第5節 財政・金融における構造改革の進展

厳しい財政状況の下、政府は2010年代初頭の国と地方の基礎的財政収支黒字化及び2006年度までの間一般政府の支出規模のGDP比が2002年度の水準を上回らないことを目指して歳出の抑制を進めてきた。こうした中、2004年度には、国と地方の財政収支(貯蓄投資差額)の赤字見込みはGDP比6.9%程度と、2003年度見込みの7.7%程度から若干減少することが見込まれる状況にある。しかし、こうした国と地方の財政赤字の水準自体は依然大きい。また、政府の債務残高は増え続け、2004年度末には国と地方の長期債務残高はGDP比140%を超える見込みであり、先進国では最も高い水準になっている。こうした中で、様々な財政構造改革が行われており、高齢化に伴って政府支出の中で大きな比重を占めるようになっている社会保障費について、その伸びの抑制に取り組むこと等が課題となっている。他方、金融面においても、90年代後半以降の企業間信用、銀行貸出といった民間部門の金融取引縮小の背景にある構造問題に対して、不良債権処理をはじめとした金融の正常化に向けた取組が進捗しつつある。ここでは、こうした財政、金融における構造改革の取組とその進展状況について考察する。

1 国・地方及び一般政府の財政収支の動向と展望

高齢化の進展により政府支出に対する増大圧力が高まるなか、政府は、2010年代初頭の国と地方の基礎的財政収支黒字化及び2006年度までの間一般政府の支出規模の対GDP比が2002年度の水準を上回らないということを目指して歳出の抑制を進めてきた(第1-5-1図)。こうしたことにより、国と地方の基礎的財政収支(「借入を除く税収等の収入」から「過去の借金に対する元利払いを除いた支出」を差し引いた財政収支)の赤字は、2003年度にGDP比5%台半ば、2004年度4%台半ばと若干ながら低下が見込まれている。以下では、この数年間の財政収支の動向について概観し、具体的にどのような支出が抑制され、収支が改善してきたのかについて述べる。

 国・地方及び一般政府の財政収支は2002年度にやや悪化

まず、実績値が明らかになっている2002年度までの国と地方の財政収支の動向について振り返ると、財政収支の赤字は、2000年度から2001年度にかけてGDP比6%台後半から7%台で推移していたが、2002年度にはGDP比8.0%の赤字へと大幅に悪化した(第1-5-2表)。一般政府の収支でみても、ほぼ同様の傾向がみられる。一般政府の支出をみると、政府消費や社会保障などが含まれる経常的支出は、2001年度から2002年度にかけて微増にとどまった一方、投資的経費は引き続き削減されたことから、支出全体としてはほぼ横ばいで推移した。他方、一般政府の収入については、2001年度から2002年度にかけて、郵便貯金の満期に伴う利子所得に係る税収が大幅に減少したことなどにより、税収が6兆円あまり減少し、これが2002年度における財政収支悪化の原因となった。国と地方の基礎的財政収支についても、ほぼ同様の傾向を示しており、2001年度の4.1%の赤字から2002年度には5.6%の赤字へと悪化した。部門ごとの収支をみると、2002年度における財政収支の悪化は、もっぱら国の財政の悪化によっている。

なお、一般政府の財政収支に含まれ、国と地方の収支に含まれないものとして社会保障基金の収支があるが、これまで一貫して黒字だった社会保障基金の収支は、高齢化の進展による年金給付の増加などにより2001年度以降赤字となっている。こうした社会保障基金の赤字の一部は、年金積立金を実質的に取り崩すことによって措置されている。

 2003年度の国・地方の赤字は若干改善、一般政府の赤字はほぼ横ばい

2003年度の国と地方の財政収支については、2002年度より若干改善しGDP比7.7%程度の赤字と見込まれている(第1-5-3表)。一般政府の赤字については、2002年度から2003年度にかけてほぼ横ばいで推移すると見込まれる。主な一般政府の支出項目について、政府経済見通し及び予算額に基づいてみると、政府最終消費支出が前年度比微増にとどまると見込まれているが、これは、国家公務員給与が2%削減されたことによる影響が大きい。公共投資についても、引き続き大幅な低下が見込まれており、政府経済見通しの実績見込みによると、名目の公的固定資本形成は2003年度に10%程度減少することが見込まれている(ただし、一般政府の支出には公的固定資本形成に含まれる公的企業の投資は含まれない)。他方、社会保障給付については、高齢化の進展に伴って引き続き高い伸びが続くと見込まれている。詳細なデータが明らかでない共済関係の予算を除いたベースでみると、2003年度の社会保障給付は前年度当初予算比で2%程度の伸びとなると見込まれている。しかしながら、社会保障給付は、年金の物価スライドの適用によって、物価下落分(0.9%)の給付抑制が行われており、2002年度までのように物価スライドが凍結されていた場合と比べれば伸びは低いものとなっている。こうしたことにより、一般政府の支出全体の大きさは、2003年度には対GDP比37%程度と見込まれており、前年度の水準から若干の低下が見込まれている。このように支出規模が抑制されたのは、予算配分の重点化が図られるなかで、国の一般会計及び一般会計歳出が実質的に前年度以下に抑制され、地方についても引き続き歳出の見直しが行われたことなどを反映していると考えられる。他方、一般政府の収入については、先行減税などの影響もあって、若干ながら前年度の水準を下回ることが見込まれている。収入の内訳をみると、税収に関しては、国の所得税収が所得の低迷を反映して減少することが見込まれているほか、法人税についても税制改正による影響もあって、企業の収益が増加する中で、若干減収となると見込まれている。なお、2003年度の税制改正が国の税収に与える影響については、情報化関連設備投資や研究開発に係る法人関連税制の減税によって1.3兆円、相続税・贈与税及び金融・証券税制の変更による減収がそれぞれ1千億円程度、土地税制の変更による減収が2千億円程度となっている一方、酒税・たばこ税の引上げによる増収が1千6百億円程度となると見込まれており、合計で1.5兆円程度の減税が見込まれている(付表1-22)。

 2004年度の国・地方及び一般政府収支は改善が見込まれる

2004年度については、国の一般会計歳出及び一般歳出について引き続き実質的に前年度の水準以下に抑制するとの方針の下、予算編成が行われた。また、国・地方の税収についても景気回復や税制改正の影響などもあって若干増加すると見込まれている。こうした中、国・地方の財政赤字が2003年度から2004年度にかけて0.8%ポイント程度縮小することが見込まれ、基礎的財政収支についても、対GDP比でみて、2003年度の5%台半ばから2004年度は4%台半ばに低下することが見込まれている。また、一般政府の財政赤字は、対GDP比7%台半ばに若干ながら低下することが見込まれている。主な支出項目については、政府最終消費支出の伸びが前年度比1.8%程度に若干高まるとともに、社会保障給付が3%台の伸びを続けると見込まれる一方、公共投資は、政府経済見通しの公的固定資本形成の伸びでみて、12%減と引き続き大幅に低下することが見込まれている。支出面での制度変更等による影響としては、年金給付の物価スライドが引き続き適用されたことによって給付額がデフレの程度にあわせて0.3%引き下げられたほか、診療報酬・薬価等が1%引き下げられたことなどによって国の歳出が抑制されることが見込まれている。また、後で見るように、三位一体の改革が進展するなかで、地方の歳出も抑制されることが見込まれている。他方、収入について、制度面では引き続き2003年度税制改正による減税が継続される一方、所得税の配偶者特別控除の上乗せ分の廃止、消費税の中小事業者に対する特例措置の縮小などが予定されている(付表1-22)。こうした中、国・地方の税収は、景気回復による増収が見込まれることもあり、前年度比では若干の増加が見込まれている。

 一般政府の循環収支・構造収支の動向

財政赤字の変動は、循環的収支と構造的収支に分けることができる。循環的収支は、景気の変動によって税収や一部の支出が増減することによって生じる財政収支の変化を表すが、構造的収支は、循環収支を全体の財政収支から除いたものである。

そこで、一定の仮定の下に、一般政府収支の動向を循環的赤字、構造的赤字に分けてみると、構造的赤字は、郵貯の満期に伴う一時的な税収増の影響を除いてみても、2001年度から2002年度にかけてやや拡大した後、2003年度には、ほぼ横ばいとなり、2004年度には若干ながら縮小に転じると見込まれる(第1-5-4図)。

 今後の財政に関するリスク

以上にみたように、今後、国・地方の財政収支や基礎的財政収支は改善に向かうことが見込まれているが、こうしたシナリオに対して、財政再建が期待ほどに進展しないリスクがあるとすると、どのような要因が考えられるだろうか。一つ考えられることは、長期金利が上昇するという可能性である。仮に景気回復に伴い、金利が大幅に上昇すれば、年々の公債発行残高が巨額に達しているなかで、利払い費の増加が景気回復による税収増を上回り、財政収支が悪化する可能性がある。

2004年度末の国及び地方の長期債務残高は719兆円程度に達しており、このうち、普通国債残高は483兆円程度である。2004年度には、新規に発行される国債は37兆円程度、借り換えのために発行される国債は84兆円程度あり、合計で121兆円の国債が発行される予定となっている(財政融資特会債を除く)(第1-5-5図)。仮に金利が上昇しても、既に発行された国債の利払いには影響ないが、こうした新規発行分については、金利上昇の影響を受けざるを得ない。また、既発債についても、年々かなりの部分が借り換えられるので、金利上昇が財政に与える影響は、年々大きくなっていく。このため、財務省の「平成16年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」によると、標準ケースと比べて金利が2%から3%へ1%ポイント上昇した場合には、国債費が2005年度で1.2兆円、2007年度で3.7兆円あまり増加するとの計算が示されている。

2 歳出改革等

 予算制度改革・歳出改革等の各分野の進展状況

1990年代以降、主要な先進国で予算編成の在り方が見直され、歳出の効率化が進められる中で、我が国においても、過去数年間で、そうした予算・歳出改革の動きが定着しつつある(第1-5-6表)。以下では、これまでの我が国における財政改革の動きを、他の先進国の経験と比較しながら概観する。

(1)中期的な財政運営の基本方針

1990年代以降、米国やEU諸国では財政ルールに基づく財政運営が行われ財政再建が進んだ(21)。我が国においては、2006年までの間、一般政府の支出を対GDP比で2002年度の水準を上回らない程度とすることを目指すこと等により、2010年代初頭における国と地方の基礎的財政収支の黒字化を目指すことが「構造改革と経済財政の中期展望」(「改革と展望」)において示されている。こうした方針を踏まえて、2003年度、2004年度予算においては、国の一般会計歳出及び一般歳出をともに実質的に前年度の水準以下に抑制することが目標とされた。OECD(2002)においては、政府支出の規模の抑制を目標とすることについては、財政収支を直接的に目標とすることに比べて、財政再建のために増税手段が安易にとられることがないので経済成長を阻害する度合いが低いというメリットがあるが、他方で、支出の抑制のみで財政の安定を確保できない場合もあることが指摘されている。基礎的財政収支の改善に向けて、バランスのとれた手段により財政再建を行うことが重要であろう。

(2)予算編成プロセス改革

財政構造改革を進めるに当たっては、予算の質の改善・透明性の向上が重要であり、国民に説明責任を果たす予算編成プロセスの構築が進められている。トップダウンによる予算の重点化・効率化については、この数年間、「骨太の方針」等の基本方針の策定に関し、経済財政諮問会議の設置等により、総理や担当大臣が政策や予算の基本方針を調査審議することを通じ、総理や閣僚のリーダーシップによる予算の重点化・効率化に資するようになっている(付図1-23)。また、OECD(2004)においては、複数年度の視点に立った予算編成プロセスの導入が、財政負担の後年度への先送りを防ぐことや中期的な財政健全化に有効であるとの指摘もあり、主要な歳出分野について複数年度にわたる指針をより明確に示すことが考えられるところである。なお、国民への説明責任を果たす予算編成プロセスとしては、「モデル事業」の取組が試行的に行われている。

(3)事業・政策評価

2002年4月の「行政機関が行う政策評価に関する法律」の施行以来、各府省において、政策評価の結果の予算要求への積極的な反映が図られている。また、各府省は、予算要求と併せて施策の評価結果を記載した「施策の意図・目的等に関する調書」(政策評価調書)を提出しており(22)、予算編成時には、本調書を参考として、要求・要望の中身の精査等が行われている。ただし、こうした評価については、定性的評価にとどまるものが多く、客観性・中立性が十分には担保されていないものがあるなどの問題点があるため活用が困難なものも多く、今後さらに評価の定量化等による客観性の確保や評価精度の向上等に取り組む必要がある。

また、2002年度から、予算査定の当事者が事業現場に赴き、予算が実際に効率的、効果的に執行されているかを調査する予算執行調査が実施されており、2003年度においては、特別会計の20事業を含む51事業の調査が行われ、その結果492億円が2004年度予算に反映された。

(4)財政の透明性

一般会計だけでなく、特別会計を含めて財政状況を分かりやすく把握できるよう改革を進めることは、財政の透明性を高める上で重要であり、様々な改革が進められている。特別会計については、2003年11月の財政制度等審議会における提言等を踏まえた見直しが行われているが(付表1-24)、その中で、説明責任の強化を図るため、歳出の内容等について新たな説明資料を作成・公表したほか、企業会計的手法を活用した「新たな特別会計財務書類」の取組を進めるなど、分かりやすい開示に努めている。なお、財政政策の一端をなす財政投融資制度についても、資金調達方法の変更や財政投融資の出口にあたる特殊法人改革等に加え、財政投融資を活用する事業に関する政策コスト分析を実施し、一定の前提条件の下で試算した国から将来にわたって投入が見込まれる補助金や、出資金等の利用コスト(機会費用)等の額を政策コストとして公表している(23)

(5)成果重視的な予算手法・競争原理や価格メカニズムの導入

成果重視的な予算手法という点については、2004年度予算において、試行的に10の「モデル事業」が導入された(付表1-25)。こうした「モデル事業」では、(i)予算により達成する政策目標を定量的に示す、(ii)効率的に目標を達成するために事業の性格に応じた弾力的な予算執行を行う、(iii)事後に目標の達成状況を厳格に評価して次の予算編成に反映させることとされている。これと併せ、2004年度予算からは、複数府省にまたがる政策目標の実現に向け、府省横断的な対応を行いつつ、予算と規制改革等の政策を組み合わせて予算の効果を最大限発揮させることを目指す「政策群」の取組も開始されている。

政府調達や公共工事については、我が国ではWTO協定に準じた枠組みが採用されているが(24)、執行面では、依然として入札談合に関連して独占禁止法に基づく法的措置がとられるケースが多く、今後、さらに執行面での改善を図っていく必要がある(25)。公的サービスの外部委託やPFI等を通じた民間企業の活用については、第2章で詳しく論じているように、地方公共団体において徐々に広がりがみられている。他の一部の先進国で既に用いられているバウチャーの導入による消費者の選択肢の拡大といった措置は、我が国ではまだほとんど例がない状況だが、雇用保険の被保険者(あるいは過去に被保険者だった者)に対する教育訓練給付は、個人が教育訓練機関を選択できるという点では、バウチャーに近い機能を果たしていると考えられる(26)

 三位一体の改革の推進

三位一体の改革とは、国庫補助金負担金改革、交付税改革及び税源移譲を含む税源配分の見直しを一体として進めることである。こうした改革により、地方の権限と責任を大幅に拡大し、歳入・歳出両面での地方の自由度を高めることで、真に住民に必要な行政サービスを地方が自らの責任で自主的、効率的に選択できる幅を拡大するとともに、国・地方を通じた簡素で効率的な行財政システムの構築を図ることを目指している。このため、具体的には、「基本方針2003」において、(i)国庫補助負担金改革については、2006年度までにおおむね4兆円程度を目途に補助金の廃止・縮減等を行うこと、(ii)交付税改革については、交付税の財源保障機能全般を見直し、縮小するとともに、地方歳出を見直し交付税総額を抑制すること、(iii)税源移譲を含む税源配分の見直しについては、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方が主体となって実施する必要のあるものについては、基幹税の充実を基本にして税源を移譲することとし、移譲にあたっては、補助金の性格等を勘案しつつ、その8割程度を目安として移譲し、義務的な事業については徹底的な効率化を図った上でその所要の全額を移譲すること及び地方税における課税自主権の拡大を図ること、といった改革を行うこととしている。

以上のような考えの下、2004年度においては、国庫補助負担金の1兆円の廃止・縮減等が行われた。具体的には、児童保護費等負担金(うち公立保育所運営費)1661億円をはじめ2440億円を一般財源化(使途が特定されない財源に置き換え)し、義務教育費国庫負担金(退職手当・児童手当分)(2309億円)を暫定的に一般財源化したほか、公共事業関係の補助金について4527億円削減するとともに、別途、「まちづくり交付金」(1330億円)を新たに創設した(第1-5-7表)。他方、一般財源化に伴う措置として、2003年度及び2004年度の補助金改革に対応して所得譲与税による税源移譲(4249億円)を行ったほか、義務教育費国庫負担金(退職手当・児童手当分)については将来の税源移譲を前提とした交付金(2309億円)を創設することにより、合わせて6558億円を措置した(27)。また、地方交付税についても、地方財政計画の歳出の見直しによって、投資的経費(単独事業)が前年度比9.5%減、給与関係経費が1.9%減とされるなど地方財政計画の歳出の総額が前年度と比べて1.5兆円ほど削減された結果、地方交付税額は前年度の水準から1.2兆円ほど減少した。さらに、地方税における課税自主権の拡大については、標準税率の定義を見直し、税率設定の自由度を拡大するとともに、既存の法定外税の変更に係る国の関与を縮減する等の制度改正を行った。

なお、2004年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」では、2004年秋に明らかにし、年内に決定する三位一体の改革の全体像において、2005年度及び2006年度に行う3兆円程度の国庫補助負担金改革の工程表、税源移譲の内容及び交付税改革の方向を一体的に盛り込むとされており、そのため、税源移譲は概ね3兆円規模を目指すこととし、その前提として地方公共団体に対して、国庫補助負担金改革の具体案を取りまとめるよう要請し、これを踏まえ検討することとされている。

 持続可能な制度構築に向けた年金改革

年金制度の見直しは5年ごとに行われることになっているが、2000年に制度が改正されて以降、この数年間で経済社会の変化等によって年金財政の悪化が進んだ。具体的には、少子高齢化が予測よりも急速に進むとともに、デフレが継続する中で金利は低水準にとどまり、賃金の伸びも想定を大きく下回った(第1-5-8図)。加えて、厳しい経済状況の下、本来5年に1度改正されるはずの年金保険料も引上げが凍結されたままとなっていたほか、基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引き上げ時期も不透明なままとなっていた。

このような少子高齢化の進行や、実質賃金上昇率の低下により、年金計算上、仮に給付水準に変更がなければ、より高い負担が必要となるが(28)、過度な保険料負担は、仮に労働供給の価格効果(手取り賃金率の低下によって労働の魅力が低下する効果)の方が所得効果(手取り所得の低下を防ぐために労働時間を増やす効果)を上回るとすると、労働意欲を阻害して、経済成長に負の影響を及ぼす可能性がある(付図1-26)。

こうしたことを背景に、今回の年金制度改正では、(i)厚生年金及び国民年金の将来の保険料水準を固定した上で、その収入の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組みの導入、(ii)基礎年金の国庫負担割合を2009年までに段階的に2分の1に引き上げ、(iii)給付水準の改定を、一人当たり賃金や物価上昇率によって行う方式から、給付水準調整期間内は、マクロ経済スライドと呼ばれる方式に変更(29)、(iv)積立金の水準について、将来の全ての期間について年金財政を均衡させるために常に一定の積立金を維持する方式(永久均衡方式)から100年程度の均衡を目指す方式(有限均衡方式)に変更、といった措置の導入が予定されている(第1-5-9図)。これにより、最終的な保険料水準は、厚生年金で18.3%、国民年金で16,900円(2004年度価格)に抑制され、2017年度まで毎年保険料水準を引き上げていくことが予定されている。

以上のような保険料水準固定方式とこれまでの給付水準維持方式によってどの程度の違いが保険料収入・給付総額に今後生じてくるのかを、厚生年金を例にとって厚生労働省の試算でみると、新制度の下における保険料収入の総額は、最終保険料に到達する2017年度以降、現行制度を下回り、給付総額は、マクロ経済スライドによる給付調整が行われるため、現行制度を下回ると見込まれる(付図1-27)。他方、有限均衡方式を用いることとなったため、積立金は2040年度あたりからずっと低下を続け、2100年度には支出1年分程度の積立金が残るよう財政見通しを立てている。また、世代ごとの保険料負担と年金給付がどうなっているかについて、厚生年金を例にとってみてみると、現在70歳の人の場合で保険料負担に対する年金給付額の割合は、8.3倍、60歳で4.6倍、50歳で3.2倍と低下し、20歳以下では2.3倍となっている(付図1-28)。こうした世代間格差が生じるのは、年金制度発足当初においては当時の負担能力に見合った低い保険料率が適用された一方、物価や賃金上昇に応じた給付改善を後世代の負担で行ってきたことがある。

3 国内資金循環の問題と金融改革の進捗状況

 金融取引の縮小とその背景

金融と経済活動は表裏一体の関係にある。経済活動が低下すると、それに伴って金融取引も縮小する。したがって、経済が構造的な問題を抱える場合、それによって引き起こされる経済活動の停滞は金融取引の面にも現れるだろう。他方、円滑な金融取引は、家計や企業の資金の過不足を均すことにより経済全体での資金利用の効率を高め、経済活動を活発化させる。したがって、金融システムに問題があれば、その影響は経済活動を抑制する方向で働くだろう。

ここでは、後者のマクロ的な金融仲介機能の問題に着目することにより、90年代後半以降の金融取引の縮小とその背景にある構造的な問題を改めて整理し、金融の正常化に向けた取組の進捗状況を確認する。

まず、我が国の金融をめぐる問題を理解するために、1991年度以降を前半期(1991~1996年度)と後半期(1997~2002年度)に分けて、資金の運用と調達を相殺した後のネットでの平均的な金融取引の状況をみると、前半期と比較して後半期には以下の特徴がみられる(第1-5-10図)。

第一に、金融取引額が大幅に縮小している。

第二に、資金運用サイドでは、金融取引が縮小するなかで、企業間信用額が減少に転じるとともに、民間金融機関と比べて公的金融機関のプレゼンスが上昇している。他方、株式・出資金等の直接金融については、取引額にほとんど変化はみられない。

第三に、資金調達サイドでは、家計・企業の資金調達額が激減し、企業は負債返済に回る一方、政府は資金調達額を増加している。

こうした金融取引の状況を、国内経済主体間の資金循環の観点からとらえると、前半期と比較して後半期には、さらに以下の特徴がみられる(第1-5-11図)。

第一に、家計の資金余剰額の減少に伴い、民間金融機関や国へのネットの資金供給額も減少している。

第二に、企業は資金不足から資金余剰に転じ、企業から民間金融機関に向けて資金が逆流している。

第三に、国の資金不足額が増加し、民間金融機関から国への信用供与額が増えている。

このように、90年代後半以降、民間部門の金融取引が縮小するなかで、国内資金循環は、家計から民間金融機関を通じて企業に資金が流れるという通常のパターンが、家計・企業から民間金融機関を通じて国に資金が流れるというパターンへと変化してきた。これは、本来、民間の金融システムに期待される資金配分機能やリスク配分機能が低下してきたことを意味する。こうした原因としては、バブル崩壊とその後の経済活動の低迷による銀行の不良債権の増大や企業の過剰債務の問題がある。同時に、民間部門の金融取引が縮小するなかで、金融資本市場の資源配分機能への影響の大きさにかんがみ、公的金融・事業部門がどうあるべきかについて活発な議論が行われてきた。すなわち、財政投融資改革、特殊法人改革、郵政事業民営化である。

以下では、我が国における金融仲介機能の回復に向けて、まず、銀行と企業の両面からその改善状況を確認し、次に、公的金融・事業部門の改革に向けての取組状況を記す。

 主要行の不良債権処理の進捗状況

これまで、我が国の民間金融機関は、企業と密接な関係を築き、貸出や有価証券保有を通じて家計の資金を企業に供給してきた。なかでも、銀行、特に主要行は銀行の企業向け貸出残高の半分強を占め、金融システムの中核を担ってきた。バブル崩壊とその後の経済低迷による不良債権の増大は、銀行のリスク許容力を大きく低下させるとともに、企業も過剰債務の削減を進める過程で積極的な企業経営が困難になった。銀行への依存度の高い金融システムにおいて発生したこうした事態は、さらに経済活動の低迷をもたらすこととなったのである。

2002年10月、金融庁は金融再生プログラムを発表し、2002年3月期に8.4%だった主要行の不良債権比率を2005年3月期には半分程度に低下させて問題の正常化を図ることとした。そこで、2004年3月期の決算に基づいて、主要11行の不良債権比率半減目標に向けた進捗状況を確認すると(30)、以下の特徴がみられる(第1-5-12図)。

第一に、主要行の不良債権残高(金融再生法開示債権)は前年の20.2兆円から13.6兆円へと減少し、不良債権比率(対総与信)も7.2%から5.2%へと低下した。

第二に、不良債権の区分別の内訳をみると、破綻懸念先以下債権に該当する「破産更生等債権」と「危険債権」は前年より2.1兆円減少し、「要管理債権」も前年より4.5兆円減少した。

第三に、不良債権処理に要した不良債権処分損は前年の5.1兆円から3.5兆円へと減少する一方、本業からの収益である実質業務純益は前年の4.1兆円から3.9兆円へとほぼ横ばいとなった。

以上より、主要行は収益面が横ばいとなるなかで、不良債権処理が2004年3月期にさらに進展した結果、不良債権処分損が実質業務純益の範囲内に収まる状況となっている。したがって、2004年3月期の決算資料によれば、主要行の財務状況は引き続き改善が進んでいると評価できよう。

 地域銀行の不良債権問題の課題

それでは、主要行以外の不良債権処理の進捗状況はどうだろうか。ここでは、地域銀行について状況を確認してみよう(31)。地域銀行の2004年3月期の決算をみると、以下の特徴がみられる(32)(前掲第1-5-12図(1))。

第一に、地域銀行の不良債権残高(金融再生法開示債権)は、前年の14.7兆円から11.7兆円へと減少し、不良債権比率(対総与信)も7.8%から6.5%へと1.3%ポイント低下した。

第二に、不良債権の区分別の内訳をみると、破綻懸念先以下債権に該当する「破産更生等債権」と「危険債権」は前年より1.9兆円減少し、「要管理債権」も前年より1.0兆円減少した。

第三に、不良債権処分損は前年の1.6兆円から1.1兆円へと減少する一方、実質業務純益は前年の1.9兆円から1.8兆円とほぼ横ばいとなった。

以上より、地域銀行については、収益力が横ばいの状況にあるものの、不良債権処理は前進し、全体として財務状況の改善が進んでいると評価できる。

中小・地域金融機関の不良債権問題については、2003年3月に金融庁が「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を公表し、間柄重視の地域密着型金融の機能強化を図ることで、同時に不良債権問題の解決を目指すこととしている(33)。その際、中小・地域金融機関の不良債権の特性等を踏まえ、主要行に対するような一律の数値目標は設けていない。その理由は、地域経済においては、抜本的な企業再生手法等の選択肢や人材等の利用可能性が限定的であることや、雇用の円滑な流動化や人材活用等の環境整備なしに急速な処理を進めた場合、失業の急増を招くなど地域経済に重大な影響を与えかねないためである。

例えば、地域銀行の不良債権の区分別の内訳をみると、破綻懸念先以下債権に該当する「破産更生等債権」や「危険債権」の占める割合が67.3%と主要行の48.9%より大きい(第1-5-13図)。しかし、こうした主要行との相違は、問題の先送りによるものではなく、地域経済が抱える特性等を反映したものであり、地域の実態に即した不良債権処理を進めることが重要である。

このように、地域銀行においても、自ら経営の健全性を確保し、持続可能性を保持するため、不良債権処理の促進に取り組むべきであるが、その際には、地域の実態を踏まえつつ、引き続き、地域密着型金融の機能強化を図ることにより、不良債権の新規発生の抑制と処理原資となる収益力の強化が必要となる。

さらに、地域密着型金融の機能強化が必要とされる背景には、地域経済が構造変化に対応しきれず、結果として地域経済に占める低収益業種の比率が高止まりしている可能性もある。こうした状況下で、地域に密着した営業活動を行っている地域銀行は、地域経済から期待される役割を果たすため、過度なコストを負担しているといった指摘もある。

そこで、こうした点を明らかにするために、各業種の企業規模別の収益率(売上高経常利益率)を、全国銀行と地域銀行の業種別貸出比率と企業規模別貸出比率でウエイトづけすることによって、擬似的にそれぞれの貸出対象となり得る企業の平均的な収益率を求め、この両者の時系列変化を比較してみよう。すると、以下の特徴がみられる(第1-5-14図)。

第一に、90年代末以降、低金利政策や過剰債務削減・事業リストラ等による利益率の改善を反映して、両者ともに企業の収益率は上昇している。

第二に、両者の企業の収益率の差は、同期間に拡大傾向にある。これは、全国銀行と地域銀行の貸出対象となり得る企業の業種別貸出構成と企業規模別貸出構成の相違を反映している。

業種別構成については、地域銀行の貸出対象となり得る企業の方が、不動産業や運輸通信業といった高収益業種のウエイトが小さく、建設業やサービス業といった低収益業種のウエイトが大きいことを反映して、相対的に低い収益率となっている。

企業規模別構成については、中小・零細企業の収益率は大企業よりも低く、かつ、地域経済における中小企業のウエイトが大きいことから、地域銀行の貸出対象となり得る企業の方が低い収益率となっている。加えて、2001~2002年度にかけての両者の差の拡大は、主に企業規模別収益率の差の拡大を反映している。

こうした状況を踏まえると、地域銀行の健全性については、地域の企業とのリスクの共同管理等を通じて円滑な資金供給を行うという地域密着型金融の機能強化が重要であるとともに、それぞれの地域の経済構造や中小企業の低収益性の問題とも密接に関係していることがわかる。言い換えれば、地域再生は、地場の中小企業の問題を含む総合的なテーマであり、地域銀行のみならず、構造変化への対応を推進することによって地域経済の収益性が向上するような取組をより広範に実施していく必要があろう。

 金融システムの健全性の評価

以上より、不良債権問題については着実な改善が図られていることが分かった。ただし、地域銀行の今後の収益力強化については、地域再生の取組とも深く関係した問題であるということも分かった。それでは、こうした状況の下で、2005年4月のペイオフの解禁拡大に向けて(34)、我が国の金融システムの健全性はどの程度改善していると評価できるだろうか。

そこで、世界の主要銀行の財務指標に銀行経営の健全性を満たす成分が凝縮されているものと仮定して、その財務指標群から代表的な特性を抽出し、それに基づいて我が国の銀行の財務状況を評価する。ただし、金融システムの健全性は、その中核を占める主要行の健全性レベルの分布の状態に大きく依存するのであって、個々の銀行の問題は直接的には関係しない。したがって、我が国の金融システムの健全性について、主要行の財務健全性の平均的な状態として評価することにしよう(35)第1-5-15図)。

分析によれば、世界の主要銀行から抽出された特性は、説明力の高い順に「基礎収益力」と「安全性」と解釈される。アメリカの金融システムは基礎収益力が高く、ヨーロッパの金融システムは安全性が高い。

これに対して、2002年3月期時点における我が国の課題はこの両面で改善を図ることであった。その後、2003年3月期にかけて、主要行は、まず、安全性の向上と相対的に漸進的な基礎収益力の改善を図り、次に、収益性をより重視した銀行経営に努めてきた、という経緯を読み取ることができる。

今後は、過去のような銀行間で同質的な経営体質から、健全性をより高める方向で、個々の銀行が特色ある経営を志向することにより銀行経営の多様化が進むことが求められよう。銀行間で共通するリスクに対して耐久力ある金融システムを構築することができれば、我が国の金融が全体として抱えるリスクを軽減することが可能になるためである。

 企業の銀行借入動向の変化

金融改革をめぐっては、銀行の不良債権処理は景気にマイナスであるのみならず、処理が進展しても企業の資金需要が低迷しているために銀行貸出は増えない、という議論がある。そこで、個別企業の財務データを用いて1999年度以降の上場企業(連結ベース)の銀行借入行動を分析し、何が企業の銀行借入需要に影響を及ぼしているかをみてみよう(36)付注1-6)。

ここで、企業の資金需要に影響を及ぼす要因として、企業の収益性(売上高経常利益率)と安全性(自己資本比率)を考える。収益性が高ければ、企業は資金調達を増やして投資を行い、安全性が高ければ、資金調達コストが下がるために資金需要が高まると考えられるからである。これらは、企業にとっての資金需要要因であるとともに、銀行にとっては貸出判断の基準でもあるだろう。

これらの要因に加え、売上高の増減と社債残高の増減が、企業の銀行借入需要に影響を与えると考える。売上高の増大は取引増大や事業拡張により金融取引を増やし、社債は銀行借入と代替的な関係にあると考えられるからである。

金融危機の影響の大きかった1999年度を除くと、2000年度以降、銀行借入を減少(返済)した上場企業の全体に占めるシェアは約65%で変わらず、いわば膠着状態にあるようにみえる。しかし、こうしたなかでも、上場企業の銀行借入には以下の変化がみられる(第1-5-16図)。

第一に、収益性の高さ(売上高経常利益率)は銀行借入の返済を促す要因であった。しかし、収益性の高さが企業の借入行動に与える効果は徐々に低下しており、収益性の高い企業が得られたキャッシュフローを借入金返済以外にも使い始めていることが伺われる。

第二に、安全性(自己資本比率)の高い企業ほど、銀行借入に対して積極的な姿勢が見られる。この傾向はITバブル崩壊直後の2001年度にやや低下したが、2002年度には再びその傾向が強まっている。

第三に、売上高の増加は2002年度には銀行借入を促す要因となっている。

第四に、おそらく社債償還資金のリファイナンスと考えられる銀行借入が2002年度には増える一方、2000年度以降、社債発行を増やして銀行借入を返済するという代替効果は認められない。

以上の分析によれば、これまでの上場企業の銀行借入返済は、収益性の向上によるキャッシュフロー増大が主たる要因であったが、近年は安全性の向上や売上高の増加、さらには社債償還資金のリファイナンスに基づく銀行借入の効果の方が高まっている。

また、2002年度に銀行借入を増やした上場企業のグループについて、過去からの銀行借入動向をみると、借入返済から次第に借入需要を高めていることや、銀行借入を返済した企業グループとの間で売上高の伸びの差が拡大していることがわかる(第1-5-17図)。したがって、銀行借入を返済している上場企業の比率には変化はみられないが、銀行借入を増やしている企業ではより前向きの姿勢が強まっており、こうした企業の存在が銀行借入の効果の上昇に表れていると考えられる。

さらに、銀行借入と社債を合計した有利子負債の調達・返済状況をみると、2002年度に銀行借入を返済した企業は、2001年度までの返済額は横ばいだったのに対して、2002年度の返済額は倍近くに増えている。こうした動きは、上場企業が二極化に向かうなかで、相対的に業績の低い企業が2002年度には大幅な債務削減に転じたことを示唆しているといえよう。

 公的金融・事業部門の改革

以上のような民間部門における改革の進展に対して、公的部門ではどのような改革を進めているのだろうか。

90年代の失われた10年間で、我が国の経済は停滞し、政府も巨額な財政赤字を抱えることとなった。また、民間部門の金融取引が縮小する一方、公的金融のプレゼンスが相対的に高まる結果となった(前掲第1-5-10図)。

こうしたなかで、少子高齢化や国際化等に対応した活力ある民間経済を育むには、民間でできることは民間にゆだねることによって政府の役割を見直し、できる限り市場メカニズムによる資源配分を有効に機能させる方向で改革を進める必要があろう。

公的金融・事業は、民間ではリスクのとれない公益性の高い分野への資金供給や事業展開を行う重要な仕組みである。他方、民間部門と競合する分野において、政府保証を前提に資金調達や事業運営を行うことは明らかに民間経済活動を阻害する。したがって、民間との競合の可能性が認められる分野に対して政府が関与する場合、市場からの資金調達等による市場規律の利用や、情報開示の充実を図るなどにより、効率的な組織運営を強化することが重要になる。

民間経済の再生と、簡素で効率的な政府の構築に向けて、このような考え方は、公的部門を改革する上での基礎になってきたといえる。そして、具体的には、財政投融資改革が実施され、それと密接な関連分野として特殊法人改革、郵政事業民営化の取組が行われている。

財政投融資改革については、2001年度から郵貯及び年金積立金の預託義務を廃止して、原則自主運用とし(37)、政策的に真に必要な資金については、財投債の発行により市場から調達することとなった。また特殊法人等は財投機関債の発行により市場から調達を行っている(38)

特殊法人改革については、2002年10月に廃止・民営化等を行う特殊法人を掲げるとともに、新設の独立行政法人については事業の徹底した見直しを行うこととし、2005年度末までの集中改革期間内に法制上の措置その他の必要な措置を講ずる。現在の政策金融8機関については(39)、民間金融機能の回復・強化の状況を見つつ、対象分野の厳選、規模の縮少及び組織の見直し等、2008年度以降のあるべき姿の実現に向けた検討を行うこととしている(40)

財政投融資の入り口部分として、これらと密接な関係にあった郵政事業の改革については、2004年秋頃までに経済財政諮問会議で民営化の基本方針をまとめ、2005年に民営化法案を提出することとしている。

こうした一連の改革の進展に伴って、市場経済の基盤がさらに確立され、民間需要主導型の持続的な経済成長のパターンが定着していくことが期待される。

 金融改革の進捗状況の評価

ここでは、90年代後半以降の金融取引の縮小と国内資金循環の問題を取り上げることにより、まず、不良債権処理の進捗状況について主要行と地域銀行で確認し、次に、金融システムの健全性がどの程度改善しているかについて評価を行った。

それによれば、不良債権問題については着実な改善が図られていることが分かった。ただし、地域銀行については収益性改善の課題が地域経済の構造問題と密接に関係しているため、地域再生を通じた総合的な取組が必要であると考えられる。金融システム全体としては、主要行が中核を占めることから、安全性、基礎収益力が向上しているものの、今後は主要行の銀行経営の多様化が進むことにより、金融システムのリスクへの耐久力が高まることが期待される。

持続する銀行貸出の減少は、企業の銀行借入需要とも関係がある。そこで、上場企業の銀行借入動向について分析すると、ここ数年、銀行借入返済企業の比率に変化はみられないが、借入返済から借入増加に向けての動きが高まっていることが分かった。これは、銀行借入需要が高まっている企業では、より前向きの姿勢が強くなっているということを示唆している。

このような民間部門における改革の進展に対して、公的金融・事業部門においても、民間経済の再生と、簡素で効率的な政府の構築に向けた動きが進展している。これらは、公的部門の役割が重要であることを認識しつつ、できる限り市場メカニズムによる資源配分を有効に機能させる方向で改革を進めようとするものである。具体的には、財政投融資改革、特殊法人改革、郵政事業民営化である。

以上より、金融改革の進捗状況については、一定の進展が認められる一方、さらに努力を払う必要があること、その際、他の分野の構造改革とも密接な関連があること、の2点が十分理解されなくてはならない。そのうえで、経済活動を支える金融仲介機能の一層の改善を図り、民需主導型の持続的な経済成長のパターンを定着させることが重要だと考えられる。