昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第II部 構造転換への適応-効率的で公正な社会をめざして-

第4章 雇用問題への対応

第4節 失業,転職のコスト

産業構造の急速な転換に伴って,失業や転職を迫られている就業者は少なくない。こうした人々の生活不安,経済的困窮は大きな社会的コストと言える。

総務庁統計局「全国消費実態調査」により,世帯主が失業している世帯の消費実態を勤労者世帯と比較すると (第II-4-10図),次のような特徴がみられる。

一つは,失業者世帯の実収入は16万円と勤労者世帯の4割程度にすぎず,借入金を含めても6割程度にとどまる。二つには,その結果,消費支出は勤労者世帯の8割程度にとどまっているが,それでも7万円程度の赤字が発生し,借入金や貯蓄の取崩しによって賄われている。三つとして,消費支出の内容をみると,食料,住居,光熱・水道など固定的支出はほとんど変わらないのに対し,被服及び履物,交通通信,教育,教養・娯楽など変動的支出が大きく圧縮されている。最後に,世帯主の年齢別にみてみると,預貯金の少ない30歳台で失業している場合が最も消費支出を抑制しており,この年代では勤労者世帯の消費支出の約半分にすぎない。

こうした失業者の生活は基本的には雇用保険の失業給付と預貯金の取崩しに多くを依存しているが,失業給付及び預貯金の取崩しにも一定の限度があり離職期間の長さが問題となる。労働省「雇用動向調査」により,前従業先の離職理由別離職期間を推計してみると,離職期間は50年代を通じて3ヵ月前後で総じて安定的に推移している。離職理由別に離職期間をみると,会社都合離職者の方がおおよそ半月から一月程度離職期間が長くなっている。

次に,転職ができた場合についてみてみよう。

我が国の賃金体系は卒業後継続して同一企業に勤務する者に有利となっており,転職をした場合の賃金は大きく減少する。ここでは賃金カーブにより,仮に転職した場合の賃金変動についてみてみる。

高校または大学卒業後,製造業に入職した者が35歳および45歳時に転職した場合の賃金(所定内給与)の変動を試算してみた(第II-4-11図)。これによると,高卒者が35歳及び45歳で転職した場合,賃金は転職先の業種にもよるが35歳で3~5万円,45歳で7.5~10万円程度減少する。一方,大卒者の場合,製造業や卸売・小売業へ転職した場合の賃金の減少は,35歳で5万円,45歳で10万円程度となっているものの,サービス業では大卒者の賃金水準が高いため,サービス業に転職した場合は,35歳では賃金水準は変わらず,45歳で約2.5万円ほど増加する。このようにサービス業に転職した方が賃金が上昇する理由としては,サービス業では中途採用者の賃金水準が比較的高いことにもよるが,大卒のサービス業従事者の中には医者,高度情報技術者といった高度専門的能力を有する人がサンプルに多く含まれておリ,専門技術を持たない人の場合には賃金カーブはより下に位置すると考えられる。

いずれにせよ,こうした賃金カーブは,産業間でバラツキはあるものの転職に伴うコストを大きくしている。特に,成長率が緩やかになっていることもあって,企業の人員構成が逆ピラミッド化してきていること,中高年齢層の賃金水準が若年層に比べ高いことなどから,中高年層に対する過剰雇用感が高まっており,希望退職者の募集などが行われる際に,対象がこれらの年齢層に集中する傾向があり,一方で転職に伴う賃金の減少幅は高齢になるほど増加し,また中高年層の労働力需給が弱いことから,こうした年齢層の転職のコストは大きなものとなっている。


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