平成2年
年次経済報告
持続的拡大への道
平成2年8月7日
経済企画庁
第2章 技術開発と日本経済の対応力
前章でみたように,我が国経済は,40か月以上にわたる長期的かつ力強い拡大局面を続けてきた。振り返ってみると,今回の拡大の出発点においては,プラザ合意以降の急速な円高に直面して,輸出の落ち込みから我が国経済全体が停滞するといった懸念が強く,今日にどの繁栄は予想し難いものであった。実際には,我が国経済は,予想を遥かに上回る対応力を示し,それまでの輸出に大きく依存した体質から,内需主導型へと大きく体質の転換を図りつつ,5%前後の,先進国としては極めて高い成長を続けてきた。しかも,我が国経済が,このような環境の急激な変化に対して見事な対応力を示したのは,今回が初めてではない。過去の二度の石油ショックに際しても,企業等の柔軟な対応,すなわち合理化,省エネ化などの転換によって乗り切ったのである。もちろん,こうした環境の急激な変化への対応は,国民のたゆまぬ努力の賜物であり,また,企業の雇用調整等,コストも伴うものであった。しかしながら,一方では,こうした我が国経済のパフォーマンスの背後には企業の柔軟な対応力があり,その背景にはそれを可能とする技術面での対応力,さらにこうした技術的対応力を生み出すメカニズムを我が国経済が持ち続けているといった見方もできよつ。
この章では,こういった視点から,我が国における活発な技術開発の実態とそれをもたらしているメカニズムについての分析を試みる。まず,我が国経済における技術進歩の果たしてきた役割,技術進歩率が高い理由,我が国の技術開発力の実態を概観する(第1節)。続いて,こうした技術開発の背後にある我が国経済のメカニズムを,企業に関わるシステムとして捉え,企業内におけるシステム(第2節),企業間におけるシステム(第3節)について取り上げ,これらを合わせた我が国の企業システムの持っている経済合理的な側面や,必ずしも我が国特有とはいえない側面,および問題点の所在について検討する(第4節)。しかしながら,活発な技術開発の要因を,こうした企業システムのみに求めることは無論できない。最近の技術開発の特徴として,情報化やマイクロエレクトロニクス化等の技術の新しい流れを分析し,これが経済全体にどのように波及し,また新たな需要の創出を通じてどのように経済全体を刺激しているかをみる必要がある。また,あわせて経済のサービス化と技術開発の関係を探る(第5節)。我が国の輸出パターン等の貿易構造も技術の変化と密接な関係があるので,これを取り上げるとともに,海外現地生産が拡大するなかで,それが我が国の技術開発や技術力に与える影響について検討する(第6節)。