平成2年

年次経済報告

持続的拡大への道

平成2年8月7日

経済企画庁


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第2章 技術開発と日本経済の対応力

第4節 我が国の企業システムの在り方

以上述べた様なかたちでの我が国企業に多くみられる企業システムは,最近の経済環境のもとでは,技術開発力を高め,生産効率を向上させ,長期的な企業収益を最大化させるといった側面からみれば,合理性にかなっており,相対的に優れた面が多々ある。またこのようなシステムは,自由な市場経済と両立しないものではなく,むしろその一種と考えるべきである。我が国に多くみられる企業システムがこの意味での普遍性を持つことに対しては,すでに述べたように,海外において,全面的ではないにしても,我が国企業のシステムに類似した方法により成功している例が数多くみられることからも明らかである。

加えて,こうしたシステムは,個々の企業の経済合理性の追求の結果生まれたものであるから,経済環境が変化すれば,それに応じて変わっていく性質のものである。

真の問題は,このような我が国に多くみられる企業システム一般よりも,その現実の企業活動のなかで競争が制限されたり,不当な参入障壁が生じていないか,といった点である。この点に関しては,たとえ取引当事者間にとって経済合理的な慣行であっても,それが公正な競争を妨げているのであれば,厳しく是正していかなくてはいけない。また,各種の規制がどのような影響を及ぽしているかといった視点も必要である。

加えて,我が国の市場においては,海外からみて,適応が難しいといった見方がある。例えば,欧米企業の在日子会社に対して行った,通商産業省「日米欧企業行動比較調査」(90年2月)によれば(第2-4-1図),我が国市場への参入時の問題点として,「ビジネス環境への適応」を挙げる企業が約半数(複数回答)にのぼっており,「人材の確保」,「販売先の確保,拡大」と並んで最も大きな問題点として意識されている。もちろん,ビジネスの環境は我が国に限らず,世界中のどこでも多少は異なり,また,消費者の嗜好も国によってある程度異なるのは当然である。したがって海外企業にとって適応が難しいといった点は,程度の差はあれどの国にもあるとみられ,こうした点について,進出企業側にも適切な対応が求められる。ちなみに,同調査で,我が国での業績が予想(計画)を上回った企業と下回った企業について,我が国市場での取り組み姿勢をみると(第2-4-2図),予想を上回った企業が予想を下回った企業を「市場調査に力を入れている」,「製品開発にあたっては日本市場のニーズを重視している」,「製品仕様の決定を日本で行っている」,「本社に対する発言力が強い」のいずれの項目についても,回答企業割合で上回り,我が国市場への参入に相対的に成功している企業が,我が国の市場環境に対し,より積極的に取り組んでいることがわかる。これは,見方を変えれば,今まで述べてきた我が国企業に多くみられる情報のシステムとある意味で類似した方法をとっている企業が,相対的に成功しているという様にも解釈できる。我が国企業が海外において,こうしたシステムをいかして売上を伸ばしたことを考えれば,上で述べた我が国に多くみられる企業システムが,世界中どこへいっても参入に成功しやすくなる「良い」システムである側面を持っているのかもしれない。

しかしながら,一方で進出企業側に努力を求めるにしても,我が国側においても,参入に障害となりうる点があれば,積極的に改める姿勢も必要である。

経済のグローバル化が一段と進む中,我が国市場が国際的に開かれた自由で公平なものであることが従来にも増して強く求められているのである。したがって,例えば,取引慣行については,外国人等外部の人間にも分かりやすいように取引のルールの透明性を高めていくことが重要である。

最後に,このような我が国に多くみられる企業システムが経済合理的な側面を持っているのであれば,我が国企業が海外に進出し,現地生産を行う場合でも,こうした長所を生かそうといったインセンティヴが生ずることが考えられる。すでに,海外において,現地企業が,我が国を参考にしたか否かにかかわらず,現実にそれと部分的に似たシステムを取って成功している例がかなりある点にふれた。我が国企業の海外現地生産においても,こうしたシステムが部分的に海外において応用され,ある程度成功している例が散見される。例えば,アメリカに進出した自動車産業が生産設備や労働の面で在来企業とそれほど大きな差がないものを引継ぎながら,生産性の面でかなり優れた成績を挙げた例が報告されている。これについては,生産現場での協力や連携の強化,小集団活動の導入等による品質管理の向上等の我が国に多くみられる企業システムの部分的応用が寄与しているとの指摘がある。さらに,我が国の自動車産業のアメリカでの現地生産において,資材納入先であるアメリカの鉄鋼メーカーと緊密な協力関係を作っている事例がみられる。ここでは,自動車メーカー側が鉄鋼メーカーを訪ねることにより,そこでの雇用者と品質向上について話し合い,また鉄鋼メーカー側も自動車工場を訪ねてプレス技術等についてアドバイスするなど,双方にとってメリットをあげていると指摘されている。もっとも現時点では,我が国企業自身,海外現地生産の方法については試行錯誤を続けており,特定の国においてさえ,決まったスタイルが確立されているようにはみえない。今後,我が国企業がどのようなかたちで現地生産のシステムを確立できるかが,我が国企業のグローバル化の成否のひとつの鍵となろう。


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