第4節 拡大した経常収支黒字
91年度の貿易収支は15兆1,049億円(1,137億ドル)の黒字となり,前年度に比べ大幅に増加した。円ベースでは86年度に次いで既往二位,ドルベースでは過去最高の黒字となった。また経常収支の黒字は11兆9,814億円(902億ドル)に達し,GNP比率は90年度の1.1%から大幅に増加し,91年度は2.6%となった。経常収支黒字は86年度にGNP比率4.4%のピークをつけた後,90年度まで着実に低下を続けたが,91年度に入ってからは前年水準より拡大した。91年度の経常収支黒字の増加は,内外の景気動向の影響もあるが,高級品輸入増,投資用金輸入増,湾岸危機を契機とする原油価格の高騰といった90年度における一時的要因の剥落によるところが大きい。他方,長期資本収支は外国資本が大幅な流入超に転じたことなどにより,過去10年間継続したネットの流出超が流入超に転じるという変化が生じた。このような対外バランス変化の要因について考える。
1. 貿易収支黒字の拡大
貿易収支黒字が拡大した要因を,貿易統計を用いて調べてみよう。
(低い伸びの輸出数量)
91年度の輸出動向を貿易統計でみると,輸出数量では年度中に強含みで推移した時期があったものの,年度全体としては前年度比2.1%増にとどまり,90年度の6.3%増を大きく下回った。価格指数は円ベースでは0.2%減,ドルベースでは5.9%増加し,対米ドル円レート(インターバンク直物相場月中平均の年度平均)が90年度141.30円/ドルから91年度は133.18円/ドルへ円高となったことを反映した動きとなった。この結果,通関額は円ベースでは2.0%増の低い伸びを示した一方,ドルベースでは8.1%増と前年度に続いて高めの増加となった。
低い伸びとなった輸出数量の動きを海外市場の動向,我が国輸出財の価格競争力にわけて調べる。先進国経済が景気後退期にあったことから,91年の世界貿易の伸びは低いものにとどまっており,海外市場の需要は一部途上国を除いて基本的には低調であった( 第1-4-1図)。他方,相対価格をみると,我が国物価の安定を背景に,91年前半までの円安傾向は我が国輸出財の相対価格を有利化させ,価格競争力を強めた。しかし,91年央以降円が強含むにしたがい,相対価格の有利性は低下している。これらのことから,91年中の輸出数量が低い伸びとなった原因として,海外市場の基本的な低迷,相対価格の上昇が挙げられる。
92年に入ってからの輸出数量の動きは,やや強含みに推移してきたが,このところ増勢が鈍化している。品目別にみると,一般機械,化学製品等で輸出が増加傾向にある。これまでのところ,化学や紙パルプという素材型業種の一部に旺盛な途上国からの需要を背景に,輸出向け出荷が伸びている業種がみられるが,全業種を通じてみると,92年第1四半期の輸出向け出荷は前期比微減となった。
次に地域別輸出の動向をみると(第1-4-2図),ドイツ統一に伴う旧東ドイツ地域からの需要が急増し,自動車等耐久消費財の輸出が増加したという要因が90年後半から91年初めにかけてみられたものの,北米,EC等の先進国市場の景気減速を背景に,海外所得面からの輸出押し上げ要因は極めて弱かった。他方,設備投資と個人消費中心に好調な成長を続ける東南アジア,韓国及び中国では,我が国輸出市場でのウエイトが高まっており,資本財,耐久消費財,生産財の堅調な輸出が持続した。また,湾岸危機が終了した中近東向けは,復興需要があり輸出が回復した。
(高付加価値化の影響がみられる輸出価格)
91年度の円レートは5.7%上昇したが,ドルベースの輸出価格は5.9%上昇した。我が国輸出のドル建比率は91年に46.8%を占めており,これは円レートの上昇に比べてドル建価格の増加を小さくさせる。ところが,このところ我が国輸出は高付加価値商品の比重を高めており,平均輸出単価の上昇が傾向的に続いている。企業の価格付けにおいて円高を輸出価格に上乗せする転嫁率は,プラザ合意以後の円高局面では5割から6割程度(円高による原材料コスト等の低下分を考慮すると7割程度)であった。しかし,91年央以降の円高局面においては,高付加価値化が輸出価格を上昇させる要因となっているため,円レートと輸出価格の上昇率はほぼ1対1の関係となっている。生産体制における高付加価値化は国内向け,輸出向けを問わず進展しており,企業の出荷採算性を高める。両者の出荷採算性の動きをみると,80年代後半は大幅な円高の結果,国内向け出荷の相対的な収益性が高まっていたが,このところ輸出向け出荷の収益性が以前に比べ幾分回復している。
我が国の輸出品は,自動車,半導体等電子部品,事務用機械等のハイテク機械機器類が大半を占めており,これらハイテク製品の国際競争力を支えるための研究開発,製品開発等の投資が旺盛に行われていることから,高付加価値化が一層進展してきている。81年度より行われている対米乗用車輸出自主規制は,92年度の規制枠を165万台として継続されている。また,対EC向け自動車輸出自主規制はそれまでのモニタリング(数量監視)方式を改め,2000年からの完全自由化に向けた移行期間として,99年時点での日本車輸出台数を91年実績より3万台少ない約123万台にするという内容で,93年より実施される。その他,工作機械,半導体等も輸出自主規制,あるいは何らかの規制下にあり,こうした動きは我が国輸出品の高付加価値化を促進する一つの要因となっている。高付加価値化は我が国輸出品の強い非価格競争力を背景にした動きであり,輸出数量の伸びが微増にとどまっているにもかかわらず,輸出金額を増加させる効果を有している。
(低い伸びの輸入数量)
91年度の輸入動向を同じく貿易統計でみると,輸入数量は資産価格の下落等を背景に高級乗用車,絵画等のしゃし品の輸入が急減したことや国内景気の影響等から弱い伸びとなり,前年度比1.2%増と,90年度の6.7%増に比べ大幅に低下した。円高,原油安や一次産品価格安の効果があり,価格指数は円ベースでは10.5%減,ドルベースでは5.3%低下し,交易条件は改善した。91年度の1バーレル当たり原油輸入単価は18.9ドルとなり,前年の23.3ドルから下落した。この結果,通関額は円ベースでは9.4%減少し,ドルベースでは4.1%減と,それぞれ86年度以来五年振りに前年を下回った。原油安の影響から,金額でみた製品輸入比率は前年より上昇し,91年度は51.8%と過去最高を示した。
92年に入ってからの輸入数量の動きは,総じてみれば横ばいで推移している。第1四半期の伸びは前期比1.8%減となり,その後はならしてみるとやや弱い動きが続いている。この要因として,基調として堅調な個人消費を反映して食料品輸入は増加傾向にあるものの,在庫調整による鉱工業生産の停滞から生産財の輸入は弱い伸びとなっていることが挙げられる。
製品輸入の動向をみると,設備投資や耐久財消費にストック調整の動きがみられるようになった91年後半からは,ほぼ横ばいで推移している。今回の景気拡大局面で顕著な増加をみせた乗用車や高級絵画等の輸入は,90年後半より減少に転じており,92年前半においても回復の動きはみられない。また,実質総需要(実質国民総生産+輸入等)の伸びが90年末以降緩やかに減速する中で,製品輸入数量の伸びも鈍化している。円高の効果が働いて,91年後半以降輸入品の相対価格は数量増加にプラスの効果をもっているが,製品輸入数量の伸びを高めるには至っていない(第1-4-3図)。
主要地域別に輸入数量の推移をみると,90年央以降ECからの輸入は,高級乗用車輸入の減少等の影響があり落ち込みが際立っていたが,このところ持ち直している(前掲第1-4-2図)。また,アメリカからは緩やかな増加となっている。中国からは輸入の拡大が続いているが,東南アジアからは増勢に鈍化がみられる。
(通関収支差の要因分解)
このような輸出入の結果,91年度の通関収支差は11兆7,391億円(883億ドル)の黒字となった。ドルベースでみると,前年度に比べ340億ドル黒字幅が拡大した。黒字幅の拡大を価格要因と数量要因に分けて考察すると,その5割に相当する174億ドルが輸出の価格要因であり,円高のJカーブ効果や輸出品の高付加価値化の動きが,黒字幅拡大に大きく寄与したことがわかる(第1-4-4図)。また,原油価格が下落したことによる輸入価格要因が黒字幅を59億ドル増加させ,一次産品等の価格低迷による輸入価格要因が53億ドル黒字拡大に寄与した。これらの輸出入の価格要因を合計すると,黒字拡大幅の8割強を説明してしまう。数量要因を個別にみれば,黒字幅拡大に寄与したものがあるが,価格要因の大きさに比べれば,その寄与ははるかに小さいものであった。
次に,通関収支差の動きを四半期別にみると,黒字幅は91年第1四半期から92年4~5月期まで前年水準を上回って推移している。この黒字幅拡大を,価格要因と数量要因に分けて調べると,輸出価格要因と輸入価格要因が黒字幅拡大を説明する支配的な要因であることは,年度ベースの要因分解で述べたとおりである。しかしながら,92年4~5月期をみると,原油価格下落に伴う輸入価格要因が剥落し,一年限りの措置として課されていた石油臨時特別税が期限到来とともに失効し,原油輸入が前年より増加するという数量要因が働いたため,通関収支の黒字幅拡大はやや鈍化した。さらに,90年末から緩やかに始まった景気の減速,91年後半からの在庫積み上がりに伴う生産調整の実施を背景として,原油を除く輸入数量要因は黒字幅拡大に対するマイナスの寄与を徐々に低下させてきている。
2. 黒字幅が拡大した経常収支
(減少した貿易外収支の赤字)
91年度の貿易外収支は2.6兆円(194億ドル)の赤字となり,前年度赤字の3.2兆円(225億ドル)より減少した。主因は投資収益の受取超が,前年度に比べて41億ドル増加したことにある。投資収益収支を直接投資に関する収益の受払(直接投資収益)と証券投資や借款等に関する「その他の利子・配当金」の受払(以下,間接投資収益という)に分けてみると,後者の受取超が投資収益収支の黒字全体の8割から9割を占めている。91年度において直接投資収益の受取超は,前年度より18億ドル増加し,過去最高の46億ドルに達した。また,間接投資収益の受取超は,前年度より23億ドル増加し,223億ドルとなった。91年と92年の特徴として,3月及び4月に投資収益の受取超過幅がきわめて大きいものになっている。
海外直接投資は80年代後半に急速な拡大をみたが,直接投資による投資収益の回収は,直接投資残高に比べるときわめて低いものにとどまっており,我が国の直接投資収益に関する特徴となっている。これは,海外での事業がまだ緒についたところであり,高収益を計上するには至っていないものや,利益計上に困難を抱えるものが多いことが理由として考えられる。次に,間接投資収益の最近の傾向として,間接投資収益の受取超は80年代に年平均で5割超の増加率で急速に拡大してきたが,90年度に前年度比2割減となった後,91年度は1割増の増加にとどまり,このところ伸びが緩やかになっている。これは,間接投資収益の受取は着実に増大しているが,支払も大きく増加しているためである。この理由としては,本邦企業がユーロ円インパクトローンや外債発行により海外で活発な資金調達を行った結果,借款利子や外債利子の支払が急増していることが挙げられる。
旅行収支は年度計としては前年度の赤字幅を21億ドル上回った。91年前半は湾岸危機に伴う武力行使の影響から海外旅行が減少していたが,年後半には海外旅行が回復し,旅行収支の赤字を拡大させた。運輸収支の赤字は前年度より5億ドル増加したものの,それまでに比べ増加率は緩やかなものにとどまっている。貿易外収支のその他項目では,民間部門のサービス取引における赤字が低下したため,赤字幅が17億ドル減少した。91年度の移転収支は5,439億円(41億ドル)の赤字となり,89年度以前の水準に戻った。90年度には湾岸平和基金への大幅な拠出(総額1兆4,229億円,<109億ドル相当>)が行われた結果,同年度の移転収支は赤字幅が拡大していた。なお,湾岸平和基金へは91年7月に四度目の拠出(700億円,<5億ドル相当>)がなされた。
(経常収支黒字の拡大)
91年度の経常収支黒字幅は,貿易収支黒字の急増,貿易外収支及び移転収支の赤字の減少により,大幅に拡大した。90年度から91年度にかけて貿易収支黒字が急増したのは,前述したように,内外の景気動向の影響も考えられるが,基本的には円高などを受けて数量が短期的には変化しない中でドルベースの輸出価格が上昇したこと(Jカーブ効果),原油,一次産品の価格が低迷したことなど価格面からの影響が大きい。また,資産価格の下落等を背景に,絵画,乗用車等の高額商品の輸入が大きく減少したことは今回の局面での一つの特徴である。さらに,貿易統計には含まれない金投資口座にかかわる投資用金輸入が減少し,前年度と比べた国際収支統計の輸入を貿易統計が示す以上に小さくさせたという要因も大きい。
我が国の輸出入は,製品輸入比率の上昇や現地生産化の進展などにより,以前の輸出が増えやすく輸入が増えにくいといわれた構造はかなり変化してきている。ただし,我が国経済は調整過程にあり,当面輸入の急速な増大は期待し難い。また,今後海外の景気回復が先行し,内外の景気回復局面にズレが生じる場合には,経常収支拡大に短期的なプラスの寄与として働く可能性が考えられる。このような黒字の動向に対しては,内外の景気動向や円レートの動向を踏まえつつ,引き続き効率的な市場に向けた構造改善努力を推進していくことが,より一層必要である。
3. 変化する資本取引
85年のプラザ合意以降90年にかけては,経常収支黒字が着実に縮小する一方で,長期資本収支は経常収支黒字を大幅に上回る流出超を示した。経常収支黒字は長短資本取引の資本流出,金融勘定(為銀部門と公的部門の対外短期純資産の増減)及び誤差脱漏の合計に一致することから,この間は投資家が短期資金を積極的に調達し,長期資産に運用していたことを示している。長期運用の対象としては,対外直接投資と対外証券投資が代表的であった。しかし,91年度にはこれまでの構図に変化がみられ,経常収支黒字幅の拡大,長期資本収支の流入超が生じた。91年度の長期資本収支は5.3兆円(398億ドル)の流入超となり,81年度から続いた流出超のバランスが変化した(第1-4-5図)。他方,91年度の短期資本収支は2.2兆円(159億ドル)の流出超,短期資金の動きを表す金融勘定は15.1兆円(1,148億ドル)の流出超となった。これらに誤差脱漏を加えれば,経常収支黒字(12.0兆円,902億ドル)に一致する。資金還流の観点からみると,これまでは長期資金の流出により,我が国の貯蓄や短期資金で調達した資金を国際的に還流させてきたが,91年度においては,短期資本取引による資金の流出を通じた資金還流が主となっている。月々により変動があるものの,92年に入ってもこうした動きが続いている。
(流出が続く本邦資本)
長期資本の動向を本邦資本(対外資産の増減が本邦資本の流出,流入に計上される)と外国資本(対外負債の増減が外国資本の流入,流出に計上される)に分けてみると,91年度の本邦資本は,ピーク時(89年度)に比べれば半減しているものの,流出幅は大きく1,006億ドルとなった。対外証券投資は,90年度に前年度比半減したものの,91年度は投資額が拡大した。この理由として,ユーロ市場で本邦企業が発行した債券取得が進んだこと,さらに,表面利回りの高いカナダドル建,オーストラリアドル建,英ポンド建債券を中心に,債券投資が好調であったこと,また,大手投資家の米ドル建を主体とする外債処分の動きが一服したことが挙げられる。本邦企業の外債発行については,発行時点では外国資本の流入として長期資本収支の黒字要因であるが,本邦投資家による取得分は本邦資本の流出として長期資本収支の赤字要因となり,資産負債の両建てで計上される。なお,直接投資は,主要国における不動産不況,資金調達コストの上昇等から不動産業向け投資が縮小したこと,また,海外拠点作りの一巡等により,金融保険業等や製造業向け投資も一段落したことで流出幅が縮小した。
(大幅流入増の外国資本)
91年度の外国資本は1,404億ドルの流入超となり,既往最高を記録した。この主因は,対内証券投資が急速に拡大したためである。また,本邦一般企業の中長期借入金(インパクトローン等)は,国内金利の割高感等から高水準を保ったため,借款は前年度並みとなった。対内証券投資が拡大した主な理由としては,我が国の株価が下落する一方,海外市場では株式相場が堅調に推移したため,日本株の割安感が高まり,欧米機関投資家中心に本邦株式を大幅に買い越したことがある(後出第1-6-2図参照)。また,ユーロ市場等で本邦企業が行う債券発行は,普通社債を中心にきわめて旺盛であり,過去に発行したワラント債等の償還額が拡大しているものの,ネットの発行は高額を維持した。
このような動きから,91年度の長期資本収支は対前年度比565億ドル黒字化したが,そのうち5割が証券投資のネットの流入増によるものであり,直接投資の流出超幅の縮小が4割,借款の流出超幅の縮小等が1割,それぞれ寄与した。
(流出超となった短期資本取引)
91年度の長期資本収支が流入超に転じた一方,短期の資本取引(金融勘定を含む)はそれを大幅に上回る流出超となり,とりわけ短期資本収支は86年度以来続いた黒字が,一転して巨額の赤字となった。これは,本邦企業による短期のユーロ円インパクトローンの返済が主因である。同時に金融勘定は未曾有の資金流出となった。これは,外国為替公認銀行部門(為銀部門)が流動性の高い対外負債を返済し,対外短期支払ポジションを好転させたことによる。その結果,為銀部門の短期純負債残高は,91年度末においてピーク時(89年度末)に比べ53.1%減少した。
このような長短資本取引の変動については,次のような背景を指摘できる。80年代後半の我が国の株価高騰時に,欧米機関投資家の対内株式投資は売越し基調で推移していたが,その反動として最近は本邦株式の買越しを通じて資産選択の調整を行っていると解される。さらに,短期資本取引の流出超については,これまで本邦為銀の国際金融業務が急速に拡大してきた下で,為銀は「短期調達・長期運用」の原則により,本邦企業による対外直接投資への資金供与及び債券投資を活発に増加させてきた結果,対外短期純負債残高が大きく積み上がっていた。このような国際業務拡大に対して,為銀の経営には,国際決裁銀行(BIS)の自己資本比率規制導入もあって収益重視路線への転換がみられ,資金ディーリングポジション(ユーロ市場を中心とした自らの金利予想にもとづく資産・負債両建のディーリングのこと)の圧縮及び対外貸付・対外借入両建てで抑制するという資産・負債両面での見直しが進んでいることが挙げられる(本章第7節参照)。したがって,91年度の資本取引に生じた変化は,国際化した金融取引の中で,国内国外の経済環境の変化に対応したものであるといえよう。
(円レートの推移)
91年度の対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場の月中平均値の年度平均値)は133.18円/ドルとなり,前年度の141.30円/ドルより円高となった。91年に入ってから夏にかけて,円はおおむね弱含みで推移し,一時142円近辺まで進んだ。その後,円は上昇に転じ,振れがあったものの,92年5月まで円高傾向にある。この間,日米長期金利差は安定的な動きを示している。また,対欧州通貨相場をみるためドイツマルクに対する円の動きを調べると,おおむね対米ドル相場と同様の展開となっており,円は91年前半まではおおむね弱含みで推移していたが,年央以降はそれまでの水準に比べ強含みの動きとなっている。91年前半までの円安により,我が国輸出の価格競争力は有利化した。その後の円高はJカーブ効果を通じてドル建輸出金額を増大させる一方,輸入物価の低下から国内物価に好ましい影響を与えた。