3. 設備投資

(1) 増勢を続けた89年度

89年度の民間設備投資は実質GNPベース(速報)で,84兆5,841億円となった。これを前年度比でみると(第3-1表),87年度に10.1%増と伸びを高めたあと,88年度は17.3%増と増勢を強め,89年度も16.5%増と増勢を続けた。四半期別では,89年1-3月期に前期比6.4%増(年率28.3%増)と著増したが,これは88年10-12月期の機械受注が大きく増加したことに見られるように,88年度の設備投資計画が上期の決算見通しの固まった時期から一段と上積みされ,これが89年1-3月期の設備投資に反映されたという,いわば基調的な側面と,税制改革前に投資を前倒しさせたという特殊要因が合わさったもので,4-6月期にはその反動で前期比0.6%増と伸びが鈍化した。その後7-9月期には6.5%増と増勢に転じ,10-12月期4.0%増,90年1-3月期2.7%増と伸びはやや緩やかとなったものの,いずれも年率10%以上の高い伸びが続いている。

第3-1表 民間設備投資関連指標の動向

こうした動きを規模別,産業別に概観すると,80年代中盤以降着実に増加傾向で推移してきた非製造業が89年度も高い伸びを続けたのに加え,円高直後の調整局面から88年度に急回復した製造業の設備投資が89年度も引き続き大幅な増加となった。

(2) 多様な投資内容

現在の設備投資増勢の特徴は,その投資内容が多様で多方面に及んでいることである。設備投資の現状は,①急速な技術革新が進展する中,企業の技術競争力維持のための研究開発投資,②消費の多様化・高級化が進む国内市場向けの新製品投入,③輸出主導型から内需主導型ヘシフトする中での販売網・物流体制整備,④情報化への対応,⑤規制緩和への対応,⑥多角化・リストラクチャリングの投資,など中長期的な企業戦略からこれまで取り組まれてきた設備投資に加えて,⑦旺盛な内需を背景に設備の不足感が強まったことを受けての能力増強投資,⑧人手不足や時短に対応した自動化・省力化投資,⑨企業イメージ向上のための社屋・福利施設整備などの設備投資も急拡大している。

この様に,投資目的が単一でなく,多様な拡がりを持っていることが,現在の設備投資増勢の持続力にもつながっているものと思われる。

(3) 業種別動向

主要業種について89年度の設備投資内容を要約すると(第3-2図),素材型製造業では,化学が内需の好調をうけて各分野とも既存設備の手直しなど能力増強を中心に増加している。主力の有機化学分野ではエチレンから誘導品・樹脂加工に至るまで設備の新増設が相次いだ。無機化学分野では半導体関連のガス設備の増強など電子材料の伸長が大きく,医薬品では新薬や製品構成の多様化を狙った工場の新増設,研究体制の整備力引き続き活発であった。鉄鋼では高炉大手で薄板関連の能力増強に,高炉改修工事が重なるのに加え,電子部品,建設関連向けの投資も軒並み増加した。非鉄金属ではアルミ関連で建材・缶材の需要増に対応すべく工場や生産ラインの新増設が相次いだほか,伸銅品も電子部品向けで増強投資が活発化した。紙・パルプでは引続き需要の好調な印刷,情報関連用紙に加えて,新聞用紙のマシン増設が続いた他,板紙部門でも既存設備の廃棄を伴った増強工事がみられた。又,ボイラー,タービンの更新も活発であった。

第3-2図 1989・90年度 業種別設備投資動向

加工型製造業をみると,寄与度の大きい電気機械では前年度に著増した半導体関連の投資が一段落したものの,情報化の進展によりコンピュータ・ OA関連部門の投資が増勢を強めたほか,設備投資の好調を受けて重電部門が活発な投資を続けた。輸送機械では自動車が国内市場開拓を狙ったモデルチェンジや新車開発関連投資,および販売網拡充が継続するとともに,能力増強や自動化・省力化が不格化したことから増勢を強めた。一般機械では好調な内需を背景に工作機械や建設機械をはじめ各分野とも能力増強を主体に積極投資を続けた。精密機械では半導体製造装置が好調を持続した他,新製品開発なども増加し,増勢を強めた。

非製造業をみると,電力が政策積み増し後の一服から高水準横ばいとなっているものの(ちなみに,90年度は9電力で2桁増が計画されている),リースが消費税前の駆け込みの反動減があったにもかかわらず堅調に推移し,不動産では首都圏での大規模プロジェクトのほか地方中核都市でも賃貸ビル建設が活発で続伸した。卸小売では百貨店の既存店高級化とスーパーの活発な新規出店により高い伸びを続け,又,卸分野で流通施設整備が活発化している。鉄道では大都市圏を中心とした新車両導入,複々線化などの輸送力増強投資に加え,新線建設工事も本格化した。航空は新鋭機材の積極的な導入で続伸,海運でも陸上施設整備等で増加した。サービスではレジャー・リゾート施設建設およびホテル・旅館などの宿泊施設整備などが活発化している。

(4) 今後の展望

以上の通り,各分野とも順調な景気拡大の中で,多方面に存在する投資機会を捉えて積極的な設備投資を行っている。又,昭和50年以降低調だった建物投資が活発化している点も見逃せない。内需型の景気拡大が長期に続いている中,大型の都市開発やリゾート開発,大規模複合商業施設建設など社会資本整備型ともいえるプロジェクトが次々と進捗しており,今後とも息の長い投資拡大が見込まれる。

こうした状況下,90年初には,金融・資本市場で不安定な動きが見られた。金利の上昇は大企業に比べて中小企業に,製造業に比べて非製造業に影響が出るものと考えられるが(第3-3表),現在のところ90年度の投資計画には大きな影響が出ていない。日本銀行「企業短期経済観測(5月調査)」によると,主要企業の90年度計画は2月調査から上方修正され,製造業で前年度比16.5%増,非製造業で7.9%増といずれも引き続き拡大する見通しで,全産業では11.2%増と3年連続の2桁増加が計画されている。中小企業についても,現状未確定な要素は大きいものの,製造業を中心に2月調査から大幅に上方修正されており,現時点としては,昨年度なみの高水準の設備投資が計画されていると判断される。

第3-3表 金利を含めた設備投資関数