第二部 各論 一〇 国民生活 3 農家の生活
(一)農家家計支出と消費水準
昭和二五年から二六年へ一一%の上昇をみた全府県農家の消費水準は、二七年も引続いて前年より一六%と再び大巾な上昇を示した。
すなわち二七年における農家一戸当りの月平均家計支出(現物自家消費を含む)は、一九、二九七円で前年より約一八%増加したに対し、農家々計用品物価は二%の騰貴にすぎなかつたため、一六%の実質的な上昇となつたものである。かくて二六年ですでに戦前突破した農家の消費水準は二七年には一二〇%と実に戦前を二割も上回るに至つた。(附表七三参照)
この消費水準上昇を費目別に前年と対比すると、その傾向は都市の場合とほぼ同様で、被服の四八%増を筆頭としついで住居一八%、非主食一〇%、雑費六%とそれぞれ増加し、主食と光熱はそれぞれ一%、一六%の減少を示した。かくてエンゲル係数も二六年の五三・二%から二七年には五一・二%に低下している。
このような農家消費水準の上昇をもたらした原因は農産物の売上高が増加したことから農業収入の年度間増加が一二%に達し、また賃金俸給収入その他の農外収入増加も三〇%の多きに及んだため、農業支出その他の必要経費を控除した農家所得も年度間一五%の増加をみたことによる。そのうえ租税公課は前年度の九九・六%と若干の低下を示したため可処分所得の増加はさらに大きかつた。その結果収支を差引いた農家経済余剰は二六年度の二七、五四七円から二七年度は三四、一二〇円と二四%増加し、その農家所得に対する比率(貯蓄率)は一〇・七%から一一・五%へ上昇した。(なお「農家経済」の項参照)
(二)都市と農村消費水準の格差
前述のごとく昭和二七年の国民消費水準は戦前の九六%まで回復したが、都市のそれは八〇%、農村は一二〇%と回復率に大きい差がある。しかし戦前の農村消費が都市より甚だ低かつたことを考えると、戦前に対する回復率がそのまま現在における都市農村間の格差をあらわすことにはならない。ところで都市と農村の消費水準比較については、都市生活者と農家とでは嗜好、慣習、環境等、要するに消費生活内容と構造が著しく異つており、これを計数的に比較することは甚だ困難である。したがつて如何に示す計算もこれらの点を一応考慮の外におき、単に両地域の世帯当り家計費を実質的に比較したにすぎないものであることに留意せねばならない。いま二七年における東京勤労者世帯と全府県農家の平均家計費を世帯人員数を一致させて比較し、これを両地域間の物価差で除した実質家計費の高低について試算したところによると次表の如く、総合消費水準では都市農村ともほぼ同じ水準にあることが知られる。これを費目別にみると、主食、光熱、住居などは農村の方が高く、とくに主食は農村が都市を大幅に上回つているが、これは一般に農家においては家族も農業労働に従事するという特殊性による。しかし他方非主食、被服、雑費は都市よりかなり低く、農村がなお文化的な面においておくれていることを明瞭に表わしている。
ただ少くとも戦前にくらべる限り戦後の農家生活が相対的に向上したことは明らかであり、これは戦後の農地改革による高率小作料の急減と、戦時から戦後へかけての食糧不足からする農産物価格の有利なる展開、および雇用機会の増大から賃金俸給収入を主とする農外収入の増加に負うものであつた。