第1章 第4節 景気が拡大するアジア・大洋州
第1章 世界経済の現況 | 第2章 知識・技能の向上と労働市場 | |||||||
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第1節 | 第2節 | 第3節 | 第4節 | 第5節 | 第6節 | 第1節 | 第2節 | 第3節 |
概観 | アメリカ | 欧州 | アジア | 金融・商品 | IT | アメリカ | 欧州 | アジア |
第4節 景気が拡大するアジア・大洋州
1 アジア:危機後の急回復から持続的成長への局面に入る東アジア
東アジアの経済は、97年夏に始まった通貨・金融危機の影響を大きく受け景気後退に陥ったが、99年には世界的なIT関連機器に対する需要を背景とした電気・電子機器等を中心とする輸出の大幅な増加や個人消費の増加により景気は急回復した。2000年には引き続き輸出の増加とともに国内民間需要の増加も見込まれるなど、危機後の急回復から持続的成長へと移行しつつある。最近の石油価格の高騰は価格水準からみて、東アジアの経済にそれほど深刻な影響を及ぼすものとは考えにくいが、その影響には注視が必要である。危機後の急回復から石油需要が増大しており、輸入に占める原油の比率が高いことから、物価上昇や貿易収支の悪化等を通じた国内経済への影響は、先進国経済と比べて大きいと考えられるからである。
東アジア各国・地域の実質GDP成長率は99年に入ってプラスに転じ、2000年4~6月期の実質GDP成長率(前年同期比)も、1~3月期に続き多くの国・地域で大幅なプラスとなっている。
通貨・金融危機後、大幅に落ち込んでいた鉱工業生産は、拡張的な財政・金融政策の効果や、輸出数量の増加等による在庫調整の進展等を背景に、98年末から99年にかけて前年同期比でプラスに転じ、その後も香港を除き大幅な増加が続いている。
個人消費の回復とともに、生産の高い伸びから、一部の国を除いて設備投資も回復するなど内需拡大に拡がりがみられる。物価上昇率は98年後半から低下していたが、一部の国でエネルギー価格の上昇を受けて、消費者物価上昇率にやや高まりがみられる(第1-4-1表)。雇用情勢は依然として厳しいが、生産の増加等を反映して、失業率は総じて低下している。
貿易動向(ドル換算)をみると、輸出は98年初から総じて減少が続いていたが、99年の中ごろから一部の国を除き世界的なIT関連機器に対する需要を背景とした電気・電子機器等を中心とする輸出が増加に転じ、99年後半から大幅な増加が続いている。98年に大幅に減少した輸入も一部の国を除き99年の中ごろから増加に転じ、2000年に入り大幅な増加が続いている(第1-4-2図)。
各国の通貨は2000年に入り、韓国、台湾などでは増価基調で推移しているものの、インドネシア、タイ、フィリピンでは不安定に推移している。また、シンガポールでもこれら3通貨につられて減価している。短期金利は多くの国で通貨危機前の水準よりも低下している。株価は99年3月頃から上昇基調を強め、通貨危機前の水準まで回復したが、2000年に入りアジアNIEsでは、6月に一時、持ち直しの動きがみられたのを除き、4月以降総じて下落基調で推移している。ASEAN4か国では4月以降下落基調で推移している。
このように東アジア経済は危機後の急回復から持続的成長へと移行しつつあり、中国も景気の拡大テンポはやや高まっている。中国では、物価は98年4月以降、消費者物価の下落が続いていたが、2000年の中ごろから上昇に転じている。貿易は輸出入ともに大幅な増加が続いている。
(景気の回復力の格差も縮まる)
以上のように東アジア経済は輸出の大幅な増加や個人消費の増加により景気は急回復したが、この急回復時には各国・各地域間の回復のテンポに格差がみられた。こうした回復のテンポの違いの背景には、基本的にはショックに対する調整速度の差、産業高度化の差といった経済構造の違いがあると考えられる。
しかし、このところ成長率で見る限り格差は縮まっている。先にみたように、通貨・金融危機により大きな打撃を受けた5か国(韓国、インドネシア、タイ、マレイシア、フィリピン)のうち、各国・地域の実質GDP成長率は、韓国、フィリピン、タイでは99年1~3月期にプラス成長に転じ、4~6月期はインドネシア、マレイシアがこれに続いた。99年の実質GDP成長率をみると、韓国が前年比10.7%と最も高く、マレイシア(同5.4%)、タイ(同4.2%)、フィリピン(同3.2%)と続いている。インドネシアは政情不安の影響や世界的なIT関連需要の拡大から受ける恩恵が小さかったため前年比0.2%と低成長であった(第1-4-3図)。
これらの国の実質GDPの水準が通貨・金融危機前の97年4~6月期の水準を上回った時期を見る、韓国とフィリピンは98年10~12月期であり、マレイシアは99年7~10月期、タイは99年10~12月期となっている。インドネシアはいまだに通貨・金融危機時の水準に達していない(第1-4-4図)。
台湾、シンガポールは、通貨・金融危機の影響が比較的軽微だったが、域内の景気後退が波及し、98年の実質GDP成長率はそれぞれ4.6%、0.4%となった後、99年にはともに5.4%と景気は回復している。香港は金利上昇による株価や不動産価格の下落等から内需の不振が続き、98年の実質GDPは前年比5.3%減とマイナス成長となったが、99年に同3.1%増と景気は回復している。
2000年に入ると実質GDP成長率は韓国では4~6月期前年同期比9.6%と危機後の高い成長率による急回復に比べれば減速している。台湾は同5.4%と景気の拡大のテンポはやや鈍化している。シンガポールでは同8.6%と景気は拡大している。香港でも1~3月期同14.3%、4~6月期同10.8%と景気は回復している。一方、NIEsと比較して回復の出足が遅かったASEAN諸国の中でタイの4~6月期の実質GDP成長率は前年同期比6.6%となり、インドネシアの4~6月期も同4.1%と景気は回復している。マレイシア、フィリピンも4~6月期でそれぞれ同8.7%、4.5%となり景気は拡大している。このように急回復時に各国・各地域間でみられた回復のテンポの格差も最近では徐々に縮まっている。
(急回復から持続的成長への道筋)
東アジア諸国では当初の急速な回復を支えてきたのは、外需と公的需要だった。外需については、アメリカ経済が拡大を続けたこと、半導体やパーソナル・コンピュータ等の需要が回復したこと、円高等により日本への輸出が増加し始めたこと等から、99年に入って電気・電子機器等の輸出が回復し始め、輸出産業を中心に生産が拡大していった。このように東アジア諸国は世界的な電気・電子機器の供給拠点となっており、IT関連機器に対する需要の高まりが急回復をもたらす要因となった。2000年半ばにかけて、アメリカ経済の一部に減速がみられるが、これまでのところアジアの輸出増加に与える影響は限られたものとなっている。
公的需要については、98年に入り消費や投資の落ち込みが深刻なものとなり、雇用情勢も悪化したこと等から、98年半ば頃から財政支出の拡大、金融緩和などの景気刺激策へと政策が転換された。各国政府は公共投資の拡大、減税、公共料金の引下げ、失業対策等により景気を下支えした。こうした、輸出や公的支出等に主導された成長パターンから本格的な景気回復のためには民間設備投資や個人消費等の国内民間需要に主導された回復にシフトしていくことが必要であった。
個人消費の回復については、失業率が危機前の水準に比べれば依然として厳しいが、生産活動が上向きになるにつれて、上昇傾向が止まり、韓国、台湾等では四半期ベースでみて低下傾向にあることが個人消費の増加に寄与しているとみられる。東アジア各国においては在庫調整は99年の初めには終了し、在庫品も積み増しの局面に入ったと考えられる。金融緩和に転じた98年後半以降は、貸し渋りが生じている可能性も少なく、各国とも実質貸出金利は緩やかに低下していることから設備投資は一部の国を除いて上向いており、生産の増加傾向は持続している(第1-4-5図)。
拡がりをみせる内需拡大の動きを持続的成長につなげるためには、現在行われている金融部門をはじめとする構造改革を着実に進展させる必要がある。各国が通貨・金融危機に対応して実施している構造改革は、構造問題の違いを反映して内容や重点の置き方に差はあるが、主に(1)不良債権問題の処理、金融仲介機能の回復、直接金融市場の整備等の金融部門の再構築、(2)企業債務再編のための措置、企業のガバナンス構造の改革等の企業部門の改革、(3)関税の引下げ・撤廃、輸入量・輸出量規制の緩和等のより開かれた市場への転換、(4)弱者に配慮するための社会政策等のセイフティーネットの整備等が挙げられる。
このなかで不良債権処理の進捗状況については、通貨・金融危機以前の各国の金融制度は概してぜい弱であったが、その弱点や経済情勢の違いを反映して、不良債権の発生状況や程度、解決のテンポも国によってかなり異なる。各国の金融政策当局は、金融システムの再構築を最重要課題ととらえ、規制強化や構造改革に向けた法整備等を行った。不良債権を処理する方法については、韓国、マレイシア、インドネシアでは公的資金の活用による処理を積極的に進めているが、タイとフィリピンでは主として金融機関の自主性にゆだねている。
各国中央銀行やIMF等のデータから公的負担額を試算すると、公的負担の割合が高い韓国(1)、マレイシア、インドネシアでは各々GDP比で19.2%、18.5%、69%となっている(第1-4-6表)。その結果、韓国、マレイシアでは不良債権の処理が進んでおり、不良債権の比率は次第に低下している。ただし、韓国では不良資産の評価方法が途中で変更され、厳格になったため2000年3月には不良債権の比率が増加したが、その後低下している。一方インドネシアは、不良債権の比率は次第に低下してきているが、不良債権比率の水準がきわめて高く深刻な状況であることに変わりはない。フィリピンでは不良債権比率は上昇したものの金融機関のバランスシートの傷は浅い上に、商業銀行の自己資本比率も高い。タイは不良債権の処理スピードは遅いものとなっており、不良債権の比率はさほど低下していない(第1-4-7表)。
適切な規制により不良債権の増大は未然に防ぐことができるとの考え方から各国では各種の規制等の整備に乗り出しているが、金融機関のバランスシートを改善させるため、各国の金融監督当局は共通して、(1)自己資本比率の規制、(2)保有債権分類の厳格化、(3)将来の損失に備えた適切な引当金の積み増し、を金融機関に求めている。 これにより、例えば、自己資本比率はBIS基準である8%以上に設定されている。債権の分類や引当金の基準は各国によって多少異なるが、おおむね国際基準に近いものになっている。
脚注
- 1 韓国の財政経済院は、最近になって公的資金の新規追加投入(40億ウォン)を決定しており、このことが韓国の公的負担を更に高める可能性がある。
(1)中国(香港を含む):デフレ傾向がやや緩和
中国経済は、93年以降7年連続で成長率が鈍化し、99年には物価の下落と消費の不振等からデフレ傾向が表面化した。中国政府は、成長鈍化に歯止めをかけるため国債増発により公共投資を拡大するなど、積極財政政策を続けている。2000年には西部大開発に本格的に着手し、景気浮揚と沿海部と内陸部の格差是正等を図っている。他方、WTO加盟を控え、国有企業改革や金融制度改革等の構造改革を一層進める必要に迫られている。
香港では、輸出の大幅な増加や観光客数の増加等により景気は回復している。消費もアジア通貨・金融危機前の水準に達していないものの増加しており、98年10~12月期から続いている物価の下落は、下落幅がようやく縮小し始めた。しかし、雇用情勢は依然として厳しく、不動産部門は停滞している。
(中国:公共投資と輸出増による景気拡大)
中国の実質GDP成長率は、97年8.8%、98年7.8%の後、99年7.1%と鈍化し続けた。中国政府は、景気の鈍化に歯止めをかけるため、98年、99年に続き2000年も国債発行により公共投資を拡大し、景気浮揚を図っており、実質GDP成長率は、1~3月期前年同期比8.1%、4~6月期同8.3%、7~9月期同8.2%と景気の拡大テンポはやや高まっている。政府の2000年経済成長率見通しである7%程度は達成するとみられる。
鉱工業生産の伸びも、97年11.1%、98年8.9%、99年8.5%と鈍化してきたが、世界的な情報技術関連製品の需要増を背景に電気・電子部品等の生産が堅調に推移し、2000年1~9月期前年同期比11.6%となった。
消費の動向を社会商品小売総額(消費財、実質)の伸びでみると、97年9.3%、98年9.7%、99年10.1%と高まっている。中国政府は消費の拡大を最重要課題の一つとしており、99年には利下げや預金利子課税導入を実施し、2000年5月には大型連休を導入するなど、消費刺激策を相次いで実施した。大型連休の導入により消費が刺激され、5月の消費財小売総額は前年同月比13.7%増と大幅に上昇した。
消費者物価は、98年4月以降下落が続き、99年4月には前年同月比▲2.2%と下落幅が最大となったが、2000年に入ると上昇傾向に転じ、1~9月期前年同期比0.2%と安定している。なお、サービス価格は大幅に上昇しているが、財の価格は食品を中心に依然として下落している。
国際収支をみると、94年以降黒字を続けている経常収支は、97年297億ドル、98年293億ドルの後、99年には貿易・サービス収支がともに大幅に悪化したことから157億ドルと前年を大きく下回った。輸出(ドル換算)は、99年半ば以降急速に回復し、2000年1~3月期前年同期比39.1%増、4~6月期同37.7%増、7~9月期同25.0%増と二桁の増加が続いている。他方、輸入も1~3月期前年同期比41.0%増、4~6月期同32.5%増、7~9月期同43.1%増と大幅に増加していることから、2000年は貿易収支黒字の拡大が見込まれるが、史上最高を記録した98年の436億ドルには達しないとみられる。外貨準備高は、98年末1,450億ドルの後、輸出回復により経常収支黒字が確保できたことに加え、外貨管理の強化がある程度功を奏したことなどから、97億ドル増の1,547億ドルとなった。2000年9月末は1,601億ドルとなっている。
金融情勢をみると、マネーサプライ(M2)増加率は99年末14.7%と目標圏内(14~15%)に収まった。2000年9月末は前年同月末比13.4%となっている(2000年の目標圏は14~15%)。人民銀行は、98年3月、7月、12月の預金・貸出金利の引下げに続き、個人消費の拡大等を狙い99年6月にも引下げを行った。1年物貸付金利は99年初めの6.39%から99年末には5.85%となり、2000年9月末現在も同水準となっている。また人民銀行は、デフレ傾向の緩和や消費・投資の刺激を目的として預金準備率を8%から6%に引き下げた(99年11月)。
(大幅な増加を続ける輸出)
中国の輸出は、99年前年比6.1%増と一桁の伸びにとどまったものの、輸出額1,950億ドルと過去最高を記録した。2000年に入ると前年同月比でみて20%以上の増加が続いており、このペースが続けば年間の輸出額が2,000億ドルを超えるのは確実とみられる。99年半ば以降の輸出の回復と大幅な増加の要因として、日本を含むアジア諸国の需要回復、増値税(付加価値税)還付率引上げ等の政策効果、世界的な情報技術関連製品の需要増、円高による輸出価格の相対的低下に伴う競争力回復等が挙げられる。以下、大幅な輸出増加の背景を項目別にみてみよう。
国・地域別輸出では、最大の輸出相手国であるアメリカ向けは、米国経済が好調を維持したことから中国の輸出が低迷した98年半ばから99年半ばにおいてもプラスの伸びを維持し、2000年に入ってからも30%程度(前年同期比)の増加が続いている(第1-4-8図)。第2位の輸出相手国である香港向けは、99年1~3月期には輸出全体を大きく押し下げ、輸出低迷の主要因となっていたが、2000年1~3月期には前年同期比48.1%増と急増した。なお、香港の貿易は、輸出の9割弱は再輸出であり、例えば中国から輸入し、再輸出した相手国と額は不明である点に留意する必要がある。第3位の輸出相手国である日本向けも、1~3月期以降同30%以上の増加が続いており、輸出全体を大きくけん引している。日本向けの最大の輸出品目である繊維製品は、1~3月期以降30%以上の増加を続け好調であるが、電気機器を主とする機械機器の増加も目立っている。日本向け輸出が大幅に増加した背景には、日本の景気回復のほか、円高による輸出価格の相対的な低下に伴う中国製品の競争力回復が挙げられる。
品目別では、機械・運輸設備の増加が著しい。機械・運輸設備は、輸出が低迷した98年半ばから99年半ばにかけても一貫してプラスに寄与しており、2000年1~3月期以降は輸出全体を約4割押し上げている(第1-4-9図)。シェアをみても96年には23%だったが、2000年1~6月期には32%まで拡大した。機械・運輸設備急増の背景には世界的な情報関連機器の需要増がある。電気・電子機器をみると、2000年1~3月期以降前年同期比で40%以上増加しており、輸出全体に占めるシェアも96年の13%から2000年1~6月期18%へと拡大している。中国の最大輸出品目である玩具、雑貨等の雑製品も急回復した。雑製品は98年末から99年初めにかけて二桁減少(前年同期比)となったが、2000年1~3月期以降30%台の伸びが続いている。雑製品等の低付加価値品目の輸出回復の背景として、輸出増値税還付率引上げ(99年1月、7月)のほか、供給過剰等による価格低下による競争力回復が考えられる。
企業形態別では、輸出全体に占める国有企業のシェア(輸出額ベース)が縮小し、外資企業が拡大している。中国の分類によれば、企業は大別して国有企業、外資企業、集団企業に分けられるが、外資企業のシェアは96年の41%から2000年1~6月期には47%へと拡大した。なかでも、外資企業の輸出額の約5割を占める独自資本(100%外資)企業の輸出は1~6月期前年同期比36.6%増と好調であり、シェアも毎年拡大している。この背景として、外国企業が合弁経営の際、商慣習等の違いから多発する中国側とのトラブルを嫌い、独自資本による経営をより強く志向していることが考えられる。外資企業のシェアの拡大に伴い、輸出品目にも変化がみられ、急速に増加している電気・電子機器等は独自資本企業によるものが多い。独自資本企業は中国では主として原材料・半製品を輸入し、労働集約的な加工・組立て工程を行い、自国又は第三国市場へ輸出するという貿易形態を中心としているため、輸出だけでなく輸入を急増させる要因ともなっている。一方、郷鎮企業(1)等を含む集団企業は、輸出全体に占めるシェアは4.1%にすぎないが、1~6月期前年同期比77.5%増と急増しており、郷鎮企業、私営企業が貿易の面で競争力を高めていることが注目される。他方、多くの赤字企業を抱える国有企業のシェアは、96年の57%から年々低下し、2000年1~6月期には48%となり、国有企業が置かれている困難な状況を示している。
貿易形態別では、輸出全体の6割弱を占める加工貿易(2)輸出は1~6月期前年同期比28.7%増と大幅に増加した。特に、加工貿易の7割を占める外資企業のうち独自資本企業が好調であり、加工貿易に占めるシェアを毎年伸ばしている。独自資本企業の多くは、アメリカ、日本をはじめとする対中投資国の企業が、生産拠点の中国シフトと中国市場を狙った大型投資によって設立した大型の製造工場である。対中投資が減少した99年においても、これらの既存企業では増資や生産規模拡大の動きが目立った。
中国の株式市場の動向
90年の上海証券取引所設立から10年が経過し、中国の株式市場は順調に発展してきている。2000年に入り中国の景気拡大テンポがやや高まっていることに加え、WTO加盟の期待により、株価は大幅に上昇し、6月末の時価総額はGDPの約50%に達した。上場企業数も順調に増加しており、2000年7月には上海・深センの2取引所合計で1,000社を突破した(図(1))。
(市場規模の問題)
しかしながら、中国の株式市場の動向をみる上での留意点がいくつかある。「国家株」、「法人株」と呼ばれる政府機関や法人所有の株式の多くは、売買、譲渡が厳しく制限されている非流通株で、個人投資家所有の「個人株」を中心とした流通株の市場規模は、99年では市場全体の時価総額の3割程度と小さいことがわかる。実際の市場規模が小さいということは、株式の大量の売買が発生した際に株価の変動幅が大きくなる可能性があり、市場が投機的になり易いというリスクがある。
(外資導入促進の試み-B株の問題)
中国の企業活動拡大および発展のためには、証券市場の規模拡大は不可欠であり、そのためには国内投資家のみならず、外国人投資家からの投資を促進させる必要がある。外資の流入促進に関連し、国内投資家向けのA株(人民元決済)と外国人投資家向けのB株(上海B株:ドル決済、深センB株:香港ドル決済)の区分の問題点がしばしば指摘されている。99年に全ての所有形式の企業に対してB株発行への門戸を開くなど、中国政府はB株活性化のための改革を行っているが、総発行株数に占めるB株のシェアをみると、93年の8.7%から、99年5.2%と落ち込んでおり、A株と比較しその流動性は低い。また、同一の企業がA・B株両方を発行している場合、A株B株は原則として同一の権利を有することとなっているが、実際には投資家や取引形態の違いからその株価動向は必ずしも一致しておらず(図(2))、同一株として捉えることはできない。
国際的に知名度が高く市場競争力のある企業は、政府の許可があれば直接国外でH株(香港市場上場の中国企業株)やN株(NY市場上場の中国企業株)を発行し、より広範囲に大量の資金調達が可能であるため、企業側からみて外貨獲得のためにB株を発行する必要性は薄れてきている。99年の株式発行による資金調達金額をみるとB株の調達金額は、H株やN株と比較し、非常に少なくなっており、中国石化集団(石油)、上海宝山鋼鉄(鉄鋼)、中国移動通信(携帯電話)などの大手国有企業が海外市場で資金を調達する予定であると報じられている(図(3))。また上海証券取引所の売買手数料は、A株が売買金額の0.35%であるのに対しB株は0.6%であり、B株の取引コストが割高となっていることも、B株活性化の障害となっている。上海B株の保有者国籍別シェア(99年、発行株数)をみると、中国(65%)、香港(11%)と、国内投資家が中心であり、欧米諸国からの資金流入量は少ないことがわかる。
指標の統一をはかるため、A株とB株の統合の可能性がしばしば話題となっているが、これは人民元の資本勘定取引における交換制の確保の問題と切り離せず、証券市場の改革だけでは解決できない問題である。そこで、中国の株式市場への外資流入の増加を目的として、政府管理下で外国人投資家のA株投資を可能にする制度等の検討がすすめられている。
(株式市場の改革)
証券市場改革の一環として、98年から中国証券監督管理委員会(CSRC)の機能を強化し、証券市場に関する行政、監督、管理を一括して行うこととなった。これに伴い、上海と深センの証券取引所はCSRCの管理下におかれることとなった。CSRCは投資家にとってより魅力的な市場を提供するよう法律の整備、証券取引の監督をはじめとして様々な改革を行っている。中国政府は株式市場の育成に対する積極的な姿勢を示しているが、周辺のアジア各国でも同様に証券市場の規模拡大を目指し、外国人投資家に対する規制緩和等を進めているため、今後は各国市場間の競争がますます激化することが予想される。
(香港:景気は回復するが、懸念材料も多い香港経済)
香港経済は、98年に61年の統計開始以来初のマイナス成長を記録した後、99年4~6月期にはプラスに転じ(前年同期比)、徐々に回復した。実質GDP成長率は、2000年1~3月期前年同期比14.3%の後、4~6月期同10.8%と二桁の上昇が続いており、香港特別行政区政府は2000年の成長率見通しを6.0%から8.5%に上方修正した(8月)。財・サービス輸出が引き続き好調なほか、懸念されていた消費は、依然として危機前の水準に達していないものの増加を続けており、大幅な減少が続いていた投資も設備機器の需要増及び在庫の積み増し等によりようやく増加に転じた。しかし、失業率は改善しつつあるものの高水準となっているほか、消費も一層の回復を要するなど懸念材料も多い。また、金融・保険等を含めGDPの4分の1を占める不動産部門において不動産市況の低迷が深刻となっており、香港特別行政区政府は、住宅売買の活性化を図ることを目的として5項目にわたる不動産市場活性化策を打ち出した(6月)。その後、価格動向に大きな変化は見られないものの、取引件数及び取引金額は上向き傾向にある。
消費者物価上昇率は、96年、97年は6%程度で推移していたが、98年は2.6%に低下し、99年には消費の不振等から▲3.3%と下落に転じた。2000年に入ると下落幅はやや縮小し、4~6月期前年同期比▲3.4%、7~9月期同▲2.0%となった。品目別には、衣類・靴、耐久財、住宅価格が大きく下落している。
失業率は、アジア通貨危機による景気後退に伴い98年1~3月期より上昇し、99年には史上最悪の6.2%を記録した。2000年に入ると、景気回復を受けてやや低下し、4~6月期5.0%、7~9月期4.8%となった。引き続き小売・レストラン等のサービスや建設業からの失業が多くなっている。
国際収支は、経常収支の改善及び香港への資本流入の増加等から、98年69億ドルの赤字から99年96億ドルの黒字へと大幅に改善した。貿易収支をみると、90年代に入って赤字が定着し、拡大する傾向にあるが、99年は輸入が減少したことから赤字幅は縮小し、56億ドルの赤字となった。99年10~12月期以降輸出入ともに二桁の増加が続いているものの、赤字幅は再び拡大する傾向にある。
脚注
- 1 郷(村)、鎮(町)、農家等が経営する企業のこと。
- 2 加工貿易には、委託加工貿易と原材料輸入による加工貿易がある。
(2)アジアNIEs:景気は拡大している
香港を除くアジアNIEsでは、電気・電子機器等のIT関連機器を中心に輸出が大幅に増加し、個人消費にも回復がみられることから、製造業の生産が拡大しており、景気は拡大している。98年に深刻な経済危機に陥った韓国では、99年には、財政・金融緩和による景気浮揚策の効果や、輸出が引き続きプラスを維持したこともあり、急速な回復局面へと転じた。2000年に入ってからも、内需の大幅な増加と輸出の好調等により、景気は拡大を続けている。台湾及びシンガポールでは、通貨・金融危機の影響は比較的軽微であったが、98年には周辺諸国の景気低迷の影響が輸出などに顕在化した。しかし、金融部門の健全性が比較的保たれていたことや、政府の経済対策の効果もあって、99年に入り景気は回復し、2000年も引き続き景気は拡大をしている。危機時の落込みからの反動要因が薄れるにつれて、持続的な成長経路への移行が課題となっている。
(韓国:危機後の急回復に比べれば減速しているものの、景気は拡大を続けている)
通貨・金融危機の影響により98年に大きく後退した韓国経済は、99年には財政・金融緩和による景気浮揚策の効果や、輸出(実質ベース)が電気・電子機器の増加を主因に引き続きプラスを維持したこともあり、急速な回復局面へと転じた。2000年に入ってからも、好調なIT(情報技術)関連製品や自動車生産にけん引され、民間消費や機械設備投資などの内需が大幅な増加を記録し、加えて輸出も好調に推移するなど、景気は拡大を続けている。実質GDP成長率は、98年▲6.7%、99年10.7%の後、2000年1~3月期は前年同期比12.8%(前期比年率7.2%)、4~6月期同9.6%(前期比年率4.6%)となった(第1-4-10図)。
消費者物価上昇率は、98年には通貨減価の影響などから7.5%と、91年に9.3%を記録して以来の高水準となったものの、通貨が増価傾向を示し始めた98年半ば以降は騰勢が徐々に鈍化し、99年は0.8%と落ち着きを取り戻した。2000年に入ってからも、4~6月期前年同期比1.4%、7~9月期同3.2%と安定している。ただし、2000年に入ってからは、消費者物価の上昇に対するエネルギー関連製品の寄与度は、原油価格の高騰により上昇傾向にある。
雇用情勢をみると、不況による倒産の増加などの影響により、失業率(季調値)は99年1月に7.8%と過去最悪を記録したが、その後は景気が急速に回復する中で緩やかに低下した。2000年9月現在で4.0%となっている。
経常収支は、98年に403.7億ドル(GDP比12.6%)の黒字に転じたが、景気の急速な回復を反映して輸入が増加基調で推移したことから、99年は244.8億ドル(GDP比6.0%)と黒字幅は縮小した。2000年に入ってからは、1~3月期16.7億ドル、4~6月期27.3億ドルと黒字を維持しているものの、原油価格の上昇により、総輸入額に占める原油輸入額の比率が上昇している。
韓国への直接投資(韓国財政経済部統計、認可ベース)は、通貨・金融危機にもかかわらず98年は前年比27.0%増の88.5億ドルとなった後、99年はEUからの投資が好調さを保ったことを主因に、同75.6%増の155.4億ドルとなった。 金融面の動向をみると、韓国の長期金利動向を示す指標である社債の平均利回り(会社債収益率:3年物)は、IMFの指導による高金利政策の影響もあり97年末から98年前半にかけ急上昇した後、韓国銀行(中央銀行)が低金利政策へ転換したため、98年央より低下し始め、98年末には通貨・金融危機以前の水準を下回った。その後は、大宇財閥の破綻懸念を受け、99年半ば頃に一時上昇する場面がみられたものの、2000年に入ってからは安定している。
(持続的な成長へ向けてのポイントとなる輸出の動向)
韓国では、輸出が1980年から1990年代にかけての高度成長を主導してきた。今回の通貨・金融危機時にも、内需が極度の不振に陥るなかで、輸出は実質(数量)ベースで好調を持続し、危機後には、輸出が大幅な増加を示したことが景気急回復の主要因となった。景気拡大に伴い輸入が堅調に推移しているものの、2000年に入ってからも、輸出が大幅な増加を続けていることから、危機前のように経常収支が恒常的に赤字となる状態には至っていない。
輸出が好調を持続している主因としては、やや伸びに鈍化がみられるものの、電気・電子機器が大幅な増加を続けていることが挙げられる。地域別・品目別にみると、特に好調なアメリカ向けと日本向け輸出の輸出全体の伸びに対する寄与度は、危機後に拡大しており、電気・電子機器の伸びが両国向け輸出全体の増加をけん引している。
顕示比較優位指数(1)(RCA:Revealed Comparative Advantage Index)を用いて韓国の比較優位の変化を計測すると、近年好調に推移している自動車や電気・電子機器は軒並み比較優位を持っており、かつ80年代、90年代を通じて国際競争力が向上している(第1-4-11表)。一方、80年代には主要な輸出品目であった繊維や玩具・時計などの軽工業製品は、90年代後半には国際競争力が著しく低下した。したがって、韓国でも、産業構造の高度化に伴い他の東アジア諸国との間で国際分業が発展したため、相対的に高付加価値の製品輸出への移行が相当程度進んでいると考えられる。
通貨・金融危機に伴う通貨ウォンの減価が輸出競争力を高めたことの影響も大きい。財の輸出(数量ベース)を為替要因と世界貿易要因に分けて推計してみると、韓国の輸出は長期的には世界貿易要因(世界の経済成長)に大きく影響されているが、通貨・金融危機前後には、為替要因(ウォンの実質実効レート)が輸出の伸びに与える影響が大きくなっており、危機直後の大幅なウォンの減価が輸出を増加させる効果をもたらしたことがわかる(第1-4-12図)。その後、危機後に景気が急速な回復を示してからは、通貨ウォンが増価傾向で推移したものの海外からの需要が改善したことにより、輸出が好調を維持したと考えられる。
(台湾:輸出の増加が景気をけん引)
台湾経済は、98年はアジア通貨・金融危機の影響により景気が減速し、実質GDP成長率は前年比4.6%と16年ぶりの低い水準となった。その後、堅調な民間消費や輸出の増加により景気は拡大し、99年9月に発生した台湾中部を震源地とする大地震の影響が懸念されたものの、震災後も力強く回復し、実質GDP成長率は99年前年比5.4%となった。2000年に入ってからも実質GDP成長率は1~3月期前年同期比7.9%と、景気拡大は続いたが、4~6月期には同5.4%と景気拡大のテンポはやや鈍化している。その内訳をみると民間最終消費支出は、1~3月期前年同期比7.6%増から4~6月同5.6%増と伸びがやや鈍化し、固定資本形成も民間投資の大幅な増加にもかかわらず、1~3月期前年同期比9.7%増の後、4~6月期は同6.2%増となった。一方、輸出の高い伸びが続いていることから純輸出は大きくプラスに寄与している。
鉱工業生産は、98年前年比2.6%増、99年同7.7%増の後、2000年1~3月期前年同期比11.4%増、4~6月期同7.5%増と増加している。
消費者物価上昇率は98年前年比1.7%の後、99年同0.2%の低水準となったが、2000年に入り、エネルギー価格の上昇等から、1~3月期前年同期比0.9%から4~6月期同1.4%とやや上昇している。卸売物価上昇率は、輸入品価格の下落等から98年前年比0.6%から、99年同▲4.5%と下落したが、2000年1~3月期前年同期比1.0%、4~6月期同2.0%となった。
失業率は99年2.9%の後、2000年1~3月期2.8%、4~6月期2.8%、7~9月期3.1%とやや上昇している。 国際収支についてみると、経常収支は98年34.4億ドルの黒字の後、輸出の増加等により99年83.8億ドル(名目GDP比同2.9%)と、黒字幅が拡大した。輸出(通関ベース、ドル建て)は、98年前年比9.4%減の後、重工業製品の輸出が増加したこと等から99年同10.0%増と回復した。2000年に入り、主力輸出商品の機械・電子機器の輸出が引き続き好調であることから、2000年1~3月期前年同期比18.4%増の後、4~6月期同27.6%増となった。輸入(通関ベース、ドル建て)は、98年前年比8.5%減の後、生産の回復を反映して資本財等の輸入が増加したため、99年は同5.8%増となった。その後、2000年1~3月期前年同期比25.6%増、4~6月期同39.7%増となった。
金融面の動向をみると、98年半ばから金融が緩和され、公定歩合は4.50%まで引き下げられた。その後、1年以上公定歩合は据え置かれていたが、景気回復にともない金融引き締めに転じ、2000年3月、6月の二度にわたり、4.50%から4.75%に引上げられた。マネーサプライ(M2)の増加率は98年末前年末比8.6%、99年同8.3%となり、2000年に入り増加率が鈍化し、6月には前年同月比6.0%と、中央銀行の目標レンジ(99年6~11%)の下限をやや上回るところで推移している。
(シンガポール:エレクトロニクス産業がけん引する景気拡大)
シンガポールでは、アジア通貨・金融危機の影響は比較的軽微だったものの、98年に入って周辺国の内需収縮に伴う輸出の減少等の影響が顕在化し、98年7~9月期にはマイナス成長となった。政府は、景気後退に歯止めをかけるため「ビジネスコスト削減策」等の経済対策を98年に実施し、99年にも「金融自由化策」をはじめ、「インダストリー21」、「テクノプレナーシップ21」等の競争力強化を目的とした政策を相次いで打ち出した。アジア諸国経済は99年に入ると急回復し、シンガポール経済もエレクトロニクス製品を中心とした輸出の増加や観光客数の回復等により回復した。
実質GDPは、危機前の水準を既に超えており、2000年1~3月期前年同期比9.8%増、4~6月期同8.6%増、7~9月期同10.2%増(速報値)と景気は拡大している。需要項目別にみると、投資は微増にとどまったものの、自動車やレジャー等を中心に消費が大幅に増加した。産業別にみると、GDPの26%を占める製造業が前年同期比でみて5四半期連続で二桁増を記録し、経済を大きくけん引している。特にエレクトロニクス産業が好調であり、半導体、プリンター及び関連製品、通信機器等が高い伸びを示した。卸売・小売も、自動車、通信機器等に支えられ二桁増が続いた。シンガポール政府は、インドネシアの政治情勢の不安定化や原油価格の高騰といった不安要素はあるものの、引き続き好調な外需が見込まれるとして、2000年の成長率見通しを7.5~8.5%から9%程度に上方修正した(10月)。
消費者物価は、消費の回復等により99年半ばに緩やかな上昇に転じ、2000年4~6月期前年同期比0.8%、7~9月期同1.5%と安定している。石油価格上昇に伴い運輸・通信の上昇が目立っており、衣料は引き続き下落している。
失業率は、エレクトロニクス産業におけるレイオフの増加等により98年末に4.3%まで上昇した後は、景気回復に伴い徐々に低下し、99年末に3%を下回った。しかし、景気拡大のなかでも労働コスト削減等に伴うレイオフは続き、2000年3月3.4%、6月3.5%と再び上昇した。9月には2.5%(速報値)となっている。
国際収支をみると、経常収支黒字は、98年210億ドルの後、99年213億ドルとわずかな増加にとどまった。アジア地域の景気拡大に伴い輸出が増加したものの、輸入も大きく増加したため貿易収支黒字は縮小した。他方、サービス収支は、周辺諸国からの旅行者が大幅に増加したことなどから、黒字幅が大幅に拡大した。2000年に入ってからは、集積回路や通信機器等の輸出が引き続き好調なことから、貿易収支黒字は4~6月期1億ドル、7~9月期10億ドルと拡大している。
金融面の動向をみると、貸出プライムレートは98年末の5.90%から99年1月に5.80%へと低下した後、年を通じ横ばいで推移し、2000年2月には5.85%へとやや上昇した。マネーサプライ(M2)増加率は、定期預金の伸びが低かったことから98年末前年同期比9.7%の後、99年末は同8.5%と鈍化した。2000年に入ると、急速な景気拡大によるインフレ防止のためにマネーサプライは抑えられ始め、8月末前年同期比▲0.8%となっている。
脚注
- 1 顕示比較優位指数とは、ある国の財の輸出を世界的な平均と比べて、その国のその財についての比較優位の度合い(国際競争力)を計測する指標である。この数値が1を超えると、その国はその財に関して世界の輸出シェア以上のシェアを持つことから、比較優位があることを示唆する一指標と考えられている。
(3)ASEAN:景気は回復している
97年の通貨・金融危機の影響を最も強く受けたASEAN諸国は、98年に景気が大きく後退した。政府による経済対策の効果、農業生産の回復、輸出の回復による製造業生産の増加等により、各国経済は99年にはプラス成長に転じ、2000年に入ってからも比較的高い成長率を維持している。しかし消費には回復の動きがみられるものの、一部の国では設備投資の回復力が弱い。また、エネルギー価格の上昇を受けて一部の国では消費者物価上昇率にやや高まりがみられる。
(インドネシア:政情不安を抱えながらも景気は回復傾向)
東アジア諸国の中で通貨・金融危機の影響が最も深刻であったインドネシアでは、政情不安もあいまって、経済成長率は98年に▲13.2%と大きく落ち込んだ。しかし、99年に入ってからは、政情がやや安定化したことを受け、通貨ルピアが落ち着きを取り戻したこともあり、景気は回復に向っている。99年10月に誕生したワヒッド大統領は、IMFと合意した構造改革を継承することを表明し、停滞していた経済活動全体にも徐々に明るさが戻っている。実質GDP成長率は、2000年1~3月期前年同期比3.2%の後、4~6月期同4.1%と5四半期連続のプラス成長を記録している。
消費者物価は、通貨減価に伴う輸入品価格の高騰を主因に、98年半ばには一時前年同月比で80%を超えるまでに上昇したものの、99年には上昇率が大幅に鈍化し、2000年に入ってからは、4~6月期前年同期比1.1%、7~9月期同5.7%と安定している。
貿易動向をみると、98年に輸入が大幅な減少となったことから拡大した貿易黒字は、99年も引き続き輸入が減少したことにより、一層拡大した。2000年に入ってからは、輸入が増加に転じたものの、原油価格の上昇などにより輸出が好調に推移していることから、大幅な黒字を維持している。
金融面では、通貨ルピアは、2000年前半に政情不安が再燃したことや、主要閣僚の解任騒動などの影響もあり、減価基調で推移したが、8月に入ってからは落ち着いて推移している。
なお、2000年8月の内閣改造により就任した経済担当調整大臣は、新たに10か条の経済回復促進プログラム(The 10 Economic Recovery Acceleration Program)(1)を策定し、景気回復をより明確なものとする決意を表明している。
(タイ:景気は回復し、不良債権比率も緩やかに低下)
タイ経済は、通貨・金融危機の影響により大きく後退した後、99年に入り景気は回復に向い、実質GDP成長率は98年▲10.2%、99年4.2%となった。2000年に入ってからも、輸出が好調を維持したことに加え、金融部門の構造改革の遅れ等により低迷していた設備投資が大幅に改善したことから、1~3月期前年同期比5.3%、4~6月期も民間消費に支えられ同6.6%と、景気は回復過程から拡大期へ移行しつつある。景気の回復傾向を受け、政府は2000年の経済成長率見通しを、6月に4.4%から5.0%へと上方改訂した。しかしその後は、4~6月期の実質GDP成長率が6.6%と好調だったにもかかわらず5.0%に据え置いている。
消費者物価上昇率は、98年には通貨減価の影響等から8.0%となったものの、通貨が増価傾向を示し始めた98年半ば以降は騰勢が徐々に鈍化し、99年は0.4%と落ち着きを取り戻した。2000年に入ってからも、4~6月期前年同期比1.6%、7~9月期同2.2%と安定している。
国際収支をみると、99年の経常収支は、貿易収支が98年に引き続き黒字を維持したことを主因に、124億ドル(GDP比9.1%)の黒字となった。2000年に入ってからも、輸入が大幅に増加している一方で、輸出が好調を維持していることから、経常収支は黒字を維持している。
金融面の動向をみると、マネーサプライ(M2)の増加率は、通貨・金融危機後は伸びが一貫して低下しており、2000年5月には前年同月比で▲0.3%を記録した。その後はやや増加して推移している。
タイで景気回復の足かせとなっている不良債権問題については、商業銀行の延滞債権比率は99年5月には46.8%に達した。しかしその後、破産法改正等の法制度の整備が進み法的整理の迅速化がなされたこと等から2000年8月には31.1%まで低下しており、依然として水準は高いものの、問題は解消に向かっていると考えられる。
(マレイシア:民間消費を中心に景気が拡大)
マレイシア経済は、97年のアジア通貨・金融危機の影響から急速に景気は後退し、98年の実質GDP成長率は▲7.5%となった。98年半ば以降に採られた金融・財政緩和政策や好調な輸出に支えられ、景気は99年に入り回復し、2000年に入ってからも好調な消費に支えられて拡大している。四半期ごとの実質GDP成長率をみると、98年10~12月期の前年同期比▲10.9%を底として99年4~6月期にはプラスに転じ、2000年1~3月期には同11.9%、4~6月期同8.7%となった。鉱工業生産も、98年前年比▲7.2%増の後、99年4~6月期にはプラスに転じ、2000年4~6月期前年同期比20.1%増、7~9月期同18.3%増と高い伸びとなっている。
消費者物価上昇率は、通貨下落による輸入物価の高まり等から、98年には前年比5.3%となったが、その後低下し続け、2000年4~6月期前年同期比1.4%、7~9月期同1.5%と安定している。
貿易収支は、98年に輸入の減少により大幅な黒字に転じ、99年には更に拡大し、190億ドルとなった。2000年に入ると輸出の伸び以上に輸入が増加していることから、黒字幅はやや縮小している。
通貨危機時に導入された対ドルでの固定為替相場制は2000年に入っても維持され、そのレートも見直されていない。しかし、韓国、台湾をはじめとしたアジア各国の通貨が、景気回復に伴い危機時に比べ増価しているなかで、危機時に設定した固定レートを継続させることは、輸入依存度が高いマレイシアにおいては輸入インフレをもたらすおそれがあり、早期に変動相場制に復帰するか、為替レートを調整する必要があることに留意しなければならない。
(フィリピン:景気は緩やかに拡大)
フィリピンは、通貨・金融危機の影響は比較的軽微であったものの、度重なる悪天候に見舞われたことや、通貨ペソの下落による内需低迷の影響もあり、98年は7年ぶりにマイナス成長を記録した(▲0.5%)。99年は、天候が安定したことを主因に農業生産が回復したことや、引き続き輸出が好調を保ったことから回復過程に移行し、2000年に入って実質GDP成長率は1~3月期前年同期比3.4%、4~6月期同4.5%と景気は緩やかに拡大している。
消費者物価上昇率は、通貨ペソの下落に伴う輸入物価の上昇や農産物の価格が高騰したことなどから、98年半ば以降前年同月比で二桁の増加率で推移したが、99年に入り農産物価格が安定すると緩やかに低下し、2000年4~6月期前年同期比3.9%、7~9月期同4.4%と安定している。
貿易収支は、輸出が好調を維持したことに加え、輸入が大幅に減少したことから、99年には黒字に転換した。2000年に入ってからも、1~3月期7.2億ドル、4~6月期15.5億ドルと黒字を維持している。98年に黒字に転じた経常収支は、99年も黒字となり、2000年以降も1~3月期15.2億ドル、4~6月期20.5億ドルの黒字となっている。
(ベトナム:景気は回復しつつある)
ベトナムの実質GDP成長率は、98年前年比5.8%、99年同4.8%、2000年1~6月期前年同期比6.2%と景気は回復しつつある。ベトナムは、貿易、投資ともアジア域内への依存度が高く、アジア通貨・金融危機後には輸出、直接投資受入の減少などの影響がみられた。工業生産高は、99年前年比7.0%増から2000年1~6月期前年同期比14.7%増と大幅な伸びをみせている。これを企業別にみると外資系が引き続き好調を維持しているのに加え、生産が伸び悩んでいた国内企業も好調となっている。
消費者物価上昇率は、通貨ドンの切下げ、食料品の値上がりなどから、98年は前年比9.2%と高騰したが、その後99年は同0.1%まで低下している。
輸出(ドル建て)は、98年には、それまでの二桁台の伸びから大きく鈍化したが、99年は前年同期比23.1%増、2000年1~6月期前年同期比26.2%増と回復している。輸入(ドル建て)は、98年には、91年以来のマイナスと大きく鈍化したが、99年は前年同期比0.8%増、2000年1~6月期前年同期比33.8%増と急激に回復している。
直接投資の受入額(認可ベース)は、99年15.5億ドル(前年比61.9%減)と大きく減少しており、ここ3年連続して減少傾向にある。
脚注
- 1 10か条とは、(1)金融セクターの安定化、(2)輸出促進、(3)農業セクターの生産性向上、(4)借入依存から直接金融に基づく景気回復への転換、(5)民営化による価値創造、(6)地方分散型経済への転換、(7)天然資源の有効活用、(8)中小企業の育成、(9)地域経済の社会資本整備、(10)銀行部門と民間企業部門のリストラクチャリングの促進を指す。
(4)南アジア:インドの景気は回復
南アジアでは、インドで景気の減速が続いていたが、98年度は農業生産、99年度は工業生産の好調により景気が回復した。
パキスタンでは、98年5月の核実験実施に伴う経済制裁の影響等から対外債務返済問題が深刻化した。99/2000年度(99年7月~2000年6月)の経済成長率は農業生産の回復により、前年度の3.1%から4.5%へと拡大した。バングラデシュでは、農業生産の好調の持続と工業生産部門が洪水の被害の影響から立ち直ったこともあり、99/2000年度(99年7月~2000年6月)の経済成長率は前年度の4.9%から5.5%へと拡大した。スリランカでは、工業部門の不振により、99年の経済成長率は前年の4.7%から4.2%へと鈍化した。
(インド:工業生産の好調により景気が回復した)
インド経済は、消費の不振による工業生産の鈍化等により、97年度(97年4月~98年3月)には景気の減速があったが、98年度は農業生産、99年度は工業生産の好調により景気が回復した。
実質GDP成長率は、94年度から96年度まで3年連続して7%台の伸びを示した後、97年度は農業生産の不振等から4.8%へと鈍化した。98年度は工業生産は低い伸びが続いたが、GDPの約26%を占める農業部門の生産が大幅な伸びであったため6.3%と回復した。99年度は一部地域での天候の不順から農業生産がかなり落ち込んだが、工業生産の大幅な回復から6.4%と引き続き高い伸びを示した。
鉱工業生産は、98年10~12月期前年同期比3.2%増を底に、99年10~12月期同9.2%増、2000年1~3月期同10.5%増と急激に回復している。
物価は99年中は落ち着きをみせていたが、2000年に入ると上昇率が高まっている。卸売物価上昇率は、98年半ばから高騰していた農産品価格が落ち着くにつれて低下し、99年度は前年比で2.9%であったが、原油価格上昇の影響を受けた石油関連製品の価格引上げなどから2000年1~3月期前年同期比3.6%、4~6月期同6.4%となった。
国際収支の動向をみると、通関ベースの貿易収支(ドル換算)は近年赤字幅が拡大しており、99年度は96.1億ドルの赤字となった。輸出は96年度以降、伸びが鈍化していたが、99年度はアジア向けの回復などから前年度比13.2%増と大幅な伸びをみせた。2000年度に入っても1~3月期前年同期比13.8%増と引き続き好調である。輸入は、98年度は前年度比2.2%増と低迷していたが、99年度は原油価格の上昇などから前年度比8.9%と高い伸びを示し、 2000年度1~3月期も前年同期比12.1%となっている。経常収支は、99年度は41.6億ドルと赤字幅がやや拡大した。
インドのソフトウェア産業の労働市場
(ソフトウェア産業の現状)
インドのソフトウェア産業の売上高は、近年急速な伸びを示している。インドのソフトウェア産業の代表的業界団体(NASSCOM)によれば、99年度の売上げは57億ドルで前年比53%増となり、2000年度も87.5億ドル(前年比53.5%増)の売上げが見込まれている。特にソフトウェアの輸出はY2K(2000年問題)の特需や電子商取引等の新たな需要により、99年度は40億ドル(前年比51%増)とインドの輸出総額(通関ベース)の10.5%を占めるまでに至っている。こうしたソフトウェアの輸出に携わる国内企業が約1,250社ある中で、輸出額上位26社の輸出は輸出総額の約61%を占めており、大手企業が輸出の中心となっている。輸出先の62%はアメリカ、カナダ向けで、日本は3.5%にすぎない。
インドのソフトウェア産業が急成長した要因として、(1)英語を駆使できるソフトウェア技術者が豊富なこと、(2)技術者の質が高いわりには賃金が低く、国際競争力があること、(3)政府の積極的な育成策を受け、アメリカを中心に有力企業が参入したこと、等が挙げられる。
ソフトウェア産業はムンバイ(ボンベイ)、インドのシリコンバレーと呼ばれるバンガロール、ニューデリーなど全国の特定の都市、特に西・南部に集中している。この集積状況は政府のソフトウェア産業の振興策のひとつであるソフトウェア・テクノロジー・パーク(STP)や輸出加工区(EPS)の位置とソフトウェア産業に優秀な技術者を供給する全国で6か所あるインド工科大学等の教育機関の所在地に関係が深いことがわかる。
インドのソフトウェア技術の質については、国内企業上位300社のうち170社以上が高技術水準と品質の高さを示すISO9000を既に取得している。また、米国ソフトウェア認定の最高水準に位置付けられるSEIレベル5を取得している世界的企業23社のうち15社がインドのソフトウェア企業であることから、その技術の質が高いことがうかがえる。
(ソフトウェア産業の労働市場)
こうした質の高いソフトウェア産業を支える技術者の規模をみると、NASSCOMの調査によれば、96年時点で16万人、99年には28万人であった。85年の同調査で6,800人だったのでこの15年間で約42倍となっている。2002年には、年間8万5千人のソフトウェア技術者の需要があると推計され、NASSCOMと米国の経営コンサルタント会社マッキンゼーの共同調査によれば、2008年までに220万人の技術者が必要になると予測されている。このように、ソフトウェア技術者の育成が重要な課題になっている。
現在、これらの技術者を供給するコンピュータ関連のコースを持つ教育機関は、インド工科大学(IIT)から職業訓練校(ITI)まで約1,900校あり、これらの教育機関から毎年供給される新規の技術者は98年度で、約7万4千人に達するといわれている。特に、インド工科大学は国内最高の教育機関であり、その卒業生は、世界各国の大手ソフトウェア企業に大変人気がある。
ソフトウェア技術者が不足している中で、技術者の年間離職率はNASSCOMの調査によれば、93年で21.2%、94年18.1%、95年16.3%と徐々に低下しているが、その割合は高い。このような技術者不足は賃金の上昇を招いており、インドの主要国内紙であるエコノミック・タイムズ紙の99年IT産業30社の調査によると、人件費は過去4年間に42%上昇している。離職の理由としては同じソフトウェア産業である他社への転職、アメリカを中心とした外国のソフトウェア企業への勤務のための移住、技術者が修士号、博士号を取得するためなどである。特に国外への転職については米国、ドイツ、オーストラリア、シンガポールなどで国内のIT技術者の需要に対応するため、インド人を始めとした海外のIT技術者の受入れ枠の拡大に動いているほか、非居住者インド人(印僑)がその世界のネットワークを通じて、欧米とインドのソフトウェアに関係するビジネスを拡大する中で、国外のIT技術者を増やしていることから、今後も転職は増加すると予想される。
離職に対する企業レベルの対策としては、いまのところ賃金面の改善、企業の職場・厚生施設等の環境の改善、教育訓練の整備、ストック・オプション制度(自社株保有)の導入による自社株持ちの促進などに留まっている。
このようにインドのソフトウェア産業の労働力市場では、欧米の高給採用による技術者流出の増大が懸案事項になりつつあり、今後、インドのソフトウェアの品質を維持するうえで問題になってくる可能性がある。
2 大洋州:景気拡大が続くオーストラリア
オーストラリアでは、9年目の景気拡大が続いており、失業率は10年来最低の水準で推移している。また、消費者物価は上昇傾向にあり金融は引締められている。一方、ニュー・ジーランドでは景気は低迷している。
(オーストラリア:9年目の景気拡大が続く)
オーストラリアでは、91年度(91年7月~92年6月)以降、長期にわたり景気拡大が続いており、99年度のGDP成長率は4.4%となった。これは、引き続き個人消費が好調だったこと、住宅投資や設備投資などにより民間投資が増加したこと、政府消費も増えたこと等による。外需は、輸出の増加以上に輸入が増加したためGDP成長率への寄与はマイナスとなった。
四半期の動きをみると、99年1~3月期前期比1.5%(前期比年率6.3%)の後、4~6月期には、消費や民間投資は堅調に推移したものの、政府投資(公的総固定資本形成)の減少が主因となり同0.7%(同2.8%)と低い伸びにとどまった(第1-4-13図)。政府の経済見通し(2000年5月)によれば、国内需要の成長がここ数年に比べ緩やかなものになるとの見方から2000/01年度のGDP成長率は3.75%と見込んでいる。
失業率は低下傾向にあり、2000年以降は6%台で推移している。4~6月期には6.7%、7~9月は6.3%と10年来の低失業率に改善している(第1-4-13図)。
消費者物価(前年同期比)は2000年に入り2~3%台で推移していたが、2000年7月にGST(Goods and Services Tax:財貨・サービス税)が導入された影響で7~9月には6.1%となった。
経常収支赤字はこのところ改善している。98年度(7~6月)は337.2億オーストラリア・ドル(豪ドル)と記録的な赤字の後、99年度は336.8億豪ドルとなり前年に比べ赤字幅が若干縮小した。また、四半期(季節調整値)では、2000年4~6月期78.7億豪ドルの赤字となり4四半期連続で赤字幅は縮小している。財の輸出(豪ドル建て)は4~6月期前期比8.6%増となり、財の輸入(同)は同6.1%増となった。この結果、財の貿易収支の赤字幅は同25.3億豪ドルと前期に比べ縮小した。
金融面では、インフレ圧力懸念から、準備銀行は99年11月以降2000年8月迄に政策金利であるキャッシュレートを5回引き上げており、10月現在で6.25%となっている。
オーストラリア・ドルは、対米ドルレート(月平均レート)で9月に1.81豪ドルと前年同期に比べ約17%下落している。
(ニュー・ジーランド:景気は低迷している)
ニュー・ジーランドの実質GDP成長率(生産ベース)は、98年度(98年4月~99年3月)0.0%の後、99年度は好調な内需から同4.2%となった。2000年に入ってからの四半期の動きをみると、1~3月期前期比0.6%(前期比年率2.3%)となった後、4~6月期は同▲0.7%(同▲2.7%)となり景気は低迷している(第1-4-14図)。企業投資は増加したものの、前期に大幅増となった住宅投資が反動もあり大幅に減少し総固定資本形成がマイナスになったこと、民間消費が微増にとどまり、政府消費がマイナスだったことから内需が減少した。また、輸出の増加以上に輸入が増加したため外需はマイナスに寄与した。
政府の経済見通し(2000年6月)によれば、好調な輸出により堅調な景気拡大が持続するとの見通しから2000年度のGDP成長率は3.7%と見込んでいる。
失業率は99年には低下傾向で推移しており、99年度には6.6%となった。2000年7~9月期には5.9%となっている(第1-4-14図)。
消費者物価上昇率(前年同期比)は、99年1~3月期以降3四半期連続でマイナスと下落傾向で推移した後、上昇傾向で推移している。2000年4~6月期に2.0%の後、7~9月期には3.0%となっている。
経常収支は、99年度(4~3月)には73.3億ニュー・ジーランド・ドル(NZドル)(GDP比▲7.1%)と前年度(GDP比▲4.4%)に比べ赤字幅は大幅に拡大した。これは10~12月期の特殊要因(フリーゲート艦購入6.3億NZドルにより財収支が悪化したことを除けば所得収支の赤字幅が拡大したことによる。四半期(季節調整値)では、2000年1~3月期16.8億NZドルの赤字の後、4~6月期には15.9億NZドルの赤字となり赤字幅は若干縮小したものの依然大幅となっている。国際収支ベースの財・サービス輸出(NZドル建て)は4~6月期前期比3.9%増となり、同輸入(同)は同3.2%増となったことから、財・サービス収支は同1.2億NZドルの黒字となった。
金融面では、インフレ圧力懸念から、準備銀行は99年11月から2000年5月迄に政策金利であるキャッシュレートを5回引き上げておりその後は据え置いている。10月現在のキャッシュレートは6.5%となっている。
NZドルは、対米ドルレート(月平均レート)で9月に2.40NZドルと前年同期に比べ25%下落している。
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