第5節 低調な建設投資

目次][][

1 上昇の続く地価

(地価は持ち直し傾向)

地価の動向についてみると、都道府県地価調査(基準地価)では商業地において全国平均で16年振りに上昇した。三大都市圏や地方ブロックの中心都市36では、都市中心部の地価上昇傾向の周辺地域への広がりがみられた。一方、地方圏では、地域活性化に取り組んだ地方中心都市等においては上昇地点が増加したものの、大半の地点では依然として下落が続いており、全体の平均では引き続き下落している。

なお、住宅地では全国平均で横ばいとなっているなど、調査地点の違いから地価公示の結果とは異なる部分がみられるものの、全体として地価の持ち直し傾向が明確に確認されている点に変わりはない(第1-5-1図)。

(高い上昇率を示した地点の一部では伸びの鈍化も)

都心部では、ブランド力の高さや高度な商業・業務機能の集積等を背景に30%を超える上昇率を示した地点もみられる。このような地点を含め、2006年7月1日からの1年間で高い上昇率(10%以上)を示した地点において半期ごとの地価上昇率をみると、東京都心4区(千代田区、中央区、港区、渋谷区)では、20地点のうち15地点が前半(2006年7月1日~2007年1月1日)から後半(2007年1月1日~2007年7月1日)にかけて上昇率が縮小している37。地価上昇の勢いに実需が追いつかず、頭打ちが近づいているとの見方もある。

2 不透明感が高まる住宅建設

2006年の住宅着工は景気回復が持続する中で、低い金利水準等を背景に堅調に推移してきた。2007年前半は、総戸数は年率125万戸程度で横ばいの推移となった(第1-5-2図)。しかし、6月20日の改正建築基準法施行の影響によって、7月以降は大幅に落ち込み、先行き不透明な状況となっている。

(貸家は採算性の低下を背景に2007年前半から弱い動き)

貸家は、低い金利水準に加えて、都市部への人口流入の増加や不動産投資市場の活発化などを背景に増加基調で推移してきたものの、建設資材価格を始めとして建築工事費が上昇していること、金利水準が高くなっていることが採算性の低下をもたらし、着工のマイナス要因となっているとみられる38第1-5-3図(1)、(2))。貸家着工の動きを建築主別にみると、個人建築主を中心として弱い動きとなっており、採算性の低下などのマイナス要因が資金力の乏しい個人に対して特に影響を及ぼしている可能性がある。国土交通省のアンケート39によると、貸家を経営する家主の約6割が資産の有効活用を経営の動機として挙げており、採算性の低下が少なからず建設意欲に影響を与えているものと考えられる。

採算性には家賃の動向も影響する。民営家賃は低下が続いており、これが採算性の試算においては低下要因として働いている40。家賃の低下はストックを含めた貸家の需給動向を反映したものと考えられるが、東京都区部や名古屋市で家賃の上昇が確認されるなど、地域によってばらつきがみられる41。東京都区部の新築賃貸マンションの賃料は、標準タイプ(ファミリータイプ)のマンションでは2006年以降およそ前期比2~3%のペースで上昇している(第1-5-3図(3))。このように、家賃は採算性上昇要因として働く場合もあるが、明確な上昇傾向を示している新築賃貸マンションの賃料データ(東京都区部)を用いて試算した場合でも、採算性指数は2006年に低下し、その後2002年上期の水準で横ばいとなっている。

採算性の低下は、貸家を投資目的で捉える際には収益性の低下を意味する。前述の採算性指数の試算はすでに土地を保有している場合を想定しているが、新規に土地を取得してから賃貸マンションなどを建設する場合、地価の動向も採算性や収益性に影響する。地価の上昇が顕著な東京都区部では、建設コストに加えて土地の取得価格の上昇が投資用賃貸マンションの販売価格の上昇につながっており、利回りが低下している42。賃貸マンションの収益性の低下は、これまで貸家着工を押し上げてきたJ-REITなどのファンド需要の減少につながる可能性が懸念される。

(持家も土地取得難などにより2007年前半から弱い動き)

持家については、核家族化の進展などにより建て替え需要が伸び悩んでいること、地価上昇により土地取得がやや難しくなっていることなどがマイナス要因となっていると考えられる。

後者の要因に関して、首都圏のデータをみると、土地の取引価格が上昇する中で成約件数が減少傾向にあり、持家着工も減少している状況がうかがえる43第1-5-4図)。持家を建築する者の約6割が購入を通じて敷地を取得しており44、地価上昇による土地取得の困難化は持家着工に大きく影響するものと考えられる。

また、住宅価格に対して家計の資金調達可能額がどの程度あるかを示す住宅取得能力指数は、住宅取得に係る費用が増加するなかで金利の上昇などによって家計の調達可能額が減少したことで、2006年には大幅な低下となった(第1-5-5図)。

(マンション市場は販売活動に慎重さ)

マンション市場の動向をみると、首都圏の各地域では、販売価格は地価や建築コストの上昇などを背景として上昇傾向が続いており、それとともに契約率も低下している(第1-5-6図)。価格上昇が顧客の購入意欲を削ぐようになった可能性も考えられる。

こうした中、発売戸数は抑制気味に推移しており、発売1物件当たりの平均戸数が減少するなど、販売側が販売活動に慎重になっている状況がうかがえる。ただし、東京都区部などでは、旺盛なマンション需要を前提として、供給側が先行きの値上がりを期待して発売を先送りするといった行動をとっているところも一部にはあるとみられ、物件の2極化が進んでいると考えられる。在庫戸数は、2007年前半は減少傾向で推移しており、郊外部を中心とした新規発売の抑制の効果も現れている。しかし、年後半は契約率の低下もあって増加に転じており、10月には2004年2月以来の水準まで増加した。地域別では、引き続き埼玉、千葉が高水準となっており全体を押し上げている。

(改正建築基準法施行の影響で住宅着工は大幅に減少)

7月以降、住宅着工は大幅な落ち込みを示した(前掲第1-5-2図)。利用関係別にみても、持家・貸家・分譲住宅の全てにおいて大幅な落ち込みがみられる。

こうした着工の落ち込みは、必ずしも住宅に対する需要がさらに落ちたことによるものではなく、改正建築基準法の施行(6月20日)という制度変更要因によるものである45。具体的には、法施行日を目前にした駆け込み申請の反動、審査期間の延長といった制度変更に直接伴う一時的な要因に加え、審査側・申請側ともに改正内容に未習熟なため審査や申請準備に要する期間が長期化するなど、制度変更に起因する建築確認申請現場の混乱も要因となっているとみられる。

今回の大幅な着工の落ち込みは、住宅以外の建物投資の落ち込みとともにGDPの押し下げ要因となっているほか、マクロ経済への影響としても、建設資材の生産や出荷の減少という形で現れつつあり46、こうした動きが、今後企業収益や耐久財消費などへも波及する可能性が考えられる。

これまでみたように、現在住宅建設を取り巻く環境は必ずしも芳しいものではない。もっとも、先行きについては、制度変更に伴う混乱が収拾され、雇用・所得環境などが改善していけば、住宅着工は底堅く推移していくことが期待される。

3 減少が続く公共投資

(予算削減などにより公共投資は引き続き減少)

公共投資額は1998年度以降減少を続けており、2006年度の公共工事請負金額は約12兆円となった(第1-5-7図)。国や地方公共団体での公共投資関連予算の削減47、コストの縮減、公正な競争を確保するための入札制度の見直し等が行われており、四半期ベースで最近の公共工事請負金額の前期比をみると、国の機関ではプラスに寄与する期もあったが、地方機関では一貫してマイナスに寄与してきた。(第1-5-8図)。

機関別に公共工事請負金額の推移をみると、都道府県、市町村においては1998年度以降、一貫して減少してきた。国については、2004年度の台風・地震関連の災害復旧もあり、2005年度の減少は緩やかになった。また、2006年度は羽田空港拡張工事の着工があったことなどから請負金額が増加したものの、公共事業関係予算は減少しており、低調に推移している(第1-5-9図)。

(公共工事の小規模化)

2006年の公共投資件数(金額規模別)を1995年と比べると、国は工事金額規模別の割合がほとんど変化していない。これに対し、地方公共団体においては、2,000万円以上の大型工事の割合が低下し、1,000万円未満の工事の割合が上昇している。このことは国に関しては、この10年間で各規模の工事が幅広く削減されて件数が減ってきたことを示している。一方、地方公共団体(都道府県、市町村)においては、2006年度には2,000万円未満の工事が6割を占めるようになっており、公共工事件数の減少と同時に公共工事規模の「ミニ化」が進んでいると考えられる(第1-5-10図)。なかでも1,000万円未満の工事が特に増加しており、2006年度には工事件数の4割を占めている。市町村についてみると、2006年度における1,000万円未満の工事件数の割合は1995年と比べて2倍以上となっている。

コラム1-5 競争入札導入の公共投資への影響

最近の入札制度の見直しも公共投資額の減少に影響を与えていると考えられる。国は、2005年度以降、一般競争入札の下限額を段階的に引き下げて対象を拡大してきており48、2006年度は工事金額の8割が競争入札となった。地方公共団体においても、国と同様に競争入札の対象を拡大する動きがみられる。

このような見直しもあって、国、地方公共団体ともに落札率が低下しており、競争入札の導入により工事価格が下落したことが公共投資の減少要因として影響している(コラム図1-9)。2006年度の公共工事契約金額(前年度比)において、競争入札による価格競争は国では3.1%ポイントの減少、都道府県及び政令市では7.8%ポイントの減少に寄与していることが分かる(コラム図1-10)。

国における入札状況をみると、一般競争入札の拡大と同じ時期に、低価格入札件数49や入札辞退業者数にも変化があった。低価格入札の割合は2005年度以降上昇しているが、一般競争入札のみならず、指名競争入札においても2006年度には割合が大きく増加した。また、入札辞退業者数の推移50をみると、一般競争入札において辞退業者数が増加する傾向がある。厳しい財政状況の中で公共投資のさらなる効率化を進めるためには、予算削減などの取組とともに質の高い競争環境を整備する取組を継続していくことが必要である。

目次][][