平成18年度

年次経済財政報告

(経済財政政策担当大臣報告)

−成長条件が復元し、新たな成長を目指す日本経済−

平成18年7月

内閣府


目次][][][年次リスト

第1節 長期化する景気回復の背景と今後の課題

1 最近の景気動向

(1)民間需要中心の景気回復が続く

●二つの踊り場的状況をはさみ長期化する景気回復
 日本経済は2002年初めから景気回復を続けており、景気拡張期間は既に4年を超えているとみられる。日本経済は、2005年央には、前年末から続いた情報化関連部門の調整や輸出の鈍化等を主因とする踊り場的な状況を脱し、企業部門、家計部門、海外部門がバランスよく回復する中で、順調に回復を続けている。
 ただし、景気は過去4年間に必ずしも単調に回復してきた訳ではなく、途中、2回にわたり回復テンポが緩やかになる踊り場的な状況を経てきている。こうした今回の回復局面を幾つかの時期に分けて考えると、以下のように整理できる。
 第一の期間は、景気回復が始まった2002年から2003年までの期間である。2002年初に景気が底を打って回復に転じた背景には、アメリカや中国経済の回復を受けて輸出が伸びを高めたことや、2000年末のITバブル崩壊以降続いていた在庫調整が終了したことがあった。ただし、この時期には、企業はリストラ努力を強化し、雇用・設備・債務の3つの過剰の削減に懸命であり、その結果、消費や設備投資の伸びが限定的であり、景気回復テンポは緩やかなものにとどまった。加えて、2002年後半以降、イラク情勢の緊迫化とその後のイラク戦争勃発等により輸出の伸びが鈍化し、景気は踊り場的な状況となった。
 第二の期間は、2003年後半から2005年半ばまでの期間である。2003年央にかけて、イラク戦争が終息に向かう中で輸出が回復し、加えて企業部門ではリストラの成果もあって収益が高い伸びを示し、設備投資も徐々に伸びを高めていった。他方、家計部門の回復は企業部門に比べてやや遅れていたが、2003年初から失業率が低下傾向に転じ、雇用者所得も2004年末には下げ止まりがみられるようになる中で、消費も底堅く推移した。しかしながら、2004年後半には、アテネ・オリンピックに向けた需要見通しがやや高めであったこと等もあって世界的に情報化関連財の需給が軟化し、日本経済も、情報化関連部門の在庫調整や輸出の鈍化によって景気回復テンポが緩やかになり、再び踊り場的状況となった。
 第三の期間は、2005年半ば以降現在に至るまでの期間である。2004年後半からの情報化関連部門の在庫調整は、世界的な情報化関連需要の持ち直しにより比較的軽微なものにとどまり、2005年央には生産や出荷がプラスに転じるようになった。加えて、2005年後半には、輸出全体もアジア向けやアメリカ向けを中心に回復し、生産は、情報化関連部門、非情報化関連部門ともに増加傾向を示した。企業収益についても、原油高の影響はあるものの改善が続いており、設備投資も引き続き幅広い業種で増加している。個人消費についても、引き続き雇用情勢が改善する中で、緩やかな増加を続けている。このように、日本経済は、2005年央に踊り場を脱した後、設備投資や個人消費などの民間需要を中心とした回復が続いており、企業部門、家計部門、海外部門のバランスがとれた回復の姿となっている。

●構造的変化を伴いながらバランスのとれた形で長期化する景気回復
 景気循環的にみた今回の景気回復の特徴については、後ほど詳しく分析するが、その大きな特徴としては以下の3点が挙げられる。
 第一に、今回の景気回復は、戦後平均の33カ月を超えて、既に4年以上にわたって続いているとみられ、景気回復が長期化しているという特徴がある。今回の景気回復の過程で、イラク戦争等の世界情勢の変化、情報化関連部門の世界的調整、石油価格の高騰といったかく乱要因が幾つか発生したものの、それを乗り越えて回復が続いていることは、企業のリストラや不良債権処理等の調整を経て、日本経済の構造的な部分がしっかりとしたものとなったことを反映していると考えられる。
 第二に、今回の回復は、産業分野別にみても、家計部門と企業部門という区分けでみても、民間経済の幅広い分野に改善が及んでおり、その意味でバランスのとれた回復の姿となっている。この点は、90年代の回復が、特定の産業分野に偏った回復であったり、公的部門の需要への依存が大きかったりといった特徴を持っていたこととは対照的である。このように景気回復が幅広い分野で根付いていることは、景気回復長期化の背景の一つとなっている。
 第三に、今回の景気回復は、単に循環的な改善だけでなく、幾つかの分野で重要な構造的変化を伴った回復であるということである。企業部門では、雇用・設備・債務の3つの過剰が解消されたこともあり、損益分岐点が大幅に低下するとともに事業効率も大きく改善している。そうした中、90年代に低下の一途をたどったマクロの生産性も回復がみられている。そうした供給サイドの改善に加えて、需要サイドでも設備投資の回復に加えて雇用環境の改善によって個人消費も堅調な伸びを続けている。その結果として、財・サービス市場や労働市場において需給状況が改善するとともに、90年代末から続くデフレ状況にも、改善がみられている。また、地域経済においては依然として景気の状況にばらつきがみられるものの、全体としては回復に向かっている。

●景気回復を示す最近のGDPの動向
 実質GDP成長率は、2004年度1.7%増となった後、2005年度は3.2%増となり、成長率がやや高まった(第1−1−1図)。2005年以降の各四半期の動向をみると、実質GDP成長率(前期比年率換算)は2005年1−3月期に5.1%増、2005年4−6月期に5.5%増と高い伸びとなった。これは、2004年末に暖冬や台風といった天候要因により低い伸びとなった個人消費が、その反動や所得環境の改善を反映して高めの伸びとなったことに加え、企業収益の改善を受けて設備投資も高い伸びとなったことを反映している。2005年7−9月期には、前期までの高い伸びの反動もあって1.0%増と伸びがやや鈍化した。しかし、10−12月期には、引き続き設備投資が増加する中で、厳冬による季節商品を中心に個人消費がやや高めの伸びとなったことや、アメリカ向けやアジア向けを中心に輸出が増加し外需寄与度が高まったこと等により、4.5%増と高い伸びとなった。2006年1−3月期は、前期の高い伸びの反動や輸入増加による純輸出の寄与の低下を反映して3.1%増とやや伸びが鈍化したものの、個人消費や設備投資といった内需を中心に回復の動きが続いている。

(2)引き続き好調さを維持する企業部門

●2005年央以降、輸出と生産はともに回復が続く
 2004年末からの踊り場的状況は、情報化関連財の在庫調整と輸出の鈍化を主因としたものであった。しかし、2005年央には世界的な情報化関連財需給の改善を背景に情報化関連の生産は在庫調整局面を脱するとともに、輸出についてもアジア向けを中心に持ち直しに転じた。その後は、輸出が引き続き増加する中で、情報化関連の生産だけでなく、若干変動はあるものの一般機械や輸送機械等の非情報化関連財も含めて増加が続いている(第1−1−2図)。他方、在庫については、鉄鋼等の素材系において、中国からの供給圧力などを背景に汎用品等一部の財で需給悪化から在庫調整がみられているものの、全体としてみれば依然として大幅な増加はみられていない。
 生産の動向を分野別にみると、情報化関連分野では、世界の情報化関連財需給の改善とともに生産の増加が続いている。情報化関連生産のうち需給の変動が大きい半導体に注目すると、アメリカ、日本、日本以外のアジア、ヨーロッパを合わせた世界の半導体出荷の伸びは2004年後半から2005年央にかけて大きく減速したものの、その後は回復に転じ、2006年に入ってからも緩やかな増加が続いている(第1−1−3図(1))。こうした世界の半導体サイクルに合わせて、日本の半導体生産もほぼ同様の動きとなっている。半導体生産の動向に対し半年程度の先行性を持つといわれる半導体製造装置の受注/出荷比率(BBレシオ)については、日本製半導体製造装置は2005年央以降、総じて目安となる1を超える水準が続いているほか、アメリカ製についても、2006年に入ってから1を超えて推移しており、今後も、半導体生産は底堅く推移するものと考えられる(第1−1−3図(2))
 非情報化関連分野については、加工型と素材型でやや異なる動きとなっている。一般機械や輸送機械の生産は、2005年初めに高い伸びを示した反動もあって2005年央にはやや減速したが1、2005年第4四半期には再び持ち直した。こうした背景には、堅調な国内需要の伸びに加え、輸出の増加の勢いが増したことも影響している。そこで、輸出数量の動向をみると、2005年央から持ち直しに転じ、その後増加のペースが2005年末から2006年初めにかけて徐々に高まっている(第1−1−4図)。これを、品目別、地域別にみると、電気機器については、2005年央からアジア向けを中心に急回復しており、一般機械や輸送用機器についても2005年第4四半期になってからアメリカ向けを中心に増加率が高まっている。
 他方、鉄鋼や紙パルプ等では、2005年以降、在庫が高まる中で生産の伸びが抑制されるという軽い在庫調整の状況がみられた。これは、汎用品の分野で輸入製品の増加によって市況が悪化したこと等を反映したものとみられる。このため、在庫循環図をみると、加工業種では回復局面に位置しているが、素材系業種では在庫が高まる中で生産が低下する調整局面に位置している(第1−1−5図)。ただし自動車向けなどの高級鋼材等の分野では需要は強く、鉄鋼生産は2006年に入ってから緩やかながら持ち直しに転じている。
 以上のように、業種ごとにやや異なる動きはあるものの、鉱工業全体としてみると、在庫は引き続き抑制されており、大幅な在庫増加はみられていない。在庫投資額を、出荷、製品需給判断、前期の在庫水準等で説明した関数を推計して、在庫の動向を要因分解すると、2004年末から2005年初にかけては需給悪化による「意図せざる在庫」の増加がみられたが、2005年央には需給の改善によって在庫が低下した(付図1−1)。2005年後半以降は、出荷増による強気の在庫積み増しと一部業種の需給悪化による在庫増加が入り混じったような状況となっている。

●稼働率の高まりにより生産能力は拡大へ
 これまで減少が続いてきた生産能力指数は2005年央には増加に転じた(第1−1−6図)。これまで企業は遊休設備の除去を行ってきたことにより、生産能力は2000年時点を1割弱程度下回る水準となっている。こうした中で、生産の増加が続き、稼働率は一般機械、輸送機械等の分野でかなり高い水準まで上昇しているほか、これまで能力を増加させてきた電気機械等の分野でも稼働率の上昇がみられている。このため、企業は生産能力を増加させる方向に転じつつあるとみられる。
 業種別にみると、デジタル家電等の需要が増加していること等を反映して電子部品・デバイスは既に2004年から生産能力が拡大していた。これに加えて一般機械、輸送機械も2005年には能力拡大に転じている。このように、生産能力が拡大することは、供給面での制約が緩和されることで生産の円滑な増加を可能にする一方で、需要の伸びが生産能力の伸びを下回る場合には在庫が増加しやすくなることにもなるので、生産能力の増加は緩やかなものではあるが、これまで以上に需要の動向や在庫の動向に注意が必要になると考えられる。

●増収増益が続く堅調な企業収益
 景気回復が続く中で企業収益も改善が続いている。法人企業統計によると、全産業の経常利益額及び売上高経常利益率ともに2002年度から2005年度まで4年連続で増加し、その水準もバブル期を超えるまでになっている(第1−1−7図(1))。業種別にみると、2005年度には、自動車、電気機械等が輸出の好調さや円安等を反映して増益となっているほか、非製造業でも、不動産、小売業等を中心に内需の増加を反映して増益となっている(第1−1−7図(2))。他方、石油価格等の素材価格が高騰する中で、製品価格への転嫁がある程度進んでいる鉄鋼等の業種では収益は増加しているが、転嫁が難しい運輸等の業種では収益は悪化するという2分化の動きがみられる。
 こうした企業収益増加の背景としては、石油価格高騰による収益の圧迫はあるものの、内需・外需ともに増加がみられる中で売上高が順調に伸びていることに加え、雇用・設備・債務の3つの過剰の低下に示されるように固定費の伸びが抑制されていることがある。
 法人企業統計により、経常利益の前年比の動向を、売上高要因、人件費要因、変動費要因等に分解してみると、次のような特徴がみられる(第1−1−8図)。第一に、製造業、非製造業ともに売上高が安定的に増益に寄与していることである。売上高の前年比伸び率は、製造業では2002年末以降、非製造業でも2003年初以降、プラスの伸びを継続して確保しており、「増収増益」の形が続いている。第二に、2005年以降では人件費はわずかながら増加してきているものの、人件費の伸びは総じて抑制されており、それが収益に与える影響は限定的なものにとどまっている。第三に、2004年央以降、人件費等を除く売上原価からなる変動費の収益押下げ効果が若干増加してきている。これは、特に製造業で顕著であり、石油価格やその他の素材価格高騰の影響が出てきているものと考えられる。そこで、製造業について、さらに、産出価格と投入価格の変化が収益に与える影響を計算すると、2004年以降、石油価格の高騰等を反映して投入価格の上昇が収益押下げに寄与している。産出価格についても2004年後半以降徐々に上昇し、ある程度価格転嫁が進んでいるものの、投入価格上昇による減収効果の方が大きく、両者を差し引きすると石油製品等の素材価格高騰が収益を圧迫している姿になっている。ただし、売上数量の増加による増益効果がそれを上回っていることから、企業収益は増加が続いている。
 雇用・設備・債務の3つの過剰が引き続き低下する中で、企業の損益分岐点比率(実際の売上高を100とした場合にどの程度まで売上高が低下しても収益が出るかという比率)は、製造業、非製造業ともに2002年以降低下が続いている。まず、3つの過剰についてみると、日銀短観2006年6月調査では、雇用過剰感は全規模全産業でマイナス5とむしろ不足感が高まっており、設備過剰感もゼロとなり、過剰感が解消されている(第1−1−9図)。債務については、有利子負債のキャッシュフロー比率の動向をみると、ピークであった93年末の12.4倍から2005年度末には6.4倍まで低下しており、ほぼバブル前の水準まで低下した。
 こうした3つの過剰の解消は、固定費の削減を通じて企業の損益分岐点を押下げている。2002年以降の損益分岐点比率の低下がどのような要因によってもたらされたかを分析すると、2002年から2003年にかけては人件費や利払い費の減少によるところが大きかった。一方、2004年以降では、固定費が抑制される中で売上高が増加することで損益分岐点比率引下げに大きく寄与している(付図1−2)。製造業と非製造業に分けてみると、製造業の損益分岐点比率の低下の方が大きいが、これは製造業の方が売上高の伸びが大きいことと人件費が引き続き抑制されていることを反映している。
 2006年度の展望については、日銀短観(6月調査)によると、全規模全産業で1.5%の増益が見込まれている。業種別では、製造業では電気機械、非製造業では小売、情報通信等で高い伸びが見込まれている。

●高い伸びが続く設備投資
 民間企業設備投資は、国民経済計算によると、実質で2003年度7.0%増、2004年度5.6%増、2005年度7.5%増と高い伸びを続けている。2006年度についても、日銀短観(2006年6月調査)によると、全規模製造業で11.0%増、全規模非製造業で3.8%増が見込まれており、6月調査時点の計画としてはかなり高い伸びが見込まれている。
 業種別の動向を日銀短観でみると、2005年度は引き続き製造業が2ケタの伸びを示す中で、非製造業でも着実な増加がみられる。製造業の内訳をみると、2004年度にかけて高い伸びを示した電機機械では2005年度にはやや一服感がみられた一方で、設備投資需要の増加や輸出の回復を受けて、一般機械や自動車の伸びが2005年度に高まっている(第1−1−10図)。加えて、これまで設備投資に慎重だった化学や鉄鋼等の素材系の業種でも2005年度には設備投資を増やす動きがみられた。非製造業については、2005年度には不動産、情報通信、卸・小売、電気・ガスなどが堅調に増加している。

●企業の設備投資姿勢が積極化する中で設備投資の効率性は維持
 企業の設備投資姿勢は基本的に慎重なものであるが、景気回復が4年以上続いてきたことにより、最近になってやや積極化がみられる。具体的には、設備投資は依然として企業のキャッシュフローの範囲内で行われているものの、キャッシュフローに対する設備投資の割合は、製造業、非製造業ともにこのところ高まってきている(付図1−3)。また、法人企業統計では、これまで設備投資額が減価償却及び除却額を下回ってきたために企業の有形固定資産は減少傾向にあったが、2005年には製造業では有形固定資産額が増加に転じた(前掲付図1−3)。ただし、非製造業では有形固定資産残高は引き続き減少が続いている。
 こうした背景には、長期にわたる景気の回復によって企業設備の稼働率が高まっていることがある。製造業について、稼働率と設備投資額の関係をみると、稼働率の上昇と設備投資の増加が同時にみられるようになっている(第1−1−11図)。産業別の特徴としては、輸送機械や一般機械では、この数年間にわたって稼働率の上昇と設備投資の増加が継続的に見られている一方、電機機械については、2004年後半から2005年前半にかけて稼働率の低下と設備投資の鈍化がみられた。その後、2005年央から再び稼働率と設備投資がともに上昇する姿がみられている。
 他方、設備投資が最近になってやや積極化したとはいえ、資本ストックの増加ペースは過去の回復期と比べて極めて緩やかなものであり、設備投資の効率性の低下はみられていない。具体的には、法人企業統計により、付加価値を有形固定資産で除した設備投資の効率性を計算すると、製造業、非製造業ともに、付加価値の上昇により効率性が引き続き改善している(付図1−4)

●設備投資の増加は企業の期待成長率の上昇を反映
 設備投資は増加を続けているものの、今後、経済が潜在成長率を中心とするペースで成長を続けていくならば、設備投資が直ちに過剰となる可能性は小さいと考えられる。これは以下のように各企業の期待成長率の動向をみることで説明ができる。
 設備投資の増加が将来にわたって続くかどうかについては、各企業の期待成長率の高さに依存する。安定した企業の期待成長率の実現には、それがマクロの潜在成長率と整合的であることが必要となる。
 均衡状態において資本係数の伸び及び除却率を一定とすると、企業の期待成長率の水準に応じて、それと整合的な設備投資の伸び及び設備投資/資本ストック比率の組み合せが計算できる。この関係を使うと、逆に、実際の設備投資増加率と設備投資/資本ストック比率の推移から企業がどの程度の期待成長率を想定しているかを推測できる。そこで、まず、前提となる資本係数のトレンドについてみると、90年代には上昇トレンドが上方に屈折した様子が伺われるが、近年やや低下の動きがみられる(第1−1−12図(1))。資本係数はTFPの上方屈折により逆に低下する関係があり、これを要因分解すると、近年、生産性の上昇によって分母である実質GDPの伸びの高まりによるマイナスの寄与が効いており、資本生産性が回復していることが分かる。除却率については、90年代末に4%台後半にやや高まり、その後ほぼ横ばいとなっている。
 こうした資本係数、除却率のトレンドの下で企業の期待成長率を推計すると、企業は2005年度では1%台後半程度の期待成長率を想定していることが推測され、2004年以降、期待成長率が上昇している様子がうかがわれる(第1−1−12図(2))。企業の期待成長率を企業行動に関するアンケート調査でみても同様に上昇の傾向がみられ、平成18年調査では今後3年間及び5年間の期待成長率は実質で1.9%となっている。こうした設備投資行動から伺われる企業の期待成長率は、生産関数から推計される潜在成長率が2005年時点で1%台半ばであることと比べてわずかに高いが、このところ潜在成長率も上昇を続けていることを考慮すれば、ほぼ整合的であると考えられる。

コラム 2 所得収支の黒字が貿易収支の黒字を上回る
 2005年の国際収支統計によると、投資収益等を含む所得収支の黒字が名目GDP比2.3%となり、貿易収支黒字の2.1%を初めて上回った。このため、国際収支の発展段階説(注)に沿うと、日本は、今後、所得収支が黒字、貿易サービス収支が赤字になる「成熟した債権国」の状態へ進むのではないかとの見方もなされている。
 日本の国際収支の時系列的な推移を「国際収支の発展段階説」の観点からみると、80年代に貿易サービス収支の黒字化に加えて所得収支も黒字化し、「未成熟な債権国」へと転換した後、80年代後半から90年代後半までは貿易サービス収支の黒字額の減少傾向が続き、「国際収支の発展段階説」どおり、「成熟した債権国」への発展段階を着々と辿っているように見える。しかしながら、2000年以降は輸出の増加によって貿易サービス収支の黒字は下げ止まっている。2005年については、貿易サービス収支の黒字は縮小したが、これは輸出の減少によるものではなく原油価格上昇による輸入額の増加という特殊要因による影響が大きい。
 今後については、経常収支の黒字を背景に対外資産の増加傾向が続くことが見込まれるため、長期的には所得収支の黒字幅が増加していくことが想定されるものの、主たる貿易相手国であるアジア経済の高成長もあって輸出は増加傾向が続くと見込まれることから、日本が今後直ちに「成熟した債権国」の状態に移行するという可能性は高くないと考えられる。ただし、原油価格は依然として高止まりを続けており、貿易バランスの動向には今後とも注意していく必要がある。
 (注)「国際収支の発展段階説」とは一国経済の経済発展段階に応じ貯蓄・投資バランスが変化していくことに着目し、対外的な資金の流れから国際収支構造の変化を説明したものでCrowtherが1957年に提唱した。

コラム2表 我が国の国際収支(対名目GDP比)の推移

(3)改善が広がる家計・労働部門

●需給が引き締まる中で失業率が低下するなど緩やかに改善する労働市場
 景気回復が続く中で、労働市場は、若年雇用や地域格差など一部に厳しさが残るものの、雇用者数の増加と失業率の低下が続き、改善の動きが一段と強まっている。
 企業部門の労働需要の増加を反映して、労働需給は一層引締り基調となっている。有効求人倍率は2006年第1四半期時点で1.03倍と92年以来の高い水準となっている。有効求人倍率を一般とパートに分けてみると、一般の求人倍率は0.6倍程度ではあるが、2003年以降上昇傾向が続いている。 他方、パートの求人倍率は2倍を超える水準にあるが、最近では伸びがやや鈍化している(第1−1−13図)。新規求人の産業別の内訳をみると、一般の求人については、 医療・福祉、飲食、卸小売といった第3次産業に加えて、製造業や建設業の増加も寄与している。他方、パートの求人については引き続きサービスや上記のような第3次産業の伸びの寄与が大きい。企業の雇用過不足感を労働経済動向調査でみても、パートの不足超過が続く中で、常用雇用についても2003年後半以降過剰から不足超過に転じている。加えて、これまで抑制を続けてきた企業の新規採用も、この数年増加に転じている。このように、労働需給については、パートだけでなくフルタイム雇用についても需要が増加するなど、雇用の質にも改善がみられている。
 労働需給が引締り基調にある中、雇用者数も緩やかに増加している。労働力調査によると、全産業の雇用者数は2003年以降緩やかな増加傾向にあるが、2005年度は前年差65万人増とやや増加ペースが高まってきている。産業別にみると、引き続き医療・福祉、卸小売、情報通信業といった第3次産業の雇用者数の伸びが大きいが、2005年央からは、これまで減少が続いてきた製造業でも増加に転じている(第1−1−14図)。こうした製造業における雇用増加の背景をみるために、産業連関表を用いて、輸出が1単位増加した時に波及効果まで含めて各産業の雇用がどの程度増加するかを計算した上で、それと実際の雇用の伸びの相関をみた。すると、輸出の雇用誘発度の高い産業で実際に雇用が増加する傾向がみられることから、製造業の雇用については輸出が堅調に推移していることを反映している面も大きいと考えられる。
 完全失業率は2003年初の5.5%をピークに低下傾向が続いている。2005年度の完全失業率は4.3%となり、前年の4.6%からさらに低下した。こうした失業率の低下の背景について、労働状態間の移動の観点からみると、2003年初めに失業率が低下に転じたのは、リストラの一服もあって就業や非労状態から失業状態へ転じる確率が低下したことを反映したものであった(第1−1−15図)。その後、2004年以降になると、雇用者数の増加を反映して失業状態から就業状態に移行する確率も上昇に転じ、失業率の低下がさらに明確になっている。
 賃金の動向については、定期給与(特別に支払われた給与を除くきまって支払われる給与)の伸びは2005年にプラスに転じたものの、極めて緩やかな伸びにとどまっている(第1−1−16図)。ただし、雇用者数は緩やかに増加していることから、賃金に雇用者数を掛け合わせた雇用者所得は安定した伸びを示している。

●緩やかな増加が続く個人消費
 雇用情勢の改善によって所得や消費者マインドが堅調に推移する中、個人消費は緩やかな増加を続けている。国民所得統計でみると、実質家計最終消費支出は、2004年度1.6%増、2005年度2.4%増となり、基調として緩やかな増加が続いている。2005年第4四半期には、例年よりも気温が低めで推移したこと等を反映して冬物衣料や暖房器具等の季節商品が売れたこともあって家計最終消費支出は前期比年率換算で2.6%の伸びとなった。2006年第1四半期にはその反動もあって2.0%増とやや鈍化がみられた。ただし、こうした動きを均してみれば消費は基調として実質で2%強程度の緩やかな増加を続けていると考えられる。
 個人消費の伸びは、短期的には上記のような天候要因等の影響も受けるが、その基調的な動きを規定しているのは所得と消費性向の動きである。ここで、消費性向は貯蓄率の裏返しであり、貯蓄率の長期的な傾向はライフ・サイクルの観点から取り崩しにまわっている高齢世帯の割合や金融資産残高等の影響を受けると考えられる。そこで、長期的な消費の動向が、所得に加えて、高齢世帯の割合、金融資産残高といった変数の影響も受けると考えて、これらの変数の間に成り立つ長期均衡関係を推計し、現状の消費がそうした長期均衡からどの程度乖離しているかをみた。すると、2004年には実際の消費が長期均衡よりもやや上振れしていた様子がみられるが、2005年から2006年初めにかけては、消費はほぼ長期均衡水準にあることが分かる(第1−1−17図)。こうした消費の長期的トレンドと実際の消費の動きの違いについては、消費者マインドの動きがその背景にあると考えられる。同じ期間における消費者態度指数でみた消費マインドの動きをみると、2004年頃には雇用環境や収入の増え方等が同時に改善に転じたこともあって消費マインドが急激に改善した様子が伺われる一方、それ以降の期間については、2005年末にやや高まりがみられるが、総じて高い水準で安定的な動きを続けており、上記のような長期均衡と実際の消費の乖離と整合的な動きとなっている(付図1−5)
 したがって、個人消費は、短期的な振れを伴いながらも、均してみれば所得等の基礎的な要因により規定される伸びの範囲内で推移していると考えられる。2005年についてこうした基礎的な要因をみてみると、実質雇用者報酬の伸びが2%程度まで高まったことに加え、金融資産残高も株高もあって4%強伸びたことから、消費のトレンドの伸びは2005年時点で2%を若干上回っていたと考えられる(前掲第1−1−17図)。

コラム 3 構造的失業について
 一般に、失業率は、景気循環に伴う需要の変化による影響を受けるだけでなく、求職者を求人先に結びつけるという労働市場の効率性等の影響も受けると考えられる。このため、失業全体を、摩擦的失業、構造的失業、循環的失業に分けてみる考え方がある。このうち、摩擦的失業は単に求職から就労に至るまでの時間差に伴う失業、構造的失業は労働者の質や地域にミスマッチがあるために起こる失業と考えられる。循環的失業は、実際に存在している失業から摩擦的失業と構造的失業を差し引いた部分である。ただし、実際には摩擦的失業と構造的失業とを厳密に区別することは困難なため、実質上、両者を合わせて構造的失業と呼ぶことも多い。
 構造的失業率を求める一つの方法としては、欠員率と失業率が一致している状態を労働需給の均衡とみなして、その時の失業率を計算する手法がある(こうして求められた失業率は均衡失業率とも呼ばれる)。欠員率と失業率の関係を表すUV曲線を用いて均衡失業率を求める方法には、需給が均衡していたと思われる特定の時期におけるUV曲線の傾きを各時期に当てはめて計算する方法や、構造的なUV曲線のシフト要因を推計に含めて求める方法がある。それぞれの方法で均衡失業率を求めると、2005年時点で3%強から4%程度の間にあると推計される。
 他方、構造失業率を求める別の方法としては、インフレを加速しない失業率(NAIRU)を求めるやり方もある。これは、短期においては、労働需給が逼迫し失業率が低下すると賃金上昇を通じてインフレ率が加速する傾向がみられるという経験的事実に基づいている。NAIRUと均衡失業率の関係については、労働市場が幾つかの市場に分かれており、それぞれの市場における超過需要・超過供給によって賃金上昇率が決まっていると仮定するならば、両者は理論的には一致すると考えられる。インフレを加速しない失業率(NAIRU)は、賃金関数を推計することにより求められる。ただし、90年代末以降、日本経済はデフレ的な状況にあるため、安定的な推計結果をえることはやや難しい面があるが、推計結果によると、NAIRUは3%台半ばから4%強程度となっている。
 いずれにせよ、構造的失業率の推計結果については、一定の幅をもってみる必要がある。

コラム3表 構造失業率の定義と最近の推計値


●財別にみた消費の動向
 今回の景気回復期の消費の回復について、名目ベースでその内訳を財・サービス別にみると幾つかの特徴が指摘できる。
 消費総合指数2の財・サービス別の内訳を用いて動向をみると、需要側の統計、供給側の統計ともに、2004年にはサービス消費の回復傾向が明らかになり、続いて2005年には財の回復も明確になっている様子がみられる(第1−1−18図)。さらに個別の品目の動きを供給側の統計でみると、財については衣類・身の廻り品が2005年にはそれまでの減少から若干増加に転じているのが目立っている。これは、2005年夏の軽装推進運動(クールビズ)の影響や年末の冷え込みによる冬物衣料の好調な売上げ等を反映している面もあると考えられる。石油製品も大幅に増加しているが、これは主に価格上昇や厳冬による暖房用需要の増加等によるものと考えられる。他方、民生用電気機械については、2004年に大きく増加した後、2005年にやや減少している。これは2004年が猛暑やオリンピック効果で冷暖房器具やテレビ等の伸びが大幅に高まったことの反動や、デジタル家電等では著しい価格下落のために名目値が低めに出ていること等を反映していると考えられる。サービス面については、飲食店、娯楽サービス、対個人サービス(例えばフィットネス・クラブや文化・研修活動等)、旅館・その他宿泊といった幅広い分野で2005年に増加している。需要側・供給側共通推計項目についてみると、高齢化の進展もあって医療・介護が着実に増加に寄与していることに加えて、2005年には株高による取引高の増加を反映して金融取引が大きく増加しているのが特徴である。
 これらの動きをまとめると、以下のことが指摘できる。第一に、衣料品や各種サービス消費の増加は、これらの所得弾力性が高いことを考えると、消費者の所得環境が改善してきていることを示しているものと考えられる。第二に、石油価格の高騰によって石油製品の伸びが高まっているが、ガソリンや灯油などは価格弾力性の低い必需品的な性格をもっていると考えられることから、むしろ家計の圧迫要因になっていると考えられる。第三に、長期的な傾向としてみると、高齢化の進展はサービス消費の押上げに寄与しており、サービス消費の割合が高まる傾向がみられる。

●高齢化の影響に加えて消費増加を反映し、貯蓄率は低下
 国民経済計算によると、家計貯蓄率は1997年度に11.5%となった後、7年連続で低下し、2004年度には2.7%となった3。これを、所得要因と消費要因に分解すると、可処分所得が雇用者報酬や営業余剰(自営業者の事業所得等を含む)等の減少傾向を反映して1997年度をピークに減少を続けている一方で、最終消費支出は変動を均してみると緩やかに増加しているために、所得面・消費面の両方が貯蓄率の低下に寄与する形になっている(付図1−6)。特に、今回の景気回復が始まった2002年度以降については、雇用情勢の好転を受けて改善しつつあるものの家計の所得の伸びが横ばい程度にとどまる中で、消費支出が回復してきていることが主に貯蓄率の低下に寄与している。なお、こうした国民経済計算における家計貯蓄率は、持ち家を自分に賃貸していると仮想して家賃収入と家賃支払いの双方を所得・消費に計上する帰属計算を行っているために貯蓄率が低めに出る傾向があること等により、家計調査等で示される貯蓄率とは異なることには留意が必要である。
 このような最近の貯蓄率の低下は、景気回復に伴って消費支出が増えていること等を反映した面と、長期的な動きとして高齢世帯が増加していることを反映した面の双方があると考えられる。これは下記の分析により検証される。
 ライフ・サイクル仮説によると、一般に若年の時に貯蓄を積み増し高齢になると貯蓄を取り崩すと考えられるため、人口の高齢化は貯蓄率を低下させる方向に働くと考えられる。そこで、家計貯蓄率の動向を人口要因等でどれだけ説明できるかをみるために、国民経済計算のデータを用いたマクロ変数間の相関関係を用いたアプローチと、家計調査の年齢階級別のデータと人口構成の変化を用いたアプローチの双方により分析を行った。
 まず、国民経済計算を用いたアプローチについては、ここでは、平成17年度年次経済財政報告の分析を踏襲して、家計貯蓄率の長期的な動向を説明する変数として、高齢化を示す変数である従属人口比率、金融資産残高、金利水準、一般政府の貯蓄投資差額を用いた4。推計の結果によると、これらの変数間に共和分の関係がみられ、長期的にみて実際の家計貯蓄率がこのモデルの理論値と乖離することはないことが確認された(第1−1−19図)。この推計によると、これまでの家計貯蓄率の低下には、高齢化による従属人口比率の上昇が一貫して押下げに寄与していることに加え、金融資産残高の蓄積が貯蓄率の低下に寄与していることが分かる。今後もこのような長期均衡関係が成り立つとすると、高齢化の進展によって貯蓄率はさらに低下していくことが見込まれる。
 次に、家計調査の年齢階級別のデータを用い、年齢や生まれ年で分類された各世帯の貯蓄行動の傾向に変化がないとした場合に、人口構成の変化が貯蓄率にどのような影響を与えるかをみた5。具体的には、家計調査の勤労者世帯のデータを用い、各世帯の属性を年齢階級、生まれ年で分け、それぞれの世帯の貯蓄率の傾向を、年齢効果(ライフ・サイクルに応じた影響)、世代効果(生まれ年の違いによる影響)、時代効果(景気変動など各世帯共通にみられる影響)に分けて分析した(第1−1−20図)。年齢効果は、ライフ・サイクル仮説が想定するように、30歳代から50歳代までの貯蓄率は高く、60歳以上の高年齢層で貯蓄率は低いという傾向を表しており、世代効果は戦後生まれの世代では後年にいくほど貯蓄性向が高まるという傾向を示している。時代効果は、90年代にやや貯蓄率が高まる傾向にあったことを示しているが、最近時点では80年頃とほぼ同じ状況にある。こうした年齢別、生年別の世帯属性が今後も変わらないと仮定して、今後の人口構成の変化による影響を推計すると、高齢化の影響によって家計貯蓄率は2005年の25%程度から2010年には23%程度へと低下することが見込まれる。ただし、この推計は勤労者世帯を対象としたものであり、貯蓄率がより低い無職世帯を含めると貯蓄率の水準がかなり低下することには留意が必要である(前掲付図1−6)。

●貸家・マンションを中心に堅調に推移する住宅建設
 景気回復が持続する中で、所得環境の改善や引き続き低い水準にある金利の動向等を反映して、住宅着工は月々の変動を均してみると堅調に推移している(第1−1−21図)。2005年度の住宅着工戸数は約125万戸となり、3年連続で増加した。これを利用関係別にみると、持家や分譲戸建が若干減少する一方で、貸家と分譲マンションが高い伸びを示している。地域別にみると、南関東(首都圏)、東海、近畿という三大都市圏でいずれも貸家、マンションを中心に伸びが目立っている。ただし、その他の地域でも都市部を中心に住宅着工戸数はほぼ増加傾向がみられている。
 三大都市圏や地方都市を中心に貸家やマンションが高い伸びを示している背景には、需要面では、低金利や所得環境の改善を背景に住宅取得意欲や貸家への投資意欲が高まっていることがあると考えられる。これに加えて、都市部への人口流入が増加していることや団塊ジュニア層が一次取得年齢に達してきていることもその背景にあると考えられる。このうち、各地域の人口の流出・流入の動向についてみると、中期的なトレンドとして首都圏や名古屋圏に加えて、主要な地方都市への人口流入が高まっている(第1−1−22図(1))。こうした都市圏への人口流入の背景には、バブル崩壊後の継続的な地価下落により利便性の高い都市部の物件の魅力が増加したことや、それに合わせて供給面でも企業が売却した用地がマンションや貸家として利用されているという面があると考えられる。貸家が増加している背景には、供給面で、これまでに建てられた貸家が老朽化のために建て替えサイクルに入っていること等を反映している面もあると考えられる。この点について、過去の貸家の着工をみると、70年代と80年代に2回大きな着工戸数の増加がみられるが、当時建てられた貸家のうち現存する戸数は過去5年間でかなり減少していることから、それらの物件の一部は現在新たに建て替えられているものとみられる(第1−1−22図(2))
 マンション着工に関して、2005年末に明らかになった耐震偽装問題の影響については、住宅取得予定者の慎重化や建築確認の遅れなどによる住宅需要への影響が懸念されたものの、2006年初までの統計をみる限りでは、販売面、着工面ともに好調に推移しており、影響は統計上確認できない。2005年11月以降、マンションの販売戸数は前年比弱含みで推移していたが、2006年3月には大幅な増加がみられたほか、契約率は高い水準を維持しており、販売面への影響は今のところみられない(付図1−7)


2 景気循環の側面からみた今回の回復局面の特徴

 今回の景気回復は、2002年初から始まり、既に4年以上が経過している。ここでは、そうした景気回復の長期化にみられる今回の景気回復局面の特徴について分析する。

(1)これまでの景気循環の経緯と今回の特徴

●景気拡張期は90年代に短期化した後、今回の景気拡張期は長期化
 今回の景気循環を除くと、戦後の景気拡張期の平均的な期間は約33カ月である。ただし、景気拡張期間については、80年代後半のバブル期をピークに、90年代には短期化する傾向がみられた。具体的には、景気拡張期間は、86年から91年までの51カ月、93年から97年までの43カ月、99年から2000年までの22カ月と短期化した(付表1−8)。同様に、各年代10年間に含まれる景気拡張期の割合をとってみると、60年代82%、70年代65%、80年代56%、90年代57%と、80年代及び90年代における景気拡張期間の割合の低さが目立っている(第1−1−23図)。ただし、比較期間の長さが違うため厳密な比較はできないものの、仮に2002年初から2006年初時点まで拡張期が続いているとすると、2000年から2006年初までの期間については、景気拡張期間の割合は80%台へと再び高まることになる。
 世界的にみると、景気循環の期間は、傾向として多くの国で長期化していることが指摘されている。IMF(2002)によると、70年代以降における先進21カ国平均の拡張期間は約5年、景気後退期間は約1年とされている6。同じ期間における日本の平均的拡張期間は2.7年、後退期間は1.8年となっており、日本では景気循環自体が短く、かつ、一循環に占める景気拡張期間の割合が小さい。先進国21カ国平均の景気循環の期間は、70年代平均の約4年から80年代及び90年代には約6年へと長期化したが、これは主に景気拡張期間が長くなったことによるものであるとされている。このように景気拡張期間が長くなる傾向がある背景として、OECD(2002)では、金融政策等マクロ経済運営の方法がより緻密になってきていることや、製造業と比べて景気変動の少ないサービス産業の割合が高まっていること等が指摘されている7。他方、景気循環が短期化している国については、一般に労働市場や製品市場の硬直性のために負のショックに対する対応力が弱いことが背景にあると考えられる。日本についても、そうした構造問題が90年代の景気循環の短縮化に影響している可能性が指摘されている(前掲IMF(2002))。

●景気の振幅は90年代に拡大したが2000年代には縮小
 景気による振幅の大きさについても、先進国では、70年代、80年代、90年代と最近になるほど、景気拡張期の上昇幅は小さくなる一方で、景気後退期の落ち込みは浅くなり、総じて成長率の振幅が安定する傾向がみられる。一方、日本では90年代にかけて、景気後退期の落ち込みが大きくなるなど、むしろ振幅の拡大がみられる。ただし、2000年代に入ってからは、日本でも振幅の縮小がみられる。
 景気の振幅をみる一つの目安として、GDPギャップの分散の大きさを主な国・地域別に時系列的に計算すると、日本、アメリカ、ユーロ圏ともに、60年代から70年代にかけて、第一次石油危機による影響もあって変動が大きくなった後、80年代には変動が小さくなっている(第1−1−24表)。その後、アメリカ及びユーロ圏では、90年代、2000年代にかけてさらに変動が低下している一方、日本では、バブルの崩壊等もあって90年代には再び分散が拡大した。90年代における日本のGDPギャップの分散の拡大を、内需と外需の寄与に分けると、外需は分散を低下させる方向で寄与しており、分散の拡大は専ら内需によるものであった。ただし、2000年代においては、日本では景気の変動は小さくなっている。
 日本について、景気拡張期、景気後退期に分けて、それぞれ一四半期当たりの実質GDPの成長率を計算すると、景気拡張期における成長率は1971年から始まる第7循環及び1975年から始まる第8循環にかけて大きく下方屈折した。その後は、バブル期にやや高まったが、90年代以降はほぼ横ばいとなっている(第1−1−25図)。暫定的に2002年初から2005年度末までの平均的な実質GDP成長率を計算すると2.5%(各四半期の前期比年率成長率の平均)となり、90年代の拡張期とほぼ同じ成長率となっている。
 他方、後退期における成長率については、傾向的に低下が続いている。かつては、景気後退期でもプラス成長が続くグロース・リセッションであったが、1993年から始まる第12循環、1999年からの第13循環ではマイナス成長となっている。

●2000年以降、世界の景気変動との相関が再び高まる
 日本と他の国との景気の連動性をみるために、日本、アメリカ、G7、ユーロ圏12カ国、東アジア諸国の実質GDP成長率の相関係数を計算すると、日本と他の国・地域との相関は、いずれの場合でも80年代と比べると90年代に低下している(第1−1−26表)。こうした背景には、90年代の日本の景気循環には、バブルの崩壊やそれに伴う不良債権問題等国内の要因が大きく影響していた可能性があることに加え、90年代後半には東アジアとの相関が高まっていることからすると、アジア通貨危機等アジア地域に固有の要因も影響が大きかったことがあると考えられる。
 なお、2000年以降についてみると、アメリカ、G7、ユーロ圏、東アジアともに日本との相関が再び大きく高まっている。これは、不良債権問題のような日本に固有の問題が解消したことにより、日本の景気と世界の景気の連動性が回復した可能性が考えられる。また、こうした世界における実物面での景気循環の収斂傾向と同時に、金融面でも世界的に連動した動きがみられる。例えば、主要国の実質長期金利の動向をみると、この数年間にわたり収斂の傾向がみられているほか、主要国の株価動向も最近では似た動きを示している(詳しくは第2節を参照)。

●消費の役割が高まる今回の景気回復
 GDPの需要項目の寄与度を景気拡張期ごとに計算すると、各景気循環を通して寄与が大きいのは消費と投資である(第1−1−27図)。寄与率でみると、過去には実質GDPの成長の半分以上が消費の寄与によるものであったが、その役割は傾向的に低下し続け、93年から始まる第12循環では3割程度、99年から始まる第13循環では2割強程度まで寄与率が低下した。他方、設備投資については、かつては寄与率2割程度であったが、90年代に入ってからは4割前後の寄与を示すようになっており、相対的な役割が大きくなっていた。しかしながら、2002年以降の景気回復局面では、雇用情勢の改善等を背景に消費の寄与率は約4割まで大幅に回復し、個別の項目の寄与としては設備投資寄与率(約3割)を上回り、最大の寄与項目となっている。
 公共投資と政府消費を合わせた公需については、90年代前半には寄与度が高まったが、99年からの第13循環及び今回の回復局面ではマイナスに寄与している。外需については、拡張期において、プラスに寄与することもマイナスに寄与することもあるが、今回の景気拡張期では2割5分程度の寄与率を占めており、過去と比べて寄与が大きくなっている。
 以上のように、今回の景気回復局面では、過去と比べて消費の貢献度が高まったことにより、消費、投資、外需がともに回復するという民需主導のバランスのとれた姿となっているのが特徴といえよう。

(2)デフレ下での景気回復の特徴

 今回の景気回復の特徴の一つは、物価面で緩やかなデフレを伴いつつも、長期にわたる景気回復が実現されたことにある。そこで、以下では、デフレという側面から、今回の景気回復の動向を振り返る。

●デフレによるマイナス効果を企業体質の改善が相殺
 1930年代におけるようなデフレ・スパイラルが経済に悪影響をもたらすのは当然である。90年代後半以降にみられる緩やかなデフレであっても、様々な名目値の下方硬直性が存在する下では、経済に対して悪影響を与えると考えられる。具体的には、デフレ下では、1実質債務残高の増加、2金利がゼロ以下には下がらないという非負制約の下での実質金利の高止まり、3名目賃金の硬直性等によって価格変化の余地がなくなる分だけ数量調整が起こりやすくなり、負のショックがあった場合に生産や雇用等の変動が大きくなるといったマイナス面がある。
 そこで、これらの点について、デフレによってどの程度の影響があったかを振り返ってみると、以下のようなことが確認される。

i)実質債務残高
 1998年から2005年までの期間において、実質債務残高は、消費者物価上昇率で実質化した場合にはその間のデフレによって2%程度、内需デフレーターで実質化した場合には7%名目値よりも割り増された形となった。ただし、結果的には企業の債務削減幅がそれを大きく上回ったため、債務残高は実質でみても1998年と比べて、前者で6.1%程度、後者で1.3%程度低い水準にある(第1−1−28図(1))

ii)実質金利
 実質金利についても、デフレの進行により2001年にかけて大きく上昇した。その後は、日銀の量的緩和政策の効果や引締め気味の財政政策運営等によって名目長期金利が低下したことに加え、デフレも加速度的には進行しなかったため、結果的にみれば過去と比べて著しく高い水準にはならなかった(第1−1−28図(2))

iii)名目賃金の硬直性
 名目賃金の硬直性について、縦軸に時間当たり名目賃金、横軸に失業率をとったフィリップス曲線でみると、90年代後半には曲線の傾きがフラット化し、失業率の上昇の割には賃金が低下しなかった様子がみられる。しかしながら、2001年以降には時間当たり名目賃金の引下げが行われ、硬直性がやや緩和するとともに、それに伴って失業率も2003年初めをピークに下落に転じている(第1−1−28図(3))。この点を統計的に確かめるために、失業率と時間当たり賃金の相関を示すフィリップス曲線を推計し、その係数の安定性をみると、2000年当たりで構造変化がみられる。このように、名目賃金の硬直性が解消し、失業率の低下や労働分配率の低下がもたらされた背景については、第2章において詳しく分析しており、企業の過剰債務の存在により雇用者側が賃金確保よりも企業の存続が優先された可能性等が指摘できる。

●デフレ・スパイラルが避けられた背景−世界経済・政策対応等外部要因の影響
 以上のように、結果的には当初懸念されたデフレによるマイナス効果はそれほど顕在化せず、経済はデフレ・スパイラルに陥ることなく、むしろ2002年以降景気回復を続けている。その背景には、以下のような世界経済・政策対応等の外部要因がデフレによるマイナス効果を相殺し、経済の下支えに貢献したと考えられる。
 第一に、景気回復の初期時点において外需が起爆剤となってデフレ下での景気反転を促したことである。特に今回は、中国の高成長により、中国向け輸出が大幅に増加し国内生産を後押しした。今回の景気回復局面における輸出数量の伸びに対する中国向け輸出の寄与度は平均で3%ポイント程度であり、過去と比べて寄与度が大きく高まっている(第1−1−29図)。こうした中国等アジア諸国の高成長もあり、日本はその他のOECD諸国と比べると、比較的輸出環境に恵まれた状況にある。この点について、輸出市場の成長率(輸出先国における輸入伸び率の加重平均)をみると、日本の輸出市場の成長率は1990年から2001年までの平均7.9%から、2002年から2005年までの平均で8.2%へとさらに高まっているのに対し、アメリカでは同じ期間に輸出市場の伸びが6.8%から6.2%へ低下するなど他のOECD諸国では総じて輸出市場の成長率が鈍化している状況がみられる(付表1−9)
 第二に、金融再生の取組により信用不安が顕在化することが防がれたことに加え、不良債権処理による企業倒産や失業の増加が当初予想されたよりも抑えられたことである。これにより、クレジット・クランチのような金融が極端に収縮する状況が避けられたほか、企業部門の債務比率も低下したことで、企業間の信用格差が縮小し、企業間信用は2004年から拡張に転じた(第1−1−30図)。また、2001年に主要行の破綻懸念先以下の不良債権を原則3年以内に直接償却するとの方針が表明された当時は、それによって失業者数が大幅に増加するとの見方があった。しかし結果的には、倒産によらない企業再生の枠組みが充実する中で、企業倒産件数が想定を大きく下回ったことや、倒産に至った場合でも清算型よりも再建型が増えたこともあって、失業者数は想定ほどには増加しなかった8。こうしたこともあって、失業率が2003年初から低下に転じると、家計の雇用不安は低下し、それが消費の回復にも大きく貢献したと考えられる。この点について、消費者態度指数を雇用不安記事件数や求人等の変数に対して回帰すると統計的に有意な相関がみられ、労働需給が改善する中で2002年頃をピークに雇用不安記事件数が減少に転じるとともに、消費者態度指数も改善している(第1−1−31図)
 第三に、日銀の量的緩和政策や政府の財政再建努力を反映して、名目の短期金利だけでなく長めの金利も含めて上昇が抑制されてきたことや、為替レートが90年代と比べて比較的安定的に推移したことである。開放経済において、為替の動向も含めた総合的な金融状況をみる指標として、金融状況指標(Monetary Condition Index)がある。これは、実質短期金利と実質実効為替レートを加重平均したものである。このMCIの推移をみると、2000年頃をピークにして2006年初に至るまでほぼ一貫して緩和方向で推移している(第1−1−32図)。これは、実質金利がほぼ横ばい程度で推移した一方で、実質実効為替レートが円安方向で推移したことを反映している。なお、実質実効為替レートの減価は、名目実効為替レートの減価に加えて、物価下落の影響も反映している(物価が下落すると円建ての商品価格がドル建てに比べて相対的に下落するため)。既にみたように実質長期金利についても大幅な上昇が抑制されてきた。金利上昇が抑制された影響としては、第2章で詳しくみるように、2000年代初時点で過剰な債務を抱えていた企業部門の利子負担増を抑制することで債務返済余力を与え、過剰債務解消に貢献したと考えられる。為替レートが安定的に推移したことも、企業部門の計画的な海外事業展開に貢献したものと考えられる。

●デフレ下での景気回復長期化の背景−企業・家計部門の行動
 デフレ下において景気回復が長期化している背景として企業・家計部門について特徴的な動きを整理すると、以下のような点を指摘できる。
 第一に、景気回復が続く中で、企業部門の経営が極めて慎重であることである。企業部門では、収益改善の割には賃金の引上げは限定的であり、借入れを増やすことにも慎重である。この点は、第2章において詳しく分析するが、その背景には、企業ガバナンスの変化を背景に、企業がより効率的な経営を目指していることがあると考えられる。その結果として、企業の損益分岐点比率は引き続き過去と比べて低い水準にとどまっており、外的なショックに対する耐性が高まっている(前掲付図1−2参照)。
 第二に、今回の回復局面では、特定の産業に偏った回復ではなく、幅広い業種にわたり回復がみられることである。これは、特に1999年から2000年にかけての回復が情報化関連に偏ったものであったことと対照的である。回復が幅広い業種に及んでいる背景には、個人消費、設備投資、外需のバランスがとれた成長の姿となっていることがあると考えられる。業種ごとのばらつき度合をみるために、企業収益について、業種間の変動係数を計算すると、今回は多くの産業で同時に回復がみられるために分散が低下している状況がみられる(第1−1−33図)。このように、回復が多様な業種に及んでいることは、外的なショックに対する抵抗力を強めている。具体的には、原油高により企業収益は圧迫されているものの、深刻な影響はこれまでのところ一部の産業にとどまっており、産業部門全体への悪影響は限定的なものにとどまっている。
 第三に、景気回復の勢いが企業部門だけでなく家計部門にも及び、個人消費と設備投資のバランスのとれた回復の姿となっていることである。既に述べたように、GDP成長率への寄与度でみて、今回の回復局面では個人消費の寄与が高まっているのが特徴となっている。このように個人消費の役割が高まった背景には、所得の伸びも緩やかながら回復している中で、既にみたように雇用情勢の改善によって消費者マインドが高まっていることがある。

(3)景気循環上注意すべき要因

 いかなる景気回復局面であっても、経済活動主体の予測と現実との乖離が蓄積される中でいずれ経済のどこかに歪みが蓄積し、それが次なる景気循環を引き起こすという事態は避けられない。そうした景気の自律的な運動は、過去の経験では、特に資本ストックの調整と在庫循環によるところが大きい。そこで、ここでは、設備投資と在庫の動向について、循環的観点から留意すべき点について検証した。

●情報化関連投資以外にも注意が必要なデジタル家電関連投資の動向
 企業の設備投資を、JIPデータベース9に基づいて、情報化関連投資と非情報化関連投資に分けてみると、90年代までの過去の循環では、非情報化関連投資は比較的大きく変動している一方、情報化関連投資は景気循環に関わりなく増加するという傾向がみられた(第1−1−34図(1))。しかしながら、1999年から2000年までの拡張期とその後の2001年の景気後退期には、情報化関連投資の振幅の方が非情報化関連投資の変動よりも大きく、結果として情報化関連投資が投資循環の振幅を大きくしてしまった。データの制約もあって2003年以降の状況については同じベースで比較はできないが、資本財出荷やソフト・ウェア投資の動向からすると、情報化関連投資は今回の景気回復期では比較的安定的に推移しているものとみられる(第1−1−34図(2)、(3))。ただし、情報化関連投資には分類されない、半導体製造装置やフラット・パネル・ディスプレイ製造装置の出荷はかつてと比べて高い水準にあり、今後の動向は、デジタル家電等の市況や需要動向に左右される可能性もあることには注意が必要である。

●民間企業設備投資の変動は安定化に向かう
 設備投資の安定性をみるために、民間企業設備投資の分散を5年ごとにローリングして計算すると、バブル期とその崩壊を含む80年代末から90年代初めにかけて、金融危機がみられた90年代末の2つの時期に分散の大きな上昇がみられる一方、2000年以降の期間については分散が低下し、設備投資の変動が安定化しつつあることが示される(付図1−10)。こうした民間企業設備投資の分散を、個別産業ごとの分散と各産業に同時にみられる共分散に分けてみると、民間企業設備投資の分散が大きく高まった80年代末と90年代末には、ともに共分散が大きくなったことによって設備投資全体の変動が大きくなったことが分かる。これは、これらの時期に経済に共通のショックがあったためと考えられる。他方、2000年以降について、民間企業設備投資の分散が低下しているのは、主に共分散が低下したことを反映している。
 現時点のデータからは、設備投資は当面堅調に推移していく可能性が高いと考えられる。ただし今後予想外のショックによって企業の期待成長率と現実の成長の乖離が生じ資本ストックが過剰となる可能性等については常に注意していく必要がある。

●全体の在庫調整リスクは限定的だがIT関連業種の動向には留意が必要
 在庫循環については、既に述べたように、今回の局面では幅広い業種で回復がみられているため、特定の業種の調整が全体の在庫調整につながるリスクは小さいとみられる。近年の企業レベルにおける在庫管理技術の進歩もあり、短期における在庫調整速度は上昇している。出荷変動に対する生産の弾性値をみると、最近では1前後の水準で推移しており、企業は出荷の動向に敏感に対応して生産量を増減させている様子がうかがわれる(付図1−11)。その結果、出荷の変動に対する在庫の弾性値はゼロに近づいており、出荷の変動が生産調整によって吸収され、在庫の増減に直接結びつきにくくなっている。
 ただし、個別の産業レベルでみると、2004年末の情報化関連の在庫調整や、2005年央からの鉄鋼等の素材業種の在庫調整など、業種単位では軽度の在庫調整が起きており、今後もそうした個別業種の動向には注意が必要である。その意味では、既にみたように、最近の在庫全体の変動に対して、最も大きな影響を与えているのは情報化関連業種である。最近の情報化関連の在庫循環図をみると、依然として出荷の伸びが在庫の伸びを上回ってはいるものの、徐々に在庫の伸びが高まりつつある点には留意が必要であろう(第1−1−35図)


3 今後の景気動向をみる上での留意点

 今後の景気動向をみる上で注意が必要と考えられる要因として、引き続き原油価格高騰の影響と世界経済の動向が挙げられる。さらに今後の金利上昇の影響についても留意が必要と考えられる。

(1)原油価格の動向とその影響

●高止まりする原油価格
 最近の原油価格の動向をみると、2005年8月から9月にかけて大型のハリケーンが石油関連施設の集中するメキシコ湾岸地域に被害をもたらしたことによる原油及び石油製品の需給逼迫懸念も相まって上昇した(第1−1−36図(1))。その後、長引く油価高騰が需要の伸びを抑えるとの懸念が高まったこと、原油在庫が順調に積み上がったこと等により需給逼迫懸念がやや和らぎ、価格は下落し、落ち着いて推移した。2006年初めには、アメリカ東海岸部における寒波の影響等により価格がやや変動した後、3月以降については、イランの核保有問題やナイジェリアにおける石油施設破壊といった地政学的リスク等により石油供給懸念が生じたことなどにより、再び高水準で推移している。
 原油価格の水準でみると、WTIは2006年1−3月平均で63ドル/バレルと、今回の原油高騰が始まった2002年初めの22ドル/バレル水準と比べて193%高い水準に達している。ドバイでみても、ほぼ同じ傾向にあり、2006年1−3月平均で60ドル/バレルと、2002年初めと比べて189%高い水準にある。他方、一般物価水準を調整した原油の実質価格でみると、実際の原油価格の上昇ほどには高い水準にはないが、それでも最近かなり高まってきている。具体的には、2006年4月時点の実質原油価格の水準を100とすると、第一次石油危機時(1974年)は95程度と現在と同じくらいの水準である。しかし第二次石油危機時(1981年)は150を超える水準となっており、その当時と比べれば現在の実質価格はまだ低い水準にある(第1−1−36図(3))。しかし、実質石油価格についても、一般物価が安定している中で石油価格が急激に上昇していることもあり、2002年初めの水準と比べると3倍程度上昇しており、注意が必要である。
 今回の原油価格高騰の背景には、中国、インド等をはじめとする新興国やアメリカ経済の拡大による世界的な石油需要の増加に対し、原油生産国の生産能力及び石油消費国等の精製能力が過去の投資不足によって制約されていることがあり、ここ数年の原油価格の高騰は一過性のものというよりも今後も継続する可能性が高いとみられる。IEA(国際エネルギー機関)の中期見通し(2005年12月)によると、楽観的な経済成長の予測のもとでは、原油高にもかかわらず世界の石油需要の伸びは今後5年間(06年から10年)年率2%強の伸びを維持すると見込まれている。この背景には、中国などの新興国がエネルギー大量消費型の急速な工業化局面を迎えていることがあるとされている10。他方、石油生産については、OPECが150〜200万バレル/日の能力拡大を表明しているものの、それには2〜3年の期間を要することから、今後も、需給が逼迫した状態が続くと見込まれる。

●石油価格高騰と世界経済の動向
 日本、アメリカ、ドイツについて、過去の石油危機時と今回の石油価格高騰の影響の違いをみると、今回の石油価格の高騰が世界経済に与える影響については、今のところ各地域ともに限定的なものと考えられる。
 消費者物価(総合)及びコアCPI(食料・エネルギー除き)の動向についてみると、第1次石油危機時には各国とも2ケタのインフレ率がみられたほか、第2次石油危機時にもそれなりの上昇がみられたが、今回の石油価格上昇局面では、過去2回のような大幅な上昇は各国とも今のところみられていない(第1−1−37図(1))
 過去の石油危機時には、インフレの加速を抑制するために各国とも金融引締め策がとられ、金利は大幅に上昇した。しかし今回の局面では各国ともインフレが緩やかなものにとどまっているため、金融政策の引締め度合いは小さく、短期金利の上昇は今回が一番小さい(第1−1−37図(2))
 石油価格上昇による所得移転額のGDP比をみると、産油国であるアメリカは過去の石油危機時でも相対的にそれほど大きくはなかった。日本とドイツについては、第1次石油危機時には3%弱程度と大きかった。しかし今回の局面では、2005年で0.5%程度にとどまっており、影響は限定的である(第1−1−37図(3))
 今回の石油高騰に伴うオイルマネーの還流については、過去の石油危機時と比べて以下のような特徴が指摘されている11
 産油国におけるネットの石油輸出額の増加幅の対世界GDP比をみると、今回は1.2%程度であり、前回の0.8%、前々回の1.1%と比べてほぼ同程度である(第1−1−38図(1))。ちなみに、今回の世界の石油収支をみると、輸出国の収支が4370億ドル増加したのに対し、アメリカが1240億ドルのマイナス、他の先進国が1980億ドルのマイナス(うち日本は400億ドルのマイナス)、中国が53億ドルのマイナス、他の途上国が53億ドルのマイナスとなっている。
 石油価格上昇から得られた資金は金融資産等への対外投資の増加につながっていると考えられるが、世界の資本フローに占める産油国のシェアは、今回は37%程度であり、前回の39%、前々回の58%と比べると小さくなっている。このように、オイルマネーの世界の金融市場におけるプレゼンスはそれほど大きくなく、かつてのように、オイルマネーが各国の金融・資産市場の価格形成に大きな影響力を及ぼしているとは考えられない。
 過去2回の石油危機時には、オイルマネーは主に先進国の銀行預金等を通じて間接的に途上国への貸付けにまわり、それが80年代の債務危機につながったことが指摘されている。今回の運用先の詳細は正確には把握できないものの、銀行預金やアメリカ公債などへの投資は3分の1弱程度とみられており、様々な直接金融商品に分散されて投資されているものと見られている。
 今回の特徴としては、所得移転先の産油国では、増加した収入の使途を今回は慎重に選んでいると言われていることから、輸入増加幅は、過去と比べると小さなものにとどまっており、この面からは世界経済にはやや緊縮的な影響があるものと考えられる(第1−1−38図(2))

●国内産業や家計への影響
 石油価格高騰が日本経済に与える影響としては、既にみたような産油国への所得移転だけでなく、1価格転嫁が進まない間の企業収益への圧迫、2実質所得の低下による個人消費への影響等が考えられる。
 企業活動への影響については、一般的には投入価格が上昇する中で、産出価格に転嫁することができれば収益への影響は抑制されるが、転嫁が困難な場合には収益が圧迫される。製造業を加工型と素材型業種に分けて、経常利益の伸びを、売上高の増加、人件費等固定費の圧縮、及び原油価格上昇等による交易条件の悪化といった要因に分解すると、いずれの業種でも、投入価格上昇による交易条件の悪化が利益を押下げている一方、売上高の伸びがそれを相殺する方向に働いている(第1−1−39図)。ただし、素材型では産出価格への転嫁も進んでいるが、加工型では、競争環境の厳しさもあって最終製品価格への転嫁は限られている。
 非製造業では、原油ないし重油等の石油製品の投入比率の高い一部の業種に影響が強く出ている。産業連関表を用いて原油価格の上昇が100%転嫁したと仮定した場合の産出価格を求め、それと過去4年間の実際の価格上昇率を比べると、水運を除いて各業種とも、実際の価格上昇率は理論値を大きく下回っている(第1−1−40図)。これは、電力等では規制緩和もあって基本料金の引下げが行われていることに加え、トラック等の陸運業や漁業においては、競争環境の激化、外国産品との競合等により産出価格が下落しているものと考えられる。こうした業種では、原油価格の上昇が結果として利益を圧迫しているものとみられる。
 家計への影響について、エネルギー消費関連品目の価格を消費者物価でみると、2004年に1.6%、2005年に3.6%それぞれ上昇しており、ある程度家計を圧迫している様子が伺える(第1−1−41図)。家計調査により、時系列でエネルギー消費の購買ウェイトをみると、近年高まっている様子が伺える。エネルギー消費の購買ウェイトを地域別にみると、北海道、東北などの寒冷地では、東京と比べてウェイトが約7割も大きく、より負担は大きくなっている。

(2)世界経済の動向

●世界経済の現状と見通し
 世界の景気は着実な回復を続けている。2005年については、原油価格の更なる高騰やアメリカのハリケーン被害による影響はあったものの、世界経済全体でみると、中国など新興国の高い伸びもあって引き続き堅調に成長し、世界経済のGDP成長率は5%弱程度となった。2006年に入ってからは、2005年後半にやや減速したアメリカ経済やEU経済でも回復テンポが戻り、世界経済は引き続き着実な回復を続けている。
 国際機関の見通しによると、2006年の世界経済は引き続き5%弱程度と、2005年並みの堅調な成長を続けると見込まれている(第1−1−42表)。このうち、アメリカについては、2006年も投資や消費の伸びにより潜在成長率(3%程度)を若干上回る成長が見込まれており、ユーロ圏経済の成長率についても世界景気回復の影響が波及し2005年の1%台前半から2%程度へとやや伸びが高まることが見込まれている。中国についても、引き続き9%台の高い伸びが続くと見込まれている。

●世界経済のリスク要因
 世界経済はこのように順調な回復を続けている。他方で、これまで安定的に推移してきた主要国の長期金利がこのところ急速に上昇に転じている中で、この数年間リスク要因として指摘されてきた原油高、国際的な対外不均衡、住宅価格高騰といった問題も依然として存在している。
 世界的な金融動向についてみると、各国の物価が引き続き安定的に推移する中で、長期金利はこれまで比較的低い水準にとどまっていた。その背景には、高成長を続ける新興国や産油国から、対外不均衡を持つアメリカへと国際的な資金の還流が円滑に行われていること等があった。2003年から2005年にかけての世界の経常収支の黒字・赤字の状況をみると、最大の赤字国であるアメリカが世界の経常収支赤字の7割前後を占めている(第1−1−43図)。一方、そうした資金需要を賄う経常収支黒字国については、引き続き日本が最大のシェアを占めているものの、中国のシェアが2003年の7%から2005年に14%程度へと上昇したほか、産油国であるサウジアラビアやロシアがそれぞれ4〜5%程度の水準から8%弱程度へとシェアを高めている。このように、日本、新興国、産油国の資金が中心になってアメリカの経常収支をファイナンスする姿になっている。このためアメリカ経済が今後も堅調な成長を続けるとすると、さらに不均衡が拡大する可能性があり、その際に、国際資本移動が今後も引き続き円滑に行われるかどうかが注目される。特に、先進各国で金融政策が引締め方向となっている中で、日米欧ともに長期金利の上昇がみられており、それが国際的な資本移動にどのような影響を与えるかについては注視する必要がある。また、原油高によるコア・インフレへの波及が懸念される中、アメリカを始め金融政策面での対応が円滑に行われ、長期金利の急上昇や経済の失速がうまく避けられるかについても注意する必要がある。

(3)金利の上昇とその影響

●期待の振れによる金利上昇のリスク
 金利上昇の経済的な影響については第3節で詳しく分析するが、市場参加者の期待の振れによる金利上昇はリスク要因として留意しておく必要がある。第3節での金利上昇の影響は通常の景気回復期における経済実態を反映した結果であり、市場活動の中で吸収されていくべきものと考えられる。しかし日本銀行の量的緩和政策の解除により、短期金利の水準が調整されていく過程で市場参加者の期待に振れが生じて短期的には予想外の金利上昇が発生するリスクは存在する。特にこのような金利上昇が為替の変化を通じて企業収益に与える影響が無視できなくなるような状況も想定される。


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