第1章 長期拡大と経済バランスの変化
日本経済は息の長い拡大を続けている。今回の景気上昇は,85~86年の円高不況から86年11月を谷として回復に転じたところに始まった。これまでに既に3年半を経過し,過去の景気上昇に比べると息の長いものとなっている。本年6月には,42か月続いた「岩戸景気」を上回ったので,これ以上長く続いた景気上昇局面は戦後最長の「いざなぎ景気」があるのみとなった。
このように景気拡大が長期化するなかで,以下のような景気の成熟化という様相も現れている。指標のなかには景気の「高原状態」を示唆するものがみられるようになっている。物価は落ち着いているものの,国内需給は引き締まりをみせており,経常収支黒字もかなり縮小した。また,企業収益率の上昇傾向には頭打ちの感もみられる。これらは長期拡大の結果,日本経済の諸々のバランスが変化してきたことの現れであると考えられる。しかしながら,設備投資と個人消費は引き続き順調に拡大しており,景気の腰は依然として強いというべきであろう。
そこで,本章においては,景気の持続力がどの程度あるかを探るため,まず,これまでの長期拡大の要因を明らかにする。次に,在庫循環,設備投資循環といった自律的な循環の視点から景気の現局面がどこにあるかをみるだけでなく,あるいはそれ以上に,経済の諸バランス,とりわけ需給バランスの変化からインフレ圧力が高まり,本格的な引き締め政策の発動につながるおそれがないかという点について検討を加える。さらに,金融情勢の変化とその実体経済への影響,公的部門と民間部門のバランス,対外インバランスの縮小など日本経済の諸バランスの動向についても検討する。