8. 消 費
(1) 堅調に推移した個人消費
89年度の個人消費は,88年度に引き続き堅調に推移し着実な伸びとなった。88年度から89年度にかけて税制改革に伴う不規則な動きがみられたが,88年度に引き続き堅調に推移している。個人消費支出の推移を「国民所得統計」でみると(第8-1表),民間最終消費支出は88年度名目5.0%増,実質5.0%増の後,89年度は名目5.5%増,実質3.2%増,四半期別には,前年同期比(実質)で,89年1~3月期より4.5%増,2.3%増,3.O%増,4.1%増,3.2%増となった。一方,「家計調査」で全世帯消費支出をみると,88年度名目3.3%増,実質2.7%増の後,89年度は名目3.1%増,実質0.2%増,四半期別には,前年同期比(実質)で,89年1~3月期より2.0%増,1.0%減,0.6%減,1.8%増,0.7%増となった。
(89年度の消費動向)
まずウエイトの大きい勤労者世帯の消費支出を「家計調査」でみると,名目で88年度3.8%増の後,89年度も3.5%増と高い伸びとなった。一方,実質伸び率の推移をみると消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)が,89年度は税制改革に伴う一回限りの物価引上げ効果により2.9%の上昇となったことから,88年度の3.2%増の後89年度は0.6%増の伸びに留まった。また四半期別に前年同期比(実質)でみると,88年度から89年度にかけては税制改革の実施に伴う不規則な動きがみられた。すなわち,89年1~3月期には買い急ぎが,買い控えを上回ったと推測され2.4%増となった後,4~6月期にはその反動減で0.4%減となった。しかし,その後は7~9月期0.5%増,10~12月期0.5%増,90年1~3月期1.7%増と堅調に推移している。
次に一般世帯の消費支出についてみると,88年度名目1.6%増,実質1.0%増の後,89年度は名目2.2%増,実質0.7%減となった。四半期別に前年同期比(実質)でみると,勤労者世帯同様税制改革の実施に伴う不規則な動きがみられ,89年1~3月期0.6%増,4~6月期2.6%減,7~9月期3.9%減となった。しかし,その後は,10~12月期4.4%増,90年1~3月期0.8%減と回復に転じている。
次に消費支出の動向(全世帯)を費目別にみると,88年度には8大費目で実質増加となったのに対し89年度は6大費目で実質増加となっている。89年1~3月期には,税制改革を控えて,家具・家事用品,被服及び履物,食料等で買い急ぎが,交通・通信では自動車購入で買い控えがみられた。89年度の費目別の内訳をみると,教育が授業料等,補習教育の大幅増により前年度の実質0.8%増から,実質5.7%増と高い伸びとなった。また,交通・通信では自動車等関係費の高い伸びにより,前年度の実質4.2%増から実質2.3%増と引き続き着実に増加した。一方,家具・家事用品は税制改革に伴う89年1~3月期の買い急ぎの影響もあり,寝具類,室内装備品が大幅な実質減少となったため,前年度の実質横ばいから実質0.4%減となった。また,被服及び履物は和服が大幅な実質減少となったこと等から,前年度の実質4.3%増から実質3.1%減となった。
次に,勤労者の実収入の動向をみてみよう。89年度の実収入は名目3.6%増,実質0.7%増となった。実収入は80年度に実質減少となった後,81年度以降実質増加で推移している。
実収入の内訳をみると,世帯主収入は88年度名目4.7%増,実質4.1%増の後,89年度は定期収入,臨時収入・賞与とも堅調な伸び(名目4.3%増)となったため,名目4.3%増,実質1.4%増となった。しかし,妻の収入については88年度名目10.7%増,実質10.0%増の後,89年度は名目3.0%減,実質5.7%減となった。一方,他の世帯員収入は88年度名目7.1%減,実質7.7%減の後,89年度も名目0.2%減,実質3.0%減となった。
実収入の動きを四半期別に前年同期比(実質)でみると,89年1~3月期1.0%増,4~6月期0.6%増,7~9月期0.6%減,10~12月期1.6%増,90年1~3月期1.0%増と総じて着実な伸びとなっている。
以上の実収入の動きに対し税金や社会保障費等の非消費支出は,89年度も所得税減税が実施されたため1.6%増と低い伸びに留まった。その結果,可処分所得の伸びは,名目3.9%増,実質1.0%増となっている。また,実質可処分所得の四半期別の推移をみると,89年4~6月期から前年同期比で,2.1%増,0.O%増,1.6%増,0.2%増となった。
次に消費マインドの指標である平均消費性向の動きをみてみると,83年度以降低下傾向にあり,89年度は88年度の75.8%から75.5%へと低下した。四半期別(季調値)にみると,89年4~6月期74.4%,7~9月期76.0%,10~12月期74.6%,90年1~3月期78.0%と推移した。
(消費支出の寄与度分解)
以上のように個人消費は89年度も堅調に推移したが,家計調査でみた勤労者世帯の消費支出の増減をいくつかの要因に分解してみてみよう。第8-2図は,消費支出の増減を決定する要因を①消費マインドの問題(消費性向要因)②実収入の伸び(実収入要因)③税金等非消費支出の影響(非消費支出要因)④物価上昇率(物価要因)に分解したものである。これによると,実収入要因が一貫して消費支出を拡大する要因として働いており,88年度同様大きくプラスに寄与している。これに対し,物価要因は86年度に消費者物価の低下をうけてプラスに寄与した後,87,88年度とも小幅なマイナス寄与に留まっていたが,89年度は税制改革に伴う一回限りの物価引上げ効果によりマイナスの寄与が拡大した。消費性向要因については,このところの低下傾向をうけて89年度もマイナスの寄与となっている。また非消費支出要因は85年度まで大きくマイナスに働いていたが,86年度の社会保障費の減少,87~89年の所得税減税等によりマイナスの寄与は大幅に小さくなっている。
89年度の動きを四半期別にみると,税制改革に伴い物価要因が大きくマイナスに寄与する中,実収入要因が一貫してプラスに寄与している。
(2) 財・サービス別支出動向
財・サービス別の消費動向をみてみると,89年度は実質で財支出が0.5%増,サービス支出が0.1%減となつた。
全世帯の実質梢費支出の内訳を形態別にみてみると(第8-3図),耐久財が消費支出の増加に大きく寄与している。
これを四半期別にみると,耐久財は89年4~6月期にマイナスの寄与となったものの,その後はプラスの寄与となっている。サービスは89年7~9月期に大幅なマイナスの寄与となったものの,10~12月期以降は余暇・レジャー関連を中心とした教養・娯楽サービス,教育の増加により大きくプラスに寄与している。非・半耐久財は,89年4~6月期,90年1~3月期に大幅なマイナスの寄与となっている。これは,89年1~3月期の税制改革を控えた被服及び履物等の買い急ぎの影響がでたためと考えられる。
ここで,89年度の個人消費の動きを供給サイドのデータからみてみよう (前掲第8-1図)。まず,耐久消費財の販売動向についてみると,家電製品の出荷動向は,87,88年度と好調に推移した後,89年度前半は緩やかな伸びないし減少となっていたが89年度後半からは再び伸びを高めている。又,乗用車の販売動向を新車新規登録・届出台数でみると,88年度の7.7%増の後,89年度は30.7%増と高い伸びとなった。四半期別の前年同期比の推移をみると税制改革に伴う物品税廃止による価格低下もあり,89年4~6月期28.4%増,7~9月期25.3%増,10~12月期27.8%増,90年1~3月期40.9%増と2桁の伸びを続けた。
次に,全国百貨店販売額をみると88年度9.8%増と伸びを高めた後,89年度も7.2%増と好調に推移した。四半期別の前年同期比の推移をみると,89年4~6月期は税制改革前の買い急ぎの反動もあり2.9%増に留まったが,7~9月期9.7%増,10~12月期10.6%増,90年1~3月期4.6%増と好調に推移した。
商品別にみると,衣料品,家具,貴金属等のその他の商品が高い伸びとなった。
最後に,レジャー関係の指標を大手旅行業者12社取扱金額でみると,国内旅行は,88年度3.1%増の後,89年度は5.2%増と着実な伸びとなった。一方,海外旅行は,88年度の18.0%増の後1,89年度も13.3%増と好調に推移した。
当面の消費動向をみると,雇用者所得が着実に増加しており,物価の安定が維持される限り,引き続き堅調に推移するものと考えられる。