第1節 経済構造の変化とマクロの生産性の関係

日本経済は少子高齢化により労働力が減少する局面に突入する。特に2007年は、戦後生まれのベビーブーム世代(団塊世代)の第一陣が60歳という定年退職の年齢に到達する節目の年となる(第2-1-1図)。これは経済成長の要因の一つである労働力が減少することを意味する。高齢化の進展は労働力を減少させるとともに、高齢者の増加による貯蓄率の低下を通じて投資水準が低下することも懸念される1。資本の蓄積が困難となれば経済成長の鈍化は避けられない。

労働や資本の量的拡大が困難であれば、日本経済全体の成長率を維持するためには、労働や資本の質的向上を目指し、国民一人当たりの成長率を高めていく必要がある。すなわち、労働投入当たりの生産の効率化、労働生産性を向上させることが重要となる。

1 労働生産性の推移と変動要因

 労働生産性の成長率に寄与する資本深化と全要素生産性

我が国のマクロ的な労働生産性の推移をOECDのデータでみると、80年代の平均伸び率が3.4%であったものが、90年代に2.2%へと、1.2%ポイントの低下を示している。2000年以降も平均伸び率は2.4%程度で推移している(第2-1-2図)。ただし労働生産性の動きは短期的な景気循環の影響を受ける点には留意が必要と考えられる。

一国集計レベルで労働生産性を定義すると、労働生産性の上昇率は、(i)資本深化(資本装備率の上昇)、(ii)全要素生産性(Total Factor Productivity、以下TFP)の上昇率という二つの要因に分けられる2

資本深化とは、労働者一人が利用できる資本設備の分量が増加することを意味する。労働者一人当たりの資本設備量は「資本装備率」ともいわれ、これは資本ストックを労働投入量(労働者数×労働時間)で割ることにより求められる(資本/労働比率)。資本深化はこの資本装備率の上昇を意味しており、単位労働当たり使用可能な実物資本が多くなるほど労働生産性は上昇することになる。

これに対して、TFPの伸びは資本や労働の投入量だけでは計測することができない、全投入要素の生産性の上昇に対する寄与分である。TFPの伸びはその推計過程から理解されるように産出された付加価値の上昇率から資本・労働などの投入要素の変化率を控除した「残差」に過ぎない、言わば生産の上昇に寄与する「何か」でしかない。ここには、技術進歩率以外の様々な要因が含まれる。例えば、労働、資本について発生した質的な変化(教育訓練による労働者の能力の向上、最先端のIT技術を含む設備投資など)が労働者数、資本ストック量などのデータに定量的に盛り込まれない場合はTFPの変化として計測されることになる。また、投入要素の利用方法を改善するIT化による生産手法の革新などもここに含まれる。さらに、産業間の資源配分や企業の参入・退出行動もTFPの伸びに影響を与える。したがって、生産性を向上させる企業行動あるいは政策を考える場合、ここに含まれる様々な要因を取り出して考えていく必要がある。

以下では、(i)資本装備率の上昇率、(ii)TFP上昇率の過去からの推移とともに、今後の労働生産性の向上を展望するに際しての留意点を整理する。

 90年代以降は労働生産性上昇に対するTFPの伸びの寄与は大幅に低下

労働生産性の上昇率について、(i)資本装備率と(ii)TFPの寄与をみると、資本装備率の上昇率が労働生産性の向上に大きく寄与してきた中で、90年代にみられた労働生産性の低下は、TFPの伸びの低下の影響を受けている。80年代における労働生産性の成長率(年平均3.4%)のうち、その約7割程度が資本装備率の上昇寄与によるものであり、TFPの寄与は、約3分の1を占めていた。90年代に入ると、労働生産性の上昇の大部分が資本装備率上昇の寄与によるものであり、TFPの寄与は労働生産性の上昇率(年平均2.2%)の2割程度まで低下した3。2000年以降の労働生産性の上昇率に占めるTFPの寄与度の割合は再び上昇しているが、これについては長期にわたる景気回復局面の影響を考慮する必要があることは前述のとおりである4第2-1-3図)。

 資本装備率が上昇する一方、資本生産性は低下

資本装備率(実質資本ストック/総実労働時間、総実労働時間=労働者数×労働時間)の変動を要因分解すると、80年代から90年代の初めにかけて、資本ストックの着実な増加によって資本装備率が上昇している。その後、資本ストックの伸びが急速に低下する一方で、労働時間の減少が資本装備率の上昇要因となっている。

上記で示したように、資本装備率の上昇は労働生産性の向上に貢献してきたが、一方で、資本投入当たりの生産効率(資本生産性)を低下させてきた。資本生産性の逆数である資本係数の推移をみても、2000年頃まで上昇傾向にあった(一単位のGDPを生み出すためにより多くの資本ストックの量が必要となっていた)が、ようやく横ばいとなっており、資本投入当たりの生産効率の低下にも歯止めがかかりつつある。

 90年代までは労働分配率が上昇する一方で資本の限界生産性は低下

結果として現れる労働生産性は資本蓄積を進めることにより上昇することは確認できた。しかしながら資本深化(資本装備率の上昇)を単純に労働生産性上昇のための手段とみなすことには資本の生産性の観点から問題がある。資本蓄積を過度に進めることは経済全体としては効率の悪く採算性の低い資本設備を抱え込むことにつながる可能性もあり、長期的な成長にとっては負の要因となる。労働生産性の改善に寄与するとともに経済全体の効率性を確保できるような形で資本の蓄積が行われることが必要である。

資本の効率化の動きを資本の限界生産性(資本分配率×資本生産性、資本分配率=1-労働分配率)である有形固定資産利潤率の推移から改めてみてみると、80年代以降90年代後半まで振れを伴いながらも大きく低下していることが分かる5。これに対して、労働分配率の長期推移をみると、70年代の前半にかけて60%台まで急速に上昇している(第2-1-4図)。その後は60%台で推移した後、90年代において再び上昇傾向をたどっている。このように労働分配率が上昇する下で資本生産性が低下してきた背景には、希少な労働と豊富な貯蓄の下で長期的に資本蓄積が進行してきたことが指摘できる。労働分配率(前年差)を要因分解すると、80年代にかけて一人当たりの人件費の増加により労働分配率が大幅に上昇しており、90年代半ばまで上昇に寄与している。これに対し、2000年代に入ると、一人当たり人件費の減少とともに、企業の売上高増加が労働分配率を大きく低下させていることが分かる(第2-1-5図)。結果的に、資本の限界生産性である有形固定資産利潤率は、資本提供者に対する必要収益率である実質長期金利近傍まで低下している。低資本コスト下での非効率な資本蓄積や資本分配率の低下(労働分配率の上昇)がバブル崩壊後の調整過程でTFPを低下させるとともに資本収益率の低下につながった可能性がある6

以上のとおり、資本や労働に対する配分が生産・収益構造の変化を通じて、中長期的な労働生産性の向上に及ぼす影響には留意する必要がある。

 設備老朽化による資本生産性の低下

資本装備率の上昇は、それ自身労働生産性を上昇させる効果がある一方で、資本効率(資本生産性)を低下させることは、これまでみてきたとおりである。しかしながら、企業が資本の効率化を強く意識し資本の増加を躊躇するあまり、効率性の高い資本への投資を見送ってしまい、結果的に資本生産性の上昇には結び付かず、潜在成長率を低下させることも考えられる。こうした投資抑制を軸とする効率化に関しては、いわゆる設備年齢(ビンテージ(平均的な経過年数))の高齢化が指摘できる。

70年の「国富調査」による平均経過年数をベンチマークに推計した設備ビンテージをみる限り、設備年齢は90年代半ばから上昇傾向にあったが、ようやく上昇に鈍化の傾向がうかがわれる7。特に90年代後半からの設備年齢の上昇は、経済停滞の長期化による需要低迷や、過剰設備と過剰債務を抱え込んだ企業部門が債務返済を優先させたことなどにより、新規の設備投資が抑えられたことに影響を受けていると考えられる(第2-1-6図)。

第2節においては、資本の効率化あるいは設備年齢の高齢化という観点から設備投資の制約要因に関する個別企業の意志決定が如何なる要因によって左右されるのかを考察する。

 非正規雇用の増加は労働の質の低下を通じて将来的には生産性を押し下げる可能性

労働力人口が減少していく中で、経済全体の生産性を向上させるためには「労働の質」を高めていく必要がある。労働者数と労働時間を単純に代用した労働投入量は均質的な時間総計に過ぎず労働の質の変化は反映されていない。労働の質は年齢、学歴、勤続年数など属性別に異なると考えられる。つまり労働力構成の変化を通じて、全体の労働の質が変化し、労働生産性に反映される。労働の質については、勤続年数効果や労働力の高学歴化により、90年代にかけて向上してきたとみられている8。しかしながら、ここ10年間に労働市場の構造変化として正規雇用者から非正規雇用者へのシフト、産業セクター間での労働移動がみられている。こうした構造変化が、我が国の潜在的な労働力の構成の変化を通じて、労働の質に影響を与えた可能性がある。

非正規雇用者やフリーター、ニートの増加は、正規雇用である場合に比べて、若年期に必要な技能及び知識の蓄積がなされないなどのおそれがある(第2-1-7図)。団塊世代(正規雇用者)の退職が本格化していく中で、これに代替する利用可能な労働プールの質の低下が、労働生産性の伸びに影響を及ぼすことが懸念される。この点についても、第2節において企業レベルでの人的資本投資や人材育成方針を取り上げている。

2 生産性の国際比較と産業別の生産性

 海外と比較して見劣りする日本の資本生産性上昇率

 OECDのデータを使った主要7カ国の国際的比較によって、日本の労働生産性や資本生産性、更にTFPの上昇率の特徴を整理すると、資本の効率性は低いということが改めて確認できる(第2-1-8図)。

労働生産性(2005年時点)の水準をみるとG7中最下位である。一方、労働生産性の上昇率をみると、2000年から2005年までの期間において2%を上回る上昇を示している。アメリカを除く他のG7諸国が90年代と比較し伸び率を大きく低下させている中で、日本の場合は伸び率が微増している。製造業・非製造業別の労働生産性の動向をみると、日本の場合、95年から2003年までの期間については、製造業ではG7中最も高い生産性の伸びを示す一方、非製造業は平均的な伸びを示しており、伸び率の最も高いアメリカに比較すると見劣りする。

これに対して、日本の資本生産性の上昇率をみると、2000年から2005年にかけて改善しているものの、G7中イタリアに次いで最も低下しており、資本の効率的な活用が遅れていることが分かる。

また、90年代から2004年にかけてのTFPの伸びをみると、日本の場合、G7諸国の中で比較的高い伸びとなっているものの、アメリカには及んでいない。

 製造業に比べて低い非製造業のTFPの伸び率

労働生産性の成長率でみる限り、2000年以降、他のG7諸国が低下させている中で、日本の場合、2%程度の伸びを維持してきたことが分かるが、労働生産性の水準でみた場合、日本はアメリカの7割程度に過ぎない。資本の効果的な活用を進めながら、労働生産性の水準を引き上げていくためには、TFPの伸びを高めていくことが重要である。TFPの伸びは90年代において大きく下方屈折しており、2000年以降をみても改善しているものの、特に非製造業のTFPが極めて低い伸びにとどまっていることが分かる(前掲第2-1-3図)。

産業別のTFPの伸び9をみると、製造業では80年代から90年代において1.9%から1.6%へ低下した後、2000~2005年には2.4%と上昇している。一方、非製造業では80年代から90年代において1.5%から▲0.1%へと低下しており、2000~2005年には0.7%となっている。

さらに細かな産業区分別にみると、製造業では、電気機械や精密機械で80年代に高い伸びを示した後、90年代に伸びが低下し、その後2000年代に再び高い伸びを示している。また、一次金属(鉄鋼及び非鉄金属)では80年代には低い伸びにとどまっていたが、90年代、2000年代と伸び率が上昇している。輸送用機械は80年代、90年代、2000年代をとおしてほぼ同じ程度の伸びを続けている。一方で、化学や金属製品のように80年代には比較的高い伸びを示した後、2000年代には伸び率が低下している産業もある。

これに対し、非製造業については、サービス業や不動産業、農林水産業でTFPの伸びが一貫して低い水準にとどまっている。また、金融・保険業、卸売・小売業、建設業では80年代には比較的高い伸びを示していたが、2000年代には80年代に比べて伸びが低下している。一方、電気・ガス・水道及び鉱業では80年代、90年代に比べ2000年代に高い伸びを示している(第2-1-9図)。

3 生産性向上のための課題

既述のとおり資本装備率の上昇が労働生産性を高める方向に寄与した一方、90年代における労働生産性の伸び率低下の主な要因は、非製造業を中心としたTFPの低下によるものと考えられる。生産性を上昇させていくための今後の留意点や具体的な手段を整理しながら、本章における問題意識と分析内容を改めてまとめると以下のとおりである。

 労働生産性の上昇を考えていく上での留意点

本章の最初に述べたように少子高齢化、グローバル化、IT化などの環境変化の中で日本経済全体としての成長を確保するためには労働生産性の上昇が必要である。「基本方針2007」においては、今後5年間に労働生産性の上昇率が5割増に高まることを目指している。このような目標に沿ってマクロの労働生産性の向上を図っていくに際しては、以下の点にも留意する必要があると考えられる。

第一に、労働生産性の上昇を実現するための手段は複数存在し、相互関係について総合的に把握する必要がある。過去の労働生産性の推移を確認した際に資本深化の寄与を示した一方で、資本蓄積を進めるだけでは効率的な経済は実現しない点についても指摘した。労働生産性の上昇を達成したとしても過剰な資本蓄積により資本の効率性が低下してしまっては経済全体としての成果は満足なものにはならない可能性が高い。

第二に、経済全体としてのマクロの労働生産性の上昇と企業単位での労働生産性の上昇とでは政策的な含意が異なる場合がある点を認識する必要がある。個別企業で労働生産性を上げるためには労働投入量を保ちつつ付加価値や収益を高めるという手法以外にも生産水準を維持する中で労働投入量を削減するという手法もある。特にリストラの過程では正規雇用から非正規雇用に労働者の構成を変化させるという形で後者の手法が採用された。しかし、マクロ経済段階でこのような労働投入の削減による労働生産性の上昇を目指すことは結果的には失業増加につながるおそれがあり、慎重な対応が必要である。労働生産性の上昇については、経済全体としての雇用の在り方とのバランスもとりつつ考えていくことが必要である。

第三に、労働生産性の上昇と国民生活水準の上昇との関係については適切な評価が必要である。マクロ経済指標としての労働生産性は労働者一人当たりのGDPなどで表される。しかし実際の労働者が獲得する所得はGDPの中から労働者に配分される分であり、労働分配率の動きによっても左右されることになる。この場合、労働分配率を高めることだけで問題の解決が図れるわけではない。既に指摘したように労働分配率の上昇は限界的な資本生産性を低下させる方向に作用する。このため労働分配率を過度に高めることは一時的に労働者の所得を高めることになっても経済全体の効率性を考えると必ずしも最適な選択とはいえない。

 労働生産性上昇のための具体的な手段

以上のような基本的な認識を踏まえつつ、マクロ経済上の労働生産性を高めるための具体的な手段について考えてみると以下のように整理できる。

第一に、企業単位での生産性向上が挙げられる。日本企業の経営はバブル崩壊後の調整に至るまで、低い資本生産性、資本収益率に象徴されるように、必ずしも効率的であるとはいえなかった。個々の企業における競争力強化に向けた非効率な設備の廃棄と新規投資、あるいは人的資本への投資拡大が経済全体の資本・労働の質を高める結果、生産性は上昇する。ただし、グローバル化や技術面の高度化など、企業を取り巻く環境は大幅に変化しており、企業行動は一様ではなくなっている可能性がある。経営環境と多様化する日本の企業行動については、第2節で扱う。

第二に、企業間、産業間での労働力、資本ストックの移動による生産性向上が挙げられる。経済全体の生産性を考えると、資本収益率の高い企業や産業での資本蓄積が進むことで生産性上昇が実現するといえる。個々の企業単位を越えて企業間あるいは産業間での資源再配分が実現することで、経済全体の生産性も上昇する。相対的に労働生産性が低い産業から高い産業へ労働力が移動するとき産業間再配分効果はプラスとなる。ただし、この可能性については現在の構造変化を考えると過度な期待はできない状況にある。80年代までは日本経済は製造業比率が維持されており、農林水産業比率の低下などを通じて労働移動は経済全体の労働生産性の上昇に寄与した面があった。しかし、90年代以降はサービス経済化が進行し、効率性の比較的低いサービス業への労働移動が続いている。労働生産性が高い企業は省力化を推し進めて雇用吸収力が低い場合が多く、経済全体としてそのような高労働生産性部門へ労働が大量に移動するという展開は期待しにくい点は認識しておく必要がある。ちなみに労働投入における各産業のシェア変化による労働生産性上昇率への寄与(産業間再配分効果)を推計したところ、2000年代に入ってからの労働生産性上昇への産業間再配分(労働移動)の寄与は低下している(第2-1-10図)。

企業を越える資源配分の変化という観点はM&A取引についても適用できる。2000年代に入って、企業間のM&A取引が活発化し始めている。M&A取引については、生産要素のスムーズな移動により企業価値を改善させる、あるいは生産性を向上させる効果が指摘されている。企業間あるいは産業間での望ましい資源再配分の観点から、上場企業のM&Aに対する意識などを踏まえつつ、最近のM&Aの動向とその効果について第2節で分析する。

第三に、TFPを上昇させる要素としての技術革新とイノベーション促進などが挙げられる。アメリカにおいて高い生産性を達成できたのは、イノベーションとIT技術への重点的な投資があったことが要因として挙げられる。アメリカではIT起業家精神の旺盛さと労働・雇用の柔軟な市場がビジネス形態の革新を伴いながら、TFPの伸びに寄与した。日本の場合、非製造業を中心に有効活用されていないIT資本をどのように活かしていくかが、生産性を更に上昇させるための重要な課題といえる。第3節では日本企業のIT活用の現状を踏まえた上で、最近みられているCIO(IT担当役員:Chief Information Officer)の設置などITの有効活用に向けた組織的な取組が生産性向上につながっているかについての分析を行う。また、第4節ではイノベーションに対するアメリカ・EUの取組を整理した上で、我が国のイノベーションの歴史的特徴と現在の国内環境を俯瞰し、併せて課題を把握する。

最後に、このような生産性上昇の動きを可能とするために適切な制度設計としての政策対応が挙げられる。生産性向上の実際の担い手が企業部門であることはいうまでもない。しかしながら、イノベーション促進に向けた環境整備で政策対応が果たすべき役割は大きい。特に技術革新が進む中で高度技術に対応可能な人材を確保するためには教育の果たす役割は極めて大きいといえる。国際的な競争に打ち勝ちながら国内で付加価値が高い産業部門の活動の場を維持するためにはそれを支えるための人材が必要であり、そのための教育の提供は必要不可欠の条件となると考えられる。本章では直接取り扱っていないが、規制改革の進展が生産性に与える影響については、生産性の高い新市場の創出のほか、競争強化によって企業の内部効率化や技術進歩が図られて生産性を上昇させる経路10、生産要素の投入構造の変化を通じて生産性を上昇させる経路11が考えられる。さらに、中長期的にみて企業部門が安心して経済活動を行い、イノベーションを促進できるような経済環境を提供するため、安定的なマクロ経済運営が重要である。