昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
第II部 構造転換への適応-効率的で公正な社会をめざして-
第4章 雇用問題への対応
第I部第4章でみたように,構造調整が進展する中で失業率もこのところ高い水準を続けるなど,雇用情勢は厳しい状況となっている。しかも,現下の雇用問題は単に需要不足というだけではなく,急激な産業構造の転換や技術進歩等によって生じた地域間,年齢間,職種間などでの需給のミスマッチといった側面も強く,この解決のためには単なる需要拡大策では十分ではないという面が強い。
我が国の産業別就業構造の推移をみると,第一次産業就業者の割合は,昭和25年に全就業者数の48.5%を占めていたが,その後経済成長とともにこの割合は急速に低下し60年には9.3%を占めるにすぎなくなっている。また,第二次産業就業者数は,高度成長期を通じて増加し45年には34.0%のシェアを占めるにいたったが,その後農業部門での就業者数の減少テンポの鈍化と機をーにしてその増加テンポは鈍化し,50年にはその割合いが34.1%となった後は徐々に低下し60年には33.0%となっている。一方,第三次産業就業者の割合は,25年以来一貫して増加を続けてきており,50年には過半数を越え60年には57.5%に達している。これを西欧諸国と比べると (第II-4-1図),第一次産業の占める割合は依然高い水準にあり,第二次産業の占める割合はアメリカ,フランスと西ドイツ,イギリスの中間に位置し,第三次産業の占める割合は西ドイツより高いもののアメリカ等と比較して依然低い水準にある。第三次産業の内訳をみると (第II-4-2図),対企業(非物的)サービス及び余暇関連サービスのウェイトが増大しているが,こうしたサービスは米国においても依然増加傾向にあり,こうした分野を中心に第三次産業の就業者数は今後とも増加していくことが予想される。
こうした就業構造の変化が安定的な経済成長の下で緩やかに生じている場合には,これまで見られてきたようにそれ程深刻な雇用問題とはならなかった。
しかし,60年秋以来の急速かつ大幅な為替レートの修正により,既にみたように輸出型製造業を中心に産業構造の調整が急速に進められ雇用調整が行われており,一方,非製造業では国内需要を中心にサービス業などで労働需要には根強いものがあるが,その多くはパートであったり特殊技能を要したり,地域に偏りがあったりしており,スムーズに労働の移動が進んでいいるとは言い難い。
加えて,急速な人口構成の高齢化や産業構造の変化,また,OA化など技術革新の急速な進展から企業に求められる人材の質が変化してきており,地域間,年齢間,職種間などで労働需給のミスマッチが増大しており失業の増加とその長期化が生じる可能性が高い。こうしたミスマッチにより生じる失業を解消していくためには,マクロの総需要拡大策のみでは対応が困難であり,実情に即したきめ細かな対応策が必要とされる。そこで,ここではこうしたミスマッチのうち特に深刻となっている業種・地域間及び年齢間の問題について検討してみる。