第二部 各論 九 労働 1 人口および雇用


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(一)人口

 昭和二七年の総合人口は年間平均八五五八万となつて前年よりも一二五万人約一・五%の増加となつた。戦前(昭和一〇年)の内地人口(沖縄を除く)にくらべれば一七一四万人、約二五%の増加である。

 戦後の人口は終戦による復員、引揚等の社会的増加と出生率の著増および、死亡率の減少による自然増加率の増大によつて一時急激な増加を示した。二五年以降は社会的増加が終了するとともに、保健衛生の発達により、死亡率はさらに減少したが。産児制限等による出生率の減少はこれよりも大きかつたので自然増加は漸減傾向に移り二七年の増加も前年の増加数より二〇万人少かつた。

第79図 人口と就業者

 このように最近の出生率、死亡率、自然増加率は減少傾向にあるが、二七年のそれを戦前(昭和一〇年)ならびに各国と比較してみると、死亡率においては〇・九%となつて戦前の約二分の一に減少し、欧米各国の最低水準となつた。この点に関してはわが国も欧米先進国に伍する文化国となつたということができよう。

 これに対して出生率は二・四%となり戦前の約七割に減少して欧洲各国よりはなお高いがカナダ、ニユージーランド、アメリカの各国よりも低位となつた。その結果自然増加率においても一・五%となりほぼ戦前の水準となり、カナダ、ニュージーランドよりも下位、アメリカよりも幾分低い水準となつた。

 今後の人口の現在の死亡率がほぼ最低水準と考えられるのに対し出生率はなお減少が予想されているので自然増加率は今後漸減するものと考えられる。したがつてこの傾向が続くものとすれば一億の人口に達するのは昭和四五年頃になるものと予想されている。

第80図 出生率、死亡率、自然増加率、社会増加

(2)生産年令人口の著増と就業者

 総合人口の増加は停滞したに反し働き手の数はなお著増している。すなわち労働力調査によると二七年の生産年令人口(一四才以上)は年間平均で五七四四万人となり前年よりも一一八万人の増加となつた。これは総人口の増加数に近い。また戦前(昭和一〇粘)の四四八〇万人に比較すると約二九%の増加となり総人口の増加率を超えている。

 このように生産年令人口の増加率が総人口の増加率を上回つたのは総人口の増加が出生率の上昇でなく、死亡率の低下による自然増加に起因しているのに対し、生産年令人口の増加は過去の高い出生率による自然増加に対し死亡率の低下によつて高年令層の増加が強まつていくことによるものである。

 しかもこの増加傾向は総人口の増加とは異なり、今後十数年間は続くものと予想されているので、今後における労働力増加の根元をなすものとして雇用の面で重要なる問題を提起するものである。

第81図 主要国の出生、死亡、自然増加(国連統計による)

 一方、同じく労働力調査による二七年の労働力人口と就業者はそれぞれ前年よりも一一五万人および一〇七万人の増加となつて、ともに前年に倍加する増加となつた。これは一面生産令年齢人口の増加も原因してはいるが、非労働力人口の労働力化も行われたものと考えられる。労働力人口増加一一五万人の中には完全失業者の増加九万人を含み、個人業主や家族従業者が五七万人増加して近代的雇用形態である雇用者としては五二万人しか増加しなかつた。

 これは失業が減少し、雇用者が大幅に増加して個人業主や家族従業者が減少した前年の労働力構造とは著しく様相が異にするものである。

(二)雇用

(1)雇用増加の停滞

 労働力調査によると二七年の臨時および日雇を含めた農林業、非農林業の全雇用者は年間一四二二万人となつて前年よりも五二万人の増加となつた。その中農林業の雇用者は前年と同様に減少を続け変つた動きを示さななかつたが、非農林業の雇用者は前年の一一〇万人(九・一%)の増加に対し五七万人(四・三%)の増加となつてかなり停滞をみせた。

第六四表 雇用者(臨時日雇を含む)の動き

 これは非農林業雇用の中で最大の比率を占めている製造業の雇用が、輸出の不振、投資活動の停滞等により前年に比し生産活動が停滞したことによつて前年の一一・一%の増加に対し僅か一・九%の増加に止まつたことと、前年大幅に増加を示した流通サービス部門の卸売小売金融不動産業および運輸通信その他の公益事業がかなりの停滞をみせ、前者は前年の増加数六一万人(四四・二%)に対し一〇万人(五%)、後者は前年の増加数三一万人(二〇・三%)に対し一四万人(七・五%)の増加であつたことなどが大きな原因をなしている。

 これに対し、鉱業、建設業、サービス業等は前年に比しそれ程の停滞を示さなかつたが、これら産業の雇用者が雇用者総数に占める比率は低く全体の雇用増加には大きな影響を得なかつた。

 このように臨時日雇を含めた雇用総数の増加は停滞したがその中「毎月勤労統計」に規模三〇人以上(鉱業、製造業、金融保険、卸売小売不動産業、運輸通信その他の公益事業の六大産業の常用雇用は反つて〇・二%と僅かではあるが前年よりも減少している。

 産業別にみると流通、サービス部門の卸売小売と金融保険および基礎産業の鉱業が増加して製造業と公益事業が減少している。

 二七年の常用雇用が減じたことの主たる原因は前年後半より始まつた動乱ブームの景気停滞による産業活動の停滞である。このため二七年三、四月入職率は前年よりもかなり少なかつた。さらに雇用減少に少からぬ影響を与えたものは輸出不振に基づく綿紡の操短による雇入中止と人員整理、および、鉄鋼、化学運輸部門等の操短等による人員整理である。特に綿紡は約三割に近い雇用縮減を行つたが二八年に入つても再び合理化による整理に着手していることは国際競争の激化がかなり雇用面にも影響を及ぼしていることを物語つている。

 また製造業の常用雇用を産業中分類(旧分類)別にみると、さらに景気動向を反映した動きがみられる。すなわち輸出関連部門の綿紡を中心とする紡織業とゴム皮革、化繊ソーダ、染料等を中心とする化学工業において大幅に減少し、電源開発、計画造船等の財政投資等に支えられている投資財産業の金属、機械、窯業等は僅か増加を示して、消費財産業の印刷、食料品等は消費需要の増大に助けられてかなり増加をみた。次にこれ等産業の二八年一―三月の雇用水準と動乱前のそれとを比較してみると、食料品、印刷等は何れも二割前後、金属、窯業は約一割、二七年の減少の激しかつた紡織業においてもなお六%前後の増加となつて、機械工業(横這い)化学、製材(三―四%の減少)を除き、動乱後の産業活動の上昇が雇用に与えた好影響をみることができる。

 このように三〇人以上事業所の常用雇用が減少したのに対し、前述したように総雇用が増加しているのは、臨時工等の不安定雇用と三〇人以下の小規模事業所の雇用が増加したことによるものと推定される。当庁調べによる製造業の臨時工、日雇、社外工の動きをみるとかなりの季節変動がみられるが二八年一―三月において臨時工は前年比七%の増加を示している。なお日雇、社外工はやや減少しているが実人員は臨時工に比べ小さいので臨時雇用全体としては増加している。

 さらに臨時工の動きを産業別にみると、食料品工業は在籍労務者中に含める臨時工の比率が最も多く、かつその増加率も二割を超えている。

第六五表 製造業、臨時工、社外工の動き

 ついで多いのは特需産業であるが、その増加率は一割を超えている。

 規模三〇人以下の零細企業の雇用については統計的資料がなく推定する他ないが、小規模事業所のかなりの部分は生活物資産業であり、二七年における生活物資の生産は工業平均六%増に対し二割もの増加をみせていることと、「毎月勤労統計」において生活物資産業の雇用が増加していることなどから三〇人以下の零細企業においては、相当の雇用増加があつたものと思われる。

 これら規模三〇人以上の常用雇用の減少、臨時工等の不安定雇用の増加、規模三〇人以下の零細企業における雇用増加は労働条件が一般的に低劣でそれが労働統計には明瞭に現われない雇用者が増加する傾向を示すものであり、今後の動向に注目する必要があろう。

(2)失業

 不安定雇用の増大と大規模企業での雇用縮少といつた雇用事情の悪化は失業の面にもあらわれている。

第83図 失業の動き

 労働力調査によると二七年の完全失業者は年間四七万人となり前年よりも九万人(約二・一%)の増加となつたが、二八年に入つてもその増勢は減退していない。さらに二七年における操短もしくは合理化により企業より排出された失業者は離職によつて失業保険の給付を受ける失業保険の受給者実人員数によつてよりよく表現されうるものと考えられるが、これも年間三二万人となつて前年より約七万五千人(約三割)増加し、二八年に入つても同様に増加傾向が続いている。

 また労働力調査による「完全失業者」はその厳格な規定(調査機関一週間内に三〇分以上の就職をしないで、しかも求職活動をしている者)と、零細企業主と家族労働者が大きい比率を占めているわが国の雇用構造を考えると、失業状態を充分表現するものといはいい難く、潜在的な失業状態にあるものの存在が少くないものと考えられる。

 労働力調査による「非求職の就業希望者」(求職活動はしないが、就業を希望し殆ど失業者と変らない者)は年間平均二七万人となつて前年よりも一〇万人(約六割)増加しており、労働力調査附帯調査の「失業状態調査」における低収入と臨時的職業を理由とする転職業希望者は二七年三月、には一三五万人、であつたが二八年三月には一八九万人に増加している。

第84図 求職活動はしないが就業を希望する者および低収入と臨時的職業を理由とする転職希望者の動き

(3)産業構造と雇用

 前述したように今後累増する生産年令人口の要就業者に雇用機会を与えてゆくことは極めて重要な問題であるが、飜つて我が国産業構造の現状をみると、第一次産業の農林業就業者は全就業者の四六%という圧倒的な比率を占め、しかも就業者の増加は戦前昭和一〇年の二割を超えているのに生産の増加は戦前の一割増にすぎないという低い生産性にある。これはわが国の農林業が零細経営であつてその労働力の三分の二が家族労働によつて支えられているという後進性によるものであるが、その全就業者に占める比率は戦前の四七%より昭和二七年の四六%へと僅か一%の縮少をみたにすぎず現在農村の二、三男問題かとり上げられてる所以もここにある。

 これに流通、サービス部門を中心とする第三次産業は全就業者の三二%を占め戦前の比率よりも約二%増加しているが、この中には零細個人業主と家族労働者が大きい比率を占めている。

 一方、最も発展が期待されている製造業を中心とする第二次産業の就業者は第一次産業の約二分の一に当る二三%を占めているにすぎない。かつその比率は戦前よりも約一%近く縮少をみている。

 しかも、次図にみるようにわが国の雇用構造に比べて、欧米各国の構成は第一次産業(農林、水産)の比率が遙かに少く、さらに戦前からみると戦後は殆どの国に第一次の縮少と第二次(鉱工業建設)の拡大がみられ、経済発展の明瞭な方向を示している。

第85図 主要国戦前戦後産業別就業者構成の変化

 このような現況からみてわが国の第一次産業はこれ以上の就業者増加を求めることは困難であろう。したがつて今後の要就業者はほとんど第二次産業と第三次産業(卸売小売サービスその他)に吸収することを考慮しなければならない。

 しかし、第三次産業の就業増加は主として消費水準の上昇と一般生産活動の発展に懸つているので第二次産業こそ今後の要就業者を最も多く吸収しなければならない部門と考えられる。ところで第二次産業の場合には労働生産性を低下せしめないで雇用吸収をはかるためには経済規模の拡大に積極的な努力をしなければならないであろう。

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