第4節 景気回復の波及が遅れる家計部門

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1 改善に足踏みがみられる雇用情勢

雇用情勢は、失業率や雇用者数などを中心に、2007年半ば頃までは着実に改善が続いてきたが、最近は足踏みがみられる。他方、一人当たり賃金では、所定内給与が伸び悩む中で、2007年の夏のボーナスも振るわなかったため、総じて低調に推移している。

こうした動きは、企業規模別の業況のばらつきに対応して、大企業では労働需要が引き続き強い一方、中小企業では弱い動きが目立ってきたことを反映している。

(失業率は低下してきたが最近は足踏み)

雇用情勢の代表的な指標である完全失業率は、2006年後半から2007年の初めにかけて5ヶ月連続で4.0%であったが、2007年春以降は3%台後半まで改善するなど低下傾向で推移してきた。もっとも、2007年秋には再び4.0%となり、これまでの低下傾向に足踏みがみられる(第1-4-1図)。また、若年層21の失業率は依然として高水準にあるなど厳しさが残っている。

求職理由別に失業者の動向をみると、非自発的な離職による者、自発的な離職による者ともに減少傾向で推移してきたが、このところ増加している。

(雇用者数の増勢は足踏み)

雇用者数も、これまでは増加基調で推移してきたが、2007年半ば頃から足踏み感が強まっている。総務省「労働力調査」ベースでみると、雇用者数は春先にかけて大幅に増加したものの、その後は弱い動きとなっている(前掲第1-4-1図)。

産業別にみると、情報・通信業や飲食店・宿泊業が2007年初以降増勢が続いている一方で、比較的高い伸びが続いていた医療・福祉、サービス業、教育・学習支援業などにおいて弱含みとなっている。

企業の従業員規模別では、500人以上の大企業では引き続き堅調な動きを示しているが、1~29人や30~99人規模の中小、零細企業を中心に下押し圧力が働いており、中小企業の業況の弱さが雇用者数にも波及しつつある。

中小企業の業況と雇用者数の関係をみると、おおむね同様の動きとなっている(第1-4-2図)。2006年春から夏にかけて業況が悪化している中小企業の割合が増加しており、この時期に1~29人規模の企業の雇用者数も増勢が鈍化している。その後、業況は秋にかけて持ち直したものの冬以降総じて悪化傾向をたどっており、雇用者数も同様に2006年12月に減少に転じた後、弱い動きとなっている。

また、厚生労働省「毎月勤労統計」の常用雇用指数は、2007年中、緩やかながら増加が続いている。「毎月勤労統計」は、5人以上の事業所を調査対象とするため、全ての規模の企業の雇用者を対象とする「労働力調査」と比べ強めの数字となっていると考えられる22

(有効求人倍率は高水準だが横ばいから弱含みの動き)

有効求人倍率はすう勢的に増加してきたが、2006年秋以降、東京労働局による労働者派遣事業者及び請負事業者からの求人に対する取扱いの適正化(コラム1-2)の影響もあって、おおむね横ばいで推移した後、やや弱含んでいる。ただしその水準は、2006年以降1倍を超えており、依然、労働需給は引き締まっていると判断される。この間、正社員の有効求人倍率は、やや弱い動きとなっている。

一方、新規求人倍率についてみると、2006年夏頃まではすう勢的に増加してきており、高水準で横ばいで推移した後、やや弱い動きとなっている。その水準は2006年から2007年にかけて1.5倍前後での動きとなっている(第1-4-3図)。

(新卒求人数は増加、ハローワーク経由の求人数は減少)

職業安定業務統計の新規求人数をみると、2006年半ばからやや減少傾向となっている(第1-4-4図)。企業の雇用不足感が高まっているにもかかわらず、なぜ新規求人が比較的長期にわたって減少しているのだろうか。

一つには、職業安定業務統計の新規求人数はハローワークで受理した求人に限られ、新規学卒者は含まれていないことが挙げられる。実際、大学や高校の新卒者の労働需給はここ数年引き締まった状態が続いている(第1-4-5図)。また、前述の派遣・請負等に対する取扱い適正化の指導により、2006年夏以降、東京を中心として、就業地が不確定である等の不適正求人が減少したことも寄与した可能性がある。民間で扱っている求人を集計した求人広告掲載件数が増加を続けていることも、企業の雇用不足感の高まりを裏付けている。

しかしながら、必ずしも求人適正化により求人数が減少した請負業が多いとは考えられない業種でも最近は求人数が弱含んでいること、新規求人数は雇用者数に先行して動く傾向にあることなどを踏まえると、新規求人の減少が今後さらに雇用者数の減少につながる可能性があることに留意が必要である。

コラム1-2 新規求人の適正化

1 問題の所在

労働者派遣事業者及び業務請負業を行う事業者による派遣登録の勧誘、求職者情報を営業活動に利用すること等を目的とした不適正な求人申込みが相次いだ。

【不適正事例】

 公共職業安定所の求人票から内容をそっくり真似て、労働者派遣契約を締結していないにもかかわらず当該求人者を派遣先とする求人が申し込まれた。

 請負契約が成立していない建設現場等、速やかに就業できる状況にない場所を就業場所として大量の求人が申し込まれた。

 労働者派遣契約の勧誘をしただけで契約を締結していない企業を派遣先として求人が申し込まれた。

2 東京労働局、厚生労働省による指導内容

2006年8月17日に東京労働局は「ハローワークで受け付ける「派遣」「請負」求人の適正化の推進について」を発出し、管下の公共職業安定所に対し、事業者への周知活動、求人受理時における厳正な確認等の指示、適正化を推進することとした。23

同様に、2007年9月28日に厚生労働省は「ハローワークで受け付ける派遣求人等に対する取扱いの更なる徹底について」を発出し、派遣求人等の更なる適正化に取り組んでいるところ。

3 東京以外の労働局の対応

東京労働局および厚生労働省による指導と足並みを揃えて、東京以外の各地労働局においても請負・派遣求人適正化の動きが広がっている。

愛知労働局は、2007年5月に適正化に関する通達を管下の公共職業安定所に発出し、8月から本格的な取組を始めたところ。加えて東海4労働局(愛知・静岡・岐阜・三重)において「請負・派遣適正化合同キャンペーン」として、2006年に続き、10月~12月の3ヶ月間、関係部局及び労働基準監督署・公共職業安定所等の連携のもと、「研修会の開催」、「自主点検活動の促進」、「個別指導監督の集中的実施」等の諸取組を展開することとしている。

4.統計への影響

東京都における新規求人数をみると、2006年7月時点で12万人であったが、東京労働局の求人適正化以降急激に減少し、2007年10月時点で約10万人となった。(同時期の全国計の新規求人数も2006年8月時点で約87万人、2007年10月時点で約78万人と約9万人の減。)

これら請負・派遣労働の適正化が新規求人の減少の一つの要因と考えられる。今後も各地で求人の適正化の動きが広まるにつれ、統計上、新規求人の減少として表れる可能性がある。

(定期給与は横ばい、ボーナスは減少)

雇用者数の足踏みは最近のことであり、労働需給は引き締まり傾向であるにもかかわらず、一人当たり賃金は2006年から伸び悩んでいる。具体的には、定期給与は横ばい圏内で推移し、現金給与総額は弱含みで推移している(第1-4-6図)。

2006年以降、定期給与が横ばい圏内の動きとなっている要因としては、パートタイム労働者の比率が高まっていることもあるが、フルタイムの労働者の所定内給与の伸びが鈍化したことによるところが大きい。これには、(1)2007年前半においてはフルタイム労働者における非正規比率が高まっていたこと、(2)相対的に高い賃金を得ている団塊世代が定年を迎え、退職者が増加したこと、(3)2006年4月から始まった地方公務員の給与構造の見直しの影響を受けて、教員等の給与が(平均でみると)低下してきたことなどの構造的な下押し要因が複合的に作用していると考えられる24

こうしたなかで、2007年夏のボーナスの落ち込みが現金給与総額の押し下げに寄与した。「毎月勤労統計調査」によると、2007年度の6-8月の特別給与支給額は前年比▲2.4%25と3年振りの減少に転じた。これまで企業収益が増加してきた中で平均的にはボーナスが減少しているのは、雇用者数のウエイトが高い非製造業や中小企業で、収益の増勢がやや鈍化したことを反映しているとみられる。

コラム1-3 事業所規模別にみた2007年の夏季ボーナス

「毎月勤労統計調査」(以下「毎勤」)において夏季ボーナス支給額が減少となった要因を、企業規模別、製造・非製造業別に6~8月平均の特別給与の動向からみると26、500人以上規模の製造業において前年比2.8%と増加が続く一方で、500人以上の非製造業と500人未満の事業所では減少となっており、中小企業や大企業・非製造業が夏季ボーナスの減少に大きく寄与したとみられる(コラム図1-4)。

「毎勤」のほかにも、各種民間企業・団体がボーナス支給に関する調査を発表している。これらの結果によれば、2007年度の夏季ボーナスは前年比2~3%で増加が続いている(コラム図1-5(1))。

「毎勤」の特別給与が前年割れになったのに対し、民間調査で前年比増加となった要因としては、民間調査の調査対象が、(1)大企業のみであり中小企業を含んでいないこと、(2)大企業の中でも製造業が多く非製造業は少ないこと、が挙げられる。これは「毎勤」においても500人以上規模の大企業製造業の特別給与は高い伸びであったことと整合的である(コラム図1-5(2))。他方で、500人未満の中小企業や500人以上の大規模非製造業では特別給与が弱含んでおり、このことが、「毎月勤労統計調査」と各種民間調査のかい離をもたらしたと考えられる。

なお、2007年冬のボーナスについては、各種民間調査で前年比増加が見込まれているが、2006年までと比べて増加率が鈍化している。上記の分析を踏まえると、「毎勤」ベースでは冬の特別給与は減少する可能性が高い。

コラム図1-6

2 力強さに欠ける家計所得

家計所得の大部分を占める雇用者所得は、一人当たり賃金が伸び悩む中で、最近では横ばい圏内の動きとなっている。他方、財産所得では、配当収入が堅調に増加しているほか、低金利が続いているものの利子収入も増加しているとみられる。個人消費の原資である可処分所得は、これらに年金等の再分配所得等を加え、税や年金保険料などの社会保障負担を控除したものであるが、これらの加算・控除項目は2007年度についてはこれまでのところプラスとなっていると考えられる。

(ボーナスの減少が雇用者所得の伸びを抑制)

実質雇用者所得の動きをみると、2006年前半までは前年比2%前後の伸びで推移していたが、その後はわずかな伸びにとどまっている(第1-4-7図、この図では実質ベースで分析)。この間、雇用者数は一貫して雇用者所得の押上げに寄与しているが、一人当たり賃金が弱い動きとなっている。

賃金の動きを定期給与とボーナスを含む特別給与に分けると、定期給与は2006年半ば以降押下げに寄与していたが、2007年半ばからはほとんど寄与のない状態となっている。他方、特別給与は2007年夏に大きく押下げに働いているが、これはボーナスが減少したことを反映している。

(新卒者の労働市場参入によるマクロの雇用者所得へのプラス寄与は縮小の見込み)

前述のとおり、2006年度以降の定期給与の伸び悩みには、団塊世代の退職が平均賃金を押し下げる効果が寄与している27。その一方で、マクロの消費への影響の観点からは、平均賃金ではなく雇用者所得に対する効果をみる必要がある。そこで、ここでは高齢者が60歳で退職することによる効果と60歳になっても働き続ける場合に賃金が低下する効果、さらには新規学卒者の就職による雇用者所得の押上げ効果を合わせて試算してみよう28。その結果、2006年度までは、新卒者の就職による押上げ効果が高齢者の退職等による効果を上回っているが、2007年度以降は、これらがほぼ相殺し合うと考えられる(第1-4-8図)。

これは、2007年度からは、人数の多い団塊世代の退職等の効果が通年で現れることに加え、若者層の人口が減少しており、その押上げ寄与が小さくなると考えられることによる。

(可処分所得を押し上げる財産所得)

今回の景気回復局面が始まった2002年以降、好調な収益や配当政策の変化等により企業は配当の支払いを大幅に増やしてきた。この間、家計が受け取る配当も大幅に増加しており、年々、可処分所得を押し上げる程度は増してきている。2005年にはおよそ290兆円の可処分所得に対して7兆円強を占め、2006年にはさらに約30%増加し10兆円弱となったとみられる。可処分所得に対する押上げ寄与度でみても雇用者所得のそれに次いで大きなものとなっている。

2007年については、企業収益の増加ペースは鈍化する可能性があるが、家計が受け取る配当については、引き続き前年比で増加していくことが見込まれる。

(税制・社会保障制度改正による家計負担増)

2006年から2007年にかけては様々な税制改正や社会保障制度改正29が行われ、家計の負担は増加している。また、これらの改正は異なるタイミングで開始され、家計の受益と負担に変化が生じている。さらに、2007年は国から地方への税源移譲に伴い、給与所得者や年金受給者の多くは1月から12月まで所得税が減少する一方、6月から翌2008年5月までは住民税が増加する。これらの変化を合算すると、2007年1月から5月までは前年に比べ家計の負担は減少し、6月以降は増加となるなど、可処分所得のパターンに変化をもたらしている(第1-4-9図)。

税制・社会保障制度改正による家計の負担増を年度ベースでみると、2006年度で2.3兆円増、2007年度で1.6兆円増となる。ただし、年金受給者の増加により、年金給付が2006年度で1.2兆円増、2007年度で1.5兆円増となるとみられ、マクロ的には純可処分所得(家計が消費や貯蓄に回すことができる部分で、固定資本減耗を控除したもの)への影響はある程度相殺されると考えられる。

3 伸び悩む個人消費

(個人消費は持ち直しから横ばいへ)

個人消費は2006年の夏場に長梅雨などの一時的な天候不順により伸びが鈍化したものの、10-12月期には夏前の水準を上回り、ならしてみるとおおむね横ばいでの推移となった(第1-4-10図)。2007年に入ると、暖冬の影響もあって春物消費が早めに立ち上がったことなどから、個人消費は持ち直しの動きがみられるようになった。その後もならしてみれば改善が続き、消費は持ち直していたが、7月には前年を上回る長梅雨などの天候不順の影響で前月を下回った。8月の猛暑によってある程度戻したものの、基調としては、夏場以降おおむね横ばいとなっている。

このように2006年半ば以降、足下までの消費を振り返ると、その動向は天候により左右されるような弱さを持っているといえる。その背景には、可処分所得や消費者マインドに強さがみられないことなどがある。

(天候要因が個人消費の動きを左右)

消費の基調は、一般論として、所得やマインドによって決定されると考えられる。しかしながら、これまでの動向をみると、短期的には季節的な天候要因の影響を受けてきている。例えば、2004年の景気の踊り場の時期にあった多数の台風上陸は消費の伸びを鈍化させたとされる(付図1-4)。また台風以外にも、降水量や日照時間なども消費に少なからず影響を与えてきているとされている。

そこで、消費判断の基礎的な情報を提供する消費総合指数の月次伸び率と、毎月の降水量(逆符号)、日照時間をそれぞれプロットしてみると、それらの間にはある程度の相関がみられることが分かる(第1-4-11図30。特に、2007年前後の消費の大きな変動と降水量及び日照時間の多寡が同じ方向性を示していることをはじめ、2006年後半の一時的な消費の伸びの鈍化も両天候要因と同方向の動きをしていることがうかがえる。

(耐久消費財の伸びの弱さの背景にみられる賃金の伸び悩み)

雇用者所得を賃金と雇用に分けて消費への影響度合いの違いをみることによって、弱含みが続く賃金と前年比ではもちこたえている雇用の影響を個別に考えることが可能になる。

我が国においてはバブル期前後に消費の構造が変化している可能性があることから31、ここでは1991年以前と92年以降に分けて考える。両期間について消費の所得弾力性を計測すると、91年以前に比べ92年以降は、消費の所得弾力性のうち賃金に係る部分が若干上昇したものの、雇用に係る部分が低下した結果、全体としての消費の所得弾力性が低下した(第1-4-12図)。一般に、耐久消費財は、他の財・サービスに比べて所得弾力性が高く、そのうち多くが賃金弾力性であると考えられる32。したがって、消費全体に占める耐久消費財のシェアが高まると、雇用者数の増加以上に賃金の上昇が、消費全体の増加の観点からより重要な役割を果たすことになる。このことから、最近の賃金の低下は消費、特に耐久消費財の消費にマイナスの影響を与えている可能性があることに注意が必要である。

なお、耐久消費財の動向をみると、ストック循環の効果がかつてほどみられなくなったことが特徴として挙げられる。1980年代後半から91年にかけて、耐久財のストック33が徐々に積み上がり、それにあわせて耐久消費財の消費も低下する一方、92年から95年にかけては、ストックの増加が縮小したことにあわせて、耐久消費財の伸びが高まった(第1-4-13図)。しかしながら、2002年以降、ストックの下押し圧力に変化がないものの耐久消費財は変動しており、ストック循環の説明力はかつてほど明示的にみられなくなっている。

(家計金融資産の評価損益は個人消費にそれほど影響しない可能性)

家計金融資産の推移をみると、1980年代、90年代は主に現・預金の増加による簿価の純増によって金融資産全体が増加していたのに対し、2003年以降は主として株価の上昇による評価益が全体の増加に寄与している。2004年以降は簿価も若干増加しているが、この理由としては、株価上昇にやや遅れて投資信託への投資が増加したこと、2006年夏場以降に団塊世代の退職が始まり、投信や債券への投資の増加、年金準備金の増加が生じた可能性があることなどが挙げられる(第1-4-14図)。

このように家計金融資産の増減は、株価の変動に大きく左右される形となっている。今回の景気回復局面では個人消費と家計金融資産の相関関係は以前と比べ弱まっているが、これは株式の評価損益の増減に伴う金融資産の増減は、恒常所得の増減とは捉えられていないため、消費の増減に直接的には結びつきにくくなっている可能性を示唆している。

2007年夏には、アメリカのサブプライム住宅ローン問題などの影響を受けた欧米の株価下落等を背景に、日本の株価も下落し、これによって家計金融資産には評価損が発生したとみられる。このため家計金融資産の増加率のうち評価益による寄与はマイナスに転じたと考えられる。しかし、上述のように、株式の評価損益が直接的に消費に結びつきにくいとすれば、今回の株価下落は消費を大きく減少させる要因とはならないことになる。また、金融資産と消費の関係が復元するためには、現預金、投信・債券等を含めて家計金融資産残高が簿価で安定的に増加することが必要と考えられるが、これは所得の増加などが伴わなければ実現されにくいといえよう。

(消費者マインドは弱い動き)

家計消費は所得の動向とともにどの程度消費意欲を持つかという消費者の態度にも影響される。消費に対する態度を表す消費者マインドは、2006年半ば以降、おおむね横ばいで推移していたが、2007年中頃から弱い動きとなっている。消費者態度指数のほか、景気ウォッチャー調査などにおいても、このところ消費者マインドが悪化している(第1-4-15図)。その理由として多くの調査で回答者が、6月には定率減税廃止・税源移譲にともなう住民税の増加、ガソリン価格の高騰などを挙げ、9月にはガソリン価格の高騰や食料品の値上げ等を挙げている。さらに、足下の株価の下落は直接的に家計金融資産の減少につながるだけでなく、株式を保有していない世帯のマインドに対しても、景気見通しの変化を通じて間接的に影響を及ぼしているとみられる。

(平均消費性向は緩やかに回復)

このように各種調査に表れた消費者マインドは弱い動きとなっている一方、消費者マインドの影響を受けていると考えられる平均消費性向は、低水準にあるものの緩やかに上昇している。

「家計調査」(農林漁家を除く全国の勤労者世帯)をもとに平均消費性向と可処分所得の関係を1990年以降についてみると、今回の景気回復局面ではそれ以前と比べ、「ラチェット効果」(ラチェット=歯止め)が大きくなっている(第1-4-16図)。すなわち、可処分所得が一時的に変動しても消費はそれほどには変動しない。この背景として、長期的には消費はサービス化により変動が小さくなり、景気感応的ではなくなってきているとみられることや、将来所得の増加を見込むことが難しくなる中で、景気回復期でもそれほど消費を増やさないことなどが考えられる。

平均消費性向を可処分所得と消費支出の寄与に分けると、2006年は可処分所得が緩やかに増加していた一方、夏場以降消費支出が大幅に落ち込み、平均消費性向が低下する形となっている。一方、2007年1~10月平均の前年同期比では、消費支出の増加が可処分所得の増加を下回り、平均消費性向はやや低下している(第1-4-17図)。なお、平均消費性向の変動を世帯主の年齢階級別にみると、2007年は団塊の世代を含む50歳代が押し上げていることが分かるが、この世代は2006年夏に最も大きく消費水準を低下させた年齢階級であり、この世代の消費が2006年夏前の水準に自律的に回帰していく動きの影響が大きいと考えられる。

コラム1-4 高齢者世帯の増加がマクロの消費を安定化させる可能性

進行する我が国社会の高齢化は、今後の経済にとって大きな影響を与える可能性がある。日本の高齢化率34は主要先進国の中で最も高い水準にあり、その伸び率も他国より高く、2040年代に入ってもなお高齢化が進行すると見込まれる(コラム図1-7)。高齢化は、マクロの経済成長にとっての懸念となりうるが、消費に与える影響は一様ではない。OECD(2005)の将来予測によれば、我が国や同様に高齢化率の高まりが予想されるイタリアでは保健・医療や光熱関係の支出は増加することになる(コラム図1-8(1))35。その一方で自動車及び関連サービス(自動車等)は減少し、教育も2020年代をピークに減少に向かうとされ、長期的にみれば消費支出の構成に大きな変化が生ずると予想されている。

こうした、高齢化社会における消費行動の変化が、消費支出の変動の振幅に影響を及ぼすことも考えられる。これまで変動、シェアとも大きかった自動車等のシェアの低下は、全体としての変動を小幅にする可能性がある(コラム図1-8(2))。一方で、我が国では「住宅・光熱」が最も変動が小さくシェアが高いが、統計上ここから「光熱」だけを取り出すことができず、光熱費の増加が消費を安定化させるかどうかは不明である。他方、イタリアでは、自動車等のシェアが低下し、住宅のシェアが上昇するため、全体として消費の変動が小幅になることがある程度予想されている。

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