第1節 円滑な労働移動の実現に向けた課題
少子高齢化が進展する中で、今後、経済を新たな成長軌道に乗せるためには、人材力が最大限に発揮されることが期待される。本節では、まず働き手の数(量)を確保する観点から、就業者比率など1の動向を概観する。次に、企業による人的投資を期待することが難しい非正規雇用者の割合の増加は、労働生産性(質)にも大きな影響を及ぼしかねないため、雇用形態の変化の状況を見る。また、こうした中で、個人が現在の職場で能力を発揮していくことは重要であるが、必要に応じて、より生産性の高い職場に円滑に移動し、経済成長の担い手として活躍できるようになることも重要であることから、転職の状況を確認する。
1 就業者比率などの動向
我が国の人材力を最大限に活かすためには、まず働き手の数(量)の確保を図ることが必要である。こうした観点から、人口に占める就業者、失業者、非労働力人口の推移などを概観する。
(高齢化などが就業者比率の押下げに寄与)
我が国の15歳以上人口に占める就業者、失業者、非労働力人口の比率の推移を見てみよう。
まず、就業者比率は、2000年以降低下傾向にあり、2012年には56.5%と2000年と比べて約3%ポイント低下している(第3-1-1図(1))。就業者比率の変化には、若者に比べて就業者比率が低い高齢者が増加していることなど、年齢構成の変化による影響も含まれていると考えられる。そこで、年齢層ごとの就業者比率を一定として年齢構成変化による就業者数の増減を算出し、それを除いた就業者比率を計算すると、年齢構成変化要因は一貫してマイナスに寄与しており、高齢化などが就業者比率を押し下げていることが分かる。
また、失業者比率は、2009年に上昇したものの、その後、景気回復に伴う雇用環境の改善を背景に失業者数が減少したため、緩やかに低下している(第3-1-1図(2))。
非労働力人口比率は、2000年以降一貫して上昇している。ただし、就業者比率同様、非労働力人口比率の推移には、非労働力人口の割合の高い高齢者の増加による影響があると考えられる。そこで、年齢構成変化による影響を除いて推移を見ると、おおむね横ばいとなっている(第3-1-1図(3))。
(非労働力人口は男性で増加、労働需給ミスマッチも非労働力化の要因)
年齢構成変化による影響を除くと、非労働力人口比率がおおむね横ばい圏内で推移していることを見たが、労働市場への参入を更に促し、人的資源の活用につなげていくためには何が必要であろうか。
まず、非労働力人口比率の変化に対する各年齢層の寄与を、年齢構成変化の影響を除いた上で見ると、25~64歳は低下に寄与している一方、15~24歳、65歳以上の年齢層が上昇に寄与している(第3-1-2図(1))。ただし、25~64歳の非労働力人口比率の低下には、女性の労働市場への参入によるところも大きいと考えられる(付図3-1)。このため、男性のみの非労働力人口比率の変化に対する各年齢層の寄与を見ると、いずれの年齢層も上昇に寄与しており、特に15~24歳、65歳以上の寄与が顕著となっている(第3-1-2図(2))。65歳以上については、高齢者を中心とした自営業者の廃業などによるものと考えられる2。他方、15~24歳については、2009年以降寄与が大きくなっており、リーマンショックを背景とした新卒採用枠縮小3により失業者となった者が、就業することを諦めて非労働力化したことによるところが大きいと考えられる。
男性の非労働力人口化について、個人が望むのではなく、就業を希望していたが何らかの理由で就職活動を諦めてしまった者が増加しているのであれば対策を講じる必要がある。そこで、男性無業者のうち求職活動をしていない者について、その理由を確認しよう。「探したが見つからなかった」と回答した者はどの年齢層においても比較的高い水準にあり、「希望する仕事がありそうにない」と回答した者は15~24歳、55歳以上の年齢層において多い。こうした年齢間や職種間のミスマッチを解消するためには、ハローワークや民間職業紹介所における情報仲介・あっせん機能の更なる強化、有効活用が期待される。また、「知識・能力に自信がない」と回答した者は若い年齢層に多く、若年者を中心とした職業能力開発の強化が期待される(第3-1-2図(3))。
(需要不足失業率は低下傾向、構造失業率は高止まり)
前述したとおり、失業者比率は低下しているが、失業者比率の一層の低下には何が必要であろうか。失業者比率の変動要因を分析するため、失業率を構造失業率と需要不足失業率に分け、その推移を見る。需要が回復すれば解消される部分が需要不足失業率である。一方、求人側と求職側の要求内容が異なる構造的要因(いわゆるミスマッチ)と、求人側と求職側の間の情報の不完全性や地域間の労働移動の制約などの摩擦的要因を広義に捉えたものが構造失業率である。
まず、需要不足失業率はおおむね景気循環に応じて変動しており、リーマンショックを契機に2009年7-9月期にかけて上昇した後、低下傾向にある。他方、構造失業率は、高齢化や非正規化などを背景として、1990年代にかけて上昇傾向にあった。2000年以降も、高止まりしているが、これは非正規雇用の増加は継続していたものの、後述のとおり、終身雇用希望の高まりから離職率がやや低下したことなどによる(第3-1-3図(1))。
次に、需要不足失業と構造失業の動向を、雇用失業率と欠員率の関係をプロットしたUV曲線においても確認してみよう。UV曲線が原点から遠ざかると、構造失業が増加することになるが、2009年7-9月期以降は一貫して右下方向へ推移し45度線に近づいていることから、上で見たのと同様に、需要不足失業が改善傾向にあることが分かる。他方、原点に近づく動きは見られず、UV曲線を見ても、構造失業率が依然として高止まっている様子がうかがえる(第3-1-3図(2))。
2009年後半以降、2012年末からの景気持ち直し局面を含め、需要不足失業は減少したものの、構造失業は高止まりしており、労働市場における需給ミスマッチの解消が必要である。
(専門・技術職、サービスの職業と事務的職業で大きなミスマッチ)
男性の非労働力化を防ぎ、失業率を低下させるためには、労働需給のミスマッチの解消が望まれるが、どのようなミスマッチが生じているのだろうか。ここでは、職種別、年齢別、地域別のミスマッチ指標4の動向を見ることで、労働市場のミスマッチの状況を確認する。
まず、2000年以降の推移を年齢別・地域別・職種別に見ると、年齢別については、30歳台及び50歳~64歳の年齢層でのミスマッチが縮小したため2007年まで低下傾向にあり、その後横ばいで推移している(第3-1-4図(1))。若年層については女性の労働市場への参入、また高齢層については雇用対策法の改正5や高年齢者雇用安定法の改正6により、定年の引上げや継続雇用制度の導入などの義務付けが行われたことなどが背景にあると考えられる。
また、地域別については、リーマンショック後に更に低下した後、おおむね安定して推移している。リーマンショック後の低下については、それ以前において経済が特に好調であった東海地方などで、急速に景気が悪化したため、結果として地域別ミスマッチが縮小したことによる。
職種別については、2009年まで上昇傾向にあり、2010年以降は低下傾向にあるものの依然として水準は高い。職種別のミスマッチ指標に対する各職種の寄与を調べると、2000年代を通じて、事務的職業では一貫して相対的に求職が過剰となっている(付図3-2)。これに対して、専門的・技術的職業、サービスの職業、販売の職業などでは相対的に求人が過剰となっている。また、前回のデフレ改善期である2006年と比べて、失業率はおおむね同程度7であるが、サービスの職業などにおける職種間のミスマッチは拡大している(第3-1-4図(2))。効果的な学び直しを行うための良質な教育訓練機会の確保や、企業横断的な職業能力評価制度の整備などを通じた専門能力活用型のジョブ型労働市場の整備などによって、こうした職種への労働移動が円滑化すれば、構造失業の減少、就業者比率の向上に寄与すると考えられる。
以上から、ハローワークや民間職業紹介所における情報仲介・あっせん機能の更なる強化、若年層を中心とした職業能力開発などを通じて、非労働力人口を減少させるとともに、良質な教育訓練機会の確保、ジョブ型労働市場の整備などを通じた構造失業の減少、雇用環境の改善を通じた需要不足失業の減少を通じて、更なる就業者比率の向上が図られることが期待される。
2 雇用形態の変化の状況
企業による人的投資を期待することが難しい非正規雇用の比率が増大することは、人材力の形成、活用に影響を及ぼし、労働生産性(質)の低下につながりかねない。また、仮にいったん失業した後に円滑な労働移動が行われず、その状態が長期化すれば、人的資本が毀損し、雇用可能性8を失うおそれがある。そうなれば、潜在的な成長力にとっても大きな損失となる。そこで、以下では、我が国における雇用形態の変化の状況について見る。
(若年男性を中心に非正規化が進展)
非正規雇用はどの年齢層で増えているだろうか。男女別・年齢別に就業者比率の変化に対する各雇用形態の寄与を見ると、男性では20~44歳において、「正規の職員・従業員」が大きく下落に寄与する一方で、「パート・アルバイト」や「契約社員・嘱託」、「労働者派遣事業所の派遣労働者」などが上昇に寄与しており、非正規化が進展している様子がうかがえる。また、60~64歳において就業者比率が大幅に上昇しているが、「正規の職員・従業員」の寄与が大きい(3-1-5図(1))。これは2004年の高年齢者雇用安定法の改正が影響しているものと考えられる。他方、女性については、20~24歳を除く全ての年代において就業者比率が上昇しており、非正規のみならず、「正規の職員・従業員」も上昇に寄与している(3-1-5図(2))。
若年層の非正規化の一因として、正規雇用を希望しているが、正規の職がないといったミスマッチが影響していることが考えられる。そこで、正規雇用者数の変化を男女別、産業別・年齢階層別に見ると、男性の15~24歳、25~34歳において減少している。若年人口が減少していることによる面も大きいと考えられるが、産業別に見ると製造業、建設業といった比較的男性正社員が多かったと考えられる産業において、正規雇用者の減少が顕著であることが確認できる(第3-1-5図(3))。女性については、男性より減少率は低いものの、同様に15~24歳、25~34歳において減少している。一方、その他の年齢層においては、医療・福祉業などのサービス業を中心に増加している(第3-1-5図(4))。
(男性若年層の非正規雇用者で、希望しても正規雇用となれない者の割合が高い)
15~34歳の男性では、正規雇用者が減少していることを見たが、この中には正規雇用を望んでいない者が含まれている可能性もある。そこで、正規雇用者としての就業を希望しているか否かを年齢別・男女別に確認しよう。
まず、非正規雇用者のうち、正規雇用を希望していたものの非正規雇用となった者(不本意型非正規雇用者)の割合を見ると、男性の方が女性に比べて高く、また男女ともに35歳以上に比べて15~34歳の割合が高い(第3-1-6図(1))。
正規雇用を希望していても、安定的な雇用機会に恵まれず、腰を据えて人的資源形成を行うことができない若者は、失業した時の失業期間が長期化するおそれもある。そこで、年齢別・男女別に失業者に占める長期失業者割合を確認すると、非正規比率の高い15~34歳の男性において、リーマンショック後に急激に上昇した後、高止まっている。非正規化が進展する中で、景気が大きく落ち込んだために、失業が長期化している可能性がある(第3-1-6図(2))。さらに、いったん、長期失業者となった若者が、その後正規雇用者として再就職できているかを確認するため、34歳以下の失業者について、転職後に一般労働者9となった転職者の割合を失業期間別、男女別に見る。男性は女性に比べて、失業者が一般労働者になる割合が高い。また、男性、女性ともに、前職勤務形態にかかわらず、失業が長期化すると一般労働者になれる確率が低下することが確認できる(第3-1-6図(3))。
それでは、若い男性の長期失業者は、なぜ職に就くことができていないのだろうか。15~34歳の長期失業者が仕事に就けない理由を見る。それぞれの理由を厳密にミスマッチ要因と需要不足要因に分けることは難しいが、男性では、「希望する種類・内容の仕事がない」、「条件にこだわらないが仕事がない」といったどちらかといえば需要不足を理由とした長期失業者が多い(第3-1-6図(4))。今後、景気回復とともに、雇用情勢の改善が続き、需要不足失業の減少につながっていくことが期待される。他方、「自分の技術や技能が求人要件に満たない」、「賃金・給料が希望とあわない」、「勤務時間・休日などが希望とあわない」といったどちらかといえば需給のミスマッチを理由とした長期失業者も一定程度見られるため、職業能力開発などを通じた雇用可能性の向上、ハローワークや民間職業紹介所における情報仲介・あっせん機能の更なる強化などが有効と考えられる。
雇用形態が変化し、非正規労働者が増えることで、腰を据えて人的資源形成を行う機会が失われ、人的資本の毀損を通じて、中長期的な成長率を低下させる可能性がある。特に、若者では不本意型非正規雇用者の割合が多く、職業能力形成期に人的資源形成の機会が失われると、いったん失業した時の失業期間の長期化につながりかねない。また、失業期間が長期化すると、一般労働者になれる確率が低下し、職業能力が更に失われることで、雇用可能性の低下にもつながることが懸念される。このため、個人、企業による適切な人的資源の形成への投資とその有効活用を進め、我が国の成長力を確保していくことが求められる。また、「日本再興戦略」では、失業期間6か月以上の者を2割減少させることが目標とされており、今後、就労が途切れないという意味での雇用の安定化の仕組みを整備していく必要がある。
3 失業なき労働移動の実現に向けた課題
我が国の持つ人材力を最大限に発揮するためには、個人が現在の職場で能力を発揮していくことは重要であるが、必要に応じて円滑に職場を移動することで、働く人の生産性(質)が高まり、経済成長の担い手としてより活躍できるような環境を整えることが有効と考えられる。以下では、転職市場の動向、転職と転職成果(離職期間、賃金変化率)などについて分析し、失業なき労働移動の実現に向けた課題を検討する。
(若い世代を中心に転職率が低下、終身雇用希望の高まりが背景)
転職の動向を確認するため、まず、労働者数に占める転職者の割合(転職入職率)10,11の推移を見ると、一般労働者、パートタイム労働者とも、2005年をピークとして低下傾向にある(第3-1-7図(1))。
また、2012年の年齢別の転職入職率を2005年と比較すると、全年齢層で低下しており、特に20歳台の転職入職率の低下が顕著である(第3-1-7図(2))12。
さらに、離職理由別に転職入職者の割合を見ると、「会社都合」や「定年・契約期間の満了」といった非自発的な離職者の割合が高まっている。一方、「収入が少ない」、「会社の将来が不安」、「仕事の内容に興味持てず」といったどちらかといえば自発的な離職者の割合は低下する傾向にある(第3-1-7図(3))。
こうした若年層を中心とした転職入職率の低下や自発的な離職者の減少の背景には、雇用者の勤労意識の変化があると考えられる。1つの企業に生涯勤めることを希望する「一企業キャリア意識」の変化を年齢別に見ると、年代にかかわらず一企業キャリア意識が高まっており、特に20歳台では、2007年から2011年にかけて大幅に上昇し、一企業キャリア意識の最も高い世代となっている。景気低迷が長引いたことを背景に、若い世代が終身雇用を希望する割合が高まっていることが考えられる(第3-1-7図(4))。
(「事務」、「販売」、「生産工程」などで転職者が減少、同職種間での転職は好条件)
転職入職率の割合は、2005年をピークとして低下傾向にあることを見たが、どのような職種の人が転職する割合が低下しているのだろうか。転職者が前に就いていた職種の割合について2005年から2011年の変化を見ると、「事務」、「販売」、「生産工程」といった職種において、転職者の割合の低下が見られる(第3-1-8図(1))。
前職の職種別に離職期間を見ると、上記の職種は、離職してから転職するまでの離職期間が長い。「販売」では、前述のとおり、求職と比べて求人が相対的に過剰となっている13ことに加え、「労働条件が悪い」といった理由で離職する者が多い14ことから、同職種内で転職しようとする者が少なく、離職期間が長期化する傾向にあると推察される。他方、求人と比べて求職が相対的に過剰となっている「事務」や「生産工程」については15、リーマンショック後の景気低迷に加えて、IT化や企業の海外拠点の拡充などの経済環境の変化により、国内の雇用の場が削減され、同職種内での転職が難しくなっていることなどが影響していると考えられる (第3-1-8図(2))。
職種の変更を伴う転職は離職期間の長期化につながる可能性があるため、職種が変わったかどうかによる離職期間の違いを見ると、「職種転換なし」の方が「職種転換あり」と比べて、離職期間が短い傾向にあることが確認できる。また、離職期間の長い転職者は職種転換を余儀なくされている可能性も指摘できる(第3-1-8図(3))。
それでは、職種転換によって、賃金はどのように変化するのだろうか。職種転換の有無別に賃金の変化率について確認すると、おおむね「職種転換なし」の方が転職後の賃金低下が限定的となっている(第3-1-8図(4))。
このように「事務」、「販売」、「生産工程」といった職種では、転職者の離職期間が長くなっており、職種を変える場合も多いと考えられる。職種転換を余儀なくされた場合は、離職期間の長期化にもつながる可能性があるため、これまでの経験を活かしつつ、円滑な転職が行われるよう、求人・求職間の情報仲介機能やマッチング機能を強化することが期待される。
(「専門・技術」、「大都市圏」は「民営職業紹介所」経由の転職者が多い)
転職するに当たり、より良い労働条件や環境を求めて何らかの仲介機能が利用されることが一般的であるが、転職者の入職経路にはどのような特徴が見られるだろうか。入職経路別に転職者の特徴を見ると、「公共職業安定所」、「広告16」、「縁故」の三つが多く、次いで「前の会社」による紹介となっている(第3-1-9図(1))。
次に、年齢別に入職経路の利用状況を確認すると、「広告」、「公共職業安定所」、「民営職業紹介所」といった公式的経路を活用した転職者の割合は、主に若年層で高い(第3-1-9図(2))。他方、人的つながりの利用ともいえる「前の会社」については、高齢になるにつれて利用率が高まっている。また、転職後の職種別に入職経路の利用状況を確認すると、「専門・技術」については「民営職業紹介所」の利用者が多く、「公共職業安定所」の利用者が少ない(第3-1-9図(3))。さらに、地域別に入職経路の利用状況を確認すると、「南関東」、「東海」、「近畿」、「京阪神」といった大都市圏においては「公共職業安定所」の利用者が少なく、「民営職業紹介所」や「広告」の利用者が多い(第3-1-9図(4))。
以上のことから、「民営職業紹介所」は、専門的技術を持っているなど、労働市場で評価を得やすい属性を持った求職者の転職支援機関としては有効であるが、それ以外の離職者にとっては利用しづらい入職経路となっている可能性がある。また、東京などの大都市地域では、様々な代替的な就職経路があるため、相対的に「公共職業安定所」の利用者が少ない。理由としては、ビジネスとして成立しやすい「民営職業紹介所」の利用者が多くなっていることが考えられる。
(若年層、自発的離職、民営職業紹介所経由の転職者の賃金変化率が比較的高い)
転職者の年齢や離職理由、選択する入職経路の違いなどにより、賃金変化率や離職期間といった転職成果に違いがあるだろうか。転職成果の大きさは、転職者自身が持つ属性によるものであり、職種や地域の違いそのものによる効果ではない可能性もあるため、各種属性要因をコントロールして、何が転職成果に影響を与えるかを検証した17。
まず、年齢別に転職成果を見てみよう。40~45歳層を基準として、転職による賃金変化率を年齢別に見ると、若ければ若いほど高いことが分かる(第3-1-10図(1))。離職前の賃金が相対的に低いことに加え、職業能力形成期にある若い世代では、転職後の生産性向上の余地が大きいことが評価されていると考えられる。他方、55歳以上の高齢者における低下幅が大きいが、定年退職者の再就職あっせんなどが含まれているためと考えられる。同様に、離職期間についても比較すると、年齢が若いほど離職期間は短い(第3-1-10図(2))。
次に、離職理由別の転職成果を比較してみよう。賃金変化率を見ると、前職企業の「給料が低かったから」、「将来が不安だったから」といった理由により転職を行った者は賃金が上昇し、離職期間も短い(第3-1-10図(3)、(4))。このように、賃金上昇の獲得を望むなどの積極的な転職活動を行った労働者は、転職成果も高いことが分かる。
さらに、「公共職業安定所」経由の離職者を基準として入職経路別に賃金変化率を比較すると、「民営職業紹介所」、「広告」、「縁故」の順に高くなっている(第3-1-10図(5))。他方、「前の会社」経由の転職者の賃金の下落幅は大きい。同様に入職経路別に離職期間を見ると、「前の会社」の離職期間の短さが顕著であり、その他の経路は「公共職業安定所」よりやや短い程度である(第3-1-10図(6))。「民営職業紹介所」は、他の入職経路に比べて相対的に転職成果が高いが、他の入職経路に比べて求職者・求人企業間のマッチング機能が高いことによると考えられる。
以上の結果をまとめると、若年層の一企業キャリア意識は高まっているが、若年層が積極的に転職を行うことで、より短い離職期間でより生産性の高い部門へ移動することによって、自分自身の賃金が上昇するだけでなく、経済の成長にも寄与する可能性がある。このため、特に若年層を中心に、必要に応じて、その能力を活かせる職場に円滑に移動できるよう、外部労働市場の整備や効果的な教育訓練機会の提供といった施策を実施することが期待される。また、転職成果を上げるためには、情報仲介機能やマッチング機能の強化が重要であると考えられる。このため、例えば「民営職業紹介所」に対して、ハローワークの持つ情報を開放するなど、民間人材ビジネスの有するノウハウが利活用されるような支援策の実施が求められる。
(離職期間の短い転職は賃金改善につながる可能性)
転職成果には、転職者の年齢や離職理由、選択する入職経路の違いが影響することを見たが、前述の回帰分析の結果によると、離職期間が短いほど賃金上昇率が高くなっている。離職期間の長期化は人的資本を毀損させる可能性があることなどから、離職期間が短いほど、転職後の賃金改善につながっていると考えられる。そこで、離職期間の長い転職者(離職期間15日以上)と短い転職者(離職期間15日未満)について、転職前後の賃金変化率を比較してみよう。
まず、年齢別に、離職期間と賃金変化率の関係を見ると、離職期間の短い転職者は長い転職者に比べての賃金改善幅がおおむね大きい(悪化幅が小さい)。離職期間の長い転職者では、賃金の改善が見られるのは20歳台のみであるが、離職期間の短い転職者では20-24歳から40-44歳までの幅広い年齢層で賃金の改善が見られる(第3-1-11図(1))。
次に、同様の比較を離職理由別に行うと、「定年」を理由に離職した転職者以外は、離職期間の短い転職者の方が賃金改善幅は大きい(悪化幅が小さい)(第3-1-11図(2))。
さらに、入職経路別に比較すると、年齢別、離職理由別と同様に、おおむね離職期間の短い転職者は長い転職者に比べての賃金改善幅が大きい(悪化幅が小さい)。特に、離職期間の長い転職者では、全ての入職経路で賃金が悪化する一方、短い転職者では、「民営職業紹介所」、「広告」、「公共職業安定所」、「縁故」において賃金が改善している(第3-1-11図(3))。
このように、離職期間の短い転職者は、長い転職者よりも、転職を通じて賃金改善につながる可能性が高い。このため、例えば、「公共職業安定所」や「民営職業紹介所」におけるキャリア・コンサルティング機能の強化、個人の課題に応じたメニューの策定支援などにより、短期間での労働移動を支援し、失業なき労働移動の実現につなげていくことが重要である。