昭和62年

年次経済報告

進む構造転換と今後の課題

昭和62年8月18日

経済企画庁


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第I部 昭和61年度の日本経済-構造転換期の我が国経済-

第4章 厳しさ増した雇用情勢

第2節 製造業での雇用調整の現状

今回の雇用調整の特徴として,輸出依存度の高い製造業と鉱業での調整が厳しかったことが挙げられる(付表I-1参照)。

鉄鋼業では,第一次石油危機後原料費の高騰を省エネ,省資源への技術革新などを中心とした合理化,コストダウンにより乗越え,粗鋼年産1億トン体制を維持してきたが,今回の急激な円高により大幅な生産調整を余儀なくされている。61年度末に高炉大手各社は合理化計画を発表しており,その内容は60歳定年制実施の延期や出向等により各社とも数年内に20~30%程度の人員削減を予定し,同時に福利厚生費の削減やベアの見送りも合せて行われるなど厳しいものとなっている。

非鉄金属鉱業では,従来から概ね経常損失を計上していたが,円高により市況の低迷が続きその額は拡大している。こうしたことから,61年度には19鉱山が閉山し,残る主要鉱山も赤字操業となっている。雇用面では,一時帰休,賃金カット,大幅な人員削減が実施されている他,休閉山に伴う解雇が行われており,従業員数は大幅に減少している。削減者は新規事業部門への配転やグループ企業への出向で対応されているものの,鉱山は山間部に立地していること等のため離職者の再就職には難しい面がある。

製造業における雇用調整の実施状況の推移を労働省「労働経済動向調査」(62年5月調査)でみると (第I-4-6図),雇用調整の実施事業所割合は60年1~3月期を底に急速に増加し,61年10~12月期には前々回のピークとほぼ同水準となった。4~6月期での予定ではその割合は低下しているものの,依然高水準で推移している。こうした雇用調整の内容をみると,「残業規制」や「中途採用の削減・停止」が依然として大きなウェイトを占めているものの,61年後半から「一時休業(一時帰休)」,「希望退職者の募集・解雇」もそのウェイトを高めてきている。

また,当庁「昭和61年度企業行動に関するアンケート調査」(62年1月調査)により,雇用調整の実績と予定を業種別にみてみると(第I-4-7図),製造業においては,雇用調整を既に実施した企業数は調査企業の半分以上に達し,その理由として,円高を挙げる企業が大多数であるのに対し,非製造業では雇用調整を実施した企業数は約三分のーに過ぎず,このうち円高を原因として挙げているものは僅かに過ぎない。製造業について詳しくみると,輸出依存度の高いと思われる加工型業種では,既に68%の企業が雇用調整を実施し,今後についても71%が予定しており,その要因をみても円高の割合が高くなっている。また,構造的な問題を抱えている素材型業種でも加工型業種よりはその割合は低くなっているものの既に雇用調整を実施した企業は49%,予定しているものが55%と高い水準となっており,その要因として円高をあげる企業も多くなっている。一方,国内需要への依存度が相対的に高いその他の製造業では,雇用調整の実績,予定とも非製造業とほとんど同じような割合となっており,円高を雇用調整の要因として挙げる企業も少ない。為替レートの上昇は,生産活動の停滞に加えて,構造調整を進展させていることで今回の雇用調整に大きく影響を及ぼしていると言えよう。

次に,事業主都合解雇者数の推移をみてみると,61年1~3月期以降製造業を中心に増加してきている (第I-4-8図)。業種別にみると機械関連および素材関連業種において高まりがみられ,特に輸送用機械においては61年全体の解雇者数は前年度に比べ約3倍近く増加したほか,鉄鋼,非鉄金属,一般機械などにおいて前年水準に倍する大幅な解雇者の増加が生じた。製造業以外では,急速な産業構造の転換が進められていく中で,石炭・亜炭鉱業や金属鉱業といった鉱業において大幅な増加が生じており,こうした業種においては,業種転換などの調整が極めて厳しいことを示している。

製造業における雇用調整の進展の背景として,企業内での過剰雇用感の高まりを挙げることができる。そこで,30人以上の製造業事業所における過剰雇用人員を労働生産性を基準として推計しその推移をみてみた (第I-4-9図)。過剰雇用人員は第一次石油危機後急激に上昇した後,低下し,前回景気後退時(55年2月~58年2月)に再び高まりをみせたが,その後景気の拡大とともに低下してきた。しかし,60年の秋口からの輸出の増勢の軟化により生産が停滞するとともに増加を始め,62年に入って若干改善をみせているものの,依然高い水準となっている。

このため製造業の新規求人も61年度には前年度比18.4%と大きく減少し,特に輸出比率の高い組立・加工業種や素材関連業種で大幅な減少となっている。

製造業の雇用者数は61年度初より前年の水準を下回って推移してきており,年度平均では1,224万人と前年度を12万人下回った。しかし,62年度に入ると生産活動が下げどまりの局面に入りつつあるとみられることもあって,新規求人数は前年水準を上回るに至っている。一方,常用雇用者の動向をみると,製造業では61年半ば以降前月比で減少を続けており,年末には前年水準を下回り,62年度に入っても,依然前年水準を下回って推移している。業種別には,鉄鋼,輸送用機器等の輸出関連業種において前年水準を大きく下回る事態が続いている。


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