昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第II部 構造転換への適応-効率的で公正な社会をめざして-

第4章 雇用問題への対応

第3節 企業の海外進出と雇用問題

貿易摩擦の激化に伴って,生産拠点を海外に移す企業が,自動車,電気機械などで増えてきている。現在までのところ,こうした海外直接投資が,我が国の生産を代替している割合は,全生産量の約4%にすぎず,今のところは雇用面にもそれ程深刻な影響は出ていないと考えられる。しかし,今後ともこうした海外進出が続くとすれば,次第に雇用面にも影響が及ぶ可能性がある。

労働省「労働経済動向調査」(61年11月調査)により海外での生産動向をみると,海外での生産拡大を実施あるいは予定する企業は,電気機器,輸送用機器,精密機器を中心に製造業の29%を占めている。海外での生産拡大を実施している企業(全体の14%)のうち,既に国内既存部門を縮小した事業所は21%,下請・外注の削減を行った事業所は24%となっている。また,既存部門の縮小を既に実施あるいは必要としている事業所について労働面での対応措置をみると,配転,出向,新規学卒の採用停止・削減,退職者の不補充を挙げる事業所が多くみられる。また,当庁「昭和61年度企業行動に関するアンケート調査」(62年1月実施)によると,今後3年間に海外に進出する企業の13.6%が国内の雇用を減らさざるをえないとしている。この割合は,輸送用機器,電気機器などの製造業の加工業種で高くなっている。また,60年度末の海外直接投資残高別の雇用調整の実績及び予定をみると,全般的にみて海外直接投資残高が高い企業程雇用調整の実施企業割合が高くなる傾向がみられる。もちろんこれだけで,企業の海外進出と従業員の雇用問題を結びつけることには無理がある。しかし,電機労連の試算によると,59年に現地従業員数は27万人となっており,ここから現地企業向け輸出要員や国内管理要員など国内雇用のプラス効果を差引くと,国内でのネットでの雇用の減少が9万5千人(電機産業の国内雇用の5.3%)との計算になる。しかし,実際には新規分野の成長により,そうした過剰人員は吸収され電機産業の総雇用量は減っていない。

現在までのところ,企業の海外進出にともなう雇用面への影響はそれ程深刻ではないが,いままでみてきたように一部には影響がにられる。従って,今後一層海外進出が進められると,雇用調整が表面化してくる可能性は否定しえない。こうした雇用問題を発生させないためには,我が国全体で就業機会の増加が図られるとともに,企業における新規分野の開拓努力,労使間の話し合い等が行われていくべきであろう。


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