平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


[前節] [次節] [目次] [年次リスト]

第2章 生活と産業の高度化

第2節 産業の高度化と情報化の役割

我が国の企業は,60年秋以降の円高に代表される厳しい環境変化を克服するための経営努力を行い,その結果として,ソフィスティケイト化と呼ぶこともできる,従前とは異なる産業の高度化が進展している。

本節では,まず産業構造の変化について概観し,次いで産業の高度化という観点から,経済のマイクロエレクトロニクス化,技術進歩,情報化の進展等の現状をマクロ的に分析し,更に環境変化に的確に対応した企業行動を製品の高付加価値化,生産技術の高度集約化,情報化の活用,経営の多角化に分けてミクロ的に分析を行う。

1. 産業構造の変化

我が国の産業構造は,企業の厳しい環境変化に対する対応の結果として高度化してきた。

42年から62年にかけての産業別国内総生産(実質)の構成比の変化をみると (第2-2-1図①),一貫して製造業のウエイトの高まりがみられ,卸小売業,金融保険業においてもウエイトが上昇している一方,農林水産業は,6.7%ポイントと大幅に低下している他,建設業でもウエイトが低下している。このように構成比が上昇している産業では,同時に付加価値率も上昇していることから,付加価値率が上昇している産業の我が国産業における地位が高まっていると考えられる。さらに,製造業の中の動きを業種別にみると(第2-2-1図②),42年から62年にかけて,電気機械が21.6%ポイント増となる等加工組立型業種の比重の高まりがみられる一方,食料品が10.1%ポイント減,身回品等その他製造業が11.9%ポイント減となり,生活関連型業種の比重が低下している。

業種間の構成比が変化していることは,すなわち,付加価値額のGDP弾性値(国内総生産の伸びに対する各産業の付加価値額の伸び)にばらつきが存在することを示している。52年以降,産業別にGDP弾性値の動きをみると (第2-2-2図①),製造業は一貫して1を上回っており,逆に農林水産業,建設業は低い水準で推移している。さらに,製造業における業種別GDP弾性値をみると (第2-2-2図②),電気機械の伸びが52年以降一貫して最も高く,我が国経済を牽引してきたと考えられる。また,一次金属,化学等も一貫してGDP弾性値が1を上回っている。52~57年には,電気機械の弾性値が突出して高かったが,57~62年においては,食料品,繊維の弾性値が低いものの他の主要業種は,1を上回っている。

次に,53年から62年にかけての製造業における実質付加価値率(実質付加価値額/実質産出額)の推移をみると (第2-2-3図),61年にはわずかに低下したものの,毎年着実に上昇している。産業別にみると,加工組立型業種の付加価値率が,60年以降,高水準ながらほぼ横ばいで推移し,生活関連型業種の付加価値率が,58年以降,低下傾向であるのに対し,基礎素材型業種では,付加価値率が58年以降上昇しており,特に62年の上昇幅が大きい。その理由として今回の景気拡大局面において,加工組立型業種では,従来から高付加価値化を志向してきたため,際立った付加価値率の上昇が表れていない一方,消費者ニーズの高級化に対応していくため,加工組立の段階に比べ付加価値率の上昇の余地の大きい基礎素材の段階での高付加価値化・合理化が進められている結果,基礎素材型業種の付加価値率の上昇幅が大きいと考えられる。また,個別業種の動向をみても,生活関連型業種の食料品が58年以降低下傾向にあるのに対し,基礎素材型業種の化学,一次金属が大きく上昇していることが注目される。

さらに,我が国産業の構造変化の動向を構造変化指数(業種別付加価値構成比の変化幅(絶対値)の合計)によってみると(第2-2-4図),製造業の構造変化指数は,47年以降着実に上昇しており,構造変化が進展している。製造業の中では,電気機械が52年に0.77ポイントであったのに対し,62年では3.79ポイントと大きく上げていることが寄与している。また,52年に0.29ポイントであった化学も62年に0.88ポイントと着実に上昇している。製造業の構造変化が活発になっている要因の一つには,企業が環境変化に的確に対応し,産業の高度化が進展していることが挙げられる。

2. 産業の高度化の流れ

我が国産業を取り巻く環境は,第2章第1節で既に述べた消費者ニーズの多様化・高級化,第3章で述べるNIEsの追い上げ等様々な変化が生じている。特に,60年秋以降の円高の進展は,我が国産業の競争力の低下を引き起こし,一層厳しい環境をもたらした。さらに,近年,我が国経済は,情報関連技術(コンピュータ,通信制御装置等に係る技術,以下同じ。)の目ざましい進歩によって,経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成が進んでいる。

第2-2-5図 産業の高度化の概念図

経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成は,環境変化に対応するための企業行動のバックボーンとなっている。いいかえれば,企業が,経営基盤を強化し,環境変化に対応するために,次に述べる様々な経営努力を実施しているが,その際,経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成を的確に活用することが重要となっている(第2-2-5図)。

経済のマイクロエレクトロニクス化の進展とは,従来,特定業種の生産現場において利用されてきたマイクロエレクトロニクス技術が通信技術等の急速な発展に伴い,経済全体に広がっていることと考えられ,情報ネットワークの形成とは,目ざましい発展をとげた情報関連技術,ノウハウ及びソフトが結合し,多様な情報を効果的に活用できる状態が形成されていくことと考えられる。そして,両者は密接に関連しつつ,産業の高度化のバックボーンとなっている。さらに,技術力の向上が,経済のマイクロエレクトロニクス化と情報ネットワークの形成の源となっていると考えられる。ここでは,経済のマイクロエレクトロニクス化,情報ネットワークの形成,基盤技術の向上に分けて述べることとする。

企業は,厳しい環境変化に対応するために,様々な経営努力を行っている。その方向としては,製品の高付加価値化,生産技術の高度集約化(ハイテク化),情報化の活用及び経営の多角化(複合化)が考えられる。個別の産業ごとの方向性は,重点の置き方に差はあるものの,すべての産業において四つの方向性をもっていると考えられ,その方向性を一言でいえば,産業の高度化ということができる。産業の高度化という考え方は,高度成長期から存在していたが,当時は,産業の高度化とは,大量生産によるコストダウンを中心としたものであったが,現在では,様々なニーズに対応するために,高付加価値製品の少量生産など多様な方向性をもつものとなっている。このため,従前からの産業の高度化と区別するために,高付加価値化,生産技術の高度集約化を目指す産業のファイン化と企業が業際市場へ多角化・融合化する産業のアモルファス化とを合わせた概念としての産業のソフィスティケイト化ということもできる。

例えば,電気機械工業においては,大型テレビ,Hi-Fiビデオの生産といった製品の高付加価値化を実現し,高品位テレビの開発,AV製品等の多品種少量生産システムの開発といった生産・研究開発面でのハイテク化が進展している。また,情報化の進展により業界内での受発注ネットワークの構築が可能となっている。さらに,情報処理サービス業への参入等経営の多角化が行われている(第2-2-6表)。

このような企業努力は「3.産業の高度化と企業行動」で述べることとするが,その結果,産業ごとの重点分野は異なるものの,産業の高度化は着実に進展しており,また,我が国産業は,円高以前の輸出主導型産業構造から内需主導型産業構造へと環境変化に積極的に対応している。

(経済のマイクロエレクトロニクス化の進展)

情報関連技術の急速な進歩により,経済のマイクロエレクトロニクス化が進展しており,ここでは,投入構造の変化等をみることによって,経済のマイクロエレクトロニクス化が把握できる。

まず,55年から62年にかけての投入係数の変化をSNAベースの産業連関表からみると (第2-2-7図(1)),62年における内生部門計の投入係数は,依然として一次金属が最も高いものの,55年から62年までの上昇幅は,電気機械が0.0150ポイント増と最も大きい。内生部門計の投入係数は,我が国経済における中間投入構造を示しているものであり,依然として一次金属(特に鉄鋼)が「産業の米」としての地位を保っているものの,電気機械の投入が大幅に上昇している。さらに,電気機械の変化を55年と60年の11省庁共同作成産業連関表からみると,半導体製造を含めた軽電機器(民生用電気機械,電子・通信機器及びその他の電気機器)の投入係数が55年の0.0151から60年の0.0221に上昇しており,半導体が新たな「産業の米」ということができるようになっている。

また,個別産業ごとに62年における電気機械の投入係数(SNAベース)をみると,55年に比べ,パルプ・紙を除きすべての産業で上昇している。特に,食料品,繊維,一次金属,精密機械,電気ガスでは,その投入係数が2倍以上になり,これらの業種における電気機械からの投入が大幅に伸びている。

次に,逆行列係数の行和(逆行列係数を各産業の行ごとに合計したもので,各産業に対してそれぞれ1単位の需要があったときに直接間接必要とされる供給量を表わす。また,行和を行和の平均値で除したものが感応度係数となる。)を利用して各産業の生産誘発効果をみると,一次金属への波及が小さくなる一方,電気機械への波及が大きくなっている。すなわち,55年から62年にかけての行和の変化を逆行列係数表(SNAベース)からみると (第2-2-7図2)),石油石炭,一次金属,パルプ紙等が低下している一方,電気機械,一般機械,金融保険,サービス等が上昇しており,製造業のなかでは,電気機械の上昇幅が最も大きい。

また,すべての産業において電気機械の逆行列係数が上昇しており,個別の産業をみても,精密機械,輸送機械において電気機械の逆行列係数の上昇幅が大きいものとなっている。

以上のことからみて,すべての産業において経済のマイクロエレクトロニクス化の進展していることがうかがえる。このような状況が,産業構造における電気機械の地位を上昇させていることの要因の一つであると考えられる。

さらに,対事業所サービスの状況をみると,物品賃貸業及び情報サービス業の伸長が著しい。57年から62年における名目販売額の推移を通商産業省「特定サービス産業実態調査」によりみると,物品賃貸業が119.0%増,情報サービス業が151.2%増となっている。後述するように,情報関連技術を中心とした技術革新のテンポが急速に速まっているため,企業においても技術の陳腐化に的確な対応を採る必要性が高まっている。このため,企業がリース契約による情報関連機器(コンピュータ,通信制御装置等の機器,以下同じ。)の活用及び情報処理業務の外注化を行う機会が増加しており,物品賃貸業及び情報サービス業の伸長と経済のマイクロエレクトロニクス化とは関連が強い。

また,経済のマイクロエレクトロニクス化は,新たなビジネスチャンスを広げており,物品賃貸業及び情報サービス業もこれらの流れに沿ってリース品目の拡大,情報処理業務の多様化など業容を拡大している。

(情報ネットワークの形成)

情報化には,「産業の情報化」と「情報の産業化」が存在する。前者は新しい情報関連技術を導入し,様々なレベルで情報ネットワークを活用して,産業及び企業の効率化が進展することを示し,後者は蓄積された情報等を基にネットワークを核として経済活動分野を拡大する産業のアモルファス化が進むことを示しており,情報ネットワークの形成が情報化の進展のバックボーンになっている。

まず,産業の情報化についてみると,運輸・通信技術等の飛躍的な発達により,大量の情報を迅速,かつ,的確に伝達し,効率的に処理することが可能となり,企業は,POS(販売時点情報管理)システム,EOS(補充発注システム;エレクトロニック・オーダリング・システム),VAN(付加価値通信網)等マイクロエレクトロニクスを応用した情報関連技術の導入により,商品の発注や販売在庫管理をより効率的に行うことが可能になっている。

産業の情報化は,卸小売業,サービス業のみにとどまらず,製造業においても広がっている。例えば,CIM(コンピュータによる統合生産;コンピュータ・インテグレイテッド・マニュファクチャリング)により販売マーケティング,事務,企画等の間接部門と技術集約化された製造工程を統合する形が大きな潮流のひとつとなっている。

次に,情報の産業化についてみると,既存産業の情報化及びハイテク化が進行していく過程で,従来,収益性が確保されないためビジネスとして成立しえなかった分野で新たなビジネスチャンスが広がっており,ソフトウェア業,情報処理サービス業,データベース業等既に情報産業として定着しているものに加え,ネットワークを利用したチケットサービス,インテリジェントビル化に代表されるビル管理業等が業容を拡大している。なお,情報関連サービス業(情報処理,通信処理等に係るサービス業,以下同じ。)については,「3.3)情報化の活用」で言及することとする。

産業の情報化の現状についてマクロ的にとらえるため,人員,経費,設備の三つの側面からみることとする。

まず,1社当たりの情報処理要員の推移をみると(第2-2-8図①),55年度以降強含みで推移している。非製造業における情報処理要員がほぼ横ばいで推移している一方,製造業においては,増加傾向にある。次に,1社当たりの情報処理経費の推移をみると (第2-2-8図②),56年度以降増勢を強めており,61年度には,55年度の1.8倍となっている。また,60年度以後,製造業の情報処理経費が非製造業を上回っていることが注目される。さらに,オンライン化企業比率の推移をみると(第2-2-8図③),50年度では全産業の約2割の企業がオンライン化されていたにすぎなかったが,近年では約8割の企業がオンライン化されており,設備面での情報化も大きく進展している。

情報処理要員,情報処理経費及びオンライン化企業比率の推移にみられるように企業の情報化は着実に進展している。情報処理経費の伸びに比べ,情報処理要員の伸びが低い理由として,情報関連労働者が不足しており,情報処理を外注しているためであると考えられる。また,製造業においては,人員,経費及び設備のすべての面において非製造業を上回っており,特に近年,製造業では情報化の進展が顕著である。

同時に将来に対する先行投資的要素が強い研究費の面をみても,分野別社内使用研究費の推移 (第2-2-9図)に示されるように,通信・電子・電気関係の社内研究費の伸びは底固く,今後も情報化が着実に進展すると考えられる。

一方,設備投資の面からも情報化の進展をとらえることができる。産業連関表を用いて情報化投資の進展をみると(第2-2-10図),情報化投資は,昭和40年にはわずか1千億円程度で,設備投資に占めるウエイトも1.7%にすぎなかったものが,昭和60年には6兆円をこえる規模に拡大し,設備投資全体に占めるウエイトも10%程度までに上昇している。この傾向はこのところ着実に設備投資を増加させている非製造業で顕著にみられ,通信業や情報サービス業など情報化と密接な分野をはじめ,オンライン化に取り組む金融保険業,POS・VAN構築に積極的な卸小売業などでは,機械関連投資の大部分が情報化投資で占められている(第2-2-11図)。

こうした動きはリース契約にもあらわれている(第2-2-12図)。リース契約額は順調に伸びており,民間設備投資に占める割合も増加傾向にあるが,その中でも情報関連機器の伸長は特に著しい。情報関連機器は,昭和51年度にはリース契約額全体の25%の割合だったが55年度には30%,60年度には40%,63年度には43%となっており,現在のリース利用の半分近くが情報関連機器となっている。これまでリースは資金力に乏しい中小企業の利用が中心とされていたが,情報化の進展がリース利用の裾野を広げ,このところ大企業での利用も増加しており(民間のリース利用総額に対する大企業の割合は58年度の33.9%に対し62年度には42.2%),また情報化投資に積極的な非製造業の利用割合も増加している(非製造業の利用割合は58年度の56.1%に対し62年度には63.1%)。これは,コンピュータをはじめとする情報関連機器は,新機種投入のサイクルが比較的短く,日進月歩の高機能化も実現するため,償却期間の問題やメンテナンスの面からリース活用のニーズが高まっていることが背景にあるものと考えられる。

さらに,産業に対する情報関連機器の供給面からも情報化の進展をみることができる。我が国の情報化関連機器売上高の推移(第2-2-13図)をみると,産業用情報化関連機器売上高は,53年に3兆1,000億円であったものが,62年には11兆8,000億円に達している。さらに,情報化関連機器売上高を対GNP比でみると,産業用情報関連機器は,59年から61年までの間,GNPに対する割合が停滞したものの,62年には再び増加に転じ3.4%となっており,情報関連機器は裾野を広げつつ浸透しているといえる。

(基盤技術の向上)

経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成の現状は前述したとおりであるが,地道な努力の積み重ねによる基盤技術の向上が両者のバックボーンになっていると考えられる。そこで,我が国産業の背景である基盤技術の向上をマクロ的にみることとする。

まず,我が国の研究開発の現状についてみることとする。我が国の研究主体別研究費の推移 (第2-2-14図)をみると,62年度において大学等の研究費は研究費全体の約20%(19,579億円),研究機関の研究費は約14%(13,845億円)となっている一方,会社等の研究費は6兆4,943億円と昨年度に引き続き6兆円を越えており,研究費全体の約66%を占めている。さらに,57年度から62年度にかけての研究主体別構成比の推移をみると,研究機関のウエイトはほぼ横ばいで推移し,大学等のウエイトは低下する一方,会社等のウエイトが上昇している。

次に,62年度の研究費総額の支出源を国・地方公共団体と民間とに分けてみると,民間が7兆7,166億円,国・地方公共団体が2兆1,118億円となっている。62年度の研究費総額に占める両者の支出割合は,民間が約8割,国・地方公共団体が約2割を占めており,民間の割合が大きい。

また,63年度の研究本務者数を研究主体別にみると,会社等が27万9,300人で過半数(54.4%)を占め,大学等が19万5,400人,研究機関が3万8,500人となっている。

さらに,我が国の特許出願件数の推移をみると,51年,52年と横ばい時期があったものの,その後旺盛な研究意欲の下で大幅な増加傾向を示し,62年には34万件に達している。分野別にみると,今後,市場が拡大されることが期待される超電導体,ニューセラミックス等の新素材及び半導体,LSI等のマイクロエレクトロニクスなどの分野が着実に増加している。技術の高度集約化は,産業の高度化の方向性のひとつであるが,技術開発の成果として特許出願件数をとらえると,出願件数の高い伸びは,我が国の技術開発の高まりを示している。

(外国技術の導入及び我が国技術の移転)

従来,我が国の技術進歩は,外国技術を導入し,改良することにより達成されてきた。我が国の技術輸出及び輸入件数の推移(第2-2-15図)をみると,輸出件数は48年度の2,033件から62年度の5,955件と約2.9倍の伸びになっているものの,輸入件数が48年度の5,513件から62年度の7,373件と約1.3倍の伸びになっているため,輸入件数が引き続き輸出件数を上回っている。しかし,技術貿易の輸出入額の合計を諸外国と比較しても,我が国は56年度以降アメリカに次いで第2位であり,我が国が外国との技術交流を引き続き活発に推進していることを示している。その理由として,我が国が外国の新規技術を柔軟に受け入れる素地があったことや応用技術の開発に優れた能力を発揮してきたことなどが考えられる。

また,我が国の技術輸入対価支払額及び技術輸出対価受取額の推移 (第2-2-15図)をみると,59年度には受取額が支払額とほぼ同額となったが,60年度以降は再び支払額が受取額を上回っているもののその差は取引額の約14%にすぎず,40年代後半に比べその差が縮小している。このことは,外国技術の導入からスタートした我が国が,諸外国へ技術移転を実施するようになってきていることを示しており,我が国の技術力の高まりを表していると考えられる。

(就業構造の変化)

経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成は,就業構造にも変化を発生させている。55年から62年にかけての情報関連労働者(システムエンジニア,プログラマー,キーパンチャー等,以下同じ。)の推移をみると,全労働者数の増加に比べ,情報関連労働者数の増加率は著しく大きい。このため,全労働者に占める情報関連労働者のシェアは,55年の0.83%から60年には1.02%,62年には1.27%と急上昇している。さらに,情報関連労働者の推移を職種別にみると(第2-2-16図),システムエンジニア,プログラマーの伸びが著しい一方,キーパンチャーが大きく減少している。前述したようなオンライン化の進展に伴い,情報関連労働者の中でもより高度な情報処理を行う労働者のウエイトが高まっていることを示している。

次に,総務庁「国勢調査」により55年から60年にかけての就業構造における変化を産業と職種の両面からみると,ほとんどすべての業種で情報処理技術者を含む専門的技術的職業従事者を増やす一方,管理的職業従事者を減らしている。また,生産工程従事者は,生産額の増加が著しい電気機械では大幅に増やしているものの,繊維,一次金属では,生産工程の合理化に伴い,生産工程従事者を大幅に削減していることが目立つ。

特に,すべての産業において,情報処理技術者,電算機操作員等の情報関連職業従事者の数も増加しており,そのなかでも情報関連技術者の増加幅(19.1万人増)が最も大きい。個別業種ごとの情報関連職業従事者数の変化をみると,情報サービス業(12.5万人増),卸売業(2.7万人増),電気機械(2.2万人増)の増加が著しく,各産業における情報化の進展が著しいことが見受けられる。

以上,我が国の産業の高度化について,様々な角度からみてきたが,現状を一言でいえば,産業の高度化が,経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成をバックボーンとして進んでいるということができる。両者は相互に関連しつつ高度化を進めており,その背景には基盤技術の向上がある。そして,今後ともこの方向は変化がないものと考えられる。

3. 産業の高度化と企業行動

円高,アジアNIEsの追い上げ,貿易摩擦等の輸出環境の悪化と消費者や企業のニーズの多様化・高級化など様々な環境変化を踏まえて,我が国産業は,経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成を活用しつつ,積極的かつしなやかな対応を示しつつある。それは,多様化・高級化するニーズに合わせ,先端技術や蓄積されたノウハウを駆使しながら,高付加価値製品を柔軟な多品種少量生産システムにのせて作ることをめざすものであり,そこでは技術開発力と情報化があらゆる局面で重要な役割を担っている。

このような企業行動は,企業の経営目標の変化にも端的に表れている (第2-2-17図)。我が国企業が最も重視する経営目標は,10年前の「売上高の最大化」から,現在は「利益の最大化」へと大きく変化しており,10年後にもこの傾向に変化はない。また,利益増大の手段においても,「スケールメリットの追求」を挙げる企業が10年前に比べて大きく減少している一方で,「高付加価値化」をはじめ「事業の多角化」,「事業の国際化」を挙げる企業が大幅な増加をみせている。その中でも「技術開発の強化」は10年前から一貫して,極めて重要な利益増大手段として位置づけられており,企業の技術開発重視の姿勢がうかがえる。さらに,「ニッチ市場の開拓」をめざす動きもみられる。すなわち,ニッチ市場とは,新商品や新しいアイデア,新しい業態によって,従来の市場とは分断された特定の市場領域のことで,その市場で圧倒的な地位を占めようとする戦略が採られるようになってきている。

以下では,「産業の高度化」として捉えることのできる企業行動の特徴を様々な側面から描出してみることにしよう。まず(1)では,高付加価値化とコストダウンが同時進展している様子をとらえ,(2)では,製品の高付加価値化,多品種少量生産を可能にしている企業の技術開発,とりわけ生産工程の改善について述べる。(3)では,情報化の活用が,製造部門にとどまらず,企業の間接部門や物流・販売のネットワーク等,あらゆる分野で進展していることに触れ,最後に(4)では,事業分野の多角化についてみることにしよう。

(1) 製品の高付加価値化とコストダウン

消費者や企業のニーズの多様化・高級化等に対応しながら,企業は,より付加価値の高い製品,技術的にもより高度な分野を中心に,製品の高付加価値化と国内生産体制の再編成を進めている。

(製品構成の変化と高付加価値化の進展)

第2-2-18図は,製造業の売上高の変化を,産出物価と産出数量の変動によってどの程度追跡することができるかをみたものである。産出物価と産出数量との積と売上高との乖離,すなわち,価格上昇でも生産数量の増加でも説明できない売上高の増加部分を,ここでは高度化要因と呼ぶことにする。産出物価と産出数量の指数はいずれも品目及びウエイトが基準時に固定されていることから,高度化要因には,製品の高付加価値化に加え,産業構造の変化に伴う製造業全体としての製品構成のシフトを包含する,広い意味での製品構成の変化を示すものと考えられる。61年10~12月期の景気の谷から63年10~12月期までの間に,製造業の売上高は約21%増加しているが,その間,産出物価がほぼ横這いで推移する中で,産出数量の伸びは約16%にとどまり,残りの約5%に当たる部分が高度化要因であった。これは,前々回の景気上昇局面である52年10~12月期(谷)から55年1~3月期(山)までの売上高の伸びが,物価と数量との積の伸びとほぼ等しくなるのとは対照的である。このような高度化要因の寄与は,環境変化に積極的な対応を示す企業行動のひとつの表れとみることができよう。

高度化要因を業種別にみると,食料品,繊維,窯業土石,金属製品,機械工業など幅広い業種で売上高の伸びに対する高度化要因の寄与は大きく,製品の高付加価値化の進展とともに,企業業績への非本業部門の高い貢献度を示している。例えば,繊維では非繊維部門の伸びが売上高の増加に大きく寄与しているし,電気機械などでは製品の高付加価値化の寄与も大きいと考えられる。現在では,価格と数量の変動のみではとらえ難い国内生産体制の質的な変化が起こっており,製品の高付加価値化は,事業分野の多角化と並んで,その重要な柱のひとつとして位置づけることができると考えられる。

次に,製品の高付加価値化を主要な耐久消費財でみてみよう。 第2-2-19図は,いくつかの耐久消費財について,生産単価を国内卸売物価で除し,製品の高付加価値化の進展を調べたものである。卸売物価は,ほぼ同一の性状・機能をもつ製品の価格の推移をみるものであるから,企業のコスト削減努力,原材料価格の変化等を反映するものではあっても,同一製品内での質的変化--高付加価値化の進展--を体現するものではない。したがって,生産単価を卸売物価で除した実質的な生産単価の動きをみることによって,高付加価値化の動きを抽出することができる。

55年以降のカラーテレビの生産単価の動きをみると,60年まではカラーテレビの卸売物価とパラレルに低下してきたが,60年を境として,卸売物価が引き続き低下し,コストダウンが進む中で,生産単価は明確な上昇トレンドに転じた。その結果,60年までほぼ一定であったカラーテレビの実質的な生産単価(生産単価を卸売物価で除した値)は,61年以降,急激に上昇した。その上昇幅は,60年を基準として,63年には50%を超えており,製品の高付加価値化が急速に進展していることがわかる。カラーテレビのみならず,多くの製品で,60年~62年頃を境として,高付加価値化が進展ないしは加速している状況が観察され,カラーテレビ,電気洗濯機,電気冷蔵庫など,既に成熟したと考えられてきた商品においても,大型化,高機能・多機能化,高品質化が進行し,第1節でみたとおり新たな需要に対応している。

カラーテレビの国内需要(国内出荷+輸入,国内出荷は日本電子機械工業会「民生用電子機器データ集」,輸入は大蔵省「貿易統計」による)に占める26型以上の大型製品の比率をみると,60年には4.8%であったものが,63年には21.5%に達した。他方,NIEsからの低価格品を中心とする輸入の比率も60年の0.5%から63年の7.4%へと急上昇している。その間,カラーテレビの国内卸売物価は約2割も低下した。同様の傾向はVTR等他の製品についてもみることができる。ここでは,アジアNIEs等との水平的国際分業と国内生産品の高付加価値化という関係を軸に,徹底したコストダウンを伴いながら,産業の高度化が進行している。

素材型工業においても,製品の高付加価値化に取り組んでいる。繊維では,極細繊維など高付加価値製品の開発とアパレルなど縫製加工を中心とする川下部門への積極的な事業展開が進められている。鉄鋼でも,亜鉛メッキ鋼板等の表面処理鋼板,高張力鋼など高機能鋼材(機能付与構造鋼材)等のウエイトが徐々に高まっており,高機能化,高級化が進んでいる。また,同じ製品であっても,より高度な技術を体現した高機能製品も開発されており,製品構成の変化に表れない製品の高付加価値化も進んでいる。ファインスチールの分野は将来の重要な発展分野と目されており,ファインスチール化は今後の鉄鋼業の大きな課題のひとつにもなっている。

(企業のコスト削減努力)

以上のような製品の高付加価値化の動きは,企業の絶え間ないコスト削減努力によって裏打ちされている。既にみたとおり,製品の高付加価値化が進むとともに,従来製品のコストダウンが着実に進められている。ここでは投入原単位の低下を例に,企業の地道な経営努力の跡をみることにしよう。

第2-2-20図は,投入産出相対価格と投入原単位の積として,産出額に対する原材料コストの動向をみたものである。投入産出相対価格は,60年秋以降の円高等により,一年余にわたって大きく低下したが,その前後では極めて安定的に推移している。55年4~6月期から元年1~3月期までの間に,原材料コストは約27%低下したが,その間の相対価格の低下が約11%であるのに対し,投入原単位は,安定的な低下トレンドをもって約18%低下し,その低下幅は相対価格の低下幅を上回っている。また,60年4~6月期以降でみても,原材料コストの低下は約16%で,その間に相対価格は約9%,投入原単位は約8%低下している。このように,60年以降の円高による原材料価格の低下局面においても,原材料コストの低下のうち寄与率にして約4割強に相当する部分は,投入原単位の低下によってもたらされたものである。こうした投入原単位の低下は,マクロ的な産業構造の変化とも密接に関連しているが,投入価格の低下する局面でも続けられている個々の企業の地道な経営努力によるところもまた大きい。

業種別にみると,電気機械,一般機械等で投入原単位の低下が顕著に認められ,また化学,鉄鋼等の素材型業種においても,投入原単位の低下幅は,その技術的特性を勘案すれば,決して小さいものではない。電気機械,一般機械では,原材料コストの大幅な低下はほとんど投入原単位の低下だけによってもたらされており,それがこれらの業種における最近の収益率の回復にも大きな役割を果たしているものと考えられる。

投入原単位の低下にみられるような企業のコスト削減努力は,従来から,我が国産業が環境変化に対応するための基本的手段であった。製品の高付加価値化,ハイテク化,情報化,多角化等の産業の高度化を根底から支えている企業行動に,常にこうしたコストダウン努力があることに変わりはない。

(2) 生産工程の改善と技術開発

製品の高付加価値化の動きとともに,生産システムそのものも変貌をとげつつある。消費者や企業のニーズの多様化・高級化に柔軟に対応していくためには,いかに効率的かつ高品質に多品種少量の製品を生産していくかが課題となり,生産の量的機能よりも質的機能の重要性が高まってきている。そこでは原材料コストの削減や合理化による生産の効率化にとどまらず,生産工程の質的な変化が求められている。

(生産工程の質的変化)

既に述べたように,投入原単位の低下にみられるようなコストダウンを実現しつつ,多様化する消費者や企業のニーズに対して的確に対応していくためには,従来からの大規模大量生産を可能にする生産工程の量的側面の改善のみにとどまらず,プロダクト・サイクルや多品種少量生産を考慮し,生産工程に柔軟性,効率性及び即時性を備えるような質的側面を改善することが求められている。

このため,企業は,NC(数値制御)工作機械や産業用ロボット等を活用したFA(ファクトリ・オートメーション)によるマイクロエレクトロニクス化や溶融還元炉を中心とした新しい生産システムを導入し,生産工程等の改善をはかっている。

具体的には,コンピュータ,自動計測器,PC(プログラマブル・コントローラ),自動搬送機,NC工作機械等により構成され,自動監視機能をも備えたFMS(フレキシブル生産システム;フレキシブル・マニュファクチャリング・システム)による無人生産システムの導入(第2-2-21図),設計段階からの一貫した生産を可能にするCAD/CAM(コンピュータによる設計・製造)の導入等が行われている。その結果,作業時間の短縮,省力化,生産効率の向上が可能になると同時に,多様化・高級化等の幅広い消費者の嗜好に合わせた多品種少量生産が実現している。

さらに,LAN(構内情報通信網)により生産工程を販売・流通部門等の他部門と有機的に結び付けるCIM,輸送機械工業での新生産管理システム等の多品種少量生産システムの研究開発等が行われている。

これらは,情報化を活用することで生み出された新しい技術・設備を中心とした生産工程の質的改善とも密接に結びついているともいえる。つまり,生産工程の改善等のプロセス・イノベーション(例:電子ビーム露光システム)を基盤とするプロダクト・イノベーション(例:4メガ半導体の開発)により,様々な製品が生み出され,多様なニーズに的確な対応をすることが可能となっている。

(技術開発の現状)

現在,我が国経済は,外国からの技術導入によるキャッチアップ型から自主開発型へと移行してきており,さらには,技術提供による国際貢献型へと移行しなければならない状況にある。このため,従前とは異なる創造的技術開発が必要となりつつある。

そこで,技術開発の現況をみると,新製品の開発,ハード面での生産方法の革新,ソフト面での生産組織の変更の三つに大別される。

新製品の開発の焦点は,現在のところ,新素材,バイオテクノロジー,マイクロエレクトロニクスの三つにある。まず,新素材では,ファインセラミックス,超電導体など既存の産業の一部で活用されつつある素材もあるが,総体的に研究が緒に付いたばかりといえる。次に,バイオテクノロジーについては,近年,基礎的な研究が盛んに実施されるようになり,遺伝子組換えの技術は,まず付加価値の高い医薬品分野でインシュリン,インターフェロン等実用化段階を迎えているところである。さらに,21世紀には,植物の品種改良,新品種作り等農業,食料分野等において,この技術も全面的に実用化されることが期待される。

三つの技術の中で最も身近で実用化されており,産業の高度化に貢献している技術は,マイクロエレクトロニクスである。半導体,LSI等を製品に組み込むことにより,精度の向上,低価格化,小型化及び高機能化が容易になり,消費者ニーズの多様化・高級化に合致した製品を提供できるようになっている。

また,ハード面での生産方法の革新の一例として,産業用ロボット,MC(マシニングセンタ)等工作機械の進歩が挙げられる。産業用ロボットは,危険な環境下での作業や単純繰返作業を人間に代わって正確に行うために開発されたものである。55年から62年にかけての産業用ロボットの機能別生産台数構成比をみると (第2-2-22図),総生産台数が約4.8倍に増える中で,単純な機能しか備えていないマニュアルマニピュレータ及び固定シーケンスロボットは,86%から30%に低下する一方,より高度で複雑な機能を備えている可変シーケンス,プレイバック,数値制御及び知能ロボットは,14%から70%に上昇している。このことからみても,産業用ロボットの機能は,年々高度化しており,生産現場において,より複雑で人間の動作に近い機能をもつロボットの利用が可能となっている。

次に,研究開発への中長期的な取組をとらえるため,研究開発投資の状況をみると (第2-2-23図),昭和50年代中盤以降,研究開発投資は設備投資全体の長期的な伸びをかなり上回って増加してきていることがわかる。特に,昭和60年秋からの円高の進行で業績が悪化し,設備投資が減少していた61,62年度においても,研究開発投資が60年度とほぼ同水準を確保していたことは,中長期的な競争力確保のためにも研究開発投資を継続させた企業行動の特徴として注目される。

さらに,素材型産業,加工型産業にわけてみると,素材型産業では,全体の設備投資の推移に比べ研究開発投資の伸長が際立っている。これは,加工型産業に比べ,従来の研究開発投資水準が低かったことにもよるが,素材型産業が,この10年間,設備廃棄などの構造調整を進め,全体の設備投資水準を比較的抑えて安定させていた一方,中長期的な取組としての研究開発部門の拡充を着実に進めていたことを示している。

一方,輸出依存度の高かった加工型産業では,円高時に業績が急速に悪化し,企業の設備投資マインドが大きく低下していた中でも,研究開発投資の水準を下げるという行動はみられなかった。こうした投資姿勢もあり,昭和55年と比べた水準は,研究開発投資の方が全体の設備投資に比べ上昇率が高いものの,素材型産業に比べるとその乖離は小さい。つまり,本業部門が構造調整を進めていた素材型産業と異なり,加工型産業は円高時に一時伸び悩んだものの全体の設備投資を着実に増加させる中で,研究開発投資を積極化させていた。その背景には,加工型産業が電気機械をはじめとして,現在の技術革新の中核分野に位置し,技術革新の担い手であると同時にその利用者でもあるという性格が関係している。すなわち,加工型産業は研究開発に積極的に取り組む一方,その成果を生産部門での投資に取り入れ,両者が相互に関わりながら成長していたものと思われる。

以上みてきた生産工程の改善と技術開発によって支えられる優秀な製品は,我が国産業が,戦後,一貫して技術開発に務め,消費者ニーズに適合した成果であり,今後も,様々な分野で技術開発が進み,更に高付加価値製品の生産が可能になっていくと考えられる。

(3)情報化の活用

(情報化の効果)

様々な分野で情報化が進展しているが,企業としても情報化のメリットを活用すべく積極的に情報関連機器の導入を図り,情報関連経費を増加させる等の対応を採っている。

しかし,機器の導入状況を述べることで,情報化の進展状況についてとらえることは可能ではあるが,情報化のメリットの享受を数量的に明らかにすることはなかなか困難である。また,情報化のメリットとは,設計,生産,物流及び販売の各部門において表れるものであり,一つの数値で表すことも困難である。ここでは,情報関連機器の導入の進展と管理事務部門の人員の増減との関係によって考えてみることとする。

第2-2-24図は,55年から61年にかけてのコンピュータ装備率(一人当たりのコンピュータの減価償却費,レンタル料等の合計)の変化と55年から60年にかけての事務管理比率(電算機関連要員人員を除いた事務管理人員のシェア)の変化をグラフにしたものである。この図によれば,金融保険業,電気機械,卸売業等コンピュータの導入が進んでいる業種ほど,事務管理比率の低下が大きい。逆に,小売飲食店,建設業,繊維等では,コンピュータの導入が遅れており,事務管理比率は上昇もしくは若干の低下となっている。

また,労働生産性とコンピュータ装備率との関係をみても,コンピュータ装備率の上昇が大きい電気機械,金融保険業では,労働生産性の上昇が顕著である。コンピュータ装備率の上昇と事務管理部門比率及び労働生産性の上昇との間には,因果関係があるとは明言できないものの,コンピュータの導入が間接部門の効率化に役立っていると考えることができる。

情報化の効果が在庫管理面等で特に顕著に表れているのは,卸小売業であろう。卸小売業の情報化は,近年,急速に進展しており,小売業におけるPOS(販売時点情報管理)システム,受発注業務におけるEOS及びJANコード(共通商品コード)によるソースマーキングの普及により,情報化の基盤が整備されてきている。

消費者ニーズの多様化・高級化,商品のライフサイクルの短サイクル化等に伴い,小売業にとっては売れ筋商品及び死に筋商品の把握と迅速な品揃えとが不可欠の課題となっているが,POSシステムの導入は,在庫管理の効率化など小売店経営の効率化につながっている。POSシステムの導入が本格的に始まった昭和57年以降,棚卸資産回転率も上昇傾向にある (第2-2-25図)。また,EOSを利用することで受発注業務をオンライン化する動きも活発化しており,卸売業においても,発注から納品までのリードタイムの短縮,少量・多頻度配送,在庫常備率の向上等,効率的な物流体制の確立を求められている。そこでは,情報関連機器の導入そのものよりも,導入した機器,ネットワークを活用しながら,情報の収集,加工,利用,蓄積を効率的かつ高度に行っていくことが,今後の重要な課題となってきている。

さらに,情報化の進展は,従来の企業内,個別企業間を主とする拠点的,線的な展開から,VANを利用した異業種を含む複数の企業間ネットワークへと,面的な展開を遂げつつある。製造業においても,社内ネットワーク,販売会社・関連会社等とのオンライン化にとどまらず,銀行,運送会社等異業種を結んだネットワークを構築する動きや,製品流通経路のネットワーク化,顧客情報の収集,加工,利用,蓄積等のシステム化,無店舗販売の活用等へ広がりをみせている。今日,情報の有無や速さ,活用方法等が,ビジネスの成否を左右する可能性が高くなってきている。ネットワーク化によって情報の活用範囲の拡大,情報の共同利用によるコストの削減が可能となり,逆から言えば,情報力の差が新たな企業間格差に結びついていくことも考えられる。将来的にも取引情報,物流情報,代金決済情報,消費動向等さまざまな情報が複合され,異業種間にまたがる企業間ネットワークの構築が行われ,その利用の高度化が進むものと予想される。

(情報関連サービスの発展)

情報関連サービスも,情報化の広がりによって大きく成長している。特定サービス業実態調査により情報サービス業の動きをみると (第2-2-26図),昭和57年に売上高が9,119億円であったものが,昭和62年には,22,993億円となっており,152.1%増と極めて高い伸びを示し,対GNP比率も0.34%から0.67%へと上昇している。また,情報サービス業の事業者の推移をみると,57年に11.3万人であったものの,62年には24.1万人となり,従事者数の面からみても情報関連ビジネスの拡大がわかる。情報サービス業の拡大は,情報化の進展とも考えられることができるが,視点を変えてみれば,情報関連ビジネスが新たなビジネスチャンスの拡大に対応した結果とも考えられる。

特に,57年から62年までのソフトウェア業の売上高の伸びは,252.3%増となっており,情報サービス業の中でも極めて高い伸びを示している。このため,情報サービス業におけるソフトウェア業のシェアも57年の33.2%から62年には46.4%となっている。

そこで,情報処理サービス業を業務別にみると(前掲第2-2-26図),受託計算業務,ソフトウェア開発業務,システム管理業務,データ入力業務等にわけることができる。57年に比べた62年の売上高は,受託計算業務が69.0%増,ソフトウェア開発業務が268.0%増,システム管理業務が30.8%増,データ入力業務が41.5%増と高い伸びを示している。なかでも,ソフトウェア開発業務は,極めて高い伸びを示しており,ソフトウェア業自体の伸びも高いことと考えあわせれば,ソフトウェア需要が極めて高いことを示している。

データベース業は,従来,情報提供サービス業の一つに位置づけられていたものが独立して扱われるようになったもので,大量のデータを多種多様な条件で検索・処理を行うことを業務とする。通商産業省「データベース台帳」によれば,我が国のデータベース件数は,57年度に456件であったものが,63年度には1,764件となっている。これらのデータベースを分野別にみると,企業財務,経済,金融・証券・為替,医学・薬学・生命学・生物等が多く,ハイテク分野やデータ更新が早い分野でデータベースが構築されており,今後も情報化の進展にあわせて拡大していくものと推測される。

また,郵政省「電気通信業実態調査」によれば,第二種電気通信事業(いわゆるVAN)の売上高は,62年度に5,150億円,63年度に8,470億円と推計され,大幅に伸びている。サービスの内容も専用線,パケット交換等の基本的なものから,電子メール,EDI(電子データ交換)など高付加価値なものまで広がっている。

(4) 事業分野の多角化

(本業の成熟化とビジネスチャンスの広がり)

円高,アジアNIEsの追上げ等の経営環境の変化により,我が国産業の競争力は大きな減退を余儀なくされた。その結果,企業は本業分野では製品の高付加価値化を進め,差別化を図る一方,生産のグローバルな展開と国内生産体制の再編成に努めている。国際的な競争力を維持,強化していくためには,国内生産品目を取捨選択していく必要があり,企業は不採算部門の縮小・撤退を図るとともに,成長性ある新規事業分野の開拓に積極的に乗り出している。とりわけ,本業分野の成熟した企業にとっては,事業分野の多角化は収益性を確保していくための強力な手段となっている。

また,情報関連技術やバイオテクノロジー,新素材,マイクロエレクトロニクスを中心とする技術開発の波の大きな盛り上がりの中では,既存の技術と新技術の結合する業際的な分野及び複合的な事業におけるビジネスチャンスが広がっている。このため,従来の業種の垣根を越えて,様々な業種から新しい分野へ参入する動きも活発化している。新しい成長性のある分野で,経営資源の有効活用等を行い,範囲の経済性を追求しながら,現在と将来の収益性を確保していこうとする企業行動は,業種を問わず着実に浸透している。

マイクロエレクトロニクスの分野に対しては,機械業種のみならず,繊維(プリント基板,光ディスク,医療用電子機器など),化学(ビデオテープ,フロッピーディスク,半導体製造装置,電子複写機など),鉄鋼(シリコンウェーハ,半導体製造装置など)など,幅広く素材型工業からも多くの企業が参入してきている。また,ファインセラミックス,炭素繊維等の新素材の分野に対しても,様々な分野の素材メーカーを中心に,高付加価値化,多角化戦略の一貫として積極的な参入が続いている。これらの先端技術は,強い相互関係の上に成り立っており,マイクロエレクトロニクス,情報関連技術の急速な進展とともに,高度な機能・特性をもった新素材へのニーズも急速な高まりをみせている。

(多角化の進展)

製造業主要企業の売上高非本業比率をみると(第2-2-27図),全業種平均では,54年度には13.3%であったものが,59年度には15.5%,61年度には19.8%と,事業分野の多角化が進んでおり,企業業績に大きく貢献している。業種別にみると,精密機械,繊維,非鉄金属,一般機械,鉄鋼等で非本業比率が製造業平均よりも高くなっている。

繊維工業では,1)でみたとおり,売上高の伸びのほとんどは,非繊維部門の伸びと,製品の高付加価値化によってもたらされている。繊維工業の多角化は,合成樹脂,フィルム,炭素繊維,医療用電子機器,医薬品,バイオ関連,住宅・建材等多岐にわたっており,主要企業では,非繊維部門が売上高の過半近くを占めるに至っている。

鉄鋼業でも,事業分野の多角化に動き出しており,マイクロエレクトロニクス,新素材,情報関連事業,不動産事業など多方面での新規事業開発に取り組んでいる。

さらに,精密機械では,売上高非本業比率が60%を超えており,電子事務機器,複写機などのOA機器の売上が大きなウエイトを占めている。

研究開発分野についても多角化が進んでいる。58年度から61年度の3年間に15業種中11業種で研究開発費の本業比率が低下している (第2-2-28表)。なかでも鉄鋼業が73.4%から50.9%へと,3年間で22.5%ポイント低下しているのが目立っている。また,繊維,非鉄金属,金属製品では本業分野での研究開発費が,全体の5割を切っており,多角化に対する強い意欲の表れと考えることができる。

企業の多角化の状況を設備投資の面で捉えてみると(第2-2-29図),製造業では,従来から,設備投資の中に内容的には非製造業分野のものが見受けられていたが,最近ではこうした動きが更に強まっている。製造業の多角化のための設備投資は,本業周辺分野だけにとどまらず,資産の有効利用を目的とした不動産事業や,内需拡大の流れのなかで成長が見込まれるレジャー関連への投資など,非製造業の分野でも積極化している。この結果,設備投資からみた多角化の方向は,大きな流れとしては素材型産業から加工型産業へ,製造業から非製造業へと展開しており,特に製造業の設備投資が増勢を強めた63年度にこのような傾向が強まっている点は,今後の産業構造の方向性を示唆するものとして注目される。

個別の業種の動きをみると,製造業では,繊維などの素材型産業で他の業種への多角化投資が活発であり,逆にマイクロエレクトロニクス関連など成長力のある分野において参入投資が盛んであるという姿がみられる(電気機械の分野でも重電などの比較的成熟している部門から半導体・IC部門への投資のシフトがみられる。)。非製造業では,鉄道,倉庫業などが本業以外への多角化投資に前向きである一方,高収益や高成長が見込まれる,不動産,ホテル・レジャー等のサービス業において新規参入が大きくなってきている。

こうした設備投資は,各企業が短期的な需給判断を基に既存分野の延長線上に位置付けた投資とは異なり,より長期的な視野に立ち,産業構造の変化を捉えながら具体化させており,構造変化に対応した我が国の企業行動の特徴の一つと考えることができる。

4. 産業の高度化の方向

(産業の潮流と企業行動)

以上みてきたように,我が国の産業構造においては,急速な構造変化が生じているが,企業は,競争力確保のための対応を図る一方,経済を取り巻く環境変化にも柔軟に対応できるような複合的な経営基盤作りに取り組んできた。この背景に,製品の多様化・高付加価値化やコストダウンを可能にした技術開発の進展,更に経済のマイクロエレクトロニクス化及び情報ネットワークの形成という大きな潮流を読み取ることができる。

特に,生産と消費の構造変化を的確にキャッチし,既存のテリトリーをこえてダイナミックに対応しようとしている企業行動の存在も見逃がすことができないだろう。とりわけ,こうした特徴が,中長期的な産業の基盤作りである設備投資の面でもみられるということは,我が国経済において技術の高度集約化,情報化,消費の多様化・高級化という高度化が進行する中で,各企業が,これに中長期的な立場からも取り組んでいることの表れと捉えることができるだろう。

(空洞化懸念の払拭)

60年秋以降の円高の進展を背景とする生産拠点の海外進出は,我が国産業が空洞化するのではないかとの懸念を引き起こした。当時,国内の生産拠点が海外に移転することによって生じる生産,雇用,投資等の減少が産業の空洞化であるとして懸念されていた。

しかし,今回の景気拡大局面においては,産業の高度化が産業の空洞化を防いだと考えることができる。すなわち,60年から62年おける実質GNPに占める製造業のウエイトは,電気機械が0.42%ポイント増,化学が0.46%ポイント増と上昇したことにより,円高以降もわずかに上昇している。

まず,経済企画庁「企業行動アンケート調査」において今後5年間の海外生産と今後3年間の設備投資の関係をみると,海外生産比率を上昇させる企業及び海外生産を行わない企業の設備投資増減率は,各々11.0%増,8.9%増となっており,現地生産比率を上昇させる企業が行わない企業に比べ,投資意欲が高くなっている。さらに,同様に雇用態度について雇用態度指標でみると,海外生産比率を上昇させる企業が23.75,行わない企業が19.35となっており,現地生産比率を上昇させる企業が行わない企業に比べ,雇用態度においても高い(今後3年間に雇用を増加させる企業割合が高い。)。今後5年間の新しいニーズに対応した国内市場の開拓の分野を製造業についてみても,「主業に付帯・関連する事業での開拓」が75.2%と最も高く,次いで「主業の中での開拓」が53.2%となっている。このことからも,企業は自社の技術力の生かせる本業周辺の分野を中心に新分野開拓を行っており,企業は自己の技術力の維持が可能な範囲を中心に新分野開拓を行っていると考えられる。

さらに,前掲第2-2-17図をみても,現在から将来にかけての最も有効な利益増大手段として「技術開発力の強化」が最上位に挙げられており,企業は今後とも技術開発を重視する姿勢には変化がないものと考えられる。

ここで,我が国の産業の高度化の所在を技術革新のテンポの早い半導体集積回路製造業でみることとする。

集積回路の開発・製造技術は,急速に進歩しており,代表的なDRAM(記憶保持動作が必要な随時書込み読出しメモリー)では,1チップで収容可能な情報量(ビット数)は,16K(キロビット,以下同じ。),64K,256K,1M(メガビット,以下同じ。)と3~4年毎に4倍になっている。急速な技術進歩は,企業の絶えまぬ技術開発努力が結実したものであるが,DRAMの世代交代が行われ,製品の高集積化(製品の高度化,高度技術集約化)が進むごとに我が国企業のDRAMに占めるシェアが上昇し,我が国の世界市場における役割が大きくなっている。

すなわち,16Kは,58年に生産のピークを迎え,同年の16Kにおける日本のシェアは40.1%であった。その次世代集積回路である64Kは59年に生産のピークを迎え,同年の64Kにおける日本のシェアは58.4%となり,256Kは62年にピークとなるが,同年の256Kの日本のシェアは65.1%に上昇している。このように,DRAMの集積度が向上(製品の高度化が進展)するとともに,我が国のシェアが上昇していることがわかる(第2-2-30図)。

このような高度な生産技術を必要とする高付加価値製品においては,国内に基軸となる生産拠点を保有し,絶えず技術力を磨いておくことが,次世代製品の開発につながると考えられ,技術提供による国際貢献を行いつつ国内に技術の高度集約化した生産拠点を保有していることが我が国産業の高度化にも資する。また,繊維,鉄鋼などNIEs等との厳しい競争に直面している業種においても,製品の高付加価値化を図ること等により国内の生産拠点を維持する努力が行われている。このため,前述した今後の雇用,設備投資の動向とも考えあわせれば,産業の高度化が当面産業の空洞化を回避できると考えられる。

以上みてきたように,我が国産業は,技術開発,情報化等の進展により,業態を多角化するとともに,半導体集積回路等を組み込んだ高付加価値製品を開発,商品化することで安定的な成長を達成することができた。

そこで,現在の内需拡大を中心とする持続的成長の源泉を探ると,旺盛な設備投資による適正規模の資本ストックの充実,高度な教育による質の良い労働力の確保を挙げることができるが,従前から引き続き,技術進歩も底固い役割を果たしていることを忘れてはならない。

また,国内に生産拠点を保有していることは,我が国産業の高度化につながるばかりでなく,新製品などの技術開発の成果を直ちにフィードバックし,研究者が意欲的に働くことができる環境を提供しているといってもよく,高度な技術を集約する必要のある次世代製品の積極的開発には,必要不可欠である。