第1節 最近の日本経済

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(2四半期減少の後、2000年1―3月期には増加となったGDP成長率)

日本経済は97年春以降(1)、90年代に入って二度目の景気後退局面に入った。97年には住宅投資が減少に転じ、個人消費も秋口以降低迷した。98年に入ると民間設備投資が減少に転じ、景気は一段と厳しさを増していった。実質GDPは5四半期連続の減少となった(第1-1-1図)。98年秋口には、政策効果が現れ始めて公的需要が増加に転じ、99年前半はGDP成長率もプラスに転じた。99年7-9月期にはアジア経済の回復などを背景とした輸出増に下支えされたものの、公的需要が減少に転じたことなどから再び減少となった。99年10-12月期にはボーナスの減少などのために民間最終消費支出が減少したことなどからマイナス成長が続いたが、民間設備投資は増加した。2000年1-3月期には、民間設備投資は引き続き増加となったほか、民間最終消費支出も前期比プラスとなり、実質GDP成長率は2.4%となった。この結果、99年度の実質GDP成長率は0.5%と3年ぶりにプラスとなった。

1.在庫調整と生産

需要の回復が弱いなか、生産は輸出の増加にも助けられ、緩やかに増加を続け、在庫調整は終了した。

(緩やかな増加の続く鉱工業生産)

鉱工業生産は、99年4-6月期前期比0.4%減の後、7-9月期2.7%増、 10-12月期1.4% 増、2000年1-3月期0.8%増と3四半期連続緩やかに増加を続けている。また、製造工業生産予測調査によると、2000年4-6月期も増加が見こまれている。

内訳をみると、半導体、通信機械などIT(情報化関連)品目の寄与が大きい(第1-1-1(1)図)。また、99年7-9月期以降、アジア向けを中心とした輸出の寄与も大きくなっている。(第1-1-1(2)図

国内向け出荷の内訳をみると、生産財と資本財が増加しており、需要の低迷から消費財や建設財は依然弱い(2)。生産財では、99年4-6月期以降電気機械の寄与が大きかったが、その他の品目も、緩やかではあるが概ね増加している。なお、消費財については、長期的な家電などの海外生産シフトもあり、輸入との代替が進んでいる面もある。

生産の増加のテンポを過去の回復局面と比較すると、前回の回復局面は、それ以前と比べ谷からの生産の増加テンポが緩やかだったが、今回は初期段階ではむしろテンポが速い。(第1-1-1(3)図)。

(在庫調整は終了)

生産者在庫の動きを在庫指数でみると、98年1-3月期をピークに減少に転じた後、調整が続き、99年10月にはバブル崩壊後の最低水準(94年7月)を下回った。2000年1-3月期には増加に転じている(第1-1-1(4)図①)。

製造業の在庫過剰感も98年7-9月期以降改善が続き、95年頃の水準まで低下してきている(第1-1-1(4)図②)(3)。業種別にみると、繊維、鉄鋼を除いて過剰感の改善が続いている。

在庫調整は、需要の見誤りなどによって生じた過剰な在庫を生産の抑制を通じて減らして行く過程である。需要が予想より減少すると、需要水準に対する認識の遅れや生産水準の変更に伴う調整コストがあるため、しばらくの間は在庫が積み上がる。しかし、いずれ企業は生産を抑制するようになる。やがて、何らかの要因により再び需要が回復すると、企業はそれに応じて在庫を手当てする必要が生ずるため、在庫は積み増されていくこととなる。

この動きを出荷と在庫の関係からみると、97年第2四半期以降、出荷の増加幅が縮小を始め、それまで減少傾向にあった在庫が増加に転じた(第1-1-1(5)図)。以後、出荷が減速するなか、在庫は積み上がっていったが、その後調整が進み、99年半ば以降、出荷が増加に転ずる中での在庫の圧縮が続いている様子が伺える。財別に見ると、生産財では、在庫調整が順調に進展し、99年以降、電子部品の出荷増と鉄鋼、化学製品などの輸出の好調などを背景に在庫調整を終え、10-12月期頃から積み増し局面に入っている。生産財と同様に在庫調整が順調に進展した資本財でも、生産財にやや遅れたものの在庫調整を終了した。これはコンピューター関連機器や半導体製造装置の出荷の回復などによるものである。建設財については、出荷が改善しつつあり調整が進んでいるものの、他の財に比べるとやや遅れがみられている。

以上より、在庫は調整が進み全体としては調整が終了したと考えられる。

(在庫循環は依然存在)

次に、より中長期的な視点から、生産・在庫管理技術の発達を背景に、在庫水準が変化したかどうか、そして在庫変動がが小さくなってきたかどうかをみてみよう。

まず、製造業の売上高と比べた在庫(棚卸資産在庫率)をみると、景気による変動はあるものの、大企業では80年代に比べ90年代において低下がみられている。しかし、中小企業ではこのような低下はみられていない(第1-1-1(6)図①)。素材型業種と加工型業種に分けてみると、素材型業種では原材料在庫の低下が大きく原油価格の下落も寄与していると考えられる。一方、加工型業種では、電気機械産業における低下などにより、製商品在庫が低下している(第1-1-1(6)図②)。

また、製造業について、在庫判断DIの実績値と1期前の予測値との差をみると、最近縮小しているとは言い難い。在庫循環(意図せざる在庫増減)は依然存在していると考えられる(第1-1-1(7)図)。

(緩やかに増加する第3次産業活動指数)

第3次産業活動指数は、運輸・通信業や金融・保険業に牽引され、増加基調にある。金融・保険業では株価の持ち直し等を背景に証券手数料などが上昇に寄与した。ただし、卸売・小売業、飲食店やサービス業などが低迷していることから、回復のテンポは前回の局面と同程度にとどまっている。(第1-1-1(8)図)。

(需要と生産の乖離)

鉱工業生産指数(IIP)は、99年後半、緩やかな増加を続けた一方で、GDPの回復は弱い状態が続くなど、生産の動きと需要の動きに乖離がみられた。

そこで、今回の景気回復局面における両者の動きの違いについて考察する。

第一に、対象となる範囲の違いである。GDPに占める製造業の比率は2割強で(98年名目比で22%)、IIPが景気の動きに敏感な製造業の動きを反映するのに対し、GDPは比較的変動の小さな第3次産業などの動向も反映したものである。事実、に示すように、第3次産業なども含めた全産業活動指数は、IIPよりもGDPにより近い動きとなっている。

第二に、数量指数と実質付加価値との差である。IIPや第3次産業活動指数は、生産(活動)数量の変化を、基準時(現在は95年)の付加価値額ウェイトで加重平均して求めているのに対し、GDPは名目の最終需要を実質化して推計している。一つの最終需要財(例えば電子計算機)により多くの生産財(例えば半導体)が使われるようになると、最終需要財生産の伸び以上に生産指数総合の伸びは大きくなる。「生産財の国内向け供給量」/「最終需要財の国内生産量」という形で、最終需要財の生産財装備率を定義すると、その前年同期比は、98年は2%弱で推移していたが、99年の7-9月期は6.6%、10-12月期は7.2%と上昇しており、より多くの生産財が最終製品の生産に使われるようになってきていることがわかる。一方、最終需要財の実質化はデフレータを用いて行われているが、例えば電子計算機について考えてみると、より多くの半導体が使われるようになったのに比べて、それに匹敵するほど電子計算機の価格が下がらなければ(4)、電子計算機の実質値が、電子計算機と半導体を合わせた生産指数よりも控えめに計算されることになる(付図2-1-1-(4)参照)。このような要因が、実質需要の伸びが生産数量の伸びより小さく推計される方向に働いた可能性が考えられる。

第三に、個人消費の捉え方の問題も考えられる。GDPの民間最終消費支出を推計する際には、速報性が要求される四半期速報(QE)推計段階では、詳細な情報を有する月次統計である家計調査を利用しているが、一方で、家計調査のサンプル数が、GDPの6割を占めかつ多様な個人消費の推計の基礎とするには、不充分なのではないかとの指摘がある。また、単身世帯収支調査がQE推計に取り入れられておず、99年後半に伸びていた単身世帯の消費支出が十分に把握しきれていなかった可能性がある。さらに、後述のように、消費の季節パターンが変化していることが、季節調整値に影響を及ぼしていた可能性も考えられる。

なお、需要側からみた消費統計の改善策に関する研究を、2000年春から経済企画庁と総務庁が共同で行っている。また、単身世帯統計の利用可能性等、GDPの民間最終消費支出の推計の改善や新たな季節調整法の適用可能性についても「GDP速報値検討委員会」において検討を行っているところである。

2.持ち直しの動きが明確になっている設備投資

民間設備投資は、持ち直しの動きが明確になっている。

(持ち直しの動きがみられた設備投資)

国民経済計算でみた実質民間設備投資は、98年度は9.5%減と大幅減少となったが、99年4-6月期には前期比2.1%減、7-9月期1.6%減となった後、10-12月期には3.2%増、2000年1-3月期は4.2%増とプラスとなった。

大蔵省"法人企業統計季報#により設備投資をみると、98年第1四半期以降、企業収益の悪化が進むなか金融環境が厳しくなったこと等もあり、運輸・通信、サービスなどまず非製造業が減少し、それに遅れて製造業が電気機械などを中心に減少し、以降大幅な減少が続いた。99年前半には運輸・通信業の持ち直しなどから減少幅が縮小し、2000年1-3月期には非製造業の増加などから前年比3.3%のプラスに転じた(第1-1-2(1)図)。

業種別にみると、製造業は、好調なIT関連需要を背景とした電気機械などに牽引され持ち直している。2000年1-3月期には製造業全体では依然前年比マイナスとなっているが、電気機械、金属製品、精密機械などが前年比増加となった。非製造業では、リースなどのサービス業が99年7-9月期より増加に転じたほか、卸・小売業にも増加がみられた。民間設備投資の動きを過去の局面と比較すると、今回は、回復のテンポはあまり速くないものの、前回局面をやや上回るテンポとなっている(第1-1-2(2)図)。これは前回と異なり建設投資に遅れがみられていないためである。(付図1-1-2(1))

(設備投資持ち直しの背景)

経済企画庁"平成11年度企業行動に関するアンケート調査#によると、期待成長率については、前年と比べ改善がみられており、業種別にみると、2000年度及び今後3年間の業界別の需要見通しは通信、電気機械、サービスなどで高くなっている(第1-1-2(3)図)。

この情報と直近の売上高を組み合わせて期待需要を計算し、期待需要要因、キャッシュフロー要因、貸し渋り要因、ストック調整要因などを考慮した設備投資関数(1) を業種別・規模別に推計すると、足許の設備投資の持ち直しの背景には、平均的にみればキャッシュフロー要因の改善があったことが分かる。また、99年後半にかけて、製造業の中小企業や非製造業の大中堅・中小企業では、資金調達環境が改善しているほか、非製造業の中小企業では期待需要要因の減少幅も縮小傾向にある(第1-1-2(4)図)。

ただし99年の動きをみると、非製造業の中小企業を除き実績値が推計値を下回る傾向がみられている。この背景としては、キャッシュフローを債務の返済に回す動きがみられることなどが考えられる。

(減少した「過剰設備」)

次に、企業の設備過剰感をみると、99年4-6月期以降低下しており、先行きも低下が見込まれている。設備過剰感をもとに推計した過剰設備額は、全産業では、99年1-3月期の56兆円をピークに減少が見られ、10-12月期には52兆円となった(2)。しかしながら、過去に比べると過剰感の水準は依然として高く、業種別にみると、鉄鋼、窯業・土石、繊維など素材型業種で"過剰#と答える企業が"不足#と答える企業を大きく上回っており、加工型では自動車など輸送用機械で依然として過剰感が大きい(後述第1-1-3(10)図)。

また、経済企画庁"平成11年度企業行動に関するアンケート調査#によると、資産(生産設備)が適正になるまでの期間としては、2年以内と答えた企業が42.4%と最も多く、「2年より後」、と答えた企業も41.3%にのぼっている(第1-1-2(5)図)。したがって、設備過剰感はこれまでと比べれば低下しているものの、企業によっては、生産設備の調整がしばらく続いていく可能性が高いといえよう。

(特定業種が増加)

過去の回復局面において、設備投資が回復する際に、どの程度特定業種に集中しているかをみると、前回の景気回復局面では、それまでの回復局面と比べ製造業,非製造業ともに特定業種への集中度が高かったことが分かる(3)第1-1-2(6)表)。

今回の景気回復局面は、まだ初期段階にあるので傾向をみるのは難しいが、前回同様電気機械やサービス業への集中度が高い。ただし、2000年1-3月期は金属製品や卸・小売、建設なども前年比増加となるなど、設備投資持ち直しの動きに広がりもみられ始めている。

(持ち直しの動きが続く機械受注)

設備投資の先行指標として、まず、通常製造業で2~3四半期の先行性を持つ機械受注をみると、98年4-6月期以降、前年比減少幅は縮小に向かった。99年10-12月期には前年比6.1%増、前期比でも8.7%増となった(第1-1-2(7)図)。業種別にみると、製造業では電気機械が99年1-3月期には前期比増加に転じ、10-12月期以降大幅な伸びとなったほか、一般機械などが増加に寄与している。非製造業も99年10-12月以降2四半期続けて前期比増加となった 。

また、建設投資について先行性がみられる民間非住宅建設工事受注をみると、ならしてみると99年春ごろから持ち直している。

(改善のみられる設備投資計画と好調なIT(情報技術)需要)

「全国企業短期経済観測調査」(日本銀行)により2000年度の設備投資計画の動向をみると、3月時点の計画としては過去数年と比べ高い水準となっている(第1-1-2(8)図)。特に製造業は前年比2.3%とプラスに転じている。業種別にみると、製造業では電気機械などで、世界的に旺盛な半導体需要、アジア経済の回復、国内の情報化投資の増加などを背景にIT関連製品の生産設備を増加させる動きがみられている。中身をみても、パソコン用などの半導体だけでなく、携帯電話などの需要増に支えられた液晶関連の設備投資もみられている。また、化学も需給の逼迫を背景に増加となっている。非製造業ではリースが増加しているが、通信では当面は増加が見込まれていない(4)(第1-1-2(9)図)。

(企業収益と設備投資)

企業収益が増加しても、設備投資よりも債務の返済にあてる動きがあるとも言われてきた。ここでは、企業収益の改善と設備投資の伸び率と関係をみてみよう。

現時点の投資採算(営業利益/事業用資産から金利を差し引いたもの)を過去と比較すると、特に製造業は、過去の局面では設備投資が前年同期比プラスとなっている水準に達しており、現在の設備投資は製造業・非製造業ともに投資採算に比べて概ね低い水準にある(第1-1-2(10)図)。

この背景には、①資本設備の調整や、資本収益率・自己資本比率の向上など財務体質強化の動きが継続していること、②企業の期待成長率は、過去に比べれば高い水準には至っていないこと、などが考えられる。

業種別にみると、サービスなどは、投資採算の改善に伴って設備投資も持ち直しているが、電気機械では借り入れを増やしてでも設備投資を行う動きがみられる。一方、鉄鋼や化学についてみると、投資採算が改善するなか設備投資は減少が続いている。また、輸送用機械では、投資採算は過去に比べてさほど低くないものの、設備投資は減少が続いている。こうした業種別の差をみると、情報化など前向きの投資テーマの有無が投資動向に影響を与えていることが考えられる。

(資本市場との関係)

企業活動の目的が企業価値の最大化であるとした場合、新たな設備投資によってもたらされる企業価値の増加がその設備投資を行うためのコストを上回っている限り、その投資は企業にとって実施する価値があると判断されよう。株式市場で企業価値が正当に評価されているとすれば、企業の市場価値を資本の再取得価値に対する比率(トービンのq)と設備投資の間に一定の関係があることになる。

上場企業について設備投資とqとの関係をみると、長期的には有意な関係があるという結果が得られた(第1-1-2(11)表)。しかし、バブル崩壊以前と以後にわけてみると、93年頃までは有意な結果が得られたが、バブル崩壊後、非製造業を中心に有意な関係が得られなくなっている。キャッシュフロー要因を加えると、キャッシュフロー要因は有意となるが、qについての結果は変わらなかった。店頭企業についてみると、正の関係はみられるものの、93年以降でみると有意な関係はみられなくなっている。バブル後について業種別にみると、有意な関係が得られたのは電気機械(上場)、化学(店頭)となった。

以上の結果は、バブル崩壊後は、既にみたような過剰設備など、その他の要因が設備投資に及ぼす影響が強まったことを示唆している(5)。

(民間設備投資のGDP比)

機械受注や設備投資計画調査などをもとに考えれば、民間設備投資の名目GDP比は14%程度で反転していくとみられる。この比率は、期待成長率が低い割には高いものとなっている(第1-1-2(12)図)が、これは資本係数がトレンド的に上昇していることに加え、新技術が新しい設備投資を促しているためと考えられる。

3.企業収益及び過剰債務の改善

1)改善する企業収益

(改善する企業収益)

需要の回復が弱い中で、企業収益は大中堅企業、中小企業とも改善している(1)(第1-1-3(1)図)。経常利益の水準も2000年1-3月期には製造業では大・中堅企業で96年頃、中小企業で97年頃の水準にまで戻っている。非製造業では大・中堅企業では過去最高水準、中小でも97年頃や89年頃の高い水準となっている。全体としては、前回の景気の山である97年1-3月期を上回っている。また、売上高経常利益率は全産業で2.89まで改善し、前回の山の水準よりも高くなっている。

また、上場企業の3月決算(連結)をみると、経常利益ベースでは12兆円を超える大幅な増益となったものの、一方で多額の特別損失を計上したことから(2) 、最終損益は2兆円という低水準に留まった(3)。これは、事業再編などのリストラ費用に加え、企業が2000年3月決算から順次導入される「連結会計」「時価会計」「退職金給付会計」といった新会計基準への対応を迫られたことによるものと思われる(4)(第1-1-3(2)図)。

(収益回復パターンの特徴)

売上高、経常利益の回復のテンポを過去の回復局面と比較すると(第1-1-3(3)図)、製造業は前回と似た動きとなっているが、非製造業では前回と異なり、増収が見られない中での増益型となっている。

特に、中小企業非製造業では、景気の谷に向かう局面で売上高が大幅に減少し、シェアの大きい建設業、小売業、サービス業などでは、その後も売上高の目立った回復はみられていない(第1-1-3(4)図)。

(製造業では人件費の抑制により売上高経常利益率が上昇)

これをさらに詳しくみるため、売上高経常利益率前期差を要因分解すると、製造業では、変動費の削減に加え、99年に入ってからは人件費の抑制が大きくプラスに寄与していることが分かる。(第1-1-3(5)図)。一方、非製造業では、製造業ほどでないものの、98年には人件費が売上高経常利益率の押し下げ要因となっていたが、99年に入りほぼ中立的となる一方、99年に入り変動費の削減がプラスに寄与している。また、金融費用要因については、95、6年頃は、貸出し金利の低下を反映し、プラスに寄与していたが、最近では低金利を背景に寄与は中立的となっている。

さらに、非製造業について、業種別にみると、売上高経常利益率の改善要因として、総じて変動費はプラスに寄与している。この背景としては、企業が事業の効率化を進めていることが考えられる。一方、人件費はどの業種においても、プラスの効果をもつには至っておらず、特に小売業などでは依然人件費が売上高経常利益率にマイナスの寄与となっている。

企業の販売管理費及び一般管理費の推移をみると、製造業、非製造業ともに97年以降鈍化しており、売上高比率でみると、特に製造業でその比率は低下している(付図1-1-3(1))。

また、企業所有の不動産についてみると、地価は91年以降下落が続いているが(5)、企業による土地の売却額は購入額を上回っており、企業は99年中もリストラクチャリング等の一環として遊休地処分等を継続していたことがうかがわれる(第1-1-3(6)図)。

(業況判断は改善)

企業の業況判断は、なお厳しいものの改善している。日本銀行"企業短期経済観測調査#によると、製造業・非製造業ともに98年10-12月期を底に改善がみられている(第1-1-3(7)図)。ただし、2000年3月調査において、"良い#とみる企業の割合は"悪い#とみる企業の割合を未だ下回っており、製造業で94年後半、非製造業で95年頃の水準となっており、業況判断はなお厳しい状況にある。また、中小企業金融公庫「中小企業動向調査」によると、中小企業の業況判断についても改善している。

過去の回復局面と比較すると、製造業では改善のテンポは前回局面を上回っており、大企業非製造業ではほぼ前回並みであるが、中小企業非製造業では前回を下回っている(第1-1-3(8)図)。

2)企業債務の現状

(過剰債務の現状)

企業債務の状況をみるため、まず売上高債務残高比率をみると、80年代半ば頃から上昇がみられる。また、債務比率の水準は非製造業の方が高い(第1-1-3(9)図)。98年度には製造業、非製造業ともにこの比率が上昇し、非製造業では50%を超え、製造業についても、前回のピークであった94年度の水準に近づいた。99年度について、法人企業統計季報の数字でみると、非製造業についてはほぼ横ばいとなったが、製造業では若干上昇している。

長期債務の状況を債務償還年数(長期債務-キャッシュフロー比率)でみると、98年度にはキャッシュフローの減少により大きく上昇したが、99年度について試算すると(6)、キャッシュフローの増加により、低下している(7)。これを規模別にみると、中小企業で過去の動きとのギャップが大きい(第1-1-3(10)図)。これは、主に非製造業で長期債務の増加がみられたことなどが寄与している。

(3つの過剰の増加と縮小)

今次景気後退局面において、設備、債務、雇用に関するいわゆる3つの過剰が、どの程度悪化し、その後足許で改善しているかをみたのが、第1-1-3(11)図である。

企業設備には少なからず従業員が伴うという点で、設備と雇用の過剰感には密接な関係がある。この二つの過剰感の、今次後退局面における推移をみてみると、ともに強まった後緩和がみられているが、まだ後退局面の初期まで戻ってはいない。業種別にみると、製造業では、素材型・加工型ともに設備と雇用の過剰感がともに強まったが、その後緩和がみられ、雇用の緩和の方が相対的に進んでいる傾向がある。非製造業でも、設備と雇用の過剰感がともに増加し、その後縮小がみられたが、雇用を中心に過剰感の緩和がみられるサービスを除き、設備と雇用が悪化とほぼ同じ比率で戻ってきている。

一方、債務の中には結果的に過大となった設備投資をファイナンスしていた部分があるという点で、設備の過剰は債務の多寡とも関係している。設備の過剰と債務償還年数の関係をみると、ともに増加した後縮小がみられているが、後退局面の初期まで戻るには至ってはいない。製造業では、一部業種を除き債務と設備が、増加してきた時の経路を戻るような形で改善がみられている。非製造業では、建設不動産業を除き増加の時と比べると債務の方がやや縮小が進む傾向がみられている。建設不動産業については、生産要素の過剰感の割には債務償還年数が大きく、縮小も遅れており、不動産関連の債務の重圧を示唆している。

3)倒産の状況

(増加する倒産)

企業倒産は98年10月に中小企業金融安定化特別保証制度が導入されて以降、99年初めまで大幅に減少した(第1-1-3(12)図)。99年11月の「経済新生対策」において、保証枠がそれまでの20兆円から10兆円追加され、取り扱い期間も、1年間延長され2001年3月31日までとされた。利用実績は2000年5月までに127万2,796件、総額21.5兆円にのぼり(8)、中小企業の約2割が本制度を利用したことになる。

特別保証制度が倒産件数に与える影響をみるため、内部留保要因、金利要因、担保要因に加え特別保証件数要因を加えて倒産関数を推計した(第1-1-3(13)図)。これによると2000年3月までの特別保証件数は倒産を約9,000件抑制する効果をもったことになる。

しかし、倒産件数は2000年3月に大幅に増加して1,712件となった(9)。4月は1,562件、5月は1,521件とやや水準を下げたものの、昨年比二桁の大幅増が続いている。2000年に入ってからの倒産を要因別にみると、「販売不振」が50%後半と過半数を上回っており、いわゆる不況型倒産(販売不振、赤字累積、売掛金回収難)が7割前後と大きな割合を占めている。

なお、今年に入り上場企業が6社倒産しているが(5月末日現在)、いずれも会社更生手続開始の申立てまたは民事再生手続開始の申立てによるものであり、事業は引続き継続している。大企業の倒産は取引先企業に連鎖的な影響を与えることも考えられるが、最近は商工会議所などの指導により中小企業庁を中心とした連鎖倒産防止対策への理解も企業間に浸透してきており、実体経済への影響はそれほど大きくないと思われる。

また、上記特別保証についてみると、特別保証を利用した企業の倒産件数は2000年4月295件、5月353件となり、やや増加がみられている。特別保証制度利用者に関する代位弁済の状況をみると、2000年5月末時点での代位弁済件数は15,580件、代位弁済額は2,566億円である。一般に代位弁済発生率は保証後2~3年度目にピークを迎える(10)が、現時点までの代位弁済の増加テンポは、過去の信用保証に比べやや早い程度にとどまっている。本制度が、金融システム変革期の調整コストを小さくするための一時的な緩衝材であるとの認識の下、この制度によって与えられた時間を利用して、企業においては財務体質を確立し、金融機関においては円滑な資金供給能力を取り戻すことが必要と考えられる。

また99年12月には、和議法に代わる再建型倒産処理手続を定める基本法として、民事再生法が公布され、2000年4月1日から施行された。この主な特徴としては、①経営不振に陥った企業が、実際に破たんする前に再生手続開始の申立てができること、②会社更生法が株式会社のみを対象としているのに比べ、民事再生法は中小企業等も広く対象としていること、③会社更生手続と比べて、手続構造が簡素化されており、迅速な処理が可能であること、④手続開始後も、原則として経営者が経営権を失わずに再建を図ることができること、などが挙げられる。2000年4月における民事再生手続開始の申立て件数は55件(他の倒産手続からの切替除く)となっており、和議開始の申立て件数が13件程度(99年1-12月平均)だったのと比べても多くなっている。なお民事再生手続は和議手続と異なり、保全処分等がされた後は裁判所の許可を得なければ、申立てを取り下げることができないことから、運用状況を見守りつつ申立てを検討している企業も多いと考えられ、今後同法を利用した再建型の倒産処理の増加も見込まれる。

(景気と倒産の関係)

「景気が悪いと倒産が増える」「景気と倒産はあまり関係がない」「むしろ景気がよくなりかける頃に倒産が出てくる」等、倒産と景気については、定説がない。景気と倒産の間には明示的な関係がみられるのだろうか。

そこで、倒産件数を景気の山、谷及び企業の業況判断と比較してみると、80年代半ばまでは、明示的な関係を見いだすことは難しいものの、80年代半ば以降は、景気後退局面においては倒産件数が増加するという傾向がみられるようになっている(コラム図)。すなわち、91年1-3月期以降の後退局面では、景気後退に伴いしばらくの間倒産件数は増加した。また、97年1-3月期以降の景気後退局面においても倒産の増加がみられた。一方、回復局面については、86年10-12月期以降の景気拡大期においては倒産件数は大きく減少したが、その後93年10-12月期以降の回復局面では倒産件数に顕著な減少はみられなかった。なお、建設業を除いた倒産件数をみると、91年1-3月期以降の景気後退局面において倒産が増加する関係がより明確となっている。

コラム図

4.依然厳しい雇用情勢

雇用調整を賃金と雇用者数の両面からみると、これまでの傾向は①賃金の調整が雇用者数の調整よりやや先行し、②ともに伸び率の減速による(削減や引き下げを伴わない)調整というものであった。しかし、今回は、①賃金と雇用がほぼ同時に、②双方ともマイナスの領域に踏み込んだ形で行われた。景気の緩やかな改善もあって、求人、残業時間(1)はすでに増加に転じ、雇用過剰感には改善もみられるようになったが、失業率は高水準であり、雇用情勢は依然厳しい。以下、より詳しくみていこう。

1)雇用者数の減少

(減少続く雇用者数)

雇用者数は、98年4-6月期から前年比で減少に転じていたが、減少幅は99年1-3月期に1.1%となった後、縮小している(第1-1-4(1)図)。一般に雇用者数は景気に2四半期ほど遅行性をもつが、前回の回復局面においては景気の谷から雇用者数が持ち直すまでに7四半期かかった。今回は前年比でみた雇用者数の減少幅は99年1-3月期を底に縮小しているものの、依然減少が続いている(2)。これを臨時・日雇と常用雇用に分けてみると、臨時・日雇は96年10-12月期以降前年比増加が続く一方で、常用雇用は98年1-3月期以降減少が続いており、常用雇用を中心に雇用削減が行われていることが分かる。

業種別にみると、前回の局面では製造業のほか、卸売・小売業、飲食店で雇用者数が減少したが、今回の局面では、製造業のほか、建設業などが減少し、サービス業、卸売・小売業、飲食店などは緩やかな増加傾向にある。規模別にみると、99年前半には大企業において雇用の減少がみられたが、その後増加に転じており、従来雇用を吸収していた従業員500人未満の企業で98年以降減少傾向が続いている(3)。

(増加に転じた残業時間、求人数)

雇用者数は減少が続いているが、残業時間及び求人数は増加に転じた。残業時間が増加したのは、企業は生産の増加に対し、まずは既存の雇用者の労働時間を延長することにより対応しようとするためである。残業時間(事業所規模30人以上)は生産の緩やかな増加を背景に製造業では98年10-12月期を底に持ち直し、全産業でも99年4-6月期を底に以後増加に転じている。有効求人倍率も99年10-12月期以降持ち直している。(第1-1-4(2)図)。

一般に残業時間の動きは景気と一致する傾向があり、今回も残業時間(全産業)は99年4-6月期を底に増加に転じた。求人倍率も、水準は低いが回復のタイミングは前回局面のような遅れはなく、それ以前の局面とほぼ同様の動きとなっている。

(新規求人数は増加しているのに、雇用者はなぜ増加しないのか)

新規求人数が増加しているにもかかわらず、雇用者が減少を続けているのは、①一般に求人の増加から雇用の増加までにはある程度タイムラグがあること、②入職率が上昇しても離職率の方が高い水準にあること、③雇用条件が合わない等による雇用のミスマッチが存在しているためだと考えられる。

②については、97年半ば以降低下していた入職率は98年10-12月期を底に上昇に転じたが、99年以降も入職率は離職率を概ね下回る水準で推移しており、(第1-1-4(3)図)新規求人が転職により充当されている部分があると考えられる。③について、職種別に企業の雇用過不足判断DIをみると、専門・技術職では不足感が大きくなっているのに対し、管理・事務職、単純工などで過剰感が大きくなっている(第1-1-4(4)図)。また、次にみるように、最近の新規求人増はパートタイム労働者の寄与が大きく、雇用形態によるミスマッチも生じている可能性がある。

(パートタイム労働者の寄与が大きい新規求人増)

新規求人増加の背景を過去の景気局面と比べてみると、回復のテンポは、遅れのみられた前回の局面よりは早く、パートタイム労働者の増加の寄与が大きいという特徴がある(第1-1-4(5)図)。パートタイム労働者以外(以下「フルタイム労働者」とする)の新規求人の動きを業種別にみると、製造業が弱いのは前回局面と同様であるが(4)、今回は建設業が低迷し、情報サービス業等が好調なことを背景にサービス業の増加の寄与が大きい(5)。

(高水準となった失業率)

雇用者数の減少が続くなか、 失業率は、99年には3月に4.8%と既往最高となり、以降若干の低下もみられたものの高水準で推移し、2000年2月には4.9%となった(前出第1―1-4(2)図)。完全失業者のうち非自発的失業者の動きをみると、99年前半に大きく増加し、失業者数の増加の主因となった。その後、伸びは鈍化し、10-12月期には前年比保合いとなったが、2000年に入り再びやや上昇した(6)。

(新卒の状況)

雇用情勢がこのように厳しい状況の下で、 新卒者が学卒未就職者として失業率を押し上げることが懸念されたが、実際には2000年3月において学卒未就職者の失業者は前年同月と比べ2万人増にとどまった。これは、一時前年を大幅に下回っていた新卒予定者の内定率が、年度末に近づくに従い上昇し、前年の水準に近づいた(7)ことに加えて、臨時雇用という形で就職した人も多かったことによる可能性がある。

一方、2001年度の新卒採用に関する企業の態度は前年より積極化している(8)。

(構造的・摩擦的失業の増大)

失業率上昇の背景には、景気低迷のほか、年齢や業種等に関する雇用のミスマッチによる構造的失業、労働移動等に伴う摩擦的失業も存在すると考えられる。現在の失業率の上昇が労働市場の構造的要因によるのか、景気低迷によるのかについてみるため、失業率と欠員率の関係をみる(9)。

まず、失業率と欠員率の関係(UV曲線)をみると、98年から99年4-6月期にかけては欠員率が低下する中で失業率が大きく上昇しており、需要不足が大きく寄与していたことがわかる。99年10~12月期以降は欠員率が上昇する中で失業率がやや上昇しており、足下において構造的・摩擦的失業が増加していることが伺える(付図1-1-4(2))。これを年齢別にみると、40歳以上の中高年層ではUV曲線の大きなシフトの動きはみられないが、若い層は最近にやや外側にシフトする傾向がみられており(第1-1-4(6)図)、若者を中心に構造的・摩擦的失業率が上昇している可能性がある。

欠員と失業が同時併存する時の失業率(均衡失業率)を推計して、98年以降の失業率の上昇を、構造的要因による失業と需要不足による失業に分けてみると、失業率の上昇には需要不足による部分が大きいものの、構造的な要因も上昇に寄与していることがわかる(第1-1-4(7)図)(10)。これは、労働市場の構造的課題への取り組みの必要性を示唆している。

(離職者・転職者の動き)

離職した人が再び就職したか、失業者となったか、非労働力化したかを総務庁「労働力調査特別調査」を基に集計してみると、2000年2月調査では、過去1年以内に定年以外の非自発的理由で離職した人のうち50.6%は再就職し、31.6%は失業者となり、17.8%は非労働力化した。99年2月調査ではそれぞれ46.6%、33.8%、19.6%、97年2月調査では55.0%、25.5%、19.6%であった(第1-1-4(8)図)。再就職している人の割合が97年から99年にかけて低下した後2000年に上昇していることから、求人数の増加などを背景に再就職が昨年よりは若干容易になっている可能性が高いといえよう。

産業間の移動性向をみると、業種を超えた転職は少なく、同じ業種間での労働移動が中心となっている。先にみたように、雇用者数は製造業及び建設業で減少していたが、これら業種でも他業種への移動性向は低く、モビリティの低さが失業者増の一因ともなっていると考えられる(付表1-1-4(3))。

99年度上期において転職した人をみると、転職により賃金が増加した人は約3割となり、減少した人の割合とほぼ同程度となっている(付図1-1-4(4))。しかし、40代半ばを過ぎると増加した人の割合は低下し、減少した人の割合が増加した人の割合を上回っていることから、賃金変動の観点からみた中高年の転職はより厳しいことがうかがわれる。

2) 進む雇用調整

(改善がみられるものの依然高い水準の雇用過剰感)

企業の雇用過剰感を日本銀行「企業短期経済観測調査」の雇用判断DIでみると、97年中頃から悪化し、99年4-6月期以降改善しているものの、依然高い水準にある。規模別にみると、大企業では改善が進み94年初め頃の水準まで低下している一方、中小企業(11)では改善がみられているものの、依然過去の水準より高い。また、非製造業と比べ製造業で過剰感は高いが、過去と比べると、製造業は94年半ば頃の水準まで低下しているのに対し、非製造業では改善しつつも依然高い水準となっている。

経済企画庁「企業行動アンケート調査」によれば、大企業は50歳代の正社員に対し雇用過剰感をもっており、企業の雇用過剰感の背景には、年齢のミスマッチの問題も存在していると考えられる(第1-1-4(9)図)。

マクロ的にみたいわゆる過剰雇用(企業が過剰と感じる雇用。景気、生産の動向等により変動するもの)(12)については、2000年3月時点で140万人となっており、依然高い水準にあるものの、ピークであった6月時点の242万人から大幅な改善がみられ、前回の景気回復の初期段階であった94年前半並の水準になっている。この背景には、緩やかな景気改善が続いてきたことに加え、先にみたように、企業が人件費の削減等、雇用面での調整を進めていることがある。

(雇用調整速度は速まっているか)

雇用調整速度を推計すると、日本はアメリカより遅いものの、80年代と比べ90年代以降には速まっている(付表1-1-4(5))。この背景には、雇用者に占める臨時・日雇の比率が高まっていることなどがあると考えられる。

一方、推計結果によれば、GDPの係数は低下しており、生産増がもたらす雇用創出効果が80年代に比べ90年代には低下している可能性がある。これは、長期的には生産に対する雇用者数の比率が低下しているためと考えられる。そこで、GDPと失業率の関係を「オークン係数」によりみると、90年代は80年代に比べやや低下している(13)。これらの結果は、今後成長率が上昇しても、雇用の増加が緩やかなものとなる可能性を示している。

(低下がみられた労働力率)

前回の景気後退局面には、男女とも労働力率は低下しなかった。(付図1―1-4(6)図)。97年以降の後退局面においては、厳しい雇用情勢を反映し男女ともに労働力率が低下し、失業率の上昇を抑制する方向に働いた。なお、99年に入り景気が緩やかに改善するなかで、労働力率の低下幅は男女とも縮小してきている。

3)進む賃金調整

(調整が進む賃金)

賃金は四半期では前年比減少が続いていたが、残業の増加からまず所定外給与が増加に転じ、所定内給与も99年半ば以降ほぼ横ばいとなってきており、持ち直しの動きがみられている(第1-1-4(10)図)(14)。

労働分配率の動きを要因分解すると、98年から99年にかけては賃金・雇用者数ともに減少し、これが労働分配率を引き下げる方向に働いているが、こうした減少は過去の労働分配率の低下局面にはみられない現象であった (第1-1-4(11)図)(15)。

(企業収益と賃金の関係)

企業収益には改善がみられているが、労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」によると、賃金決定の際に"企業実績#を重視する企業の割合は90年代に上昇して、99年には81.5%となり、"世間相場#と答える企業の割合は低下し、99年には10.6%となった。実際に、最近では収益の伸び率に対して賃金の伸び率が小さくなる傾向もある(第1-1-4(12)図)。名目賃金を物価と企業収益で推計すると、企業収益が上昇すると2四半期ほど遅れて賃金も上昇するという結果が示されており、収益の改善により賃金も徐々に改善していくことが期待される(付表1-1-4(7))。

4)労働者派遣事業制度の見直し

99年12月1日より、改正労働者派遣法が施行された。これにより、それまで26業務に限定されていた派遣労働の対象業務がネガティブリスト化され、原則として全ての業務(港湾運送、建設、警備、製造、医業等を除く)に拡大された。新たに追加された業務については、臨時的%一時的な労働力の確保のために派遣労働者を受け入れるものと位置付けられているので、派遣先の受入れ期間が1年間に制限され(16)、それ以上の期間派遣労働者を受け入れている派遣先に対しては、派遣労働者を雇入れるよう勧告する等の措置が採られる。

改正労働者派遣法の施行により、短期間働くことを希望する人や、特定の業務への求職希望をもっている人に対して、より多くの雇用機会が提供されることとなり、また、不足している人材の補完がスムーズになることから、雇用機会の創出につながると考えられる。

首都圏における派遣実績数は、景気後退を背景に98年以降減少傾向にあったが、99年半ば以降景気の緩やかな改善を背景に増加傾向にあり、今後改正労働者派遣法により新たな雇用が創出され、派遣数も増加していくことが見こまれる。

また、2000年12月1日から施行が予定されている「紹介予定派遣(派遣就業終了後に派遣先に職業紹介することを予定してする労働者派遣)」については、再就職や失業なき労働移動を実現するための重要な経路となっていく可能性がある。

5.横ばい状態にある個人消費

(横ばい状態にある個人消費)

個人消費は97年4月の消費税率引上げ前の駆け込み需要とその反動などの後、経済や暮らしに対する先行き不透明感などから秋口以降低迷し、実質消費支出は97年度1.4%減となったが、98年度は0.6%増と小幅ながら増加に転じた。しかし、99年4-6月期前期比1.1%増、7-9月期0.2%減となった後、10-12月期は1.6%減と減少幅が拡大したが、2000年1-3月期は1.8%増と再びプラスとなった。過去の回復局面と比較しても、消費の改善はやや遅れている(付図1-1-5(1))。

消費がこのような動きをした背景を、可処分所得と消費性向に分けてみると(第1―1―5(1)図)、99年度には可処分所得が減少を続けるなか、7-9月期以降は消費性向も低迷し、消費は2四半期減少を続けることとなった。2000年1-3月期の消費は前期比で増加となった(1)が、これは可処分所得が増加に転じたことが寄与している。

多くの家計は将来を考えながら現在の消費支出を決めているため、家計の消費行動には、所得以外の要因も影響している。以下、最近の消費行動の背景をみるため、所得、消費者マインド(期待所得や将来不安)、資産効果、耐久財支出低迷の要因等についてみる。

(大きかった賞与のマイナス)

まず、所得の動きをみると99年度には、賃金が減少した影響で実収入が減少した。一方、税制改正により、それまでの特別減税に代えて所得税、個人住民税併せて4.6兆円程度の恒久的な減税が行われた。また、99年3、4月を中心に地域振興券(約6,214億円)が交付された。

家計調査をみると、減税は勤労者世帯の可処分所得を下支えしている。しかし、定期収入が低迷していることに加え、夏・冬の賞与が前年に引き続き大きく減少したため、99年度の可処分所得は、2.1%減となった。

(消費性向と消費者マインド)

97年以降の消費低迷の背景には、可処分所得の減少だけでなく、消費者のマインドの悪化があり、その悪化には将来の雇用や負担増などに関する懸念等が影響していると考えられる。これらの影響をみるため、まず、収入や雇用についての消費者マインドを消費者態度指数でみると、97年秋に悪化した後低迷し、98年半ば以降持ち直し、緩やかな改善を続けている。平均消費性向は98年まで低下していたが、その後やや持ち直している(第1-1―5(2)図)。

家計の平均消費性向を消費者マインドと所得の伸び率等で説明する関数を推定すると、消費者マインドが1ポイント上昇すると消費性向が当期において0.2%ポイント程度上昇するという関係が得られた。このような効果は80年代半ばまではみられなかったものであり、最近は消費者のマインドが消費性向にかつてよりも影響するようになってきたと考えられる(第1-1-5(3)図)。

(好調な60歳代以上の消費)

世帯主の年齢階級別にみると、60歳代以上の消費が他の年齢階級に比べ堅調な動きとなっている。また、50歳代では、可処分所得が減少する中で消費支出を維持するため消費性向が上昇する動きがみられている。一方、40歳代以下の世帯では、消費性向は概ね横ばいとなり、所得が減少する中で消費も減少している。

また、消費者マインドが消費に与える影響を年齢階級別にみると、その効果は50歳代に比べて30~40歳では大きく(2)、今後の勤労年数が比較的長い世代で強い可能性を示唆している(付表1-1―5(2))。

なお、単身世帯の実質消費支出は99年度には4.6%増となり、特に34歳以下の世帯で8.7%増と好調であった。

(上昇している不確実性)

日本銀行「生活意識に関するアンケート調査(第10回、2000年3月実施)」をみると、消費者の支出に対する考え方として「基本的には、収入が増えれば支出も増えると思う」が第1位となっているが、続いて「現在の収入よりも将来の不安があるかないかによって、支出は変わると思う」が第2位となっており、現在の収入の増大だけでなく、将来の不安が軽減されれば今後の支出が高まることが期待される(第1-1-5(4)図)。こうした要因をみるため、流動性制約も考慮したライフサイクル恒常所得仮説モデルに基く消費関数を推計した。この仮説によれば、現在の消費水準を決定するものは①家計が現在保有する非人的資産(土地、住宅、金融資産等)、②人的資産(将来の勤労所得の割引現在価値)及び③現在の可処分所得である。そのうち、将来所得の割引現在価値は、非人的資産からの期待収益率と将来の所得に対して家計が抱く不確実性(リスクプレミアム)の影響を受ける。将来所得に対する不確実性が高まると、家計は自らの将来所得をより割り引いて固めに見積もって考えるようになり、その分だけ現在の消費を抑制し貯蓄を増やそうとする可能性がある。所得や資産の額と消費との関係をみることにより、家計が期待している将来所得(人的資産)の大きさ、およびどの程度将来所得を割り引いて考えているか、すなわちリスクプレミアムの大きさが分かる(3)。

推計結果をみると、家計が認識するリスクプレミアムは徐々に高まる傾向にある(第1-1-5(5)図付表1-1-5(3))。一方、家計の保有する非人的資産は、地価の下落を反映して91年をピークに減少に転じ、最近は横ばい傾向にあり、資産効果による消費増加はみられなかったと考えられる。したがって、①所得の減少、②家計が想定する将来所得の不確実性が増加していることが、消費の回復が遅れている要因となっている可能性がある(4)。

また、日本銀行「貯蓄と消費に関する世論調査」によると、老後の暮らしに対する経済面での不安は全ての年齢階級で90年代を通じて高まる傾向にあるが、特に今後の勤労年数が比較的長い世代で高くなっている。ここで、老後の暮らしについて「それほど心配していない」と答えた人の理由の第一は「年金や保険があるから」(64.6%)となっている。他方、不安と感じる理由は「十分な貯蓄がないから」(72.8%)「年金や保険が十分ではないから」(67.3%)といったものが中心となっている。また、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査(第10回、2000年3月実施)」によれば、支出を増やすことが可能になる要因として、「年金改革や財政赤字などに対する指針を示し、国民負担の将来像を明確化する」を挙げる者が34.9%にのぼっている。したがって、将来像が明確で長期的に安定した社会保障制度を構築していくことが重要になっている。

(低迷している耐久財消費)

実質消費支出の内訳を財・サービスに分けてみると、98年度には耐久財消費支出は1.3%減(国民経済計算)となり、99年度も3.4%減(家計調査(全世帯))と引き続き低調な動きになっている。この背景には、上記にみたような所得及び将来の期待所得の低下に加え、ストック調整効果が働いている可能性がある。耐久財消費支出の可処分所得比でみると、80年代後半のバブル期に大きく上昇し90年代初めに8%に達した後、基調としては徐々に低下し、98年以降ほぼ横ばいとなっている(第1-1-5(6)図)。

耐久消費財支出を説明する関数を推計すると、ストック調整も有意な効果を持っている(付表1-1-5(5))。また、90年代では80年代に比べてストック調整要因の効果が大きく、耐用年数が長くなっているという結果が得られた。これは、一度耐久財支出が増加すると、その後低迷する時期が以前より長く続く可能性があることを示唆している(5)。耐久消費財を買い換えた人に聞いた調査でも、新車、カラーテレビ等、主要耐久財の使用年数は上昇する傾向があり、この結果を裏付けている。

ただし、相対的に新規需要が多いと考えられるパソコン・ワープロへの支出は99年度は31.1%増(名目)と大幅に増加し、自動車販売台数も2000年1-3月期には前年比増加に転ずるなど、明るい動きもみられている。先程の推計結果を用いて耐久財支出の寄与度分析をすると、耐久財ストックの支出抑制効果が過去の平均に比べて小さくなっていることから、ストック調整も進んでいると考えられる。

なお、後でみるように、99年に入り住宅ローン減税等の住宅促進施策を背景に住宅着工戸数が増えている。住宅金融公庫による「公庫融資利用者に係る消費実態調査(平成10年度)」によれば、同公庫を利用して住宅を取得した世帯が、取得後約1年間に購入した耐久財は平均205万円であった。これは、総務庁「家計調査」による全世帯の耐久財支出の9倍にあたり、同様の調査が行われた93年度の結果の約5倍よりも大きくなっている。

(増える住宅ローン負担)

純貯蓄残高の年間収入比を年齢別にやや長期的にみると、60代、50代では概ね横ばい、30代、40代では減少傾向にある。この背景にはこれら年齢層で住宅ローンの負担が増大していることがある。住宅ローン負債は増加傾向にあり、収入比でみても増加がみられている(付図1-1―5(6))。また、「貯蓄と消費に関する世論調査」によれば、99年に過去一年間と比べて「消費支出を減らした」と答えた20代、30代及び40代の世帯についての理由をみると第一の理由は「手取り収入が減ったから」であるが、第2の理由として「借入れの返済が増えており、消費に回せる金額が減ったから」を上げる人が多くなっている。

住宅ローンへの支払いは家計の資産形成の一端でもあり、その返済額は負債額の減少となるが、一方で、収入がやや減少しているものの、主として住宅ローン負債の増加により住宅ローン負債比率は上昇していることから、住宅取得のための負債が家計の消費支出に影響を与えている可能性も考えられる(6)。

(堅調な教養娯楽、通信)

98年から99年にかけての消費の動向を費目別にみると、食料は依然として低迷しているものの、大幅な減少が続いていた被服・履物は減少幅が縮小した。一方で、教養娯楽が増加となったほか、通信の伸びが大きかった。また、生鮮食料品の購入単価を消費者物価と比較すると、購入単価の伸びが消費者物価の伸びを下回る傾向がみられ、消費者の価格志向が高まっていることを示唆している(第1-1-5(7)図

以上のように、97年以降の消費低迷の背景には収入の低迷のほか、消費者マインドの悪化、耐久財支出の低迷などがあったと考えられる。また、中年層を中心に住宅ローン負担が消費を抑制している可能性もある。しかし、消費者マインドには改善がみられ、耐久財のストック調整も進んでいるとみられる。また、収入面も下げ止まってきており、今後、収入が順調に増加して行けば、消費も徐々に回復して行くことが期待される。

(小さくなってきている個人消費の季節性)

個人消費関連の指標をみると、3月、7月、12月の支出が他の月と比べ大きいという季節性がある。販売統計のうち、季節性が最も顕著な百貨店販売額をみると、それぞれの月の年間に占める構成比は、3月8.8%、7月10.2%、12月12.2%(99年実績)と、他の月と比べかなり大きい(7)。特定の月の構成比が大きい要因としては、①所得面でのボーナスの存在、②季節による消費品目の変化、③中元、歳暮贈答等の習慣、④年末の買い溜めや正月準備、などが考えられる。

但し、この季節性は年々小さくなってきている。百貨店販売額をみると、12月の販売額の年間に占める構成比は、1970年には17.8%であったのに対し、年々低下し、99年には12.2%にまで低下した(コラム図)。消費の季節性が小さくなってきた要因としては、①冬のボーナスの構成比が低下し、夏のボーナスの構成比が上昇するなど、所得面の季節による変動も小さくなってきたこと、②衣料品等季節に応じて変動するような消費支出の全体に占める割合が減少していること、③中元、歳暮等の習慣が弱まってきたこと、④年中無休の店舗が増え、年末に買い溜めをする必要性が小さくなってきたこと、などが考えられる。季節調整法はこうした季節性の変化を勘案するように作られてはいるが、最近では12月の構成比は季節指数よりも速いテンポで低下している(コラム図、円内)。

6.景気の下支え役を果たした住宅建設

住宅建設は、低金利、住宅ローン減税の政策効果等によりプラスに転じ、98年を上回る水準で推移した。ここでは、住宅建設の動向及びその背景についてみる。

(景気を下支えする住宅建設)

97年以降低迷が続いてきた住宅建設は、99年4-6月期の民間住宅投資(実質)が前期比12.9%増と高い伸びを示すなど景気の下支え役を果たした。

こうした盛り上がりを支えたのは、持家の増加である。これは、住宅ローン減税や住宅金融公庫金利が低く抑えられてきたことなどの住宅建設促進施策を反映したものである。一方、99年半ば以降は分譲マンションが大きく増加し、持家の減速を補う形となった。その後マンション着工はやや減少しているが、住宅ローン減税制度の拡充措置(1)が2001月6月末までの入居についても適用されることとなったことなどから高い水準にとどまり、堅調に推移している(第1-1-6(1)図)。

(99年前半を支えた持家の盛り上がり)

持家着工戸数は99年1-3月期には前期比9.2%増、4-6月期は同10.4%増と2四半期連続で増加した後、7-9月期は同9.0%減、10-12月期は同6.9%減と2四半期連続で減少した。また、2000年1-3月期は7.4%増となった。持家着工戸数の年前半の増加及び後半の減少は、主として住宅金融公庫の融資を受けて建設された持家(公庫持家)の増減によるものである。持家着工の動きの背景をみるため、1つの試算として、持家着工を実質貯蓄や金利、地価、住宅ストック、住宅減税額で説明する関数を推計すると、99年にはストック要因はマイナスに作用したものの、貯蓄要因はわずかながらプラスに転じたほか、減税効果要因が大きくプラスに作用しているものと考えられる。金利要因及び地価要因による影響はわずかであったと考えられる(付図1-1-6(1))。

持家の先行指標をみると、まず、持家着工戸数に1四半期程度先行する公庫の個人住宅建設資金回次別申込件数(マイホーム新築)は99年度は第2回募集(99年7月26日-10月29日)は受付期間が延長されたこともあり、増加に転じたが、その後第3回、第4回募集は基準金利が引き上げられた(第2回2.6%に対し、第3回は2.80%、第4回2.75%)ことなどから前年に比べほぼ半減している。2000年度第1回(4月20日-6月30日)については基準金利が2.75%となっている。一方、2四半期程度と、先行期間のより長い住宅展示場来場者数は、99年に入り基調として前年同期比増加に転じており、2000年に入っても前年を上回る水準で推移している。なお、99年後半以降、民間住宅ローン金利が低水準で推移していること等を背景に公庫を利用しない民間資金による持家が緩やかに増加し、持家の動きを下支えしている。

(年後半に増加した分譲マンション)

99年後半には持家に代わって、分譲住宅が増加した。分譲住宅の着工戸数は7月以降前年同期比でプラスに転じ、7-9月期は前期比14.7%、10-12月期は同2.7%と高い伸びとなった。また、98年末から、首都圏と近畿圏のマンションの契約率は上昇し、在庫戸数は減少してきている(付図1-1-6(2))。このように好調な販売を背景に、在庫調整が進んだ(2)。

また、マンションの単価と平均床面積をみると、単価の下落基調が続くなか、平均床面積は上昇し、2000年1-3月期には73.8㎡(首都圏)となり、92年の63.3㎡に比べ16.6%増加している。マンション着工の動きの背景をみるため、1つの試算として、相対価格要因(後述)や金利見通し、在庫、人口要因で分譲マンション(首都圏)の動きを説明する関数を推計すると、99年には人口要因はマイナスに作用したものの、在庫要因、相対価格要因、金利見通し要因がプラスに寄与し、減税効果要因が大きくプラスに作用していると考えられる(付図1-1-6(3))。

相対価格要因としてマンション単価と家賃の割引現在価値の比をみると、前者が長期的に低下しているのに対し、後者は低金利の影響もあり上昇しており、両者の比は90年代半ば以降低下基調にある。マンションの契約率が98年以降上昇した背景には、こうした要因も影響したと考えられる(第1-1-6(2)図)。

分譲マンションの着工の1四半期程度の先行指標である用地取得判断DI(住宅金融公庫調査)をみると、全国、首都圏とも98年第3四半期以降上昇に転じている。2000年の3月調査でも若干上昇がみられており、2000年に入っても、分譲マンションの着工は堅調に推移している(前掲付図1-1-6(2))。

住宅ローン減税制度の拡充措置は99年12月に適用期間が延長され、優遇措置の適用を受けるためには、2001年6月末までに入居する必要がある。そこで、マンションの工期をみると、階数が増加するほど、着工から竣工までの期間が長く、全体では、平均工期は13ヶ月程度(着工から販売が約5ヶ月、販売から竣工までが約8ヶ月)となっている。したがって、減税がマンションの着工に与える影響は2000年半ば以降徐々に減少していくとみられる。

なお、近年のマンション価格の下落は、一次取得者の住宅取得能力を高める一方、含み損の増加により二次取得者には不利に働く可能性がある。

一次取得者と二次取得者の住宅取得能力を比較すると、一次取得者は足元で大幅に改善しているのに対し、二次取得者はほぼ横ばいで推移している(第1-1-6(3)①図)。二次取得者の割合をみると、全体として、一次取得者の割合が高まっており、二次取得者の比率は減少傾向にある。(第1-1-6(3)②図)。

(低迷する貸家着工の動向)

貸家着工は97年以降大幅な減少基調にあったが、2000年1-3月期には13四半期ぶりに 前年同月比でプラスに転じた。貸家の動きを家賃、金利などで説明する貸家着工関数を推計し、要因分解を行うと、家賃や低水準の金利がプラス要因として働いているが、貸家ストックの積み上がりに加え、若年層人口の減少により、ストック要因が大きくマイナスに寄与している。民営家賃もこのところ軟調となっており、貸家の着工がこのまま増加を続けるかは不透明である(付図1-1-6(4))。

(今後の展望)

住宅着工については、住宅展示場来場者数は依然として前年を上回っており、民間資金持家はしばらくゆるやかに増加する可能性もあるが、公庫持家は公庫受付件数を反映し当面は減少していくとみられる。マンションは2000年半ば頃までは堅調に推移する可能性があるが、今後住宅建設がこれまでのように大幅に増加していくとは考えにくい。

(定期借家制度の導入とその影響)

99年12月、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が成立し、2000年3月1日から定期借家制度が導入された。これにより、借家契約として、従来の借地借家法に基づく契約に「定期借家契約」が加わることとなった。定期借家契約とは、契約で定めた期間の満了により,更新されることなく確定的に借家契約が終了する契約であり、1) 契約期間を当事者間で自由に設定できるようになった、2)建物返還時期について、従来の借家制度では、契約期間が満了しても、借り手が居住の継続を望んだ場合には貸主は正当な事由がないかぎり契約の更新を拒むことはできなかった(正当事由制度)が、定期借家制度ではこうした制約はなくなった、など、一般に貸主にとって、貸家を供給しやすい制度となっている。

貸主にとっては、借家経営がしやすくなり、ファミリー向け賃貸住宅など借家人の多様なニーズを満たす賃貸住宅の供給が促進されると考えられる。借り手の立場からみると、定期借家物件については、将来における再契約についての保障はないが、良質な賃貸住宅の供給が促進されれば、選択肢も広がり、供給増による家賃の低下も期待できる。以上から、本制度の導入は長期的には貸家の建設を増加させる効果を持つと考えられる。

7.輸出入を通じたアジア経済との好循環

1)対アジアを中心に増加した輸出入

(対アジアを中心に回復した輸出数量)

輸出数量指数(季節調整値)は、98年10-12月期を底にアジア向けを中心に増加し、アメリカ向け、EU向けも堅調に推移している(第1―1―7(1)図)。この背景をみるため、90年代について地域別の輸出数量関数を推計すると、所得弾性値はEUで1よりやや高く、アジア、アメリカは1に近い値となっている一方、価格弾性値はEUで高く、続いてアメリカとなり、アジアは低い値となっている(1)(第1-1-7(2)表)。99年に入り円高にもかかわらず輸出数量が増加した背景には、アジア経済の急速な回復、アメリカの好景気の持続、更に足元ではEUの景気改善といった所得要因に加え、アジア向け輸出は価格弾性値が相対的に低く、アメリカやEU向けに比べ円高による輸出減の影響を受けにくかったことなどが考えられる。

(IT関連製品はどの程度輸出を牽引しているか)

品目別の動きをみると、98年以降低迷していた一般機械が上昇に転じ、VTR、半導体等電子部品といった電気機器、精密機器の増加が著しい。また、情報関連財(IT関連品目)の動きをみると、99年に春頃からアジア向け半導体を中心に堅調に推移しており、99年の輸出数量の増加(2.1%)への寄与度は約0.7%となった(2)。なお、IT関連製品を含む輸出の増加は99年後半の鉱工業生産の増加に寄与した(3)。

(高付加価値化が進むなかで円高により下落した輸出価格)

輸出価格(円ベース)は下落している。これは98年秋以降の円高の進展の影響によるものである(4)。但し、98年半ば以降、輸出品目の高付加価値化(輸出品目の高級化)が進み、輸出価格を押し上げる方向に働いている。

品目別にみると、輸出数量増加への寄与が大きかった電気機器、精密機器などでIT関連財の世界的需要の高まりなどを背景に98年半ば頃から高付加価値化が顕著にみられている(5)。アジア向け輸出はこうした品目を中心に増加しており、輸出の高付加価値化はアジア向けで顕著であるといえる。

(アジアからの輸入を中心に増加した輸入数量)

輸入数量をみると、輸出と同様、アジアからの輸入を中心に増加している(第1―1―7(3)図)。アメリカからの輸入は、一時的に航空機輸入が増加するなど振れを伴いつつも、基調としては横ばいで推移している。EUからの輸入は99年に入りほぼ横ばいで推移している。輸入増加の背景をみるため、輸入数量関数を推計すると、所得弾性値が1を大きく上回っており、80年代後半と比べても上昇する傾向がみられ(第1―1―7(4)表)、輸入が国内の景気により感応的になっている。価格弾性値にも上昇がみられ、円高が輸入を増加させる効果が大きくなっている。また、アジアからの輸入の所得弾性値は3.3と大きくなっており、90年代において、日本経済がアジア経済とより密接なつながりをもつようになっていることが分かる。

(増加した製品類の輸入)

99年における輸入数量の動きを品目別にみると、機械機器や繊維製品といった製品類の増加が著しい(6)(第1―1―7(5)図)。機械機器の増加は、アジアからの電算機・半導体等電子部品といった情報関連財などの輸入が増加したことが寄与している。また、繊維製品の輸入が増加したのは、中国からの輸入が99年1-3月期から大幅に増加したことが寄与している(7)。

(上昇に転じた輸入価格)

輸入価格(円ベース)は、98年秋以降は円高に伴い低下していたが、99年半ば以降、原油をはじめとする一次産品価格の上昇や、円高基調が弱まったことから下げ止まり、2000年1-3月期には上昇に転じた(8)。輸入品目は、高品質、高性能のものからより安価な普及品へとシフトしており、こうした傾向は98年4-6月期以降輸入価格を押し下げる要因となっている。この背景には、内需の低迷から収入が伸びず、消費者の価格指向が高まっていることなどが考えられる。

(やや減少した経常収支黒字)

経常収支黒字は98年には輸入の減少などから拡大し、15兆7,846億円(GDP比3.2%)と過去最大となったが、99年には縮小に転じ、12兆1738億円(GDP比2.5%)となった。

内訳をみると、「貿易収支」は、円高により輸出入価格がともに下落した結果輸出入金額がともに減少したが、輸出金額の減少が輸入金額の減少より大きかったことから、黒字幅が縮小した(第1―1―7(6)図)。「サービス収支」の赤字は99年は赤字幅がやや縮小した。これは、円高により"輸送収支#"その他サービス収支#で支払い減があったことなどによる。また、「所得収支」も、海外現地法人・支店の98年度決算悪化に伴う直接投資収益の減少等から黒字幅が縮小している。

(赤字幅が縮小した資本収支)

資本収支は97年、98年と大幅な赤字が続いてきたが、99年には5兆3,960億円の赤字となり、98年の17兆3,390億円の赤字から赤字幅は大きく縮小した。これは、「直接投資」及び「証券投資」(株式・債券)の赤字幅が縮小するとともに、「その他投資」(金融機関の間の貸借等)が黒字に転じたためである(9)(第1―1―7(7)図)。

外貨準備は99年中に8兆7,963億円増加し、既往最高の増加となった。外貨準備が増加する要因としては、一般には、運用収入や市場介入等がある。経常収支は12兆1,738億円の黒字、資本収支が5兆3,960億円の赤字となったことから、経常収支黒字のうちかなりの部分を外貨準備が吸収した形となっている。

(増加する対内直接投資)

資本収支における「直接投資」も99年は赤字幅が大幅に縮小した。これは、前年に比べ対外直接投資(資産)が減少する一方、M&Aを中心に対内直接投資(負債)が大幅に増加したためである。対内直接投資(報告・届出ベース)は、98年度は前年度比97.6%増と大幅に増加し、99年度も前年度比79.0%増と2年連続で既往最高を更新した(第1―1―7(8)図①)。

対内直接投資を業種別(報告・届出ベース)にみると、非製造業では、98年度は金融・保険業、サービス業が大きく増加したが、99年度は通信業の増加が大きかった。製造業は、98年度は前年度比16.9%増となった後、99年度には前年度比213.4%増と大きく増加している。投資形態別(国際収支ベース)にみると99年は株式資本によるものが大きく増加しているが、これは対日M&Aの急増を反映したものである。対日M&Aの推移をみると、総件数はこのところ急増しており、地域別では98年にはアメリカの増加が目立ったが、99年には欧州からの対日M&Aが大きく増加している(10)(第1―1―7(8)図②)。

対内直接投資や対日M&Aは、新たな技術や経営ノウハウの導入等を通じて日本経済の活性化に資するものである。短期的には競争の激化に伴い国内企業の収益に悪影響が出る可能性は考えられるが、生産性の向上が促進され、結果として日本経済の発展に寄与すると考えられる(11)。

2)アジア経済との好循環

(アジア経済の急速な回復)

アジア経済は99年に入り、急速に回復している。99年の実質GDP成長率は、東アジアの多くの国で年初の大方の見通し以上の成長となり、大幅なプラスとなった。景気回復に伴い各国とも生産は増加を続け、貿易面では輸出入とも急速に増加している。また、日本向け輸出も増加している。国際機関(12)による経済見通しでも2000年について引き続き高目の成長が見込まれている。

(貿易、直接投資を通じたアジアとの好循環)

日本の貿易、直接投資を通じた諸外国との結びつきは、対アジア地域で顕著である。日本の輸出全体に占める対アジアのシェアは、アジア危機の影響から98年7-9月期には33.8%に低下したが、その後回復し、2000年1-3月期には38.7%となっている。輸入について同様にみると、同危機の影響から98年1-3月期には36.2%にまで低下したが、その後回復し、2000年1-3月期には40.6%となっている。

直接投資についても、アジアのシェアは特に90年代に入って高まり、日本の対外直接投資(報告・届出ベース)は97年度には1兆4,948億円と全体の約2割に達した。ただし、98年度はアジア危機の影響から大幅に減少し8,357億円となり、99年度も前年度比4.4%減の7,988億円となっている。

こうした中で、日本とアジアとの貿易関係は、かつてのような資源を輸入し、日本で工業製品を加工して輸出するという「垂直貿易型」から、アジアも日本も製品を輸出するという「水平貿易型」に変化してきている(第1―1―7(9)図)。

(高まる国内生産とアジアからの輸入の関係)

製品輸入の増加に伴って、輸入品の国内出荷への浸透も進んでいる。特に99年には国内出荷に対する資本財輸入の比率が上昇し、その主因はNIEs等アジアからの輸入であった(13)。

そこで、98-99年の国内の鉱工業生産と輸入数量の関係を地域ごとに比較すると、アジアからの輸入と鉱工業生産との相関が、アメリカやEUについての相関よりも高くなっており、またアジアからの輸入が国内生産に先行する傾向がみられる(第1―1―7(10)図)。これは、日本とアジアの分業体制が他地域よりも進展しており、日本の生産回復局面にあって、アジアからの情報関連財部品をはじめとする機械機器などの輸入が増加しているためと考えられる。

3) 円高の影響と対応力

(円高が進んだ為替レート)

円ドルレートは99年初から春頃まで円安となった後、5月(月中平均122.11円)から12月(同102.69円)にかけて円高が進み、2000年に入り年初にはやや円安となったものの、4月には同105.48円となっている。円の実質実効レートも、円ドルレートとほぼ同様の動きとなっている(第1―1―7(11)図①)。輸出企業の採算レートをみると、2000年1月の調査では製造業平均では106.74円となっており、現実の為替レート(2000年1月 105.16円)と採算レートが近い水準となっている。1年前の同じ調査(112.62円)とくらべ、採算レートがより円高となり、円高への対応力を高めていることが伺える(第1―1―7(11)図②)。

購買力平価の動きをみると、基準となる時点の選定や物価指数の種類によってその水準は大きく異なるものの、長期的には実際の円ドルレートと同様に円高傾向で推移している(14)。

(日本の輸出入に占める円建て比率)

日本の輸出入に占める円建て比率は80年代までは上昇傾向にあったが、90年代に入りやや足踏みがみられ、98年には輸出では36.0%、輸入では21.8%となった。これは、90年代にアメリカ経済が好況となり他地域をリードするようになった結果、ドルの利用割合が相対的に上昇したためと考えられる(15)。

98年における輸出に占める円建て比率を地域別にみると、アメリカ向けが15.7%、EU向けが34.9%となっているのに比べ、東南アジア向けは、48.4%と円建て比率が相対的に高くなっている。さらに、地域別・品目別にみると、東南アジア向けの輸送機器、一般機械や電気機械の円建て比率がそれぞれ81.3%、59.7%、42.7%と高いが、これは80年代と比べてそれほど変化はみられていない。このように、アジア向けの高付加価値品の円建て比率が高かったのは、こうした品目は80年代において既にアジア市場での非価格競争力が強く、円建て取引を推進しやすかったためと考えられる 。

(輸出の価格転嫁率は高まっているか)

為替が変動した場合に、外貨ベースの輸出価格が変動する度合いを輸出の価格転嫁率と呼ぶ。価格転嫁率をみるため輸出価格関数を推計すると、90年代の価格転嫁率は全体で58.0%となる。80年代について同様の推計をすると49.4%となり、90年代はやや上昇していることが分かる(第1―1―7(12)図)。既にみたように、対世界で輸出の決済通貨をみると円建て比率は90年代に入って上昇していないため、輸出の価格転嫁率上昇の背景には決済通貨以外の要因があると考えられる。

これを品目別にみると、輸送用機器、一般機械などの価格転嫁率が相対的に高い。また、80年代と比較すると、その差は必ずしも大きいとはいえないものの、一般機械、電気機器などの価格転嫁率が上昇している。こうした輸出価格の転嫁率上昇は、90年代以降、アジア向けを中心に日本の資本財の高付加価値化が進み、非価格競争力が一層向上した可能性を示唆している。

(収益にみられる円高の影響)

円高の企業収益に与える影響をみるため、産業連関表をもとに10%の円高が生じた場合の産業別の企業収益の変化をみた。

(東南アジア向けの輸送機器、一般機械や電気機械の円建て比率がそれぞれ81.3%、59.7%、42.7%と高いが、これは80年代と比べてそれほど変化はみられていない。このように、アジア向けの高不可価値品の円建て比率が高かったのは、こうした品目は80年代において既にアジア市場での非価格競争力が強く、円建て取引を推進しやすかったためと考えられる(16)。)

まず、円高が生じた直後の輸出入価格の変化だけを考慮に入れた場合(ケースA)は、営業余剰の変化率は、全産業で0.3%減となっている。次に、円高が生じてしばらくたった後の価格変化のみの効果をみると(ケースB)、全産業で1.0%増となる。しかし、価格変化に加え、輸出数量の減少も考慮すると(ケースC)、全産業で0.4%減(加工組立型製造業7.0%減、素材型製造業6.2%増、非製造業0.1%増)となる。これを前回の円高と比較すると、総じてみれば、円高が収益に及ぼすマイナスの影響は今回の方が小さくなっている。これは、輸出企業の更なるコスト削減努力や、既にみたように資本財を中心に非価格競争力が向上し、輸出の価格転嫁率がやや上昇していること等を背景としたものである(17)。

(円高対応力の向上)

次に、輸出企業のみについて、個別企業(輸出が売上げの30%以上をしめる企業)のデータを用い、為替の変動により実際にどの程度影響を受けたかをみてみよう。ここでは、円高によりある企業の収益が影響を受けると予測される場合、その影響は企業価値である株価及び配当にある程度影響を与えると考え、輸出企業の市場価値(18)を為替レートと平均株価とで説明する関数を推計した(第1―1―7(13)図)。その結果、為替変動により影響を受ける企業について、その効果の平均値は負の値となっているが、影響の程度は最近になるほど小さくなっている(19)。また、全体への影響をみるため、為替レートのパラメータを対象企業に共通と仮定したパネル推計を行うと、その場合でも為替変動による影響は最近になるほど小さくなっているという結果が得られている。なお、90年代前半から後半にかけて、為替変動による影響が小さくなった企業では輸出比率が上昇するという傾向があり、為替変動への対応力をつけつつ輸出を伸ばしている企業もあると考えられる(20)。

このように、円高が企業収益に与える影響は低下し、円高への対応力は上昇していると考えられるが、その背景には、輸出の価格転嫁率や製品輸入比率の上昇に加え、アジア向け輸出の価格弾性値が小さいことがあると考えられる。また、輸出企業による更なるコスト削減努力や海外生産比率の上昇の他、80年代半ば以降先物為替や通貨オプションに代表される金融面でのリスクヘッジ手段が多様化し、企業に浸透してきたことも要因として挙げられる。こうしたことから円高対応力は高まりつつあるとみられるが、急激な円高は将来に向けての不確実性を増し、合理的な経済活動の妨げになることから、依然として今後の景気にとって懸念要因である。

(輸出入の今後の展望)

輸出入については、為替レートの状況に影響を受けることに留意する必要はあるが、輸出については、アジア経済の回復を背景に、今後も増加基調が続くと考えられる。輸入についても、日本経済の回復への動きに牽引され、当面増加基調で推移すると見込まれる。

(中国のWTO加盟が日本経済に及ぼす影響について)

1999年以降、中国の世界貿易機関(WTO)加盟に向けた動きが加速している。日本は従来から中国のWTO加盟を支持しており、97年9月の財(モノ)の貿易の分野での合意につづき、99年7月にはサービスの貿易の分野で、中国と二国間合意に至っている。

世界経済に大きな地位を占める中国のWTO加盟は、中国の経済制度の透明性の向上、関税引き下げ、輸入数量制限の撤廃などにより、世界経済全体に利益をもたらすと考えられる。とりわけ、経済的・社会的に従来から関係の深い日本には、対中輸出入の拡大・対中直接投資の拡大などを通じて大きなメリットをもたらすものと期待される。

日本にとって中国は、第3位の輸出相手国であり、輸出総額の5.6%(99年)を占めている。主な輸出品目は、電気機器や一般機械などの機械機器や、化学製品、繊維製品などである。97年9月の日中二国間交渉では、中国側の関税率の引き下げ(鉱工業品約3,600品の平均関税率47%→18%)、輸入数量制限の段階的な撤廃、基準認証制度の一元化などが合意されている。こうした中国側の措置により、中国のWTO加盟が実現すれば対中輸出を取り巻く環境は大幅に改善されることとなる。例えば、自動車については、中国では現在①80%~100%の高関税、②輸入数量制限といった措置が採られているが、関税については2006年までに順次25%にまで引き下げられ、数量制限も段階的に撤廃されることが見込まれる。

一方、中国は、日本にとって第2位の輸入相手国(輸入総額の13.8%(99年))であり、主な輸入品目は繊維製品・機械機器である。WTO加盟により、中国企業の国際競争力の向上等を通じて、製品類を中心に中国からの輸入の増加が見込まれる。

また、中国は、日本にとって主要な直接投資先の一つであり、対外直接投資総額の6.6%(98年末残高アメリカ・イギリスに次いで第3位)を占めている。99年7月の日中二国間交渉では、中国における流通・電気通信・建設・保険・金融などのサービス分野において、外資規制の段階的な緩和等を柱とした合意が得られた。この合意により、他の国と中国との間の二国間交渉の結果等と相まってサービス分野の対中投資環境は大幅に改善されることとなる。特に電気通信は、現在外資の資本参加は認められていないが、合弁事業の外資比率が半数未満まで緩和されることから、今後日本からの直接投資が期待される分野とみられる。

このように、中国のWTO加盟は、日本と中国の貿易経済関係を拡大し、日中双方の経済発展に資するものと考えられる。

コラム図

8.安定続く物価

(おおむね横ばいで推移する国内卸売物価)

約2年にわたり下落傾向が続いていた国内卸売物価(消費税調整済)は、99年7-9月期に10四半期ぶりに前期比上昇に転じ、以後おおむね横ばいで推移し、2000年3月には91年10月以来8年5か月ぶりに前年同月比プラスとなった。

これまで国内卸売物価が弱含んでいた背景には、需給の緩みのほか、原油価格等国際商品市況の低迷を反映した輸入品価格の下落、規制緩和、生産性の向上などがあった。99年4-6月期以降、景気が改善するなかで需給が改善し、この要因の物価押し下げ圧力は徐々に弱まっている。また、99年春以降円高が進んだが、一方で原油高や国際商品市況が回復しその効果が相当程度相殺されたことなどから、国内卸売物価はおおむね横ばいで推移している(第1-1-8(1)図)。これを需要段階別の動きでみると、原油高や国際商品市況の回復により輸入素原材料、中間財が上昇し、これが国内卸売物価に上昇圧力として働いた。一方で、内需不振等から最終財(資本財及び消費財)は依然前年比マイナスが続いている(第1-1-8(2)図)。

(安定している消費者物価)

消費者物価(生鮮食品を除く総合、消費税調整済)は、99年5月以降、横ばいで推移していたが、10-12月期前年同期比0.2%の下落、2000年1-3月期同0.2%の下落とわずかながら前年を下回る水準で推移している(第1-1-8(3)図)。

これを、項目別にみると、98年夏以降前年比での下落幅を縮小してきた商品価格が、99年秋以降、下落幅を拡大した。この要因としては、①主に天候要因により前年不作であった米等が99年は平年並になったことなどから、一般生鮮商品や一般食料工業製品が下落したこと、②需給の緩和、円高による輸入物価の下落、製品輸入の浸透、消費市場の業態変化などを背景に、耐久消費財や繊維製品等が下落したこと、があげられる。また、一般サービス価格は、98年以降、賃金上昇率が前年比マイナスとなっていることを受けて個人サービスが伸びを低めているほか、地価の低迷や需要不振を背景に99年には民営家賃が下落となったことなどから、上昇率が鈍化し、おおむね前年並みの水準で推移している。

(国内卸売物価が前年比プラスに転じたのに、消費者物価は何故マイナスなのか)

卸売物価は2000年3月には前年同月比プラスに転じた。一方、消費者物価(生鮮食品を除く総合)は99年10月以降前年同月比マイナスで推移している。

この背景としては、第一に、原油高の影響が国内卸売物価により大きく現れていることがあげられる。後述するように、競争の激化等を背景に石油製品については卸売物価の上昇率より消費者物価の上昇率の方が小さくなっている。

第二に、先に見たように、消費者物価のみに含まれるサービス価格が、賃金の低迷、規制緩和による公共サービス料金の下落等を背景に上昇率が鈍化したことがある。賃金の動きとサービス価格をみると、98年以降サービス業の賃金が減少に転ずる中でサービス価格の伸びが低下している(第1―1―8(4)図)。また、情報技術革新の影響が配送、資材管理など間接経費や仕入れコストの削減を通じて、外食サービス価格などで下落圧力として働いているものと思われる。

第三に、低価格専門店や100円ショップに代表される消費市場の業態変化が消費者物価の下落圧力となっていることがあげられる(付図1-1-8(1))。

(やや持ち直している企業向けサービス価格指数)

企業向けサービス価格の動きをみると、98年4月以降前年同月比マイナスで推移し、その下落幅も98年後半にやや拡大した。価格低下の理由は、景気低迷による需要不振、企業のコスト削減に伴う価格引き下げ要求、価格競争の激化等である。しかし、99年度半ば以降、アジア経済の回復による需要の増加等を背景に運輸が減少幅を縮小したほか、需要の回復により広告がプラスに転ずるなどの動きがみられ、下落幅は縮小している。

(上昇した原油価格)

世界的に物価が安定している中で、原油価格が大幅上昇したことが99年の特徴の一つであった。99年3月末のOPEC(石油輸出国機構)の追加減産合意を受けて、原油価格は、99年2月には1バレル10.2ドル(東京ドバイ・スポット価格)であったのが、2000年3月には25.1ドルと約2.5倍になった。当初は、減産の持続性に疑問ももたれていたが、減産数量は高水準で推移していた(付図1-1-8(2))。OPECは、2000年3月には増産を決定し、その後原油価格は低下したものの、99年春先に比べれば依然高水準で推移している。

(原油価格上昇の物価への影響)

輸入原油価格(円ベース)は、99年3月から2000年3月までに95.6%上昇した。しかし、国内卸売物価でみた石油製品価格の上昇は23.2%にとどまり、消費者物価でみた石油製品価格の上昇は5.8%にとどまった。

このように原油価格の上昇に比べ石油製品価格の上昇が抑えられている背景としては、まず生産者段階でのマージン率の低下があげられる。石油・石炭製品製造業のマージン率をみると、94年半ば以降低下がみられ、94年頃には約14%だったマージン率が99年には約8%にまで低下している。内訳をみると、特石法(特定石油製品輸入暫定措置法)の廃止方針が打ち出された94年頃より売上高営業利益率の低下がみられ、96年の同法の廃止以降は売上高販売管理費率も低下している。つまり、営業利益の圧縮と企業努力によるコスト削減という両面からマージン率が低下していたといえる(第1―1―8(5)図)。売上高経常利益率を要因分解すると、94年以降、金利の低下がコスト減につながるとともに、96年以降は人件費及び設備投資抑制による減価償却の圧縮が売上高経常利益率にプラスに寄与している。固定費削減の動きは99年以降も続いており、価格競争の激化の中で、コスト削減に努めていることが分かる(付図1-1-8(3))。

次に、流通段階でのマージン率の変化をみるため、卸売物価と消費者物価の相対価格をみると、94年頃から低下がみられる(第1-1-8(6)図)。生産者段階同様、流通段階においても営業利益の圧縮、効率化によるコスト削減が進んでいたと考えられる。ただし、99年に入り低下傾向が強まっているのは、販売競争が激しい中での原油価格の急激な上昇が石油関係の卸小売業の収益をこれまで以上に圧迫することによって達成されているものと思われる。

また、過去に比べ高水準の石油備蓄が確保されていること(99年:164日分、80年:95日分)による不安感の低下も理由として挙げられる。原油価格上昇後も仮需が余り発生しなかったことが国内の石油製品価格の上昇を抑えたとみることが可能であろう。

なお、物価全般への構造的な要因として実質GDPに対する実質原油輸入額の比率をみると、80年代半ばまで低下した以降、おおむね横ばいで推移している(1)(付図1-1-8(4))。

(デフレスパイラル懸念の後退)

98年には、実質GDPは、97年10-12月期以降98年10-12月期まで5四半期連続で前期比マイナスが続き、国内卸売物価もマイナスとなったことなどから、日本経済がデフレスパイラル(2)に陥るのではないかと懸念された。99年以降も、需給ギャップは依然として存在しており、物価低下圧力は残存している。このためデフレスパイラル懸念には引き続き留意する必要がある。しかし、景気が改善に向かうに伴って、需給要因は改善しデフレスパイラル懸念は一頃より後退したと考えられる。

(労働市場からの物価押し下げ圧力の可能性)

ここでは労働市場からの物価押し下げ圧力を見てみよう。「フィリップス曲線」は失業率と物価上昇率の関係を示すもので、失業率が低下(上昇)した場合に、どれだけ物価上昇率が上昇(低下)するかを示したものである。これに期待物価上昇率を考慮に入れて「拡張されたフィリップス曲線」を推計すると、90年代では80年代と比べ外側にシフトしていることが分かる。この曲線によって求められるNAIRU(物価上昇率を加速させない失業率)は、推計結果にある程度の幅を持って考える必要があるが、80年代は2.4%程度、90年代には3.5%程度、99年は3.6%程度となっており(第1-1-8(7)図)、99年の失業率が4.7%だったことを考えると、労働市場からの物価押し下げ圧力はなお残っている可能性を示唆している。

9.景気を下支えした公共投資

(景気を下支えした公共投資)

民間需要の回復が弱いなかで、公共投資は需要面から景気を下支えする大きな役割を果たしてきた。公的固定資本形成(実質)を見ると、98年10-12月期に前期比12.3%増と大幅に増加し、実質GDPの増加に対する寄与度は0.9%となった。以後99年4-6月期まで3四半期連続で前期比増加し、景気を下支えした。7-9月期以降は、それまでが高い水準であったこともあり減少に転じている。99年度全体の公的固定資本形成は前年度比0.9%減となった(第1-1-9(1)図)。

以下では、景気を下支えするためにとられた99年以降の公共事業関連予算の動向と、その効果を受けた公共投資の動きを見てみよう。

(景気に配慮した99年度の公共事業予算)

99年度の国の予算は、いわゆる15か月予算の考え方の下に、98年11月の「緊急経済対策」の決定を受けた98年度第3次補正予算(98年12月成立)と一体的にとらえ、当面の景気回復に全力を尽くすという観点に立って編成された。特に公共事業については、公共事業等予備費を含めて考えれば98年度当初予算に比べて10%を上回る伸びとし、相当の事業量を確保した。

99年度当初予算の早期成立を踏まえ、政府は99年度上半期末における国の公共事業等の契約済額が、全体として過去最高の前倒しを図った98年度上半期末実績(約13.6兆円)と比較して10%を上回る伸びとなることを目指して、その積極的な施行を図った。加えて、地方公共団体に対しても、99年度上半期における公共事業等の積極的な施行を図る旨の要請を行った。

また、切れ目のない財政出動により、景気の腰折れを防ぐため、政府は99年9月に公共事業等予備費5,000億円(事業費ベースでは約7,400億円)の使用を閣議決定した。更に、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、景気を早急に本格的な回復軌道に乗せるとともに、21世紀の新たな発展基盤を築くため、11月11日に「経済新生対策」を決定し、全体としての事業規模17兆円程度、介護対策を含めれば、18兆円程度の事業を早急に実施することとした。この経済対策のうち、社会資本整備による今後1年間のGDPへの効果は、実質1.6%程度と見込まれている。「経済新生対策」を受けて、社会資本整備費3.5兆円等を内容とする99年度第2次補正予算が12月9日に成立した(第1-1-9(2)図)。

(公共工事着工と国・地方の動き)

公共工事着工の動きをみると、99年1-3月期は、98年度の一連の補正予算などの効果が本格化したことにより、国・地方ともに前年を大きく上回る水準で推移し、前年比21.8%増となった(第1-1-9(3)図)。4-6月期には国は18.2%増となったが、地方が1.3%増と増加幅が縮小し、全体では6.1%増となった。その後は、前年度の第一次補正予算による増加の反動減もあって、99年7-9月期、10-12月期は国・地方ともに前年を下回る水準で推移し、前年比9.0%減、13.4%減となった。2000年1-3月期には8.5%減となったが、国は2.6%減と減少幅が縮小するなど、99年度第2次補正予算などの効果が現れている。

国が前年度に迫る着工実績となっているのに対し、地方は厳しい状況になっている。98年度と99年度の財政運営が異なるため、単純に比較することはできないが(1)、99年度の地方公共団体の普通会計予算(単純合計)9月補正後をみると、普通建設事業費(2)は前年同期予算に比べて8.4%の減少、うち、単独事業費は12.1%の減少となっており、地方の普通建設事業費が抑制傾向にあることが背景にあると考えられる。

なお、公共工事着工全体に比べ、大手企業の建設工事受注の減少幅が国や市区町村を中心に大きくなっていることから、中小企業に配慮した発注が行われたことがうかがえる(第1-1-9(4)図)。

(公共工事出来高と建設工事出来高)

公共工事出来高(3)によって公共事業の工事進捗の状況をみると、98年10月以降1年間にわたって前年同月比プラスで推移した後、その後は着工の減少を受けてマイナスで推移している(4)。

公共・民間両者を含めた建設投資全体の動向を建設工事出来高(前年同期比)でみると、97年度から98年度前半にかけて、民間部門の低迷を背景に減少が続いていたが、公共部門が98年10-12月期以降プラスに転じ、これに牽引されて99年4-6月期には全体でも10四半期ぶりにプラスに転じた(第1-1-9(5)図)。政策効果もあり民間住宅も増加に転じ、その後、民間非住宅(工場・事務所・店舗等)の減少幅も変動しつつもやや縮小している。

(2000年度予算)

2000年度の国の当初予算については、我が国経済が厳しい状況をなお脱していないものの緩やかな改善を続けている中にあって、これを本格的な回復軌道につなげていくため、経済運営に万全を期すとの観点に立って編成され、2000年3月17日に成立した。一般会計歳出総額85.0兆円のうち公債発行額は32.6兆円、公債依存度が38.4%という、極めて厳しい予算となっているが、公共事業については、景気回復に全力を尽くすとの観点に立って編成した前年度当初予算と同額(9.4兆円)を確保するとともに、公共事業等予備費5,000億円を計上している。

一方、地方公共団体の状況についてみると、2000年度の地方財政計画は、投資的経費が前年度に比べて3.6%の減少、うち単独事業費が4.1%の減少となっており、厳しい状況が続いている。

(財政状況の悪化)

数次にわたる経済対策による公共投資の増加は、日本経済97年10-12月期以降の5四半期マイナス成長からの離脱に貢献した。しかし、その一方で財政の現状を見れば、フロー面では2000年度予算でも触れたとおり、多額の公債発行をせざるを得ない極めて厳しい状況にあり、またストック面でも、2000年度末の国及び地方の長期債務残高は645兆円程度、対名目GDP比で129.3%にも達すると見込まれる。さらに、第2章第2節でもみるように、構造的財政赤字は拡大している。

10.金融面の動向

(短期金利、長期金利の動き)

98年末には、民間の経済活動の停滞に加えて、長期金利の上昇や円高の進行が見られたことから我が国経済のデフレ懸念が高まった。これに対応し、日本銀行は99年2月12日の金融政策決定会合において、金融市場調節方針を一段と緩和し、「より潤沢な資金供給を行い、無担保コールレート(オーバーナイト物)を、できるだけ低めに推移するよう促す」(1)等の、いわゆる「ゼロ金利政策」の実施を決定した。

この政策変更を受けて、日本銀行は潤沢な資金を市場に供給し続けた結果、無担保コールレート(オーバーナイト物)は急速に低下し、3月初旬に0.03%を付けて以降はほぼ横這いで推移してきた(2)。この利回りは、短資会社の手数料を考慮すれば実質的にゼロとみなしうる金利水準である。CD(譲渡性預金)やユーロ円TIBOR(銀行間取引金利)といったターム物短期金利も低下した(3)(第1-1-10(1)図)。

長期金利は98年秋以降急速に上昇し、99年2月に2%台半ばでピークを打った後、5月中旬に向けて低下した。この長期金利上昇のきっかけとして、99年度予算での30兆円を超える新発債の発行等の情報が国債市場を動揺させたとの見方が強いが、金融当局においてはゼロ金利政策の実施、財政当局においては国債の年限別発行額の振替え等といった施策が採られた結果、市場は急速に沈静化した。5月に1.2%台を付けた後は、補正予算に伴う国債大量発行懸念や景気回復期待の高まりを背景に再度上昇し、8月末には1.9%台後半まで上昇したが、その後やや低下し、2000年6月に至るまで1.6~1.8%台の狭いレンジ内で安定的に推移している(第1-1-10(2)図)。

(貸出動向とマネーサプライの推移)

金融機関の貸出は依然として低迷している。5業態(都銀、長信銀、信託、地銀、第二地銀)の総貸出平均残高対前年比の推移(第1-1-10(3)図)を見ると、97年末から低下傾向が続くなかで、99年4月以降8月まで5か月連続して減少幅を拡大した。以後、公的資本注入を受けた金融機関による経営健全化計画達成のための貸出積上げ行動が一時的に貸出を押し上げる局面も見られたが、基調として貸出は低い水準で推移している。こうした貸出の低迷は、基本的には、後述(4)のように資金需要の弱さを背景としたものであると考えられる。

一方、M2+CDの対前年同月比の推移(前出第1-1-10(3)図)を見ると、98年には、金融システムの安定性に対する懸念から企業が手元流動性を確保する動きを反映して、比較的高い伸び率で推移した後、年末にかけて金融システムの安定性に対する懸念が沈静化するとともにその伸びを低下させた。99年は引き続き金融機関による貸出が低迷する一方、公共事業関連支出等の財政要因がマネー拡大方向に作用するなかで、3月以降6月まで伸率を拡大させた後、経営健全化計画達成のための貸出積上げの動きを反映して一時的に増加圧力の高まった局面を除いて、伸び率が低下している。その内訳を見ると、99年4月以降、定期性預金と普通預金の金利差縮小を受けて企業を中心に前者から後者への資金シフトが生じたことなどを背景に、準通貨+CDは低下、預金通貨は上昇している(但し、足元では預金通貨も伸び幅を縮小している。)。

また、マーシャルのK((M2+CD)/名目GDP)の推移(第1-1-10(4)図)を見ると、97年末にはバブル期の最高水準に並び、以後上昇を続けて最高値を更新した。また、信用乗数((M2+CD)/マネタリーベース)の推移(前出第1-1-10(4)図)を見ると、バブル経済崩壊以降低下を続けている。これらの指標の動きについては、実体経済が依然弱含みで推移するなか、日本銀行がゼロ金利政策によって潤沢な資金供給を継続しているものの、それが金融機関の貸出経路を通じて実体経済に波及する動きが弱いことを示唆しているとの指摘もある。しかしながら、一方で、ゼロ金利政策が金融市場(金利、株式、為替)を安定させ、あるいは金融機関の流動性懸念を払拭することにより、実体経済の下支えに一定の役割を果たしていることも評価する必要があろう。

(上昇後不安定な動きがみられる株価)

株式市場の動き(第1-1-10(5)図)を見ると、我が国の景気回復期待や米国株式市況の好調等を背景に、上昇基調で推移してきたが、2000年4月半ばから5月にかけて弱含んだ。99年初に1万3,000円台で推移していた日経平均株価は、ゼロ金利政策の発動及びその影響を受けた円安傾向等を背景に、99年2月以降大幅に上昇した。以後、米国株式市況の低迷や急激な円高により一時的に下落する局面もあったが、外人投資家の購入や個人の信用買い等を背景に(第1-1-10(6)図)、基調としては上昇を続け、2000年4月12日には96年12月以来の水準である2万833円にまで達した。しかしながら、4月17日には、ナスダックを中心とする米国株式相場の大幅な下落等を受けて株価は大幅に下落した。その際、日経平均株価は、大幅に下落した後、依然低迷を続けたが、これを東証株価指数(TOPIX)で見ると、大幅に下落した後、1週間で下落前の水準を回復し、以後堅調に推移する局面があった。その後5月に入ってからは、米国株価の調整を背景に東証株価指数(TOPIX)及び日経平均株価は共に再度下落を続け、月末はそれぞれ1,500ポイント台、1万6,000円台で推移した。

業種別株価指数の推移(第1-1-10(7)図)を見ると、99年後半以降の特徴として、情報通信関連産業やハイテク産業といった新産業分野の株価が上昇する一方、従来型産業分野の株価は低迷を続ける、いわゆる「二極化相場」と呼ばれる格差が生じていることが指摘できる。ただし、新産業分野の株価は期待によって押し上げられている部分が大きいとの指摘もあり、事実、下落局面では従来型産業分野の株価には大きな変化が見られないのに対して、新産業分野の株価は大きく下落するといった動きを見せている。

前述のとおり、4月後半の株式相場では、東証株価指数(TOPIX)と日経平均株価とが異なる動きを見せたが、こうした各株価指標動向の乖離には技術的な要因が大きく寄与していると考えられる。すなわち、①株価下落直前に公表された日経平均株価の銘柄入替が除外銘柄・継続採用銘柄(5)の売りと新規採用銘柄の買いを誘い、②結果として新規採用銘柄が上昇期待による高値を付けた時点でバスケットの入替が行われたため(6)、以後、その要因が剥落することによって新規採用銘柄が売られたことから、現行の日経平均株価は大きく下方シフトすることになったと考えられる。

こうした技術的な要因を除去するために、幾つかの仮定を置いて過去の日経平均株価との整合性を考慮した2通りのバスケットの平均株価を計算した(第1-1-10(8)図)。まず、①銘柄入替前の日経平均株価のバスケットで推移した場合の平均株価は、現行の日経平均株価と比較して2,000円程度高い水準で推移している。また、②銘柄入替後の日経平均株価のバスケットで4月14日時点の日経平均株価に接続した場合の平均株価は、現行の日経平均株価と比較して3,000円程度高い水準で推移している。

これらのバスケットによる平均株価の動きは、現行の日経平均株価の水準と過去の水準との間に一種の断絶が生じていることを示している。こうした断絶が日経平均株価に与える効果は、新規に調整措置が採られない限り永続するものと考えられ、今後、株価水準を時系列的に評価する際には、東証株価指数(TOPIX)の動きに一層着目する必要があると考えられる。

(不良債権残高と処理状況)

大手銀行16行(7)のリスク債権残高は、97年度末の18.9兆円から98年度末には20.2兆円に増加した後、99年度末には17.2兆円(速報値(8))に減少している。92年度以降、99年度までの直接償却額累計と貸倒引当金残高の合計は、45兆円を超えた(第1-1-10(9)図)。また、地方銀行及び第二地方銀行(以下地域銀行)のリスク管理債権残高は、97年度末の7.4兆円から99年度末には10.6 兆円(9)に増加し、95年度以降、98年度までの直接償却額累計と貸倒引当金残高の合計では10兆円近くに達している(第1-1-10(10)図)。このように、リスク管理債権残高は、大手銀行では99年度末に減少に転じた一方、地域銀行では増加している。

大手銀行16行の99年度決算短信をみると、不良債権処理額は4兆4,946億円となり、公的資本増強が実施された98年度の10兆4,485億円と比較すると減少したものの、当初計画時の1兆4,910億円と比較すると大幅に増加した。この処理額の増加は、金融業界再編の動きが強まるなかで各銀行が不良債権処理を積極的に行ったこと、融資先の財務内容の悪化、地価の下落等が要因と考えられる。

(不良債権の開示等を通じたリスク債権の管理強化)

不良債権の開示範囲は、92年度以降順次拡大され、97年度には3ヵ月以上延滞債権額、貸出条件緩和債権額を開示項目に加え、従来の破綻先債権額、延滞債権額と合わせた計4項目を「リスク管理債権情報」として全国銀行が開示することで、米国SEC基準と同様の開示内容となった。98年度にはリスク管理債権について破綻先債権、延滞債権の計上基準が変更(10)され、同時に、金融再生法に基づく不良債権額の開示が大手銀行について実施されて、より広い概念の不良債権が公表されるようになった。

不良債権の開示が拡充される一方で、98年7月以降、各銀行に対して、金融監督庁、大蔵省財務局、日本銀行が集中検査・考査を実施したことや、99年7月には金融監督庁の金融検査マニュアルが作成、公表されたこと等により、自己査定の精度向上が図られた。同時に、同マニュアルにより不良債権の償却・引当に関する考え方がまとめらたことから、より適切な資産分類と不良債権の引当・償却処理が進んでいると考えられる。特に、公的資本増強を行う国際基準行に対しては、金融再生委員会より「資本増強に当たっての償却・引当についての考え方」が示されており、この基準に則った不良債権処理が実施されている。このように、95~96年の景気回復時に比べて、不良債権の状況は格段に透明性を増しているほか、その処理もより適正に進められていると考えられる。

(大手で改善した自己資本比率)

98年度末の自己資本比率をみると、都市銀行、長期信用銀行、信託銀行は、公的資本の注入もあって前年度よりも上昇して平均で12.2%となっており、自己資本比率規制の国際基準値である8%を4.2%上回っている。

一方、地方銀行、第二地方銀行では前年度に比べて低下しているほか、自己資本比率規制の基準値をどの程度上回っているか(11)をみると、地銀は3.8%、第二地銀は2.5%と、規模の小さい業態になるほど小幅なものとなっている。

(不良債権問題の進捗状況)

今後の景気や資産価格の動向によっては、不良債権が増加(12)する可能性はあるが、大手行に関しては①累積で45兆円を超える処理が行われてきたこと、②金融界再編の動きが強まるなかで、金融検査マニュアルも念頭に処理に取り組んだとみられること、③公的資本注入もあって自己資本比率にも余裕がありこの面から金融収縮を招く恐れが後退していること、などから不良債権問題はほぼ峠を越えたものと考えられる。

もっとも、地域銀行の一部や、地域銀行より規模の小さい業態(13)のなかには、相対的に自己資本比率の低い金融機関が見られ、こうした金融機関の貸出行動が抑制的になるリスクについては引き続き注視が必要と考えられる。

(金融システム不安と政策的対応)

バブル崩壊後、我が国経済が長期にわたる停滞を経験するなかで、我が国金融システムに対する信認も大きく揺らぐこととなった。その背景には、景気の減速や不良債権問題といった要因があったが、特に97年秋以降は、中堅証券会社の破綻によって、コール市場で戦後初のデフォルトが発生した。これ以降、金融市場における選別志向が強まり、市場金利の上昇や株価の下落など、金融システムに大きな動揺がみられた(第1-1-10(11)図)。こうした状況の下で、戦後初の大手証券会社・銀行の破綻が発生し、一部主要銀行の経営不安も取り沙汰された。その結果、金融システム不安は金融市場のみならず実物経済にも激しい調整をもたらすこととなった。特に銀行貸出については、貸出平残対前年同月比が98年3月以降主要行を中心に急速に低下して、これが企業の設備投資等の制約要因となった。その後、資金需要の低迷等もあり、99年8月には全国銀行ベースで▲6.5%まで低下するなど、銀行貸出は著しく減少した(第1-1-10(12)図)。こうしたいわゆる「貸し渋り」問題を説明する指標として、日銀短観の金融機関の貸出態度判断DIをみると、金融緩和期にもかかわらず、97年の12月調査以降中小企業を中心に急激に低下したことがみてとれる(第1-1-10(13)図)。また、マネーサプライをみると、97年末以降M2+CDが一時的に急増した。これは、一般事業法人が金融機関からの資金調達に懸念を持ったため、社債の前倒し発行等によって、手元流動性を積み増したものと考えられる(第1-1-10(14)図)。

こうした事態に対処するため、政府は各般の金融安定化策を講じてきた。98年8月に閣議決定された「中小企業等貸し渋り対策大綱」に基づき同年10月1日には中小企業金融安定化特別保証制度(保証枠20兆円)を創設し、中小企業の資金調達の円滑化を図った。さらに同年10月12日には金融再生法を、また10月16日には金融機能早期健全化法を成立させて、健全性確保が困難な金融機関の破綻処理を円滑化するための制度を整備するとともに、資本の状況に懸念のある金融機関等に対する公的資本増強のために必要な枠組みに対する資金など、金融システムの安定化のために60兆円(14)を財政措置した。本法律の成立を受けて、二つの長期信用銀行を対象とする特別公的管理の実施や99年3月の15行に対する公的資本増強(総額7.5兆円)など、金融システム安定化のための様々な措置を講じた。

(マクロショックによるエージェンシー・コストの発生)

こうした諸施策が実態経済に与える影響について考えてみよう。一般に、銀行と借り手の間には情報の非対称性が存在するため、銀行は融資に際して借り手の状況に応じたエージェンシー・コストを課すことになる。すなわち、保有金融・不動産資産、信用度等を重視して貸出金利が決定される際には、景気低迷を背景として、資産価格の下落によって借り手の資産価値が著しく毀損されたり、借り手の信用度が大きく低下すると、エージェンシー・コストが高まり、借り手が受け入れられない金利が提示されること等を通じて、貸出の低迷(Credit Crunch)がもたらされることとなる(15)。

貸出残高を貸出金利と貸し手の資本金で回帰することで全国銀行の貸出供給関数を導出し、エージェンシー・コストの変化を、金利と貸し手の資本状況で説明できない貸出の増減として推計してみると、97年度に貸出供給曲線は下方にシフトし、98年度に入って一層下方にシフトしたことが分かる(第1-1-10(15)表)。以上の結果は、両年度においてエージェンシー%コストが貸出制約要因として働いた可能性を示唆している。また、地域銀行においてこの要因の影響が大きかった可能性が推察される(16)。これは、今回の不況において、中小企業の業況が大・中堅企業と比べてより厳しかったことから、中小企業向け貸出の割合が相対的に高い地域銀行(17)にとって、エージェンシー%コストの増加幅が大きかったものと考えられる。

こうした問題への一つの政策的対応として、借り手に対する借入補助や信用保証の付与といった「債務者救済策(debtor bailout)」により直接的に借り手の資産価値を高め、エージェンシー・コストを引き下げることが考えられる。

98年10月に特別保証制度が導入された後も中小企業向け貸出は減少しているが、導入されなければ更なる貸出の減少がみられたと考えられる。また、同制度の導入が中小企業向け貸出にもたらした効果を個別行ベースで検証することはできないが、銀行の貸出残高を業態別に見ると、その効果が少なくとも部分的に顕在化していることが分かる(前出第1-1-10(12)図)。中小企業向け貸出の多い第二地方銀行や信用金庫の貸出動向を見ると、同制度が導入された98年10月を境に貸出が回復する局面(18)もあった。

(金融機関の貸出制約要因)

次に、貸し手側の事情を考えてみよう。金融機関が十分な融資活動を行うためには、健全なリスク評価能力と十分なリスク許容力の二つが必要である。まず最初に、リスク評価能力について考えると、金融機関のリスク評価能力が高い場合には、たとえ信用リスクの高い先であっても、それに見合った利鞘を確保することによって収益を確保できる。しかし、不良債権処理に経営資源を奪われリスク評価能力を維持することが不十分な金融機関もあったことから、相対的に信用度が低く、担保資産にも乏しいと考えられる貸出先への貸出に消極的となったと考えられる。

不動産等抵当貸付と保証貸付の合計額の貸付全体に占める割合をみると(第1-1-10(16)図)、90年代を通じてバブル生成期の水準が続いており、回収可能性の評価がこうした要因を重視したままであることをうかがわせる。また、「国内銀行勘定利率別貸出残高」を利用して利鞘の分布状況をみる(第1-1-10(17)図)と、95年以降、短プラ近傍での金利で約定されている貸出が貸出全体に占める割合は低下していない。こうした結果を見る限り、貸出金利が貸出先の信用リスクに応じて多様化しつつあるとは言いがたい。

また、通産省の行ったアンケート調査の結果によると、「貸し渋り」の形態について、中堅・大企業の場合は「金利の引上げ」が最も多いのに対して、中小企業の場合には「希望額の借入困難化」が最も多く、「金利の引上げ」は最も少ないとの結果が示されており(第1-1-10(18)図)、中小企業向け貸出が量的に制約されたことが分かる。

一方、金融機関のリスク許容力が低下したことも、貸出の縮小の大きな要因であったと考えられる。不良債権が増加した中で、株価下落等のために含み益が減少することによって、金融機関の実質的な自己資本が縮小したことが、貸出姿勢を消極化させた。この点に関しては、公的な資本注入が大きな役割を果たした。保有資産価値の低下した金融機関が金融市場において資金供給者から課されていた高いエージェンシー・コスト(例:ジャパンプレミアム)も、公的資本注入によって解消されたと考えられる。

実際に、ジャパンプレミアムの推移を見ると、98年10月には60ベーシスポイント(19)台まで上昇したが、金融再生法・早期健全化法等の成立(10月)及び15行による公的資本注入申請の承認(99年3月)等を通じて市場に安心感がもたらされたことから、99年3月には解消した。また、公的資本の注入は対象行の財務状況を改善し、自己資本比率の上昇を通じて広く市場に安心感を与え、銀行等の株価の上昇に大きく貢献した。(前出第1-1-10(11)図

このように、諸施策が金融システムの安定に貢献してきたが、99年度に入ってからも総体として貸出は停滞している。(前出第1-1-10(12)図)。

(低迷する資金需要と中小企業向け貸出の推移)

貸出を決定するもう一方の要因である借入需要はどのように推移しているのであろうか。企業の資金繰りには一時期の逼迫感は見られなくなっている(前出第1-1-10(13)図)。また、企業の資金調達方法の推移を見ると、企業は低迷する資金需要の変化に主として内部調達資金で対応しており、借入金はできる限り圧縮しようとする傾向が見て取れる(第1-1-10(19)図)。したがって、近年の銀行貸出の低迷の主な理由は資金需要の低迷であると考えられる。

ただし、企業規模別に資金の偏在がみられることも事実である。例えば、日銀短観の金融機関貸出態度判断DIを企業規模別にみると、99年第3月調査以降全ての企業規模で緩和しているが、過去のパターンとは異なり、大企業の回復スピードは速く、大企業・中堅企業が9月調査以降「緩い」超に転じる一方で、中小企業は依然「厳しい」超の状態にある(前出第1-1-10(13)図)。また、業種別貸出金(主要業種)における中小企業向け貸出の推移の内訳をみると、ほぼ全ての業態の貸出全体に占める中小企業向け貸出の割合は、97年第4四半期以降その低下傾向を強めていることが分かる(第1-1-10(20)図)。

このように融資先規模によって銀行の貸出姿勢に温度差があることは、前述のエージェンシー・コスト要因や金融機関のリスク評価能力の問題が依然残っている可能性を示唆していると思われる。

(貸出圧縮要因への政策対応)

貸出が増加していくためには、景気が本格的に回復していくことが重要である。これに加えて、経営状態が悪いわけではないが担保資産に乏しい企業のリスクを適切に評価するようなインセンティブを与えることによって、金融機関の自主的なリスク管理能力が向上し、リスクに見合った利鞘を取りつつ貸出を増やしていくことも重要であろう。

そのためには、例えば、BISの自己資本比率規制に際して、十分なリスク管理能力を有する金融機関については、そのリスク評価に基づいた自己資本比率を用いることが望ましい。金融機関検査に際しては、99年7月に発表された金融検査マニュアルに基づいて既に実施されているとおり、直接的な資産査定だけでなく、金融機関のリスク管理体制やリスク管理担当者の能力評価等を重視していくことが必要である(20)。また、貸出債権の流動化が活発でなかったことも、貸出低迷の一因であったと考えられる。貸出の中でも住宅ローンや大企業向け貸出債権など、客観的にリスク評価の行いやすいものについては流動化の余地が大きく、金融機関が積極的に貸出債権の流動化を行い、流通市場が厚みを増していけば、金融機関は保有資産のリスクの再構成を行いやすくなる。98年9月に「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律(SPC法)」をはじめとする一連の流動化関連法が施行され、さらに2000年5月にはSPC法が「資産の流動化に関する法律」に改正され、流動化に関する法制が整備されたことから、今後、本法律に基づき、貸出債権の流通市場が着実に成長していくことが望まれる。

11. 今回の回復局面の特徴

今回の回復局面の特徴として、3点を指摘できる。

第一は、急速な落ち込みから公共投資など政策効果で下げ止まり、アジア経済の回復やアメリカ経済の好調による輸出増にも支えられて改善が続いてきたことである。

第二は、リストラクチャリングの進む中での回復であることである。企業収益は改善し、設備投資にも持ち直しがみられるところまで達した。しかし一部では収益の改善の割には設備投資に慎重で、債務の返済が優先されている。金利が上昇すれば、経済情勢により、こうした動きがさらに強まる可能性もある。また、人件費を含めたコスト削減努力を背景に雇用者数は減少を続けており、賃金も調整は進んだが上昇に転ずる力は弱いものとなっており、これが所得及び消費の回復が遅れる要因となっている。

第三に、新技術要因の影響を受けた回復であることである。設備過剰感がある中で、鉱工業生産や設備投資はIT関連産業を中心に増加している。アジア向けを中心に輸出にもIT関連品目が寄与している。株価市場においてもハイテク関連銘柄が株価を牽引する動きもみられた。

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