平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


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第1章 昭和63年度の経済の動き

第4節 対外バランスは改善傾向に鈍化

1. 強含みに推移した輸出

昭和63年度の輸出動向をみると,通関ベースで輸出数量は前年度比6.0%増となり,62年度の1.1%増に対して,やや高い伸びとなった。

また,価格指数をみると,円ベースでは0.3%の下落となり,62年度の5.4%の下落に対して小幅な動きにとどまったが,ドルベースでは,対米ドル相場が小幅ながら円高に推移したため(前年度比7.3%上昇),前年度比8.3%の上昇となった(62年度9.4%上昇)。金額でみても,円ベースでは前年度比5.6%増と増加に転じ(62年度4.4%減),ドルベースでは前年度比14.6%増と62年度(10.7%増)を上回る高い伸びを示した。

これらの動きの要因を輸出数量関数を用いて分析してみると (第1-4-1図),相対価格要因については引き続きマイナスの寄与であるが,前述したように為替相場の円高率が小幅だった影響もあり,63年度に入ってその程度は縮小してきている。一方,所得要因(世界輸入要因)をみると,62年以降一貫してプラスの寄与となっている。このように,為替相場が比較的安定した推移となったことに加え,アメリカ,その他の先進国の経済の拡大基調,アジアNIEsの高い成長の結果として輸出は強含みに推移した。最近の動きを地域別にみると (第1-4-2図),まず,アメリカ向けについては,63年度に入って,一般機械,電気機械の増加などから増加傾向で推移している。アジアNIEs向け,西欧向けについても,電気機械,一般機械を中心に増加傾向で推移している。また,中近東向けについては,63年度も62年度に続き,概ね横這いに推移した。

また,品目別の動きをみると,まず,自動車については,東南アジア向け,欧州向けは好調な需要に支えられて堅調な伸びを示したが,アメリカ向けについては,現地生産の拡大等により減少傾向となっている。因みに,63年度における対米乗用車輸出は217万8千台にとどまり,自主規制枠(230万台)を2年連続で余した。化学製品については,世界的な需要増加から東南アジア,EC向けなどが増加している。一般機械については,事務用機器,原動機を中心にアメリカ,東南アジア向けで一段と増勢を強めている。電気機器については,東南アジア,EC向けで通信機,半導体集積回路(IC)を中心に増加している。また,繊維・同製品については,アジアNIEsの追い上げによりほぼ横這い,金属・同製品については,弱含んでいる。

このように,輸出は数量ベースでみて,低付加価値品については,現地生産への移行,アジアNIEsの追い上げ等から横這い,もしくは弱含みに推移する一方,通信機,半導体等の高付加価値品を中心に増加しており,全体としても強含みに推移した。

2. 拡大を続ける輸入

昭和63年度の輸入動向をみると,通関ベースでは,輸入数量は前年度比13.7%増となり,前年度(12.8%増)よりも伸びを高めた。また,価格指数は,円ベースでは2.8%の下落と,昨年度(1.4%下落)より大きく下落したが,ドルベースでは,前年度比5.2%の上昇と昨年度(14.7%上昇)より小幅な動きにとどまった。輸入金額をみると,円ベース,ドルベースともに,前年度比10.5%増,同19.7%増と,前年度(前年度比11.4%増,29.2%増)に較べて,やや伸びが緩やかになったものの,なお拡大を続けている。なお,63年度の製品輸入比率は,49.7%と昨年度より4.1%ポイント上昇した。

これらの動きの要因を,商品別の関数を合成した輸入数量関数を用いて分析してみると (第1-4-3図),まず相対価格要因について,四半期ごとにみると,1~3月期,その寄与が大きく縮小した。また,63年を通してみると,為替が比較的安定していたため,円高傾向の強かった一昨年,昨年よりもその寄与は小さくなっている。所得要因についてみると,四半期ごとでは,4~6月期,10~12月期,GNPの伸びの減速から,その寄与が縮小したものの,63年全体では,堅調な内需の拡大を受けて寄与は前二年より高まっている。以上から,63年の輸入数量は,為替が比較的安定する中,旺盛な内需に刺激されて拡大したものと言えよう。

次に,最近の動きを地域別(金額ベース)にみてみると,63年度での寄与度ではアメリカからの輸入が最も大きく,それに東南アジア,ECが次いでいる。また,これらの地域の内訳をみると,アメリカからの輸入では,食料品,機械機器等が大きく拡大している。ECからは,繊維製品,医薬品等が伸びている。また,東南アジアからは,鉄鋼,繊維製品等が伸びている。

品目別(数量ベース)にみると(第1-4-4図),製品類が昨年度同様,高い伸びを示し,食料品も引き続き増加しているが,鉱物性燃料,原料品はほぼ横這いとなっている。これらをさらに細目についてみていくと,食料品では,肉類,魚介類等が増加した。原料品では,繊維原料や木材が伸び,鉱物性燃料では,年度全体でみると,石油製品,原粗油等の輸入がやや増加した。製品類の中,化学製品では,医薬品,人造プラスチック等が増加した。機械機器では,航空機の減少から,輸送用機器に落ち込みがみられたが,一般機械,精密機器,電気機器類等の拡大から全体では高い伸びとなった。また,その他の雑品では,金属がやや落ち込んだものの,繊維製品等の増加により,全体では大きく増加となった。

3. 縮小傾向に鈍化がみられた経常収支

上述の輸出入動向から,63年度の貿易収支は12兆2,181億円(953億ドル)の黒字,また経常収支は9兆9,018億円(773億ドル)の黒字となり,円ベースでは2年連続でともに前年度の黒字幅を下回った。

(貿易収支黒字幅の縮小傾向は足踏み)

貿易収支の63年度中の動きをみるために,四半期別のドルベースの季節調整値でみると,63年4~6月期に縮小し,その後拡大傾向にある。ここで通関ベースの収支差(ドルベース)について,62年1月との差をとって要因分解してみると(第1-4-5表),63年4~6月期には,自動車輸出がアメリカ現地在庫の調整と輸出パターンの変化により減少に大きく寄与したため,輸出数量が大きなマイナス要因となった。また輸入数量も,石油税の改正直前に原油の駆け込み輸入がみられたことから増加し,数量要因が通関収支差を大きく縮小させた。7~9月期には,前期に減少した自動車輸出が増加し,他の輸出品目の増加もあいまって輸出数量要因が大きなプラス要因となった。しかし一時的な円安の進行により輸出価格は低下し,価格要因がマイナスに働いたため,通関収支差は小幅の拡大にとどまった。10~12月期は,前期とは逆に,円高の進行の下で輸出価格が上昇し,価格要因が収支差を拡大させた。元年1~3月期は,再び円安の方向へ推移したため価格要因がマイナスに働き,通関収支差をわずかながら縮小させた。

(赤字幅が拡大した貿易外収支)

63年度の貿易外収支は,1兆7,357億円と62年度の7,991億円に比べ大幅な赤字幅の拡大となった。また,ドルベースでは史上最高の135億ドルの赤字となった。

57年度以降我が国の貿易外収支は,投資収益収支の黒字,それ以外の収支(以下便宜的にサービス収支という)の赤字という構造が定着している。こうした中で,63年度も投資収益収支の黒字幅が拡大したものの,それ以上にサービス収支の赤字が大幅に拡大したため,全体として赤字幅が拡大する結果となった (第1-4-6図)。

投資収益収支は,対外資産負債の動きと密接な関連をもち,我が国の対外純資産の増加を背景に,61年度106億ドル,62年度190億ドルとなった後,63年度は212億ドルと,その黒字幅が着実に拡大している。しかし,63年度に入って,その伸びに鈍化がみられる。これは,①対外資産負債残高の推移において,負債が資産を上回る増加率となっていること,②「短期調達・長期運用」の傾向が強まっている中で,資産面では新規投資債券のクーポンの低下,既保有の高クーポン債の償還期に入っていること,また負債面では短期金利の上昇から利払い負担が逓増してきたこと,③長期資産において,引き続き証券投資が大宗を占めているものの,目先利益の上がりにくい直接投資のウエイトが高まっていること,等によるものと思われる。

一方,サービス収支の赤字は,サービスの国際的取引の活発化から受取,支払とも増加している中で,61年度157億ドル,62年度247億ドルとその赤字幅が急速に拡大し,63年度は347億ドルに達した。これは,①円高等を背景とする海外旅行者の急増から,旅行収支の支払が62年度に比べ85億ドル増加し205億ドルと,大幅に増加したこと,またこれと関連して②運輸収支のうち旅客運賃の支払が増加したこと,③我が国企業の国際業務活動の拡大を反映した,積極的な技術交流,外債発行の活発化などにより,特許権使用料や手数料等「その他民間取引」の赤字が拡大したこと,によるものである。

(長期資本収支の動向)

長期資本収支は,63年度には1,214億ドルの流出超と前年度に比べ19億ドルの流出超過幅の小幅拡大となった。これは,本邦資本の流出超過幅が1,531億ドルと史上最高となったものの,外国資本の流入額が前年度より301億ドル拡大し317億ドルと大幅な流入超過となったためである (第1-4-7図)。

まず本邦資本についてみると,対外直接投資と証券投資の流出額の増加幅が大きい。対外直接投資は,前年度の238億ドルから357億ドルの流出に拡大し,本邦資本の流出超過額全体に占める割合も23%(61年度11%,62年度20%)と着実に上昇している。内容をみると,機械,化学など製造業の伸びが著しいほか,金融・保険業や不動産業関係の投資も引き続き高水準である。63年度の対外証券投資は,165億ドル流出幅を拡大し,884億ドルの流出(取得)超過となった。このうち株式投資は,ネットの取得額が大幅に減少したが,債券投資は,引き続き高水準の内外金利差とアメリカの債券相場が概ね堅調に推移したこと等を受け,取得・処分とも増加する中で,ネットの取得額は前年度より238億ドル増加して866億ドルとなった。

次に外国資本の証券投資をみると,対内債券投資が,前年度の取得超(54億ドル)から221億ドルの大幅な処分超に転じたものの,対内株式投資が,本邦企業の収益好調,株価先高感等から取得が進み前年度の処分超(352億ドル)から92億ドルの取得超に転じ,また外債も本邦企業の旺盛な資金需要と,株価の堅調といった良好な起債環境の下,調達コストの低いユーロドル建ワラント債を中心に発行が増加したため,全体でも流入超過幅は前年度の7億ドルから329億ドルへ大幅に拡大した。

(円レートの推移)

63年度の対米ドル円相場(インターバンク直物中心相場)は,年度を通してみると,月中平均値で高値が11月の123.19円,安値が9月の134.44円と,変動相場制に移行して以来,最小変動幅となった (第1-4-8図)。

円は,63年度に入り6月中旬まで125円を中心とした狭いレンジ内で堅調に推移していたが,アメリカの貿易収支が改善傾向を示してきたことや,その後,インフレ懸念の強まりによる金融引き締め姿勢がとられたこと等を受け,円相場は概ね130円台前半の動きとなった。10月に入り,失業率などアメリカ景気スローダウンの可能性を示す指標が明らかになったことや原油価格下落もあってインフレ懸念が後退,また,貿易収支の改善のテンポが予想より遅いこと等を受けて,10月中旬以降円は上昇して11月25日には120.80円の戦後最高値をつけた。しかし,11月末のOPECの原油生産枠合意,米ソ・デタントムードの台頭,設備稼働率等アメリカ経済の堅調を示唆する指標が発表され,アメリカの金利先高観が強まったこと等を受け,12月中緩やかに下落し,125円台で越年した。今年にはいっても,引き続きドル堅調地合で推移し,132円台で年度末を終えた。4月中は132円前後の落ち着いた動きを示したが,5月に入って下落し,6月上旬に一時150円台をつけた。その後,各国の協調体制が堅持されていたことや,アメリカの金融緩和観測等もあり,円は上昇し6月中旬には140円台前半となった。