平成元年

年次経済報告

平成経済の門出と日本経済の新しい潮流

平成元年8月8日

経済企画庁


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はじめに

(昭和経済から平成経済へ)

昭和の日本経済は,幾多の苦難があったとはいえ,それを乗り越え,総じてみれば,順調な発展をとげた。昭和の前半においては,世界恐慌などの厳しい国際環境の中で,困難な状況に直面し,結局,第二次世界大戦に突入したが,国民経済に大きな犠牲を残して終戦を迎えた。

第二次世界大戦後においては,国際環境にも恵まれ,国民の叡知と努力を生かして,復興から高度成長を達成し,石油危機,円高をも克服して,自由世界第二位の経済力を実現した。今や,豊かな所得・消費水準を享受するとともに,質量両面において,世界最高水準の工業国として世界経済の運営に重要な役割を担うまでに発展をとげた (付表0-1参照)。

この間の推移を振り返ってみると,終戦から昭和30年までは戦後復興の時期であった。新憲法制定下で,大戦による経済困難からの脱却を図るため,政府は①「経済安定本部」設置(21年)による傾斜生産方式の実施,②財閥解体,農地改革といった民主化政策の推進,③インフレ抑制のための緊縮財政(「ドッジ・ライン」),④360円レートの設定(23年)等相次ぐ政策を打ち出した。こうした中で我が国経済は「朝鮮特需」もあり,戦前水準に向かって回復を続け,31年度経済白書では「もはや戦後ではない」と明言するまでに復興した。

復興をとげた日本経済は,「国際収支の天井」による引締め,景気後退をはさみながら,神武景気(30年代前半),岩戸景気(30年代半ば),いざなぎ景気(40年代前半)と平均10%以上の高度成長をとげた。「所得倍増計画」の策定(35年)の下で,「投資が投資を呼ぶ」設備投資ブームと三種の神器(洗濯機,テレビ,冷蔵庫)から3C(乗用車,カラーテレビ,クーラー)へという消費ブームがこれを支えた。この間,「IMF8条国」への移行(39年)など,開放経済体制の整備が行われるとともに,40年代に入ると次第に国際収支黒字が定着していった。

40年代後半以降,世界経済は国際通貨制度の動揺(46年「ニクソン・ショック」,48年変動相場制への以降),二度にわたる石油危機(48年,53年)等から揺れ動き,日本経済もまた「列島改造ブーム」と「第一次石油危機」後の「狂乱物価」,貿易赤字転落,その後のスタグフレーション,構造不況業種の出現,大幅な財政赤字等様々な困難に直面した。

しかし,日本経済は企業・家計の柔軟な対応によって合理化,省エネ化等産業構造の転換を進め,インフレを克服し,国際競争力を強めて持続的成長の基礎を再び築いた。

50年代後半以降,臨調・行革審の提言を受けた行政改革の下で,民間企業の活力が喚起された。同時にアメリカの貿易赤字拡大,日独の黒字拡大という先進国間の対外不均衡が生じ,これに対して60年以降,国際協調の下で大幅な通貨調整が行われた。日本経済は大幅な円高に積極的に適応し,当初の「円高不況」を克服し,財政金融政策の支援も受けて,内需主導型成長が実現した。

平成を迎えた日本経済は,景気回復から3年目に当たり,「いざなぎ景気」以来の力強い景気上昇の中にある。

(新段階の日本経済)

昭和63年度から平成元年度への日本経済をみると,円高への適応が進み,その結果,旺盛な設備投資,個人消費による内需主導型成長の実現,物価安定基調の持続,製品輸入の大幅な増加,世界最大の債権国への移行など,これまでとは一段異なった姿がみられる。その意味では,平成を迎えた日本経済は新しい段階に入ったともいえよう。すなわち,第一には産業,生活の両面を通じる一層の「高度化」である。生活面においては多様化,高級化の動きがみられ,産業面においては情報化,ハイテク化,あるいは高付加価値化が進展しており,それが力強い内需拡大の背景でもある。

第二には,国際化の一段の進展である「グローバル化」である。製品輸入の急増や海外生産の増加などを通じて,企業活動や国民生活における世界経済との相互関連は一層密接になるとともに,我が国が世界経済の発展に果たす役割はさらに大きくなっている。

第三には,「ストック化」である。金融資産の蓄積,資産価格の上昇などの動向が経済に与える影響が強まっており,金融の自由化がこうした動きを加速している。

今回の景気上昇においても,新段階の日本経済の持つこれらの特徴が,景気を引っ張る力となっている。

反面において,このような発展の中で,依然解決が迫られている問題が残されており,同時に新たな問題も生じている。

平成元年度の年次経済報告においては,上記のような経済動向を踏まえて,「新段階の日本経済」の姿と問題点を明らかにするとともに,今次景気上昇との関わりを分析することとした。

第1章では昭和63年度の経済動向を振り返り,第2章では「高度化」,第3章では「グローバル化」,第4章では「ストック化」の姿と問題点を議論している。第5章では,今回の景気上昇の特徴をその持続力とともに分析するとともに,財政金融政策の課題を取り上げ,最後に「むすび」においては,平成の日本経済が目指すべき基本的方向を明らかにしている。


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