第2章 今後の成長に向けた生産性向上と企業行動

第2章のポイント

第1節●経済構造の変化とマクロの生産性の関係

 労働力人口の減少やグローバル化の進展に伴う国際競争激化の下で、持続的な成長を実現するためには、資本深化と全要素生産性上昇という二つの経路でバランスを取りながら労働生産性の上昇を実現していく必要がある。

 その際、適切な資本蓄積を実現することで技術革新の停滞や金融市場の資金配分の歪みを回避するとともに、経済全体としての雇用の在り方などにも配慮しながら、企業・産業・マクロという各レベルで持続可能な生産性向上を目指していく必要がある。

第2節●生産性の視点からみた日本企業の行動

 日本企業の行動をみると、キャッシュフローの範囲内で設備投資を行っている企業が多い。これは、グローバル展開する企業では投資の不確実性に対する懸念がみられること、国内事業展開を中心とする企業では、国内需要の成長力見通しが低いことが影響していると考えられる。

 日本におけるM&Aは、これまでのところ費用節約的な効果にとどまっており、生産性上昇という観点から活用の余地が残っている。日本企業では内部組織における経営の意思決定力と業績の関係が高いという傾向がみられ、これは経済全体の効率性向上につながると期待される。

第3節●日本企業のIT活用と生産性

 企業のIT化に関して、CIO(最高情報統括責任者)の役割が注目されている。IT投資評価を実施しているCIOの下で、企業の情報ネットワーク利用の全体最適化は労働生産性の上昇に影響している可能性がみられた。

 アメリカにみられる情報化投資による生産性向上を日本において実現していくためには、経営組織の改革を伴う企業業務の見直しも視野に入れる必要がある。

第4節●我が国のイノベーションをめぐる課題

 イノベーションを創出する経済社会環境と制度設計が重要である。人的資本の活用については、理工系の高度人材の活用や産学官の連携の重要性が増している。

 資金面でも大企業を中心とした研究開発投資にとどまらず、長期的に成長性の高いベンチャー企業を輩出していくための証券市場の整備等が期待される。

第5節●まとめ

(略)

第2章 今後の成長に向けた生産性向上と企業行動

日本経済は新たな成長基盤の構築を展望できる状況となったものの、1990年代の長期停滞以前の状態に戻ったわけではない。少子高齢化という人口動態の変化、経済の一層のグローバル化の進展に伴う国際競争の激化、ITなどの技術革新の浸透など、日本経済を取り巻く環境の変化に対応しながら国民生活の質を高めるため、生産性を向上させることが避けることのできない課題となっている。

本章では、労働力人口が減少していく日本経済が成長を続けるためには、生産性の向上が必要であるとの前提に立ち、その担い手である企業行動を分析する。労働生産性については日本経済全体としてのマクロの視点からの理解が重要であることはいうまでもない。同時にマクロ経済における労働生産性の上昇には企業単位によるミクロレベルでの生産性の把握が極めて重要であると考えられる。本章ではこうした観点から日本企業の経営の実態などからミクロレベルでの生産性について検討を行うこととする。

まず、本章第1節において過去のマクロ経済レベルでの労働生産性の伸びの要因を分析することにより今後の生産性向上の対応策について考え方を整理する。第2節では、マクロ的な労働生産性の構成要素となる個別企業の生産性という観点から、多様化している日本の企業行動を分析する。第3節では、引き続き企業レベルでの生産性という視点から、IT化の進展と労働生産性の関係を分析する。第4節では、生産性の上昇の重要な源泉であるイノベーションの仕組みと政策的な取組について整理を行う。第5節では、本章全体の分析結果を整理する。