第1章 第1節 世界経済の現況
第1章 世界経済の現況 | 第2章 知識・技能の向上と労働市場 | |||||||
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概観 | アメリカ | 欧州 | アジア | 金融・商品 | IT | アメリカ | 欧州 | アジア |
第1章 世界経済の現況
<第1章のポイント>
[世界経済の概観]
世界経済は、原油価格の上昇やユーロ安といった不安定要因を抱えてはいるものの、アジア通貨・金融危機(97年7月)の影響を受けた98年に比べて良好な状態が続いている。
[南北アメリカ]
アメリカ経済は、2000年4月に景気拡大局面が10年目に入った。高い経済成長が続く中で物価の安定が続いているが、労働需給のひっ迫に加えて原油価格の高騰など、インフレ懸念は依然として残っている。
中南米では、メキシコは好調なアメリカ経済と堅調な内需により景気拡大を続け、ブラジルも予想以上の景気回復をみせた。
[ヨーロッパ]
ユーロ圏では、99年夏以降、世界経済の好転とユーロ安が要因となって輸出が拡大し、固定投資や個人消費が増加しており、景気は拡大している。
ロシアでは、原油価格上昇を背景に輸出が回復したことにより景気が拡大している。
[アジア]
東アジア経済は、世界的なIT関連機器に対する需要を背景とした輸出の大幅な増加や個人消費の増加によりアジア通貨・金融危機後の急回復から持続的な成長へと移行しつつある。
[国際金融・商品]
グローバル・マネーフローの動きをみると、欧州からアメリカへのマネーフローが金額的にも大きく、欧米間の景況格差、欧州での構造改革の遅れなどを背景として、ユーロ安をもたらした。
原油価格は、OPECの減産合意が比較的遵守されるなかで需要が回復に向かったことなどにより高値で推移している。
本章では、第1節で世界経済の現況を概観した後、第2節では景気拡大局面が10年目に入ったアメリカ、99年の景気減速から回復傾向にある中南米など、南北アメリカの経済動向をみる。次に、第3節で景気が拡大しているヨーロッパ、ロシアの経済動向をみる。また、第4節では、アジア通貨・金融危機後の急回復から持続的成長へと移行しつつあるアジア・大洋州の経済動向をみる。第5節で国際金融・商品の動向を概観し、最後に第6節で世界的なITの普及について考察する。
各国経済の動向に加えて、アメリカではソフトランディング実現の障害となり得るインフレリスクについて、ヨーロッパではユーロ減価の要因とユーロ導入後2年目の課題を考察し、アジアでは、東アジアの持続的成長への道筋について検討する。
第1節 世界経済の概観
1 良好な状態が続く世界経済
世界経済は、原油価格の上昇やユーロ安といった不安定要因を抱えてはいるものの、アジア通貨・金融危機(97年7月)の影響を受けた98年に比べて良好な状態が続いている(第1-1-1表)。アメリカではインフレ懸念は残るものの長期にわたる景気拡大が続き、西ヨーロッパをみると、ユーロ圏では、99年夏以降、世界経済の好転とユーロ安が要因となって輸出が拡大し、固定投資や個人消費が増加しており、景気は拡大している。東アジアでは、世界的なIT関連機器に対する需要と内需拡大に支えられて、アジア通貨・金融危機後の急回復から持続的成長へと移行しつつある。中南米や中東欧、ロシアでは、98年のロシア危機や99年初のブラジルの通貨切下げによる影響を早期に終息させ、景気は総じて拡大している。
このような各地域の良好な状態を反映して、世界の実質GDP成長率(IMF統計による)は、98年の前年比2.6%の後、99年には同3.4%と加速した。IMFの見通しによると2000年の世界全体の実質GDP成長率は前年比4.7%と88年(同4.7%)以来の高い成長が見込まれている(1)。
(先進国:多くの国で景気拡大が続く)
アメリカ経済は、2000年4月に景気拡大局面が10年目に入った。99年末には長期的な投資ブームに加え、耐久財を中心に個人消費が非常に好調であった。2000年に入ってからも需要は力強く拡大し、労働需給のひっ迫が続く中でインフレ懸念が高まった。2000年半ばにかけて一部に減速がみられ始めたが、労働市場のひっ迫が続いており、インフレ懸念は払拭されたわけではない。
西ヨーロッパをみると、ユーロ圏では、99年夏以降、世界経済の好転とユーロ安が要因となって輸出が拡大し、固定投資や個人消費が増加しており、景気は拡大している。単一通貨ユーロは、99年の発足当初の期待感が静まってからは欧米間の景況格差を要因のひとつとして変動してきたが、2000年7月下旬以降急激に減価している。ユーロ減価の構造的な要因のひとつとして、ユーロ圏からアメリカへの資金流出が続いていることが指摘されている。
その他の先進国をみると、カナダでは、95年以降の低金利政策が功を奏し、個人消費や民間投資などの内需を中心に97年以降拡大している。オーストラリアでは、9年目の景気拡大が続いており、失業率が10年来の最低水準で推移する中で、インフレ懸念から金融は引き締められている。
(途上国:東アジアの急回復)
東アジア経済は、99年には電気・電子機器等を中心とする輸出の大幅な増加と内需拡大に支えられて、アジア通貨・金融危機後の急回復から持続的成長へと移行しつつある。99年に入って拡がってきた内需拡大の動きを持続的な成長につなげるためには、金融部門を始めとする構造改革を着実に進める必要がある。
中南米では、99年におけるブラジル通貨切下げによる影響が懸念されたが、メキシコでは好調なアメリカ経済と堅調な内需によって景気拡大が続き、ブラジルも予想以上の景気回復をみせた。
(市場経済移行国:中・東ヨーロッパ、ロシアの景気拡大)
中・東ヨーロッパでは、コソボ紛争やロシア経済危機の影響が薄れつつあるなか、好調なEU経済とロシア通貨危機後の通貨安により輸出が増加し、景気は拡大している。ロシアでは、98年8月のルーブル切下げによる輸入代替効果の進展がみられたことや、主要輸出品目である原油価格の上昇を背景に輸出が回復し、景気は拡大している。
2 世界貿易・国際金融・国際商品の動向
(世界貿易:好調な世界経済を受けて貿易数量は増加)
世界の財・サービスの貿易数量は98年の前年比4.3%から99年は同5.1%と増加しており、IMFの見通しでは、2000年には同10.0%と3年振りに高い伸び率が見込まれている。
99年の世界貿易の特徴としては、以下の3つを挙げることができる(第1-1-2、3図)。
第1は、アメリカの内需を中心とした力強い景気拡大によって輸入が増加したことである。99年の世界全体の輸入の伸び(金額ベース:前年比2.2%)に対するアメリカの輸入額の寄与度は1.9%となっており、アメリカ経済が世界貿易のけん引役を果たしているといえる。
第2は、世界的なIT関連機器への需要の高まりとアジアからの輸出の回復である。アジアは世界的な電気・電子機器の供給拠点となっており、IT関連機器への需要の高まりは、アジア通貨・金融危機からの急回復をもたらす要因となった。日本貿易振興会が主要26か国・地域の通関統計により推計した96~99年のIT関連貿易額の伸び率は年平均6.3%と世界貿易(輸入ベース)の伸び率(同2.4%)を大きく上回っている(2)。
第3は、原油価格の上昇により産油国の輸出額が増加したことである。中東地域の財輸出は、アジア通貨・金融危機の影響による一次産品価格低下の影響を受けて98年には前年比▲21.1%と大幅に減少したが、世界経済の回復に伴う原油需要の増加やOPEC加盟国による減産遵守の影響を受けて同12.4%と増加している。
(国際金融・国際商品)
米ドル(実効相場)は、99年7月以降は対円で大きく減価したことなどから減価基調となっていたが,99年末頃からは、米株式市場(特にナスダック市場)の活況を背景に増価基調に転じた。近年のグローバル・マネーフローの動きをみると、欧州や日本などからの余剰資金がアメリカに流入し、アメリカの貯蓄不足をファイナンスした上で、各地域に再分配されるという構図が続いてきた。特に、欧州からアメリカへのマネーフローが金額的にも大きく、欧米間の景況格差、欧州での構造改革の遅れなどを背景として、ユーロ安をもたらした。
アメリカの長期金利は、利上げによるインフレ抑制期待と財政収支黒字を背景とした国債の満期前買戻しの進展から低下しており、2000年3月末以降は長短金利が逆転している。
欧米の株式市場では、各国の代表的株価指数は99年末から2000年3月にかけて史上最高値を更新した後、一進一退となったが、9月以降は下落傾向で推移している。
国際商品では、原油価格(北海ブレント・スポット価格)は、アジア地域からの需要が減退したこと等により98年末には10ドル/バーレルを下回る水準まで落ち込んでいたが、99年3月の第107回OPEC総会で合意された減産合意事項が比較的遵守されるなかで需要が回復に向かったことにより原油価格は上昇を続け、2000年10月現在では、30ドル/バーレル前後の高値で推移している。原油価格の上昇が世界経済に与える影響は以前に比べて小さくなっているとはいえ、物価上昇率を高め、景気にマイナスの影響を与えることから注視していく必要がある。
脚注
- 1 IMF"World Economic Outlook",2000年9月
- 2 日本貿易振興会「2000年版ジェトロ貿易白書」
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