5. 建  設

(1) 好調な建設投資

89年度の建設投資総額は名目で72兆9,500億円(見込み),前年度比9.8%増となり,過去最高となる見込みである。また,名目建設投資総額を実質建設投資総額で除したデフレーター(以下「建設投資デフレーター」という。)が前年度比約6.2%の上昇となったため,実質では同3.4%増となる見込みである(第5-1表)。名目GNPに占める建設投資総額の割合は,86年度より3年連続して前年度水準を上回ったが,さらに89年度は18.4%と引き続き前年度を上回り,82年度以来7年振りの18%台が見込まれている。

第5-1表 建設投資の推移

89年度の名目投資額(見込み)動向を建築と土木とに分けてみると,まず建築は,前年度比で住宅投資が8.6%増,非住宅投資は17.O%増となり,全体としては12.4%増と投資総額の伸びを上回った。また,土木は公共事業が8.1%増,公共事業以外が0.3%増となったため,全体としては5.6%増となった。89年度は非住宅投資に支えられて建築が高い伸びとなり,土木も堅調となったことから,全体として好調であったといえる。

投資主体別にみると,前年度比で政府投資の6.9%増に対して民間投資は11.4%増と高い伸びとなった。

建設投資デフレーターはやや高まりを見せている。

建設資材価格の動きを品目別にみると,製材・木製品,鉄鋼は秋にやや下降したものの,その後ゆるやかに上昇した。また,金属製品は年度を通じ上昇し,窯業・土石製品はゆるやかに下降した後,年末に上昇に転じた。

(2) 公共投資の動向

公共投資の動向を一般会計と産業投資特別会計社会資本整備勘定と併せた公共事業関係費(当初)でみると,88年度は前年に大幅な補正予算が組まれたこともあり前年度比19.7%増となったが,89年度は同2.0%増となった。これは,我が国経済が順調に推移していることから,景気を刺激することなく,引き続き内需の持続的拡大に配慮する観点から88年度予算と同水準を確保し,併せて消費税の影響額を適切に計上することとしたためである。89年度上半期における公共事業等の事業執行については,88年度と同様,上半期における契約済額の割合の目途を設定しない方針の下,景気の動向に応じて適切な運用を図ることとされた。

予算執行状況を反映する公共工事請負金額の推移をみると(第5-2図①),地方単独事業の増加などから,上半期,下半期いずれも前年同期を上回り,89年度全体では前年度比10.0%増となった。

第5-2図 公共投資の動向

公共工事請負金額の動向を発注主体別にみると,前年度比で,すべての発注主体で増加し,都道府県,市区町村の発注額の増加が著しい。

一方,公共事業の進捗を示す公的固定資本形成(実質)の推移をみると,89年度全体では,前年度比0.3%減となった。四半期別にみると,前期比で4~6月期は0.5%減,7~9月は1.4%減となった後,10~12月は1.3%増と増加に転じ,元年1~3月期は1.4%増となった。公的固定資本形成のデフレーターは,前年度に比べてやや高まりが見られた。

90年度における一般会計の公共事業関係費予算(当初)は6兆2,147億円,前年度比0.3%増となり,NTTの株式売払収入の活用による産業投資特別会計社会資本整備勘定の1兆2,300憶円と併せた公共事業関係費は,前年度比0.2%増の7兆4,447億円となった。

(3) 高い伸びを示した民間建設投資

89年度においては,建設投資のうち民間建設投資は66.1%を占め,前年度の65.2%より比率を高めた。また,建築着工総床面積のうち,民間建築主によるものは,92.1%を占めている。

そこで,まず民間建設投資の動向を建設業大手50社の民間からの建設工事受注額でみると(第5-3表),88年度に前年度比31.0%増の後,89年度も同22.7%増と高い伸びとなった。これを業種別にみると,製造業からの受注は,機械工業,鉄鋼業をはじめ,すべての業種で概ね3割以上の増加となったため,38.8%と大幅な増加となった。また,非製造業からの受注も,不動産業,運輸業をはじめとしてすべての業種で前年度を上回り,19.1%増と大幅な増加となった。なお,民間,公的を合わせた施工高は,前年度比で15.1%増となり,年度末未消化工事高は,23.0%増となった。

第5-3表 建設工事受注額(大手50社)の動向

また,民間からの建設工事受注額(元請工事額)を中小465社についてみると,前年度比で11.8%増と高い伸びとなった。

次に,建設投資の中で比率の高い建築工事についてみることとする。89年度の建築着工床面積は,居住用は前年度比で1.9%の増加となり,非居住用が10.7%増と大きく伸びたことから,全体では5.6%増と6年連続で増加した。

居住用建築物の内訳をみると,居住専用が増加,居住産業併用は微減となった。また,非居住用建築物の内訳をみると,すべての業種で増加となり,鉱工業及び公益事業用が前年度比2割弱の増加を示したことなどから,非居住用建築物全体として高い伸びとなった。

(4) 住宅建設は高水準で推移

89年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は167万戸で前年度比0.6%増となり,前年度に引き続き高水準で推移した(第5-4表)。

第5-4表 新設住宅着工戸数の動向

これを資金別にみると,民間資金による住宅は,貸家が減少したものの,分譲住宅が2桁の増加となり,また戸数は少ないが給与住宅が約35%の伸びを示し,持家は微増となったことから,全体として1.3%増となった。公的資金住宅は,ウエイトの大きい公庫住宅が0.3%減となったうえ,公営住宅が6.5%減となったことなどから全体では0.8%減となった。

また,利用関係別にみると,持家は0.5%増と概ね横ばい,貸家は2.5%減となった。分譲はマンションを含む共同建て分譲が9.0%増と大幅に増加したことなどから7.8%増となった。給与住宅は22.5%増と高い伸びを示した。

年度内の動きをその後の動きも含めてみると,貸家は,前期比で4~6月期に横ばい,7~9月期,10~12月期で微減の後,1~3月期は上昇となり,年末からゆるやかに上昇した。持家は,前期比で4~6月期で増加,7~9月期小幅な減少の後,10~12月期は6.5%と大きく減少したが,1~3月期でやや持ち直した。分譲住宅は,前期比で4~6月期8.2%増となり,7~9月期で減少したものの,10~12月期9.7%増となり,1~3月期にも増加を続けた。

こうした動きを反映して,89年度の住宅建設は,72,73,87年度に次ぐ史上四番目の高水準となり,90年度に入っても引き続き高い水準で推移している。

なお,新設着工住宅の一戸当たり平均床面積は89年度には80.9m2と前年度を1.1%上回った。これは,相対的に規模の大きい持家及び分譲が前年度より床面積を拡げ,戸数シェアも高まったことに加え,貸家については床面積は減少したものの戸数シェアが低下したことによる。こうした結果,新設住宅着工総床面積は,前年度比で1.7%の増加となり,戸数ベースの増加率を上回った。

(5) 住宅金融及び金利の動向

89年の住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額でみると,全国銀行及び相互銀行(第二地方銀行)では前年比で88年11.6%の減少の後,89年には21.6%の大幅増となった。また,住宅金融公庫は2.5%の増加となり,住宅金融専門会社は80.9%の著しい増加となった。以上の結果,全国銀行,相互銀行(第二地方銀行),住宅金融公庫,住宅金融専門会社の新規貸出額の合計でみると,前年比26.0%の増加となった。また,住宅ローン金利の推移をみると,住宅金融公庫貸付金利は89年8月,90年3月,4月(政令金利口を除く),6月に上昇し,この結果基準金利が法定上限の年5.5%となった。また,民間住宅ローン金利は89年10月,90年1月及び3月に上昇した。

(6) 地価は東京圏以外の主要都市で上昇

最近の地価の変動率の推移を地価公示でみると,全国については,88年に住宅地25.0%,商業地21.9%,89年に住宅地7.9%,商業地10.3%の上昇となった後,90年の地価公示による89年中の全国平均変動率は,用途別で,住宅地17.0%,宅地見込地19.9%,商業地16.7%,準工業地21.2%,工業地15.2%,市街化調整区域内宅地11.7%となっている。

地域別に地価の変動率をみると,89年中に大阪圏で住宅地56.1%,商業地46.3%と著しい上昇がみられ,名古屋圏でも住宅地20.2%,商業地22.4%とかなりの地価上昇となった。東京圏では88年中には住宅地0.4%,商業地3.0%と地価が沈静化したが,89年中には住宅地6.6%,商業地4.8%とやや上昇した。

さらに,地方圏では,著しい地価上昇又はかなりの地価上昇を示した地方都市もみられたが,それ以外では,やや上昇の兆しがみられる地域もあるものの,概ね安定的に推移した。なお,東京都地価動向調査によれば,89年10月1日から90年1月1日の東京都の変動率は,住宅地0.3%,商業地0.6%,1月1日から90年4月1日までの変動率は,住宅地0.4%,商業地0.4%となり,概ね安定的に推移している。