第3節 好調だった企業部門
1 再び増加に転じた生産
鉱工業生産は、2007年に入って一部に弱い動きがみられ、踊り場的な状況に陥る懸念もあったが、堅調さを取り戻した外需の支えもあって、夏場以降再び増加に転じた。
(情報化関連生産財の在庫調整が進展)
鉱工業生産は、2005年後半以降、世界的な情報化関連生産財(「電子部品・デバイス」からスイッチ、カラーテレビ用ブラウン管等を除き、リチウムイオン蓄電池等を加えたもの)の需給改善や、アジア向けを中心とした輸出の持ち直し、設備投資の増加などに支えられて緩やかな増加基調をたどり、2006年12月には過去最高水準を更新した。その一方で2006年半ば以降、デジタル家電の需要増加や年末商戦における需要を見込んで、メーカーが強気の姿勢で生産を増加させたが、そのペースが出荷の伸びを上回り、情報化関連生産財の一部で在庫が増加した。
2007年に入ると、(1)2006年後半に高い伸びを示した反動もあって、輸送機械や一般機械の生産が減少したこと、(2)情報化関連生産財において、在庫の増加を受けて一部で生産を調整する動きがみられたことなどによって、鉱工業生産は横ばいとなった。しかし2007年半ば以降は、情報化関連生産財の生産が増加に転じたことなどを受けて、生産は増加している(第1-3-1図)。
情報化関連生産財の生産が増加に転じたのは、年末商戦に向けた製品の作り込みの活発化を受けて出荷が堅調な伸びを示し、在庫調整が進展したことによる。足下では出荷・在庫ギャップがプラスに転じており(第1-3-2図)、在庫調整局面を脱したものと考えられる。なお、今回の在庫調整は緩やかに進展し、生産を抑制する動きも比較的小さかったことから、2004年における踊り場的状況の局面と比較して、鉱工業生産全体に対して及ぼした下押し圧力は軽微であったと考えられる。
(新潟県中越沖地震の影響で自動車の生産が一時的に減少)
こうした中、2007年7月の新潟県中越沖地震により自動車部品メーカーが被災し、部品供給が停止したことから、自動車関連産業では減産を余儀なくされた(減産規模は完成車で約13万台超)。これを反映して、7月の鉱工業生産は減少(前月比▲0.4%)となった16。内訳をみると、輸送機械の減少(▲1.1%ポイント)が大きく寄与しており、その大半(▲1.0%ポイント)を乗用車と自動車部品が占めている(第1-3-3図)。
7月の製造工業生産予測調査時点17で、輸送機械が7月、8月ともに増産見込みとなっていたが、これに加え、8月以降は地震の影響による減産を取り戻すために増産が行われたことから18、輸送機械の生産は増加しており、情報化関連生産財の生産回復とともに、鉱工業生産全体を押し上げる要因となっている。
2 高水準ながら増勢が鈍化した企業収益
全産業の売上高は2007年7-9月期の時点で18四半期連続の増加となった。一方、経常利益はほぼ前年並みとなっており、高水準で推移している。しかし、このところの円高や原油価格の高騰を背景として、これまで全体を牽引してきた大中堅企業の増勢に鈍化がみられているほか、中小企業においても依然として回復感が乏しい。また、倒産件数がやや増えてきたことなどにも注意が必要である。
(企業収益は業種、規模によりばらつき)
2007年の経常利益の推移をみると、景気回復が続く中で、業種、規模によって異なった動きとなっている。
業種別にみると、製造業は、大中堅企業を中心に売上高の増加が続いているが、夏場以降、原油価格・原材料価格の高騰を背景に、変動費が経常利益の減少要因となっている(第1-3-4図(1)(3))。
規模別にみると、中小企業は、人件費の増加が経常利益の圧迫要因となっており、特に2007年4-6月期以降、製造業において大きな圧迫要因となっている(図において大中堅企業と中小企業では目盛の間隔が異なることに注意)(第1-3-4図(3)(4))。
また、大中堅の非製造業は、2006年10-12月期以降、売上高のプラス寄与の縮小が続いており、2007年7-9月期には、卸売業、運輸業、サービス業を中心に売上高がマイナス寄与に転じている(第1-3-4図(2))。
海外製品を含めた競争激化などを背景に、大中堅企業でも素原材料価格の販売価格への転嫁が困難な状況にある中、中小企業ではより厳しい状況にあることが示唆され、効率化に努めてもコスト増加を吸収しきれない状況にあるとみられる。
なお、最近の企業行動の特徴として、収益改善に伴う配当の増加が挙げられる。上場企業の財務キャッシュフローの内訳をみると、今回の景気回復局面の初期(2002~2003年度)には、財務内容の改善が急務となっていたため、有利子負債の削減幅が大きかった。2004年度頃からは、有利子負債の削減幅が縮小する一方、収益力の改善に伴う配当の増加が鮮明となっている(第1-3-5図、付図1-2)。グローバル化の進展に伴うコーポレート・ガバナンスのあり方の変化などを背景に、企業は株主重視の経営姿勢を強めていると考えられる。
(円高と原油価格高騰が先行き懸念材料)
このように業種間、規模間でばらつきがみられ、高水準ながら増勢が鈍化している企業収益であるが、先行きについてはさらに以下の懸念材料がある。
まず、夏場にかけて発生したサブプライム住宅ローン問題に端を発した円高である。実際に日銀短観(9月調査)の想定為替レートをみると、2007年度下期は上期より円高を想定している(第1-3-6図)。短期的には為替予約を導入している企業が多いとはいえ、輸出取引のドル建て比率が5割程度と高いことから、想定を大きく上回る円高水準が定着した場合には収益面に影響を及ぼす可能性がある。なお、対ユーロでは引き続き円安傾向となっており、特に輸送用機械、一般機械などでは収益面で追い風となっている(輸出取引のユーロ建て比率は1割弱程度)。
また、このところ原油価格が再び高騰している。こうした動きが続く場合、価格転嫁が難しい中小企業を中心に、これまで以上に収益が圧迫される可能性がある。
(倒産件数は緩やかな増加傾向)
企業の倒産件数は2007年度以降、緩やかな増加傾向をたどっており、2007年7-9月期においては3,465件となっている(第1-3-7図(1))。倒産件数(前年比)を業種別にみると、2006年から公共工事の減少等を背景とした地方における建設業の倒産に加え、2007年以降は、卸売業、小売業、サービス業といった内需型産業の倒産が目立っている。また、資本金別では、2007年以降、資本金1億円未満といった比較的小さい企業の倒産が全体を押し上げている。
一方、負債金額別にみると、2007年以降、5億円未満の倒産が全体の件数を押し上げており、10億円以上の大型倒産の件数は落ち着いている。このように今景気回復局面を通じて、倒産の小規模化が進んでおり、一件当たりの平均負債額(負債総額/倒産件数)は、すう勢的に減少傾向をたどっている(第1-3-7図(2))。
3 増加基調が続く設備投資
高水準の企業収益を背景にキャッシュフローが潤沢なことや、長期にわたる景気回復により企業が想定する期待成長率が上昇してきている19ことなどから、設備投資は基調として増加を続けている。ただし、企業収益と同様に中小企業では相対的に弱い動きとなるなど、業種別、規模別にばらつきが目立つ。
(設備投資は4-6月期に減少したが基調は増加)
まず設備投資を需要側統計である「法人企業統計季報」でみると、2006年4-6月期以後、前期比ベースでおおむね増加傾向で推移してきた。2007年4-6月期には一時的に大きく減少したが、これには標本替えに伴う技術的な要因が影響している可能性もある(第1-3-8図)。
日銀短観(9月調査)で2007年度の設備投資計画をみると、2005、2006年度と比べて伸びは鈍化するものの、全規模全産業で5年連続の増加が見込まれており、設備投資は基調として増加していると考えられる(第1-3-9図)。実際、設備投資の先行指標である機械受注(民需(除く船舶電力))は、7-9月期には増加に転じ、10-12月期も増加が見込まれている。ただし、設備投資の約4分の1を占める20建設投資の先行指標である建築着工工事費予定額(民間非居住用)は、改正建築基準法施行の影響もあり、足下では減少している(第1-3-10図)。
(業種別、規模別にばらつきがみられる)
設備投資も、業種、規模によりばらつきが目立っている。製造業、非製造業の2007年度の設備投資計画はそれぞれ前年比6.8%増、3.8%増と引き続き増加を見込む計画である。ただし、製造業のうち大企業では12.1%と4年連続で2桁増加となっているのに対し、中小企業では2006年度の反動もあるとみられるものの、9月時点では▲13.6%と2002年度以降の今回の景気回復局面で最も低い水準にとどまっている。また非製造業も大企業では6.7%と3年連続での増加となっているのに対し、中小企業では▲8.9%と2002年度以降では2004年度に次いで低い水準となっている(第1-3-11図)。
このように、設備投資計画では規模別の違いが大きいが、業種間のばらつき(ここでは、標準偏差で測る)はどうなっているだろうか(第1-3-12図)。一般に、設備投資の業種間のばらつきは、景気回復局面で拡大し、後退局面で縮小する傾向がみられる。好況期には、景気回復の恩恵を受けやすい業種が平均から外れる形で積極的に設備投資を行う一方で、不況期にはそうした業種が表れることが少なく、全体としてばらつきが収れんする傾向があると考えられる。
しかし、今回の景気回復局面で試算した場合、業種間のばらつきは、過去の平均的な水準と比べて大きくなっている。これを規模別に分けると、大企業ではバブル期と同程度のばらつきであるが、中小企業では過去にない大きなばらつき度合いを示している(付図1-3)。もっとも、中小企業では、2006年になって過去と同程度のばらつきに戻っている。
(中小企業サービス業ではキャッシュフローと同規模の設備投資)
設備投資は、全体としてはキャッシュフローの範囲内で行われてきたとされるが、この点でも実際は業種、規模によって様相が異なる。大中堅企業の全産業ではキャッシュフローの増加ペースに見合った形で設備投資が増加してきている。一方、中小企業の非製造業では、依然キャッシュフローの範囲内ではあるものの、設備投資の増加ペースがキャッシュフローの増加ペースを上回っている。なお、中小企業のうち、非製造業で最も大きなシェアを占めるサービス業(4割弱~5割程度)では、キャッシュフローの水準は設備投資とほぼ同程度となっている(第1-3-13図)。
今後、各企業が設備投資をさらに進めるに当たって、規模別、業種別に異なる資金制約(キャッシュフローの問題)に直面することも考えられ、企業収益や資金繰りの動向をきめ細かく注視することが必要である。