第一部 總説……独立日本の経済力 四 自立経済達成の諸条件 3 国内資源の開発(外貨負担の節減)
外貨負担の節約を考えるに当つてまず不急不用品の輸入削減について考えてみよう。必需品以外の輸入のうちで金額の嵩んでいるのは乗用自動車の二千百万ドル、飲料、製品タバコの千百万ドル、果物、蔬菜の千七百万ドルなどである。もちろんこれらのものが全部無用の贅沢品だというわけではなく、一部は国内の外人向けであるし、また台湾のバナナのようにわが国の輸出を伸ばすために、輸入せねばならぬものもある。これ等のことを考え一部の高額所得者には不都合でも、勤労大衆の生活水準を実質的に切下げない範囲で、どれだけ輸入削減できるかをかりに試算してみると「貿易」の章に示すように約七千万ドルという数字がえられる。
結局総額の二割、四億ドルを占める主食と三割、六億ドルの繊維原料の自給度の向上を計らねば大巾に輸入負担を削減することはできない。以下に国民生活を切下げないで食糧と繊維の輸入削減を行う方法について考えてみよう。
(一)食糧増産への期待
前にも述べたように、国内食糧の増産に努力しないで放任すれば、人口増加と耕地の潰廃などのために五年後には二〇〇万トン近くの食糧増加を必要とし、輸入負担が約三億ドル増大することになる。
しかし、もし日本人が食べなれた米を粉食に切換えることにするならば、ある程度の外貨負担の節約は直ちにも可能である。というのは、トン当たり二二〇ないし二三〇ドルという高い外米を一〇〇万トン輸入するかわりにトン当り九〇ドル前後という安い小麦を入れるとすれば、それだけでおよそ一億ドルの外貨節約になるからである。ところがわが国では長年の習慣から米食のための副食ができているし、粉食、とくにパンはバターその他の高級な副食を必要とすることから、米食ならば一〇〇〇カロリー当り五六円ですむところが、パンだと七三円もかかるという。バターを喰い、ビフテキを食べるような所得の向上がない限り、米食の方が、同じカロリーをとるためには安価ですむ、たとえば、それぞれの主食に適つた副食を食べた場合に、米の方が安上りに労働のためのカロリーを補給する方法である。しかも戦前にくらべれば、現在相当麦を食べているわけで米から麦への転換はなかなか容易でない。
このような事情から食糧の国内自給度を引上げるために、現在、食糧増産計画としては、五ケ年間に財政から約四千四百億円を投じて、米麦合せて千七百万石(玄米換算)の増産を行おうという案が検討されている。この増産が実現された暁には、人口増加による需要の増加、耕地の潰廃、農用施設の老朽化による減産を考慮しても、輸入減少に約五百万石、一億四千万ドルを充てうることになろう。国内需要の増加、減産をカバーして現状よりも年々一億ドル以上の外貨節約が行えることは、非常に大きい効果といえよう。
食糧増産計画が経済計画として合理性を持ちうるためには、いうまでもなく、それが国民経済的に引合う事業であると同時に、それは個別の農業経営に受入れられるものでなければならない。また、増産のための潅漑計画と電源開発とで矛盾なくしかも有効に水を利用するためには、綜合的な調査と計画が必要であろう。所要資金額が大きいだけにその効率を上げるためにはあらゆる角度から計画を練上げてゆかねばならない。
(二)有望な合成繊維
さらに輸入削減の点で新たな希望を託されているのが、合成繊維産業である。合成繊維は、人絹、スフのようにパルプを輸入することもいらず、国内の資源、すなわち、水と空気と電気と石炭、石灰石があれば事足りる。
現在の合成繊維の年生産量は約八百万ポンドであるが、これを五ケ年後に一億五千万ポンドまで増産し、内需に使用される繊維の一割以上をこれによつて置換え、輸入綿花および羊毛の一億数千万ドル相当分を節約しようという計画が考えられている。ただし合成繊維の生産には多くの電力が必要とされるので目下着手されている電源開発計画の推進はこの意味からも期待される。
この目標量達成のために要する資金は電源用の資金を除き、設備関係だけで四百億円余であるといわれているが、年々一億ドル以上の外貨節約が可能だとすれば、この計画はかなり有利である。
しかし私企業が、日進月歩の技術によつてさらに優秀な繊維が生れるかもしれないリスクを負担しながら、これだけ尨大な資金を調達し、他方製品の品質の向上と価格引下げに努め、既存の綿や毛と競争して馴染みのうすい新繊維を採算ベースに乗せることはなかなか容易なことでない。このための育成策として警察や郵政あるいは保安隊等の官需を促進することが採り上げられている。