第1章

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第1節 景気局面の現状

第1節では、今回引上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けて大きく変動する我が国経済の動向を概観する。

1 概観

我が国の景気は、2013年秋以降、今回引上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けている1別ウィンドウで開きます。これは、消費税率引上げが価格に転嫁されることを前提に、消費者があらかじめ税率引上げ後の物価上昇を予想する結果、税率変更の前後で消費を中心に駆け込み需要とその反動(異時点間の代替効果)が生じるためである。また、消費税率引上げによる物価の上昇は実質的な所得の減少をもたらすため、消費を抑制する効果(所得効果)を持つと考えられている。こうした消費税率引上げによる影響に加え、2014年夏には、天候不順の影響により景気は一時的に下押し圧力を受けることとなった。消費税率引上げは、家計や企業、ひいては経済全体の動きに大きな影響を与えるため、その影響を十分に把握することが重要である。ここでは、前回引上げ前後の景気動向との比較を通じて、今回引上げ前後の景気動向の特徴を点検する。

(雇用・所得で続く改善傾向)

我が国の景気は、消費税率引上げに伴う影響を受けつつも雇用・所得環境の改善に支えられ緩やかな回復基調を維持してきた。

その背景にある企業収益についてみると、2012年末以降、製造業・非製造業共に、増収・増益傾向で推移する中、2014年1-3月期には消費税率引上げに伴う駆け込み需要の影響もあって、経常利益は過去最高水準となった。消費税率引上げ以降も、経常利益は引き続き高水準を維持し、7-9月期の売上高経常利益率は、同期としては過去最高の水準を記録した。そうした中、賃金は底堅く推移し、また有効求人倍率も22年ぶりの高水準を維持するなど経済の好循環の動きが続いている。ここでは、消費税率引上げ以降にみられる雇用・所得の動きを月次統計指標で確認する。

一人当たり賃金(現金給与総額)は、前回引上げ前後の局面ではベースアップにより所定内給与が安定的に増加していたことや、景気回復を背景に特別給与も増加していたことから、1995年の水準を上回って推移していた(第1-1-1図別ウィンドウで開きます(1))。そうした前回引上げ前後の局面での動きとは異なり、今回局面では、デフレ下でみられた企業による費用削減の動きやパート比率の上昇といった賃金の下押し圧力が残る中、2013年には一人当たり賃金は横ばいで推移していた。しかし、2014年に入ると、企業業績の改善を背景として、1999年以来の規模となる賃上げの結果2別ウィンドウで開きますや特別給与の増加等を受けて増加に転じた3別ウィンドウで開きます。雇用者数も、消費税率引上げ後に増勢が鈍化した前回局面とは対照的に、今回局面では2013年末頃から横ばいの動きとなっていたが、消費税率引上げ後には、人手不足感が高い中で女性や高齢者の労働力率が高まったことなどから大きく増加した(第1-1-1図別ウィンドウで開きます(2))。一人当たり賃金が上昇し雇用者数が増加したことから、我が国の雇用者全体が受け取る賃金の総額を表す総雇用者所得4別ウィンドウで開きますは、名目ベースでは、2013年4月以降、2014年11月に減少するまで前年比でみて19か月連続で増加した(第1-1-1図別ウィンドウで開きます(3))。長くデフレが続いた我が国経済にとって、名目所得が増加基調に転じたことは一つの前向きな動きである。実質ベースでみても、2014年4月に入ってからは、消費税率引上げに伴う物価上昇の影響もあり、前年比でみてマイナスが続いているが(第1-1-1図別ウィンドウで開きます(4))、前年比でみたマイナス幅は縮小傾向にあり、名目賃金の上昇が物価上昇に徐々に追いつく姿となっている。また、実質総雇用者所得の前年比は、消費税率引上げの物価に対する影響(物価を2%ポイント押し上げると仮定)を除いてみると、6月以降プラス基調となっている。物価上昇を上回る賃金や所得の上昇を早期に実現し、消費や投資といった支出の拡大につなげ、経済の好循環を実現していくことが重要である。

(景気の緩やかな回復基調が続く一方、個人消費や生産に弱さ)

2014年夏以降、雇用・所得環境の改善に支えられてきた景気の回復力に弱さがみられるようになった。特に、個人消費については、駆け込み需要の反動や夏の天候不順の影響5別ウィンドウで開きます、更には消費税率引上げや輸入物価の上昇等による物価上昇の中で消費者の支出抑制傾向が強まり、持ち直しの動きに足踏みがみられるようになった。ここでは、弱さがみられる需要や生産に焦点を当て、消費税率引上げ以降の動きを月次統計指標で点検する。

個人消費の動きを示す消費総合指数は、2014年4月に大きく落ち込んだ後、反動減からの回復が弱く、駆け込み需要発生前の水準を下回っている(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(1))。こうした回復の遅れは、半年程度のうちに駆け込み需要発生前の水準をおおむね回復した前回引上げ時の動きとは異なっている。新設住宅着工戸数については、2013年9月までに発生した駆け込み受注が着工に移されたことに伴い、2013年12月にかけて増加した。2014年に入ると駆け込み需要の反動の影響を受けて減少に転じたが、秋口以降、下げ止まっている(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(2))6別ウィンドウで開きます

公共投資については、東日本大震災からの復旧・復興事業や平成25年度補正予算及び平成26年度当初予算の早期執行を受けて2014年3月頃から受注が大きく増加する中、工事の進捗を示す出来高も高水準で推移してきた(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(3))。こうした動きは、前回引上げ時には出来高が1995年を下回る水準で推移していたこととは対照的に、今回引上げ後の局面では、公共投資が景気を下支えしていたことを示している。設備投資については、企業収益の改善を背景として、2013年後半から2014年初めにかけて持ち直しの動きがみられ、個人消費とともに経済の好循環を支えてきた。しかし、同年4月以降、PCソフトのサポート切れに伴う買替え需要や建設機械等の排ガス規制強化に伴う駆け込み需要の反動の影響もあり、一致指標である資本財総供給はおおむね横ばいの動きとなっている。他方で、先行指標である機械受注は2014年9月まで4か月連続の増加となっており、企業収益も引き続き高水準にあることなどから先行きに明るさもうかがえる(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(4))。

輸出は2014年4月以降総じて横ばい圏内の動きが続いているが(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(5))、こうした動きも消費税率引上げ後にみられる回復力の弱さの一因となっている。今回みられる輸出の伸び悩みの背景には、日本の輸出シェアが高いアジア諸国の需要が弱いことに加え、海外生産の拡大や一部業種の競争力の低下といった日本の輸出構造の変化が影響していると考えられる(第3章を参照)。

こうした最終需要の弱さを背景に、2014年年初まで増加傾向にあった生産は2014年2月に減少に転じると、その後は消費税率引上げに伴う反動の影響を受ける中、8月まで減少が続いた(第1-1-2図別ウィンドウで開きます(6))。耐久消費財や住宅関連の建設材などでは、生産以上に出荷が落ち込んだため在庫の積み上がりが生じ、生産を抑制している。しかし、2014年秋口以降、生産は下げ止まっている。

ここまでの動きをまとめると、2014年4月以降においては、公共投資が景気を下支えしてきたものの、個人消費を中心に民需の勢いが弱く、また輸出が伸び悩むことなどから、景気の回復力に弱さがみられるようになった。特に個人消費については、駆け込み需要の反動や天候不順の影響に加え、消費税率引上げや輸入物価の上昇等による物価上昇に所得の上昇が追い付いていないことなどを背景に足踏みがみられている。こうした個人消費の弱さや地方ごとに景気回復のばらつきがみられること等を踏まえ、政府は、2014年12月末に、経済の脆弱な部分に的を絞り、かつスピード感をもって対応を行うことで、経済の好循環を確かなものとするとともに、地方にアベノミクスの成果を広く行き渡らせることを目的として、3.5兆円規模の経済対策を策定した。

(実質GDPは駆け込み需要とその反動の影響を受けて大きく変動)

今回引上げ前後の景気の動きについて、実質GDPを用いて振り返ると、駆け込み需要の影響もあり、2014年1-3月期にはプラス成長となったが、その反動もあって同年4-6月期、7-9月期には2四半期連続のマイナス成長となった(第1-1-3図別ウィンドウで開きます(1)、(2))。なお、駆け込み需要とその反動の影響を除くために、同年1-9月期の実質GDPを平均してみると、前年比で0.2%の増加となっている。

この間の実質GDPの需要項目の動きをみると、個人消費や住宅投資は前回引上げ時と同様(第1-1-3図別ウィンドウで開きます(3)、(4))、消費税率引上げの影響を受けて大きく変動したが、輸入についても家電などの耐久財を中心に駆け込み需要とその反動が発生した結果、在庫投資とともに、個人消費、住宅投資の変動によるGDPへの影響を一部相殺することとなった。

2 個人消費と住宅投資にみられた駆け込み需要とその反動

2014年4月の消費税率引上げの影響を受けて、個人消費や住宅投資は大きく変動した。ここでは、個人消費と住宅投資にみられた駆け込み需要とその反動の動きを検証する。消費税率の引上げから半年以上が経過しているが、反動減の影響はなくなったといえるだろうか。まず、個人消費と住宅投資に発生した駆け込み需要(及びその反動)の規模を評価した上で、それぞれについて、主要な品目・業態ごとに反動減からの回復過程を検証する。

(個人消費の駆け込み需要の規模は、前回引上げ時と比べて大きめ)

個人消費については、2013年秋以降、自動車を中心に徐々に駆け込み需要が顕在化してきた。消費税率引上げ直前の2014年3月にかけては、家電のほか、衣料品、日用品・飲食料品などにも駆け込み需要が発生し、消費全体が大きく増加したが、駆け込み需要の反動によって4月に大きく減少した。こうした異時点間で発生する支出の代替効果を個人消費全体についてみると、2014年4月の消費税率引上げに伴う駆け込み需要とその反動は、2.5~3.3兆円程度(実質GDPの0.5~0.6%程度)と推計される(第1-1-4表別ウィンドウで開きます7別ウィンドウで開きます8別ウィンドウで開きます。形態別には、駆け込み需要が大きいと考えられる耐久財が2.5兆円(同0.5%)、半耐久財が0.4兆円(同0.1%)となった。一方、駆け込み需要の影響が比較的小さいとみられる飲食料品等の非耐久財は0.5兆円(同0.1%)と推計された9別ウィンドウで開きます。これは、2兆円程度と推計される10別ウィンドウで開きます前回引上げ時にみられた駆け込み需要の規模に比べて大きい11別ウィンドウで開きます。こうした駆け込み需要の規模は消費税率引上げ時の経済環境や経済政策の影響を受けるが、今回引上げ時には、消費税率引上げによる需要の過度の変動が景気の下振れリスクとならないよう、駆け込み需要とその反動対策として、臨時福祉給付金(簡素な給付措置、3,420億円程度)、子育て世帯臨時特例給付金12別ウィンドウで開きます(1,473億円程度)等の給付措置が実施された。低所得者向けの給付である臨時福祉給付金及び子育て世帯向けの給付である子育て世帯臨時特例給付金については、給付金の支給が同年8月以降に大幅に進展し、それ以降の消費を下支えしてきたと考えられる。その他にも、自動車販売に係る平準化措置として、消費税率引上げ後に自動車取得税の引下げやエコカー減税の拡充等の施策が実施されたが13別ウィンドウで開きます、自動車販売でみられた駆け込み需要及びその反動は前回引上げ時よりも大きくなっていた。こうした平準化措置の効果を定量的に評価することは難しいが、結果的には今回引上げ時にも、前回同様大きな駆け込み需要とその反動が発生することとなった。

駆け込み需要とその反動という異時点間の代替効果は、ある一定期間における支出の増減の累計をみれば互いに相殺され一時的な変動で終わるのに対し、消費税率引上げによる物価の上昇は実質的な所得の減少をもたらし、将来にわたって個人消費を抑制する効果を持つ。

個人消費への反動減や所得効果などの影響を明確に切り分けることは困難であるが、今回の消費税率引上げ時における消費動向を分析するため所得効果による消費の押下げ効果を機械的に試算すると、実質所得の減少を通じて、2014年4-6月期から7-9月期にかけて個人消費を合計で1兆円弱程度(実質GDPの0.2%程度)押し下げていると試算される14別ウィンドウで開きます。この期間においては、反動減や天候不順による影響等に加え、所得効果による消費の下押しが消費の回復を遅らせてきたが、こうした負の所得効果については、1消費税率引上げに伴う物価上昇を上回る賃金上昇を実現することや、2予定されている社会保障の充実を進めていくことなどにより克服していく必要がある。

今回引上げ時には、社会保障の充実に関する取組を進めたものの、企業を中心にデフレマインドが完全に払拭されない中、消費税率引上げ等に伴う物価上昇に見合うだけの賃金上昇はこれまでのところ実現されていない。2017年4月に予定される消費税率の再引上げの際にも実質所得の減少による消費の押下げ効果の発現が予想されるが、物価上昇を上回るペースでの賃金上昇など負の所得効果を克服しうる環境を実現していくことが重要となっている。

(反動減からの消費の回復には品目や業態によって差)

ここでは、消費税率引上げ後の消費の動向を、主要品目・業態ごとにみる。まず、耐久財について、新車販売台数及び家電販売額の動きを確認する。新車販売台数については、4月に前月比で大きく減少した後、しばらく小幅な動きが続いたが、9月に大幅なプラスとなった(第1-1-5図別ウィンドウで開きます(1))。その後、11月にかけて駆け込み需要発生前の水準を上回って推移しており、反動減による落ち込みからの回復がみられる。

家電販売については、7、8月には、天候不順によって夏物家電(エアコン、冷蔵庫)が伸び悩んだことや、PCソフトのサポート切れに伴う駆け込み需要の反動の影響を受けてパソコンが低調だったことなどから一時的に減少したが(第1-1-5図別ウィンドウで開きます(2))、総じてみれば、4月以降緩やかな持ち直しの動きが続いている。今後の動向については、駆け込み需要とその反動の大きかった冷蔵庫やエアコンといった白物家電について、回復がみられるかどうかを注視していく必要がある。

次に、百貨店と食品スーパーの売上高をみる(第1-1-5図別ウィンドウで開きます(3))。百貨店については、駆け込み需要が生じた衣料品や化粧品、高額品を中心に4月に反動減がみられたものの、5月以降、持ち直しの動きがみられた。ただし、7月から8月にかけては、天候不順の影響から夏物商品が伸び悩んだ。他方、8月後半から10月にかけては、売上の中心が秋物商品に変わる中で、低気温が逆に好材料となり衣料品の売上が好調に推移したほか、駆け込み需要の反動減の影響が特に大きかった高額品についても回復がみられたことなどから、おおむね昨年と同水準で推移している。食品スーパーの売上高についても、調味料、缶詰、飲料などを中心に駆け込み需要とその反動が発生したが、5月以降、反動減からの持ち直しの動きがみられている。

サービス分野では、分野別に差はあるものの一般には、耐久財・半耐久財に比べ、駆け込み需要とその反動は小さいとみられ、旅行についてはおおむね横ばいの動きとなっている(第1-1-5図別ウィンドウで開きます(4))。

全体としてみると反動減からの回復に足踏みがみられる個人消費ではあるが、消費税率引上げから半年以上が経過し、反動減による影響が徐々に薄れてきている。ただし、自動車販売など持ち直している分野もあれば、エアコンやパソコンなど駆け込み需要発生前の水準を下回って推移している分野もあり、回復の動きには品目や業態によって差がみられている。

(住宅投資の駆け込み需要の規模は、前回引上げ時と比べて縮小)

住宅投資についても、個人消費と同様、住宅投資関数を用いてトレンドからの実績値のかいりとして駆け込み需要とその反動の規模を推計すると、着工戸数ベースで6~7万戸程度、金額ベースで1~1.6兆円程度(実質GDPの0.2~0.3%程度)と推計される(前掲第1-1-4表別ウィンドウで開きます15別ウィンドウで開きます。前回引上げ時の駆け込み需要の規模は1996年の住宅着工戸数を約9万戸押し上げたと試算されており16別ウィンドウで開きます、今回はその3分の2程度の規模となっている。こうした違いが生じる背景としては、個人消費と同様、消費税率引上げ時の経済環境や経済政策の違いがある。例えば、1997年から2013年にかけて住宅購入を活発に行うことが期待される人口(20~59歳)は1割程度減少しており、市場規模の縮小がうかがえる。実際に、前回引上げから今回に至る17年の間に住宅市場の規模は6割程度に縮小した17別ウィンドウで開きます。また、今回引上げ時には住宅ローン減税の拡充やすまい給付金18別ウィンドウで開きますなどの平準化措置がとられたが、こうした経済環境や政策の違いが、今回、税率の引上げ幅が大きいにもかかわらず駆け込み需要の規模が小さくなった背景にあると考えられる。なお、ここで推計した駆け込み需要には、2015年1月の相続税の課税強化(基礎控除額の引下げ、最高税率の引上げ)による貸家の着工戸数への影響19別ウィンドウで開きますといった消費税率引上げ以外の要因による影響が含まれることに留意が必要である。

消費税率引上げ前後の住宅着工の動向を利用関係別にみると、貸家では、消費税率引上げ前に持家とほぼ同程度の盛り上がりの動きがみられたにもかかわらず、引上げ後の下落幅が小さくなっている(第1-1-6図別ウィンドウで開きます)。この背景には、2015年からの相続税の課税強化を見越して、相続対策としての貸家建設需要が増加していることなどが影響している。住宅着工については、2014年秋以降下げ止まっており、当面、おおむね横ばいで推移していくと見込まれる。

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