2. 鉱工業生産

(1) 生産・出荷は堅調に推移

鉱工業生産指数(85年=100,季節調整値)の動きをみると,87年1~3月期に100を超えて以来,87年7~9月期には前期比で3.6%増となるなど大幅な増加を続けた。89年に入り,消費税導入に備えた駆け込み需要が物品税廃止を見込む買い控えを上回るなどの税制改革の影響等により,1~3月期には前期比で3.1%増と高い伸びを示し,指数は119.4まで上昇するにいたった。

しかし,輸送機械,一般機械など需要が堅調な業種においては生産設備や雇用人員の不足感が強まり,供給余力が減少したこと,電気機械,パルプ・紙など一部の業種においては軽い在庫調整が行われたことなどから,89年4~6月期,7~9月期には前期比でそれぞれ0.3%増,0.1%減となるなど増加テンポが鈍化した。その後,10~12月期,90年1~3月期には前期比で共に0.8%増と増加テンポを回復し,指数も90年1~3月期には121.6となった。

この結果,89年度全体では生産・出荷は前年度比でそれぞれ4.5%増,4.7%増となった(第2-1表,第2-2図)。

第2-1表 生産・出荷・在庫の財別前期(年度)比増減率

第2-2図 鉱工業生産,出荷,在庫,在庫率の推移

(内需は堅調に増加,輸出の増勢は小幅化)

出荷の動向を内外需別にみると,輸出向け出荷は前年度比で88年度5.9%増の後,89年度2.5%増となった。一方,国内向け出荷は前年度比で88年度8.9%増の後,89年度5.1%増と堅調に増加した。

輸出向け出荷を四半期別にみると,89年に入り,税制改革に伴う国内の買い控えを見込んだ企業が国内向け出荷を一部輸出向けに振り換えたことや対米向け乗用車輸出パターンの変化などから1~3月期2.6%増と増加した。4~6月期には1~3月期の反動のため前期比2.2%減と落ち込んだものの,7~9月期には鋼船の輸出が集中したことやビデオカメラ,電子計算機等のハイテク関連品目がもちなおしたことなどにより同1.6%増と回復した。しかし,10~12月期は前期比2.7%減と再び反動減となった。90年1~3月期には年度末の影響による対米向け乗用車輸出の大幅な増加などにより前期比7.1%増となった。この結果,年度を通してみると輸出向け出荷は一進一退で推移した。

国内向け出荷を四半期別にみると,89年1~3月期には税制改革に伴う買い控えにより耐久消費財が減少したものの,大型機等の製品の完成が集中したことから資本財が増加し,また,税制改革に伴う駆け込み需要により非耐久消費財,建設財が増加したことなどから前期比2.7%増となった。4~6月期には1~3月期の反動があったものの,堅調な内需を反映し前期比0.5%増と引き続き増加した。その後,7~9月期には前期比で0.1%増と小幅な伸びにとどまったものの,10~12月期,90年1~3月期には2四半期連続ですべての財が増加したことから,それぞれ1.3%増,1.1%増となった。この結果,年度を通してみると国内向け出荷は堅調な伸びを続けた(第2-3図)。

第2-3図 鉱工業出荷指数の国内向け財別及び輸出向け寄与度分解

(2) 在庫は緩やかな積み増し局面

実質民間在庫投資(GNPベース,季節調整値)は,今回の景気上昇局面において87年4~6月期をボトムとして増加傾向にあった。その後,税制改革の影響により89年1~3月期に前期比で54.3%減と大幅に減少したものの,4~6月期には128.0%増と急増し,その水準を回復するかにみえた。しかし,7~9月期には内外の堅調な需要を反映して出荷が増加したものの,生産設備や雇用人員の不足を反映して生産は減少したため,前期比で15.7%減と在庫投資は再び減少した。その後,10~12月期には内需が堅調に推移する一方,外需の伸びは減少したため在庫投資はやや増加し,前期比で1.9%増となったものの,90年1~3月期には年度末の影響等から外需が大幅に増加したため,63.3%減となるなど在庫投資は89年1~3月期を上回る勢いで減少した。

(緩やかに積み増された製品在庫)

89年度の生産者製品在庫は前年度末比6.2%増となった。また,生産者製品在庫率(85年=100,季節調整値)は89年度末に92.7となり,前年度末を7.1ポイント上回った。

出荷と在庫の関係をみると,景気拡大の長期化に伴い,生産設備や雇用人員の不足を背景に生産・出荷が伸びにくくなっている品目があるなかで製品在庫が大きく増加している品目も一部にみられる。このため,4~6月期以降製品在庫の伸び率が出荷の伸び率を上回り,在庫積み上がり局面に入ったようにみえる。しかし,このような出荷と在庫の関係は,いざなぎ景気の時もみられ,在庫の伸びが出荷の伸びをやや上回る停滞した状態がほぼ3~年間にわたり続いた。いざなぎ景気の時の製品在庫率の水準は今回の景気拡大局面同様かなり低く,企業の在庫過剰惑は今回の景気拡大局面の方がはるかに低い。また,今回の景気拡大局面においては,89年1~3月期末に税制改革に伴い急減した在庫率水準を回復するために,4~6月期以降も比較的長期にわたり在庫率水準回復のための在庫投資が行われたため,それに伴い出荷の伸びに比べ相対的に在庫の伸びが高くなったものと考えられる。したがって,在庫率水準は年度全体を通してみると低いレベルで推移しており,引き続き需要に見合った緩やかな在庫積み増し局面にあると考えられる(第2-1表,第2-2図)。

(軽い在庫調整があった電気機械,パルプ・紙・紙加工品等)

業種別にみると,89年度末に製品在庫及び在庫率が減少した業種は輸送機械,精密機械の2業種,増加した業種はその他の13業種となった(鉱業を除く)。

加工型の主な業種をみると,電気機械では,製品在庫が89年に入っても一貫して増え続け,90年1~3月期に9期ぶりに前期比で5.4%減と減少し,おおむね在庫調整を終了したものの,年度を通してみると前年度末比4.0%増となり,製品在庫率も97.7と前年度末を7.5ポイント上回った。

一般機械では,製品在庫が前年度末比8.9%増となり,製品在庫率も85.3と前年度末を5.0ポイント上回ったものの,今回の景気拡大局面における設備投資回復初期の水準にある。

輸送機械では,好調な需要や生産設備や雇用人員の不足による生産の伸び悩み等をうけて普通乗用車,小型乗用車等が減少し,製品在庫は前年度末比26.2%減となり,製品在庫率も56.4と前年度末を19.9ポイント下回った。

精密機械では,カメラ用交換レンズ,フォーカルプレンシャッタ式35mmカメラ等が減少したことから,製品在庫が前年度末比12.5%減となり,製品在庫率も82.4と前年度末を24.6ポイント下回った。

次に,素材型の主な業種をみると,化学では,ポリエチレン等が増加したことから製品在庫は前年度末比10.9%増となり,製品在庫率も95.1と前年度末を10.0ポイント上回ったものの,今回の景気拡大局面における回復初期の水準にある。

パルプ・紙・紙加工品では,製品在庫が前年度末比19.6%増と大幅に増加し,製品在庫率も101.7と前年度末を15.4ポイント上回り,今回の景気拡大局面における回復初期の水準をも上回っているため,やや在庫過剰感がある。

食料品・たばこでは,製品在庫が前年度末比17.7%増となり,製品在庫率も105.3と前年度末を20.3ポイント上回った。これは,企業が国産たばこの販売促進を見込んで前向きに在庫を積み増した結果,たばこの製品在庫が90年1~3月期に前期比で38.6%増と短期間に大幅に増加したためと考えられる。

石油・石炭製品では,揮発油,灯油等が増加したことから製品在庫は前年度,末比12.3%増となり,製品在庫率も102.3と前年度末を12.9ポイント上回り,在庫率の水準はかなり高くなっている。

非鉄金属では,製品在庫は前年度末比13.3%増となり,製品在庫率も80.0と前年度末を568ポイント上回ったものの,電線ケーブル用光ファイバ製品等の旺盛な需要があり,在庫率の水準はまだ低い。

鉄鋼では,製品在庫は前年度末比0.3%増とおおむね横ばいで推移し,製品在庫率も87.3と前年度末を2.8ポイント上回ったにすぎない。

(生産を平準化した流通在庫,製品在庫)

実質在庫の段階別の動きを大蔵省「法人企業統計季報」でみると,製品在庫では鉱工業生産者製品在庫の動きとおおむね一致しており,前述のように89年度に入ってからは引き続き緩やかな積み増し局面にある。

仕掛品在庫では,製品在庫や流通在庫が税制改革の影響等により大きく変動したにもかかわらず,ほぼ一定のテンポで増加しており,企業が過剰な中間在庫をかかえることなく前向きの態度で製品在庫を在庫積み増してきたことを裏付ける結果となっている。

原材料在庫では,89年1~3月期に重油等により増加し,4~6月期,7~9月期はほぼ横ばいだったものの,10~12月期は輸入素原材料等により増加した。その後,90年1~3月期にはやや減少した。

流通在庫(卸売)では,89年1~3月期の税制改革に伴い,在庫が大幅に減少し,4~6月期,7~9月期と反動で増加と減少を繰り返した。その後,10~12月期,90年1~3月期と引き続き増加した。

流通在庫(小売)では,89年1~3月期は卸売とは反対に在庫が積み増され,4~6月期,7~9月期と微減が続いた後,10~12月期には大幅に積み増されたが,90年1~3月期には再び減少した。

ここで実質国民総支出と生産・出荷との乖離についてみると,実質国民総支出は1~3月期,7~9月期に高い伸びを示した。この間,生産・出荷はおおむね高水準で堅調に推移した。つまり,1~3月期の税制改革に伴う不規則な需要の変動は4~6月期以降,生産・出荷に対してほとんど影響を及ぼさなかったとみることができる。これは,生産設備や雇用人員の不足により供給余力が減少した状況下で,輸出減退,輸入増によって国内需要が賄われたことと併せて,流通在庫や製品在庫の積み増しや取り崩しによる在庫自体が備えているバッファとしての機能を十分果たしたことにより,生産・出荷が平準化されたと考えることができる(第2-4図)。

第2-4図 実質棚卸資産の段階別寄与度分解

(3) 第3次産業活動は好調に推移

第3次産業活動指数(85年=100,季節調整値)の動きをみると,86年7~9月期以降前期比で1%以上の増加を続けた後,89年度に入り4~6月期は税制改革の影響などの1~3月期の反動により1.9%減となったものの,7~9月期には3.5%増と大幅な伸びとなった。さらに,10~12月期は前期比で1.9%増,90年1~3月期には円安の進行,金利先高感など市場環境の悪化の影響が一部の業種においてみられたものの,堅調な個人消費や旺盛な設備投資を反映して0.9%増と順調に増加し,指数は130.5まで上昇するにいたった。

この結果,89年度全体では第3次産業活動は前年度比4.6%増となった。

(好調が続く金融・保険業)

業種別にみると,金融・保険業が旺盛な設備投資に伴う根強い資金需要などから前年度比11.1%増と最も高い伸びを示した。次いで電気・ガス・熱供給・水道業が生産活動の堅調な動きなどを反映して前年度比5.6%増,運輸・通信業も同4.4%増となった。また,卸売・小売業,飲食店は活発な個人消費や旺盛な設備投資などから前年度比4.0%増となり,サービス業は対事業所サービス(情報サービス,自動車賃貸,広告,物品賃貸など)が好調に推移したことに加えて対個人サービスもおおむね堅調に推移したことから同3.1%増となった。このほか不動産業は前年度比3.1%増,公務は同1.9%増となった(第2-5図)。

第2-5図 第3次産業活動の業種別寄与度分解