昭和62年
年次経済報告
進む構造転換と今後の課題
昭和62年8月18日
経済企画庁
第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-
第4章 厳しさ増した雇用情勢
こうした製造業や鉱業での労働需要に対して,その他の業種では労働需要は比較的堅調に推移した。
非製造業の求人動向をみると,建設業の新規求人は着実な公共投資の伸びや好調な住宅投資に支えられて堅調な増加を示し,また金融・保険,不動産業でも活発な金融取引や不動産取引を反映して比較的高い伸びを示した。この他,個人消費関連のサービス業,卸売・小売業においても,前年水準は下回ったものの,依然高い水準を保っている。
雇用動向をみると,61年度平均の雇用者数は4,382万人と前年度に比べ54万人の増加となっているが,製造業では逆に12万人の減少となっており,雇用者数の増加が専ら非製造業に依存していることがわかる。産業別には,サービス業で33万人,卸売・小売業で22万人の増加となっており,雇用者数増加の大部分がこれらの業種によって生じている(第I-4-10図)。61年度中のこれら業種の雇用者数の動きをみると,サービス業では一貫して増加基調にあり,ここ数年間そのトレンドには変わりはない。一方,卸売・小売業の雇用者数は61年の秋口まではかなりの増加をみせたが,その後減少に転じ,年末から再び増加をみせている。卸売・小売業の雇用者数の動きは,振れが大きいため,明確なトレンドは見出だしにくいが,最近の動きは,59年頃までの増勢に比べると,多少緩やかなものとなっている。
また,企業の過剰雇用感を日本銀行「企業短期経済観測調査」(62年5月調査)の雇用判断のD.I.でみると (第I-4-11図),製造業では60年初から62年初にかけて過剰と判断するものの割合が期を追って増加したのに対し,非製造業では,この間59年頃まで過剰感もみられたが,その後は,総じてみれば僅かに不足気味に推移しており,今後も雇用増が期待しうる。
一方,建設業においては,求人が多いにもかかわらず雇用者数は前年度に比べ1万人の増加にとどまっている。建設業での雇用者数が増加しにくい点については,いくつかの原因が挙げられる。まず第一に,建設工事等の需要自体に地域間のバラツキがあり,労働力需給にも地域間のミスマッチが生じている可能性が高いことが挙げられる。第二には,建設業の中にはある程度の熟練を要する分野があり,こうした分野の労働者をすぐには養成できないことや,かつての住宅不況時に他の産業への転出が進み,若年層の参入がとまり高齢化が進んでいる点が挙げられる。第三の原因としては,建設業においては労働条件や労働福祉面で雇用環境の整備が必ずしも進んでいないため労働者側に敬遠する傾向のあることが考えられる。
今回の緊急経済対策は,現在進行している構造調整の過程で生じる雇用問題の緩和にも資すると考えられるが,こうした建設業での未充足求人の多さに鑑み,離職者の中で建設業に入職を希望する人に対して積極的な能力再開発訓練を行い,建設業での生産性の向上,労働条件の改善等を行っていくことが,対策の効果を雇用の確保に結びつけていくために必要とされよう。また,その実施に際しては,当面特に失業の地域間,産業間のバラツキに充分配慮していくことも重要であろう。