第二部 各論 七 物価 2 原料高の現状
(一)原料高をもたらした要因
動乱直後、輸入原料は価格自体の値上りと、それにもまして海上運賃の上昇から著しく高騰した。その後、原料輸入価格も昭和二六年五月頃から反落してきたが、それでも石炭、鉄鉱石、塩などの重化学工業原料は運賃の負担が大きく、しかも輸入先が戦前より遠くなつているために、どうしても海外より高い原料を使用しなければならない。
さらに、国内産原料の価格は輸入原料に輪をかけた高さになつている。これには動乱後の製品価格の高騰に追随したという面、あるいは原料需給関係のしからしめるところもあるが、また経済規模の拡大から国内原料資源に対する負担が多くなつて自然条件の悪化を招いている点も看過しえない。
(二)個別原料の状況―主に炭価について
わが国の原料高は高炭価に集約されている。昭和二八年三月の石炭価格(京浜市場大口消費者向CIF)は、原料炭、発生炉炭、一般炭(上)でそれぞれ一トン当り七、八六二円、八、四〇三円、七、五五三円で、二四年九月の統制廃止時の公定価格に対して、また動乱直前の価格に対して五―七割の上昇であり、戦前に対しても約四五〇倍の高率である。
また二七年一二月における一般炭の国際比価は第五四表のごとく日本を一〇〇として、米国五〇、英国四四となつており、これを原料炭(山元価格)についてみると、その割高の巾はさらに著しい。
さらに輸入炭の購入価格をみると動乱後海上運賃の高騰もあつて二六年には一トン当りCIF三〇ドル近く(米国強粘結炭)まで上つたものが、二八年四月では一八ドル三〇に下つている。これにメリツトを考慮すれば、わが国の炭価はこの輸入品の六―七割高になる。
こうした国内炭の割高は需給関係に基づく面もあるが、またそれと同時に採炭条件の悪化、労働条件の非能率化、償却資産の問題などによるコスト高をあげなければならない。
もつとも、最近における生産過剰一方で輸入炭の増加、重油転換などによる需要減を反映して貯炭の増加が著しく、多少軟化の気配がみうけられる。しかし、炭価が余り低落すれば、生産が減少してこの面からふたたび反揆する可能性があるので、相対的な供給過剰による値下りには限界があるものと考えられ、合理化によるコスト引下げを中心とした綜合的な燃料対策が要請されるわけである。
これらの原料条件の悪化は、多かれ少かれすべての品種についてみられるところで、主要原材料についてその国際比価を示せば第五六表のごとくである。
なお電気料金や鉄道運賃などはここ一、二年間かなり高騰したが、それでも戦前の一五〇倍前後にすぎない。しかしこのようなサービス料金の低位は設備を充分償却していないことに基づく面が多いので、今後の新投資によつて漸騰することも予想される。
(三)製品価格との関係
このような原料価格の現状は、必然的にわが国製品価格の割高を招いている。もつとも繊維などは低目であるが、ことに原料条件の悪い重化学工業品は労働生産性の低位とも相まつて諸外国よりだいたい三―四割高になつている。そのうち、価格割高の問題が最も集中的に表現されている機械についてみると、船舶は海外にくらべて三割高、油槽船が一割高、貨車三割高、火力発電設備は三割から四割高いという状況である。
機械関係ではコストのうち、原材料費が四―七割を占める上、その原材料たる鉄鋼、銅、亜鉛、ニツケルなどいずれも国際価格をかなり上回つている。その上品質も悪い。さらに機械工学的技術の立遅れからくる設備技術上の欠陥が組材費の消費を多くしていることも否めない。加えて工作加工機械設備の旧式老朽化、非能率、規格統一の不徹底量産化の不足があり、また技術劣悪な下請工業に依存する度合が多いということや、船舶、発電設備など長期建造を要するものについては、特に高金利の負担が大きいことも機械の割高をもたらしている。