第二部 各論 八 農業(林・水産業) 3 今後の問題


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 最近農業所得が順調な増加をたどり、農家の消費水準も年々上昇してきた原因は、主として兼業所得の増加、農産物価格の相対的上昇、および農業生産の増加である。しかしこれら農業所得増進要因の今後の動きは必ずしも楽観を許されない。これまでのようなテンポでの農家所得の増加が期待されないばかりでなく、所得減退をもたらすような諸要因の発生が予想され、すでにそのきざしもあらわれはじめている。以下農家所得の増加を支えた前述の三つの要素につき今後の推移を展望しその中に如何なる問題があるか考えてみたい。

一 兼業収入の構造

 農家の兼業依存度が増大したことは前述のごとくであるが、兼業収入が如何なる内容によつて構成されているのかを昭和二六年度についてみると、俸給労賃収入が七割以上を占め、その他の収入項目の比重ははるかに小さい。この収入構成は地域別にみてもそれほど差異がない。さらに兼業収入中七割の比重をもつ俸給労賃収入は如何なる内容かをみると、俸給労賃収入総額中で俸給年金恩給の占める割合は七割に達している。すなわち兼業収入の中で俸給労賃収入が七割を占め、さらにそのうち七割は俸給賞与等による収入であつて、兼業収入に占める俸給賞与などの比重は甚だ大きい。

 兼業収入の金額構成に対応して、次に兼業種類別に従事者数の構成割合を二七年二月の調査によつてみると、兼業農家全体としては自営業二九%が最高で、職員の二八%がこれにつぎ、以下賃労働者、日傭人夫、内職賃仕事、季節出稼の順となつている。農業を主とする第一週兼業農家と、農業を従とする第二種兼業農家の兼業種類による特徴をみると、前者は日傭人夫、内職賃仕事、季節出稼などが相対的に多く、後者では自営産業が相対的に多く、職員、賃労働者については両者の間に大きな差異はない。日傭、内職、季節出稼など不安定な兼業が第一種兼業農家に多いのはこの農家層では農業面の安定性が比較的強いからであり、自営産業のごとき安定的な兼業が第二種兼業農家に多いのは逆に農業面の不安定性を補完する必要からであろう。つぎにこれら各種兼業の従事日数による従事者の割合をみると、職員、賃労働者では二〇〇日以上働く者の比率が圧倒的に多いのに対し、日傭、出稼ぎではそのような高位の就労者は少なく、五〇―一〇〇日の就業者の割合が最も多くなつている。この点からも日傭、出稼などは農業面の低位就労を補完する作用をもつ兼業であることが分る。このように兼業農家は第一種に属するものも、第二種に属する者も俸給労賃収入に主要な収入源を求めるとともに、それぞれ安定型の兼業と不安定型の兼業とを農業経営に結合させ自家経済の補強をはかつている。

第73図 兼業種類別兼業従事者合割

 一方農家人口の動きは、二二年頃から流出傾向をつづけているが、自然増加がそれよりもさらに多いため、人口の絶対数は二六年まで年々増加をつづけてきた。ところが二七年(二七年二月より二八年一月に至る一年間)にいたり、社会的減少約四七万人に対し出生率低下のため自然増加も約四七万人となり、農家人口の絶対数にはほとんど変化なく約三八百万人で総人口の四四%に当つている。しかし労働人口および就労者数では、二六年まで郡部において減少傾向をみせていたものが増勢に転じ、農林業就業者も二七年は前年比わずかの増加をみせている。「労働」の章でみるように生産年令人口は年々激増の一途をたどつており、しかも今後雇用の増加を大巾に期待しえないとすれば、農村の労働力過剰はさらに加重されるであろう。その結果不安定型の農家兼業がさらに増加し、また比較的安定であつた職員、賃労働のごとき兼業も不安定な状態におかれるおそれがある。

 元来農業に片足を置く兼業労働は、賃金に対して強い弾力性をもつている。二七年度における農業日雇労賃は男子一人当り平均二四九円であるのに対し、製造工業男子労務者の一人当り平均賃金(就業日数一ヶ月二三・七日として換算)は六三三円であり、これを都市農村物価差率(七七)で修正しても農業労賃の約二倍に当る。かかる低い農業労賃が成立するのは、農業労働力の需給関係以外にその需要者と供給者との間に往々身分的な関係があることなどによるものであろう。いずれにしても今後一般の雇用状態が悪化した場合、低賃金に堪える力の強い農村の兼業労働力の豊富な存在は、わが国労賃水準の形成に非近代的なものを一層強く持ちこむ潜在的要素になる惧がある。

二 軟調要因をはらむ農産物価格

 戦前のわが国は朝鮮、台湾を含めて完全に食糧の自給が可能であつた。従つて食糧に関しては世界経済の動きから孤立することができた。ところが米一割、大麦、小麦の各五割、砂糖のほとんど全部、油脂および油脂原料の相当部分はこれを国際市場に求めており、海外農産物事情の変化は直ちにわが国経済に大きな影響をあたえることになつた。

 最近における世界の農産物事情をみると、生産の上昇にともない輸出力も増大してきたが、他方輸入国の需要はドル不足と生産増加のため減少傾向をみせ、動乱後一時逼迫した農産物の需給はかなり緩和されてきた。このため農産物価格は一般的に軟化し、一部農産物はすでに過剰状態をきたしている。例えば米国では小麦棉花、キューバでは砂糖などの輸出農産物の滞貨が累積している。これらの事情はわが国農産物価格にすでに直接間接の影響を及ぼし始めている。

 まず麦類のうち小麦についてみると、戦後世界の生産は急速度に上昇し、特に一九五二―五三年度には前年度を一二%も上回る豊作のため、主要輸出国の輸出余力もかなり増加した。他方輸入国の輸入需要は減退をみせているので、小麦の国際価格は低下傾向にあり、最近ではわが国でもCIF九〇ドル前後のものが契約されている。これはわが国の国内価格屯当り約九二ドルを割るものであるが、さらに今後先般更新された国際小麦協定によるCIF八八・六ドルの協定小麦が前年度の二倍に当る一〇〇万トンも輸入されることになつている。

 また昨年度における世界の大麦生産は米国の減産にもかかわらずカナダ、オーストラリアの増産のため世界全体としては前年度を約六%上回つており、世界の大麦生産は今後小麦作からの転換などもあり、大きな増産の潜在力をもつているので、国内産大麦およびこれと代替関係にある裸麦は将来外国産大麦による価格競争をうける可能性があると思われる。現在大麦の国際価格は飼料需要強調のため輸出国の国内価格も輸出価格もやや上がり気味であるが、国内産大麦、裸麦は米と混食用の精麦需要が強いため価格上昇傾向はそれ以上に強くなつている。

第74図 小麦の主要仕入国別輸入価格の推移

 つぎに世界的な過剰生産傾向にある砂糖は、国内においても二六年末頃から需給緩和、価格低下の傾向をみている。この砂糖の値下りは、それと代替関係にある。水飴価格の下落を通じてその原料である澱粉いも類の価格に強い圧迫加え、特に甘しよは一時的現象ではあつたが昨秋は統制廃止以来の最低値に落ち、そのため食管会計による澱粉の買上げによる価格支持措置が講じられた。菜種も油脂原料として輸入大豆と競合関係にあり、その価格安定のために特別措置が強く要望されている。

 米についてみると、以上の農産物と事情が異なり、その国際的な需給はなお不均衡の状態にあるため東南アジアの米輸出国では政府が独占的に輸出価格を吊上げており、輸入国側のわずかの買付競争もはげしい価格騰貴を招いた。このため昨年度の輸入CIF価格は二二〇―二三〇ドルにまで上昇し国内価格一三九ドルを大巾に上廻り、昨年度における輸入米の価格差補給金は二二五億円に上つた。しかし最近では輸出国の輸出量の増加と輸入国の購買力減退などにより、現在のような高価格では需要が追随し得なくなり、従来上げつづけた価格も漸く軟化のきざしをみせてきた。

 以上の如く米を除いては海外農産物の価格は漸次国内競争農産物の価格を圧迫しはじめており、しかもそれが昨年からほぼ時を同じくして生れてきたことが注目される。このように今後の価格の動きにはかなり弱い材料が含まれていることを忘れてはならない。

 つぎに国際的影響を受けることの少い生鮮食糧農産物は二六年頃までにほぼ需給のバランスを回復したとみられ、国内需要の大きな増加は今後期待できないので、生産の推移如何によつてはさらに値下り傾向をたどるおそれがある。

三 食糧増産計画推進上の問題点

 戦後農業生産を急速に加速せしめた要因は、気象条件が良好であつたことを別にすれば主として生産資材の供給増加であつた。しかし最近においては農家の生産資材の消費増加の速度は漸く鈍り、二四年度を基準とする農業生産資材購入量指数は二六年度の一三七から二七年は一四〇とほとんど停滞を示している。肥料についてもここ二・三年農家の消費はそれほど増加していない。このように生産資材の消費が一応限度に近づくにつれてその使用効果も漸次低下しがちであり、耕種改善などによりさらに生産の増加をはかることもある程度可能であるにしても、戦後今日までに示されたようなテンポでの生産力の上昇をつづけることは容易でなく、現状のままでは食糧自給度の向上を期することは困難であろう。さらに、復旧を要する過年度災害の累積がみられるなど生産基盤の脆弱化の問題もある。特に主要食糧については特別の増産措置を講じないかぎり国際収支の改善に資するだけの生産の増加は困難であり、また現状において技術的に増産可能ないも類、野菜、果実などは需要がすでに限界に近づいている。すなわちわが国農業では不足の農産物と過剰の農産物とが併存しており、しかもその間生産の転換が容易でないところにも一つの問題がある。

第75図 農家の農業生産資材購入量指数の推移

 最近国内自給度向上の豊作として大きく日程にのぼつてきた食糧増産計画は、外貨節約の要請にこたえて主要食糧生産の飛躍的増加をはかろうとするものであるが、食糧増産計画が経済計画として合理性をもち得るためには、いうまでもなくそれが国民経済的に引き合う事業であると同時にそれは個別の農業経営にうけいれられうるものでなければならない。しかし農業生産の特性として、これらの条件をみたしつつ計画通りの効果をあげることは、工業生産などと異り格別の努力を要する。すなわち農業生産は多数の零細な生産主体により他の非主食農業部門と結合された生産の場において、全国的拡がりの上でそれぞれ異つた経済社会的あるいは自然条件の下で行われるのである。また計画の実施に当つては、複雑多岐な内容をもつ慣行水利権と水利事業との調整、河川の多目的利用の問題、幹線水路と支線との関係事業に伴う補償の問題、必要技術者確保の問題等々の処理が必要であるが、これらの点について一層の総合的な調査と計画の下に事業を進めることが望ましい。また生産物炭価当り事業費には地区によりかなりの開きがある点を充分考慮して、投資は総花的でなく増産効果の大きな地区より順次重点的に行われるべきであるが、このためにも事前に充分の調査が必要である。さらに一般に指摘されているように資金の効率的利用のための監査制度などについても検討の要があろう。個別経営との関連からみれば事業後の異つた生産条件に適応するための技術および経営の指導、それに必要な営農資金の量、如何なる階層がその負担に堪えあるいは堪え得ないかなどの点もあらかじめ考慮を払う必要があろう。

 要するに地区別の総合的かつ精密な調査と計画の集積の下に食糧増産計画が推進されることが肝要であり、今後かゝる方向に食糧増産が実施されるならば、我が国経済に寄与するところが大きいであろう。

4 林業

(一)木材の自給事情

 朝鮮動乱発生以来飛躍的に増大した木材の生産は、二七年に入ると素材で前年比五%の減少、製材では微増と、全般的に停滞の傾向を強くした。

 その中で大部分の工業および建築需要を賄う針葉樹をみると、鉱工業生産七%の上昇と建築の普遍的需要とによる需要全体の若干の伸びに対して、供給面では前年急テンポで増産された松材の生産が減少に転じ、杉材の生産も伸びなかつたので、結局需要の伸びと生産の減少は、輸入の増加と在庫の減少により賄はれた。それはたとえば本年二月の生産地における素材在荷量が前年度同期にくらべて一五%減少したことなどにもうかがわれるが、とくに松材と関係の深いパルプ用材および杭木の向上及び炭坑えの入荷量は前年より一四%および一八%それぞれ減少している。

 これに対して米材の輸入は海上輸送費の下落に伴つて前年度より一八万石ふえて二八万石に達したが、戦前の年間千万石以上の輸入からみれば微々たるものにすぎず、特殊用途の大型材を除いて第七六図にみるごとく国内価格にくらべてまだ著しく割高で輸入によつて需給緩和をはかることは望めない。

第76図 内地材と外材との価格比

 つぎに広葉樹の需給をみると、針葉樹と異つて著しく海外市場の影響をうけた。たとえばラワン素材の価格は前図の如く下降し、内地材との比較は歩留りの関係で寧ろ経済性にとみ、従つてその輸入量は二二〇万石と戦前の最高輸入量に近ずき、需給はかなり緩和した。

 このような需給事情から木材価格もかなり区々の動きを示した。東京市場の木材卸売価格を例にとると年間で一割位の上昇のものから五割位の上昇のものまである。一般的にいつて前述の需給事情から針葉樹は広葉樹より杉は松より、製材用原木は製材品よりも上昇率が大きいという傾向がみられる。しかし木材需要の過半を占める建築、パルプ、石炭部門について、木材価格上昇の影響をみると原価に対して夫々四%、五%、一%の比重の増加をみた。

(二)木材価格上昇の状態

 木材価格の値上りの結果増大した収益が林業生産の内部でいかに分配されたかはすこぶる興味ある問題である。まず労務者の賃銀水準を「農村物価賃銀調査」からみると伐木、木材運搬ともに前年より一〇%の上昇を示している。これは農家の兼業収入の一六%を占める林業収入とともに、山村における農家経済を支えたとみられる。

 次に製材業についてみると一般に経営の合理化から雇傭人員は前年度に比して約六%の減少をみており、製材業常傭者の給与水準が約一〇%上昇したのをかなり相殺している。その他の原木代を除いた経営費も前年にくらべてほとんど変化がなかつたとみてよいであろう。しかしこれらの諸経費は、経営費全体の中で極めて小さい比重をもつにすぎず、経営の採算は結局原木代で左右される。ところで原木の価格は、資源の減少傾向その他及び製材設備の著しい過剰とから絶えず騰貴を続けて、素材価格は製品価格以上に上昇しており、すでに同時点の価格比較では製材業等は採算割れの事態をみるに至つた。二七年度に稼働工場数が一四%減少したのは、このような採算悪化によるものといえよう。

 これらのことから、結局木材価格の上昇による利益は主として山元に帰したとみるべきである。たとえば瀬戸内区における農家の林業収入が一般に前年度より減少したにもかかわらず、二町以上層で七四%も増加したことなど、それを間接に示したものといえるであろう。

(三)森林資源の涸渇傾向と木材価格

 木材需給の不均衡に伴う山元価格の急上昇就中小形木の価格上昇は里山の伐採を続けさせる結果となり、いわゆる過伐のために森林の生産性の急速な低下を招き、さらに治山治水の面でも資源保護の必要をいよいよましている。他面、木材木炭需要を国内山林資源で賄わねばならぬ経済上の要請にも積極的に応じねばならず、厳重な伐採制限の実施とならんで治山、造林、林道開発の積極的対策も一〇ヶ年計画として強力な推進が企図されている。とくに林道開発計画は奥地未利用林を中心にして四八二万町歩に対して八三千粁の林道を開設し、一六億石の未利用林を開発しようとする構想である。

 元来木材市場価格は限界生産地の生産費によつて支配される傾向が強いので、このままでは木材価格の漸騰はさけられないであろうが、以上のような林道開発計画がすすめられて伐採地点の奥地移行が可能になれば、石炭の場合の堅坑開発と同じように増産が行われるとともに木材価格の抑制にも役立つこととなろう。

5 水産業

(一)漁業経済の推移

 昭和二七年度の漁獲高は前年度比約一割増の一一五一百万貫に達し、戦前最高水準(昭和一一年)の九五%にまで回復した。これを魚種別にみると、ニシン、マグロ、サンマ、サバ、サケマスなどは前年度に比し増産となり、イワシ、カツオ・イカ・タイなどは減産となつた。増産は主として漁区の拡張、操業度の上昇によつてもたらされたものであり、他方減産は自然的条件の変化や濫獲によつて資源の涸渇がその主因とみられる。

 漁獲高の増加にともないその利用形態もほぼ戦前の状態に近付き、全漁獲高のうち鮮魚および冷凍魚としての消費二四%、加工原料六八%、非食用八%となつている。かかる状態は鮮魚の需要がほぼ固定し、大衆魚の増加供給分は加工原料に向けられる傾向が強くなつたことを示している。

第77図 水産物の用途別配分状況

 つぎに魚価についてみると、動乱後の動きは一般消費財価格と同傾向で、二七年度には全体として横ばいないし微落を示している。しかし魚種別にみれば騰落区々であることはいうまでもないが、一般に消費水準の上昇を反映して高級魚は高騰し、大衆魚の増産顕著なものもそれほど大巾の下落を示していない。

 他方漁網鋼、燃油等漁業資材の価格は統制廃止後一時的な値下りをみたが、二七年度は漸騰をつづけ生産費の上昇をもたらした。このコスト面からの経営圧迫にもかかわらず、南部支那海のトロール以西底曳網漁業や鮪漁業、鮭鱒漁業においては新漁業への操業拡大設備の合理化を図つて生産力の増大をみることが出来た。

(二)漁業経営の状況

 まず大規模漁業経営についてみると、二七年度における国際的な鯨油価格の暴落は捕鯨業の利益率を著しく低下させた。しかしこれらの企業は講和による漁区拡張を契機として母船式鮪漁業、鮭鱒漁業、蟹漁業及び北洋捕鯨業へ進出し、あるいは冷凍業、食品加工業、商業貿易事業など多角的総合経営を強化することにより全体としてこの利益率の低下を防ぐことが出来た。

 一方中小漁業者は専業的な個人経営の形態をとるものが大部分を占めているが大型鮪漁業以西底曳網漁業、鮭鱒漁業を除けば他の業種は漁船過剰、濫獲、操業度低下等の事情が重なつて経営は必ずしも容易でなくその影響は漁業特有の賃金支払方式である歩合制度を通じて漁業労働者に及んでいる点が注目される。

 つぎにわが国漁業の経営体の九割以上が占める所有漁船五トン以下の零細魚家の経済状況を見ると、高級魚生産及びノリ、カキ、真珠養殖等の経営を除き、一般大衆消費向の魚種を生産する漁業では漁業の特殊性に基く魚家経済の不安定のためにいきおい兼業に依存せざるをえず、総数の七三%は何らかの兼業に従事しており、その割合は農業よりも高率である。また所有漁船屯数の小さい魚家ほど兼業依存度が大きい点も、農業における経営耕地面積の規模と兼業依存度の関係と同様である。たとえば所有漁船三屯未満漁家の総収入中兼業収入の占める割合は三〇%であるのに対し、三―五屯漁家では二一%となつている。このように兼業依存度が高いということは、他面において漁業生産性の低いことを示すものであつて、鉱工業労働者平均六三円を相当下回つている。しかも漁業者の稼働時間は一般に短くかつ不安定であるから、この隔差は実際にはさらに大きくなるであろう。

第78図 漁家の収益構成

(三)食糧問題への寄与と今後の方策

 最近における水産物消費の傾向をみると都市では鮮魚の消費は二六年の一人一ヶ年四・三五貫を戦後のピークとして二七年には四・二〇貫と三%の減退を示した。農村においては逆に二・八一貫から三・〇九貫へと一四%の大巾な増加をみせた。塩干魚についてもほぼ同じ傾向にある。かかる消費動向からみれば、都市における水産物需要は現状においては大体頭打状態にあるが、反面において一部の奢侈的高級魚の消費が増加している点が注目される。

 食糧自給度の向上をはかる上において主要食糧の増産とともに動物蛋白の給源として水産物のもつ意義は極めて大きい。それにもかかわらず都市の消費は前述のようにすでに伸び悩んでおり、魚価は購買力に対し高すぎる一方漁業者にとつては生産費からみて割安であるといわれている。今後これらの問題を解決することが肝要であろう。

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