第二部 各論 一〇 国民生活 2 都市生活


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(一)世帯収入の動向

 昭和二六年において物価の上昇に遅れがちであつた勤労者の賃金も、同年末から二七年初めにかけてやや大巾に引上げられたこと、朝鮮動乱後大企業に後れをとつていた中小企業の鞘寄せ的賃上げが二七年を通じて続いたとみられること、また年央年末における期末賞与ないし手当の支給率が平均して前年の約一・五倍になつたことなどによつて、勤労者世帯の平均実収入は漸次上昇し、二六年から二七年にかけて二四%の増加を示した。

第93図 勤労者世帯実質収入水準

 一方消費者物価は次項に述べるごとく、わずかに四%しか上昇しなかつたので、実質的な世帯収入の水準は戦前昭和九―一一年平均の八五%まで回復し前年の七二%に比し一七%もの大幅な上昇を記録した。この事情は二六年の名目収入が前年より二〇%増加したのに対し、物価上昇も一六%上つたため、実質収入はわずか四%にしか過ぎなかつたのと較べると、二七年の実質所得増加がいかに物価の安定に負うところ大であつたかがうかがわれる。(附表七〇参照)

 つぎに世帯収入を項目別にみると、世帯主本業収入の年間増加率が二二%に対し、家族勤労収入および副業内職収入はそれぞれ四〇%、三六%の増加を示し、このため収入構成比率では家族収入の占める割合が増加した。家族勤労収入の増加は前述の賃金上昇によることのほか、家庭で勤めにでる人数が一世帯当り前年の〇・三七人より二七年には〇・四二人に増加したことにもよると考えられ、これは新に労働人口に加わる最近の生産年令人口の著増にもとずくものと思われる。

第七八表 勤労者世帯の収入構成

(二)消費者物価の推移

 昭和二七年の消費者物価は、前年に比し東京で四%、全都市で五%の上昇で、年間上昇率では戦後二度目の安定期を迎えた。特に二七年だけについてみると、一月の一〇四・四(東京、二六=一〇〇)から十二月の一〇四・〇までほとんど動かなかつた。しかしこれを内容的にみるとかなり特徴的な変化がみられた。すなわち電気、ガス、家賃、運賃などの料金関係は朝鮮動乱後商品物価の騰貴に遅れていたが、二六年後半より追随的上昇が始まり二七年に入つても継続した。これに対し商品物価は二七年にほぼ横這いとなり、とくに繊維品の低落は消費者価格にも反落して被服の価格は前年より一四%低落し、これが前記料金類の上昇を相殺した。また二六年八月以降昨年末まで据置かれた米価と、非主食価格の安定が綜合物価の安定に果たした役割も大きかつた。かくて対前年比四・二%の綜合物価上昇を商品類とサービス料金類に分けると、前者はわずか一%弱の騰貴にたいし後者は二三%の上昇になつている。

 なお昨年末から本年初頭にかけて、一一月のガス料金、一二月の家賃、一月の米価、運賃等の改訂で消費者物価は約五%の上昇をみたが、最近は再び平準化している。かくて本年五月における消費者物価は朝鮮動乱勃発直前の三四%高、戦前(昭和九―一一年)の二八〇倍となつた。(附表五三参照)

(三)家計支出の動向

 実質世帯収入の急増に伴つて消費水準も顕著に好転した。昭和二七年の東京勤労者一世帯当り平均月平均家計支出は一九、七二四円と前年を二二%も上回り、しかも消費者物価は前述のごとく四%強の上昇にすぎなかつたから、実質的上昇も一六%の大巾なものとなり、消費水準は戦前(昭和九―一一年)の八〇%まで回復した。二七年の消費推移準上昇を時期別にみると、前年同期に比し、一―三月期の七%増から一〇一二月期の二五%増と時を追つてその巾が拡大しており、消費需要の増加が後半に入つてますます旺盛であつたことが知られる。(附表七一参照)

第94図 都市消費水準(東京勤労者世帯)

 つぎに、どういう品目に消費の重点が向けられたかをみれば次表の通りである。すなわち前年に対する上昇の首位は被服の六〇%で、所得の増加と被服価格の下落が従来回復の遅れていた此の面に購買力を集中させ、輸出不振にあえいだ繊維の内需転換を可能にした。

第七九表 費目別消費水準

 被服についでは住居が二三%、雑費が一四%の上昇となつており、これに対して食料、光熱はすでに一応の充足段階に達していたことから、それぞれ八%、七%と比較的小巾な上昇に止まつた。つまり二七年の消費水準上昇は生活必需的なものより生活内容改善の二次的支出に重点を向けていたことがわかる。また消費意慾の方向を家計調査から調べてみても、教育文房具費、煙草を含む諸雑費、交通々信費、被服費、修養娯楽費、肉乳卵類、住居費などの高級な支出項目に対する慾求が強く、主食、野菜類、魚介類、光熱費等一次的な項目の慾求度は極めて低い。

 なお、被服品などにおいては同一品質または銘柄の価格が低落したのに対し、消費者の購入する一点当り平均価格は逆に上昇して高級品購入が増加したことを示し、煙草も販売量中新生、パツトの占める割合が二六年度の六七%から二七年度には五七%に減少し、逆にピース、光の割合が増加するなど、消費者が漸次高級品の購入に移行するという質的向上が、全費目を通じてみられた。

 こうして二七年の都市消費生活は量的、質的には大きな改善を示したわけである。また費目別の家計支出金額比率はさらに戦前の姿に近づき、エンゲル係数(食費比率)は二六年の五三・三%から二七年には四八・六%まで低下した。

第八〇表 費目別家計支出金額比率

(四)家計収支の状況

 以上にみたごとく勤労者世帯の収入、支出とも極めて著しく増加したが、その結果家計の収支差はどうなつたかをみると次表のとおりである。

第八一表 勤労者世帯の家計収支状況

 すなわち家計の黒字は昭和二六年の三%から二七年は四・六%に増加し、実額では約九割の増加となる。この黒字の増加をもたらした一因に二六年末の減税がある。このため実収入の増加二二%に対し、租税公課は一四%の増加に止まつた。従つて実収入に対する租税公課の割合は二六年の一〇・七%から二七年には九・九%へ低下している。

 この家計の過不足を月別にみると、二六年には年間で四カ月も赤字を出したが、二七年中の赤字は一カ月のみであつた。また二六年の黒字三%も主として同年一二月の収入増によるものであることを考えると二七年の家計収支は単なる数字の示す以上に好転したものと思われる。事実二六年は一世帯当り年間約一万円の手持現金増加があつた反面貯金は約一、七〇〇円、その他の資産は約二千円減少したが、二七年は手持現金増加が再び約一万円を計上した上さらに貯金も約五千円の増加をみている。

 このように二七年の家計収支状況は年間を通じて極めて好転したが、年末近くに至つて前項記述のような消費の急上昇の継続から収支は悪化し、一〇月には収支トントンとなり、一一月には遂に六%赤字を出し、二八年に入つてからも過不足こもごもといつた状況を示している。このことは昨年以来の消費急増が家計収支面からようやく限界に近ずいたことを思わせるものであり、今後所得の増加がない限り消費増加も頭を打たざるをえないであろう。

 なお実質的に戦前と比較すると収入と家計費は八割台に復したものの、なお黒字は四割台に止まり、結局まだ租税公課が実質的に重いことを示している。

(五)階層別の状況

 以上は平均的な都市家計の状況であるが、しからばその所得分配は階層別にみてどのようであつたろうか。

 いま国税統計によつて個人所得税の対象となる所得人員と所得金額の累積分布曲線をひくと第九五図の通りである。この図で直線に近いほど所得分配が平均化していることを示す。二六年と二七年とでは分布はほとんど変らないが、低、中所得者に対する所得分配は二七年のほうが若干有利になつたようである。例えば低所得者から数えて全人員の五割までのえた所得は総所得に対して二六年は約二六・五%であつたものが、二七年には二七・五%となつている。この二六、七年の分布曲線を昭和一四年のそれと比較すると、戦後の所得分布は戦前よりかなり平均化していることが知られる。

第95図 個人所得累積分布曲線

第96図 実収入階層別世帯分布率および収支過不足率

 しかし、減税は非課税者ないしそれに近い低所得層に対しては効果なく、他方米価や各種料金の値下げは所得層の上下を問わず、押しならべて影響をもつため、平均的な所得水準の好転に反し、低所得層家計の赤字は概して前年より増大している模様である。たとえば家計中に占める主食費の割合は低所得者層ではかえつて増大しており、米価引上げが響いたことを示している。

 もつとも他方において一般的所得増加とともに低所得層に属する世帯の数は減少しているが、それにも拘らず取残されてゆく困窮世帯のあることを見逃すわけにはゆかない。

 因に生活保護の現状をみると二七年には国民の四〇人に一人が受けており、その金額は一人一カ月平均約一、二〇〇円で、非保護世帯一世帯当たりになおすと月平均五千円となり当該世帯実収入の約五割に当つている。

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