第2節 好調だが先行き予断を許さない海外部門

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1 不安定な動きを示した外国為替市場

(長期にわたる円安基調から対米ドルでは円高へ)

今回の景気回復局面において、円レートは長期にわたって円安方向に推移してきた。そのことが、輸出関連業種を中心に回復を牽引してきた一つの背景となっている。この点を端的に確認するには、様々な通貨に対する為替レートを貿易ウエイトで加重平均し、内外の物価上昇率をも考慮した「実質実効為替レート」を用いる。それによれば、2007年半ばに円レートは、1985年のプラザ合意頃と同程度の円安となった後、やや円高方向となっている(第1-2-1図(1))。

最近の動きを主要通貨についてみると、対米ドル円レートは、日米金利差拡大等を背景に、2005年以降、円安方向で推移してきており、2007年1月には約4年振りの円安水準(121円99銭/ドル)となった。その後、2月の中国株価の下落を発端として世界的に株価が下落する中で、投資家によるリスク回避の動きが広がり円キャリートレード(後述)解消の動きなどから円高方向となったが、6月以降は、アメリカ長期金利の上昇などにより再び円安方向(123円/ドル台)に推移した。

7月以降、サブプライム住宅ローン関連商品の格付けの一斉引き下げ、金融機関等による同関連の損失計上、住宅関連指標の悪化などが報じられる中、アメリカ経済の減速懸念や信用収縮懸念が広がり、円キャリートレード解消の動きなどを受けて、円高方向で推移している。この間、アメリカにおいては公定歩合の引下げ、フェデラルファンド金利引下げやアメリカ経済の堅調さを示す指標の発表などもあり、為替レートは振れを伴う動きとなっている(第1-2-1図(2))。

他方、対ユーロの円レートは、2000年以降、金利差等を背景に基本的に円安方向で推移している。2月および7月の世界的な株価下落時には、円キャリートレード解消の動きなどを受けて円高方向に推移したものの、その後は金利差の拡大等を背景に円安方向に進む地合いが強まっている。

(急激な円高の背景に円キャリートレード解消の動き)

2005年以降、我が国と海外の金利差等を背景に、円で調達した資金を高金利通貨で運用する円キャリートレードが活発に行われてきたとされる5。こうした取引がどの程度の規模で行われているのかを正確に把握することは容易ではないが、シカゴマーカンタイル取引所における通貨先物取引や、我が国における外貨建て投資信託の購入の動きなどからある程度推測することができる。

まず前者については、これまで円先物の売り持ち(ショートポジション)が買い持ち(ロングポジション)を大幅に上回りネットで売り持ちとなっていたことが、円キャリートレードの活発さを示している。しかし2007年中の動きをみると、円先物の買い持ちは安定しているが、売り持ちは大きく変動している。すなわち、2月に一度売り持ちが減少した後、世界的な株価の上昇を受けて増加したが、夏場以降、アメリカのサブプライム住宅ローン問題に端を発して金融資本市場が混乱、株価も大幅に下落するなかで、投資家のリスク回避姿勢を背景に円キャリートレード解消の動きがみられた(第1-2-2図(1))。

また、国内での外貨建て投資信託の購入状況をみると、2006年半ば以降、振れを伴いながらもすう勢的に増加幅が拡大してきた。2007年夏場にはやはり大きく落ち込み、その後も増加幅は振れを伴う動きとなっている(第1-2-2図(2))。

2 堅調さを取り戻した外需

2007年の外需は、4-6月期に若干減少したものの、その後再び増加に転じ、需要を下支えした。ここでは、その主要な内訳である、財の輸出と輸入の動きを、数量ベースでみていこう。

(輸出は増加基調)

輸出は、2007年の初めから横ばいで推移した後、年半ばから中国を中心としたアジアにおける景気拡大、EUにおける景気回復などを背景に、増加基調となっている。

アジア向け輸出は、中国等の生産の拡大を背景に電気機器の輸出が増加し、全体としても増加している。EU向け輸出は、域内各国における好況を背景に、建設機械を始めとする一般機械の輸出が増加し、堅調に推移している。一方、アメリカ向け輸出は2007年の初め以降、2006年後半に輸出が急拡大した自動車の反動減を主因として減少傾向となり、2007年4-6月期には2006年10-12月期と比べ大幅減となった。ただ、2007年後半には、アメリカ向け自動車の輸出は持ち直しつつあり、輸出全体でも緩やかな増加基調が続いている(第1-2-3図)。

輸出の先行きを占う場合には、輸出財の「最終消費地」6として重要なアメリカ経済の動向に注意する必要がある。2007年後半からは、サブプライム住宅ローン問題による先行き懸念もあり7、OECD景気先行指数は、全体、アメリカともに6ヶ月前年比でピークアウトしている8第1-2-4図)。したがって、輸出の先行きについては予断を許さないものがある。

(輸入は緩やかな減少基調)

輸入は、2007年の初めから横ばいで推移した後、緩やかな減少基調となっている。

地域別にみると、アジアからの輸入は、年前半には国内の生産が横ばいでであったことを背景に機械機器が減少、その後も消費財などを含め低調で、全体として緩やかな減少傾向となっている。また、アメリカからの輸入も同様の理由で緩やかな減少傾向となっている。一方、EUからの輸入については、逆輸入車の増加等を背景に機械機器の輸入が増加し、緩やかに増加している。

品目別にみると、機械機器の輸入の減少が大きく、2007年4-6月期には2006年10-12月期と比べ大幅減となった。なかでも、半導体電子部品の輸入で減少が目立ち、2007年4-6月期には2006年10-12月期と比べ2割程度の減少となった9。2007年半ば以降は、国内の電子部品・デバイスの在庫調整の進展を受けて生産が回復し、半導体電子部品を中心に機械機器の輸入は持ち直している。しかし、全体としては、機械機器の輸入の持ち直しは依然として限定的であり、輸入は緩やかな減少基調となっている(第1-2-5図

3 原油高等に伴う輸入支払の増加を投資収益でカバーする国際収支

年々対外純資産を積み増してきた我が国においては、投資収益の受取が継続的に増加している。このことは、GDPとGNI(国民総所得)の間のかい離をもたらしている。また、原油・原材料高などにより我が国の輸入支払が増加しているが、それでも経常収支の黒字が拡大しているのは、まさにこの投資収益の増加がカバーしているからである。

(貿易・サービス収支の黒字は横ばいに)

貿易・サービス収支の黒字は、(3ヶ月移動平均で基調をみると)2007年中頃に一度縮小する局面があったが、総じてみれば拡大傾向で推移している(第1-2-6図)。

貿易収支については、2007年前半は輸出額が横ばい、輸入額が弱含みであったが、2007年半ばには輸入額も増加に転じ、一時的に黒字が縮小する局面があったが、総じてみれば拡大傾向にある(第1-2-7図)。輸入数量が減少しているにもかかわらず輸入額が増加となったのは、原油・原材料価格の高騰などを受けて輸入物価が上昇しているからである。

サービス収支については、長期的には赤字幅は縮小傾向をたどってきた。これは、金融を始めとしたサービスの生み出す付加価値が高まっており、さらにサービス取引の活発化が反映される「その他サービス」10の受取超による(第1-2-8図)。ただ、2006年から2007年に至るまでの動きとしては、「その他サービス」収支の黒字幅が横ばいとなり、サービス収支の赤字は全体として横ばいで推移した。このように、2007年においては、貿易収支の黒字が拡大傾向、サービス収支の赤字が横ばいで推移した結果、貿易・サービス収支の黒字は総じてみれば拡大傾向で推移している。

(海外からの投資収益増で経常収支は拡大)

2007年の経常収支の黒字についてみると、2007年4-6月期においては、対名目GDP比で5%を超えた。一方、資本収支の赤字(流出超)は、外債投資の減少などを背景として小幅拡大している。また、外貨準備増減は増加幅がアメリカなどの金利上昇等を背景に増加幅がやや拡大している(第1-2-9図)。

経常収支についてみると、2005年に所得収支の黒字が貿易収支の黒字を上回り、2007年においてもその傾向は続いている。さきにみたように、貿易・サービス収支の黒字は総じて拡大したが、これに所得収支の黒字拡大が加わって、経常収支黒字の拡大をもたらした。

所得収支の内訳をみると、国境を越えた証券投資等による資金の動きの活発化を背景に受取・支払ともに増加傾向しているが、受取が支払を上回る拡大となっており、所得収支の黒字は拡大している(第1-2-10図)。具体的には、投資残高の増加や、足下は低下しているもののアメリカの中長期金利が2007年前半までは比較的高い水準であったこと等を背景に、アメリカ等の国債の保有による債券利子の受取が拡大している。また、海外子会社の業績好調を背景に直接投資収益の受取も拡大している。一方、支払においては配当金の支払がこのところ大きく増加している(第1-2-11図付図1-1図)。

資本収支についてみると、証券投資が流入超となっている。これは、対内証券投資が大幅な取得(流入)超を継続している一方、対外証券投資が中長期債投資を中心に取得(流出)超幅を大幅に縮小したためであり、海外から国内への投資が引き続き積極的に行われていることが分かる(第1-2-12図)。このように、外人投資家による日本への証券投資は拡大しており、これも所得収支における配当金の支払が増加している一因として考えられる。

コラム1-1 輸出数量指数と実質輸出

価格変動の調整を行った上で輸出の動向をみるための指標として財務省「貿易統計」の輸出数量指数と日本銀行「実質輸出入」の実質輸出があるが、両者の動きは2004年半ば以降からかい離している(コラム図1-1)。実質輸出は一貫して増加している一方、輸出数量は2006年半ば以降から横ばいの動きが続いた後、2007年半ばから緩やかな増加となり、足下は増加基調で推移している。

両者のかい離の要因として、価格変動を調整する際のデフレーターの違いがある11。輸出数量指数は、輸出金額を品目ごと(2,333品目、金額カバレッジ94.4%)に単価を求め、フィッシャー式により算出した輸出価格指数で除したものである。一方、実質輸出は、同じ輸出金額を品目ごと(222品目、金額カバレッジ 66.1%)に価格を調査し、ラスパイレス式により算出した輸出物価指数で除したものである。

このように、両者は合成方法や対象とする品目数(カバレッジ)において違いがあるが、より大きな違いは、品質を織り込んでいるか否かにある。すなわち、輸出価格指数では品質に関する調整が行われていない一方、輸出物価指数ではこれを加味している。実質輸出は、輸出品の高付加価値化について考慮していることになる。

両者のかい離は、高品質化が急速に進んでいる電気機器で特に目立つ。電気機器は輸出に占めるウエイトが比較的高く(金額ベース21.4%(2006年)、日銀輸出物価指数ウエイト358.5/1000)、輸出数量指数と実質輸出の差を大きくしているとみられる(コラム図1-2)。高品質化している品目の例としては、半導体電子部品12(電機機器の輸出に占める割合(金額ベース30.4%(2006年))やデジタル家電13(同14.1%(2006年))が挙げられる。なお、2007年年始以降、そのかい離が小さくなっているのは、国内の電子・デバイスの生産が横ばいで推移したこと等を背景に、アジア向け中心に半導体電子部品の輸出が減少したこと等が要因として考えられる。

ところで、輸出数量は実質輸出と比べ国内の鉱工業生産との連動性が高いと指摘されることがあるが、実際はどうか。鉱工業生産指数(季調値)と輸出数量指数(季調値)の相関係数は0.89、実質輸出(季調値)との相関係数は0.88(推計期間は1998年1月~2007年9月)となり、結果はほとんど同じである。

しかし、期間を分けてみてみると、若干の違いがみられる。1998~2004年では、鉱工業生産指数と輸出数量指数との相関係数は0.65、実質輸出との相関係数は0.60となり、輸出数量の方が鉱工業生産指数との相関が高い。一方、2005~2007年では、前者が0.88、後者が0.94となり、実質輸出との相関がより高かった。こうした変化の背景には、鉱工業生産指数の作成に際し、数量をそのまま把握するのではなく、金額を把握した上でそれを価格データで除したものを数量とする品目があることが考えられる。具体的には、最近高品質化が大きく進んでいる電子部品・デバイス工業において、このような「実質化」方式で推計される品目のウエイトが717.3/10000と比較的高い14コラム図1-3)。

実質輸出は、SNAベースの実質輸出(サービスを含む)と整合的な概念である(コラム図1-3)。これは、SNAベースの実質輸出のデフレーターは、日本銀行の物価指数をベースとしているためである15。他方、輸出価格指数には、品目別、地域別、及び地域別品目別の数値が存在するが、輸出物価指数には、このうち地域別、地域別品目別の数値は存在しない。

以上のような特性を踏まえ、輸出の動向をみる際には、この二つの指標を総合的に勘案することが重要である。

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