平成2年

年次経済報告

持続的拡大への道

平成2年8月7日

経済企画庁


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4. 企業経営

(1) 企業収益の業種別の動向

最近の企業経営の動向をみると,87年度以降急速に回復してきた企業収益は,89年度においても,前年度に引き続き堅調に増加した。

まず,日本銀行「主要企業短期経済観測」により,売上高の推移を業種別にみると,製造業では(第4-1図①),88年度には前年度比9.0%の増収の後,89年度には同7.5%の増収となった。内需向け売上高は全業種で堅調に増加し,輸出も,鉄鋼では減少したものの,一般機械,電気機械,造船,自動車,精密機械などで強含みに推移した。業種別の売上高をみると,造船(前年度比16.2%増),精密機械(同12.5%増),非鉄金属(同12.1%増),一般機械(同11,6%増),窯業(同11,4%増)の伸びが高かった。また,非製造業においては,88年度に前年度比7.4%の増収の後,89年度には同20.0%(商社の金貯蓄口座関係の金取扱高を控除したベースでは同13.5%)の増収となった。

第4-1図 業種別売上高伸び率と経常利益伸び率の推移

次に,同調査により経常利益の動向を業種別にみると(第4-1図②),88年度の経常利益は,食料品,パルプ・紙,石油精製,電力,ガスを除く全ての業種で増加した。製造業では,造船(前年度比73.8%増),一般機械(同30.5%増),電気機械(同21,6%増),非鉄金属(同21.2%増)の伸びが高く,全体では前年度比14.0%の増益となった。また,素材,加工業種別では,前年度まで高い伸びを示してきた素材業種(同5.6%増)の増益率が大きく鈍化した一方,加工業種(同19.4%増)は前年度に引き続き大幅な増益となった。また,非製造業も前年度に引き続き堅調に推移し,89年度は前年度比5.3%の増益(除く電力,ガスでは則14.4%の増益)となった。なかでも建設・不動産(同30.9%増),運輸(同16.7%増)の伸びが高かったが,電力(同27.8%減),ガス(同30.5%減)では大幅な減益となった。このように,企業収益は,素材業種から,加工業種と電力,ガスを除く非製造業へと主役を交代させつつ,89年度も堅調な増加を示しだ。先行きも,素材業種が原材料費や金利の上昇に円安の影響も加わって,収益は高水準ながら頭打ち傾向を強めるのに対して,加工業種は外注加工費等の上昇にもかかわらず,売上げ数量の増加や製品の高付加価値化のほか,円安による輸出の円手取りの増加にも支えられて,堅調な増加を続けるものと見込まれている。

なお,大蔵省「法人企業統計季報」によると,売上高経常利益率は89年度には全産業で3.5%(製造業5.4%,非製造業2.6%)となり,前年庫(全産業3.6%,製造業5.1%,非製造業2.9%)に引き続き高い水準となった。

(2) 企業収益の規模別の動向

企業収益の規模別動向を,日本銀行「全国企業短期経済観測」の大企業,中小企業の経常利益によってみると,まず全産業では,大企業は88年度には前年度比22.19%の増益の後,89年度には同9.4%の増益となった。また中小企業は88年度には同25.1%の増益の後,89年度には同8.4%の増益となった。産業別にみると,89年度は大企業製造業では11.5%の増益,中小企業製造業では同8,7%の増益となった。また大企業非製造業では電力等の減益があったものの同5.6%の増益,中小企業非製造業では同7.8%の増益となった。このように,89年度は前年度に引き続き大企業,中小企業ともに堅調な増益となった。また,前記「法人企業統計季報」によると,売上高経常利益率は,89年度には全産業で大企業(資本金1億円以上)3.5%,中小企業(資本金1億円未満)3.5%となり,前年度(大企業3.8%,中小企業3.4%)に引き続き高い水準となった(第4-2図)。

第4-2図 売上高経常利益率の推移

(3) 企業マインドの現状

堅調な個人消費と力強い民間設備投資に牽引され,内需を中心とする経済の自律的拡大の中で,企業の業況判断も良好感が高い水準にある。製造業・素材業種では良好感が高水準ながらいくぶん後退気味であるのに対し,加工業種と非製造業では,極めて高い良好感が持続している。前記「主要企業短期経済観測」により主要企業・製造業の各種判断指標の現状をみてみよう (第4-3図)。生産設備と雇用人員の判断は不足感が続いており,両D.I.は,「不足」超が続いている。製品需給はかなりの引き締まり地合が続いており,製商品在庫水準も「過大」超幅が低い水準にある。その中で価格に関する判断には,やや変化がみられる。仕入価格は,既往の原油高,海外原料高や外注加工費の上昇に,円安の影響が加わって,「上昇」超が拡大しており,製商品価格も僅かながら「上昇」超に転じた。資金繰りは82年以降長期にわたって緩和感が続いてきたが,90年に入り,金利上昇と金融機関の貸出態度が厳格化するなかで,緩和感は徐々に後退している。このように,企業マインドを示す各種判断指標は,需給バランスの引き締まり感を示している,ものの,現状,業況判断は良好感が高い水準にあり,収益面を中心とする企業マインドには大きな変化はみられない。

第4-3図 企業マインドの変化

(4) 企業倒産の動き

89年度の企業倒産は,引き続き落ち着いた動きで推移した。全国銀行協会連合会の調べによる銀行取引停止処分者件数の動きでみると(第4-4図),件数は88年度7,413件(前年度比12.7%減)の後,89年度は5,163件(同30.4%減)となり,85年度から5年連続の減少となった。負債金額は88年度は1兆7億円(同7.4%減)の後,89年度は8,376億円(同16.3%減)となった。業種別に件数の前年度比をみると,製造業(37.4%減),不動産業(32.9%減),サービス業(29.9%減)卸売業(28.9%減),小売業(28.4%減),建設業(28.1%減)など全ての業種で減少した。また,東京商エリサーチ調べ(負債金額1,000万円以上の法人企業)による企業倒産の動きをみると,件数は88年度9,414件(同20.6%減),89年度6,653件(同29.3%減)となり,負債金額は88年度1兆8,482億円(同3.3%減),89年度は1兆1,866億円(同35.8%減)となった。

第4-4図 銀行取引停止処分者件数の動向


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