第二部 各論 五 財政 1 昭和二七年度予算の性格
まず予算の規模を一般会計についてみると、次表のごとく昭和二四年度以降は二五年度に若干の減少をみたほかは、膨脹の一途をたどり、二七年度には九、三二五億円に達している。これを物価指数で換算した実質規模でみると、二四年度以降毎年縮少してきていたのが二七年度になつてはじめて拡充の方向に転じ、前年度を一割九分上回つたことが注目される。国民所得に対する比率でみてもこれとほぼ同じ傾向を示している。かくして二七年度の実質的な財政規模は安定計画実施以後はじめて拡大の方向に転換したこととなる。
このような規模の予算の内容はどうであろうか。一般会計の歳出構成の変遷は第五四図に示すとおりであるが、次の所要点が注目される。
(一)独立の回復とともに防衛治安関係費、平和回復善後処理費等の比重が著しく増大した。もつとも、従来はこの種の費用を終戦処理費で賄つてきたので、これを考慮に入れると二七年度もほぼ前年と同じ比率にある。
(二)出資および投資は二七年度において激減しているが、これは前年度多額に上つたインヴエントリー・フアイナンスが大巾に削減されたためであり、その他の出資額はほぼ同額である。
(三)社会労働関係費は逐年増加している。
(四)地方財政平衡交付金、公共事業費は二四年度以来多少の起伏はあるが、増加の傾向をたどり、とくに二七年度は前年度に比しかなり増大している。
つぎに予算を使途別にみた場合、一般会計歳出総額中に占める人件費の割合は二五年度八%、二六年度一〇%、二七年度一二%と次第に増加しつつあるが、二七年度のそれは金額でみても給与改定によつて前年度より二五八億円増加しており、これに特別会計および公社分を加えると人件費増加額は約五二〇億円となる。さらに人件費に向う部分が多い公共事業費、地方財政平衡交付金が前年度に比しそれぞれ三六一億円、二五〇億円増額されているので、二七年度財政における人件費的支出は前年度にくらべてかなり増加しているものと思われる。
一方二七年度一般会計歳入の大宗は戦後の各年と同じく租税収入であり、租税負担は後に述べるように戦前にくらべるとなお高率である。しかし国民負担の軽減合理化の線に則して二七年度においては、二六年末における減税を平年度化するほか二八年一月にはさらに減税を行い、税法上の減税額は九九〇億円に及ぶ。
このように一方には歳出規模の拡大が行われ、他方ではかなり大巾な減税の実施を同時に行うことのできたのは、もちろん基本的には国民所得の上昇に支えられた租税の自然増収があつたからであるが、また予算の性格における「均衡」の意味が若干変化したことも見逃せない。
第一に二七年度の一般会計は依然として収支の均衡がはかられているが、従来のように外為会計等のインヴエントリー増加を一般会計からの繰入によつて賄うといつた綜合収支均衡方式が変り、インヴエントリー・フアイナンスは先にみたごとく大幅に削減されている。
第二に見返金、資金運用部資金を積極的に活用している。この場合資金源としては、年度中の収入をあてるだけではなく、手持の国債を日銀に売却するとか、余裕金を減らすといつたように過去の蓄積の取くずしを行つていることが注目される(財政投資の項参照)。このように二四年度以降堅持されてきた綜合財政収支の均衡方式がうすれていることが二七年度予算の大きな特色であろう。
かかる性格の変化はどこにしわ寄せされているのであろうか。その第一は政府債務の増加にあらわれている。第二八表に示すように二四年度以降減少の傾向にあつた政府債務は二六年度より増加に転じ二七年度は一、八三八億円の増加をみた。
第二は日銀バランスシートの上に国債勘定の激増となつてあらわれている。政府債務の増加は結局は日銀にしわ寄せされることが多いが、近時はこれに加えてすでに述べたように政府および政府関係機関の保有国債を日銀に売却することによつて資金調達を行う場合が多くなつたので、二四年度以降減少してきていた日銀手持国債は二七年度になつて一転九三九億円の大幅増加をみた。
以上述べてきたような予算の性格の変化から二七年度の対民間収支も当初は撒布超過を予想されていたが年度中の実際の国庫収支は逆に九億円とわずかながらも揚超となつた。何故にかかる開きを生じたかをつぎに検討してみよう。