第2節 金融の再構築

1 不良債権処理の重要性

 不良債権問題と金融システム

不良債権とは、将来のキャッシュフローによって返済されることが困難となった貸出債権のことである。貸出先の企業経営が失敗する可能性は常にあるため、不良債権は常に存在する。にもかかわらず、現在、それが問題となっている理由としては、次のことが挙げられる。

第1に、多くの金融機関が一斉に多額の不良債権を抱えたために、間接金融がうまく機能しなくなったという点である。ある金融機関が多額の不良債権を抱えたとしても、別の健全な金融機関が代わりに貸出を行うことができれば、間接金融の機能は維持される。また、直接金融にアクセスできれば、株式や社債の発行で資金が調達できるので、企業金融が滞ることはない。しかし、多くの金融機関が不良債権を抱えるなかで、特に中小企業にとっては直接金融へのアクセスも限界があることから、不良債権問題は、そのまま金融システムの問題に直結してしまっている。

第2に、金融機関の経営の健全性に不安を持つようになるという点である。これまで多額の不良債権を処理してきたにもかかわらず、景気の低迷や金融機関の資産査定の精度向上等から不良債権の新規発生が続いてきた。不良債権の処理は迅速に進めなければならないが、本業の収益(実質業務純益)を超えて不良債権の処理を行うという状況が続くと、自己資本の減少につながる。こうして、金融機関の中期的な収益力の向上が見込まれず、多くの金融機関の経営の健全性に対して人々が不安を抱くようになると、金融システム不安が引き起こされる可能性が高まってしまう。

 金融行政の枠組みと不良債権処理

間接金融を正常化し、金融を再構築するためには、まず金融機関の経営の健全性を維持・強化するような枠組みを確立する必要がある。そのような観点で重要となるのは、次の点である。

第1に、2002年10月30日に公表された「金融再生プログラム」において「金融行政の新しい枠組み」として掲げられた三つの原則、すなわち、「資産査定の厳格化」、「自己資本の充実」、「ガバナンスの強化」を実行することである。

まず、貸出債権を適切に査定し、不良債権額を洗い出すことが重要であり、金融機関の資産査定については、これまでにも増して厳格化を図ることが必要である。また、経営の健全性を維持しつつ、不良債権を確実に処理するために、必要に応じて自己資本の増強を図る必要もある。さらに、金融機関は、不良債権の発生を防ぐとともに、経営の健全性を高めるために、リスク管理能力の向上と費用圧縮・収益力強化を図らなくてはならない。こうした取組を強化するためには、金融機関の経営に対する適切なガバナンスが働くような枠組みが必要となる(9)

第2に、不良債権を迅速に処理することである。不良債権とは、金融再生法ベースでは、破産更生等債権(自己査定における破綻先・実質破綻先債権に相当)、危険債権(自己査定における破綻懸念先債権に相当)、要管理債権である。この不良債権処理について、政府はこれまで次のような方針を示してきた。

(i)2001年4月の「緊急経済対策」において、主要行の破綻懸念先以下の債権について、原則として、既存分は2営業年度以内、新規発生分は3営業年度以内に、それぞれオフバランス化につながる措置を講じるという枠組みを打ち出した(いわゆる「2年・3年ルール」)。

(ii)2002年4月には、金融庁の「より強固な金融システムの構築に向けた施策」の中で、主要行の破綻懸念先以下の債権について、緊急経済対策の枠組みに加えて、原則1年以内に5割、2年以内にその大宗(8割めど)についてオフバランス化につながる措置を講じるものとした(いわゆる「5割・8割ルール」)。

(iii)2002年10月には、金融庁の「金融再生プログラム」において、2004年度には主要行の不良債権比率を現状の半分程度に低下させ、問題の正常化を図るとともに、構造改革を支えるより強固な金融システムの構築を目指すこととした。

現在、こうした方針に沿って、主要行の不良債権処理が進められている(10)

それでは、不良債権処理はどの程度進んでいるのであろうか。また、不良債権処理を一層進めるための課題は何か。次に、この点をみることにしよう。

2 不良債権処理の現状と課題

 主要行は我が国の金融システムの中核を担っており、政府は、2004年度には主要行の不良債権比率を2001年度の半分程度に低下させて問題の正常化を図るとともに、構造改革を支える、より強固な金融システムの構築を目指すこととしている。以下では、主要行の不良債権処理の現状と課題について検討することにしよう。

(1)不良債権処理の現状

 不良債権残高の減少

主要11行(りそな銀行を含む)の不良債権残高(金融再生法開示債権)は、98年度から2000年度まで約20兆円で推移した後、2001年度には特別検査等を背景に26.8兆円に増加した。その後、2002年度には前年比24.4%減少し、20.2兆円となった(第2-2-1図)。この結果、不良債権比率(対総与信)は、2001年度の8.4%から、2002年度には7.2%に低下し、前年度比1.2%ポイントの改善となった。

2002年度における不良債権残高の債権区分別の内訳をみると、破綻懸念先以下債権に該当する危険債権と破産更生等債権は、前年比6.7兆円減少した(11)。要管理債権は前年比ほぼ横ばいである。

不良債権残高の減少に大きく寄与したのは、破綻懸念先以下債権のオフバランス化が、2001年度の5.2兆円から2002年度には10.8兆円へと約2倍に増えたことにある。この間、新規発生額も、2001年度の9.0兆円から2002年度の4.1兆円に減少している。

 オフバランス化の形態と特徴

不良債権のオフバランス化の形態は、清算型処理、再建型処理、業況改善、債権流動化、回収・返済等、に分類される。2001年度から2002年度にかけてのオフバランス化の特徴は、以下のように整理される(第2-2-2図)。

第1は、債権流動化の増加である。債権流動化とは、債権を第三者に売却することである。本来は、二次的な転売を前提とした市場売却が想定されるが、不良債権の流通市場が未発達なため、市場売却はさほどはなく、数件の不良債権を一括して売却するバルク・セールや、整理回収機構(RCC)への売却が増加している(12)

第2は、再建型処理の増加である。不良債権を直接処理する方式としては、清算型処理と再建型処理がある(13)。再建型処理が増加していることは、最近、民事再生・会社更生等の再建型倒産手続きに基づく法的整理や、債権放棄を伴う私的整理によって企業再建を図る事例が増えていることを反映している。

第3は、業況改善の増加である。業況改善には、企業の業況そのものが改善した場合と、再建型処理に伴い、債権区分が上方に見直された場合とがある。最近の増加は、私的整理による再建型処理に伴う債権区分の上方への見直しが多くなっていることの寄与が大きい。実際、再建型処理に伴う債権区分の上方への見直しが業況改善額全体に占める割合は2001年度の5%から2002年度には43%に増加している(14)

 不良債権の処理費用

次に、以上のような不良債権処理に実際に要した費用である不良債権処分損の動向をみてみよう。不良債権処分損とは、貸倒引当金繰入額及び直接償却等に伴う費用であり、債権や担保の価値が劣化したことによる引当増分や市場売却による損失等も含む。これをみると、2001年度に7.7兆円に増加した後、2002年度には5.1兆円に減少した。ただし、本業からの収益である実質業務純益から不良債権処分損を差し引くと、依然としてマイナスの状態が続いていることが分かる(第2-2-3図)。

先述したように、2001年度から2002年度にかけて、倍近いオフバランス化が実施されてきたのに対して、不良債権処分損は逆に減少してきた。この背景には、2001年度の特別検査の導入等によって、引当について一層の厳格化が図られてきたので、新たに処分損として計上される分が減少していることがあると考えられる(15)

 全国銀行における主要行の位置づけ

このような主要行の不良債権処理は、地銀・第2地銀を含む全国銀行の不良債権処理の中でどのように位置付けられるだろうか。2002年度上期の全国銀行の不良債権残高約40兆円に対して、主要行の構成比は6割を占めている。また、1995年度から2002年度上期までの全国銀行の不良債権処分損の累積額を主要行と地銀・第2地銀等に分類すると、主要行が8割近くを占めている(第2-2-4図)。こうしたことから、地銀・第2地銀等と比較して、不良債権は主要行において多く発生し、かつ多く処理が進められてきたことが分かる。

(2)不良債権処理の課題

 不良債権比率半減目標

政府は、2001年度に8.4%だった主要行の不良債権比率を、2004年度には2001年度の半分程度に低下させるという「不良債権比率の半減目標」を掲げ、これによって問題の正常化を図ることとしている。

このような政府の方針は、主要行の経営計画に反映されているものと考えられる(16)。また、2003年3月期における主要行の不良債権比率は7.2%となっており、2002年9月期の8.1%に比べ0.9%ポイント低下している。仮にこのペースで処理を続けていけば、2004年度には4%台となり、不良債権比率の半減は達成されることになる。

不良債権処理の今後の進展について一つの示唆を得るために、主要行における過去の不良債権処理と比べて、2002年度の不良債権処理が進展を示すものかどうかをみてみよう。具体的には、公表資料である2000年度の主要行における債務者区分の遷移行列(一定期間における債務者区分間の移動の状況を示すもの)を用いて、仮にそれと同じパターンで債権の区分間移動が行われていたとしたら2002年度における債務者区分別の不良債権残高はどうなっていたかを試算し、それと2002年度の実績値を比較することにする(第2-2-5表(17)

この結果をみると、(i)不良債権の新規発生額は、遷移行列を用いた場合の試算値の4.4兆円に対し、実績値は5.0兆円と試算値を上回っている。しかし、(ii)破綻懸念先以下債権は、試算値9.7兆円に対し実績値8.7兆円、(iii)要管理債権は、試算値13.1兆円に対し実績値11.5兆円、(iv)不良債権比率は、試算値7.6%に対し実績値7.2%、といずれにおいても改善がみられる。

このことは、特別検査等による厳格な資産査定を反映して不良債権の新規発生額は相対的に増えているものの、主要行の不良債権処理は過去のパターンと比べても着実に進展していることを示している。

 要注意先・要管理先債権への対応

主要行の不良債権比率を4%台に低下させるためには、さらに不良債権処理を進める必要がある。その際、破綻懸念先以下債権については、既に政府によって方針が示されており、主要行においてそれを前提とした取組が行われている。今後は、過去の破綻懸念先以下債権の処理を進めるだけでなく、要注意先・要管理先債権に対してどのように対応するかが目標達成のかぎを握ると考えられる。

第1に、破綻懸念先以下債権のオフバランス化にみられる特徴の一つとして、再建型処理に伴う業況改善の増加を挙げたが、こうした債権の多くは要管理債権として、引き続き不良債権の枠の中にとどまっている。したがって、破綻懸念先以下債権の処理が進展するに従って、ますます要管理先企業の事業選別・早期事業再生が重要になってきている。

第2に、今後、正常先債権や要注意先債権が業況悪化によって要管理債権に引き下げられれば、不良債権の新規発生につながることになる。不良債権の新規発生を抑制するために、正常先債権の劣化防止と要注意先債権のリスク管理の強化が必要となっている。

 収益性向上の必要性

金融機関は、バブル崩壊までは、安い調達コストで得た豊富な資金量と、地価の上昇を前提とした不動産担保を背景に、本来であればリスクに見合わない低金利で企業に貸出を行うことが可能であった。しかし、バブルが崩壊し、金融機関のリスク許容力が低下している一方、企業の信用リスクが上昇しているとすれば、リスクに見合った貸出金利の設定が行われる必要がある。また、先述したように、主要行では、本業からの収益である実質業務純益から不良債権処理費用を差し引くと、マイナスとなる状態が続いている。リスクに見合った貸出金利の設定は、収益性を高め、不良債権処理のための原資を確保するという観点からも重要である(18)

そこで、企業側の借入金利のデータを利用して、最近における信用リスクと借入金利差との関係をみてみよう。もし、リスクに見合った貸出金利の設定が行われていれば、リスクの低い企業と高い企業とを比べれば、両者の間に金利差が生じるはずである。これによると、2000年度から2002年度にかけて、長期債格付に従って金利差が拡大していることが分かる(第2-2-6図)。

ここではデータ制約のために、長期債格付を持つ上場企業の短期借入金の金利差についてみているが、長期借入金における金利差や、長期債格付を持たない企業と優良企業との金利差はさらに拡大していると考えられる。このような動きは、金融機関の収益性の向上に寄与するものと考えられる(19)

他方、収益性との関係では、主要行は、自己資本の中核的資本(Tier I)の約半分を占める繰延税金資産の回収可能性の問題に直面している(20)第2-2-7図)。繰延税金資産の計上は、将来における課税所得の計上を前提としているが、主要行は赤字決算を続けるなど、経営は依然として厳しい状況にある。

したがって、十分な将来課税所得を計上するためにも、収益力を向上させ、厳格な評価に耐え得る将来の収益計画を策定することが求められている。主要行は、不良債権比率の半減という目標を達成しなければならないが、同時に、将来に向けて、不良債権処理や株式等償却・売却損を上回る収益を稼ぎ出すという困難な課題を果たさなければならない状況にある。

 不良債権比率半減に向けて

以上を踏まえ、主要行における不良債権比率の半減に向けた課題を整理すると、(i)早期事業再生や不採算資産の流動化等を積極化させて資産内容の改善を図ること、(ii)不良債権処理のための原資を確保するために、貸出利鞘の改善と経費削減を図ること、が重要である。

資産内容の改善については、審査体制の強化を図るとともに、持株会社の下に不良債権管理会社を設置したり、企業再生ファンドを立ち上げたりすることによって、不良債権と人的資源を集約して事業選別・処理の速度を上げる体制をとるところも出てきている。また、こうした主要行自身による取組に加え、産業再生機構など事業再生の枠組み等の活用や、民間を中心とした不良債権取引市場の整備を進め、それを活用すること等も必要である。

こうした課題のうち多くは、企業の再構築と密接に関連している。これについては、改めて第3節で取り上げることにする。

3 金融機能をめぐるインセンティブ構造

 間接金融の正常化を遅らせるインセンティブ構造

我が国における金融機関の貸出は、金融機関と借手との間の長期的な関係を前提に、プロジェクト単位ではなく、企業単位で行われるのが慣習であった。これに合わせて、金融機関の貸出債権の管理も、債務者の状態に焦点を当てて、債権を正常先、要注意先、破綻懸念先、破綻先・実質破綻先に分類した上で、それぞれの債務者区分において貸出債権を管理するという方法が採られてきた。また、貸出債権については、それを第三者に譲渡することは想定されていなかった。

このような融資慣行は、金融機関と借手との間の長期的な関係が維持可能で、その下で金融が円滑に機能するような環境にあるのであれば問題はない。しかし、金融機関の不良債権処理が大きな課題となってきた今日、このような融資慣行は、金融機関に対して不良債権処理を遅らせるようなインセンティブを与えている可能性がある。企業単位の融資慣行では、不良債権処理を行う場合に、企業を全体として清算しなければならなくなる状況が出てくるが、メインバンクとなる金融機関は、その企業に対して出資や株式保有を行ったり融資金の返済順位が劣後する場合があることや、失業をもたらすことによる社会的批判も無視できないことから、追い貸しを選択し、清算に二の足を踏むことになりかねない。

したがって、間接金融の正常化を図るためには、金融をめぐるこうしたインセンティブ構造が変わる必要がある。制度や枠組みを変えても、インセンティブ構造が変わらなければ、それが実効性を持つことはできない。

以下では、このようなインセンティブ構造の変革につながるような動きをいくつか取り上げ、それらについてみてみることにしよう。具体的には、(i)貸出債権の流動化、(ii)株式持合いの解消、(iii)政策金融の見直し、である。

(1)貸出債権の流動化

 貸出債権流動化のメリット

これまでの金融機関と企業との継続的・安定的な関係を前提とした融資慣行においては、貸手も借手も、金融機関が第三者に貸出債権を譲渡するということを想定していなかった。貸出債権の譲渡は、法律的には特約条項のない限り可能であるにもかかわらず、実務的には譲渡や情報開示に対して借入企業の承諾が必要とされてきた(21)

金融機関が、自らのリスク許容力に応じて、他の金融機関も含めた第三者に信用リスクを移転することが可能になれば、資金循環の円滑化と金融システムの安定化に寄与するものと考えられる。というのは、相対的にリスクの高い金融機関は安全性を高めることができ、相対的にリスクの小さい金融機関は追加的にリスクをとることによって、適切なポートフォリオ(資産構成)の構築が可能となるからである。

 市場型間接金融の意義

以上のようなことを背景に、貸出債権について取引市場を創設しようという動きがみられるようになってきた。例えば、シンジケート・ローンは、融資条件の設定においてリスクとリターンの関係に客観性・透明性が求められるため、市場性を有し、譲渡可能な貸出債権の例といえる(22)

このような、当初から第三者への譲渡を前提とした新たな貸出取引の活発化は、市場型間接金融を充実させることの重要な契機ともなり得る。市場型間接金融とは、金融仲介機関によって組成されたローンや購入された金融商品が市場で流通性を持つことにより広く取引されるようなシステムのことである。これによって、これまで自らのバランスシートで行っていたリスク変換を、資本市場でリスクのとれる投資家に移転することによって、金融のリスク変換機能の効率化につなげることが期待できる。金融機関にとどまらず、資金運用ニーズのある多様な投資家が転売先となり得る条件が整えば、資金供給の円滑化にも資すると期待される(23)

 資産流動化の動き

近年、流動化された金融資産残高は増加傾向にある(第2-2-8図)。民間金融機関の貸出債権のほか、割賦債権、預け金等の流動化が進んでいる。これは、貸出債権等の金融資産を保有する金融機関や事業会社が資金調達を行う上で、資産流動化が重要な役割を果たすようになってきていることを示唆している。

他方、金融資産を流動化して発行された証券の保有主体をみると、金融機関よりも、企業(非金融法人企業)の保有残高が増加していることが分かる。このことは、企業が銀行貸出の減少を補完する形で資金供給を行っていることを意味すると同時に、今後、流動化商品が一般的な投資対象としてより受け入れられる可能性を示唆している(第2-2-9図)。

(2)株式持合いの解消

これまでのメインバンク制における金融機関と企業との関係は変化しつつある。この中で、株式の持合い関係も解消されつつある(24)。これに伴い、金融機関と企業の関係が適度な間合い(アームズ・レングス)をとるものとなっていくことが予想される。

株式の持合いを通じたメインバンクや取引先企業等による安定株主形成は、これまで企業買収に対する予防策として機能してきた。しかし、株式持合い解消は、双方の浮動株の比率を高める。したがって、こうした企業では、株主価値の向上を図るとともに、株式持合いによる企業買収予防策に替わる新たな対応として、自社株取得や(25)、投資家との関係を強化するIR(インベスター・リレーションズ)活動を積極化させる必要が生じる。

このような変化の中で、企業は、従来以上に直接金融の利用を検討するインセンティブをもつ可能性がある。

(3)政策金融の見直し

政策金融は、中小企業向けや社会資本整備等、リスクが大きく、民間金融のみでは対応困難な分野に、有償資金を活用することにより、一定の政策目的に沿って、長期・固定・低利の資金を供給する機能を有しており、これまで我が国経済の発展に貢献してきた(第2-2-10図)。

こうしたなか、現在の我が国の金融システムにおいては、これまでみてきたように、不良債権問題や過剰債務問題等により、豊富な資金が円滑に効率よく流通しないことが深刻な問題となってきた。この問題を解決するためには、構造改革を推進することによって、効率性や社会的ニーズの高い成長分野へと資金の流れを促すとともに、市場価格によって資金量の配分が適正に行われるシステムを強化することが不可欠である。

具体的には、民間金融機関においては、不良債権の処理と同時に、企業の信用リスクを反映した貸出金利の設定や、新たな収益力向上のためのビジネスモデルの確立が必要とされている。他方、政策金融においては、市場本来の機能が最大限発揮されるよう、こうした民間金融機関の取組を支援しつつ、引き続き、「民間でできることは民間に委ねる」との原則の下で、対象分野を見直していくことが必要である。

政策金融の在り方については、2002年12月13日の経済財政諮問会議において(26)、我が国の政策金融は諸外国に比べ規模が大きく、かつ時系列的に増大傾向にあり、このことが、金融資本市場の資源配分機能を歪めてきたとの認識の下、現下の厳しい金融経済状況にかんがみ、民間金融機能の正常化への道筋を踏まえて、三段階で政策金融改革を進める必要があるとされた(27)。政府としても、こうした結論を踏まえ、経済情勢を見極めつつ、さらに検討を進めることとしている(28)

4 金融の再構築に向けて

 以上、我が国において、間接金融の機能がどのように低下しているかという問題を出発点とし、解決が必要とされる不良債権問題の現状をみるとともに、金融機能の正常化に向けたインセンティブ構造の重要性について検討してきた。以下では、こうした結果を整理することによって、金融の再構築に向けた条件を示すことにしよう。

 間接金融の正常化に向けて

現在の間接金融の機能低下は、不良債権による金融機関のリスク許容力の低下と、過剰債務による企業の信用リスクの上昇、の両面が関係している。こうしたことが、短期金融市場では潤沢な資金が溢れていながら、そうした資金が経済全体に還流せず、結果として金融機関の企業向け貸出減少をもたらしたと考えられる。

しかし、現在のように、信用リスクに対する関心の高い状況においては、企業の経営状態をモニタリングしながら貸出を行う間接金融の役割が重要になってくる。それは、特に中小企業の場合には、企業の経営内容について情報開示が限定的であり、大企業のように証券発行によって資金調達を行うことが困難なためである。

間接金融の正常化のためには、不良債権処理を促進するとともに、適切なインセンティブ構造を構築することが重要である。

 不良債権処理の促進に向けて

不良債権処理は進展している。しかし、不良債権比率の半減に向けて、主要行は更に不良債権処理を急がなくてはならない。その際の課題は、要注意先・要管理債権への対応と不良債権の新規発生の抑制である。

不良債権処理を促進するためにも、金融機関は収益性の向上が同時に必要とされる。具体的には、(i)不良債権処理原資の確保に向けた貸出利鞘の改善と経費削減、(ii)早期事業再生や不採算資産の流動化等による資産内容の改善、が求められる。

資産内容の改善については、主要行自身による取組に加え、産業再生機構など事業再生の枠組み等の活用や、民間を中心とした不良債権取引市場の整備等も進めながら、不良債権比率の改善に向けた実効性ある対応が図られる必要がある。

 適切なインセンティブ構造の構築

不良債権問題が早期に正常化するかどうかのかぎを握るのは、関係者にこうした取組を促すインセンティブを与える構造になっているかどうかである。

金融機関に対しては、現在の低金利が処理の先送りのインセンティブとして働くことのないように、資産査定の厳格化を出発点としたリスク管理能力の強化を促すような仕組みが必要である。政府は、「金融行政の新しい枠組み」を実行に移している。また、次節で改めて取り上げる事業再生の枠組みも、関係者に対するインセンティブの観点から充実が図られてきている。

正常債権の譲渡に対する障害が除去され流動性が増していけば、不良債権の取引や二次転売を前提とした取引も増えていくものと予想される。シンジケート・ローンによるプロジェクト・ファイナンスの環境が整えば、不良債権の新規発生に対する処理も速くなることが期待される。資金調達ニーズが資産流動化を増やしている可能性もあり、こうした傾向は金融機能の裾野を広げることになろう。

株式持合い解消の動き等により、一部の金融機関と企業との関係は次第に適度な間合いをとったものに変わっていくことも予想される。こうした傾向は、直接金融の利用に対するインセンティブを企業に与えることになる。

また、政策金融については、引き続き、「民間でできることは民間に委ねる」との原則の下で、対象分野を見直していくことが必要である。

こうした動きは、不良債権問題の早期解決に資すると同時に、間接金融の正常化につながるものと考えられる。

 以上のような取組が進展することによって、金融の再構築が図られることが期待される。しかし、金融の問題は、企業の問題と表裏一体の関係にある。そこで、次節では、企業の再構築に向けた現状と課題についてみることにしよう。