平成2年
年次経済報告
持続的拡大への道
平成2年8月7日
経済企画庁
1989年の世界経済は,88年に比べれば緩やかなテンポであるが,順調な拡大を続けた。アメリカでは個人消費等の減速から,実質GNP成長率(早魁の影響を除いた実勢)は88年の4.7%から89年の2.7%へと鈍化した。一方,西欧では個人消費,設備投資など内需を中心に息の長い拡大が続いている。また,韓国や台湾では89年には外需の減少から成長テンポが鈍化した。こうした世界経済の動向を反映して,先進工業国の輸出数量(IMF「IFS」による)は88年の7.5%増から89年7.1%増へと増勢はやや鈍化したものの,引き続き順調に拡大した。また,89年の主要国の対外不均衡をみると,前年に比べ,アメリカの経常収支赤字,日本の経常収支黒字は縮小したものの西ドイツの経常収支黒字は拡大した。
一方,89年のドル相場は総じて強含みで推移した。原油価格(北海ブレント・スポット価格)は89年4月に一時21ドル台まで上昇したが,その後は16ドル台~20ドル台の間でおおむね落ち着いた動きを示した。しかし年末から90年1月にかけて欧州,北米の寒波等により急上昇し一時22ドル台となった。また,一次産品価格は86年以降回復過程にあるが,89年には総じて弱含みで推移した。
こうしたなかで途上国の累積債務問題は,「新債務戦略」が発表され一部の国に適用されるなど,解決にむけての新たな動きがみられたものの,依然,世界経済の不安定要素として存続している。
(89年度の輸出動向)
89年度の輸出金額(通関額)はドルベースで2,736.7億ドルで前年度比0.3%増と小幅の伸びとなった。これを価格・数量に分けてみると,価格(ドルベース)が同2.3%下落したが,数量が同2.6%増となった(第1-1表)。また,円ベースでは,為替相場が円安に推移したことの影響もあり価格が同8.3%上昇し,金額では38兆8,850億円と同11.3%の増加となった(88年度同5.6%増)。次に,四半期の動きをドルベース(前年同期比)でみると,4~6月期,7~9月期にはそれぞれ3.7%,3.6%増となり,数量の増加にほぼ沿った動きを示したが(数量4.1%,4.7%増),10~12月期には数量が0.1%減少したうえに価格が3.4%下落したことにより3.5%の減少となった。1~3月期には数量が4.2%増となったが円安の進行を反映して価格が6.1%下落した結果,2.2%減少した。
(ほぼ全品目にわたって伸び率が鈍化)
輸出動向を商品別(ドルベース輸出金額,数量の前年度比)にみると,繊維・同製品(1.5%減,2.5%減)は,東南アジア向け等が増加したが,アメリカ向け,中国向け等で減少したため,全体ではやや減少した。化学製品(3.1%増,6.8%増)は,世界的な需要増加からほとんどの地域で増加した。鉄鋼(12.3%減,17.6%減)は,EC向け,アセアン諸国向けが増加したものの,それ以外の地域,特にソ連,中国向けを中心に大幅な減少となった。一般機械(4.7%増,6.7%増)は東南アジア向け,アメリカ向け,EC向けで事務用機器を中心に増加した。電気機器(1.7%減,1.1%増)はアメリカ,東南アジア向けがほぼ横ばいの動きを示すなかで,中国向け,EC向けが減少した結果,全体ではやや減少した。品目別には映像機器,通信機が減少したが半導体等電子部品が増加した。自動車(3.1%減,0.8%増)は東南アジア向けが増加したものの,アメリカ向け,中国向けが減少したことから減少した。船舶(10.5%増,17.8%増)は増加した。精密機器(0.3%減,3.0%増)はほぼ横ばいの動きとなった。
(東南アジア向けで大幅に増加)
次に地域別(ドルベース輸出金額,前年度比)にみると,アメリカ向け(0.4%減)は事務用機器を中心とした一般機械,半導体等電子部品が増加したものの,自動車及びVTR,ビデオカメラ等の映像機器等が減少したため,微減となった。EC向け(1.5%増)は事務用機器,金属加工機械等の一般機械,化学製品が増加したが,通信機,映像機器の電気機器が減少した結果,低い伸びにとどまった。東南アジア向け(5.5%増)はアセアン等の堅調な資本財需要を反映して一般機械,自動車部品等の輸送用機器を中心にほぼ全品目にわたって増加した。中近東向け(8.2%減)は,化学製品,金属製品が若干増加したものの,その他の品目で減少し,全体でも減少した。共産圏向け(19.3%減)については,特に中国向け(24.3%減)がほぼ全品目,ソ連向け(10.0%減)は鉄鋼を中心に大幅に減少した。
(89年度の輸入動向)
89年度の輸入(通関額)はドルベースで2,140億ドルで前年比10.3%増と,昨年度の伸び(19.7%増)は下回ったものの3年連続の2桁増となった。
これを価格,数量に分けてみると,価格(ドルベ-ス)が同4.4%上昇し数量でも同5.8%増となった(第1-2表)。また円ベースでは,為替相場が円安に推移したことの影響もあり価格が同15.6%上昇,金額では30兆3,924億円と同22.4%の増加となった。
次に四半期の動きをドルベース(前年同期比)でみると,4~6月期は8.5%増と伸びが1桁に低下した(数量では3.3%増)が,7~9月期,10~12月期には,それぞれ12.3%増,14.6%増(数量では7.6%増,9.0%増)と増勢を回復した。しかし,1~3月期は円安の進行の影響を受けて6.2%増(数量では3.0%増)と伸びが大きく鈍化した。
(50%超える製品輸入)
商品別の動きをドルベース(前年同期比)でみると,食料品は,前年度比1.3%増(数量2.5%増)と低い伸びにとどまった。内訳をみると肉類は10.4%増と引き続き高い伸びを示したものの,魚介類が10.6%減となり,果実及び野菜も2.8%増にとどまった。
原料品は,2.7%増(数量6.4%増)と緩やかな伸びとなった。繊維原料が10.2%減と大幅に減少したものの,金属原料,その他の原料品は,それぞれ3.1%増,5.2%増と堅調に増加した。
鉱物性燃料は,19.7%増(数量3.9%増)と大幅に増加した。原粗油が内需拡大による数量増(数量5.8%増)と後述の価格上昇によって27.7%増と大幅に増加し,石油製品,液化天然ガス,石炭もそれぞれ17.6%増,13.6%増,8.6%増と増加した。原油輸入価格(通関CIFベース)は,89年4月から12月まで,1バーレル当たり16ドル台後半から18ドルの間で推移した後,90年に入って急騰し,2月には19.4ドルまで上昇したが,その後下落した。この結果89年度平均は,17.9ドルで前年度比20.9%の上昇となった。
製品類は,11.8%増(数量9.9%増)と昨年度の30.4%増に比べれば鈍化したものの,引き続き2桁の伸びとなった。化学製品が0.6%増と低い伸びにとどまり,また,その他の製品類も,繊維製品が18.3%増となったものの,非貨幣用金が36.0%減少し,鉄鋼が5.4%増と伸びが大きく鈍化したことから,7.4%増と昨年度に比べ伸びが鈍化した。しかし,機械機器は,自動車,事務用機器,航空機がそれぞれ52.4%増,31.0%増,51.3%増と大幅に増加したことなどにより,昨年度に引き続き26.7%増と高い伸びを示した。88年度に大きく上昇した製品輸入比率は緩やかながら上昇し,89年度は50.4%となり,初めて50%を超えた。
(中近東,EC等を中心に拡大した輸入)
地域別輸入をドルベースでみると,中近東(26.4%増)からの輸入は,原粗油,石油製品,液化天然ガスなどの鉱物性燃料を中心に大幅に増加した。AS EAN(13.6%増)からの輸入も原粗油,石油製品,液化天然ガスなどの鉱物性燃料を中心に大きく増加した。
一方,アメリカからの輸入は,非貨幣用金の大幅な減少(69.9%減)にもかかわらず,機械機器,金属製品,繊維製品などの製品類を中心に,13.4%増と堅調な伸びを続けた。
また,EC(15.0%増)からの輸入も繊維製品,非金属鉱物製品,機械機器などの製品類を中心に増加した。その他には,シェアは小さいものの,アフリカ(3.3%減)からの輸入は減少し,ラテンアメリカ(7.1%増),共産圏(8.7%増)からの輸入は,増加した。
(大幅に縮小した経常収支)
89年度の貿易収支は,上記の輸出入動向を受けて前年度より2兆2,282億円黒字幅が縮小し,9兆9,899億円の黒字となった(ドルベースでは253億ドル縮小し,700億ドルの黒字)。また貿易外収支と移転収支の赤字幅はほぼ横這いで推移し,それぞれ1兆7,774億円(126億ドル),5,749億円(40億ドル)の赤字となった。この結果,経常収支の黒字は7兆6,374億円と前年度より2兆2,644億円縮小した(ドルベースでも239億ドル縮小し,534億ドルの黒字) (第1-3表)。
貿易収支の動きを円ベースの季節調整値でみると,89年10~12月期には輸出の減少から大きく縮小し,90年1~3月期には反発したが,89年度を通じてみると,~輸入の増加幅が輸出の増加幅を大幅に上回り,貿易収支は縮小傾向を続けた。
貿易外収支をみると,引き続き大幅に増加した海外旅行者等により,旅行収支と運輸収支の赤字幅が拡大し,また.本邦企業の国際業務活動の活発化により特許権使用料や手数料等のその他収支の民間取引の赤字幅が拡大したものの,対外純資産の増加などにより,投資収益収支の黒字幅が大幅に増加した結果,貿易外収支は全体としてほぼ横這いで推移した。
(長期資本収支の流出超過幅は縮小)
89年度の資本収支についてみると,長期資本収支は997億ドルの流出超過,短期の資本取引の合計(短期資本収支と符号を転じた金融勘定の合計)は766億ドルの流入超過となり,84年度以来の長期資本の流出超過,短期資本の流入超過の傾向が続いている。
長期資本収支のうち本邦資本(資産)をみると,証券投資,直接投資等の流出超過幅が拡大したため,1,916億ドルの流出超過と前年度より流出超過は拡大した。本邦資本のうち証券投資は,株式投資が世界経済の全般的拡大やドルの強含み傾向等を背景として大幅な取得超過になったことにより,1,050億ドルと流出超過幅が拡大した。また,直接投資も年度を通してコンスタントに行われ,491億ドルと流出超過幅が拡大した。
一方,外国資本(負債)をみると,証券投資が債券,外債において大幅な取得超過となったため,643億ドルの流入超過となり,借款が275億ドルの流入超過となった。この結果,外国資本(負債)全体で919億ドルの史上最高の流入超過となった。
短期の資本取引の合計をみるど,金融勘定の流入超過幅が大幅に拡大し,短期資本収支の流入超過幅が縮小した結果,短期の資本取引の合計は766億ドルとその流入超過幅は拡大した。なお外貨準備高は89年度末で735.0億ドルとなり,前年度末比で258.6億ドルの減少となった。
(総じて弱含みに推移した円レート)
外国為替市場における対米ドル円レート (インターバンク直物中心相場)を月中平均値で年度を通してみると,おおむね円安傾向で推移した。89年1~3月期の128.45円の後,下落し4~6月期には138.07円となった。その後,7~9月期には142.29円,10~12月期には143.02円と下落傾向は緩やかとなったが,90年1~3月期には147.90円と再び下落し,90年度に入っては4月には158.47円とさらに下落したが,5月には上昇し,その後はおおむね150円台前半で推移している。