昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-

第5章 一層安定化した物価動向

第4節 大幅に変化した相対価格体系

今回の円高,原油価格の低下は,既にみてきたように卸売物価や消費者物価に大きな影響を及ぼし,国内の価格体系を大きく変化させた。こうした動きの中で,消費者物価の上昇率の方が,卸売物価のそれより高いという傾向は変化をみせていない(第I-5-6図)。消費者物価の伸びの高さは,第2節でみたように非貿易財としてのサービス料金の価格の動きにもその要因をみることができるが,貿易財においても加工経費の他に流通マージンなどの存在も要因の一つとなっているものと考えられる。こうした流通を含むサービス部門では製造業に比べ全体のコスト構成に占める人件費の割合が高く,機械化などを進展させ資本装備率を上げることにより生産性の向上を図ることが相対的に困難な分野と言える。こうした中で,製造業と並ぶ賃金上昇率の実現は,サービス部門での料金の上昇を一般の財価格の上昇率よりも高くしていると言えよう。

今回の円高,原油価格の低下は,景気の下降局面でのコストの低下であり,かつて第一次石油危機時に需要後退時のコスト上昇がなかなか価格に転嫁し得なかったことに比べると,コストの低下が比較的スムーズに価格の低下として実現していると言えよう。特に,国内卸売物価に関する限りでは,既にみたようにコストの低下はほぼ価格低下として実現しているといえ,いくつかの業種ではコストの低下以上に価格の低下しているものもある。しかし,このような輸入原材料や輸入製品の価格低下は,消費者物価段階へまで浸透してきてはいるものの,次第にその度合いは薄められ,また,サービスなどの非貿易財への波及はほとんど見られないことから,他の財との相対的価格差を大きくしている。こうしたなかで,多くの品目において輸入品の方が国産品よりも価格低下が大きく有利となっており,輸入構造の変化を促す引金となっていることは否めない。

また,こうした輸入素原材料の大幅な価格低下は,他の生産要素価格にも大きな影響を及ぼしている。賃金コストは賃金の上昇にみられるように上昇しており,一方,資本については金融緩和から名目金利はすでに十分低下してきているものの,資本財価格が大幅に低下しているため,資本コストが名目金利程には低下していない可能性は否定しがたい。この結果,労働,資本とも輸入素原材料に比べるとそれらの価格は相対的に割高となっているものと考えられる。

従って,こうした生産要素間の相対価格の変化は,輸入素原材料多消費型の財の価格を大幅に低下させるとともにその需要を堅調としている。


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