の違いも官民のパフォーマンスに反映しているものと考えられる。具体的には、事業者の選定の過程において、民間営利業者の6割以上が公募によるプロポーザル・コンペを経て選定されているのに対し、公的事業者の6割以上、民間非営利業者の半分弱が随意契約(任意に特定の相手方を選択して契約)によって選定されており、後者において十分な競争圧力が働いていないのではないかという懸念がある(第2-2-10図)。また、事業者の裁量の範囲についても、サービスの改善、利用料金の改定、人員配置・採用、施設長の選任、施設補修・追加投資、資金調達と全ての項目にわたって、民間営利業者の方が、公的事業者や民間非営利業者よりも高くなっている。これは、公的事業者の場合には、従来からの継続で管理者となっている場合も多いことから、そのような場合には指定管理者制度に切り替わったとしても、従来からの契約内容があまり変わっていない可能性も考えられる。

 指定管理者制度の運用に係る課題

指定管理者導入後まだ間もないこともあり、制度運用上の課題も残されている。今回の調査で制度上の課題として指定管理者となった民間法人等から指摘されている事項には、大きく分けて、指定管理者の選考に関する課題、契約の内容に関する課題、制度全般に関する課題があった(第2-2-11表)。

まず、指定管理者の選考に関しては、そもそも公募によらない指定によるケースが多いことに加え、公募といっても選考過程が不透明であったり、公募期間が極めて短いために結果的に既存の業者が有利となってしまう場合があることが指摘されている。また、選考基準において価格面が優先され過ぎ、選考する地方公共団体に十分な知見がない場合には、結果として十分なサービス提供能力のない業者が受託してしまう懸念があるとの指摘もあった。

協定の内容については、料金設定等を含めて指定管理者の自由裁量がまだ小さいとの指摘が多かった。期間については、5年程度あれば十分との意見もあった一方、あまりに期間が短い場合、質の高い職員の確保が難しいとの指摘もあった。また、施設の補修にかかる経費など、地方公共団体と指定管理者の間でどちらが負担するか曖昧となっているとの指摘もあった。

制度全般にかかるような課題としては、コスト削減により職員の配置が不十分となり、結果として質の高いサービス提供が困難であるとの意見や、コスト削減の過程で職員の雇用問題が生じているといった雇用に関する意見が多くみられた。

指定管理者の事業者から公共の側への要望事項としては、そもそも公共の側で、単に形式的に制度を導入するということではなく、施設委託によって質の高いサービスを安価に実現するといった本来の目的意識を改めて確認する必要を指摘する回答がみられた。また、選考過程における審査基準の明確化や、より広く公募を行うこと等、選考過程を客観化、透明化していくことを求める回答もみられた。

3 「官から民へ」-民営化(所有権移転型)

 官から民への組織変更による利点

官が所有する企業や事業を民間セクターに売却し、サービスの供給責任を民にゆだねるのが所有権移転型の民営化である。我が国でも、後に述べるような日本電信電話(NTT)、旅客鉄道株式会社等(JR)、日本たばこ産業(JT)の例がある。所有権移転の方法については、一般投資家に広く売却する株式公開手法、特定の投資家や企業に売却する方法、民営化される企業の経営陣や従業員に売却する手法等があるが、我が国では、第一の株式公開手法が一般的である。所有権移転型の民営化の場合、外部委託等と違って公的サービスを供給する主体の組織形態の変更を伴うものであり、その成否は、民間企業としての組織が官のそれと比べてどの程度効率的に機能するか、民営化によって他の民間企業との競争原理がどの程度適切に働くかに依存する。

一般に、民間企業においては、株主による議決権行使や取締役の派遣といった株主権行使と、株の売却という市場規律を通じて経営者に規律づけと動機づけのメカニズムが働き、その結果、効率的な成果が達成されると考えられる。公的部門においても、民間企業と同様な動機づけが行われれば効率化が可能であるが、実際には、経営努力によって公的部門の効率性が上昇し金銭的な利益が大きくなっても、それが政府あるいは国民全般に広く薄く帰着するだけであれば、経営者の動機づけは強いものにならない可能性が高い。また、公的部門の民営化によって、その財市場に競争原理が働くことになれば、消費者の選択の幅が広がり、企業側にもイノベーションに向けての動機づけが強く働くことになる19。したがって、民営化によって、行き過ぎた費用削減が社会的な悪影響をもたらすといった弊害が小さいならば、民営化はイノベーションを起こし、経済全体の効率性を向上させていくという利点があると考えられる。

(1)各国における民営化の成果

 OECD諸国の民営化の状況

世界的に、1980年代以降、公的企業の民営化が広く行われてきたが、具体的な民営化のメリットとしては、単に売却収入や税金の増収といった財政面の効果だけでなく、民のガバナンスによる生産性・収益率の上昇、競争の促進による料金の低下とサービスの質の向上による消費者余剰の増加、資本市場の深化といったものがある。

OECDの調査によると、1990年から2001年までにOECD 諸国で行われた公的企業の民営化から得られた金額は約6,500億米ドル(約68兆円)にのぼるが、傾向的には、1990年代後半をピークに減少している20第2-2-12図(a))。これは、電気通信や電力・ガスなどの大型の民営化案件が多くの国でほぼ一巡したためと考えられる。分野別でみると、最も大きな金額にのぼっているのは電気通信で、全体の4割程度を占め、次いで、電力・ガスなどのエネルギー部門が14%、金融部門が13%、製造業が11%、運輸部門が10%となっている(第2-2-12図(b))。

 各国における民営化の経済的効果

民営化が企業の収益性、生産性、投資等に与える影響については、既存の研究によると、民営化前と比べて民営化後の方がいずれも改善する傾向がみられるとするものが多い。例えば、41カ国200社あまりについて調べた研究によると、民営化後の3年間の平均パフォーマンスを民営化前3年間の平均と比べると、7割弱の企業で収益性(売上高利益率)が上昇し、8割の企業で従業員一人当たりの売上げで計った生産性が上昇し、6割の企業で投資率の上昇がみられる(第2-2-13図))21。また、雇用者数については半分程度の企業で減少したが、それは民営化前と後で統計的に有意な差とはなっていないのに対し、実質売上高の増加は1%水準で統計的に有意であることから、民営化後の生産性の上昇については、売上高の増加による寄与が大きいと考えられる。

公的企業の上場が資本市場に与える影響についてみるために、主要国における主な個別の民営化企業の上場株式額とその国の資本市場全体の規模を比べると、国営の電気通信企業等大型の民営化案件の場合には主要先進国の場合でも1社で5%から10%、途上国や中所得国の場合だと1社で15%以上にものぼるケースがみられる(付表2-4)。こうしたことから、国営企業の民営化により、各国で資本市場の厚みが増す効果があったと考えられる。

(2)日本における民営化の事例の研究

 民営化の目的とその背景

以下では、民営化された国有企業の代表的な例として、日本電信電話(NTT)、旅客鉄道株式会社等(JR)、日本たばこ産業(JT)のケースを取り上げ、民営化された背景、民営化後の経営状況等について詳しく検討する。

まず、これらの企業の民営化が検討されるに至った経緯や民営化が目指した目的についてみると、NTT、JR、JTの民営化については、いずれも1980年代に企画されたものではあるが、事情はそれぞれの場合で大きく異なるものであった(第2-2-14表)。

NTTについては、電気通信技術の革新により他の先進諸国では民間事業者が電気通信分野に参入してくるという状況の中で、日本においてもそれまで電電公社が独占していた電気通信市場に競争を導入するということが大前提にあった。民間事業者との競争が導入された場合、公社という形態では、予算の統制、投資の制限、資金運用の制限など様々な制約が存在するため、民間との競争を行う経営の自由度がほとんどなく、それを民営化によってNTTに与える必要があった。

JRについては、その低収益体質とそれによる巨額の累積債務問題の解決が最大の課題であった。JRは、当時、年間約6千億円の補助金を支給されても、なお年間1兆円程度の赤字を計上し、民営化された1987年時点で、赤字借入れ、設備投資に伴う借入れ、鉄道建設公団債務、年金負担等を全て含めると37兆円にものぼっていた。当時の臨時行政調査会や国鉄再建監理委員会によって、こうした非効率性は、公社制の下における国の過大な関与、輸送構造変化への対応の遅れ、全国一元的組織による地域間依存の構造と画一的運営の弊害等によるものであると指摘され、こうした状態を解消するため、分割・民営化による自立経営が目指された。

JTについては、諸外国からの市場開放要請等が民営化の契機となった。従来、たばこは専売制であり、国内では日本専売公社が独占的に販売していたが、諸外国からの市場開放要請に適切に対応するため、専売制を廃止し、国内市場での競争条件を整備するとともに、経営の一層の効率化を図るとの考え方に立ち、民営化することとされた。

 民営化後の経済的効果

NTT、JR、JTともに、民営化に至った背景は異なるが、民営化後の会社の効率性、収益性については大幅な改善がみられる。

まず、民営化後の一人当たり経常利益及び生産性の変化をみると、3社とも民営化前に比べて著しい改善がみられる(第2-2-15図)。従業員一人当たり経常利益については、民営化初年度の水準と現在を比べると、NTT(連結ベース)で約8倍(2004年度)、JTが約5.5倍(2004年度)、JRが約3倍(2002年度)となっている。生産性についても、同じ期間について、民営化当初の水準の1.5倍から3倍程度まで増加している。こうした一人当たりでみた収益率や生産性の変化は、一つには、売上高の増加により規模の経済性が働いたことによる面と、もう一つには人員の適正化を行ったことによる面がある(第2-2-16図)。売上高については、民営化当初と比べ、JR、JTともに横ばいないし微増で推移しているのに対し、NTTの場合には、固定電話から移動通信へという歴史的な技術転換が行われる中で、売上高は2倍強まで増加しており、これがNTTグループ全体としての収益や生産性の向上に大きく寄与している。他方、従業員数については、NTT、JRともに民営化当初と比べて3割程度減少し、また、JTでは民営化時の半分以下まで減少しており、こうしたリストラ効果が一人当たり利益や生産性の向上に寄与している面がある。

これら旧3公社の民営化が資本市場に与えた影響も大きい。法律により、政府はNTT株の3分の1以上を保有する義務を有している。JTについては、JT成立時に政府に無償譲渡されたJT株式総数の2分の1以上かつJT発行済株式総数の3分の1超の株式の保有が義務づけられている。これまでのところ、NTT、JR(本州3社)、JTの市中株式売却額はそれぞれ累計で約4兆円、約4兆円、約1兆円にのぼっている。現時点において、NTT、JR(本州3社)、JTの政府等保有分を除く株式総額は、資本市場のそれぞれ1.1%、1.2%、0.3%を占めており、資本市場の裾野の拡大に貢献している22第2-2-17図)。また、NTT株及びJT株の場合には売却収入は国債償還財源に、JR株については旧国鉄職員の年金費用等の支払いに充てられている。これら5社の株価の上場以来の推移を、日経平均とのかい離度でみると、バブル期に上場したNTTの場合を除いて、おおむね日経平均を上回って推移しており、民営化によって収益力が強化されていると考えられる(第2-2-18図)。

 民営化後の組織・制度設計

民営化が、期待されたとおりに生産性の上昇や収益の増加に結び付くためには、既に述べたように、民営化された組織が如何に効率的であるか、また市場の競争原理がどの程度働くかに大きく依存している。NTT、JR、JTの場合には、民営化後の組織・制度設計に大きな違いがあるが(NTTの場合は、加入者回線網を有するNTT東西とそれ以外の会社(ドコモ、コミュニケーションズ、データ)へ分割、JRの場合は貨物と地域ごとの旅客会社に分割、JTの場合には組織分割なし)、それぞれの会社が置かれた他の民間企業との競争状況や、高収益部門から低収益部門への内部補助の程度などを勘案すると、それぞれの状況に応じて適切な判断がなされたものであったと考えられる。

NTTの場合に、独占的な加入者回線網とそれ以外のサービスを行う会社の分離が行われたのは、長距離通信等の事業を行う他の民間事業者もNTT東西の持つ回線網に依存しなければ事業を遂行することが困難であり、仮に既存の独占事業者であるNTT東西によってアクセスについて差別的に運用されるようなことがあれば(例えば高い利用料金が必要とされるなど)、成長分野への新規参入が阻害されること等が懸念されるといった電気通信事業の特徴から生じる競争上の不公平を解消するためである。ただし、1985年のNTT民営化当初から、こうした組織的な分離が行われた訳ではなく、「公平、公正、内外無差別」を原則とした接続ルールの制定等の制度導入という過程を経て、最終的に地域通信と長距離通信が組織分離されたのは1999年である(付図2-5)。なお、最近の電気通信技術の進歩により、既存の回線網に依存しないブロードバンド・ネットワーク(IP網)が発達したことにともない、2003年の改正電気通信事業法では、回線網のようなボトルネック施設の保有の有無等に基づく従来の「第一種」、「第二種」という事業者区分が廃止されるに至っている。

JRの場合に地域分割が行われたのは、黒字路線から赤字路線への内部補助によって赤字路線における効率化のインセンティブが阻害されていたことを是正するとともに、それぞれの地域の実情に見合った賃金設定などを可能にすることにより、効率化を促進するためであった。例えば、民営化前の1985年時点において、特に地方交通線(142線)は、輸送量では全体の4%を占めるに過ぎないものの、その損失は特別交付金698億円の助成後においてもなお6千億円あまりに達し、国鉄全体の損失の3分の1を占めていた(第2-2-19表)。こうした赤字路線については、民営化後の1990年までに、45線がバス輸送に転換され、38線が第三セクター等の鉄道輸送に転換された。他方、地域分割によって各会社間の収益性に格差が生じることとなったが、この点については、本州のJR3社については、新幹線保有機構に対するリース料の設定に差をつける(例えば収益性の高いJR東海には高いリース料を設定)といったことで対処された。また、北海道、四国、九州の3社については、旧国鉄からの債務の継承をゼロとした上で、国鉄の負担により置かれた経営安定基金の運用益によって損失が賄われることとなった。なお、37兆円にものぼる国鉄長期債務のうち、承継法人に承継されない25.5兆円については日本国有鉄道清算事業団によって処理されることとなり、その解散時には、債務残高28.3兆円のうち24.1兆円は国が負担し、残りの旧国鉄職員の年金費用等に係る債務は日本鉄道建設公団(現:独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)及びJRに継承された(付図2-6)。

JTについては、国産葉たばこ問題を抱えた状況のもとで、国際競争力を確保するため、「製造たばこ」の製造を独占をさせている。海外勢の市場参入によって、国内たばこ市場におけるJTのシェアはほぼ一貫して低下している(1985年度の97.6%から2003年度の72.9%へ低下(第2-2-20図))が、社員数の大幅削減等の合理化や工場集約等組織の効率化等により、経常利益は増加の傾向にある。また、海外での積極的な事業展開を行ったほか、国内でも、たばこ事業以外の分野への積極的な進出を行った。なお、世界のたばこ市場におけるJTグループのシェアは、RJR(アメリカを除く)の買収等によって、1985年の6.9%から2002年には8.2%へと上昇している。

 ユニバーサル・サービスの設計

ユニバーサル・サービス義務(USO)とは、一般に、政府の関与が不可欠とされる財・サービスについて、全国の全ての利用者に、負担可能な価格で提供するものと考えられている。一般に、こうしたユニバーサル・サービスが政府等によって実施される背景には、公共財の消費が外部効果を持っていること(例えば、上下水道の普及は衛生の改善を通じて社会全体の厚生を上昇させる効果を持つ)、公共財はメリット財と考えられていること(社会通念として全ての人が当該公共財を消費する権利を持つと考えられていること)、利用者の所得分配上の配慮が必要なこと等があると考えられている。ただし、具体的に何がユニバーサル・サービスの対象となるかは一義的には決まらない面もある23。ユニバーサル・サービス義務は、必ずしも公的主体によってのみ提供されるものではなく、実際に、民営化されたNTTについては、民営化後もユニバーサル・サービスが義務付けられている。JRについても、ユニバーサル・サービス義務はないものの、実際には、地域コミュニティからの要請もあって赤字路線であっても存続している線も存在している。

ただし、営利法人である民間企業がユニバーサル・サービス義務を負う場合には、それによって生じる追加的な費用をどのように埋め合わせるかが大きな問題となる。一般に、ユニバーサル・サービスの費用を負担する方法として、(i)内部補助方式(独占的事業者が需要の高い地域の収益で高費用地域の費用を負担すること)による場合、(ii)アクセス・チャージ方式(高費用地域にサービスを提供する独占的事業者が新規参入事業者に対し接続料等の形で負担を求めること)による場合、(iii)ユニバーサル・サービス基金方式(原則全ての事業者の拠出により基金を設立し、高費用地域にサービスを提供する事業者に対しその費用を補助する方式)、(iv)直接補助方式(高費用地域の住民にバウチャー等の形で直接補助を与える方式)による場合がある。一般に、内部補助方式やアクセスチャージ方式は競争中立性に乏しく、他方、基金方式や(特に)直接補助方式では、実施に多大な費用がかかるという問題がある24

NTTの場合には、民営化後、まず長距離電話サービスに多くの新規参入があり市場競争が進展した結果、通信料金の低廉化が進んだ。加えて、市内電話サービスにおいても、新規事業参入者が採算性の高い都市部を中心に増加したことによって、従来NTTの内部相互補助によって賄われていたユニバーサル・サービスを維持することが困難になった。こうしたことを背景に、2002年には、NTT東西内における内部補助で賄えない部分については、新たに創設されたユニバーサル・サービス基金で補填する仕組みとなった。このユニバーサル・サービス基金は、各電気通信事業者の拠出によるもので、その対象となるのは、加入電話、公衆電話及び緊急通報からなる基礎的電気通信役務とされた。世界的にも、電気通信にかかるユニバーサル・サービスについては、基金方式を採用する国が増えている(第2-2-21表)。

(3)郵政民営化の展望

 郵政民営化の背景

1980年代にNTT、JR、JT等が民営化された後、1990年代には民営化の動きが一服したが、2000年代に入って、再び民営化の動きが活発になっている。具体的には、成田空港の民営化、道路公団等特殊法人の民営化等に加え、現在、郵政民営化に向けた議論が行われているところである。

特に、郵政民営化については、「官から民へ」の改革により経済の再生と効率的な政府の実現を効果的に進めていくための最重要課題とされている。具体的には、郵政民営化は、郵便貯金や簡易保険として郵便局を通じて集められた資金について、民による経営判断によって民間部門で効率的に使われるような仕組みを作る上で重要であるとともに、約3割の国家公務員が民間人になり、見えない国民負担(法人税等及び預金保険料等を納めていない)を減らし、さらに政府が保有する株式が売却されれば、国庫に納められ財政再建につながるなど、小さな政府に貢献するものである。

また、郵政事業を取り巻く経営環境を考えると、こうした改革が行われない場合には、以下のような状況が生じる懸念もある。第一に、インターネットやEメールの普及など新たな伝達手段が発達するなかで、経営の自由度が縛られたままでは現在の郵政公社の収益環境が悪化し、将来的に郵政公社の独立採算による存続が困難となる懸念がある。第二に、民間金融部門が健全性を取り戻す中で、必ずしも競争条件が民間と平等でない郵貯・簡保の存在が大きなものにとどまり続けると、資金の流れが必要以上に公的部門に偏り経済活性化を阻害する懸念がある。第三に、拡大が見込まれる新規市場や国際市場等に進出するためには、公社制度の下では法律等による制約が大きく、迅速な判断のための経営の裁量が限られていることがある。

第一の観点に関連して、郵政3事業の現状をみると、Eメールの普及などにより郵便物数が年2%から3%ずつ減少し、郵便営業収入も低下していることに加え、郵貯の残高や簡保の契約数も減少している(第2-2-22図(a))。また、現在、郵便貯金事業の収入の6割強を占める財政融資資金からの預託金利息収入(預託金利は国債金利に0.2%上乗せされている)が、預託制度廃止後の経過期間が終わる2007年度で失われることも収益に大きく影響することが予想される(第2-2-22図(b)25。こうした既存の事業が厳しい環境にある中、公社という制約の残る枠組みの中では、新規事業の立ち上げ等が迅速に行えない可能性がある。

第二の資金循環の観点に関しては、1990年代において、民間金融機関が景気の低迷による資金需要の低下や不良債権処理によって、リスクを伴う貸出や運用を縮小させる中、資金運用、調達の両面で公的な資金の流れが相対的に大きくなった。資金運用面については、民間金融機関及び政策金融機関の総貸出に占める政策金融機関の貸出額の割合は1990年には約14%であったが、その後民間金融機関のリスク対応能力が低下するなかで政策金融が補完的な役割を果たしたこともあって、2003年には約20%となっている。また、資金調達面については家計部門の金融資産に占める郵便貯金及び国債等の形で公的部門に流れた資金の割合は1990年の14%(郵便貯金は13.1%)からピークの1998年には19.4%(郵便貯金は18.7%)まで上昇し、2003年には16.8%(郵便貯金は15.3%)となっている。このように、郵便貯金等の形で集められた公的な資金は日本の金融の中で大きな位置付けを占めている。郵便貯金、簡易生命保険で調達した資金が郵政民営化を通じて市場原理に基づき活用されるようになることは経済の活性化等に資するものと考えられる。

また、民間金融機関との競争条件の観点から、しばしば郵便貯金については、民間金融機関と比べて、預金保険料や法人税等が納めていないといった優位性が与えられていると指摘されているが、民営化後は、預金保険料や税負担は当然各会社によって支払われることになる。このうち、郵便貯金が仮に民間金融機関と同様の預金保険料を支払うとした場合の一つの目安として、2003年度末の郵便貯金残高227.4兆円に預金保険料の0.083%を乗じると約1900億円となる。

 郵政民営化の制度設計

今回閣議決定された郵政民営化関連法案のスキームについて、過去の民営化の例や諸外国の例と比較すると、以下のような特徴がある(第2-2-23表)。

民営化後の組織形態としては、JRのような地域分割型でなく、むしろNTTのような上下分離型(ネットワーク部分とそれを使用する事業との分割)であり、持ち株会社の下に、郵便局網を保有する窓口ネットワーク会社(郵便局株式会社)と、それを利用する形になる郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社に分割されることとなっている。こうした上下分離の利点は、競争政策上の観点からは、同じ窓口ネットワークを利用することになる郵便事業会社、郵便貯金会社、郵便保険会社の各事業の独立性を担保し、各事業間の取引の透明性を高めることにより他の民間企業との競争条件の均等化に資するものであるとともに、窓口ネットワークへの他の民間事業者のアクセスを可能にするという点で意義がある26。また、金融監督上の観点からは、自主運用に伴い厳しいリスク管理が求められる郵便貯金と、その他の事業との間のリスクを遮断するという目的がある。国際的には、このように郵便局網を独立させている例は、イギリスやオランダにみられる。

業務別に民営化後の姿をみると、郵便業務については、従前からの国内の業務範囲等に大きな変更はないが、郵便貯金・簡易保険については、民営化によって運用面等において自由度が段階的に高まることとなっている。郵便貯金・簡易保険は約340兆円という国際的にみても巨大な規模に達しているが、民営化後は、こうした資金が、市場メカニズムに即した形で、多様なチャネルを通じて流れることで、効率的な資源配分の達成に資することが目指されている27。現在でも、郵便貯金・簡保資金については公社による自主運用となっているが、公社のままでは国民負担の回避や民業との関係を考慮して運用範囲が制限されることになる。このため、民営化に際しては、民営化以前に預け入れられた定額貯金や簡易保険(この分は公社勘定と呼ばれ、定期性貯金等約150兆円、簡保資金約110兆円が含まれる予定)は、独立行政法人(郵便貯金・簡易生命保険管理機構)が継承し、引き続き安全資産で運用されることとなるが、公社勘定以外の資金(通常貯金等約50兆円)や新勘定については、民営化の進展に対応して段階的に貸付け等新たな資産運用が認められることになる。

また、郵便事業については、ユニバーサル・サービスが引き続き求められるほか、郵便局会社には、あまねく全国において利用されることを旨として、郵便局を設置することが義務づけられる。金融サービスについては、法律上は、地域住民の利便増進に資する業務として郵便局会社が営むことができるとされており、移行期間中は郵便銀行・郵便保険会社から郵便局会社への業務委託を担保する制度を設計することで、郵便局において預金・保険サービスが提供されることになる。また、郵便事業会社及び郵便局会社が行う社会・地域貢献業務(郵便事業株式会社の行う第3種・4種郵便等で一定の条件を満たすもの及び郵便局株式会社の行う地域住民の利便増進業務で一定の条件を満たすもの等)に対して、日本郵政株式会社の収益等の一部を積み立てた社会・地域貢献基金から資金交付を行うこととしている。他の国の例をみると、郵便事業にかかるユニバーサル・サービスの確保については、国あるいは独占的事業者に義務を課す一方、一定の重量や金額以下の書状送達に独占留保分野を残す形で対応している場合が多いが(EU等)、ユニバーサル・サービスに財政的な支援を与える場合(基金等の設立を含む)もみられる。また、過去の収益等を積み立てた基金によって、過疎地における郵便局網の維持を行っているケースもみられる28

4 「官から民へ」-資金の流れの変化と政策金融

(1)公的部門の改革と今後の資金の流れの展望

 公的部門の資金調達

財政投融資改革、郵政民営化、特殊法人改革等により、公的部門の資金調達の方法が大きく変わることにより、民間を含めた資金の流れは今後どのように変化していくだろうか。まず、公的部門の資金調達といった場合に、大きく2つの部門の資金調達がある。一つは、国や地方公共団体の資金調達であり、国債、地方債の発行等によって資金調達が行われている。もう一つは、財政投融資の出口である政策金融を含む特殊法人等の資金調達であり、現在は、各団体が個別に発行する財投機関債と、財政投融資制度全体として発行する財投債によってまかなわれている。

こうした2つの部門の、資金調達の状況について、資金循環勘定をみると、国債、地方債、財投債、財投機関債、財政融資資金への預託金まで含めた広義の公的な資金調達額(負債)は2004年12月時点で約996兆円あるが、このうち、郵便貯金は23.8%(237兆円)、簡易保険は7.9%(79兆円)を保有している。こうした意味では、郵便貯金は公的部門の資金調達の最も重要な窓口としての役割を果たしている。他方、こうした郵便貯金の存在は、民間金融機関からすると、民業圧迫との批判があることも事実である。民間銀行に対する郵便貯金の優位性としては、既に述べたような預金保険料や法人税等を納めていないといった点である。しかし、民営化されれば、官業ゆえの特権はなくなり、郵便貯金は民間金融機関と同じ条件の下で競争することとなる。また、その資産運用面でも、旧勘定分を除く資金については、民の経営判断によって民間の経済活動を活性化させるような資金運用が行われることが期待されている。

 財投改革後の資金の流れの変化

2001年度より施行された財投改革により、郵便貯金等の全額預託義務は廃止され、預託金は基本的に2007年度までに全額払い戻されることになっている。こうした中で、今後の民営化によって郵便貯金の役割が大きく変わることは、公的部門へと偏った資金の流れを変え、経済の活性化に役立つものと考えられる。また、2001年の財投改革や今回の郵政民営化によって公的部門への資金の入口が大きく変化することは、資金の出口である政策金融を含む特殊法人等の在り方にも大きな影響を与えるものである。実際に、公的部門に関する資金の流れについては、2001年の財投改革以降、既に変化もみられている。資金循環勘定等に基づき、財投改革前の2000年度末(2001年3月末)と2004年12月末時点の残高を比べることにより資金の流れの変化をみると、以下のような特徴がみられる(第2-2-24図29

(i)家計の資産運用面では、1990年代初の高金利時代に預けられた定額貯金が満期を迎えたこともあり、郵貯・簡保の保有残高は33兆円減少(9%減)している。

(ii)郵貯・簡保から財政融資資金への預託金が126兆円減少(50%減)し、また、社会保障基金からの預託金も66兆円減少(42%減)したことから、財政融資資金の預託金残高は191兆円減少(45%減)している。他方、財政融資資金の財投債による調達は114兆円増加している。こうした中、政策金融30については、財政融資資金からの借入れが29兆円減少(26%減)し、財投機関債を含む政府機関債による調達が5兆円増加している。

(iii)最終的な資金需要者である家計、民間非金融法人、国・地方の資金調達についてみると、家計においては、住宅借入れに関して、公的金融機関31からの借入れが23兆円減少した一方、民間からの借入れが22兆円増加しており、住宅金融公庫の業務縮小等に伴い、官から民へと資金が振替わっているものと考えられる。民間非金融法人については、公的金融機関、民間金融機関からの借入れとも減少しているが、前者からの借入れの減少は相対的には小さなものにとどまっている。他方、国については、官民双方からの借入れ(国債等の引受け)が増えているが、相対的には、郵貯・簡保及び社会保障基金といった公的機関による国債等の引受けの増加の方が民間よりも大きい。

以上のように、一連の財投改革や特殊法人改革によって、一部の政策金融については規模の縮小が明確になっている一方で、住宅ローンのように、官から民への振替が明確にみられる分野もあり、政策金融に関する資金の流れが変化している様子が伺われる。一方で、国・地方の公的債務が増加するなかで、郵貯・簡保等は引き続きそのファイナンスに大きな役割を果たしている。

 国の資金調達

国の資金調達については、まず財政構造改革を強力に推進し、国債発行残高を抑制していくことが不可欠であるが、財政赤字が継続する限り、今後も何らかの形で官が市場の資金を吸収することになる。国債の安定的な引受け先であった郵貯・簡保が、今後、民営化によって新勘定にかかる部分の運用を多様化させるようになると、国債の引き受け手としては、今以上に家計の役割が大きくなることが予想される。2003年に導入された個人向け国債については、従来の国債と比べて、個人がより購入しやすい商品性となっており、その発行額は2003年2兆円、2004年6.5兆円と急速に拡大しつつある(付図2-732。日本の家計は、外国と比べても安全資産を保有する傾向が強いこともあり(安全資産の割合は日本6割程度、英国3割程度、アメリカ2割程度である)、今後も国債保有に占める個人の割合が上昇する可能性が高いと考えられる(付図2-8)。

(2)政策金融の改革

 政策金融の現状

2001年に特殊法人改革の議論が行われた際には、政策金融については、経済財政諮問会議において、公的金融の対象分野、規模、組織の見直しを行うこととされ、これを受け2002年より経済財政諮問会議において検討が開始された33。2002年12月に経済財政諮問会議が取りまとめた「政策金融改革について」では、当時の厳しい金融経済情勢にも考慮して、政策金融の改革は段階的に行うこととされた。具体的には、第一段階である2004年度末までの不良債権集中処理期間中は、金融円滑化のための政策金融を活用することとされ、特に金融環境の激変、連鎖倒産のおそれ等に際しては、円滑な資金供給を確保する等、セーフティネット面での対応に万全を期することとされた。その後、主要行を中心に不良債権処理が順調に進む中、民間金融機関もその機能を回復しつつあり、また大企業を中心に企業収益の増加が続き資金繰りが改善してきているとの指摘もあることから、2005年には、改革の第2段階として、経済財政諮問会議において、政策金融改革についての検討が再開され、「基本方針2005」(2005年6月)では、前掲の「政策金融改革について」(2002年12月)に従い、経済財政諮問会議において、本年秋に向けて議論を行い、政策金融のあるべき姿の実現に関する基本方針を取りまとめる、とされた。

そもそも金融は、純粋公共財とは異なり、数多くの民間金融機関が存在し事業を行っていることから、官が政策金融という形を用いるのは、社会的便益がその費用を大きく上回るといった政策的に助成するだけの高度な公益性が存在し、かつ、不確実性や危険性が大きく金融リスクの評価等の困難性がある場合である(前掲「政策金融改革について」)。したがって、政策的な意義が既に失われたものについては政策介入をやめ、また、公共性が引き続き認められるものについても、直接貸出以外の金融手段や他の政策手段と比べて、最も適切な手法を選択する必要がある。

政策金融の現状については、金融機関の総貸出額に占める政策金融の割合は、民間機関の貸出が減少したこともあって1990年の14%から2003年には約20%まで上昇している(第2-2-25図)。分野別の政策金融の割合について1990年、2000年、2003年を比較すると、最も大きな変化がみられるのは住宅分野で、2000年には政策金融は40%以上のシェアを持っていたが、2003年時点では30%程度まで大きく低下している(第2-2-26図)。また、農林漁業分野でも、政策金融のシェアは1990年の21.3%から2003年には13.5%まで低下している。他方、政策金融のシェアが上昇しているのが、大企業・中堅企業分野34、中小企業分野である。ただし、企業向け貸出での政策金融のシェアの拡大は、民間貸出の減少によって貸出市場全体が小さくなったことを反映している面もあり、政策金融が民間貸出の減少分を補完しているといったとらえ方もできる。また、特定地域分野(沖縄)では政策金融が高いシェアを維持している。

 政策金融の特徴

政策金融の特徴としては、長期の貸出が多いこと、民間と比べて金利水準が低い傾向があることがある。総務省(2003)を参考に、平均的な貸出期間を横軸に、平均的な貸出金利を縦軸にとって、各機関の状況をグラフにすると、政策金融は都市銀行等の民間銀行に比べて、相対的に貸出期間が長く、また貸出金利についても、総じて民間銀行に比べて金利水準が低い傾向にある(第2-2-27図)。また、政策金融については、民業補完の観点からリスクの評価等が困難な分野において政策目的達成のために融資を引き受けていることから、分野によっては不良債権比率が高い場合もある。政策金融機関が公表している資料を基に、金融再生法開示債権(破産更生等債権、危険債権、要管理債権)が総与信残高に占める比率(開示不良債権比率)を計算すると、政策金融機関(住宅金融公庫を除く)の合計でみると、5%程度でこの数年安定的に推移しており、2003年度時点では主要行(都銀・長信銀・信託)の不良債権比率を下回っている。ただし、主要行の不良債権比率は2001年度の8.4%から2003年度には5.2%まで低下しているが(第2-2-28図)、主要行で不良債権処理が大幅に進んだのに対して、政策金融機関では、ほとんど不良債権比率が変化していない。また、政策金融機関の貸出金償却は最近では急速に増加しているものの、償却率(貸出金償却額が貸出残高に占める割合)は0.1%から0.8%程度であり、都銀等の貸出金償却率をかなり下回っている(付図2-9)。

 政策金融の効率性

既に述べたように、公共性の高い政策金融といえども、その政策目的達成のためにいかなる手法が適切かを十分に検討する必要がある。その際には、本来、公的な資金の供給によって生じる社会的便益、費用を含め包括的に検討すべきであるが、ここでは資金供給手法としての便宜的な効率性を見るために、単純化した試算として総務省(2003)と同様の方法で、費用対補助額を計算した35。具体的には、政策金融の補助額を表す一つの目安として、資金の借り手が民間金融機関から貸出を受けたと仮定した場合に比べた利子軽減相当額を用いた(付注2-4)。他方、費用については、毎年度における政府の財政負担額を用いた上で、その比を費用対補助額とした(1を上回れば費用よりも補助額の方が大きい)。その推移をみると、1990年代半ば以降多くの機関で向上がみられたが、この数年は、均してみると横ばいとなっている(第2-2-29図)。また、貸出一単位当たりの純補助額(補助額から費用を減じた額)でみても、この数年間はおおむね横ばい圏内となっている。これは、財政的な費用が低下傾向にあるものの、貸出一単位当たりの補助額も総じて低下傾向にあることを反映している。補助額が低下している要因としては、金融自由化の進展や金融技術の高度化の影響等もあり、金利低下局面において民間金融機関の貸出金利が大きく低下するなかで、政策金融の貸出金利は金利低下局面において相対的に下げ止まったこと等が考えられる。以上をまとめると、直接貸出による公的資金の供給は、最近における金融情勢や経済情勢の中で、費用対補助額の指標でみて、効率性が向上している政策金融機関も一部にはあるが、全体としてみれば、一定の効率性は確保しているものの、その優位性が低下している状況もみられると考えられる(総務省(2003))。

政策金融による資金供給の手法については、金融資本市場の発展・活性化に資するという観点から、直接貸出だけでなく、証券化支援、債務保証など市場機能や民間金融機関を活用した間接的な資金供給手法を増やしていくことも重要である。また、間接的手法をとるに際しても、民間ともリスク・シェアを行うなど、モラル・ハザードを防ぐような方法により、同時に効率性もあがるような工夫が必要である。例えば、アメリカの中小企業庁(SBA)の代表的な融資保証制度では、民間金融機関のモラル・ハザードを防ぐため、保証割合に上限を設け、信用リスクの一定部分を民間金融機関に負わせている(貸出額15万ドル以内のものについては85%、それを超えるものについては75%)。日本の信用保証制度についても、中小企業庁において中小企業政策審議会での検討を踏まえ、部分保証の導入や経営・再生支援機能の強化、監督体制の確立による運営規律の強化など、制度の包括的見直しに向けた取組みが進められているところである。

 先行改革された住宅金融公庫の例

住宅金融公庫については、2001年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」で、2006年度までに廃止することとされ、その際、証券化支援業務については、それを行う新たな独立行政法人を設置するとされている。また、公庫の融資業務については、それまでに段階的に縮小し利子補給金を前提としない制度とするとともに、融資業務を継続するかについて、民間金融機関の業務が円滑に実施されているかを勘案し、独立法人設置の際に最終的に検討することになっている。

融資業務の縮減については、2002年度から住宅等取得費用に対する融資率の上限の見直しや(具体的には、費用の10割から、年収に応じて8割または5割に引下げ)、特別加算額の縮減(800万円から200万円へ引下げ)が実施された。こうしたこともあり、個人向け住宅ローン新規貸出に占める住宅金融公庫の比率は、2000年度の約34%から2003年度には約9%へと大幅に低下し、「民間でできるものは、できるだけ民間にゆだねる」との理念が実現されつつある(第2-2-30図)。

他方、今後住宅金融公庫の主要業務となる証券化支援業務については、事業が開始されたばかりということもあり、今のところ規模としては小さなものにとどまっているが、最近は伸びが高まる動きがみられる。民間金融機関が貸し付けた住宅ローンを公庫が買い取って信託した上で債券発行し、それを投資家に売却する買取型の証券支援業務については、2004年度の予算額が1.4兆円となっているものの、証券化支援事業を開始した2003年10月から2005年3月末までの買取額は累計で2067億円となっている。民間金融機関が貸し付けた住宅ローンを公庫が債務保証する保証型の証券化支援業務については、2004年10月から開始され、年間2千億円の事業規模を予定している。公庫の証券化支援業務は、開始されたばかりではあるが、買取金額が予定事業規模を大きく下回っていることの背景には、まだ十分に周知されていないことや消費者が将来の金利変動のリスクを十分に認識してないこと等に加え、そもそも住宅ローン債権はBIS規制でリスク・ウェイトが50%(2006年末からは35%)と自己資本比率の計算上有利な扱いをされていることもあって民間金融機関が住宅ローンを売却するインセンティブがこれまで小さかったこと等が考えられる。ただし、2004年秋以降については、金利の先高観を背景に固定金利の商品が注目され始めたことに加え、公庫の証券化ローンの対象物件の拡大といった商品性の改善や金利の引下げ措置が行われていることもあり、大手銀行も公庫証券化ローンを本格的に取り扱う金融機関が増加しており、公庫の買取件数は急激に増加し、2005年2月以降は月間3,000~4,000件程度になっている(第2-2-31図)。ちなみに、アメリカでは、住宅ローン担保証券(MBS)の発行残高は2004年9月末で約4.8兆ドル(約536兆円)に達し、日本の約1.6兆円(2005年2月時点)と比べ、圧倒的な市場の厚みを持っており、これが長期固定ローンの供給源になっている。こうした長期固定ローンの供給支援のため、住宅金融公庫にはパイオニアとして市場整備の役割が今後も期待される。

住宅金融公庫の財務状況をみると、新規貸出額が縮小するなかで、過去の高金利の貸付金にかかる任意繰上返済が多額に発生していることもあって一般会計からの繰入れ額は2002年度3,759億円から2005年度には3,872億円に増加している。また、利鞘の状況についてみると、2003年度時点で、フローでは、財投機関債発行による調達コストが約1.1%であるのに対し、貸付金利は約2.3%と利鞘はプラスになっているが、残高ベースでは、借入平均金利(利払いを借入残高で除したもの)が約4%と、平均貸付金利(貸付金利息受取を貸付残高で除したもの)の約3.4%を上回っている状態にあり、業務収支に逆鞘が生じている(付図2-10)。

新独立行政法人は、証券化支援等の新規業務については、補給金に頼らず推進することとされており、既往債権にかかる将来の財政負担も先送りせず透明な形で早期に処理し、2011年度までに補給金を廃止し、自立的経営に移行することが予定されている36

5 特殊法人・独立行政法人・地方公社等

 公的部門の組織上の問題

「官」による公的サービスの供給が一般に非効率となりがちなのは、「官」の組織上の問題による部分が大きいと考えられる。公的サービスの供給を実際に行っているのは、国や地方公共団体(上・下水道事業などを行う地方公営企業を含む)だけではなく、特殊法人、独立行政法人、地方公社、第3セクター等の公的団体によっても多くの公的サービスの供給が担われている。こうした国・地方公共団体以外の公的団体については、現在のところ、37の特殊法人、109の独立行政法人、1,590の地方3公社(特別法に基づき設立された住宅・道路・土地の3公社)、8,357の第3セクター(地方公共団体が一部を出資する商法・民法法人)が存在している。これらの公的団体で働く職員の数は約80万人にのぼり、国及び地方公務員を合わせた職員数(郵政、独立行政法人、地方公営企業含めて約400万人)の2割程度に匹敵している。公的団体で働く職員数の推移をみると、1990年代に入ってから急激に増加した後、2000年代前後から横ばい、ないし若干の減少となっている員数(郵政、独立行政法人、地方公営企業含めて約400万人)の2割程度に匹敵している。公的団体で働く職員数の推移をみると、1990年代に入ってから急激に増加した後、2000年代前後から横ばい、ないし若干の減少となっている(第2-2-32図)。また、国民経済計算でみると、2003年において、公的企業が保有する金融・非金融資産の合計額は、金融・非金融法人部門の総資産の約27%にのぼり、総固定資本形成の5%程度(公的固定資本形成の約23%)が公的企業によって担われている。

特殊法人、地方公社、第3セクター等の公的団体については、営利を目的としている訳ではないため高い収益を上げる必要はないが、他方で、公益を達成するための財政的負担は最小化する必要があることは言うまでもない。しかし、実態としては、一部の公的団体の経営状況は極めて悪化しており、財政負担が増加する懸念がある。例えば、地方3公社(住宅、道路、土地)及び第3セクターについては、2003年度時点で前者の約50%、後者の約34%が赤字となっており(赤字額は両者合わせて約1,600億円)、また、地方3公社及び第3セクターへの補助金の交付額総額は約4,600億円、保証債務の残高は約10兆4千億円となっている(第2-2-33表)。

一般に、企画立案部門と施策を行う現業部門が同じ組織の中で一体として運営されるような場合や、複数の異なる事業が一体的に運営されているような場合には、「費用」の按分が適切になされず、結果としてコスト意識が十分に働かず非効率なものとなる可能性があるため、ある特定の事業を他と切り離して独立させて運営することには、一定の利点があると考えられる。しかしながら、独立組織化することによって、国や地方公共団体がその所管する公的企業の行動を完全に監視できなくなり、そうした情報の非対称性から非効率性(エージェンシー・コスト)が生じる可能性がある。また、財政状況が悪化しても公共団体による補填が比較的簡単に行われるような場合(ソフトな予算制約)、効率化のインセンティブは働きにくい。このため、その効率性を確保するには、業績を定量的に把握しそれによって厳密に管理する必要がある。以下に述べる独立行政法人制度の導入は、こうした改善策の一つである。

 独立行政法人の導入と組織・業務の見直し

独立行政法人制度とは、各府省の行政活動から政策の実施部門のうち一定の事務・事業を分離し、これを担当する機関に独立の法人格を与えて、業務の質の向上や活性化、効率性の向上、自律的な運営、透明性の向上を図ることを目的とする制度である。対象となる事業については、具体的には、博物館・美術館・研修施設、研究機関、国立病院などがあり、2005年4月時点で109法人が存在する37

独立行政法人の財務・会計状況について予算の推移をみると、法人の業務運営の財源に充てるために国から交付されている運営費交付金の総額は、法人数の増加に伴い、2001年度の3,493億円(57法人)から2004年度には1兆5,257億円(105法人)へと増加している(第2-2-34表)。ただし、経年比較が可能な53法人についてみれば、運営費交付金額は同じ期間に2,628億円から2,557億円へとわずかながら減少している。他方、独立行政法人の受託収入及び自己収入については、全ての法人でみると、2001年度の1,026億円(57法人)から2004年度には5兆5,337億円(105法人)へと増加している。このうち、経年比較が可能な53法人についても、同じ期間に855億円から975億円へと増加している。また、独立行政法人の業務運営に関して国民負担に帰せられる費用を明らかにするために作成された「行政サービス実施コスト計算書」によると、2002年度までに設立された59法人については、合計で4,298億円の国民負担となるコストが生じている。

独立行政法人の導入にあたっては、既に述べたようなエージェンシー・コストやソフトな予算制約の問題も考慮した上で、事前目標の設定とそれに基づく厳格な事後チェックの制度が採用されている。具体的には、(i)事前においては、中期目標を主務大臣が定め、この目標を達成するための中期計画及び年度計画を独立行政法人が作成する、(ii)事後においては、毎年度、独立行政法人の業務実績を、専門的な知識を持つ第三者で構成される府省の独立行政法人評価委員会と総務省に置かれた政策評価・独立行政法人評価委員会がダブルチェックを行う、(iii)中期目標の期間の終了時には、主務大臣は、独立行政法人の業務を継続させる必要性、組織の在り方その他その組織や業務の全般にわたる検討を行い、必要な措置を講ずるとともに、政策評価・独立行政法人評価委員会は、独立行政法人の主要な事務や事業の改廃に関して、主務大臣に対して勧告できることとされている。

2004年度においては、「基本方針2004」を受けて、翌年度に中期目標期間が終了する法人も前倒しで評価することとされたため、32法人について組織・業務の見直しが行われた。その結果、政府行政改革推進本部の了承を経た上で、32法人を廃止・統合により22法人に再編するとともに38、研究開発・教育関係法人について役職員の身分を非公務員化する一方、事務・事業の廃止、重点化、民間委託等を推進することとされた。