第二部 各論 一〇 国民生活 4 生活物資供給量の変遷


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 つぎに全国的な生活物資ならびにサービスの供給量によつて国民生活内容の変遷をうかがつてみよう。

 生活物資およびサービスの国民一人当供給量指数は、昭和二六年が戦前の九一%、二七年は一〇三%と遂に戦前の水準を突破するに至つた。これを年間増加率でみると二五年から二六年へ一二%、二六年から二七年へ一三%となつており、第一節で述べた国民消費水準の増加が二六年には小さく二七年に大巾であつたのと若干趣を異にしている。

第八四表 国民一人当生活物資供給量指数

 これは二六年における供給増も購買力が伴わぬため滞貨となつて翌年に持越され、二七年に至つて有効消費需要の顕現とともに一時に消化せられたものと考えられる。

 ともあれ物価供給量の引続く増加が可能であつたのは、朝鮮動乱後の特需収入その他による外貨の獲得が原材料の大量輸入を可能としたことと、農林水産物その他の国内資源生産も増加傾向を辿つたからであつた。また二七年の供給増加には輸出が内需に転換したことも一因をなしている。

第八五表 消費財生産、輸出入量指数

 品目別にその推移をみると、主食供給量がほとんど変らなかつたのに対し、これまで回復のおくれていた非主食の増加が大きく、二七年では逆に主食の回復率を凌駕して戦前の九九%まで達し、食料全体としては戦前の九六%となつた。しかも非主食の増加は肉類、乳卵およびその加工品、菓子果物、清涼飲料、酒類などの嗜好品に大きく、野菜類、調味料等の増加は微少で、食生活が量の回復から質的、構造的に高度化する傾向が著しい。すなわち水産物、肉類は既に戦前を二割、乳卵加工品は五割も上回り、逆に野菜類、調味料などは戦前に及ばず、食構造が戦前と変つてきていることを示している。このことは主食の品目構成とも関連がある。すなわち米は戦前の八割にすぎないのに麦類は約三倍となつており、食糧輸入構成の重点が麦に移つたことを反映している。

 供給増加の最も顕著であつたのは被服で、そのうち繊維品をとると二五年度では一人当り年間三・九封度であつたものが、二六年度六・九封度となり、二七年度には一〇・五封度と、遂に戦前の九・四封度を上回るに至つた。これはここ数年来の設備拡張と動乱による臨時的外貨数入が原綿、原毛等の原料大量輸入を可能にしたため生産が急増し、さらに二七年における繊維輸出の減少からいわゆる内需転換が行われたことによる。なお近年急激に発達した化学繊維の供給増加も回復を早める一因となつた。

 光熱は主食とともに戦後の回復が早かつただけにその増加は近年停滞し、二七年はむしろ前年より若干減少している。ただ木炭、薪の減少に対し、ガス、煉豆炭は増加し熱量効率は漸次高度化しつつある。また石油の輸入増加による価格低落に伴つて石油コンロの普及が著しかつたのも昨年来の一特徴であつた。

 住居水準は九八・五%とほぼ戦前水準に復帰したが、家具什器が戦前を一四%上回り、水道も戦前の二倍となつているのに対し、一人当り畳数でみた住宅水準は九一%の低位にある。しかも住宅は衣食の一応の回復をみた今日国民の最も大きな関心をもつ面であるが、新築が人口増、災害、老朽などによる減失には及ばない状態で、この点については次節に詳述したい。

 雑費目関係についてはサービス関係の伸びが大きく、すでに戦前水準を一七%も上回つている。とくにここ一両年間における増加の著しかつたものはバス運輸力の伸長、高等教育学生数の増加、新聞建頁の増加、娯楽機関入場者、ラヂオ聴取者の増加等による修養娯楽関係の著増などである。

 以上のごとく生活物資要求量は従来遅れていたものの回復が著しく、二七年においては各費目とも戦前水準にほぼ到達或は凌駕し、二五年頃までの費目間回復の跛行性をほとんど解消した。

 しかしこうした質的構造的な消費生活の向上もすべて堅実一方に行われたわけではなく実質所得の急増が生活態度を安易なものとし、多少奢侈的、浪費的な面に逸脱する傾向もうかがわれた。例えば物品税、入場税、遊興娯楽税等の統計にみられる課税所得の推移によれば、自動車、ゴルフ用具、嗜好飲料、楽器、高級電気機器などの高価な贅沢品の売行きが前年より著しく増加し、映画演劇、競輪競馬、ダンス、遊戯場、旅館、飲食店等の売上高もかなり増加している。このような傾向が必ずしもすべて浪費的と断定しえないとしても、少なくとも日本経済の実態からみて手放しで見すごすことのできない面があることは否定できない。

第98図 国民一人当り生活物資供給量指数

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