平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


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第1章 昭和63年度の経済の動き

第1節 昭和63年度経済の特徴

昭和63年度の我が国経済は,一時的な特殊要因による変動はあったものの,堅調な個人消費と力強い民間設備投資に牽引され,内需が内需を増大させる自律的拡大を続けた。

1. 昭和63年度経済の動向

まず,拡大の過程を四半期毎にふりかえってみよう(第1-1-1表)。

(4~6月期の動き)

63年4~6月期の実質GNPは,前期比年率3.3%の減少となった。これは,民間最終消費支出,民間設備投資は増加を続けたものの,住宅投資,公的固定資本形成が減少し,他方で外需が大幅なマイナスになったためである。このように1~3月期までの急速な拡大テンポがここでいったん鈍化したのは,1~3月期のうるう年要因の反動,対米自動車輸出の季節パターンの変化等一時的要因によるところが大きい。鉱工業生産も4~6月期に伸びが鈍化したが,雇用面では,6月に49年以来初めて有効求人倍率が1倍をこえるなど,一段と改善が進んだ。これを反映して,4~6月期の現金給与総額は前年比3.9%増と伸びを高めた。国際収支の動きをみると,輸入が高い伸びを示し,輸出が減少したため,貿易収支,経常収支とも大幅に黒字幅が縮小した。

(7~9月期の動き)

7~9月期には,実質GNP成長率が年率9.5%の伸びとなり,再び成長経路に戻った。需要項目を前期比でみると,公的固定資本形成を除き,ほとんど全ての項目にわたり増加した。特に民間企業設備は引き続き高い伸びを保ち,民間最終消費支出も堅調な伸びを示した。鉱工業生産は,前期比2.0%増と伸びを高めた。企業収益が更に増加し,業況判断も良好感を増すなかで設備投資計画は上方改定された。雇用面では有効求人倍率が更に上昇するなど引き続き改善が進んだ。国際収支は,輸入が着実に増加する一方,輸出が増加したことから,貿易収支,経常収支の黒字幅が7~9月期には再び拡大した。

(10~12月期の動き)

10~12月期には,民間最終消費支出が前期比横這いとなったため,実質GNP成長率は年率3.4%と伸びが鈍化した。しかし,民間企業設備は引き続き高い伸びを示しており,生産も順調に増加し,稼動率が更に上昇するなど,着実に拡大を続けた。雇用は更に改善を続け,企業の人手不足感は大企業・製造業にまで拡がった。物価面では,原油価格下落の効果もあって国内卸売物価が引き続き落ち着いた動きとなり,消費者物価も安定した動きを示した。国際収支の動きをみると,原油価格の下落等により輸入額が減少したため,貿易収支の黒字幅は更に拡大し,また,経常収支の黒字幅も拡大した。

(1~3月期の動き)

1~3月期は,税制改革等の影響から振れがみられたものの,我が国経済は,引き続き順調な拡大を続け,実質GNP成長率は年率9.1%と高い伸びを示した。労働力需給は引き締まり基調となり,企業の人手不足感が更に拡がった。企業収益は一段と増加し,業況判断も一段と良好感を増した。物価は安定基調であったが,63年12月以降の円安,原油価格の上昇によって輸入物価が上昇し,これまで物価の安定基調を支えてきた要因に変化の兆しが出始めた。国際収支の動きをみると,製品類等を中心に輸入が伸びた一方で輸出も増加したことから,貿易収支の黒字幅が拡大し,貿易外収支,移転収支の赤字幅が拡大したものの,経常収支の黒字幅は拡大した。

2. 昭和63年度経済の特徴

景気回復から2年目に入った昭和63年度経済の特徴は,以下の4点にまとめることができる。

第一に,63年度は個人消費と民間設備投資に牽引され,自律的性格の強い経済成長が持続した。63年度の成長率は5.1%と62年度の5.2%を下回る成長率となったが,国内需要の成長率は6.9%,民間需要の成長率は8.0%と62年度を上回った。他方,外需は61年度以降3年連続のマイナスとなった。需要項目別に成長率に対する寄与度をみると,国内需要が6.8%,民間需要が6.6%と更に寄与度を高めた (第1-1-2図)。内訳をみると,民間最終消費が2.6%,民間設備投資が3.5%と寄与度を高めたのに対して,民間住宅投資0.4%,公的固定資本形成0.2%はともに寄与度が低下しており,63年度の成長率を牽引した主役が個人消費と民間設備投資であったことがわかる。民間設備投資の成長率は17.9%となり,44年度以来の高い伸びを示した。

第二に,成長にすそ野の拡がりがみられた。まず鉱工業生産では,おおむね全財,全業種にわたり高い成長をとげた。設備投資についても63年度に入り業種,目的に拡がりがでてきた。個人消費については,62年度の拡大が一般世帯中心であったのに対し,63年度は雇用者所得の増加により勤労者世帯の伸びが高まった。雇用面でも62年度から63年度にかけてほぼ全産業で雇用者数が増加するなど雇用改善における産業間のバラツキが縮小した。

第三に,需要が拡大する中で,物価が引き続き安定基調を保った。国内卸売物価は,円高,原油価格下落の効果に加え,製品輸入の増大,生産の高い伸びによる単位労働コストの安定から,63年度は対前年度比0.5%の下落となり,落ち着いた動きを示した。消費者物価(除く生鮮食品)も安定的に推移し,63年度は対前年度比0.6%の上昇にとどまった。

第四に,対外バランスについては,経常収支を前年度との比較でみれば,63年度は,62年度に引き続き黒字幅が縮小した。また,経常収支黒字の対名目GNP比も,61年度4.5%,62年度3.3%,63年度2.7%と低下を続けた。しかし,63年7~9月期以降の動きをみると,世界経済の拡大に引っ張られた形での輸出数量の増加等を背景に,貿易収支の黒字幅(季節調整値)は再び拡大しており,経常収支黒字幅の縮小は足踏み状態となっている。

3. 自律的成長の要因

63年度には経済拡大を牽引する需要の主役が個人消費と民間設備投資へと移行し,生産の増加が雇用の拡大を通して所得を高め,企業収益を増加させる等して,内需が更に内需を拡大させるという「自律的拡大」の成長パターンが形成された。

まず,個人消費の拡大は,主として,①雇用者数が増加,賃金上昇率が上昇し,雇用者所得が増加したこと,②引き続き物価が安定したこと,③所得税減税等が実施されたこと,④さらに,耐久消費財,教養娯楽関係等へのサービス支出の増加にみられるように,最近のライフ・スタイルの変化を背景とした消費の多様化,高級化によりもたらされたものである。

次に,民間設備投資についてみると,①将来の成長見込みの上方修正,②生産の拡大による稼働率の上昇,③販売数量増や投入価格の低下等による企業収益の大幅な増加等,良好な投資環境が,製造業,非製造業の投資をともに拡大させたものとみることができよう。こうした要因のほかに,新製品の開発や情報関連技術革新に基づく投資も大幅な増加の要因となっている。


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