第6節 サブプライム住宅ローン問題の影響がみられた国内金融資本市場

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1 総じて落ち着いて推移した短期金融市場

(日銀の資金供給もあって短期金融市場はおおむね安定)

2007年2月に、日本銀行は政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物、以下O/N)の誘導目標を0.25%前後から0.5%前後に引き上げた。この利上げ前における追加利上げ観測の高まりを受けた金融機関による準備預金の積立前倒しの動きや、3月および6月期末における外国銀行を中心とする積極的な資金調達等を受けて、無担保コールレート(O/N)は上振れる場面もあったが、日本銀行による機動的な金融市場調節のもと、総じて安定的に推移した。

2007年8月には、サブプライム住宅ローン問題の影響を受け、欧米市場において信用収縮懸念が広がったことから、9日にECB(欧州中央銀行)が948億ユーロ、FRB(連邦準備制度理事会)が240億ドルの資金供給を行った。日本の短期金融市場においては、日本銀行が8月10日に1兆円、13日に6000億円の資金供給を行い、その後も市場動向に応じた調節を続けていることから、無担保コールレート(O/N)は総じて安定的に推移している(第1-6-1図)。

(市場の利上げ観測は後退)

2007年2月の金融政策決定会合後、4月以降の堅調な経済指標を受けて、政府短期証券(以下、FB)3ヶ月物金利、ユーロ円TIBOR3ヶ月物金利などターム物レートは緩やかに上昇した。しかし、7月下旬以降、サブプライム住宅ローン問題が再燃したことに伴い、安全性の高いFBに資金が流入し、FB3ヶ月物金利は0.6%台まで低下した。一方、ユーロ円TIBOR3ヶ月物金利は、信用収縮の懸念から、外国銀行等による資金需要の高まりを受けて、0.8%台まで上昇した(前掲第1-6-1図)。

こうしたなか、日本銀行は、2007年8月の金融政策決定会合において金融市場調節方針について、現状(「無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.5%前後で推移するよう促す」)を維持することを決定し、9月から11月の金融政策決定会合においても同様の決定をしている。

金利に関する市場の予想について、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)レートの1ヶ月物フォワードレートの推移から先行きの無担保コールレート(O/N)に対する市場の見方は、2007年2月の金融政策決定会合後、緩やかな上昇を見込んでいたことがうかがわれる。しかし、その後、サブプライム住宅ローン問題の拡大とともに、利上げ期待は縮小した(第1-6-2図(1))。3ヶ月物ユーロ円TIBORを取引対象とした先物商品であるユーロ円金利先物をみても、7月下旬以降、利上げ期待が縮小していたことがうかがわれる(第1-6-2図(2))。

2 変動幅が拡大した長期金融市場

(長期金利は夏場に高まったがその後低下)

長期金利(新発10年国債流通利回り)は、CPI基準改定が行われた2006年8月以降、2007年5月頃までは、国内経済の先行きについての見方が交錯するなかでおおむね1.6~1.8%台のレンジ内での推移となっていた。その後、アメリカ景気の堅調さが確認されるもとでアメリカの長期金利が上昇し、日本においても景気の堅調さを示す指標の発表などを背景に長期金利は1.9%台半ばまで上昇した。

7月以降、サブプライム住宅ローン問題を背景とした世界的な信用収縮懸念が生じる中、株から債券への投資のシフトや景気減速懸念を背景としてアメリカの長期金利が低下し、日本においても長期金利が1.5%台まで低下した。その後、アメリカの公定歩合の引き下げ、フェデラルファンド金利の引き下げが行われる中で、経済指標の動向をにらみながら長期金利は一進一退となったものの、11月半ば以降、株価下落を背景に長期金利は1.4%台前半まで低下する局面もみられた(第1-6-3図)。

(社債スプレッドの拡大は限定的)

社債流通利回りの対国債スプレッド(以下、クレジット・スプレッド)は、企業収益の堅調さの継続、銀行の貸出姿勢の積極化などを背景に、2006年後半以降、横ばいないし若干縮小して推移してきた。2007年2月末には、世界的な株価の下落やサブプライム住宅ローン問題を背景に、アメリカ市場でクレジット・スプレッドの拡大がみられたものの、国内市場への影響は限定的だった。7月下旬以降、サブプライム住宅ローン問題が再燃すると、それまでクレジット・スプレッドのタイト化が進んでいたこともあり、米欧市場におけるスプレッドの拡大を背景に、国内市場でも拡大がみられた。その後、一部の消費者金融などでスプレッドが拡大する動きもあったが、総じて横ばいで推移している(第1-6-4図)。

社債の発行額については、2007年5月以降、金利上昇を見込んだ社債発行時期の前倒しの動きもあって起債の増加がみられた。その後、サブプライム住宅ローン問題の再燃に伴う起債環境の悪化から8月の発行額は落ち込んだものの、ベースとなる国債金利が低下したこともあって企業の起債意欲は強く、9月以降の社債発行額は再び高水準となっている。

(法人向け銀行貸出は増加にやや足踏み)

国内銀行の民間非金融部門に対する貸出は、2006年2月に前年比で増加に転じ、その後も増加を続けている(2007年10月前年比0.7%増)。業態別にみると、地銀・第二地銀の貸出が比較的堅調である一方、都銀等の貸出は2007年4月以降減少に転じている。

貸出先別の動きを四半期データでみると、住宅ローンが引き続き増加する一方、法人向け貸出は増加にやや足踏みがみられる(第1-6-5図(1))。法人向けの貸出を資金使途別にみると、設備資金は引き続きキャッシュフローの範囲内にとどまっている(第1-6-5図(2))。業種別の貸出は、M&A関連などで資金需要が高まっている可能性がある情報通信業が増加する一方、貸金業を含む金融・保険業が減少している(第1-6-5図(3)(4))。

国内銀行の貸出金利は緩やかに上昇しているが(第1-6-5図(5))、企業サイドからの受け止め方を資金繰り判断DIや金融機関の貸出態度判断DIの水準でみると、緩和的な金融環境であるとの認識は総じて変化していない。

(海外市場の影響を受けて大きく変動した株式市場)

2007年の株価(日経平均株価)は、アメリカ株価の上昇、為替レートの円安基調の下での好調な企業収益などを背景に上昇し、2月には約7年振りの高値を更新した(18,215円)ものの、2月末以降、中国株価の下落を発端とする世界的な株価の下落と急速な円高から下落した。3月以降、企業部門の業績や景気全体の底堅さが継続するなかで、外国人投資家による日本株投資も増加し、株価は7月上旬には年初来高値を更新した(18,261円)。

しかし、7月下旬にかけてサブプライム住宅ローン関連商品の格付け引下げや欧州系銀行傘下のヘッジファンド凍結などから信用収縮懸念が広がったことや、国内大手銀行グループの4-6月期業績が減益(前年同期比)となったことなどを背景に金融株が下落したほか、円キャリートレード解消の動きを受けた円高から業績上方修正期待が剥落した輸出関連株等も下落し、株価は15,000円台となった。

8月中旬以降、アメリカの公定歩合およびフェデラルファンド金利引下げなどが実施される中で、米国景気の堅調さを示す指標も発表されてアメリカ株価は上昇し、日本においても株価は持ち直した。業種別にみると、資源高を背景とした素材関連株、新興国の経済成長に伴い需要が増加した海運株、これら両方の影響を受けた総合商社等の卸売株などが日本において上昇した(第1-6-6図(1)(2))。しかしながら、10月中旬以降、欧米金融機関等がサブプライム住宅ローンに関連する損失を計上したことなどにより株価は下落に転じ、11月には年初来安値を更新した(14,837円)。

この間、外国人投資家は、株価上昇局面では買い越しとなっており、2007年2月からの株価下落局面と7月下旬からの株価下落局面では売り越しとなった。外国人投資家の株式保有比率は28%(2007年第2四半期)を占め、2005年の年間買い越し金額は10兆円で2006年は5兆円に縮小したものの、2007年は10月時点では6兆円となり、日本の株式市場への積極的な資金投入は続いており、日本の株式市場に少なからず影響を与える存在となっている(第1-6-7図(1)(2))。

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