第4節 地方財政の課題
第3章 我が国財政の総合的把握
第4節 地方財政の課題
地方分権の進展に伴い地方公共団体の行政の自己決定権・自己責任が拡大されることに対応し、行政手続の公正を確保するとともに透明性の向上を図っていくことが求められている。とりわけ、地方財政の状況が厳しさを増す中で、適正な財政運営に資するためにも、財政状況に関する住民の理解と協力を得ることの重要性が高まっている。
2001年6月に、経済財政諮問会議がとりまとめ、その後閣議決定された「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(以下「骨太の方針」)において、小泉内閣の構造改革の7つの柱の1つとして地方財政改革が取り上げられ、地方財政に対する国民の関心も高まっている。本節では国の財政と地方財政の関係などの視点から、地方財政の現状と課題について分析する。
本節の分析からは、次のような点が明らかにされる。
- 地方財政は、長期債務が累積するなど、深刻な財政危機に直面している。
- 地域経済の格差が存在する以上、地域間の財政力格差を是正する財政調整システムは必要である。しかし、国から地方の歳出に対する関与と多額の資金移転を前提としている現行の地方行財政制度のもとでは、地方公共団体が独自に地域の発展に取り組む意欲を弱め、地方は中央に陳情することが合理的な行動ということになりがちである。
- 制度の見直しに当っては、国民に最低限保障すべき行政サービスはどこまでなのかということを再検討し、地域住民が受益と負担の関係を考慮して、自らの判断と責任で選択するシステムを構築する必要がある。そのためには、国と地方を通じた歳出の削減や、市町村合併を進めるとともに、地方の行政に対する国の関与の縮減、国庫補助負担金制度の整理合理化や地方交付税のあり方の見直し、税源移譲を含め国と地方の税源配分の見直しを含めた地方税の充実確保を図る必要がある。その際、国と地方それぞれの財政事情や個々の地方公共団体に与える影響等を踏まえる必要がある。
1 厳しさ増す地方財政
● 悪化する地方財政
我が国には、都道府県、市町村あわせて地方公共団体が約3300ある。これらの地方公共団体は、学校教育、福祉・衛生、警察・消防など国民の日々のくらしに不可欠なさまざまな行政サービスを供給している。しかし、多くの地方公共団体においては、90年代後半に入り、財政状況が悪化し、地方財政全体での借入金も増大するなど、現在の地方財政は、危機的な状況にある。
バブル崩壊後の長引く景気停滞の中で、法人2税(法人事業税と法人住民税)を中心とする税収の低迷、減税の実施などにより、地方の歳入は落ち込んでいる。その一方で、90年代に国が積極的に行った数次にわたる公共事業の追加による景気対策に、地方公共団体が応じたことなどから、地方の歳出は増加している。このため、各地方公共団体は、地方債の増発等と積立金(地方債の返済など将来の財政需要に備えるために積み立てている資金)の取崩しなどによる財政運営を続けている。歳入(地方債収入含む)から歳出(公債費含む)を差し引き、年度間の財源のやり取りを調整した地方の財政収支(「実質収支」という)は、90年代に入り、大都市圏の地方公共団体を中心に急速に悪化している(第3-4-1図)。都道府県についてみると、法人2税への依存度が高い東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の4都府県の実質収支が2年連続で赤字となり、都道府県全体でも2年連続で実質収支が赤字となった。財政危機の深刻な地方公共団体では、福祉分野をはじめとした市民向けサービスなども事務事業見直しの対象となっており、財政の健全化が課題となっている。
● 累増する地方債残高
90年代後半の長引く景気停滞の中で、国の景気対策に関連する公共事業の地方負担の措置や、地方税の恒久的減税による税収の落ち込みをカバーするため、地方債が増発されるようになった(39)。その結果、地方債収入が歳入全体に占める割合である「地方債依存度」は、94年度以降、急上昇した後、12~15%の高い水準で推移しており、2001年度では13.3%となっている(40)。70年代半ばの一時期を除き、地方公共団体が地方債にこれ程依存してきた時期はない。これに伴い、90年度には52.2兆円であった地方債現在高は年々増加し、99年度には2.4倍の125.6兆円に達している。これまでに発行した地方債の償還予定をみると、2004年度をピークにその前後2002~2005年度にかけて償還額が多くなる見込みであり、減債基金(将来の地方債の償還に備えて積み立てる基金)の活用等による中長期的視点に立った公債管理が必要である。
● 地方債以外にも増大する財政負担
地方公共団体は、複数年度にわたる事業などについて、あらかじめ将来の支出を想定して債務負担行為を行うことができる。債務負担行為は、90年代に入り急速に拡大した。債務負担行為に基づく翌年度以降支出予定額をみると、99年度末では15.3兆円にのぼっている。ピーク時の95年度末と比べると、1.8兆円減少しているものの、地方公共団体の債務を考える場合には、地方債のみならず、この債務負担行為の金額についても、考慮に入れる必要がある。
以上のような借入れ等を行う一方で、地方公共団体は、地方債の返済など将来の財政需要に備えるための積立てを行っている。89年度からバブル景気の影響で歳入が増加したことにより、積立金残高が大幅に増加したが、92年度を境にその額は、年々減少している。これは、厳しい財政状況の下で、積立金の取り崩しによって財源手当をするという状況が生じているためである(41)。
そこで、地方債残高に債務負担行為額を加えたものから、積立金残高を差し引いた額である「将来にわたる実質的な財政負担」の推移をみると、99年度において125兆円と、90年度の46兆円に比べると2.7倍となっている(第3-4-2図)。
なお、地方公共団体が行う借入金としては、以上のような年度を超えて行う借入れ等のほかに、当該年度内の予算執行における資金繰りのために行われる、一時借入金がある。地方公共団体の中には、この一時借入金が高額かつ恒常化している団体も見受けられる。
以上は、個々の地方公共団体が抱える債務であるが、これに加えて、後述するように、地方公共団体が共同で抱える債務である「交付税及び譲与税配付金特別会計」(以下「交付税特別会計」という)の借入金残高(地方負担分)が急増しており、2001年度末には28.5兆円に達する点も考慮する必要がある。
● 国・地方の財政規模の拡大
地方の歳出は、90年度の78.4兆円から99年度の101.6兆円へと、90年代に30%増加している。これは、近年のわが国経済の厳しい状況の中で、税収が低迷する一方、数次にわたる経済対策において公共事業等が追加されたことなどのほか、地方公共団体が一定の行政サービスを提供することが法律等で義務付けられている場合には、国が施策を見直さない限り、各地方公共団体は歳出を税収に合わせて抑制することが困難である面がある(42)。また、一連の公共事業拡大の影響等により地方債の元利償還費用や各種施設の維持管理費用が増加していることも要因である。このように、地方公共団体による歳出削減努力には自ずから一定の限界がある面もあり、国の施策や歳出を徹底的に見直すこととあわせて、地方の歳出を減らす取り組みが不可欠である。
このような仕組みの下では、歳出の抑止力が働きにくく、結果として、国も地方も政府支出の規模がふくらみ、財政赤字に苦しむという悩みを抱えている。
● 地方財政の財源不足が拡大
地方による基礎的な行政サービスの提供については、地方財政法、地方交付税法等により、国がその財源を保障することが定められている。このため、国は、「地方財政計画」(毎年2月頃閣議決定)の策定を通じて、地方財政全体の財源を保障している。財源の不足が見込まれる場合、国は財源の不足額を補てんするための追加的な措置をとる(「地方財政対策」といわれる)。
地方財政計画における地方財源不足額の推移をみると、94年度以降大幅に拡大し、2001年度には、地方財政計画総額(89.3兆円)の15.9%に相当する14.2兆円に達している(第3-4-3図)。財源不足分を具体的に補てんする措置としては、次のような手段が主にとられている。
- 地方債の増発を認め、その元利償還金を、後年度の地方交付税で手当てする。
- 一般会計から交付税特別会計へ特例的な繰り入れ措置を行う。
- 「交付税特別会計」において借入れを行う。
第1の地方債の増発は、主として建設事業費に充当される地方債の割合を高めることにより、地方債(財源対策債)を発行することである。各地方公共団体は、後年度において元利償還の義務を負うこととなるが、後年度の償還時に元利償還金相当額が地方財政計画の歳出に計上されると同時に、基準財政需要額に算入される。
第2として、地方交付税総額の確保のために、国税5税の一定割合(「法定率分」)に加えて、法律で定める金額を国の一般会計から交付税特別会計に繰り入れることも行われている。2001年度において、財源不足の補てんなどのために一般会計から加算して交付税特別会計に繰り入れられた金額は、2兆円であった。
また、第3として、地方交付税の財源確保のために、交付税特別会計における借入れが行われている。地方交付税は、国の交付税特別会計を通じて地方へ交付されるが、国は、地方交付税の財源として、法律の定めに従い、所得税、消費税など国税5税の一定割合(「法定率分」)を、一般会計から特別会計に繰り入れる。一方、特別会計から地方公共団体に実際に交付される地方交付税は、地方財政計画の策定を通じ地方の財源不足額に応じて決定される。このため、毎年の「法定率分」額と地方交付税所要額には、差が生じることとなる。バブル時の景気拡大期には、税収の拡大により、「法定率分」の一部が過去の交付税特別会計の借入金の償還に充てられた。しかし、91年度をピークに「法定率分」が、景気の低迷や減税の影響により大きく減少したのに対し、地方交付税所要額は大幅に増加した。この結果、92年度の補正予算時以降、交付税財源が不足する状態に転じている。地方交付税所要額から「法定率分」を差し引いた財源不足額は、2001年度で地方交付税所要額の31.3%に達している(第3-4-4図)。
また、交付税特別会計の借入金残高は、2001年度末には42.6兆円に達する。これは、交付税の原資である「法定率分」の約3倍である。交付税特別会計の借入金残高のうち、国の負担とされる金額は14.1兆円であり、残りの28.5兆円は、地方公共団体全体で負担することとなっている。
こうした交付税特別会計の借入金は、国及び地方公共団体への負担の帰着がわかりにくく、各地方公共団体に負担感がないといった指摘もあり、2001年度地方財政対策において、次のような措置が決められた。国と地方を通ずる財政の一層の透明化等を図る観点から、2001年度から2003年度の制度改正として、従前の国・地方折半による交付税特別会計における借入金の方式に替え、国負担分については国の一般会計からの特例加算(「臨時財政対策加算」)を行うとともに、地方負担分については、各地方公共団体が地方財政法第5条の特例となる地方債(「臨時財政対策債」)を発行して補てんすることとした。
このような状況にある地方財政の健全化を図るため、地方財政計画の歳出について、国の歳出予算と歩を一にして徹底した見直しと重点的な配分を行い、地方財政計画の規模を抑制することにより、地方財源不足額の圧縮と借入金の抑制を図る方向で、現在、検討が行われている。
2 地方の歳入基盤の諸課題
● 地方公共団体の歳入基盤
地方自治の考え方からは、地方公共団体の行政活動に要する経費の財源は、その地域の住民が負担する地方税収入によって調達されることが望ましい。ところが、現実には、人口1100万人を超える東京都から人口200人余りの東京都青ヶ島村まで、大小合わせておおよそ3300の地方公共団体が存在し、その経済力格差も大きい。99年度において、地方税が歳入の2割にも満たない団体が都道府県の約5割(23団体)、市町村の約6割(1813団体)を占めており、地方公共団体の歳入基盤は脆弱である。
一方で、我が国においては、主として地方公共団体が公共サービスを提供し、その一部の実施について国が仕組みや基準を決めて、全国的に一定水準の行政サービスを提供している。そして、国が国庫支出金(補助金等)を支出し、また地方交付税による財政調整を行い、どの地方公共団体に対しても行政の計画的な運営が可能となるように、地方の行政サービスの財源を保障するシステムを採用してきた。このため、歳入基盤の脆弱な地方公共団体でも、他の地方公共団体とほぼ同様の行政サービスを提供することが可能となった。
● 国から地方への財政移転
国から地方への財政移転は、国庫支出金(補助金等)、地方交付税、地方特例交付金、地方譲与税等の制度を通じて行われる(第3-4-5図)。このうち、国庫支出金は、特定の事業を実施する際の費用の全額ないし一部を国が補助または負担するもので、行政項目の経費負担区分に基づき配分される。地方交付税は、地方公共団体の財源を保障するため、各地方公共団体について、合理的基準によって算定したあるべき一般財源所要額としての「基準財政需要額」が、同じくあるべき税収入としての「基準財政収入額」を超える額(財源不足額)を基礎として交付される(コラム3-2「地方交付税制度の仕組み」参照)。2001年度の地方財政計画によれば、これらの国から地方への移転財源の額は、計34.9兆円に達している。これは、地方の歳入全体(89.3兆円)の39.1%である。
このような、国が地方公共団体の歳出に関与する一方で、地方財政の財源を保障するシステムは、経済力の地域間格差が拡大する中で、全国一律の行政サービスの提供を可能にするなど、我が国における行政サービス提供において、大きな役割を果たしてきた。しかし、近年、この財政移転システムについて、いくつかの問題点が指摘されている。第1は、地方公共団体・住民の双方にとって、負担意識を薄める仕組みとなっており、財政規律が緩んでしまうという点である。その結果、膨張した地方の財政赤字の責任も不明確になっている。第2は、地方公共団体が自らの財政支出・収入のあり方について主体的に判断することや、住民ニーズに柔軟に対応して施策を展開することが行いにくくなりがちな点である。こうした問題については、地方の固有の問題だけではなく、大量の国債を発行して景気対策を行ってきた国にも、共通して生じ得ることに留意する必要がある。
コラム3-2
地方交付税制度の仕組み
地方交付税は、地方公共団体が標準的な行政を実施するために必要となる経費に比べて地方税収入が不足する場合に、その不足額を補てんする。地方公共団体間の財政力の格差を是正すること、地方公共団体が計画的な行政執行のための財源を保障することを目的としている。その仕組みは、以下の通りである。
○ 地方交付税の総額と資金調達
地方交付税は、国の「交付税及び譲与税配付金特別会計」を通じて各地方公共団体に交付される。その財源は、国税として徴収された税収の一定割合である(所得税の32%、法人税の35.8%、消費税の29.5%、酒税の32%、たばこ税の25%)。各地方公共団体が個別に地方税を集めたのでは、著しい税収格差が生じるので、いったん国税として集めてプールして皆で使おうというものである。
しかし、近年の税収の減少などにより、上記の財源のみでは必要な交付税が確保できない状況が続いている。このため、不足額について交付税特別会計が財政融資資金等から借り入れることや、国の一般会計から特例的に繰り入れるなどの財源対策が行われている。99年度決算における交付総額は、20兆8642億円であったが、このうち国税の一定割合による財源調達は11兆8885億円、借入れなどの財源対策による資金調達は9兆7576億円となっている。
○ 各地方公共団体への配分の方法
総額のうち6%は、特別・臨時の財政需要に対応するための「特別交付税」として別枠となっており、大部分(94%)は「普通交付税」として、各地方公共団体の財源不足額に応じて配分される。
普通交付税額 = 基準財政需要額 - 基準財政収入額
各地方公共団体に配分される普通交付税は、団体ごとに「基準財政需要額」と「基準財政収入額」が算定され、前者が後者を上回る場合、その不足額に応じて交付されることになる。不足額が生じない地方公共団体は、「財源超過団体」と呼ばれ、普通交付税は交付されない。2001年度現在、普通交付税不交付団体は、1都46市49町村の計96団体である。
○ 基準財政収入額の算出
「基準財政収入額」とは、標準的な地方税収入等を意味しており、地方公共団体の税収見込み額の一定割合(都道府県75%、市町村80%)と地方譲与税の合計として算出される。
○ 基準財政需要額の算出
「基準財政需要額」とは、合理的基準によって算定した標準的な水準における行政を行うために必要となる一般財源である。その算出にあたっては、地方公共団体の自然的・地理的・社会的諸条件が加味される。基準財政需要額の算出は、多数の行政事務の1つ1つに対して膨大な積算を行っていることなどから、近年、その算出方法が複雑化し、難解であるとの指摘がなされている。
具体的には、下記により行政サービス項目ごとに算出した費用を合計して求める。
各項目の基準財政需要額 = 単位費用 × 測定単位 × 補正係数
単位費用 標準的な条件を備えた仮想の地方公共団体(標準団体)を設定し、その団体が標準的な行政サービスを提供する場合に必要な費用として算出されたものである。標準団体とは、人口、面積、行政規模が平均的なもので、自然的条件、地理的条件などが特異なものでないものを想定している(人口の場合、都道府県で170万人、市町村で10万人など)。
測定単位 行政サービスごとにその量を測定する単位であり、例えば教育にかかる経費などは教職員数や生徒数、土木関係費などは道路面積や河川の延長距離などとなっている。
補正係数 単位費用や測定単位にあらわれない、各団体や地域ごとの特性を反映する(補正する)ために用いられる係数である。例えば、各団体の内部管理経費の単位あたり経費などは、一般的にスケールメリットが働いて、規模が大きい団体ほど安くなり、規模が小さい団体ほど高くなる傾向がある。このような差異を調整するために、団体の人口規模に応じて補正されるのが「段階補正」である。
この他にも、寒冷補正、種別補正、態容補正、合併補正、財政力補正などさまざまな補正が行われている。
● 地域住民のニーズに充分に対応できていない国庫支出金
国庫支出金(補助金等)は、地方税・地方交付税とともに、地方公共団体の主要な財源であり、災害復旧事業や大規模建設事業の促進などに大きな役割を果たしてきた。また、国庫支出金の交付を受けて地方公共団体が実施する公共事業は、地域の経済と生活を安定的に支えつつ、国土の均衡ある発展を促してきた。また、国の側にとっても、国の施策が目指す方向に地方行政を導く上で、国庫支出金は非常に有効な手段として機能してきた。
ところが、国庫支出金はそもそも国の統一的基準を満たした事業を実施することが求められているため、行政サービスの画一化を促す側面がある。また、その中には、数十年も前に導入され、社会経済情勢の変化に伴い、今では時代の要請にそぐわないものや、資金規模が非常に零細で、効果の乏しいものもあると考えられる。そのため、現在の国庫支出金制度は、優先度の低い仕事であっても国庫支出金があることによって施策の優先度について、十分な検討が行われないまま実施されている場合があるなど、地方公共団体が地域の智恵や創意を生かして住民のニーズに沿った自主的な行財政運営を進めるにあたっての判断を歪めている面もあると考えられる(43)。
2000年度当初予算額における補助金等のうち、地方公共団体向けのものは、約20兆円と全体の7割強を占めている。地方公共団体向け補助金等を、(1)国民生活に不可欠な行政サービスの提供のために事業費の一部を国が負担する性格を持つ「国庫負担金」、(2)国が特定の事業を奨励したり財政援助する意図に基づいて支出する「国庫補助金」、(3)本来国が実施すべき事務を地方に委託する場合に交付される「国庫委託金」の3つに分類すると、国庫負担金(上記(1))が全体の約8割を占めている。国庫負担金については、今後、国と地方公共団体の役割分担の見直しに伴い、国の関与の整理合理化等と合わせて見直す必要がある。
国庫補助金(上記(2))に該当するものは、全体の2割弱(総額約4兆円)であるが、これらは、「地方分権推進委員会意見―分権型社会の創造」(2000年8月)において、原則として、廃止・縮減を図るべきとされている(44)。国庫補助金のうち、国の一般会計分について内訳をみると、公共事業関係費が全体の約4割、社会保障関係費が約2.5割、文教・科学振興費が約1割と、これら3つの費目の占める割合が大きい。国庫補助金について、創設年度と国の負担割合(=国庫補助額÷総事業費)で分類してみると、戦前・戦後復興期のものが、4712億円(全体の11.7%)、設立されてから四半世紀(25年)以上経過しているものは、計1.7兆円と全体の43.1%を占めている。創設後相当程度経過した補助金や補助対象事業については、奨励目的が既に達成されているか、社会経済情勢の変化に対応できていない可能性がある。また、国の負担割合が1/3未満のものは、2.6%、1/2未満のものは、27.0%である(第3-4-6表)。こうした国の負担割合の低いものについては、補助効果について検討し、効果の小さいものについては、特に見直しの対象とする必要があろう。
なお、本分析における国庫負担金と国庫補助金の区分については、地方分権推進委員会の区分に従って分類している。
今後も、真の意味での地方自治を実現するためには、地域に必要なサービスを住民が負担との見合いで、自主的に選択し得る仕組みが必要であるという観点から、国庫補助負担金((1)と(2))を見直して行かなければならない。特に、全国的、広域的に便益が及ぶ行政サービスや、国が国民に最低限保障すべき行政サービスなど、国の負担が特に必要な国庫補助負担金だけを残し、それ以外のものは廃止・縮減する必要がある。
さらに、存続する国庫補助負担金についても、国の過度の関与等により地方公共団体の自主性・主体性が損なわれないよう、統合・メニュー化、運用の弾力化等を図る必要がある。さらに、2000年度には、具体的な事業箇所・内容について地方公共団体が主体的に定めることができる統合補助金制度が創設されたが、その対象事業の拡充を図る必要がある。
● 地方交付税の総額が増加
80年代後半以降、地方交付税の総額は増加しており、90年代の10年間に42.0%増加した。地方交付税が標準的な行政サービス(合理的妥当な水準)の達成のための財源保障の仕組みとするならば、その水準の引上げや範囲の拡大が行われない限り、経済成長で所得水準が向上すれば、地方交付税の役割は相対的に低下するはずである。しかしながら、地方交付税の地方財政の歳入全体に占めるシェアは、20%前後で安定的に推移しており、近年では最近の経済情勢や減税の実施に伴う地方税収の減少により、そのシェアは拡大している。
地方交付税の総額が増加している原因は、標準的な行政サービスを提供するために必要な費用として算定されている「基準財政需要額」が、90年代に入ってもなお、市町村を中心に増加してきたためである(45)(第3-4-7図)。特に、先述したように、国の経済対策等に伴い近年急増している投資的経費について、その経費の一部が基準財政需要額に算入されるほか、投資的経費の財源調達や財源不足対策のために発行した地方債の元利償還費が交付税措置の対象として基準財政需要額に算入されていることも、基準財政需要額の増加につながっている。
その一方で、基準財政収入額は、市町村分が増加したものの、都道府県分が法人2税の落ち込みの影響により大きく落ち込んでいる。地方公共団体全体の基準財政需要総額に対する基準財政収入総額の比率の推移をみると、ピーク時(89年度)の72.1%から、その後年々低下し、2000年度には、58.2%となり、両者の差額である地方交付税総額は増加している。
● 地方交付税の機能の変化と、地方交付税の算出方法見直しへの取組み
地方交付税は、使途が特定されず地方公共団体が自由に使える一般財源であり、特定の事業費用を国が補助する国庫支出金とは性質の異なるものである。しかし、近年、地方交付税は、特定の事業を遂行するための財政手段としての性格を持つようになってきた。
国庫支出金を伴う「補助事業」の場合、地方公共団体は、事業費から国庫支出金を控除した地方負担分(いわゆる「裏負担」)を、地方税収や地方交付税などの一般財源や地方債発行で賄うことになる。特定の補助事業については、この「裏負担」分の事業費や地方債の元利償還費の一部を、事業費や元利償還金額に応じて、「事業費補正」や「公債費方式」により、基準財政需要額に算入する交付税措置が行われている(46)。
このように、地方交付税は、国庫支出金、地方債とセットになって、国が地方公共団体に奨励する事業を確実に遂行させる財政手段としての性格を持つようになった。他方、地方公共団体にも、自ら努力して財源を調達し、地域ニーズに合った行政サービスを提供するよりも、これらの資金を使って一定の行政サービスを確保してきた面がある。
以上のような補助事業に対する措置に加えて、80年代半ばから、国庫補助を受けずに行われる一定の「地方単独事業」についても、事業費の大半を地方債でまかなうことを認めたうえで、その元利償還費の一部を基準財政需要額に算入するようになり、財政的誘導手段として大きな効果を発揮したと考えられる。こうした地方単独事業における「地域総合整備事業」の仕組みは、地域の自主的・主体的なまちづくり事業や福祉施設建設などを進めるとともに、同時に、経済対策の要請に応えた地方単独事業の事業量確保を図る機能を果たした。
事業費補正と公債費分として基準財政需要額に算入された金額をみると、95年度には3.9兆円、基準財政需要額全体の9.4%であったが、近年の財源不足に対応して増発された地方債の元利償還金の増加等により、2001年度には、6.3兆円、同13.4%に拡大している。また、事業費補正の基準財政需要額に占める割合をみると、99年度において、都道府県は5.4%、市町村は7.5%となっており、市町村の方が事業費補正の影響が大きい。これは、市町村の方が、事業の偏在などにより投資的経費として単位費用化できないものが多く、事業費補正の形で基準財政需要額に含まれるためでもある。
ある事業の採否を検討する場合、地方公共団体は自らの財源を充てるのであれば、その事業に要する費用と効果を比べて、事業を採択するかどうか決める。しかし、現在は、特定の事業の地方負担を交付税で措置する仕組み(地方債の償還費を後年度に交付税措置する仕組み等)と補助金の組み合わせによって、事業費の大半が賄えることも多い。そのため、地方にとって実質的な負担が少ない事業が実施されるようなインセンティブが働き、地方が自ら効果的な事業を選択し、効率的に行っていこうという意欲を損なっている面がある。このため、このような地方の負担意識を薄める仕組みを縮小し、自らの選択と財源で効果的に施策を推進する方向に見直していく必要がある。現在、事業費補正方式の対象事業を限定し、交付税算入率も引き下げる方向での検討が進められている。
全都道府県と全市を、地方交付税の不交付団体と交付団体に分けたうえで、その歳出の伸びを比較してみると、地方税収が減少した90年代後半においては、不交付団体の歳出が減少しているのに対して、財政力の低い交付団体において歳出が増加している(第3-4-8図)。
また、地方税収入の少ない団体の方が、地方交付税の交付を受けた後の人口1人当たり一般財源(地方税収+地方交付税)でみると逆に多くなるという現象が生じている。このような状況が生じる要因の一つには、基準財政需要額を算定する際、自然的・社会的条件の違いを行政経費に反映させるために用いる「補正係数」がある(47)。すなわち、過疎地など相対的に行政コストが高い地方公共団体に対しては、このような要素を反映させる補正係数を適用して算定しており、地方交付税額が多く交付されている。
基準財政需要額の伸び方には、地域によってばらつきが生じている。そこで、基準財政需要額の伸び率の「ばらつき具合」を70年代後半、80年代、90年代の伸び率の変動係数で比較してみると、基準財政需要額全体の伸び率は、徐々に低下しているものの、変動係数は大きくなっており、地方交付税の地域間の「ばらつき具合」が、90年代に相対的に大きくなっていることが分かる(48)。
したがって、地方公共団体の歳出抑制に向けたインセンティブを組み込むために、地方交付税の配分方式について、できるだけ客観的かつ単純な基準で交付額を決定するような簡素な仕組みにしていく必要がある。なお、その際には、国の関与の縮減が前提であることは言うまでもない。また、段階補正(団体の規模に応じた交付税の配分の調整)が、合理化や効率化への意欲を弱めることにならないよう、その見直しを図る必要がある(49)。
地方公共団体が、より自主的・自律的な財政運営を確立していくうえで、地方交付税の財政調整機能は極めて重要である。このため、地方交付税総額の安定的確保を図るとともに、各団体に交付される地方交付税の算定方法の簡明化を引き続き進めることが必要である。
● 地方税収増加に向けた取組み
前述したように、地方税が歳入の2割にも満たない団体が都道府県の約5割、市町村の約6割を占めており、地方公共団体の歳入基盤は極めて脆弱である。地方公共団体の歳入については、地方税法によって、地方公共団体に若干の選択の余地を残しつつ、(1)課税できる税目、(2)課税客体、(3)課税標準、(4)税率、(5)その他賦課徴収について必要な事項が詳細に定められている。一方で、基準財政需要額が基準財政収入額を超える額(財源不足額)については、地方交付税が交付される。この制度の下では、地方公共団体が自らの努力で税収を増加させるインセンティブは弱い。例えば、地方公共団体が自らの努力で税収を増加させても、基準財政収入額が増加することになって、税収増加の大半は地方交付税の減少で相殺されてしまう(50)。
もちろん、現行の仕組みでも、税収の増加が地方交付税の減額で相殺されないように次のような配慮がなされている。
- 地方税収額すべてを基準財政収入額に組み込むのではなくて、税収の一定割合(都道府県は20%、市町村は25%。以下「留保財源率」という)は、地方公共団体が独自の施策を行う留保財源として、各地方公共団体に残されるようになっている。
- 法定外税、超過課税分については、基準財政収入額に算入しないことにより、税収全額が一般財源の増加となるようになっており、税収増加へのインセンティブが考慮されている(51)。
しかし、地方交付税への依存度が高い現状では、これらの措置の効果は限定的なものとなる。
そこで、国は、地方公共団体が税収確保努力を行うインセンティブを高めるために、留保財源率を引き上げる方向で検討を行っている。留保財源率が引き上げられれば、その分、地方公共団体の収入総額が増加するため、各地方公共団体は税収確保努力に熱心になると期待される(52)。
なお、地方公共団体の課税自主権尊重の観点から、2000年の「地方分権一括法」による地方税法改正において、法定外普通税の許可制度が同意を要する協議制度に改められ、協議の範囲が縮減されるとともに、法定外目的税が創設された。地方公共団体が、地域住民の意向を踏まえ、自らの判断と責任において「公平、中立、簡素」の税の原則や、納税者負担のあり方に配慮しつつ、地域の実情に即した課税自主権の活用の積極的な検討を行うことが期待される。実際に、多くの地方公共団体において、独自課税に向けた取組みがなされている(53)。こうした課税自主権の活用は、受益と負担の関係の明確化に結びつき、地方分権の観点から望ましいが、現実には、課税自主権の活用は、法人に対するものが多く、地域住民に対する課税はあまり行われていない。
● 公的資金依存から民間資金を一層活用した地方債発行へ
国は、「地方債計画」の策定を通じて、各地方公共団体が発行する地方債総額の見込みを定める一方、地方債の引受けについても、大きな役割を果たしている。2001年度地方債計画をみると、財政融資資金31.4%(5.2兆円)、公営企業金融公庫11.9%(2.0兆円)、簡保積立金9.9%(1.6兆円)、郵貯資金6.1%(1.0兆円)となっており、地方債発行額全体に占めるこれら公的資金の割合は約6割となっている。これらの資金は、民間資金よりも長期かつ低利の資金であり、高い公益性、公共性を有する事業に配分がなされている。
なお、財政投融資改革に伴い、2001年4月以降、郵便貯金や年金積立金については、資金運用部に対する全額預託義務が廃止され、金融市場を通じて自主運用が行われることとなった。簡易保険積立金についても、従来の財政投融資対象機関等に対する融資が廃止された。ただし、財政力の弱い地方公共団体の借入れの資金を確保するため、自主運用開始後の郵便貯金や簡保積立金は、地方債計画及び財政投融資計画の枠内で、地方公共団体に対しては例外的に直接融資を行うこととされた(54)。
一方、民間資金による引受けは全体の4割であるが、その内訳をみると、市場公募により資金を債券市場から調達しているのは、民間引受け全体の約4分の1であり、残りの4分の3は、発行地方公共団体と取引関係を有する指定金融機関等が引き受けている(いわゆる「縁故地方債」)。
地方公共団体の資金調達力に大きな差がある中で、公的資金の果たす役割は重要であるが、地方分権の議論の流れからすれば、財政資金の調達先についても、公的資金の比率を引下げ、民間資金の比率を高めていくことが望ましいと考えられる。しかし、その主たる引受け先である指定金融機関(地銀、第二地銀等)等については、(1)2001年9月の時価会計の本格的導入や、(2)2002年4月に予定されているペイオフ解禁の影響もあり、地方債の引受け額を大幅に増やすことは困難な状況にあると考えられる(55)。政府としては、地方公共団体の民間市場における資金調達手段の多様化を図るため、流通性向上に向け、共同発行による発行ロットの大型化、償還年限の多様化、流通市場の実勢に応じた発行条件の設定などに取り組む必要がある(56)。
なお、地方債の発行については、許可制度がとられている。しかし、「地方分権一括法」により、地方公共団体の自主性を高める観点から、2006年度にこれを廃止し、地方債の円滑な発行の確保、地方財源の保障、地方財政の健全性の確保等を図る視点に立って、事前協議制度に移行する等の制度改正が行われた。今後、制度改正の趣旨に沿った同意基準の策定等、その円滑な運用のための準備を進めていく必要がある。
3 地方行財政改革への取組み
● 地方行財政改革の基本的な考え方
これまでみてきたように、現在、地方財政は極めて厳しい状況にあり、その健全化が求められている。また、現行の国と地方の行財政関係は、様々な問題点も指摘されており、国と地方にかかる制度の抜本的な見直しが求められている。
我が国における国と地方公共団体との財政関係の特徴は、主として地方公共団体が公共サービスを提供しているにもかかわらず、国が規制や補助金を通じて、その決定に大きく関与すると同時に、国が集めた財源を地方公共団体に再配分している点にある。このシステムは、経済力の地域間格差が拡大する中で、全国一律の行政サービスの提供を可能にした反面、地方公共団体が独自に地域の発展に取り組む意欲を弱め、地方は中央に陳情することが合理的な行動ということになりがちである。また、国の非効率が地方の非効率につながる仕組みである。その結果、全国で同じような街並みや公民館ができ、個性が失われ、効果の乏しい事業までが実施されるという弊害も見受けられる。
今後は、経済の高成長が望めない中で、少子高齢化の進展により、地方公共団体に対する行政ニーズは、医療・福祉分野あるいは環境分野を中心として、確実に高まっていくであろう。このような中、限られた財源と人的資源をもって、新たな行政ニーズに効率的に対応できる仕組みを構築することが急務である。そのためには、従来の行政サービスのうち必要性が低くなったものについては見直しを行うと同時に、福祉、教育、社会資本整備などさまざまな行政サービスの受益と負担の関係をより一層明確化し、それぞれの地域の住民が行政サービスの費用負担とそこから得られる受益を比較考量して、できるだけ自らの判断と責任で地域の行政サービスの水準を決定できるような仕組みに改めていく必要がある。
これまで重視されてきた「均衡ある発展」の本来の考え方を活かすためには、「個性ある地域の発展」、「知恵と工夫の競争による活性化」を重視する方向へと転換していくことが求められる。国が地方に対して広範な関与をすると同時に、その財源をも手当てし、画一的な行政サービスを確保する時代から、次の時代へと歩を進めていくべきである。
このような地方財政改革を進めるにあたっては、次の点が重要である。
まず、地方歳出総額を見直し、地方財政計画ベースで年間14.2兆円という財源不足額を縮小する必要がある。90年代に入り、国が行った累次の景気対策等により地方の歳出が大幅に増加してしまったことなども踏まえ、国や地方公共団体が国民・住民に最低限保障すべき行政サービスの水準を見直すことにより、地方の歳出も見直し、地方財政の健全化を進めていく必要がある。これは、国庫補助負担金制度や地方交付税制度による財政移転を見直すことに連動するものであり、国が地方に要請する仕事の洗い直し・縮小に応じて、補助金や地方交付税、地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準を縮小することが求められる。このことは、地方が自由に独自の行政サービスを選択し、提供する範囲が増えるということにつながる。
また、各地方公共団体においても、歳出を削減する合理化努力を一層進めることが求められる。同時に、課税自主権を活用した歳入確保に取り組むことや、市町村合併を始めとした行政の広域化を進めることにより、真剣に自らの行財政基盤を充実させる努力を行うことが求められる。
そして、自らの判断で使える財源を中心とした「自助と自立」にふさわしい歳入基盤を確立するため、地方税を充実確保することが必要である。そのためには、国と地方の役割分担の見直しを踏まえつつ、国庫補助負担金の整理合理化や地方交付税のあり方の見直しとともに、税源移譲を含め国と地方の税源配分について根本から見直し、そのあり方を検討する必要がある。
地方財政制度には、制度・問題が複雑に関係しているため、歳出の見直し、財政移転制度の見直し、税源移譲を含めた国と地方の税源配分の見直しなどの地方税の充実確保といった施策を、総合的に検討することが必要である。また、その施策が、財政移転制度の見直しや税源移譲など、国の財政制度が深く関係する場合には、国の財政に与える影響も同時に検討する必要がある。例えば、地方への財政移転の財源は、国税以外に国債発行によっても調達されており、国税の削減と地方への財政移転の削減規模が同じである場合には、国の財政の国債依存度が高まることになる。また、その際、国税と地方税のあり方や、ストックとして既にある国・地方を合わせた巨額な公的債務を、今後どのように解消していくかということも検討する必要があろう。
このような地方行財政改革を進めるための基本方向は、2001年6月に閣議決定された「骨太の方針」に示されている。「構造改革のための7つの改革プログラム」の1つである「地方自立・活性化プログラム」では、次のような点が掲げられている。「自立した国・地方関係の確立」のため、市町村合併、行政体制の効率化、国による行政サービス水準の見直し、受益と負担の明確化、地方財政制度改革等が必要である。「個性ある地方」の自立した発展と活性化を促進することが重要な課題であり、すみやかな市町村の再編を促進すること、歳出の効率化を図り、受益と負担の関係を明確化するとの観点に立ち、地方財政の立て直しを行う。「行政サービスの権限を住民に近い立場に」を基本原則として、国庫補助負担金を整理合理化するとともに、国の地方に対する関与の縮小に応じて、地方交付税制度を見直すこと、特定の事業について、地方の負担意識を薄める仕組みを縮小するなど、制度の簡素化を行う。地方行財政の効率化などを前提に、地方税の充実確保により、社会資本整備・社会保障サービス等を担う主体として地方行政の基本的な財源を地方が自ら賄える形にすることが必要である。
● 地方財政改革のシミュレーション
地方行財政改革に向けた取組みや検討を速やかに進めていく必要があるが、そのためには、政府部内、各地方公共団体、国民を含めた広範な議論が、必要不可欠である。その際には、現在地方財政が置かれている状況や、どのような改革を進めた場合にどのような状況になるのかなど、改革を実施するにあたっての個別具体的な検討が必要となる。
例えば、地方税の充実確保の方策としては、税源移譲を含む国と地方の税源配分の見直し、法定外税や超過課税といった地方の課税自主権の積極的活用、地方税の増税など、さまざまな方法があるが、これら地方税の充実確保策の検討にあたっては、「国・地方それぞれの財政事情や個々の自治体に与える影響等を踏まえる必要がある」との指摘が、「骨太の方針」においてもなされている。
そこで、以下では、いくつか大胆な前提を置いた上で、地方財政改革のシミュレーションを行った。このシミュレーションは、まず、90年代にとりわけ高い伸びを示した普通建設事業費を削減すると仮定しており、歳出面における見直しの効果を織り込んでいる。そのうえで、地方税充実確保の方策のうち税源移譲をとり上げ、いくつか大胆な前提を置いた上で、地方財政改革のシミュレーションを行った。
ただし、前述したように、税源移譲を含む国と地方の税源配分の見直しにあたっては、危機的な財政状況の下で財政健全化と整合性をとりつつこれを行う必要があり、現実的には、国・地方を通ずる財政構造改革の議論の一環として取り組むのが適当である。
なお、前提条件の置き方によって、各地方公共団体の財政に及ぼす影響は変わるので、試算結果については、ある程度の幅をもって解釈する必要がある。
● シミュレーションの前提
全国の都道府県と市町村を対象にして、現行制度に歳出削減と税源移譲の所要の変更を行った場合に、各地方公共団体の歳入構造はどう変化するか、地方交付税総額はどう変化するかなどについて、定量的に分析した。したがって、歳入構造の変化に伴う各地方公共団体の歳出面における変動は、本シミュレーションにおいては捨象している。分析は、すべての都道府県と市町村の計3299団体の普通会計を対象に行った。分析の対象期間は、99年度である(57)。
シミュレーションの具体的な前提は、以下の通りである。
(前提1)各地方公共団体の普通建設事業費を1割削減する。
歳出の見直しにより、各地方公共団体の普通建設事業費が1割削減されることを想定し、歳入面の効果をみるために、地方交付税、国庫支出金、地方債の普通建設事業に係る費用をそれぞれ1割削減した(58)。なお、99年度の普通建設事業費は、26.1兆円と地方歳出全体の25.7%を占めている。したがって、普通建設事業費の1割削減は、地方の歳出全体の2.6%の削減に相当する。
(前提2)国から地方に税源移譲を行うと同時に、地方交付税と国庫支出金を移譲額と同額減額する。つまり、地方歳入に中立的な税源移譲を行う。
具体的には、国税と地方税の比率を5対5にするように、国から地方へ約7兆円程度の税源移譲を行う(第3-4-9図)。同時に、地方交付税や国庫支出金などの国から地方への財政移転を、税源移譲額と同額減額する(59)。地方財政全体でみれば、地方税の増収分と同額が、地方交付税及び国庫支出金から減額され、歳入総額は変わらない(60)。ただし、各地方公共団体ごとにみれば、税源移譲による税収増加額と地方交付税や国庫支出金の減少額は一致しない。他方、国にとっては、借金の額は変わらないまま、税収と歳出が同額減少する。また、この前提2のもとでは、国・地方全体での税収は不変であるが、国税と地方税では、課税ベースが異なるため、納税者を個々にみれば、税源移譲に伴い税負担が変わることにも留意する必要がある。
(前提3)地方交付税の財源となっている所得税と消費税といった国税の一定額を、地域的な偏在性が少ない税目である個人住民税や地方消費税に振替える。
個人住民税については、税源移譲にあたっては、住民が広く薄く負担するという観点から、現在所得に応じて3段階(5%、10%、13%)に分かれている税率を一本化した。税率は、所得にかかわらず一律に10%(都道府県3%、市町村7%)、と想定した(61)。なお、ここでは、税源移譲の結果、国の所得税の税率構造や課税ベースがどのような姿になるかについては、考慮していない。
地方消費税については、福祉をはじめとする幅広い財政需要を賄う税として、その充実を図る必要がある。そうした観点から、消費税の一定割合を地方消費税に組み替えることとした。現在、消費税5%のうち、国の消費税が4%、地方消費税が1%となっているが、消費税率の1.5%分を移譲して、国2.5%、地方2.5%とすることを想定した。なお、ここでは、住民税、地方消費税への税源移譲を前提としたが、国と地方の税源配分のあり方の見直しにあたっては、国の基幹税である所得税、福祉目的税化されている消費税など国税のあり方についても、地方税のあり方とともに慎重な検討が必要であろう。
以下では、シミュレーション結果について、詳しくみてみよう。
● 地方の歳入基盤が改善
まず初めに、地方財政全体の姿がどう変わるかみてみよう。地方交付税や国庫支出金といった国からの財政移転が地方の歳出に占める割合は、現状の約4割から約3割に低下する一方で、地方税収が地方の歳出に占める割合は、現状の約3割から約4割となる。そして、地方税の税収にその他収入を加えた自主財源が歳入全体に占める割合は、現在の52%から59%に上昇し、地方財政全体として、ある程度歳入基盤の改善を図ることができる(第3-4-10図)。
他方、国については、税収が歳出に占める割合は低下し、公債依存度も上昇することになり、国の財政状況は、さらに悪化する。
これを地方公共団体別にみると、現状では、地方税収入の歳入総額に占める割合が2割未満という歳入基盤の脆弱な団体が、市町村の約5割を占めている。この割合が約4割(1297団体)に減少する。逆に、地方税収入の歳入総額に占める割合が5割以上という団体は、現状の7.4%から15.4%(507団体)に増加する。このように、地方財政全体だけでなく、市町村ごとにみても、自立した歳入基盤を持った地方公共団体が、ある程度現れることになる(第3-4-11図)。
● 不交付団体に居住する住民が増加
次に、地方交付税の交付を受けない不交付団体が、どの程度増加するのかをみてみよう。
現在、ほとんどの市町村(全体の97%、3145団体)が、交付税の交付を受けている。税源移譲により、地方税の税収が増加する結果、大都市圏を中心に不交付団体が増加し、不交付団体のシェアは、現状の3%から8%に上昇する。なお、都道府県では、不交付団体が東京都のみという現状から、愛知県が加わるのみで、他の道府県は交付団体のままである。
これを団体数ではなく、不交付団体に居住する人口の割合でみてみると、市町村ベースでは、現在、全人口の12%にすぎないものが39%に、都道府県ベースでは、9.3%が14.8%にそれぞれ増加する(第3-4-12図)。このように、税源移譲の結果、地方交付税の交付を受けず、地方税収を中心とした地方公共団体に居住する住民の割合はある程度増加することになる。こうした地方公共団体では、自らの判断と責任によって、提供する行政サービスの水準と量が決定されていくものと期待される。
この結果、地方交付税の総額は、現行の20.8兆円から、2.5割(5.2兆円)縮小する。
最後に、不交付団体の増加によって、多額の超過財源(1.7兆円)が生じる点についても指摘しておこう。超過財源とは、地方交付税の基準財政収入額が基準財政需要額を上回る部分であり、地方交付税の不交付団体(特に大都市)において発生する。このシミュレーションのように、地方全体での税源移譲額と財政移転削減額を同額とした場合には、不交付団体の超過財源の増加分に応じて、交付団体の歳入規模は縮小することに留意する必要がある。税源移譲の規模によっては、新たな財政調整の仕組み、巨大都市の地方税財政制度のあり方などを、今後検討する必要があろう。
● 団体規模により異なる税源移譲の効果
このように、税源移譲により、ある程度の成果が得られるが、これを地方公共団体の規模別にみると、違った姿がみえてくる(前掲第3-4-12図)。
税源移譲の及ぼす効果は、人口10万を境にして大きく異なる。人口10万以上の市では、財政力は大幅に改善し、不交付団体の数は、現在の23団体(全体の10.2%)から108団体(同47.8%)へと増加し、不交付団体に居住する人口が全人口に占める割合は、現状の2割弱から6割へと大きく上昇する。このことは、人口が多く経済力のある比較的規模の大きい地方公共団体は、国から自立することがある程度可能となることを示している。
これに対して、全地方公共団体の93.0%(3003団体)を占める人口10万人未満の市町村では、財政力の改善幅は比較的小さく、不交付団体の数は、現在の61団体(全体の2.0%)から122団体(同4.1%)に増加するにとどまる。
このように、税源移譲を行ったとしても、財政的に自立できない小規模な市町村は依然として相当数存在する。したがって、「地方に税源移譲を行えば、地方の抱える財政問題がすべて解消されるのではないか」との見方は楽観的すぎることがわかる。むしろ、自助と自律に基づく新たな国・地方の関係の実現には、まず、受け皿となる地方公共団体の行財政基盤の拡充と自立能力の向上を促し、国の財政に依存しなくても「自立しうる地方公共団体」を確立しなければならない。そのためには、市町村合併や広域行政をより強力に推進し、目途を立て速やかな市町村の再編を促す必要がある。
また、地方分権によって、今後ますます地方公共団体の担うべき仕事が増えていくことを考えると、人口数千人の団体と数十万人の団体が同じような行政サービスを担うという現行の仕組みを見直すことも考えられる。団体規模等に応じて仕事や責任を変える仕組み、例えば、小規模な地方公共団体においては、仕事と責任を小さくして、都道府県等が肩代わりするようなことも検討する必要があろう。
その一方で、財政基盤を強化することにも限界があるような市町村については、必要な行政サービスを提供するための財源を保障するという観点から、何らかの財政調整制度の仕組みは、依然として必要である。
● 税源移譲による地域間格差の問題
税源移譲を行うことに慎重な立場をとる考え方は、「地域ごとに税収の偏在が存在するため、税源移譲を行えば、地域間の税収格差が拡大する可能性がある」というものである。
確かに、今回のシミュレーションの税源移譲による税収の増加額では、大都市圏の方が地方圏よりも大きく、そうした意味では、税収格差は広がるともいえる。一方で、税収の伸び率をみると、地方圏が相対的に高く、大都市圏では、相対的に伸び率が低くなっている。また、1人あたり税収の変動係数(税収のばらつき)によって、税収の地域間格差をみると、現状と比べて1人当り税収の変動係数は低下している(62)。
● まとめ
本節では、地方財政が抱える問題点を検討した後、課税自主権の活用や地方税の増税などの地方税の充実確保策の中で、国から地方への税源移譲をとり出して、これとあわせて普通建設事業費を1割カットするという仮定の下、地方の財政に与える影響について、シミュレーションを行った。シミュレーションは一定の前提を置いて行われるものであり、当然のことながら、その試算結果については、ある程度の幅をもって解釈する必要があるが(63)、以上の議論を踏まえると、地方財政改革の姿としては、大まかに以下の点が指摘できる。
(i) 税源移譲によって、地方の財政基盤はある程度強化され、経済力のある大都市などの地方公共団体の自立が図られる。一方で、地方圏を中心に大部分の地方公共団体の財政状況はさほど改善しない。
税源移譲を進めることによって、経済力のある大都市まで地方交付税の交付団体となっているという現在の状況を改めることができる。このような税源移譲を行えば、経済力のある大都市などの地方公共団体が、より自律的な財政運営を行うことが可能となる。同時に、自らの負担において施策を選択するようになるので、行政の効率化や歳出の削減が図られる。他方、地方圏を中心に大部分の地方公共団体の状況はあまり改善しない。
(ii) 税源移譲のみで地方財政の問題が解決するわけではない。国の地方に対する関与の廃止・縮減と合わせて、地方単独施策の見直しを始め地方の歳出の見直しを進めることが不可欠である。同時に、市町村合併等による地方の行財政基盤の充実を図ることが必要である。
税源移譲のみで地方財政の問題が解決するわけではないことも、分析の結果明らかになった重要な点である。現下の危機的な財政状況の改善を図るためには、歳出の見直しを進めることが不可欠であり、また、課税自主権の活用による地方の自主的な税収確保策が重要である。その際、国庫補助関連事業や国が法令等で基準を設定しているものが、公債費等を除く地方一般歳出に占める大きさを踏まえれば、地方単独施策の見直しを行うとともに、国の施策や地方に対する関与の廃止・縮減等により、地方の歳出全体の削減を図っていく必要がある。それは、補助金や地方交付税、地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準の縮小にもつながる。
同時に、財政力の弱い地方公共団体は、市町村合併等により行政の広域化を行い、住民に身近な基礎的自治体としての行財政基盤を強化することを目指すべきである。
その上で、国と地方の役割分担の見直しを踏まえ、国庫補助負担金の整理合理化、地方交付税のあり方の見直し、税源移譲を含めた国と地方の税源配分の根本からの見直しなど、総合的かつ根本的な地方財政改革を実施する必要がある(64)。