第二部 各論 七 物価 3 価格割高の対応策


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 価格が高くては輸出が伸びにくく、価格を下げるにはコスト高を克服しなければならない。こうした要請から、実際にここ一、二年来設備を近代化するなどの合理化策を通じてコスト切下げの努力が払われており、また今後においてもこれが価格割高を是正するための最も基本的な努力の方向になろう。ただ設備の近代化もそれが現実のコスト低下となつてその効果を発揮するまでにはある程度の時期を必要とする。

第66図 原料および製品価格の国際比較

 しかし国際的な輸出競争の激化から、価格割高の是正は現在の輸出規模を維持のためにも緊要な問題となつている。そこに一方では、昭和二七年の後半から、当面の切抜け策として一種の差別価格が登場してきた。この差別価格は、国際価格に照して輸出価格を引下げるが、国内価格はそのまま維持し、場合によつては輸出の差損を国内価格にかぶせて採算の維持をはかろうとする形態である。主な商品について輸出価格と国内価格の関係をみると次表の通りで、過去数年来大きな変化を示している。昭和二四年四月当時は円安な為替レート設定や補給金支給などの影響で、国内価格の方が輸出価格より著しく低かつた。その結果、輸出圧力がうみだされるとともに、輸出価格を下げて競争する余地もできたわけである。ところでその後は輸出価格が下がる一方、補給金の減廃、輸入価格のはね返りもあつて国内価格が上昇し、さらに動乱後のブームが一巡した最近では逆に輸出価格の方が低くなつた。主な輸出商品について二八年五月の輸出価格を比較すると、この開きはだいたい一割程度になつている。

第五七表 輸出価格と国内価格

 また輸出価格が国内価格より低くなつたことの背後には、原料価格が輸出向けに限つて安くされるという面もあつた。たとえば輸出向け亜鉛鉄板に使用する亜鉛地金の価格(一トン当り三〇千円)や加工業者向け輸出用アルミニウム地金の価格(一トン当り一五千円)の値引きがそれである。

 ただ輸出価格だけを下げるという体系が自由市場で形成され、進展するには自ら限界があろう。けだし国内価格にくらべて輸出価格が安いという形態では輸出意欲が阻害されてこの面から輸出は伸びにくくなるし、またどうしても国内価格にはねかえるおそれがあるため、輸出価格だけを下げて採算を維持しようとする所期の目的を達成しえなくなる懸念がある。従つてこの差別価格がその効果をあげるにはこうした価格現象をめぐるいわば自然の流れになんらかの手を加える必要が生じてこよう。

 その一つは、政府の助成策によつて輸出価格を下げようとする動きである。輸出産業に対して金融上の優遇措置を講ずることはすでに行われているが、税制についても検討されており、さらに輸出向け商品の基礎原料、ないしは一般的な基礎原料に補助金の支給を要望する声もしばしば現われている。また輸出価格を下げた場合、それにひきずられて国内価格が下がらないための措置としても、企業の協調による国内価格の維持策が考えられ、二七年後半からその萌芽がみられる。

 ともかく動乱ブームが一巡したあとわが国物価は、対外的に割高という状態のままで次第にそこが固まつてしまつたので、その国際水準への復帰は決してたやすいことではないが、輸出を伸ばして正常な国際収支の均衡を回復するには、価格の割高を是正して国際競争力をつけることが必要である。最近の物価動向はこうした問題をめぐつてかなり複雑な様相を呈し、コスト切下げによる割高是正への基本的動きと、差別価格体系によるいわば便宜的な動きとが交錯しているが、いづれもその進展に応じてあれこれの条件を必要とするので、必ずしも一本調子にゆきそうもない。

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