9. 物  価

(1) 落ち着いて推移した国内卸売物価

(落ち着いて推移した国内卸売物価)

1985年以降の円高,原油安の影響を受けて,国内卸売物価は88年まで前年比で下落を続けた。89年に入り,円安,及び原油価格の高騰による輸入物価の上昇,また4月の税制改革による上昇もあって,年度前半にやや上昇したものの,後半に入って落ち着きを取り戻した。こうした動きを反映して89年度の国内卸売物価は前年度に比べ,2.6%の上昇と84年度以来5年振りにプラスに転じたものの,税制改革の影響を考慮すれば引き続き落ち着いた動きと思われる。また為替円安等の影響を受けて,輸出,輸入物価は前年度比5.4%,10.7%の上昇と大幅に上昇し,その結果,総合卸売物価は同3.5%の上昇とこれも84年度以来5年振りの上昇となった(第9-1図①)。

第9-1図 卸売物価及び消費者物価指数の推移

89年度の動きを四半期ベースの前期比騰落率でみると(第9-2表),4~6月期の国内卸売物価は税制改革等の影響を受けて,電力・都市ガス・水道,輸送用機器,電気機器等が下落したものの,スクラップ類,製材・木製品,石油・石炭製品等が上昇したことにより2.2%上昇した。また輸出物価は円安の影響を受けて上昇,輸入物価も契約通貨ベースでの原油価格等の上昇に加え円安から上昇した。これにより総合は2.6%の上昇となった。7~9月期は,電力の夏季割増料金適用による季節的要因で電力・都市ガス・水道が上昇したことに加え,石油・石炭製品,非食料農林産物,製材・木製品等も上昇したことにより,国内卸売物価は0.6%の上昇となった。また,輸出,輸入物価はいずれも契約通貨ベースでは下落したものの円安の影響により上昇し,総合では0.8%の上昇となった。10~12月期はスクラップ類等が上昇したものの,電力の夏季割増料金の適用期間の終了により,電力・都市ガス・水道が下落したほか,非鉄金属,繊維製品等の下落により,国内卸売物価は0.4%の下落と4四半期振りにマイナスとなった。また輸出物価は円安等により上昇,輸入物価は海外商品市況安等の影響により下落した。この結果,総合でも0.2%の下落となった。90年1~3月期は非鉄金属,食料用農畜水産物等が下落し,たものの,石油・石炭製品,スクラップ類等の上昇により国内卸売物価は0.1%の上昇となった。輸出物価は契約通貨ベースでは下落したものの,円安等により上昇,輸入物価も海外商品市況高に加え,円安等により上昇した。この結果総合は,0.4%上昇した。

第9-2表 最近の卸売物価の動き

(引き続き上昇した輸入物価)

国内卸売物価は総じて落ち着いた動きをしたものの,輸入物価は89年以降おおむね上昇基調となり,89年第2四半期以降,国内卸売物価の押し上げ要因として寄与するようになった。この原因としては,第一に為替レートが年度当初,及び年度末に大輻に円安にふれたこと,第二に原油価格が88年11月のOPEC総会における生産抑制合意を受けて,上昇に転じ,一時弱含んだものの,89年年末から90年年初にかけては,欧米の寒波,アメリカ製油所の事故等を背景に一段と上昇したことによる。現時点ではいずれの動きもおおむね落ち着きを取り戻しており,すぐに物価上昇圧力を高めるものとは考え難いが,今後の為替の動き,海外商品市況等の動きによっては,国内物価への波及につながる可能性があり,今後も輸入物価の動向には注視する必要がある。

(2) 総じて落ち着いた動きとなった商品市況

89年度の国内商品市況の動きを日経商品指数(42種)の月末値でみると(第9-3図),建設資材関連等一部商品の需給逼迫,為替円安等の影響から年度前半は上昇,後半は弱含みとなった。90年3月はやや上昇したものの,年度全体でみれば総じて落ち着いた動きと思われる。

第9ー3図 国内商品市況の推移

四半期別の前期比騰落率をみると,89年1~3月期に上昇に転じた後,4~6月期は旺盛な建設需要等による需給引締まりから,木材,鋼材等が上昇したほか,繊維や既往原油高による石油等の上昇もあって総合指数は上昇した。

フ~9月期は繊維が下落したものの,鋼材,木材等が前期に引き続き需要が好調なことから続伸したため,総合指数もやや上昇した。10~12月期は既往原油高による灯油の上昇を受けて,石油が上昇した7ものの,アメリカの景気後退懸念を背景に,非鉄がロンドン市場での在庫急増を受けて大幅に下落したほか,木材も商社等の大量買い付けによる港頭在庫の増加から下落したため,総合指数も4ケ月振りに下落した。90年1~3月期は,紙・板紙,化学で下落したものの,非鉄がアメリカの景気後退懸念が薄らいだことにより,銅をはじめとして引き合いが活発となり急伸したことに加え,石油,木材等も上昇したため,総合指数は再び上昇した。

4月以降の動きであるが,総合指数でみると非鉄の下落を主因に4月をピークとして弱含みとなっている。しかし,景気の成熟化に伴いインフレ圧力は高まりやすい状況にあることから,今後も商品市況の動向に充分注意していく必要がある。

(3) 安定的に推移した消費者物価

消費者物価(全国)の動きを総合指数の前年度比上昇率でみると,1986年度0.0%,87年度0.5%,88年度0.8%の上昇と低い伸びで推移した後,89年度は4月の税制改革等の影響もあって2.9%の上昇となったもののこれらの特殊要因を考慮すれば引き続き安定した動きと思われる。

89年度の動きを前年同月比騰落率でみると(第9-1図②),4月以降,税制改革等の影響を受けておおむね2%台後半から3%台で推移した。,なかでも商品の寄与度が,天候要因等により生鮮食品が大きく上昇したこともあって,90年に入って大きくなっているのに対し,サービスの寄与度は年度を通じて安定的に推移している。

特殊分類指数の前年度比騰落率でみると(第9-4表),商品は87年度0.6%の下落から,88年度は0.2%の上昇と3年振りに上昇に転じ,789年度は2.3%の上昇となった。一方サービスは87年度2.0%の上昇から,88年度は1.4%の上昇となり,89年度は3.6%の上昇となった。

第9-4表 最近の消費者物価指数(特殊分類)の動き

内訳別にみると,工業製品のうち大企業性製品は既存間接税の改廃による耐久消費財の下落の影響をうけたこともあって,比較的上昇率は小幅になっているのに対し,中小余業性製品は繊維製品の占める割合が多く,衣料品等で,最近の高級化による価格上昇の影響もあって,上昇率はやや大きくなった。また出版物は,新聞代の値上がり等により大きく上昇した。一方サービスでは,各項目とも上昇しており,個人サービス料金,外食等で上昇率がやや犬きくなっているものの,税制改革の影響を考慮すれば,おおむね安定しているものといえる。

(公共料金等)

公共料金については,物価安定を図るという観点から,経営の徹底した合理化を前提とし,受益者負担,独立採算性を原則としつつ物価及び国民生活に及ぼす影響を十分考慮して厳正に取り扱っている。89年度の主要な公共料金等の改定状況をみると,米の政府売渡価格については,89年4月1日から平均3.7%(消費税上乗せ後平均0.8%)の引き下げ,90年2月1日より88年産米のうち標準価格米の原料となる米については,60kg当たり1,030円の引き下げが行われた。麦の政府売渡価格は89年4月1日から平均8.0%(消費税上乗せ後平均5.2%)の引き下げ,90年2月1日よりさらに平均4.6%の引き下げが行われた。電気・ガス料金については89年4月から電力10社が平均2.96%(消費税分を除く),ガス大手3社が平均4.17%(消費税分を除く)の引き下げを行った。

電話料金については国内電話料金が89年4月より消費税分を上乗せした後,90年3月19日よりNTTが320kmを越える遠距離通話料金を330円から280円に(平日昼間3分間の場合),また市内,近,中距離通話料金に深夜割引の導入を行うなどの料金改定を行った。国内航空運賃は,89年4月より消費税分の上乗せと,通行税(10%)の廃止により,6.5%の値下げとなった。高速自動車国道料金については車種区分及び車種間料金比率の変更を含む料金改定と,消費税分の上乗せにより平均8.9%の引き上げが行われた。

また,鉄道運賃(旧国鉄,旧私鉄),タクシー運賃,郵便料,NHK受信料,公団家賃等で89年4月より消費税分の上乗せなど税制改革に伴う改定が実施された。