第一部 總説……独立日本の経済力 四 自立経済達成の諸条件 4 資本蓄積の検討


[目次]  [戻る]  [次へ]

 以上述べてきた正常貿易の振興と資源開発という自立経済の二本の柱は、いずれも巨額の資金を要するという共通点を持つている。食糧増産計画の所要資金は民間負担分を入れれば、五千八百億円に達する。合成繊維の設備資金は四百億円余であるけれども、合成繊維の増産には電力の供給を確保しなければならない。電力は五ケ年間に五五〇万キロワツトの開発が計画されているが、それに要する資金は七千八百億円にのぼる。その他海運の年々の三〇万屯計画造船や鉄鋼、石炭、硫安、機械の合理化に必要な資金は、今後五ケ年で総額約七千億円に達する模様である。

 昨年度の産業設備資金供給実績はおよそ五千三百億円で、戦前にくらべ実質額で三割上回つた。いま述べたような多額の合理化資金を加えた各産業の所要資金を総計すると、その資金需要はこの水準以上に達するであろう。その上今後あるいは防衛生産の資金需要、ないしは前に述べた東南アジア開発の資本輸出等々の資金需要が生ずることを考えると、自立計画達成のために必要とされる資金の量はかなり莫大な額に達するみこみである。しかもこのような巨額の資金はインフレを起さずに賄わなければならない。なぜならば、もし貯蓄以上の投資によつてインフレが生ずるならば、折角のコスト切下げの効果はくずれさり、国際競争力の強化にならないからである。

 この貯蓄を民間で行うか、財政で行うか。現在の税負担は国税、地方税合計で国民所得に対する比率は二一%に達し、戦前の一三%に対してかなり高率である。一人当り実質額でも戦前に対して六割増となつている。この税負担がしばしば指摘されているように民間資本蓄積を阻害していることは明かである。従つて減税を行つて、民間の個人および法人の自発的貯蓄に待つのが、資本蓄積の正道であるには違いない。しかしこの方向に一足飛びにゆけないのは、つぎのような問題があるからである。すなわち、まず減税が消費に充てられ、資本蓄積に回らないのではないかということ、つぎに財政に対する資本需要が極めて高いし、今後もなお多くなりそうだということがこれである。

 第一の点については、国民生活の現状からみて、減税が消費を刺戟する傾向はかなり強いとみなければならぬ。

 第二の財政に対する資金需要については公共事業や食糧増産はいうまでもなく、四大重点産業においても、合成繊維においてもその資金調達を今後ますます広い意味で財政投資に依存しなければならない。ところが、財政投資の資金源が第二四図にみるように次第に窮屈になつてきた。すなわち、税金や資金運用部の積立金は国民所得の大きさに比例したある限界をもつているし、見返資金はほとんどなくなつてしまつたので、二七年度予算から、余裕金や手持国債など過去の蓄積に手をつけねばならなくなつた。二八年度予算案ではさらに特別減税国債二百億円、公募公社債百六十億円、合計三百六十億円の公債発行が計上されている。

第24図 財政投資の資金源

 つぎに民間の貯蓄とくに企業の資本蓄積について考えてみよう。国民貯蓄の増加額は実質で戦前水準の約八割まで回復しているが、貯蓄形態別比率でみると戦前にくらべ預貯金の割合がふえ、有価証券の比率が激減している。

 それに反映して企業の資金調達は第二五図にみるように、株式からの調達が戦前の四・三%から九%に落ち、逆に金融機関からの借入れが一〇%から五八%に増大している。内部資金も四六%から二一%に低下した。このような企業の自己資本を強化するために、増資が奨励されているが、借入金の利子は税法上経費として認められるに反し、増資に対する配当は利潤処分として扱われ、法人税を課せられるなどの理由もあり、企業はとかく銀行からの借入に依存しがちである。この場合銀行貸出が預金と銀行の自己資本によつてに賄われているならば問題はない。ところが前者の後者に対する比率は、戦前(昭和九―一一年)は五三%であつたのに対し、最近は一〇四―五%でいわゆるオーバーローンとなつている。この差額は結局日銀貸出によつて賄つたのであるが、二七年度中の日銀貸出は六三四億円増加し、年度末残高は二九一二億円と三千億円台に迫り、最近はさらに増加の傾向にある。このような不健全な形における銀行貸出の増加には自ら限度があることはいうまでもない。また銀行のバランスシートの構成を戦前にくらべてみると、資本負債構成では自己資本の比率が減少したこと、資本構成では貸出が著増する一方有価証券投資が激減していることが注目される。

第25図 総産業資金形態別供給状況

第26図 全国銀行勘定構成比

 さらに企業の資本蓄積で問題になるのはもうかる産業が必ずしも今後国民経済的見地から伸ばすべき産業とは限らないことである。

 否、むしろ将来国際競争力の強化や、自給度の向上に貢献する産業は当面むしろ採算が悪い部類に属するかも知れない。もうかつた産業が勝手に投資してよいとしたならば、動乱後にみられたような過剰投資やビル・ブームが繰返される。コスト切下げの項に述べたように、合理化設備にしても、産業系列全体としてのバランスを失し、将来需要を考えてもなおかつ過大な設備投資が行われるならば、それは近代化設備の二重投資であつて、国民生活的には損失である。

 乏しい資金源を最も効率よく国民経済的に必要なところに向けること、それが今後の資本蓄積の目標でなければならない。

[目次]  [戻る]  [次へ]